米国への贈与

いま話題の東京地裁民事3部

◆1) 米国籍の子に現金を贈与したら

 父親は米国に居住する子に対し、平成9年2月、北海道拓殖銀行から日本円に換算して2000万円をアメリカ合衆国にある子名義の預金口座に送金した。なお、子は昭和61年には米国国籍を取得し、平成3年からは米国に居住している。しかし、父親と子の間には贈与契約に関する書面は残されていない。そして、平成9年9月に父親は死亡した。この送金について、贈与(死亡年中の贈与なので相続税の課税対象に取り込まれる)の事実の有無が争われることになった。

 いま話題の東京地裁民事3部が平成14年4月18日に言い渡した9個目の納税者勝訴の判決です。判決が納税者勝訴を言い渡すについて述べたのが次のような理由です。

 「父親から娘に対し現金が贈与されたといえるのは、送金以前に、父親と娘との間で贈与契約が成立し、その履行のために送金手続が執られた場合に限られる」「贈与契約の成立は課税根拠事実に当たり、この事実の主張・立証は課税庁が負担すべきところ、贈与契約を裏づける立証は何らできていない」「何らの話し合いもなく、親が子に対して一方的に送金することも不自然とは言いがたい」。判決は、贈与の事実の存否に踏み込まず、立証責任だけの問題として結論を出しています。

◆2) 控訴審では逆転

 この判決について、東京高裁は、平成14年9月18日に次のように判断して納税者の逆転敗訴判決を言い渡しました。

 「更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟については、申告により確定した税額を納税者の有利に変更することを求めるのだから、納税者において、確定した申告書の記載が真実と異なることについて立証責任を負う」。このように判断し、贈与を受けた子を証人にすれば直ちに明らかになる事実について、被控訴人(納税者)は証人申請をしようともしないと指摘すると共に、逆に、幾つかの事実を指摘し、それによれば生前の贈与の事実が積極的に認定できると判断しました。

 一審と控訴審では立証責任についての判断が真反対に分かれました。一審は訴訟の一般原則に従い、贈与の事実について課税するのであれば、その事実を立証するのは課税庁の責任との判断をしましたが、控訴審は、逆に、贈与の事実を取り込んだ納税申告を行った以上は、それを減額するための更正の請求について、贈与の不存在を立証するのが納税者の責任と判断したわけです。

◆3) 地裁民事3部判決の予想は

 税務訴訟は勝てない(納税者の勝訴率は3%から6%)といわれている現状で、東京地裁民事3部が、ここ2年の間に10件もの納税者勝訴の判決を言い渡していることは、一般紙にも報道されるほどの大事件です。

 地裁民事3部が納税者勝訴の判決を言い渡した事件には、1)3760億円の貸倒損失の計上の是非が問われた興銀事件、2)オランダ所在の子会社を増資することによって255億円相当の持分を第三者に移転してしまった旺文社事件、3)東京都が導入した銀行(資金量5兆円以上)の業務粗利益に対して課税する銀行税事件などの大型事件が含まれています。

 さて、地裁民事3部の判決は、既に、控訴審において興銀事件に逆転判決が言い渡されていますので、今回は2つ目の逆転判決ということになります。続いて、来年1月30日には東京都銀行訴訟の判決が予定されていますが、この判決も逆転判決になるだろうというのが大方の予想です。はたして、税務訴訟について納税者勝訴の嵐を巻き起こした東京地裁民事3部の判決が、控訴審で一つでも生き残るのか、非常に興味のあるところです。

           taxMLグループ(担当 弁護士関根 稔)