弁護士業務と税制

 税法は、弁護士実務にも大きな影響を与えるのですが、弁護士会が税制について発言することは多くはありませんでした。しかし、税法も法律である以上は、弁護士会も税制について発言すべきではないか。このような趣旨で、日本弁護士連合会の税制部会は、いま、税制の問題点についての研究を進めています。

 今回は、弁護士の税制に対する視点を紹介する意味で、税制部会が検討している税法の問題点を紹介してみます。

 土地建物の譲渡損益の通算禁止について

 平成16年3月26日に国会を通過した「所得税法等の一部を改正する法律」によって、個人が行う土地建物の譲渡により発生した譲渡損益は、平成16年1月1日に遡って、他の所得との損益通算が禁止されることになりました。

 しかし、平成16年3月26日の国会決議で成立した法律を、平成16年1月1日に遡って適用するという法律の遡及適用は、法律としての予測可能性を奪い、法的安定性に対する信頼を害し、納税義務者に著しい不利益を与えるものではないでしょうか。

 それに、資産デフレの時代においては、不良資産を処分し、財産状態を健全化することが至上命令となっていますが、今回の譲渡損の通算禁止によって、今後、事業により獲得した収益をもってする不良資産の処理は、実行不可能になってしまいました。これは不良資産の処分による再建について大きな障害になります。

 納税者の担税力の指標は1年間の所得なのであって、事業所得のプラスと、不動産の売却による損失(マイナス)は通算し、その残額が納税者の担税力の指標になるべきなのですが、土地譲渡損益の通算禁止は、そのような担税力の指標に反する課税になります。

 正しい税法は、経済に対して中立的であるべきなのですが、今回の損益通算の禁止は、法人が行う不動産投資に比較し、個人が行う不動産投資を不利に扱うことになってしまいます。

 同族会社に対する留保金課税

 法人税の計算では、青色欠損金は、その後7年間の繰越控除が出来ることになっています。これは、人為的に1年を区切って所得計算をすることの不合理を解消するために、7年間の損益を通算して所得を計算するとの趣旨で作られている制度なのですが、同族会社の留保金課税については、そのような繰越の制度がありません。

 つまり、第1事業年度で3億円の欠損を計上し、第2事業年度で3億円の所得を計上した場合は、法人税の本税は課税されないのにも関わらず、留保金に対する課税は行われてしまうとの結果になってしまいます。

 資産を処分し、譲渡益を計上することによって過去の欠損を補填し、会社の資産状態を健全化する場合でも、その利益を配当として支出しない限りは、留保金課税を行うとの現行税制は、7年間の青色欠損金の繰越控除の制度との整合性もなく、企業の健全化に反する制度です。

 現行の留保金課税の制度は、倒産した企業の再建にも障害となっています。倒産した企業は、債権者から多額の債務免除を受け、債務免除益を計上しますが、これが欠損金との相殺で、法人税の本税が課税されない場合でも、留保金課税は行われてしまいます。企業再建に携わる弁護士の立場からも不合理な制度です。

 仕入税額控除の要件について

 消費税法第30条7項に定めた仕入税額控除は、帳簿と、請求書等の保存を要件としています。そして、これらの要件を満たさない場合は、仕入税額控除は、一切、認められないことになっています。

 しかし、これは仕入税額控除の立法趣旨、つまり、消費税の付加価値税という本質に反する制度です。例えば、所得税や法人税の所得計算では、経費について、帳簿への記載、あるいは請求書等の証憑の保存がない場合でも、推計課税等の方法で、経費の概算額を差し引くとの実務になっています。

 消費税について、なぜ、推計による仕入税額控除を認めないのか。平成16年4月1日以後に開始する課税期間から(個人の場合は平成17年1月1日から)、消費税の簡易課税制度の適用上限が5000万円に引き下げられ、多くの納税者が生じることになりますが、零細な納税者について、帳簿の記載、あるいは請求書の保存等がないことを理由とし、仕入税額控除の適用を否定し、課税売上高の全額に消費税率を乗じるとのペナルティは、不当に厳しい制度ではないでしょうか。


 税制は、民主主義の基本ですから、民法や商法に比較し、遜色がないどころか、それらに優越して、弁護士にとっても重要な法律のはずです。税法が好きな弁護士が集まって、税制の問題点を指摘し、まずは、弁護士に税制の重要性を啓蒙する。そのような趣旨での税制の研究を続けているのが日本弁護士連合会の税制部会です。