私自身のためのメモです。
私が読んで良いと思った本 ☆
さらにお勧めの本 ★
平成20年の記録
89
医師がすすめるウオーキング
泉嗣彦
集英社新書
2008/12/31
一冊の全部について、歩くことが健康に良いことを解説しています。
人間ドックの医師になり、病気ではないが、このまま放置しておくと病気になる人達が大量に存在することに気がついた。
その人達の健康法がウオーキングだと。
いま、私自身は散歩から帰ってきました。
目白駅から江戸川橋、護国寺、東池袋、池袋、そして目白。
アルベルトを連れ、1時間30分程度のコース。
私達の仕事は、健康を維持することが、依頼者に対する義務です。
そして、散歩は、脳を覚醒させる効果があります。
それも、私達の依頼者に対する義務。
さすが年末です。
何時も、ごしゃっと人が溢れている池袋前が閑散としていた。
175頁
それまでより多く歩く生活になると、無理に食事の量を減らさなくても、エネルギー消費量が増えるので、自然に体重はおちていきます。運動量が増える分、筋肉が付いてくるので、食事制限によるダイエットほど減量の効果は劇的ではありません。その代わり、ウオーキングによって落ちた体重にはリバウンドが少ないという特徴があります。
88
仮装儀礼(上下)
篠田節子
新潮社
2008/12/24
職を失った主人公は、宗教を起ち上げて自分が教祖になることにした。
さて、教祖は、承知の上で嘘をついているのだろうか。
あるいは、本当に、それを信じ込んでいるのだろうか。
私は、「承知の上で嘘をついている」という事実を、実感として経験したことがあります。
まだ、読み途中なので、主人公は、最後に、どのような結末を準備してくるのか、楽しみです。
篠田節子さんの作品ではカノンとイビスがお薦め。
P76
平然とこんな説教を垂れ、悦に入っている自分をもう一人の自分が冷ややかに見下ろしているのを、正彦は戦楳とともに意識した。
物や権利を盗むでもなければ、人を傷つけるでもない。むしろ善行と言えなくもない。しかし自分は、決してやってはいけないことをしている。
罪悪感ではない。畏れだった。
こんなことをしていると、いつか本物の神様のバチが当たる。
しかし本物の神様など、どこにいるのだろう?
自覚している詐欺師か、無自覚な狂人のいずれかが開き、企画運営能力のある人間が組織化したものが既成の大宗教ではないのか・・・・・・。
徳岡雅子は合掌を解いた。
87
怒りの心理学
怒りとうまくつきあうための理論と方法
湯川進太カ
有斐閣
2008/12/22
怒りというのは、やっかいな感情です。
なぜ、怒りという感情が存在するのか。
怒りは、どのような場合に感じるのか。
怒りを、どのように制御すれば良いのか。
なるほど、人類の進化の過程で消滅せずに承継された資質なのだから、人間にとって必要な資質なのだろうと指摘されれば、それも納得です。
たぶん、怒りは、人格(価値観)そのものなのだと思います。
自分の価値観は、自分にも把握しきれていないところがあります。
その価値観を気がつかせてくれるのが怒りの感情。
だから、怒りを感じたときこそ、自分自身を発見するチャンスと捉えれば、怒りも、捨てたものではありません。
さらに、怒りは、怒りを与えた者に対する反撃行動についての事前のセンサーでもある。
怒りを、センサーからのメッセージと捉えれば、反撃に繋がる過剰反応を防ぐことができるかもしれません。
P88
怒りはネガティブな感情であり、一般にはあまり感じたくないもの、良くないものとしてとらえられがちです。加えて、心身の健康に悪影響を及ぼすとなれば、さらに怒りの悪い面が際立つことになるでしょう。しかし、怒りは、本当に悪い面しかないのでしょうか。怒りが人間にとってまったく不必要なものであれば、進化の過程でなくなってしまっても良かったのではないでしょうか。
湯川教授は
村田製作所のサイエンストークにゲストとして出演しています。
86
奇跡のリンゴ
「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録
石川 拓治
幻冬舎
2008/12/19
無農薬でリンゴを育てた農業家の記録です。
リンゴは、農薬が開発されてから改良され、農薬とは切り離せないひ弱な樹木なのだそうです。
その常識に挑戦し、9年間の努力の末にリンゴが白い花を咲かせた。
美味しい林檎で、なかなか手に入らないそうです。
P177
考えてみればよ、カマドケシだ、バカだと、周囲から白い目で見られたのも事実だけれど、そういう時でも味方をしてくれる人はいたのな。
私が電気代とか水道代が払えないときにこっそり払ってくれていた友達もいたし、スクラップ屋の人もそのうち代金を取らないようになったの。『これ持ってけ』って、程度のいいエンジンとかを取っておいてくれたりな。
お金を借りていた銀行の支店長も、利息だけでも払おうと思って私がお金をかき集めて行っても受け取らないことがあった。『それ払ってしまったら生活費がなくなるだろう』って言ってな。
税務署にも赤紙は貼られたけどな、課長さんは『いつかあんたの時代が来るから』って、ずっと励ましてくれていたしな。
