税法上、安全な適格組織再編について

■組織再編でためらわない

 組織再編には、合併や分割の他にも、現物出資や事後設立、株式交換等の形態があります。税制の適格要件を満たすかどうかの判定や、繰越欠損金の利用制限等の要件もあり、組織再編の実行を躊躇する場面も多いと思います。税法上、安全な適格組織再編を確認します。

■100%の完全支配関係の形成がポイント

 まずは、会社分割による100%子会社の設立と、現物出資による100%子会社の設立、そして100%の支配関係がある子会社への承継分割です。これらは、経済的にはいずれも同一で、親会社による完全支配関係が組織再編後も継続されます。

 100%支配の完全親子会社の合併についても、安全な適格組織再編となります。ただし、合併の場合ですと、50%超の資本関係(特定資本関係)がいつの時点で生じたか注意します。合併のあった事業年度の開始前5年以内に、特定資本関係が生じた場合ですと、合併当事者間の支配関係が生じた時点における共同事業要件を満たさなければ、繰越欠損金の控除や含み損を抱えた資産の譲渡損失の損金算入で制限を受ける可能性があるからです。この制限は被合併法人の繰越欠損金等ばかりでなく、合併法人の分についても受けてしまいます。たとえば、自社で完全子会社を設立しても、設立した子会社を5年以内に合併する場合では、合併前に生じた子会社の欠損金はおろか、自社の欠損金まで利用できなくなる危険があります。合併については、絶対に安全なのは、特定の資本関係が5年より前に生じた完全親子会社の合併です。

 株式交換、移転については、株式交換の前後にも100%の支配関係が維持される場合なら安心です。つまり、兄弟会社を、子孫会社にするような株式交換です。なお、交換や移転後も親会社・子会社の法人格が継続しますので、合併のように繰越欠損金の引継等の制限はありません。

 100%支配関係は、「同一の者」が100%を保有する場合と、一方の会社が他方を100%保有する場合に分けられます。「同一の者」の範囲は、法人株主か個人株主かで異なります。個人株主の場合ですと、株主本人とその同族関係者も含まれますので、この範囲内の株式移転については、「同一の者」が継続して株式を保有していることになります。しかし、法人株主の場合では、「同一の者」の範囲は株主となる会社一社だけです。親会社の下の兄弟会社間や子会社と孫会社間の合併のようなケースでは、継続保有が求められると考えられます。

 なお特殊なケースですが、それぞれの組織再編の後に、さらに合併などの組織再編を行うことが見込まれる場合は、別途、適格要件が加重されるので要注意です。

■中小企業の組織再編

 中小企業の場合ではグループ内の再編が多いのが現実です。100%の完全支配要件を整えてから実行すると安全です。合併当事者のいずれかに繰越欠損金等を抱えているようなら、特定資本関係が生じてから5年間経過しているかどうかもチェックします。

             (例:taxML 税理士 佐藤 増彦)