移転価格税制(野田)

 海外進出企業は要注意−移転価格課税と国外関連者寄附金

◆1)海外進出と税務リスク

 経済のグローバル化により、中小企業においても中国や東南アジア諸国への海外進出が盛んに行われるようになりました。このような海外経験の少ない中小企業が特に知っておきたいのが、海外子会社等との取引について適用される、1)取引価格を操作することによる所得移転を防ぐために設けられた移転価格課税と、2)国外関連者に対する寄附金です。

 両者は、その否認された全額が、日本法人の課税所得の計算で損金不算入とされる点では同じです。しかし、移転価格課税については、取引相手国の課税所得を減額するという租税条約の救済措置を受けることができるという点が大きく異なります。

◆2)海外子会社等との取引で否認されないために

 中小企業において、国外関連者寄附金として否認の事例が多いのは、役務の提供取引です。役務の提供取引は、経営指導、管理活動、工業所有権の利用、技術支援等が典型的なもので、実態のない役務の提供の対価が支払われた場合と、低廉な対価で役務の提供を行った場合等に否認されています。海外進出を行った企業は、子会社の資金繰りの要請や、日本に比べて低い税率のメリットを享受し、子会社の所得が大きくなるように、このような取引を行いがちです。

 役務提供取引を行う場合には、移転価格課税や国外関連者寄附金として否認されないために、まず、そのような否認のリスクがあることを認識し、役務提供の契約や、その事実を示す資料を準備するなどの周到な事前準備を行うことが非常に重要です。

◆3)国外関連者寄附金で否認されないために

 課税の現場では、移転価格課税の問題が、国外関連者寄附金にすりかえられてしまうことがあります。これは、課税庁が、諸外国の課税関係が生じる煩雑な移転価格課税よりも、国外関連者寄附金による否認を好む傾向があるためだと思います。

 このような指摘を受けた場合には、その取引が有償取引であることと、取引価格の妥当性の問題であることを説明し、国外関連者寄附金ではなく、移転価格課税と認定してもらう必要があります。例えば、販売子会社に販売業務委託料の支払があり、その対価が過大だとして否認の指摘を受けた場合には、具体的な役務提供の内容と、その取引価格の算定根拠を説明し、移転価格課税の問題であると説明するのです。この説明によって移転価格課税とすることができれば、納税者は租税条約の救済措置を受けることができますし、課税庁は煩雑な移転価格課税を嫌って、積極的な否認を行わない可能性もあります。

 今回は、国外関連者寄附金として課税されないためのノウハウを紹介しましたが、移転価格課税の認定を主張する際には、台湾や香港などの租税条約が未締結の国や地域との取引では租税条約の救済措置が受けられないことと、移転価格課税の更正期限は3年ではなく6年であるということにも注意して下さい。

                   taxMLグループ(公認会計士 野田 幸嗣)