リンゴがなるようになってからは、隣の畑の持ち主が、私の畑との境にある自分のリンゴの木を全部切り倒してしまったんだよ。この人は、私にリンゴの花が咲いたことを教えてくれた竹谷銀三さんの息子の誠さんなんだけど、「木村さんの畑に自分の撒いた農薬が少しでもかかったら、無農薬が台無しになる」って言ってな。
地元のフランス料理店のシェフ、山ア隆さんが私の畑に来てさ、少しでもリンゴが売れるようにって、私のリンゴを使った料理を考えてくれたりな。
いろんな人が支えになってくれたから、私もなんとかかんとかやって来られたんだよな。リンゴがならなかったときは、とてもそんなことまで考える余裕はなかったんだけどな、少しずついろんなことが上手くいくようになって、だんだんそういうことがわかるようになった。
リンゴの木が、リンゴの木だけでは生きられないようにな、人間もさ、一人で生きているわけではない。私もな、自分独りで苦労しているようなつもりでいたけどよ、周りで支えてくれる人がいなかったら、とてもここまではやって来られなかった。木村の家のお袋も親父も、リンゴがなるようになってから間もなく亡くなりました。『まさかここまでやるとは思わなかった。二、三年で諦めると思ってた』って、親父は笑っていたけどさ。ほんとに、苦労のかけ通しであったからな。
85
心をつかめ!コンサルタント ★★
本郷尚
住宅新報社
2008/12/19
仕事は楽しむ。
それがコンサルタントや、弁護士、税理士などのアドバイス産業の真髄です。
では、どうやって仕事を楽しむか。
それは、自分自身の成長を楽しむこと。
徒然草に登場する3人の良い友の一人は「知恵ある友」です。
知識を出し惜しみせず、仕事から学び続ければ、自ずから良い友が集まってくる。
P124
【ノウハウは惜しまず提供する】
自分が得た情報、知識、体験を多くの人に伝えてください。方法はいろいろあります。
「自分のノウハウを公開したくない、自分だけのものにしておきたい」なんてケチな根性では一流にはなれません。
P142
【万人に認められようと思うな】
アンケートや世論調査でわかることは平均値です。参考にはしますが、私は平均値に頼りません。
特に新しいことを創造するときは、平均値を気にする必要はありません。
一部の人に支持されればいいのです。
P143
【創造的破壊を恐れるな】
クリエイティブな生き方はかっこいいですが、大変です。
自ら過去や現在を破壊して、未知のフィールドに進む覚悟が必要になります。
P146
【経験の量より質で差が開く】
ベテランは経験豊富と言いますが、経験の量より、中身と質が大事です。
どんな仕事に、どのような姿勢で取り組んだかによって、その後の成長が違ってきます。
P147
【成長する人、停滞する人】
もうひとつのタイプは、「なぜ?」「どうして?」と好奇心を持って、さっそく自分で見たり、聞いたり、体験します。
そして、そこから何かを感じとります。
ミーハーのように見えますが、このタイプの人は成長します。
P148
【「皆と同じ」で楽しいですか】
私は「皆と同じ」も嫌いです。「他の人とどこが違うか」が大事だと思っています。
だから、常に新しいことに挑戦しています。
刺激を受ける人と出会うと、震えるほどうれしくなります。
P149
【仕事の醍醐味は?】
仕事の報酬は、お金だけではありません。地位や名誉でもありません。
仕事の醍醐味は、なんといっても「自分が成長し続けられること」です。
P150
【飛躍と進化には「変革」が必要】
飛躍するには、仕事を「変革」するしかありません。
今までのやり方、今までの仕事を捨てることも考えながら、まったく新しい視点で仕事に取り組みます。
P152
【成功体験を捨てる】
成長し続けるには、成功体験を何度も壊し、捨て去っていかなければなりません。
過去の成功体験にあぐらをかいて、ワンパターンの仕事を続けているようでは、プロとしては三流です。
世の中は、どんどん変化しています。
変化のスピードは加速しています。
過去の成功体験で生きていけるほど甘くはありません。
P155
【成長に年齢は関係ない】
この歳になっても毎年変化し、成長します。毎日新しい発見と出会いがあり、喜んだり、失敗したり、勉強することがたくさんあるのですから、当然です。
素直に、真面目に、前向きに生きていけば、何歳になっても確実に成長します。
人と競う必要はありませんが、切磋琢磨は必要です。
P156
【金銭欲、物欲、名誉欲より創造欲】
多くの人に支持され、本人も永続的に成長するには「創造欲」を持ち続けることです。
他人が困っていることをなんとか解決したい、そのために新しいことに挑戦していくのが「創造欲」です。
P163
【「報酬の高い安いは問題ではない」】
上場企業のトップが言いました。
「プロに仕事を依頼するときは、報酬の高い安いはまったく問題ではない。
報酬の差など、せいぜい何割かでしょう。
たとえ2倍、3倍の差があっても、結果や成果が数十倍違うことはザラですからね」
P179
【抵抗勢力を「敵」と見なさない】
反対者を敵視してはいけません。
悩み多き人なのです。受け入れて、丁寧に対応していくうちに信頼してくれます。
すべてがうまくいくわけではありませんが、相手を理解して問題をひとつひとつ解決していきましょう。
84
サルでもできる弁護士業
