収益還元評価(江崎)

土地について収益還元価額を採用した判決

◆1)土地の評価について収益還元価額を認めた判決

 借地権を設定している土地、あるいは貸家が建築されている土地の評価は、借地権割合を利用して計算するのが相続税申告の基本です。ところが、この基本を否定し、収益還元価額を採用した判決が紹介されました。東京地裁平成15年2月26日判決です。

 判決は、「土地の収益性に着目してその価値を算定する収益還元法は、その算定に著しい困難性や不合理性がない限りにおいて、できる限り斟酌されるのが相当である」と判示し、「土地の価格算定に際しては、取引事例比較法による比準価格と収益還元法による収益価格を単純平均して求めるのが相当である」としました。この判決は国側の控訴がなく確定しています。

◆2)借地権付分譲マンションの底地の評価

 借地権付分譲マンションの敷地の評価についても、路線価に基づく評価が不適当であるとして、収益還元価額を採用した裁決(平成9年12月11日)があります。区分所有者が84名のマンションで、敷地権の登記がされており、土地賃貸借契約書によれば、賃借人は賃貸人の承諾を得ずに敷地の全部又は一部の賃借権を譲渡、転貸することができると特約されています。

 課税庁は財産評価基本通達に基づく評価額を7億2500万円として更正処分を行い、納税者は収益還元法による鑑定評価額2億円を主張しました。このような事案について審判所は、借地権価額控除方式によつて評価することは不適当と判断して、更正処分の全部を取り消しました。

 この裁決で収益還元価額が認められた理由は、底地と借地権とが併合され、完全所有権が復活することは認め難い特別の事情があるというものです。この裁決は公表されていません。

◆3)借地権付分譲マンションについては裁判所も収益還元価額を採用

 これも公表されなかった裁決ですが、その後、訴訟になったために明らかになった同種の事案があります。借地権者が16名で、分譲マンションとしては小規模な事案でしたが、裁判所は、「収益還元法による価格2810万円を重視しつつ、借地権控除方式による価格1億8300万円を比較考量する等して本件土地の時価を3000万円と認定したことが合理性を欠くと認めることはできない」と収益還元価額を採用した裁決を追認しました。東京地裁平成11年3月30日判決ですが、裁判所が追認した価額は路線価方式による評価額を大きく下回る6分の1の価額でした。

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 借地権価額と底地価額を合計すると10割になるのが相続税評価の常識でした。しかし、審判所も、裁判所も、この常識を否定しています。

 さて、どのような事情があれば収益還元価額が採用できるのでしょうか。納税者が有利になるとの意味ではもろ手をあげて賛成できる判決ですが、相続税の申告を行う税理士の判断はますます難しいものになりそうです。

                 taxMLグループ(税理士 江崎一恵)