連結納税の落とし穴・最終校正版

連結納税の落とし穴

◆1)連結納税と時価算定基準

 連結納税を開始する場合、あるいは新たに子会社、または孫会社を連結連結対象に加える場合は、租税回避行為の防止の観点から、原則として、連結子会社が所有する固定資産等について時価評価を行う必要があります。しかし、法人税法上の時価算定の基準は、取引相場のない株式など一部の資産についての定めはありますが、それは抽象的であり、また、相続税法の時価算定方式の借り物だとの意味で完全なものではありません。法人税法が時価算定という古くて新しい問題に直面しています。

◆2)時価算定が求められる資産と疑問点

 時価評価の対象になるのは、固定資産、土地等、金銭債権、有価証券(売買目的有価証券を除く)、繰延資産です。

 この中で、有価証券の評価ですが、株式の評価は、発行会社の全資産の時価評価(純資産価額方式の場合)を基礎として行われますが、その際に時価評価されるのは固定資産等には限定されないとの問題があります。つまり、連結会社間に持株関係がある場合に、株式の評価を通じて、固定資産や有価証券以外の資産の再評価益が計上されてしまうことになり、時価評価の対象を固定資産等に限定した法の趣旨にはずれてしまいます。

 そして、これは評価益の重複計上の問題も生じさせます。つまり、子会社b、孫会社cがある場合に、孫会社が資産の評価益300を計上すると、子会社が所有する関係会社株式が300だけ増えてしまうとの重複計上です。

◆3)営業権と損金経理・確定決算主義

 さらには、営業権も時価評価の対象になりますので、孫会社cに営業権が存在する場合は、子会社bの株式の評価に営業権価格300が含まれることになりますが、これは将来の収益についての課税との意味で二重課税を生じさせてしまいます。つまり、営業権は将来の超過収益力で、将来、孫会社cが現実に収益を計上することが予定されていますが、その場合は、cの収益に課税された上に、bの有価証券評価益にも課税されるとの二重課税を生じさせてしまうとの問題です。

 通常であれば、これは営業権の償却によって調整されるのですが、有価証券の評価益として計上された営業権相当額には償却との概念は存在しません。したがって、営業権相当額の償却を損金経理によって行うことは不可能です。では、営業権の償却について、損金経理要件や確定決算主義を放棄した税務上の償却を認めることになるのでしょうか。

 実は、子会社事業年度が親会社とズレている場合、税務上、親会社のそれにあわせ連結納税を適用する「みなし事業年度」規定があり、子会社に、総会承認を得ない会社計算を要求します。つまり、総会承認が前提の損金経理要件や確定決算主義は、既に放棄されつつあるのです。このように連結納税制度は、法人税法に新たな問題を突きつけています。

                         taxMLグループ(掛川雅仁)