相続時精算課税制度(飯田)

相続時精算課税制度の落とし穴

◆1)混沌とする親から子への贈与制度

 平成15年度の税制改正に伴い、親から子への贈与について4つの制度が混在することになりました。つまり、@従来からの通常の贈与税制度、A2500万円の特別控除枠をもつ相続時精算課税制度、B住宅取得資金の贈与に対する五分五乗方式、C住宅取得資金の贈与で精算課税制度に1000万円を上乗せして3500万円の控除枠になる精算課税の特例制度です。非常に注目度の高い精算課税制度ですが、従来の制度に比べて本当に有利なのでしょうか。

◆2)取消すことができない精算課税制度

 通常の贈与及び五分五乗方式から精算課税制度への切り替えは可能ですので、例えば住宅取得資金として550万円の贈与を受け、年齢条件をクリアした段階で精算課税制度を選択して、ローンの残金相当の贈与を受け一括返済するとの利用法が考えられます。

 また、父親と母親から3500万円の贈与のダブル適用で7000万円の贈与を受けることや、父親からの贈与については3500万円の贈与を受け、母親からの贈与について通常贈与や五分五乗方式の贈与を受けるとの組み合わせも可能です。

 ただし、精算課税制度を選択すると、その当事者間において、その後に行われる贈与には全て精算課税制度が適用されます。つまり、通常の贈与についての110万円の基礎控除は使えなくなってしまうのです。

◆3)精算課税制度は、相続「税」対策には不向き

 相続財産が基礎控除の金額内に収まる場合は精算課税制度を選択しても不利益が生じることはありません。遺留分の放棄(民法1043条)と生前贈与を組み合わせた「争続」防止などに積極的に活用できそうです。

 一方で、相続税の課税が予測されるケースに精算課税制度を選択した場合は、相続の段階で、相続税の課税価格に贈与財産が組み入れられてしまうため、相続税についての節税を期待することはできません。逆に、生前贈与を受けた財産については小規模宅地等の評価減の適用が受けられないため、結果として税負担が増えてしまう可能性もあります。

 また、精算課税制度を選択した場合に、相続税の課税価格に組み入れる金額は、贈与時の時価になるため、贈与財産の時価が下落した場合は、精算課税制度を利用しなかった場合に比較し、贈与財産の値下がり分だけ不利益を被ってしまうことになります。

 本制度は、緊急に贈与が必要となるケースや、敢えて所得を移転させたい場合など、節税以外の目的が存在する場合に限り利用すべき制度といえます。

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 精算課税制度を選択した場合は、@消費してしまい相続時には存在しない財産について税負担が生じ納税に困窮する可能性、A納付済みの贈与税について、相続税の申告を失念し還付が受けられなくなってしまうリスク、B精算課税で贈与した財産は物納に充てることができなくなるとの問題など、新たな問題が相続発生時に起こり得ます。精算課税制度の選択にあたっては十分な検討が必要です。

             taxMLグループ(税理士 飯田聡一郎)