みなし贈与

 税法には幾つかの落とし穴があります。みなし譲渡、第二次納税義務、連帯納付義務、適格要件、それにみなし贈与です。みなし贈与は、贈与契約を締結する場合ではなく、たとえば、会社の増資や減資などの組織上の行為や、会社との取引など、予想しないところで登場する税法の落とし穴です。

 そして、親族、又は同族会社が関係した取引に限って適用される課税関係なのか、あるいは同族関係にない他人間の取引にも適用されるのかなど、実務でも答の出ていない問題を多く抱えているのが、みなし贈与課税です。

 このように、贈与税の課税漏れを防ぐ目的で、民法の贈与概念を広げてしまった相続税法ですが、逆に、みなし贈与を利用した節税が行えるかもしれません。今回は、その手法を紹介してみます。

 息子が事業経営に失敗して多額の債務を負担してしまった。母親は、所有地を売却し、息子の借金を返済しようと思う。

 母親が息子の債務を保証している場合なら、所得税法64条2項の適用を受け、求償が不能の部分については譲渡所得課税を免れることができます。また、母親が息子の借金を肩代わりして弁済する場合で、息子が資力を喪失している場合なら、「扶養義務者によつて当該債務の全部又は一部の引受又は弁済がなされたとき」として相続税法8条によって贈与税の課税を免れることが可能です。

 しかし、母親が所有する土地を、贈与税の課税を受けることなく、息子に贈与するとの特例は存在しません。また、息子の債務の弁済に充てるため母親の土地を売却するについて、譲渡所得を非課税にするとの特例も存在しません。

 ただ、次のような方法なら、土地の譲渡についての譲渡所得課税も、また、息子の債務弁済のための贈与についての贈与税課税も避けることができるかもしれません。

 まず、《1》母親は、所有する土地を100万円、あるいは200万円との低額な価額で息子に譲渡します。その後、《2》息子は贈与された土地を代物弁済し、あるいは売却し、その売却代金をもって債務を弁済するとの手順です。

 この場合の課税関係ですが、《1》については、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合において …… 譲渡を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合に …… その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものである」ときは、贈与により取得したとみなされた金額のうち、債務を弁済することが困難である部分の金額については、贈与税を課税しないとの特例の適用が受けられると思われます(相続税法7条)。

 そして、《2》については、「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であり …… 強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合に …… 譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたもの」として譲渡所得を非課税とする特例の適用があるからです(所得税法9条1項10号、同法施行令26条、所得税基本通達9−12の4)。


 このようなテクニックが実際に利用できるか否かについては疑問がありますが、みなし贈与についての頭の体操として紹介してみました。