税理士賠償保険(末崎)

税理士のミスによる過少申告と税理士賠償保険

1) 税理士賠償保険の免責条項

 税理士のミスが原因で納税者が誤った申告をし税理士が納税者に損害賠償義務を負う場合、過大申告をしたときは税理士賠償保険で救済されるが、過少申告をしたときには救済されない、というのがこれまでの裁判例の大勢でした。

 税理士賠償保険の約款5条2項は、過少申告の場合に、修正申告等により納付すべきこととなる本税等の「本来納付すべき税額の全部もしくは一部」について、保険会社が保険金の支払を免責されると定めていますが、これまでの裁判例の大勢は、過少申告が税理士のミス(過失)によって生じた場合であってもこの免責条項が適用されると解してきました。

 このため、ミスに備えて加入した保険が、過少申告の場合にはミスが生じた肝心の時に役に立たないという、不合理な結果になっていました。

2)最近の最高裁判決2件

 しかし、最高裁判所が最近、過少申告の場合でも免責条項が適用されないとする判決を2件言い渡しました。《1》平成15年7月18日判決と、《2》同年9月9日判決です。

 《1》の事案は、消費税申告に際し、納税者が簡易課税制度を選択していたことの調査を税理士が怠り、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しないまま実額課税によって申告してしまったというものです。判決は、税理士の賠償すべき損害が簡易課税制度不適用届出書の提出を怠ったという「税理士の税制選択上の過誤により生じたものであるときには、依頼者に有利な一般の課税方法が適用されないことにより、形式的にみて過少申告があったとしても、特約条項の適用はないと解すべきである。」と判断しました。

 《2》の事案は、同じく消費税申告の事案で、免税事業者であった納税者について、税理士が課税事業者選択届の提出を怠ったまま仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付申告をしてしまい、還付が認められなかったというもので、過少申告と同様に扱われる過大還付の場合です。判決は、《1》の判決を引用して本件が「課税事業者選択届出書の提出を怠ったという税理士の税制選択上の過誤により生じた」過少申告であったとして、免責条項の適用を否定しました。

 このように、これら2つのケースについては「税理士の税制選択上の過誤により生じた」過少申告とされ、免責条項が適用されないという結論になりました。

3)安心は禁物?

 これらの最高裁判決により、過少申告であれば一律に保険金は支払われないとのこれまでの取扱いは否定されました。税理士賠償保険も以前よりは役に立つ保険になりそうです。

 しかし、上記2つのケース以外に「税制選択上の過誤により生じた」過少申告にどのようなケースが当たるかについて、今後も争いが生じることは避けられないと思われます。保険はあくまで万一のミス(リスク)に備えるためのものにすぎず、保険で救済されるからミスが許されるというものではないのですから、安心するのは禁物といえそうです。

                 taxMLグループ(弁護士 末崎 衛)