相続と守るべき各種の期限(未完成原稿)

 1 相続が開始したら


 相続の相談を受けた場合で、それが相続発生後の相談の場合は、まず、注意すべきは幾つかの期限の定めです。期限の途過によって取り返しのつかない損失を発生させてしまうのが相続の処理だからです。

 まず、最初に注意すべきは2ヶ月の期限です。被相続人が事業を経営している場合に、これを承継した相続人は、新たに事情を開始した者として相続日から2ヶ月以内の青色申告の承認申請書の提出が必要です(所得税法144条)。ただし、準確定申告の期限である4ヶ月先まで延長できる場合があります(所得税基本通達144−1)。事業専従者がいる場合は、同時に、青色事業専従者の給与額についての届出(所得税法57条)も必要です。

 ただし、消費税についての届出は課税期間の末日(12月31日)まで猶予されています。課税事業者選択届と簡易課税選択届(消費税法37条)の提出期限です。なお、基準期間の課税売上については、相続人の固有の売上、あるいは被相続人の課税売上が1000万円を超える場合は課税事業者になります(消費税法10条)。

 2 相続放棄は3ヶ月内に


 次に、3ヶ月で、これは相続放棄の申述期間です。相続が開始したことを知った日から3ヶ月が経過すれば単純承認したとみなされてしまいます(民法915条)。3ヶ月以内に相続を放棄すべきか否かが決断できない場合は、申述期間を延長するという手続が準備されています。延長期間は3ヶ月が原則ですが、再度の延長も認めます。最近は、債務超過の相続が増えていますので、期日内の相続放棄、あるいは限定承認の要否についての検討は不可避です。

 次に、4ヶ月の期限で、これは準確定申告(所得税法124条)の期限です。ただし、相続放棄について申述期間を延長している場合は、準確定申告書の提出は避けておいた方が無難です。準確定申告は、相続人でなければ為しえない行為であり、「相続財産の全部又は一部を処分したとき」に該当(民法921条)するという理屈も成立し得るからです。

 次が6ヶ月の期間で、根抵当権についての登記手続です。債務者、あるいは根抵当権者が死亡した場合に、この期間内に登記をしないと根抵当権は確定したものとみなされてしまいます(民法398条の8)。なお、根抵当権設定者の死亡は、根抵当権には影響を与えません。

 次が10ヶ月で、これが相続税の申告期限です。延納(相続税法39条)、あるいは物納(相続税法42条)の申請を行う場合は、この期間内の申請が必要です。遺産が未分割のものとして申告する場合は、配偶者の相続税額の軽減(相続税法19条の2)と、小規模宅地の評価減(租税特別措置法69条の4)についての届出も失念しないようにしましょう。

 次が1年で、遺留分の減殺請求の期限です。相続の開始を知った日から1年以内の減殺請求が必要です(民法1042条)。調停、あるいは訴訟を起こす必要はありませんが、遺留分減殺請求を行使する旨を内容証明郵便をもって通告しておくことが必要です。

3 相続については長期の管理が必要


 次が3年10ヶ月で相続税の取得費加算(租税特別措置法39条)と、相続した株式についての譲渡所得課税(租税特別措置法9条の7)を受けられる期限です。

 さらに、4年の期間で、相続税の法定申告期限後3年以内に遺産分割が完了していない場合は、配偶者の税額軽減、あるいは小規模宅地の評価減の適用について、調停手続などが進行中である旨を、その日から2ヶ月以内に税務署長に届け出ておく必要があります(相続税法施行令4条の2)。

 その間、争いのあった遺産分割について結論がでれば、相続税について更正の請求が必要になりますが、更正の請求が可能なのは、争いが決着した日から2ヶ月(国税通則法23条)、あるいは4ヶ月(相続税法32条)です。判決をもって終結した場合なら、判決が送達された日から2週間が経過した日が、更正の請求の起算日ですが、調停、あるいは和解によって解決した場合は、調停、あるいは和解が成立した日が、更正の請求の起算日になりますので注意が必要です(平成11年3月29日裁決)。

 相続について相談を受けたら、まず、相続開始日を確認し、いま現在が相続開始後何日目かを確認するのが最初の手続です。もしかすると、今日が、その当日かもしれません。そのような事例について、今日、その手続についてアドバイスしなければ、専門家としての任務懈怠ということになってしまいます。