西田研志
幻冬舎
2008/12/18
過払い金返還訴訟を大量に処理している弁護士の書です。
サラ金破産とか、過払い金返還訴訟は、私は担当していないので、猿にでもできる仕事か否かは知りませんが。
たぶん、指摘の7割は間違っているのでしょうが、しかし、3割は当たっているのではないか。
訴訟制度は、法律家の勘違いの上に成り立っている不合理で、矛盾に満ちた制度。弁護士は、自分達が優秀だと思っているが為に、自分達が行っていることが完全に間違っていることに気が付いていないだけの制度なのだ。
P111
そこで私が考えたのが、分業と事件を大量処理することができるシステムの構築である。「非弁疑惑」のところでも述べたように、弁護士がやらなくてもいい事務処理の多くをパラリーガルに担当してもらい、完全分業化したのだ。これによって、弁護士の負担は軽減されるから、そのぶんの時間とエネルギーを別の顧客に向けることができる。
また、さまざまな事件のパターンを分析し、「どういったケースなら、どんな結論に落ち着くか」そして「その方向にもっていくためには、どんな要件が必要なのか」と分類する。その流れにパラリーガルと弁護士の分業体制をすりあわせていったのだ。これが、弁護業務のマニュアル化の骨子である。そうすれば、必要事項を聞き取るだけで、あとは流れに乗せて順次処理していけるのである。
P155
パターン化、マニュアル化の果ては、頭のよいサルならできるのだ、弁護士業務なんて。
P156
この結果を総括すれば、法務も税務も弁護士や税理士がわざと難しく見せているにすぎないといえる。簡単で明解なものをわざわざもって回った言い方をすることで難解に見せ、自分たちのフィールドを守っているだけなのだ。私は、そんな彼らの化けの皮をはがしたい。誰にでもわかるようにシンプルにすれば、弁護士など、誰にでもできるのだ。これが「サルでもできる」と言い放ったゆえんだ。
83
起きていることはすべて正しい
勝間和代
ダイヤモンド社
2008/12/18
その人の現状は、正しく、その人の個性と能力を示している。
なぜなら、現状に至るまでの数万件の三択に答えてきた結果が、その人の現状を作り上げているのですから。
いま持っている預金残も、いま担当している仕事も、全て、三択の選択の結果としての現状です。
そのように私は思っているのですが。
著者は、さらに積極的に、いま起きていることを否定したり、こうだったらいいなと夢想しても仕方がない。それよりは起きていることから、何を学び取り、どのように行動すれば、いま一瞬のこの時間を最大に活用できるかと考える精神論として位置づけている。現実を受け入れ、そこから未来を作り出す積極的な精神論です。
たぶん、これは女性の視点なのだろう。
だから、私には分からないのだ。
男は、働ける環境が確保されているし、働くのが当たり前。
そこに選択の余地はなく、選択の必要もない。
しかし、女性は、入り口の段階での選択がある。
その選択の幅が許されていること自体が、ある意味で苦労ですが。
P325
最後になりますが、こういった幸運を呼び込む力は、決して「勝間和代だけができた」「勝間和代だからできた」のではありません。ほんのちょっとした考え方の違い、習慣の違いであり、また、技術の違いで誰もができることだと確信しています。
どうやって、「起きていることはすべて正しい」と正面から事実を受け止め、潜在意識を活用し、即断即決し、自分の経験として蓄積し、そして周囲と調和しながら社会に貢献できる道を探していくのか、この繰り返しが私たちのメンタル筋力を強くし、不幸に遭遇したときの瞬発力を高め、幸運に、実力にと変化させていくのです。
いま、この本を読んでいただいているのも、まさしく、「起きていることはすべて正しい」
のです。
82
新版注釈民法(22)
親族(2)離婚
有斐閣
2008/12/17
注釈民法は、増刷せず、売り切れたら終わりなんて噂を聞きました。
で、所得税の財産分与通達って、最高裁判決を受けて造られたのですか。
最高裁判決より前から存在したのだと思いますが。
だからこそ、第一線で課税され、それが訴訟になったのですから。
P247
最高裁昭和50年5月27日判決(民集29・5・641)が、…… 不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。
これを受けて出された通達(所得税法基本通達33−1の4)により、財産分与に関する譲渡所得税の課税が明確にされた。
81
調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚 ☆
佐藤雅美
学陽書房
2008/12/16
篤姫の時代、なぜ、徳川は大政奉還する必要があったのか。
これは別の書籍で学ぶとして。
篤姫の時代、なぜ、薩摩は徳川に勝てたのか。
これを上記の書籍で学習中です。
で、江戸末期の職業別人口構成は次の通り。
これから見れば、五公五民、四公六民は、やっぱ、嘘なのだと思う。
5割の米を農民から取り上げても、5%の武士と10%(?)の商人では、米を食べきれない。
あの当時、米を輸出していたわけではありませんので。
日本の族籍別人口表(明治12年)
平民 94.79%
