LLC 菅野

 

匿名組合等の税制の行方(LLCと損失規制を検討しながら)


◆ 匿名組合等を利用した節税商品が販売されるのは


 日本において匿名組合や任意組合を利用した節税商品が販売されています。なぜ匿名組合等を利用するかというと、匿名組合等を利用することにより出資者が負う事業リスクが少なく、匿名組合等で生じた損失を出資者の他の所得と損益通算できるからです。


 アメリカにおいても株式会社以外の事業体を利用した節税商品が作られ、課税当局は租税回避行為封じのための法規制を次々と作りました。今回は日本での導入が検討されているLLCという事業体のアメリカでの課税のしくみと損失規制を検討して、今後の匿名組合等の税制の行方を考えます。


◆ LLCとは


 LLC(有限責任会社)は、法人ではないのですが、独自に法律行為ができ、出資者は全員有限責任のアメリカの事業体です。日本でいうと株式会社と組合の中間的な事業体です。LLCの課税については法人段階の課税と出資者段階課税を選択することができます。出資者段階課税を選択した場合、LLCの所得、損失は、契約に定められた割合(原則は持分割合)に基づいて出資者に配分されることになります。このように出資者が負う事業リスクは少なく、税務上損失は取り込めることからLLCは、節税商品として利用されました。


◆ 損失が生じた場合の制限規定


 しかしアメリカの課税庁は、租税回避行為を防止するために出資者が取り込める損失を制限する規定をいくつか作りました。以下において代表的な3つの規制を説明します。


 第1の規制は、損失は原則として税務上の出資金額を限度とするものです。税務上の出資金額は、出資だけでなくLLCが借入を行った場合も増加します。これはLLCの借入は出資者が金融機関等から借入れ、LLCに出資すると考えるからです。たとえばLLCに2億円出資し、LLCが5億円借入れた場合出資金額は7億円となります。もし損失が10億円生じた場合、当期に損失として出資者が取り込める金額は7億円が限度となります。


 第2の規制は、一定の事業活動から生じた損失の金額については、出資者が負担したリスクの範囲に限り損失として控除することができるというものです。たとえば上記のうち3億円の借入がノンリコースローンの場合、出資者は返済義務を負わないので、出資者が取り込める損失は4億円が限度となります。


 第3の規制は、賃貸所得等の金額の計算上生じた損失の金額は、出資者の同種類の所得としか損益通算できないというものです。たとえば上記LLCの損失が賃貸活動によるものであり、出資者の他の所得が3億円で、そのうち1億円が賃貸所得の場合、損失として取り込める金額は1億円が限度となります。


 これら3つの制限によって取り込めなかった損失は、原則として損失が取り込める状況になるまで無期限に繰り越すことができます。なお、第2、第3の規制は、出資者が個人及び一定の閉鎖会社等について適用されますが、出資者が公開会社の場合は適用されません。


 さて、日本においても、従前の所得計算方法に追加し、組合課税という新たな所得計算方法を採用し、匿名組合等について大幅な課税の見直しを行うことが検討されています。将来の課税の行方を考える場合、アメリカの制度の検討は有益ではないかと考えます。


(taxmlグループ 税理士 菅野真美)