倒産と会社分割(荻野)

★会社更生・民事再生と営業譲渡・会社分割

◆会社更生・民事再生とM&A

 会社更生・民事再生において、優良部門だけを買収したいスポンサーによく使われるM&Aの手法に営業譲渡があります。この目的を達成するため、営業譲渡ではなく、会社分割を利用する方法を検討してみます。

◆会社更生・民事再生における会社分割の利用実態

 会社更生においては、会社分割が平成12年の商法改正に合わせ、会社更生法の中に取り入れられたため、その活用が容易なのに対し、民事再生では取り入れられなかったため商法の規定を遵守せざるを得ず、1)債権者保護手続の手順を踏む必要があり、2)分割会社が債務超過のままでは分割ができないため債務超過を分割前に解消する必要がある等、実務的に難しい問題がいくつか残されています。

 さらに、会社更生では公開会社がスポンサーになる可能性もあり、キャッシュの代わりに株式を交付する形の会社分割も現実性がありますが、スポンサーも債権者も中小企業であることが多い民事再生では、債権者がキャッシュでの弁済を要求することが多く、会社分割が使いづらいという面があります。

 そのこともあってか、民事再生での会社分割の利用実績はまだほとんど無いようです。しかし、優良部門だけを承継会社へ移し、その後、承継会社の株式をスポンサーに売却して弁済資金を確保する方法は効率的ですし、さらには、株式自体を債権者に配当する方法も、これが民事再生法において可能なのか検討する必要があります。

◆倒産手続中のM&の手法としての会社分割

 会社更生・民事再生におけるM&Aのための会社分割には、営業譲渡と比較して、さまざまな優位点があります。

 最初に、営業譲渡では、スポンサーは、譲受資金としてのキャッシュを用意する必要があるのに対し、会社分割では株式の交付によることができますので、それが不要であり、さらに金庫株を保有している場合はその利用も可能です。

 次に、営業譲渡では譲渡対象部門の従業員は、譲渡会社を退職し、再度譲受会社に入社する必要があるのに対し、会社分割では分割に伴う労働契約の承継に関して労働者と協議し、分割計画書等に記載することにより、一旦退職するとの手続が不要となります。これは、退職金の支給が必要か否かという、資金上の大きな問題です。

 さらに、営業譲渡では、譲渡対象部門の権利義務を承継しないため、行政官庁による許認可等を譲受会社が再度取得する必要があるのに対し、会社分割では承継会社は分割会社の権利義務を承継するため(商法374条の10)、原則としてその必要はありません(ただし、例外があります)。

 会社更生においても民事再生においても、営業譲渡と会社分割の違いを正確に理解し、会社分割という新しい制度の積極的な利用を考えるのが、専門家としての課題だと言えます。

           taxMLグループ(公認会計士・税理士 荻野芳夫)