士族 5.19%
貴族 0.01%
計 100.00%
P174
平野屋ら新組銀主にとって8万両は、薩摩藩という法人(表)ではなく、島津家という個人(奥)に貸しつけたという形にしておかなければならなかった。法人(藩)は責任の所在が曖昧である。相手が個人(島津家)なら、よしんばとりっぱぐれても、責任の所在だけははっきりしている。
P175
といって島津家そのものが貧乏していたのではなんにもならない。島津家にはどんどん稼いで、太っていただかなければならない。そこで産物売却による現金収入を奥、島津家へ移管し、移管するということを朱印状に明記していただきたい、と平野屋・出雲屋は要求した。
P214
「はい。わかりやすく申しあげましょう。小判6枚、6両と、丁銀・豆板銀が64匁、1両分あれば、ほぼ同品位の二朱金がおよそ96個、12両分できます。もとは7両です。5両の儲けになります」
P239
予測がついていたこととはいえ、二人は顔を見合わせてうなった。借金は江戸、国元の分もあわせて、500万両に達していた。事実上の棄捐を発した文化10年の借金は126万両余だった。22年でおよそ370余万両もふやしていた。いきあたりばったり、でたらめに借りまくった結果だ。
P244
用意万端ととのえ、調所は債主を藩邸に招いていった。
「拝借した金子は250年払いでお返しいたす。利息は本日よりお支払いいたさぬ」
古銀主、鴻池屋などはもうとっくにあきらめている。別に驚きもしない。
「ああそうですか」
すずしい顔をして帰っていった。
おさまらなかったのは中小の両替屋を中心とする新銀主である。250年賦というと踏み倒しも同然。
「そんなあほな」
「むちゃくちゃや」
P247
なお薩摩藩では律義にも、およそ35年、廃藩置県で藩が消滅する明治4年まで、250年賦の返済をつづけた。
P330
しかし、ここが歴史の皮肉なところなのだが、もし調所が薩摩77万石を立て直さなかったら、いかに斉彬といえども手も足もでなかった。参勤交代もままならなかったし、駕籠舁きがいず、朔望の登城さえ欠かすことが多かったのである。かき分けて家督を継ごうなどという気はおこさなかったろう。よしんば家督を継いでも、目先の貧乏との戦いに追いまくられていたろう。
80
できそこないの男たち
福岡伸一
光文社新書
2008/12/16
男は、テストロンからは自由になれないそうです。
P19
私は結局、以降、3年間ほどアメリカで恥の多い暮らしをした。3年アメリカにいれば3歳児程度には話せるようになるって?否。ネイティブの3歳児は私などよりずっとたくみに言葉を操る。きっと、第一言語が流れ込む脳の場所は決まっているのだ。そしてそれがひとたびその領域を占めるともう融通がきかない。あとから来たものは先住言語と同居することができないのだ。
P205
そしてテストステロンこそは、SRY遺伝子の最も忠実なしもべなのである。先に記したように、受精後6週目に、男性となるべき受精卵に運び込まれたY染色体上のSRY遺伝子が活性化され、一連のカスケードが動き出す。男性を象徴する器官が作り出される。その中心に睾丸の形成がある。そして、睾丸からは大量のテストステロンが、このあと受精24週目まで放出されつづける。テストステロンは筋肉、骨格、体毛、あるいは脳に男性特有の変化をもたらす。胎児は全身にこのテストステロンのシャワーを浴びて初めて男になるのだ。
テストステロンの分泌はその後、いったん休止する。思春期を迎えると男性の睾丸から再び、大量のテストステロンが放出され、男の子の身体に第二次性徴をもたらす。テストステロンはその後も高い値を維持し、加齢とともにゆっくりと減少していく。
つまり、男性はその生涯のほとんどにわたってその全身を高濃度のテストステロンにさらされ続けることになる。これが男を男たらしめる源である。とはいえ、同時にテストステロンは免疫系を傷つけ続けている可能性があるのだ。
なんという両刃の剣の上を、男は歩かされているのだろうか。
79
弁護士白書
2008年版
日本弁護士連合会
2008/12/16
平均値よりも、モード値(最頻値)が気になります。
弁護士人口の将来予測からすれば弁護士貧困下は避けられません。
さて、平均値は役に立ちませんので、80%ラインを考えてみれば次の具合です。
弁護士の収入(東京) 5000万円
弁護士の所得(東京) 2500万円
92頁
弁護士人口の将来予測
平成20年 2万5158人
平成30年 4万8440人
平成40年 7万2425人
平成50年 9万6093人
弁護士の取り扱い事件数(東京)
10件未満 21%
20件未満 20%
30件未満 19%
40件未満 13%
193頁
弁護士の収入(東京)
1000万円未満 22.1%
2000万円未満 19.6%
3000万円未満 13.0%
4000万円未満 10.1%
5000万円未満 4.7%
6000万円未満 3.4%
……
無回答 13.9%
194頁
弁護士の所得(東京)
500万円未満 19.7%
1000万円未満 18.7%
1500万円未満 14.8%
2000万円未満 8.4%
2500万円未満 6.9%
3000万円未満 3.3%
3500万円未満 2.6%
……
