会社法と税法の整合性は守れるのか

 会社法は、まだ、条文が公表されて1ヶ月が経過したという段階ですので、その思想も、各々の条文の解釈についても、何の解説も公表されていません。ここに至るまでに、会社法部会(法制審議会)からは数度にわたって「会社法制の現代化に関する要綱案」が公表され、また、平成17年2月9日には「会社法制の現代化に関する要綱」が公表されているところです。

 しかし、会社法の条文と、会社法現代化要綱との間には微妙な差異があり、要綱案が公表された段階での解説も、会社法の理解には、さほど役には立たないように思われます。

 さて、国会決議によって会社法が成立し、それを前提にした税制改正が行われるのは、まだ1年も先のことですが、会社法の条文を眺め見るだけでも、これに対応できる税法理論を構築することが可能なのかと、はなはだ不安に感じるところがあります。

 その中心になるのが種類株式と思われますので、種類株式と税法の整合性について疑問点を指摘してみることにします。会社法は、種類株式として次の9個の類型を取り上げています(会社法108条)。

 《1》 剰余金の配当
 《2》 残余財産の分配

 《1》の剰余金の配当と、《2》の残余財産の分配請求権の両方について権利を有さない株式は発行できません(会社法105条)。しかし、どちらか一方が存在しない株式なら発行が可能です。

 では、残余財産分配請求権のない株式、あるいは残余財産として請求できる金額が確定額、たとえば、増資時点で払い込んだ金額に限定される株式の場合は、相続税の評価、あるいは譲渡において、どのような価額が適正額として評価されることになるのでしょうか。

 《3》 株主総会において議決権を行使することができる事項
 《4》 譲渡について会社の承認を要する株式

 《3》の議決権を行使できる事項について特別の定めがある種類株式を想定することは、株主平等との基本原理に染まった者としては、想像することさえ困難な株式です。《4》は、要するに譲渡制限株式ですが、これが種類株式としても認められることになりました。つまり、自由に譲渡が行える株式を原則としつつ、一部の株式についてのみ、譲渡制限を設けることを可能にしたわけです。

 《5》 株主が会社に対して買い取りを請求することができる株式
 《6》 会社が一定の事由が生じたことを条件として買い取りを申し出ることができる株式
 《7》 会社が株主総会の決議によってその全部を取得することができる株式

 《5》は、株主が会社に対し株式の買い取りを請求し、その見返りに金銭の支払いを受け、あるいは社債の交付を受けることなどを可能にした株式です。《6》と《7》は、逆に、会社から株主に対し株式の売り渡しを請求し、対価として、金銭、あるいは社債などを交付することができる株式です。支払うべき金銭額などは、予め、確定額として定めておくことも、また、計算方法を定めておくことも可能です。さて、この株式について、たとえば、「株主についての相続の発生」を売り渡し請求の事由として定めておいた場合は、株式の相続税評価額は、どのような金額になるのでしょうか。

 《8》 株主総会において決議すべき事項のうち、株主総会での決議のほかに、その種類株主総会の決議があることを必要とする株式

 《8》は、いわゆるゴールデン株といわれる株式で、株主総会の決議事項について拒否権を持つ株式です。現行商法でも発行が可能で、現実に、次のような決議についての拒否権を持つ株式の発行事例があります。

 1)定款の変更、2)合併、株式交換、営業譲渡などの組織再編成行為、3)貸借対照表の純資産の25%以上の財産の譲渡、4)株式の発行、新株予約権の発行、5)資本の減少、6)株式の分割、または併合、7)取締役の選任又は解任、8)利益処分又は損失処理。

 このような万能の株式を発行しておけば、これを所有する株主は、会社の経営について万能の権限を持つことになります。さて、このような株式であっても、《1》又は《2》についての定めが他の株式と同一である場合は、他の一般の株式と同様の評価額になるのでしょうか。

 《9》 種類株主総会において取締役又は監査役を選任するとの権限を持つ株式

 譲渡制限株式のみを発行する会社に限りますが、《9》のような株式を発行することも可能です。つまり、《8》のような拒否権ではなく、取締役の選任等について、積極的で独占的な決定権を持つ株式です。

 さて、《9》の株式は、たとえ発行済み株式数の1%を占めるに過ぎない場合であっても、会社の経営権について100%の支配力を有することになりますが、このような株式を所有する株主は、同族会社判定において、支配株主として評価されることになるのでしょうか。


 過去の何度かの商法改正は、多くの難題を税務当局に突き付けてきました。たとえば、自己株式の取得自由化などに対する対応は非常に困難な事柄でした。これに加え、今回の種類株式の多様化が、株主平等を前提にしていた課税実務に与える影響は想像を超えるところがあります。

 さて、課税当局は、どのような対応策を示すのか。商法改正の段階では、種類株式について個々の具体的な解決策を示さなかった課税当局も、今回の会社法の制定では、何らかの指針を示さざるを得なくなると想像するところですが、はたしてこれが可能なのか。会社法も、また、税法も、共に法律としての基本理念を失い、単なるマニュアルに堕落してしまうことが危惧されるところです。