農地の相続(木村幹雄)

農地の相続 −納税猶予制度−

◆制度の趣旨と選択時の注意点

 相続税の納税猶予制度とは、農地等を相続した相続人が農業経営を続けることにより、相続税の納税が猶予され、一定の要件により免除されるという制度です。これによれば、通常の土地評価ではなく、「農業投資価格」という、低い評価額によって相続税が計算されることになっています。三大都市圏の特定市においては、平成3年の生産緑地法の改正の際に、市街地農地は、「宅地化する農地」か「生産緑地」かを選択しており、この特例は生産緑地を選択している場合のみ対象となっています。

 納税猶予の適用を受ける場合には、納税者本人はもちろんのこと、家族の協力を得て、20年間(納税猶予を受ける農地の中に生産緑地を含む場合は、終生となります。)農業を続けることができるか否かを判断することが必要です。また、専業農家はもちろんですが、会社員や自営業などとの兼業であってもこの特例を受けることができます。

◆適格者証明書

 家族で農業を行っている場合には、その農地を誰が相続して納税猶予を受けるのかを決める必要があります。納税猶予を受けようと希望する相続人は、農業委員会へ「適格者証明書」を申請することになります。申請時の提出書類は、農業委員会によって違いがありますが、一例としては、戸籍・除籍謄本、遺産分割協議書の写し、営農計画書、周辺の住宅地図となります。この特例を受けるには、期限内申告書に「適格者証明書」を添付することが必要となっています。そのため、農業委員会が開かれるのは月に1回程度であり、すぐには発行されないことが多いようですので、手続きは時間に余裕をもって行いたいものです。

◆20%判定と継続届出書

 納税猶予の対象となった農地を売却したり、転用を行う場合には、相続税の納税猶予が取り消され、利子税とともに納税猶予税額を納付しなければなりません。売却・転用した面積が20%を超えた場合には、すべての納税猶予税額を、また、20%以下の場合には、その農地等の価格に対応する部分の納税猶予税額を納付することになります。代替農地を取得するなど、納税猶予を継続する方法も考えられますが、将来、売却や転用の可能性がある農地については当初から納税猶予の対象としないということも検討すべきでしょう。

 納税猶予を行う場合、相続税額及び利子税の額に相当する担保提供が必要となります(一部担保)。また、特例農地の全部を担保とする「全部担保」を行うことにより、「一部担保」の場合に必要な3年ごとの継続届出書が不要となります(都市営農農地等を有している場合には必要です。)。実務的には税務署が提出時期に対象となる納税者へ用紙を送付しているようですが、自ら注意して提出を忘れないようにすることが必要です。そのため特例農地が調整区域の農地だけの場合には、継続届出書の提出忘れを気にする必要がないため、「全部担保」としておくと良いのではないでしょうか。

                taxMLグループ(税理士 木村幹雄)