無回答 15.4%
78
ヒューマンエラーを防ぐ知恵 ミスはなくなるか
中田亨
化学同人
2008/12/15
ジェイコム株の誤発注について、エラーメッセージが不完全だと解説しています。
英文の一行のメッセーだけだとする指摘です。
私が仕事で使っている自作ソフトは、相手方に対する文書については3度のメッセージが出ます。
つまりは、この指摘に対する対策は5年前から実行済みです。
【1】相手方に対する文書です。間違いありませんね。
【2】もう一度確認します。相手方に対する文書です。本当によろしいのですね。
【3】3度目の確認です。宛名、内容とも、相手方に対する書面ですね。宛名のミスは取り返しがつきません。
書籍は、faxについても、大部の分量を使って説明しています。
私の事務所は、私が了承しない限り、faxは使用禁止です。
faxを利用する場合は、文中に、固有名詞は書きません。
資料をfaxする場合は固有名詞を黒いテープでマスクをします。
つまりは、この指摘に対する対策は5年前から実行済みです。
P17
では、コンピュータの警告はどのようなものだったのでしょうか。事故のあと、別の会社のシステムが出す警告が新聞で紹介されていました。コンピュータ画面にウィンドウがポンと浮かびあがり、「Quantitiy,Warning Level 3」という文字が表示されていました。翻訳すれば、「量、第三レベル警告」となります。なぜこのように短い言葉で、しかも英語だけですませているのでしょうか。
P128
古くから、職人は自分のつくった製品に銘を入れてきました。これも、作業者を識別させるものですから、社会化策の一端です。自分の製品の性能と安全に責任をもつ決意の表れです。銘を入れる習慣は、大量生産時代になりいったん衰えました。しかし、最近は安全への決意表明として、作業者の名前を見せることが再興しています。スーパーマーケットの野菜売り場を見てみると、野菜生産者の名前・顔写真・ウェブページまで紹介されています。
自分の名前が入る仕事はていねいになる。
77
あの4億円脱税主婦が語るFXの奥義
池辺雪子
扶桑社
2008/12/15
FXで脱税した主婦が、FXを開始した当初から、脱税、さらにFXの奥義を語っています。
税金を納めたのだと思いますが、納めることができたのだから凄いと思います。
63頁
04年から06年にFXで得た利益は4億4000万円
所得税 1億3900万円
延滞税 3600万円
重加算税 8000万円
住民税 3000万円
罰金 3400万円
合計 3億1900万円
76
落語家はなぜ噺かを忘れないのか
柳家花録
角川新書
2008/12/15
柳家小さんの孫が落語を語っています。
この頃、私は、副業は講師という生活なので、読んでいて、なるほどと思うところが何点
か出てきます。
笑いを取ったらダメ。
間が重要。
自分の言葉で語る。
ウケる為の言葉遊びになったらダメ。
私の場合なら、法律や税法の理屈の面白さで笑わせるのであり、言葉で笑わせたらダメ。さらには笑いを取る必要はないし、まして、笑いを取ろうとしていることを悟られるようでは、さらにダメ。要するに、語る中身を、いかに、受講者に理解して貰えるよう努力するかの熱意です。
税法の理屈は、税法の理屈というだけで面白い。
その面白さを分かって貰うためには、言葉遊びではなく、税法の理屈を分かりやすく語ることが必要。
P56
おまえはウケさせようと思って演ってるのか?
だったら別に落語じゃなくてもいいじゃねえか。
聞いててもまったく景色が見えてこねェ。
P83
【1】表面を被っているのは、人物描写に徹する姿。お客さんに見せている部分。
【2】内部には「【1】」を支える技術への意識がある。間、らしさ、緩急など。
【3】中心の層、つまり意識の奥の部分には、やっぱり「ウケたい」という純粋な気持ちがある。プレーヤーの本音の部分であり、かっこよくウケたいと思っている。
この【1】〜【3】の順番が変わってしまうとバランスが悪い。【3】が一番表面に出てしまうと、私の演った『明烏』みたいなもんで、笑わせようという気持ちが前面に出すぎて落語の面白さのバランスが崩れる。【2】が一番表面に出すぎても、したり顔で技術ばっかりが目だって、お客さんを見下しているようになる。だから、この【1】〜【3】のバランスがいいときが、落語という芸はもっとも力を発揮するんじゃないかと思うんです。
P111
落語の場合、もし「面白くない」と言われたときは、その落語家が否定されたことになります。やっている噺は古典なのですから、ネタが面白くないわけじゃあない。やっている落語家が面白くないということです。これが技量があるかないかの問題なんですね。
P117
祖父が生前、テレビのインタビューでこんなことを言っていました。
「芸は上り坂のときが一番いい」
もしかしたら、祖父は79歳でまだ上り坂だったのでしょうか。
75
ぼくには数字が風景に見える ☆☆★
ダニエル・タメット
講談社
2008/12/11
アスペルガー症候群の著者が、自分の生い立ちを、内面から語った書です。
他人の内面的な思考って分かりません。
それを、アスペルガーの著者が語っている。
本人にとっては大変に扱い難い個性なのでしょうが、読者としてみると、非常に魅力的な個性なのがアスペルガーの人達です。
