デット・エクイティ・スワップ(DES)とは、その名の通り、債務を持ち分(資本)に振り替えることを意味します。つまり、わかり易く言えば「債権の現物出資」です。
ここ最近は不良債権処理の手段として用いられるケースが多かったようです。例えば大手ゼネコンが採用したDESは、会社に対する債権の一部を放棄(貸倒損失として処理)し、残りの債権を現物出資して株式を取得するという手法です。これは将来、企業が再生し、株価が上昇した場合にはキャピタルゲインによって当初の貸倒損失が補てんできるというスキームで、専ら大企業の再建策として利用されています。
今回は、中小企業のオーナーにとって、DESがどのような効果をもたらすのか、相続税対策の観点から考えてみることにします。
中小企業の場合は、大企業と異なり、会社とオーナーとが密接な関係にあるため、会社の資金が不足した場合はオーナーが個人的な資金を貸し付けているケースがしばしば見受けられます。このようなケースでオーナーに相続が発生すると、会社に対する貸付金はその全額がオーナーの相続財産になってしまいます。回収の見込みの少ない債権だったとしても、相続税の財産評価は債権額を基礎としてなされますから、相続人にとっては税負担だけが重くのしかかってきます。
では、このような相続税課税を避けるためにはどうしたらよいでしょうか。これについては、相続が開始する前にオーナーが会社に対する債権を放棄してしまう方法が考えられます。しかし、この方法では、法人側に債務免除益が計上されてしまいますので、5年内の繰越欠損金がなければ実行できません。
そこで、このような場合にDESを活用することによって問題が解決できます。オーナーの同族会社に対する債権を現物出資してしまうのです。これによって債権を出資金(株式)に変えてしまえば、出資金の評価額は、債権の券面額に対して大幅に減額します。仮に、DESの実行後においても会社の債務超過の状態に変化がなければ、株式の評価額はゼロです。
DESは債権の現物出資であり、資本取引であることから、法人側での課税問題は生じさせません。このことは、いったんは現金を出資し、その現金で債務を返済するとの手法が採られた場合と比較すれば明らかです。債務を弁済するための増資を否定する理由はありません。そして、これがDESとして実行された場合なら現金を準備する必要がありません。
増資手続が必要なことや、増資によって地方税の均等割税額を増やしてしまうことに注意する必要がありますが、今年4月1日から施行された改正商法が、現物出資について、弁護士、公認会計士、税理士等の証明があれば検査役の選任を不要としたことなどもあり、今後、DESは、中小企業オーナーの節税対策として積極的に活用されることになりそうです。
taxMLグループ(税理士 岡野 訓)