私募債の利用(杉山)

私募債の利用

◆1)私募債の種類と証券取引法

 中小企業の資金調達として私募債を発行する方法が注目されています。役員や従業員、取引先、金融機関などから社債発行によって資金を調達し、その見返りに社債利息を支払うというものです。そこで私募債発行の法規制や利用方法について検討してみます。なお、社債発行は株式会社に限ります。有限会社が発行する擬似的な私募債は、法律的にも税務上の扱いも金銭消費貸借契約になります。

 私募債は、(1)少人数私募債と、(2)プロ私募債に分かれます。どちらも、利害関係者が限られているため、有価証券届出書など厳格な開示義務がありません。

 (1)少人数私募債は、引受人が50名未満(6ヶ月通算)で、記名式、譲渡禁止、券面50枚未満、券面分割制限といった条件をクリアし、証券取引法上の「募集」に該当しない社債です。金額に制限はありませんが、1億円以上の発行の場合は、社債購入者に対し、有価証券届出書を発行していないこと、その社債に転売制限があることを告知しなければなりません。

 (2)プロ私募債は、金融機関などプロを対象に発行するのもので、プロ以外に譲渡することが禁止されているものです。プロ私募債の場合は有価証券届出書の提出は免除されますが、告知義務は残ります。

◆2)私募債の税務上の手続

 社債券を発行(必須ではありません)する場合は印紙税を納める必要があります。通常は、交付前に「印紙税税印押なつ請求書」と納税額、社債券を税務署に持参して押捺してもらいます。また、社債利息を支払うときには15%の所得税と5%の都道府県民税利子割を徴収し翌月10日までに納付しなくてはなりません。利子割の申告納入については「営業所等設置等届書」を都道府県税事務所に提出する必要があります。

◆3)私募債の利用方法と注意点

 私募債の利用目的には、主に、(1)節税目的と、(2)資金調達があります。

 (1)節税目的 …… オーナーや代表者から事業資金を借りた場合、これに利息を支払うのは当然といえますが、実際には利息を支払っている例はまれだと思います。貸付金に対する利息が雑所得となり総合課税されるのが一因です。これを社債利息という形にすれば、利子所得として20%源泉で課税関係が終了するので節税効果が高いといえます。ただ、利率が高すぎたり、資金需要がまったく説明できない場合は税務上トラブルになる可能性があります。

 (2)資金調達目的 …… 取引先や知人から資金を集めるときに私募債を使うことができます。発行者側からすると長期の安定資金が確保できるのでメリットは大きいのですが、引受サイドからすると元本の回収可能性に大きなリスクがあります。リスクについては貸付金となんら差はないのです。

 社債は取締役会の決議だけで簡単に発行でき、メリットも多いのですが、以上のようなことも十分検討しないと後で思わぬトラブルになる可能性があります。

            taxml(公認会計士・税理士 杉山 浩)