2004年、円周率の暗唱でヨーロッパ記録を樹立、それをきっかけに制作されたTVドキュメンタリー「ブレインマン」は40ヵ国以上で放送された。
P118
確率の問題は、直感ではうまく答えが導き出せない。たとえば、こういう問題がある。
「ふたりの子どもを持つ女性がいる。そのうちのひとりは女の子である。もうひとりの子どもが女の子である確率は?」
この場合の答えは、2分の1ではなく、3分の1。なぜなら、すでにこの女性には女の子がいるわけだから、男の子がふたりになることはありえない。したがって、可能性としては、BG(男の子と女の子)、とGB(女の子と男の子)、GG(女の子と女の子)になる。
P128
それからは、自分の部屋の床に座り、チェス盤を睨んでひとりで遊ぶようになった。チェスをしているときにぼくの邪魔をしてはいけないことが家族にはわかっていた。ひとりでチェスをしていると、その揺るぎないルールに従って駒が規定の動きをすることに心が慰められた。16歳のときに十八手詰めのプロブレムを考え、図書館で借りて読んでいる雑誌に送った。すると驚いたことに、数ヵ月後に最優秀作として採用されて雑誌に載った。両親は誇りに思い、そのページを額に入れてぼくの部屋の壁に飾った。
1995年の始めに、ぼくは16歳の生徒が受ける中等教育修了一般試験を受け、歴史で最高の成績A’を獲った。英語と英文学、フランス語とドイツ語ではA、理科はB、工作はCだった。予備試験では数学の成績はAだったが、最終試験ではBがついた。代数が苦手だったからだ。共感覚と感情を引き起こす数字を、感情のまったくない文字に代用して計算する方程式がうまく解けなかった。それで、学力検定上級試験(Aレベル)[大学入試に必要な上級試験]を数学で受けるのはやめ、歴史とフランス語とドイツ語で受けることにした。
P130
男性ホルモンが急激に増えたせいで、まわりにいる人たちへの見方、感じかたも変わった。これまでぼくには感情というものが理解できなかった。ところがいきなり、いろいろな感情がどこからともなく内側に表れてきたのだ。
P157
リトアニア語を習いはじめてから数日後には、ビルテに手伝ってもらいながら文章を組み立てることができた。そして、何週間も経たないうちにリトアニア人と難なくやりとりできるようになって、ビルテを驚かせた。これは、できるだけリトアニア語でぼくに話しかけてほしいと同僚たちに頼んだおかげだと思う。
P234
キムはもう一度ぼくの手をしっかりと握りしめた。ぼくのすぐ近くに立ってぼくの目のなかを覗きこみながら「いつか、きみはぼくのようなすごい人になるよ」と言った。これまでぼくが聞いたなかで最高のほめ言葉だった。
P236
イギリスに帰ると、この番組最大の難関が控えていた。ぼくが一週間のあいだに新しい言語をゼロの状態から覚えていくというもので、それを逐一カメラにおさめるのだ。取材スタッフは、新しい言語をどれにするかということを何ヵ月もかけて調べ、結局アイスランド語にすることにした。
ただ、インタビュアーがどんな質問をしてくるのかまったく予想できなかった。15分間ほど、ぼくは大勢の観衆の前で、ふたりの司会者とすべてアイスランド語で話をした。カメラの前で、たった一週間前にはまったく知らなかった言語で話をするというのは不思議な体験だった。
P243
そして、とても不思議に思った。ぼくの能力は以前とまったく変わっていないのに、子どものころや思春期にはその能力のせいで同級生たちから疎まれ、孤立を深めたが、大人になってからはその能力のおかげで人とのつながりや新しい友人ができたのだ。ぼくにとっては驚異的な数ヵ月だったが、それはまだ終わらなかった。
74
生物と無生物のあいだ ☆
福岡伸一
講談社現代書房
2008/12/09
何時の時点で生物が物になるのか。
ハードであるパソコンが、なぜ、ソフトに成る得るのかさえ分からないぼんくら頭ですから、理解できるのか否か。
難しかった。
最後ま命とは何かは分からなかった。
しかし、生物は物理原則なのだということは分かった。
生物も物理原則であることは考えてみれば当然ですが。
P38
ウイルスを生物とするか無生物とするかは長らく論争の的であった。いまだに決着していないといってもよい。それはとりもなおさず生命とは何かを定義する論争でもあるからだ。本稿の目的もまたそこにある。生物と無生物のあいだには一体どのような界面があるのだろうか。私はそれを今一度、定義しなおしてみたい。
P144
しかし私は、現存する生物の特性、特に形態の特徴のすべてに進化論的原理、つまり自然淘汰の結果、ランダムな変異が選抜されたと考えることは、生命の多様性をあまりに単純化する思考であり、大いなる危惧を感じる。
むしろ、生物の形態形成には、一定の物理的な枠組み、物理的な制約があり、それにしたがって構築された必然の結果と考えたほうがよい局面がたくさんあると思える。分節もその例である。
P147
しかしこのことはあくまでも問題の本質の前提でしかない。生命は、物理学的な枠組みの中に自らをしたがわせつつも、単に、その熱運動に身をゆだねているわけではなく、そこから複雑な秩序を生み出しているのである。その秩序のありようが貝殻を小石から峻別しているのだ。しかも生きている貝は、成長に応じてその貝殻の文様をも拡大できるのである。つまりその秩序は動的なものなのだ。
