今年の税制改正で「同族会社の留保金課税停止措置」が新設され、平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間に開始する各事業年度において留保金課税が停止されることになりました。その主な要件は、1)青色申告書を提出する同族会社で事業年度終了時の資本又は出資の金額が1億円以下であること、2)自己資本比率が50%以下であることです。ただし、この自己資本比率は、「前事業年度終了時の自己資本の金額÷前事業年度終了時の総資産の額」で求めることとされ、その判定時期が前事業年度末となっていることに注意しておく必要があります。
なお、自己資本比率の判定時期が前事業年度末とされたため、新設法人の設立初年度においては当該停止措置の恩恵を享受できないことになりますが、新設法人でも所定の要件を満たす同族会社であれば、設立の日以後10年を経過する日を含む事業年度までは留保金課税の適用が停止される制度が別途措置されていますので、こちらの制度を活用することで救済されると思われます。ただし、適用期限が平成16年3月31日までに開始する事業年度となっている点に注意しておいて下さい。
さて、新設された停止措置を受けるにあたっては自己資本比率を50%以下にする必要がありますから、そのためにはできるだけ分子を小さくし、或いは分母を大きくすることがポイントになります。
まず、分子の自己資本の額は「資本の金額(出資金額)+資本積立金額+利益積立金額」で求めますが、利子の支払の基因となる同族株主等に対する負債がある場合には、これを加算しなければならない点が要注意です。つまり、オーナー社長からの借入金や社債などは自己資本の一部とみなして加算するわけです。もっとも、借入先や引受先は同族株主等とされていますから、株主でない同族関係者等からの借入金や社債を含める必要はなく、また同族株主等に対する負債であっても利子の支払いの基因とならないもの、たとえば未払役員報酬などは自己資本の額に加算する必要はありません。
一方、分母の総資産の額は原則として確定決算に基づく帳簿価額によることとされていますが、自己株式を資本の部の控除項目としている場合には、当該自己株式の金額を加算した金額を総資産の帳簿価額とすることができますので、この方法によって分母を大きくすることが得策といえるでしょう。
留保金課税の停止措置は、同族会社の負担を軽減するという点では福音といえます。しかし、自己資本比率が50%以下の場合にのみ適用するという数値基準を導入したことにより、この基準を形式的にクリアするために行われる不要不急の銀行借入金等の取り扱いをめぐっては実務家として気になるところです。また、仄聞するところによりますと、留保金課税の停止措置を失念して納税者に過重な負担を強いた結果、税理士職業賠償責任保険の適用を受ける事例が急増しているとのことですので、日常業務の中でミスのないように十分に気を付けたいものです。
taxMLグループ(公認会計士・税理士 光田周史)