あえて非適格組織再編を行う場合
 

■非適格組織再編に税制上のメリットがある場合もある

 組織再編をするのに、常に適格組織再編が有利とは限りません。あえて非適格組織再編とする方が、有利な事例もあります。初めに、非適格組織再編の課税関係について整理します。

 組織再編は資産の時価譲渡を原則としますので、非適格組織再編に該当すると、移転資産に対して譲渡損益課税が行われます。また、合併と分割型分割の場合では、株主に対してみなし配当課税を受けますし、金銭等を交付するケースでは株式譲渡損益課税も受けることになります。非適格組織再編を指向するのは、これらの課税関係を利用してメリットが生じる場合です。

■非適格組織再編を意図するさまざまな理由

 税法上のメリットという観点から、その利用法を検討してみます。

 まずは、資産の含み損を実現するケースです。含み損があれば、それを実現して節税を図れます。つまり、所有資産を譲渡したのと同様の課税関係になるのですが、譲渡の場合と異なり、合併や分割の手法を採用すれば登録免許税や不動産取得税について税務上のメリットを受けられるケースが多いですし、さらに譲渡資産についての消費税負担を考慮する必要もありません。

 次に、繰越欠損金の利用について非適格組織再編の方が有利なケースです。特定資本関係の発生から5年以内の合併で、みなし共同事業要件を満たさない場合については、これが適格合併になると、被合併法人の青色欠損金ばかりでなく合併法人の青色欠損金についても利用制限を受けてしまいます。このような場合に、あえて非適格合併を選択すれば、合併存続会社の繰越欠損金について利用制限を受けることはありません。

 また、組織再編成という手法ではなく、解散、あるいは自己株式の買い取りという手法も考えられます。仮に100%子会社と合併する場合であれば、合併に先立って子会社を解散させたり、あるいは子会社による自己株式の買取りが有利になる場合があります。親会社については配当所得が益金不算入ですし、子会社株式の譲渡損も計上できるからです。

 非適格組織再編とする簡単な手法は、現金交付です。会社法では、旧商法と異なり組織再編時に株主に株式以外の資産を交付する、いわゆる対価の柔軟化を認めました。また、法人税法では適格再編となるための共通要件として株式の交付を求めていますので、金銭等を交付する組織再編は適格要件を外すことにつながります。組織再編はそもそも非適格が原則です。はじめから非適格を狙う場合ですと、節税のみを目的とする例外を除いては、「時価」が適切に算定されていれば何らリスクがないと考えられます。

■再編手法も柔軟に

 組織再編について税法上のメリットを享受するためには、適格組織再編ばかりでなく、あえて非適格組織再編を選択する手法、事業譲渡、自己株式の買取り、さらには解散スキームなど、多様な処理方法を比較検討する必要がありそうです。
組織再編成に必要なのは、適格要件についての詳細な知識ばかりではなく、柔軟な思考なのかも知れません。
             (例:taxML 税理士 佐藤 増彦)