嘆願申請も税理士の責任

更正期間が経過した後の嘆願申請も税理士の責任

◆1)嘆願書の提出も税理士の責任

 税理士が、過年度の過大申告の事実を発見したときは、職権による減額更正が可能な5年の期間内に嘆願書を提出するよう納税者に助言する義務がある。このように判断し、嘆願書の提出によって還付が受けられたと推定される金額について、税理士の賠償義務を認めた判決が前橋地裁(平成14年6月12日判決)で言い渡されました。

 税理士は嘆願が認められるとは限らないと反論しましたが、裁判所は、「職権による減額更正につき税務当局に裁量が認められるとしても、このことは税務当局が更正決定を常に義務付けられるものではないことを意味するに止まるから……税務当局により更正決定がされたであろう蓋然性を認定しうる場合における因果関係の存否の判断を左右するものではない」と判断して税理士の反論を排斥しました。

◆2)減額更正処分は15日間で可能

 この判決は東京高裁(平成15年2月27日判決)でも維持されています。税理士はさらに追加して、申告期限から5年を経過する同年6月30日までに税務当局が職権による更正処分をすることは日数的に不可能と主張しましたが、判決は、「売却損の存在を知ったのが平成8年6月15日ころである……ワラント債の売却損の認定と更正の決定は比較的容易であって、この認定判断はそれほど時日を要するものではない」から、税務当局が6月30日までの15日で更正処分を行うことも不可能ではなかったと判断しました。

◆3)どのような場合に嘆願が認められるのか

 さて、どのような場合に嘆願が認められるのでしょうか。これをメーリングリストに質問したところ多数の事例が集まりましたので、その一例を紹介します。

 (1)遺産分割が未了の場合には、相続税の法定申告期限から3年を経過する日の翌日から1ヶ月以内に税務署長に事情届を提出する必要があるが、この期間を徒過してしまった。これについて嘆願による救済が認められた。

 (2)医療費控除の適用を失念して所得税を申告していたことに気が付いた。5年分の嘆願書を提出したところ、3年分についての減額が認められた。

 (3)申告期限延長法人について消費税の申告書の提出を失念してしまった。嘆願書を提出したところ無申告加算税が免除された。なお、納税は期限内に行っている。

 (4)消費税の簡易課税制度選択届出書が提出されていないことを提出期限の翌日に気が付いた。直ちに嘆願書と共に簡易課税制度選択届出書を提出することによって救済された。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 実務は常識で運用されていますので、税務署は小さなミスについては寛容だというのが嘆願事例を一覧しての感想です。しかし、裁判所の判断は異なります。税務訴訟の手続では更正の請求期間を徒過した嘆願は全く考慮されません。その裁判所が、嘆願をアドバイスしなかった税理士の責任を認定する。これは、まさに矛盾としか言いようのない実務と判決の違いです。

           taxMLグループ(弁護士・公認会計士 関根 稔)