相続時精算課税(関根)

弁護士から見た相続時精算課税制度

◆ 相続時精算課税制度の民事法的な利用法

 相続税対策としては利用価値が少なく、逆に、贈与財産の値下がり、あるいは相続時の連帯納税義務など、リスクが大きいと評価されている相続時精算課税制度ですが、弁護士が扱う事案については、無限の利用価値があるように思えます。今回は、相続税の課税問題とは異なる視点での相続時精算課税制度の利用法を紹介してみます。

◆ 生前の遺産分割としての相続時精算課税制度

 相続問題の対策としては遺言書の作成が基本ですが、遺言書は被相続人の死亡後に効力が生じますので、相続人(子)に対し、被相続人(親)の意思が素直に伝わらないことがあります。しかし、相続時精算課税制度を利用し、生前に財産を贈与してしまう方法なら、親が子に対して、財産の配分の趣旨を直接に説明することが可能ですので、相続後のトラブルを防止することが可能です。

 ただ、全ての財産を生前贈与してしまうのは、小規模宅地の評価減の特例が適用されないなどの不利益がありますし、また、贈与者のその後の生活などを考えると不安が残ります。その場合は、例えば、長男以外の他の推定相続人に対して相続時精算課税制度での贈与を行い、同時に、遺留分を放棄してもらう方法もあります。

◆ 債権者対策としての相続時精算課税制度

 上場会社の取締役は株主代表訴訟の被告予備軍ですし、中小企業の社長は企業倒産の予備軍です。そこで、取締役に就任した場合、または会社経営について不安を感じた場合は、居宅あるいはその他の財産を、相続時精算課税制度を利用して贈与しておくことを考えてみる必要があります。

 ただし、注意を要するのが詐害行為取消権(民法424条)と強制執行妨害罪(刑法96条の2)です。株主代表訴訟が提起され、あるいは会社の倒産が不可避になった段階での贈与は、これらの条文に該当してしまう可能性があります。債権者対策としての相続時精算課税制度は、ゆとりを持って行う必要があるのです。

 相続時精算課税制度は相続直前にも利用できます。仮に、資産2億円で、債務が3億円の相続であれば、相続開始前に資産2億円を子供達に贈与してしまう。そして子供達は相続を放棄する。この場合も、詐害行為取消権などのリスクがありますが、相続後の債権者との話し合いの糸口を作ることが可能です。


 民法上の処理で、財産を移動する必要がある場合でも、贈与税が問題になり、実行できないことがありました。相続時精算課税制度は、親子間の財産の移動に限りますが、これを自由に行えるようにしました。養子縁組を組合せ、さらには住宅取得資金の贈与(措置法第70条の3)を組み合わせれば65歳以上という贈与者の年齢制限も外すことが可能です。今後の民事事案の処理では相続時精算課税制度の知識は不可欠です。

              taxmlグループ(弁護士 関根 稔)