税務上の自己株式の取り扱いの疑問点


◆1)自己株式の無償取得及び消却の税務上の取り扱い

 自己株式を無償で取得した場合は、取得した発行法人には時価相当額の受贈益が計上され、贈与した株主にはみなし譲渡課税がされます。そして、発行法人が当該株式を消却した場合は、自己株式の帳簿価額(受贈益)は資本積立金の減少とされますので、損益には影響がないというのがの税務上の取り扱いです。

◆2)1人株主の会社における無償取得及び消却

 資産が1000万円、資本金が1000万円という会社について、自己株式を発行済株式の半分ずつ3度に分けて無償取得し、3回に分けて消却した場合を想定してみます。税務上の取り扱いですと、3回とも発行会社については受贈益課税がなされ、株主にはみなし譲渡課税がされることになります。つまり、次のような計算です(取得途中の税金は無視します)。

 当初の株式数を8株としますと、1回目の4株の無償取得では500万円の受贈益が計上され、その消却によって次の「1度目の取得」のような資産状態になります。株式数は消却により4株になっています。続けて2株の無償取得と消却で「2度目の取得」の資産状態になり、3度目の1株の無償取得と消却で、「3度目の取得」の資産状態になります。


  1度目の取得        2度目の取得       3度目の取得
 ─────┬────── ─────┬────── ─────┬──────
 資産 1000│資本金 1000 資産 1000│資本金 1000 資産 1000│資本金 1000
      │資積金 △500      │資積金△1000      │資積金△1500
      │利積金  500      │利積金 1000      │利積金 1500


 3回の自己株式の無償取得と消却にもかかわらず、発行会社の会計上の貸借対照表は、資産1000万円、資本金1000万円と何も変わらず、株主(1人)の発行会社の100%の株主という地位も変わりません。そして、その持株の価値(時価)も株式数の減少にもかかわらず1000万円のままで変わりません。

 しかし、税務上の原則通りの取り扱いに従いますと、発行会社には1500万円の受贈益課税がされ、株主は1500万円のみなし譲渡課税がされることになります。つまり、発行会社ではまったく資産の増加がないのに受贈益課税が行われ、株主は株式の財産価値に何の変動もないのに、みなし譲渡課税がされることになります。そして、1人株主という極端な事例で説明しましたが、これは複数の株主が同率で実行する場合も同じ結論です。

◆3)無償取得による損益取引も、消却時は資本等取引

 株式発行法人も株主も、何も経済的利益がないのに課税されることになるとの税務上の取り扱いは、無償取得による損益取引を、消却時には資本等取引としたことが原因です。そのため、無償取得と消却を続ける限り、繰り返し受贈益課税がなされ、それは理論上純資産額を超えることも可能との矛盾が生じました。これが自己株式の税務上の取り扱いの疑問点です。  
        taxmlグループ (税理士・公認会計士 荻野芳夫)