押印のない申告(田中)

■押印のない相続税の申告書は有効か?

1)相続税は共同申告が一般的(6行)

 相続税の申告は、一般的に複数の相続人の連署によることになっており、委任を受けた相続人だけでなく、委任を受けていない者の氏名も書き込まざるを得ない申告書式が採用されています。もし、相続人の一部に押印のない申告書が提出された場合、それが、1)申告の意思があるものの押印が欠如しているだけなのか、2)申告の意思のない計算上の氏名の書き込みなのか、表面的には区別がつきません。

 この相続税独特の問題について、実務上の注意点を検討してみることにします。

2)署名と押印の意義と現場での対応(15行)

 法人税法は、代表者に対し申告書への自署押印を義務付けていますが、他の税目は、個別法に規定がないので、一般法である国税通則法124条(氏名の記載及び押印を規定)に従うことになります。

 記名押印は、その書類が真正に作成されたことを示す上で当然に要求されることから、通則法124条は確認的な規定ともいえます。記名がないとどの納税者の書類か判別できませんので論外ですが、押印漏れは過失によっても起こり得ます。

 申告書を受け付ける窓口(税務署総務課)においては、押印がない申告書の提出があった場合、その指摘をしてその場で押印を求めています。もし、印鑑の用意がない場合には、原則として収受しません。

 では、相続税申告書に記名のある相続人のうち一部の者だけが押印している場合は、どうでしょうか?単独申告を常とする法人税や所得税には起こり得ない問題ですが、これは、一部の者による押印があれば、総務課において収受しています。

 一部の者だけが押印している申告書について、資産税課が申告・無申告をどうやって区別するのかは、まずは押印の有無によります。また、税理士関与の場合なら、税務代理権限証書(税理士法30)や添付書面(税理士法33の2)なども判断材料になります。それ以外では、申告書記載どおりの納税があるか、押印のない相続人から別に申告書の提出があるか、なども参考にしています。

3)実務家も注意を(10行)

 相続人間でもめている相続事案では、税理士にとって誰を代理しているかは最重要事です。上記のとおり、税務当局では押印のない申告書について慎重な判断をしていますが、法人税法で押印の有無は申告の効力に影響を与えないとしている(法法151《4》)ことなどから考えると、委任を受けていない納税者の氏名を不用意に書き込むことには注意が必要と言えそうです。

 また、外国人の場合は署名押印に代えて署名をもって足りることとされています(外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律)ので、更なる注意が必要です。

 受任した相続人のみを記した税務代理権限証書等を添付することは当然ですが、1)代理していない相続人の申告書「氏名」欄を空欄にするかバツ印等で抹消する、2)事情説明書を添付するなどの方法を取ることが、実務家として積極的にリスクを回避する知恵と言えます。

               taxMLグループ (担当 税理士 田中良幸)