相続させる遺言(高橋昭彦)

遺贈するか、相続させるか

◆1)相続させるとの遺言

 遺言書の作成時に「遺贈する」と「相続させる」のどちらを用いるべきか。従来は「遺贈」より「相続させる」の方が有利と理解されていました。この部分について平成15年度の税制改正が行われ、また、新しい最高裁判決もありますので、その紹介を兼ねて理由を再確認してみようと思います。

◆2)二つの方法の相違点

 従来は、「遺贈」より「相続させる」の方が登録免許税が節約できました。しかし、平成15年度税制改正要綱(閣議決定)によって、法定相続人が遺贈を受ける場合の登録免許税は相続の場合と同様になりました。不動産取得税は「相続」の場合も、相続人に対してなされた「遺贈」の場合も共に非課税です。

 次に、一般承継か特定承継かの違いがあります。「遺贈」は、包括遺贈を除き、特定承継と理解されますから、所有権の移転については、農地法の許可、譲渡制限株式についての取締役会の承認、借地契約等についての賃貸人の承諾が必要になると考えるのが原則です。「相続させる」は一般承継ですので、これらは不要ですから、借地契約等についての名義書換料を負担することがありません。

 登記の手続きも違います。「相続させる」は相続人の単独申請ですが、「遺贈」の場合は相続人の全員の委任状が必要になります。ただし、「遺贈」の場合でも、受遺者を遺言執行者にしておけば、受遺者の単独での登記手続が可能です(大正9年5月4日民事第1307号民事局長回答)。

 民法の対抗要件も異なります。「遺贈」の場合は、受遺者以外の法定相続人が相続登記をして、それを第三者に譲渡してしまえば、受遺者は譲受人には対抗できません。法定相続人の中に多額の債務を負担している者がいる場合などは、その相続分が差し押さえられてしまう危険性もあります。しかし、「相続させる」なら、相続人は登記を必要とせずに所有権の取得を第三者に対して主張することが出来ます(平成14年6月10日最高裁判決)。

◆3)課税上の差異

 事業経営者が死亡した場合は消費税も検討する必要があります。「特定遺贈」では消費税法10条(相続の納税義務)は適用されません(消基通1−5−3)。しかし、「相続させる」とした場合は同条が適用され、被相続人の課税売上高が相続人の納税義務の算定に影響します。遺贈なら免税事業者になるケースでも、「相続させる」の場合は納税義務者になってしまうことがあります。この他にも「相続させる」の場合は、消費税法38条B(対価の返還等)、同法39条C(貸倒れ)等の多数の条文の影響を受けます。なお、消費税法などに基づく届出書の効力は「相続」の場合も、「遺贈」の場合も承継されません。税制改正要綱は「事業者免税点制度の適用上限を1,000万円(現行3,000万円)に引き下げる」としていますので、課税売上がボーダーラインにある場合には注意を要する点です。以上の通り、消費税に関しては慎重な検討が必要ですが、その他の場合は「相続させる」との遺言が有利な点は従来と変わらないようです。

               taxMLグループ(税理士 高橋 昭彦)