152頁以降の関根の要約
村田製作所のサイエンストークで福岡伸一教授が語ってます。これを聴いて、さらに深めた理解の要約です。
食物として取り込まれたタンパク質は、消化によってアミノ酸に分解され、身体に取り込まれる。そして身体の中にあったタンパク質と入れ替わる。
タンパク質は、栄養として蓄積されるのではなく、アミノ酸に分解された上で身体中のタンパク質と入れ替わり、元々存在したタンパク質は排出される。そのように動物の身体は、日々、細胞の構成物であるタンパク質を入れ換えて生存している。そのような流れの中に存在するのが生物なのだ。
心臓と大脳の細胞は分裂しないのだが、細胞の中身は、ものすごい速度で入れ替わっている。細胞によってスピードは異なるが、仮に、舌の上のタンパク質は数時間で入れ替わる。
ジグソーパズルのピースは入れ替わっているが、全体の絵柄は変わらないのと同様で、細胞の中身が入れ替わっても、細胞の姿は変わらない。時間の経過に従って、全ての物は壊れていく方向にある。エントロピー増大の法則だが、それに対抗する為に、先回りして、壊し、作り替えている。
それが人間が80年も生きられる理由。同じ細胞だとしたら3年も持たないはず。しかし、何時かは、エントロピー増大の法則に追い越される。動物がタンパク質を採取するのは、細胞のタンパク質の中身を入れ換えるためであり、その回転を止めないため。カロリーが必要だから食べ物を食べているのではなく、動的な回転を止めないために食べている。
P162
よく私たちはしばしば知人と久闊を叙するとき、「お変わりありませんね」などと挨拶を交わすが、半年、あるいは一年ほど会わずにいれば、分子のレベルでは我々はすっかり入れ替わっていて、お変わりありまくりなのである。かつてあなたの一部であった原子や分子はもうすでにあなたの内部には存在しない。
P165
ならば脳細胞のDNAはまったく不変で、ヒトが生まれてから死ぬまで、同一の原子で構成されたまま不動なのだろうか。そうではない。脳細胞はまさに波打ち際に立つ砂の城だ。その内部では常に分子と原子の交換がある。脳細胞のDNAを構成する原子は、むしろ増殖する細胞のDNAよりも高い頻度で、常に部分的な分解と修復がなされている。生まれてから死ぬまでに、城はずっと分子が出入りする流れの中にあって、すっかりリナベートされるのである。
73
エンゼルバンク
三田紀房
講談社
2008/12/07
ドラゴン桜の作家が書いた転職アドバイザーについての漫画です。
面白い。
この漫画家には読者を引きつけるセンスがあります。
10点のアイデアを、3点で説明する人もいるし、9点で説明できる人達もいる。
この作者は、ちゃんと9点で説明する。
これって、私達のような依頼者の納得を得る必要がある職業にも必要なセンスです。
2巻
ある社長がコンサルタントに相談した。
何か、手短なアドバイスはないかと。
すると彼は答えた。
毎朝、その日に片付けなけれならない仕事を書き出しましょう。
書き出した仕事を毎日やり遂げて下さい。
社長は、このアドバイスに対して幾ら支払えばよいと訊いた。
1ヶ月やってみて下さい。
それで貴方が払う価値があると思った分だけ頂ければ結構です。
その後、コンサルタントに送られてきた小切手は2万5000ドルだった。
2巻
井野さん、良い代理人てどういう人かわかる。
それはできる限り顧客の希望を叶えられるような……
全然違う。顧客の意表を衝ける人……
相手の意見を無視して大胆に提案できる人。
2巻
経営者ってね、きちんと怒れる人じゃないとダメなんだ。
世の中ね、意外にきちんと怒れる人は少ないんだ。
72
警視庁捜査一課刑事
飯田裕久
朝日新聞出版
2008/12/05
査察事案について、税理士さんが相談に来た。
検察に呼ばれるのかという質問について、あちら側は、全ての事項について裏付けを取りますから、当然、呼ばれますと答えたのですが。
しかし、どこまで裏付けを取るのだろう。
完璧に取るのですね。
犯人が乗ったタクシーの裏付けまで。
P336
ここでひとつの問題が浮上した。
それは、ホシは犯行後タクシーに乗り、途中、三河島に寄ってから新宿まで逃げた、その時、運賃は払わず逃げてしまった、という供述の裏付けが、どうしても取れなかったのだ。
当初、「無賃乗車なら被害届が出ているはず」と、タカをくくっていたが、ルート上にある、どこの警察にも被害届は出されておらず、特捜本部の前に意外な壁が立ちはだかってしまった。
前足、つまり犯行場所に赴いたという具体的な裏付けと、犯行を行い、その場からどうやって逃げたかという後足との双方を克明に証さなければ、裏付けの要件は満たされない。
その後足、つまり、タクシーの裏付けで壁にぶつかってしまったのだ。
今の時代、どの車がいつ、どこを通行したかは、ある程度、把握することができる。
しかし、それは万能ではない。少なくとも、ホシが言う逃走ルートに引っかかるタクシーは捜査線上には浮上してこなかった。
こうなれば、闇雲に動き回ってでもタクシーを見つけ出すしか手だてはなかったが、東京で稼働するタクシーは6万台である。
