公示逃れ(田中)

長者番付公示逃れのスキームとこれに伴うリスク

◆1)所得税公示逃れのスキーム

 恒例の5月16日、所得税の高額納税者、いわゆる長者番付が夕刊紙面を賑わしました。

 先日、国税局職員が管内の高額納税者に公示逃れの「裏ワザ」をアドバイスしていたというニュースがありました。そのスキームは、(1)確定申告期限の3月15日までに過少申告する、(2)同日までに本来の税額をすべて納付する、(3)4月1日に本来の所得で修正申告するというものです。これは、公示の対象が3月31日までの申告分に限定されている(所規106)ことの裏をかいたものです。

◆2)附帯税の課税関係

 過少申告加算税は、修正申告が「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないとき」は課税されません(国通法65)。本来の所得で修正申告する4月1日までは、税務署において期限内申告書の整理がつかず、調査の実施が難しいという現実もあります。

 一方の延滞税は、3月15日までに本来の税額を完納することにより回避可能であると思えますが、そう単純ではありません。期限内申告書の税額を超えて納付した金員は修正申告日(4月1日)に納税額に充当されます(国通法57,国通令23)が、4月1日までの17日分について、過誤納金には還付加算金は付されない(国通法58)のに対し、納付不足を理由として延滞税は課されてしまうからです(国通法60)。

◆3)最近の判決から学ぶリスクの負担

 公示逃れのスキームを実行したところ、過少申告加算税が課税され、裁判で争われた事例を紹介します。共有不動産の譲渡所得を除外して申告した事案ですが、他の共有者が公示対象を3月15日申告分までと誤解し、3月25日に修正申告書を提出してしまったため、原告の過少申告の事実が課税当局に知れてしまいました。その結果、3月28日に調査官が原告に電話連絡を入れるところとなり、その後の4月24日に修正申告書が提出されました。

 課税当局は、修正申告前に調査に着手したため「調査による更正の予知あり」と主張しました。しかし裁判所は、「更正の予知がある」と言いうるためには、「調査なければ修正申告なし」との相当因果関係を必要とし、1)原告が当初から修正申告をする意図(動機)を持っていたこと、2)共有者の所得申告によって申告漏れが明らかになるのは確実な状況であったこと、3)確定申告前から税理士事務所で本来の所得による申告書の草案を作成していることなどから、調査がなくとも原告が修正申告をしたことは明らかであると判断して、過少申告加算税の賦課決定処分を取り消しました(鳥取地裁平成13年3月27日判決)。そしてこれは、広島高裁松江支部平成14年9月27日判決でも維持されました。

 公示逃れの過少申告が違法であることは指摘するまでもありません。ところが、ここで二つの情報が出てきました。一つは課税庁の職員自身がアドバイスしたテクニックであり、もう一つは過少申告加算税の賦課を否定した判決です。専門家として、この二つの情報をどのように位置付けるべきか、昭和25年に導入された公示制度のあり方とともに、改めて深く検討してみる必要がありそうです。

                 taxMLグループ (税理士 田中良幸)