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不況の時代の相続(細貝)

 不況時代の相続(限定承認)

1 限定承認とは?

 昨今の不況の中、被相続人が多額の債務を負って亡くなるケースが増えてきています。このような場合、相続放棄によって相続人は被相続人の債務から逃れることができますが、被相続人に資産もある場合には、「限定承認」という手続をとることが考えられます(民法922条)。これは、相続放棄とは異なり相続人が被相続人の資産も負債も相続しながら、相続財産の限度で被相続人の債務を支払えばよいというもので、相続人にとっては一見便利な制度ですが、いくつか注意すべき点もあります。

 まず、限定承認も相続放棄と同じく、相続の開始を知ったときから原則3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述して行う必要がありますが(同924条)、相続放棄が個々の相続人ごとにできるのに対して、限定承認は相続人全員で申述をしなければなりません(同923条)。また、相続開始後、上記期間を経過したり、預金を引き下ろすなど相続財産に手を付けたなどの行為をすると単純承認をしたものとみなされて(同921条)、放棄や限定承認の余地が失われてしまうことも忘れてはなりません。

2 限定承認のメリット

 定義上明らかなメリットのほか、被相続人の債務超過が判明しているが相続人が欲しい遺産がある場合、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従いその価額を弁済することができ(同923条)、したがって、相続人に資産さえあれば遺産を他人に渡さずに済み、その結果、被相続人の事業を受け継ぎたいという場合に利用価値がある、などがあります

3 限定承認の問題点

 《1》民法上の問題 …… 公告(927条)、配当弁済(929条)、換価(932条)、相続財産管理人の選任(同936条)などの煩瑣な手続きがある。

 《2》税法上の問題 …… (a)限定承認によって実際の売却がなくとも時価で売却したとみなされて譲渡所得課税がなされる(所得税法59条)。(b)第三者への譲渡なら居住用資産の譲渡の場合の特別控除が適用される場合でも、限定承認によって売却したとみなされた場合には、被相続人から相続人への譲渡とみなされこの特例の適用がない。(c)限定承認をすると、準確定申告のための価額の査定などに時間を要することになるが、その場合でも準確定申告は延期されず、しかも、申告期限を守らなければ無申告加算税が課税されてしまう。

 《3》現実的問題 …… 不動産売却が不活発な昨今では、解決への長期化が懸念される。


 大きな利点のある限定承認ですが、譲渡所得課税が行われるなど上記のような問題点もあり、限定承認を選択するに際しては慎重な検討が必要です。

                 taxMLグループ(弁護士 細貝 巌)