医療法人(佐々木克典)

医療法人の出資と相続税の取り扱い

◆1)通常の医療法人の出資持分の相続時の取り扱い

 出資持分の定めのある医療法人について、出資者(社員)に相続が開始した場合は、社員資格の喪失を理由として相続人に対し出資持分が払い戻されることになります。そして、払戻金には配当所得課税が行われ、所得税を差し引いた残余金には相続税が課税されます。これがモデル定款に従っている医療法人の出資持分についての課税関係です。

 しかし実際には、出資持分は財産評価基本通達194−2(医療法人の出資の評価)に基づいて評価され、相続税が課税されます。これは前段と異なる課税関係ですが、所得税質疑応答集(大蔵財務協会刊)などに解説されています。それによると1)相続に伴う出資の払戻しを受けない場合で、2)相続人が社員に就任し、かつ、3)出資持分の名義をその社員に変更する手続きが行われた場合は、死亡による社員資格の喪失との効果を無視し、直接に相続人が出資持分を相続したとみなされます。

◆2)出資額限度法人の出資持分の相続時の取り扱い

 さて、いま訴訟が最高裁に係属し、話題になっている「出資額限度法人」についての相続の場合ですが、相続人は出資額のみの払い戻しを受けることになりますので、相続財産とされるのも出資額のみとの結論になりそうです。出資額限度法人とは、相続開始時の内部留保などは無視し、社員の退社時には、当初の払込額を限度として出資を払い戻すとの定款を置く医療法人です。

 しかし、このような定款変更も万全ではありません。課税側から非公式に流れてくる情報や日本医療法人協会の資料などでは、定款変更時に出資払い戻し請求権を法人に贈与したものとして所得税法59条による譲渡所得課税が行われ、あるいは退社時に出資額と時価との差額について他の出資者に権利が移動したとして相続税法9条を適用するとの考えもあるようです。

◆3)特定医療法人の出資持分の相続時の取り扱い

 平成15年より相続税率が引き下げられましたが、配当が禁止され、利益が内部留保として蓄積されてしまう医療法人の出資持分については、今後も相続税の悩みがついて回るようです。そこで、相続税対策の一手法として、措置法67条の2の特定医療法人への変更を検討してみては如何でしょうか。特定医療法人は出資持分の定めのない医療法人で、社員は出資持分の払い戻し請求権を失いますし、役員の親族制限の適用も受けますが、社員総会の議決によって経営権を確保すれば、相続税を心配することなく病院経営を継続することが可能になります。平成13年度の特定医療法人の承認件数は45法人あり、この中には相続対策を目的として特定医療法人等に組織変更した例も多いと想像されます。

 医療法人の出資者に相続が発生した場合の影響は、一般の事業会社とは微妙に異なるところがあります。近日中に予想されている「出資額限度法人」の最高裁判決や、今年の4月1日から緩和される特定医療法人の承認要件などの情報にも注意を払い、専門家として、より的確なアドバイスが出来るように努めたいものです。

                 taxMLグループ(税理士 佐々木克典)