営業権に注意(江崎)

営業権にご注意!

◆1)金利の引き下げで発生してしまう営業権

 取引相場のない株式を評価するに際し、営業権の計算を失念し、相続税の申告の間違いを指摘される事例が増えています。その理由は基準年利率の低下です。基準年利率は国税庁から発表される割引率で、ゴルフ会員権、定期借地権などの相続税評価額の計算に使用されますが、これが、最近の10年間で、8%、6%、4.5%、3.5%、3%と引き下げられてきました。その結果、いままで営業権とは無縁だった中堅企業でもその計上が必要になっています。

 営業権の評価は次の算式によって計算されます(但し、前期利益を限度とします)。基準金利の低下は、第1の計算ではマイナス項目を減少させ、第2の計算では複利年金現価率を増加させるとの意味で、営業権の評価に二重の影響を与えます。


 第1段階の計算(超過利益金額の計算)
 平均利益金額×0.5−企業者報酬の額−総資産価額×基準年利率

 第2段階の計算(営業権の評価)
 超過利益金額×営業権の持続年数(10年)に応ずる基準年利率による複利年金現価率

◆2)10年前との比較

 所得金額10億円、総資産価額100億円の会社の営業権は、平成5年はマイナス27億円と計算されましたので、もちろん営業権は計上されませんでしたが、現在では8.5億円という計算結果になってしまいます。財産評価基本通達の考え方に従えば、基準金利の2倍を超える利益を獲得している企業は営業権を計上することになります。すると、平成5年には総資産の16%を超える利益を確保している企業のみが営業権を計上したのに、現在は、総資産の6%を超える利益を獲得している企業は営業権を計上することになってしまいます。同じ利益でありながら、基準金利の引き下げによって営業権が発生してしまう。このような理屈が正しいのでしょうか。

◆3)営業権評価の疑問点

 平均利益金額に乗じる0.5は企業の将来における危険率ですが、これが50%では少なすぎること、現在の収益力が将来10年も継続するとは考えられないこと。企業者報酬についても、200万円の利益を獲得している企業について年額90万円、1000万円でも300万円、5000万円で850万円と、余りにも現実離れし、時代に遅れてしまっていること、総資産価値を基準にして営業権を計算することに根拠はなく、そもそも、一般の中小企業について、仮に、超過収益力があったとしても、それを営業権と認識することが妥当かなど多くの疑問があります。

 このように、計算方法においても、指数の選び方についても不完全としかいいようのない営業権の評価方法ですが、だからこそ、思わぬ企業でも営業権の計上が必要になることがあります。相続税の申告において、過少申告とのミスをしないためにも、営業権の評価には注意をする必要があります。

                taxMLグループ(税理士 江崎一恵)



 事業承継税制検討委員会
 中間報告
 平成19年6月
 事業承継協議会
 事業承継税制検討委員会

《1》営業権

 現行の財産評価基本通達においては、営業権は、以下の算式により算出される将来の超過収益力の現在価値と前年の所得のいずれか低い金額に相当する価額によって評価することとされており、近年、超過収益力の算定に際して用いられている基準年利率が大幅に引き下げられたことから、従来は計上されることが希であった非上場株式の純資産価額方式における営業権評価において、具体的にその多額の計上が問題となっている。

 本委員会においては、低金利下で変動金利を採用した基準年利率の定め方の問題に加え、そもそもの相続税法上の「営業権」概念と企業結合会計や法人税法上の「のれん」概念との不整合の問題、換金性のないものを基本的に清算価値の発想に立つ純資産価額方式において評価することの問題、さらには持続年数(10年間継続するという前提での現在価値評価)の問題等が多数の委員から提起された。

 この相続税法上の営業権の評価の問題については、法定の概念でない以上、まずは近年規定が整備された企業会計や法人税法上の概念との整合性を考慮すべきではないかと考えられる。

 仮に、現行評価方式の大枠を維持する場合でも、特に近年の基準年利率の改定の弊害が大きいことから、適切な固定利率を設定する等、基準年利率の設定方法や持続期間の設定等について必要な見直しを行うべきである。

(3)同族関係者の範囲

 現行の財産評価基本通達に基づく非上場株式の評価においては、同族関係者の範囲と議決権の割合により株主を区分し、同族株主等以外の株主が取得した株式については、原則的評価方式に代えて特例的評価方式の配当還元方式で評価することとされている。その際、同族関係者の範囲は、民法における親族の範囲、すなわち6親等基準をその基礎としているが、実際には同族関係者であっても、特に5親等や6親等の関係にある者については、少数株主と同様、経営には関与せず、支配株主との間で日常的な接点もなく、配当のみを期待する者も相当程度存在する。本委員会においては、これらの者について、オーナー経営者等と同様の株式評価が適用されていることについて見直すべきとの意見が複数の委員から表明された。

 そこで、この点につき、実際に経営非参画の同族関係者がどの程度存在するか等を確認すべく、過去5年以内に親族内で事業承継を行った法人経営者を対象(回答数:約2700)に、具体的な調査・分析を行ったところ、まず、会社経営に参画していない同族株主がいる会社は全体の約57%であり、その同族株主の一人当たり平均持株比率が5%以上である割合は約74%という点が明らかになった。

 次に、当該会社のうち、経営に参画していない同族株主が、経営者から4親等以上離れている割合を算出したところ、約18%であり、さらに、当該同族株主のうち、経営者との連絡回数が年1回以下の者の割合が約56%、年2回以下の者の割合が約78%という結果となった。