======= 過少申告を防止しないのは税理士の責任 ======

 適正な税務申告をしなかった場合については、次のような無申告加算税、あるいは過少申告加算税などの行政罰が準備されています。

 イ)無申告加算税…… 期限内に申告書を提出しなかった場合は納税額の100分の15の割合。ただし、決定処分を受ける前に自ら期限後申告書を提出した場合は100分の5の割合に減じる。

 ロ)過少申告加算税…… 過少申告をした場合は増差税額の100分の10の割合。ただし、その増差税額のうち期限内申告税額相当額又は50万円のいずれか多い金額を超える部分については100分の15の割合。なお、更正処分を受ける前に自ら修正申告書を提出した場合は過少申告加算税は課税しない。

 ハ)不納付加算税…… 源泉徴収等による国税を法定納期限内に完納しないときは、未納税額の100分の10の割合。ただし、納税告知を予知しないで期限後に納付したときは100分の5の割合。

 ニ)重加算税…… 過少申告加算税又は不納付加算税が課されるべき場合において、仮装隠ぺいの事実があるときは、これらの加算税に代えて100分の35の割合。無申告加算税が課されるべき場合において、仮装隠ぺいの事実があるときは、無申告加算税に代えて100分の40の割合。

 不正な納税申告について、このような行政罰が準備されていることは社会の常識だと思うのですが、この常識を納税者に説明しなかったことを税理士の責任とする判決(平成14年12月6日前橋地裁判決)が言い渡されましたので紹介します。

http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/c1eea0afce437e4949256b510052d736/87c5abd41233fafa49256ca8001aeaef?OpenDocument

 1)納税者は、平成6年度分の所得税の確定申告手続を税理士(被告)に委任したが、確定申告書を作成するために必要な現金出納帳や預金通帳などの提出を拒んだ。そして、税理士に対し、平成5年度の申告書の控え等を示して、6年度についても5年度と同様に申告するよう要請した。

 2)税理士は、納税者から提示された書類では確定申告書の経費欄を記載することができないことから、経費を推計で算出して経費の合計額のみを記載する方法(概算経費率)による申告をするよう提案したが納税者はこれも拒んだ。

 3)やむを得ず、税理士は、納税者の指示に従い、前年度の申告額に納税者から説明を受けた増減率を乗じた金額を記載して所得税の確定申告書を作成し、納税者はこれを税務署に提出した。

 このような事案について、その後、税務調査を受け、更正処分と重加算税の賦課決定処分を受けたのですが、問題は、さらに、その後の経過です。

 納税者は、重加算税が課税されたことについて、これを税理士の任務懈怠として損害賠償を求めました。そして裁判所は、税理士に任務懈怠が存在したとして次のような損害賠償義務を認める判決を言い渡しました。

 「税理士は……依頼者の希望や要請が適正でないときには……税務に関する専門家としての立場から、依頼者に対し不適正の理由を説明し、法令に適合した申告となるよう適切な助言や指導をするとともに、重加算税などの賦課決定を招く危険性があることを十分に理解させ、依頼者が法令の不知などによって損害を被ることのないように配慮する義務があるというべきである」。

 「本件では……納税者において、売上げや経費を実際の金額と大幅に異なる金額として申告し不正に課税を免れようとしている可能性があることを容易に認識することができたものと認められる。それにもかかわらず、税理士は,原告の指示どおりの申告をした場合に、原告らが将来脱税を指摘されて重加算税や延滞税などを課せられる危険があることを何ら説明しないまま、原告の指示どおりに所得税等確定申告手続を行ったというのである」。

 「税理士が、原告に対し、同人の指示どおりの申告をした場合に、原告らが重加算税や延滞税などを課せられる危険性が高いことを十分に説明し、指導していれば、原告らが本件のような不適法な申告を行うことはなかったと認められる」。


 不正な申告であることを承知の上で納税者は過少申告を行っている。その納税者に対し、予め、行政罰の可能性を告げなかった税理士は、納税者に対して加算税相当について損害賠償義務を負う。専門家責任も、だんだんと米国並みになってきたと考えるべきでしょうか。裁判所は、最終的には9割の過失相殺を認めましたが、しかし、裁判所が考える税理士の責任にはため息をつきたくなるところがあります。