第3 当裁判所の判断

 1 前項記載の前提事実によれば、相手方では配当を実施したことはなく、将来も配当の予定がないことを考慮すると、配当還元法を採用することは相当でなく、本件では純資産方式に因るのが相当である

 原審での鑑定人建部好治の鑑定結果(以下「建部鑑定」という。)は、個々の資産の評価についての考え方は参考になる部分があって採用できるが、配当還元方式を併用している点は、前示のように相手方に配当の実績がないこと等から採用できないし、前記田村一美作成の株式評価書は、同人が前記のとおり相手方の顧問税理士であって、相手方とは密接な利害関係があること、不動産評価につき路線価に依拠していること、配当還元法を採用していること、類似業種比準方式を採用しているが、類似業種の選定の正確性を確認できないこと、配当還元方式、純資産評価方式(路線価)及び類似業種比準方式を5対2対3の割合で加重平均しているが、その根拠が明らかでないこと等から採用できない。

 2 〔証拠略〕は公認会計士松本茂郎作成の株式鑑定評価書(以下「訂正後の松本鑑定」という。)である。同人は、これより先に株式鑑定評価書を提出したが、鑑定人建部好治からの批判を受け、批判のうち納得できる点(例えば、役員退職金未払金を負債に計上するべきであると判断し、その現在価値を計上している。)を訂正したものが、訂正後の松本鑑定である。

 〔証拠略〕によれば、右松本茂郎は、不動産鑑定士小林慶鑑が行った平成9年5月15日を評価時点とする相手方の固定資産の評価額を参考にしてその価格を別紙1記載のとおりとし、神戸市西区池上の土地の共有持分3分の1に対する借地権割合は6割が相当であると判断して借地権価格を別紙1記載のとおり評価した。

 建部鑑定は、借地権割合は4割が相当であって、6割は高すぎると批判する。右共有持分に対する借地契約は、昭和63年2月29日に締結され、借地期間は20年、敷金なし、賃料は月額11万2000円であるが(建部鑑定書15頁)、貸主は前示のように相手方代表者の父の大前正博であるから、相手方が存続する間は特段の事情のない限り同持分に対する借地契約は更新継続するものと推認されるから、借地権割合はその残期間に左右されることはほとんどなく、通常の借地権割合を適用するのが相当であるところ、右借地の相続税評価における借地権割合は6割であり、国土庁の平成3年度「借地権価格調査結果における借地権割合」の兵庫県住宅地の平均借地権割合は5割5分である(建部鑑定添付の神戸市西区池上についての不動産鑑定評価書16頁。)から、訂正後の松本鑑定における借地権割合の6割が高すぎるとはいえない。

 また、建部鑑定は、松本茂郎が相手方の株式評価に当たり、子会社の株式会社ジャパン・オール・クリエイティブの純資産価格を連結の手法でとらえていないのは誤りであると批判するが、訂正後の松本鑑定は、相手方所有の右株式会社の株式につき、同会社の資産・負債を時価評価して価格を算出しているから必ずしも誤りとはいえない(訂正後の松本鑑定は、右会社の200株を330万9000円と評価し、相手方所有のゴルフ会員権の価格を380万円と評価し、その合計710万9000円を投資有価証券価格に計上している。

 3 訂正後の松本鑑定は別紙2記載のとおりであって、純資産価格(時価)と税額控除後純資産価格(時価)をそれぞれ算出し、これらを6000株で除した1株当たりの価格の平均値8万2588円をもって相当価格であると結論づけている。

 しかし、純資産方式は、評価会社の資産の評価額の合計から負債の合計額及び会社資産の評価換えによって生じる評価益に対する法人税等相当額を控除した残額を、評価時期における評価会社の発行済み株式数で除して1株当たりの評価額を計算する方式であるから、残額控除前純資産価格と控除後純資産価格をそれぞれ算出し、その1株当たりの算出価格の平均値をもって相当額とする方法は合理性がなく、採用できない。

 右の次第で、訂正後の松本鑑定の税額控除後純資産価格3億8681万9000円を採用するのを相当と認め、これを6000株で除した6万4000円(1000円未満切捨て)を1株当たりの価格と定める。

 4 結論

 以上の次第で、本件株式の売買価格を1株当たり6万4000円と定めるのが相当であるから、これと異なる原決定を本決定のとおり変更することとし、主文のとおり決定する。