同族判定の変遷(弦弓)

 法人税と相続税で異なる同族判定

◆1)商法改正に伴う同族判定基準の改正

 自己株式の取得の解禁と単元株制度の創設(平成13年10月施行)、種類株式の多様化(平成14年4月施行)との商法の改正を受け、法人税法と財産評価基本通達の改正が行われました。

 法人税法上は、同族会社か否かの判定は、従前と同じく持株割合で行われますが、財産評価基本通達188(同族株主以外が取得した株式)等における同族株主の判定は議決権の割合で行うことになります。

 なぜ法人税と相続税において同族判定の基準が異なることになってしまったのでしょうか。

◆2)改正の内容

 法人税において同族会社を区別する理由の一つは、法人税率と配当所得との税率差を理由とした留保金課税の問題です。したがって、配当金支払いの基準になる株式数を判定基準にするのが妥当だと思われます。

 これに対し、相続税では、会社支配力によって株式の価額が異なるものとして評価方法が分類されています。このことから財産評価基本通達による分類に議決権割合が判定基準として採用されたと考えることができます。

 従来は、企業の支配力は持株割合に比例しましたが、商法改正によって、持株割合と支配力は比例しないことになりました。これが改正の理由と思われます。

 このため、配当請求権がなく、議決権も有さない自己株式は、法人税と財産評価基本通達の持株割合の計算において分母と分子から除かれます。

 さらに、相続税の同族株主の判定では、会社(仮にA社)が他の会社(B社)の議決権の4分の1を超える株式を所有している場合は、B社が所有するA社の株式も議決権割合の計算から除かれます(商法241条)。

 種類株式である議決権制限株式は、一部の議案についてでも議決権がある場合は議決権の数に含まれます。また、普通株式への転換や償還が予定されている種類株式などは、実際に課税時期には転換や償還が為されていない場合でも、転換がされたとみなして判定するケースがあると解説されています。

 単元株制度を採用している場合は、単元株を基準にして議決権割合を計算します(商法241条)。例えば発行済株式数が1000株で、オーナーが300株、少数株主が700株を所有しているケースを想定しますと、1)少数株主が保有している株式が無議決権株式である場合は議決権割合は100%になり、さらに、2)会社が単元株制度を採用し、オーナーの持株は1株が1単元で、他の株式は5株が1単元と定められている場合の議決権割合は68.1%(300単元株÷440単元株)になります。

◆3)同族判定の再確認を

 このように種類株式や単元株制度を採用する場合は、法人税上は非同族会社でありながら、そのオーナ一族は同族株主と判定されるケースがあります。相続税に限らず、株式の贈与や売買の際の税務上の価額の算定にも、この議決権割合による同族判定が用いられることから、不要な課税リスクを負わないためにも同族判定は慎重に行うことが必要です。

             taxMLグループ(公認会計士・税理士 弦弓貴徳)