金庫株の買い受け価格は二つ

金庫株の買い受け価格は二つ?

◆1)金庫株も適正時価で取引されることが前提

 市場での取引のない株式ですが、これを発行会社が金庫株として買い受けたら、売主には配当所得課税が行われることはご承知の通りです。仮に、取得価額5000円の株式で、会社の資本等の金額が1000円の株式を5000円で会社に売却したら、配当所得4000円と、有価証券譲渡損4000円が計上されることになります。さて、この株式を会社に時価を下回る価額で譲渡した場合は、どのような課税関係が生じるのでしょうか。

◆2)同族株主が会社に譲渡した場合

 譲渡所得の収入金額は、交付金銭等からみなし配当額を控除した金額となりますが、時価の2分の1未満の対価で譲渡した場合は、所法59条の適用を受けますので、その場合の収入金額は、自己株式の時価に相当する金額から、みなし配当金額を控除した金額となります(所措通37の10−26)。

 例えば、時価5000円の株式を2000円で譲渡した場合、仮に資本等の金額が1000円とすると、みなし配当金額1000円を控除した金額、つまり4000円が、譲渡所得を計算する場合の収入金額になります。そして、金庫株を低額で買入れた法人側ですが、通常の低額譲り受けと同様に、法人税法22条2項の適用を受けて、時価との差額3000円が受贈益課税されると解説されています。

◆3)非同族株主が会社に譲渡した場合

 では、社員株主のような少数株主が売主になった場合はどのような課税関係が生じるのでしょうか。所基通59−6によれば、株式の価額は財産評価基本通達(取引相場のない株式の評価)の例により算定した価額とするとされており、また、「同族株主」に該当するかどうかは、株式等を譲渡又は贈与した個人側の直前持株数で判断しますから、少数株主の場合は、配当還元価額で譲渡すれば、原則として、みなし譲渡課税は行われません。仮に、配当還元価額を500円とすれば、この価額での売却は適正な時価での売却と認められるはずです。

 さて、この場合の買主側の課税関係は如何なるものになるのでしょうか。つまり、(1)少数株主からの500円での買い取りが正当な価額での買い取りと認められて、法人税法上の時価としても採用されるのか、それとも(2)法人税法上の時価算定の規定である法基通9−1−14をもって計算した株価が5000円だとしたら、差額4500円について、受贈益課税が行われてしまうのかとの疑問です。

 この違いは、一つの取り引きには一つの価額しか成立しないとする常識的な考え方と、一つの取り引きに二つの価額を認める通達的な考え方の違いということもできますが、前者の考え方を採用すると租税回避が行われてしまうとの指摘があるのと同時に、後者の考え方では社員株主からの買い取りは、事実上、不可能になってしまうとの指摘があります。金庫株の買い取りについて、どのような取り扱いが採用されることになるのか、今後注目されるところです。

                   taxMLグループ(担当 江崎一恵)