金融・商事判例 NO.1295 2008年7月15日号
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 本件会社は、写真家である加納典明のコンテンツを会員に配信する事業を主たる事業としていること

(3)本件会社の規模の検討
 類似会社比較法は、対象会社と業種、規模等が類似する上場会社(類似会社)とを比較して、株式価格を評価する方式である。しかるに、本件会社は、別紙2のとおり売上が1億円程度の会社であり、その規模に照らして類似会社比較法を採用することは困難である。

(4)経営権の移動の有無の検討
 前提事実2のとおり、本件会社においては、申立人が2400株、相手方が3600株の株式を有していた。そうすると、相手方が過半数の株式を有していたから、経営権を有していたといえるけれども、他方で、申立人は発行済株式の総数の40%の株式を有し、株主総会の特別決議を拒否できるから、本件会社の経営に一定程度の影響を及ぼすことができる株主であったといえる。加えて、本件では、申立人から相手方に本件株式が移動することによって、相手方は本件会社を完全に支配することができることになる。
 そうであれば、本件では、経営権の移動に準じて取り扱い、経営権の移動を伴う場合に用いられる評価方式である純資産方式、収益方式を検討すべきであると解される。

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(7)純資産方式と収益還元方式の比較検討
 本件会社においては、清算は予定されていないこと、売上は順調に推移しており、今後も一定程度の利益が見込まれること、資産に含み益がある不動産等は存在しないことなどを考慮すると、インカムアプローチである収益還元方式を採用するのが相当である。これに対し、創業してさほど年月の経過していない本件会社においては、純資産方式を採用すると株式価値を過小評価するおそれがあるから、純資産方式を併用することを含めて採用するのは相当ではない。

(8)結論
 したがって、本件株式の1株当たりの価格は、収益還元方式によって1万2929円と定めるのが相当である。


(別紙)3
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│純資産方式による算定(単位:円)           │
├──┬───────────────┬──────┤
│A  │平成19年3月期純資産額     │ 44,272,000│
├──┼───────────────┼──────┤
│B  │発行済株式の総数       │    6,000│
├──┼───────────────┼──────┤
│C  │1株当たりの価格(A/B)     │    7,378│
├──┴───────────────┴──────┤
│収益還元方式による算定(単位:円)          │
├──┬───────────────┬──────┤
│A  │平成18年3月期経常利益     │ 18,212,050│
├──┼───────────────┼──────┤
│B  │平成19年3月期経常利益     │  8,537,907│
├──┼───────────────┼──────┤
│C  │AとBの平均          │ 13,374,978│
├──┼───────────────┼──────┤
│D  │Cに対する実効税率(42%)相当額 │  5,617,490│
├──┼───────────────┼──────┤
│E  │予想税引後利益(C-D)      │  7,757,488│
├──┼───────────────┼──────┤
│F  │資本還元率          │     0.1│
├──┼───────────────┼──────┤
│G  │本件会社の収益還元価値(E/F)  │ 77,574,880│
├──┼───────────────┼──────┤
│H  │発行済株式の総数       │    6,000│
├──┼───────────────┼──────┤
│I  │1株当たりの価格(G/H)     │   12,929│
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