出版されました
     実務家のための税務相談(民法編)
     2006年12月発行 有斐閣


Case 3 取得時効についての課税関係

第1 民法の理解

(1)取得時効制度の存在理由

 取得時効は,長期の事実状態が継続した場合には,それが真実か否かを問うことをせず,事実状態を尊重し,その事実状態に法的な根拠を与えようとする制度です。取得時効と消滅時効では時効制度の存在理由が若干異なりますが,時効制度一般については,社会の法律関係の安定と取引の安全の保護,証拠保全の困難の救済,権利の上に眠るものを保護しないとの考え方によって説明されています。

 取得時効の対象になるのは所有権(物権)が大部分ですが(民法162条),その他の権利も取得時効の対象になります(民法163条)。判例は,借地権(債権)も時効取得の対象になることを認めています(最高裁昭和43年10月8日判決)。
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第2 税法の理解

(1)取得時効と所得発生の時期

 個人が取得時効を主張し,権利を確保した場合は,一時所得として所得税課税を行うのが実務ですし,法人の場合も益金が認識されることになっています。取得時効が援用されることによって所有権を失った場合は,法人であれば簿価相当額を損金に計上することになります。個人の場合は,それが事業用の資産であれば簿価相当額を必要経費に算入することが可能ですが,事業用以外の資産の場合は税額計算における救済の方法はありません。

 個人が取得時効によって権利を確保した場合の所得の発生時期については,1)起算日説,2)時効完成日説,3)援用日説,4)判決確定日説の4説が考えられます。
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