専門家責任(岡田)2

専門家責任はどこまで拡がる?−裁判官が想像する税理士の責任

◆1)税理士が脱税者に損害賠償

 税理士は、「脱税相談等を行うことを禁止され(税理士法36条)、税理士業務を行うに当たって、委嘱者が税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装している事実があることを知ったときなどは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない公法上の義務を負っている(同法41条の3)」(平成14年12月6日判決、前橋地方裁判所)。

 これが、税理士の脱税幇助を指弾する刑事事件の判決理由だとしたら、いかにもの文章です。しかし、実はそうではなく、脱税をした原告・委嘱者に重加算税などが課された責任は、被告・税理士にもあるとして、損害賠償を命じた民事事件の判決理由なのです。

では一体、賠償責任を負うべき如何なるミスを税理士が犯したと、裁判所は認定したのでしょうか。

◆2)重加算税の危険を説明しなかったミス

 所得税の確定申告を委嘱した原告は、帳簿類の提示を拒否、前年分と同様の申告をするよう要請した。税理士は、経費の合計額のみを推計で記載する方法の申告を提案したがこれも拒否され、やむなく、原告の指示通りに、原告から提示された前年度の申告書の控えに記載された数額を基に、原告が説明する項目ごとの増減率を参考にして、確定申告書の各項目の金額を記載する方法で申告書を作成、税務署に提出した。その後も同様の方法で申告書を提出したが、「強制調査」の結果、4年間分の所得税・消費税の脱税額について、重加算税・延滞税2100万円余が賦課された。税理士は、脱税には重加算税が課されるということを、委嘱者に説明していなかった。

これが、裁判所の認定した事実です。ここでは、税理士の主張がほぼ認められています。また、脱税は税理士の指示によるものとの原告の主張は、全面的に否定されています。にもかかわらず税理士に過失があると結論したわけを、冒頭に紹介した理由に加え、判決は、こう述べています。

 「(脱税には)重加算税などの賦課決定を招く危険性があることを十分に理解させ、依頼者が法令の不知などによって損害を被ることのないように配慮する義務がある」が、「その危険があることを何ら説明しないまま、原告の指示どおりに確定申告手続を行ったというのであるから、(その危険を)十分に説明し、指導していれば、原告らが本件のような不適法な申告を行うことはなかったと認められる」

◆3)裁判官の想像の中での専門家責任

 裁判所は、原告に脱税の意図があったと認め、損害額の9割を原告の過失によるものとし、これを賠償額から減額しました。税理士が説明義務を怠った債務不履行による損害は、1割だというわけです。しかし、その説明義務の履行があれば、原告が「不適法な申告を行うことはなかったと認められる」との証拠は、何も示されていません。原告の無理な依頼に応じた税理士の過失は明らかとしても、それを委嘱者に対する過失とする根拠は、薄弱です。裁判官の想像の中で、税理士の専門家責任は、どこまで拡がっていくのでしょうか。

taxMLグループ (税理士 担当 岡田 豊)