しかしながら、本件のように、株式会社が商法204条ノ2、204条ノ3ノ2の規定に基づき自らを株式の先買権者として指定した事案において、その株式会社は自己株式の取得により当該株式についての配当を免れる立場にあり(商法293条)、将来配当利益を受けることを目的として自己株式を取得するということはあり得ないから、株式の価格決定に際し、株主が将来受けるであろう配当利益を基礎とする配当還元方式に重きを置くことはできないというべきであるし、またこのような事案についてまで配当還元方式を原則とすることが実務的に確定していることを認めるべき資料もない。

 本件株式の買手である抗告人の立場からすれば、本件株式の取得により配当を免れた利益を内部に留保し得るだけでなく、これを活用して更なる利益を直接に受けることもできるのであるから、収益方式を基準として本件株式の価格を評価するのが合理的であるといわなければならない。

 他方、売手である相手方の立場からすれば、もともと本件株式を保有していても、配当利益と万が一抗告人が清算段階に至った場合には残余財産の分配を受け得るにすぎないから、配当方式と純資産方式を基準として本件株式の価格を評価するのが合理的であるといえる。そして、抗告人がこれまで高い利益率を確保しながら、利益配当を定額に抑えてきたことなどを考慮すれば、売手である相手方の立場からする本件株式の価格の評価は、配当還元法による配当方式と純資産方式の中間値を採用するのが相当である。

 さらには、上記のとおりの買手の立場からの評価と売手の立場からの評価のいずれかを重視するのが相当であるといえるような事情が見当たらないことからすれば、本件株式については、原決定のとおり、上記の各方式による算定額を「配当方式:純資産方式:収益方式=0.25:0.25:0.5」の割合で組み合わせる併用方式によりその価格を定めるべきものと判断される