導入された組合節税防止税制

 税法は、節税手段とのイタチごっこのところがあります。幾つかの節税スキームがありますが、今回は組合を利用した節税手段について、その経過と、新しく制定された組合税制について検討してみます。

 映画フイルムを利用した節税事例

 平成10年10月16日大阪地裁判決 大阪高裁平成12年1月18日判決

 匿名組合に出資し、映画フィルムを取得して、それを第三者にリースする手法です。

 ノンリコスローンを利用し、出資額の数倍の投資が行われ、リース先やリース期間中の収入は契約段階で確定し、収支についてのリスクは回避されているスキームです。そして、出資者は、映画フィルムについて減価償却費を計上し、節税を図ります。

 この事案について、裁判所は、出資者は実際には映画フィルムを取得しておらず、租税負担回避が目的と認定し、減価償却費等の損金算入を否認しました。

 航空機リースを利用した節税事例

 平成16年10月28日名古屋地裁判決

 野村バブコックアンドブラウンが考案した航空機リース事業、住商リースが考案した船舶リース事業が、「課税逃れ目的の商品」と認定され、課税処分を受けましたが、このうち航空機リースについて、名古屋地裁は、課税には法律上の根拠がないと、原告の主張を認め、課税処分を取り消しました。

 航空機リース事業とは、1人当たり約5000万円から1億円を出資して任意組合を設立し、銀行からの融資を合わせた資金で航空機を購入して航空会社にリースするというものです。

 租税特別措置法に導入された節税防止組合税制

 このような経過を経て、本年度の税制改革で、組合を利用した事業について、節税防止税制が導入されました。また、時を同じくして、有限責任事業組合契約に関する法律が制定され、民法上の組合、有限責任事業組合、それに匿名組合を利用した節税について、それら事業から生じた損失の控除を認めないとの条文が新たに制定されることになりました。

 ◇ 所得税についての条項 …… ◇

 《1》 組合事業で不動産所得の損失が生じた場合でも、その損失は生じなかったものとみなされます。ただし、その組合員が組合の業務執行に関与している場合は除かれます(租税特別措置法41条の4の2 特定組合員の不動産所得に係る損益通算等の特例)。
 ◇ 損益通算が禁止されるのは不動産所得に限ります。もともと雑所得ついては損益通算は行えませんし、組合員が事業経営に関与する場合は通算を禁止する必要がないからです。
 ◇ 損益通算が禁止され、損失は切り捨てになりますので、組合契約による不動産投資は、税務上、不利益な投資方法になってしまいます。

 《2》 有限責任事業組合契約の組合員について、組合事業から生ずる損失の金額のうち出資の価額を超える部分の金額は、組合員の不動産所得、事業所得、山林所得の必要経費に算入しません(租税特別措置法27 の2 有限責任事業組合の事業に係る組合員の事業所得等の所得計算の特例)。
 ◇ 損益通算が禁止され、損失は切り捨てになりますので、有限責任事業組合契約は個人では使えませ。

 ◇ 法人税についての条項 …… ◇

 《1》 組合契約を締結している場合で、債務を弁済する責任限度が組合財産に限定されている場合には、組合の事業から生じた損失のうち、出資額を超える部分は損金には算入されません。ただし、この制限は業務執行に関与している組合員には適用されません。また、個人の場合と異なり、損失は、翌事業年度に繰り越して控除することが認められています(租税特別措置法67条の12 組合事業に係る損失がある場合の課税の特例)。
 ◇ 繰越控除の期間について、青色欠損金のような7年間の制限はありません。

 《2》 有限責任事業組合の組合員について、組合事業から生じた損失のうち、出資額を超える部分は、その事業年度の損金には算入しません。ただし、個人の場合と異なり、損失は、翌事業年度に繰り越して控除することが認められています(租税特別措置法67条の13 有限責任事業組合契約に関する損失の金額)。

 法律家は、「こうすれば合法的に老人が騙せる」との詐欺スキームは作りません。しかし、税法の分野では、「こうすれば税務署の裏をかける」との商品が、証券会社や生命保険会社から次々に売り出されます。さて、彼らの知恵を誉めるべきか、あるいは倫理観の欠如を責めるべきか。しかし、道徳論では終わらないのが法律の世界ですので、ますます複雑な法律が制定されていくことになります。これが本年度に導入された組合税制です。