71
やる気のスイッチ
山崎 拓巳
サンクチュアリ出版
2008/12/05
人との出会い
知識との出会い
カネ儲けとの出会い
異性との出会い
カモとの出会い
など、人によって、一番に嬉しい出会いは違うのだと、最近、気が付いた。
私たちは専門職なので、知識との出会いを喜ぶ。
優秀な人達とのオシャレな会話には知的発見があります。
だから、優秀な人達との出会いを喜ぶ。
P97
人にはエネルギーの高低があるからだ。
エネルギーは水と同じように、高いところから低いところへ流れる。
成功している人たちは、そのエネルギーが有限なのを知っている。
だからエネルギーの低い人が、新たに加わってくることを嫌うだろう。
大事なのは、あなたがどれだけ集団にエネルギーを与えられるかだ。
頼ろうとするのではなく、役に立とうとすること。
70
論語の読み方
山本七平
祥伝社
2008/12/03
山本七平氏が論語を論じることが面白い。
なぜ、論語かと問われれば、西洋の聖書は、東洋の論語だそうです。
聖書を読むことによって論語はよりよく理解される。
また、逆に、聖書だけでは聖書は完全に読むことはできないのではないでしょうか。
言われてみれば、そのように思いますが。
しかし、その境地にたどり着けるだろうか。
P23
なぜ日本は先進工業国の中で、さまざまな伝統的規範が、今なお強固に存続しえているのだろうか。法律が峻厳だからであろうか。けっしてそうではない。第一、法律は告訴があってはじめて機能するものであり、それへの知識は確かに無法行為への抑止力にはなりうるであろうが、現実問題として、日本人ぐらい「法律」に無関心、無縁な国民も珍しい。
アメリカなら、現実は、かかりつけの法律家なしに生活できないくらい法が各人の生活に密着しているが、日本人なら大多数の人間は、伝統的な規範に従っていればそれで安全だと信じ込んでおり、一生、弁護士などと関係なく過ごすのが平均的日本人だからである。
P105
有益な友に三種がある。損をかける友に三種がある。率直で正直な友、誠実で表裏なき友、博学多識の友は有益な友。体裁屋で実のない友、にこにこして人あたりがよいが信実でない友、口先だけが達者な者は損をかける友である。
69
プレジデント名言録200選
秋庭道博
プレジデント社
2008/12/03
200個の中から印象に残る言葉を拾ってみました。
P16
自分の座標軸を持って判断し、その判断に対して責任を持つべきだと思います
内永ゆか子(NPO法人J−Win理事長)
P41
15分で無理な話は所詮、1時間やっても無理でしょう
宮内義彦(オリックス会長)
P45
公益法人は官僚の最後の楽園です
若林亜紀(フリージャーナリスト)
P48
読書によって得られるのは、知識だけではない
石村賢一(Eストアー代表取締役)
P55
3時間でできる仕事に10時間もかけている理由は何か
上田準二(ファミリーマート社長)
P95
必ず儲かる話は儲かりません
小幡績(慶鷹義塾大学助教授)
P106
唯一後悔しているのは、もっと早く今の職場に入って勉強しなかったことです
須藤剛(グローバルダイニング)
一般的にいって、学歴がないと、組織のなかでの地位が上がりにくいものです。
とくに、これまでの社会では、そういうことがありました。ですから、就職する前も就職してからも、学歴のないことを悩んでいる人は、少なからず存在しました。
しかし、学歴があるからとか、資格があるからといって、それだけで仕事ができるものではありません。変化の激しい時代には、学歴とか資格という既成概念に邪魔されて、自由な発想や行動を躊躇することになったりすることもあるのです。
「全力を尽くせる職場こそが『最高学府』なのだ」というのは、須藤剛氏の言葉ですが、毎日を、全力で、現実の問題解決にあたることによって、その人は、社会において「なくてはならない人」になっていくのです。
筆者が中学生のとき、先生から「やる人が勝つ」と教えられたことがありますが、多くの場合、学歴などは形式で、実力の世界では通用しないものなのです。
P168
成功しているビジネスマンに多いのが「朝令暮改力」である
齋藤孝(明治大学教授)
68
予想どおりに不合理 ☆☆☆
行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
ダン・アリエリー
早川書房
2008/12/02
人の行動原理に関する分析書です。
合理的に決定されていると思える人の判断が、実は、各種のバイアスによって影響されている判断なのだと、幾つもの事例を掲げて説明しています。その実例が、全て、納得できます。
私自身、ここから教えられたノウハウを、今日、2つも実践しました。
正しいか否かではなく、相手に納得して貰える選択肢を提供することが必要と説く書籍でもあります。
P25
人間は、ものごとを絶対的な基準で決めることはまずない。ものごとにどれだけの価値があるかを教えてくれる体内計などは備わっていないのだ。ほかのものとの相対的な優劣に着目して、そこから価値を判断する(たとえば、六気筒の車にどれだけの価値があるかわからなくても、四気筒モデルより高いだろうことは想像できる)。
今回の《エコノミスト》の場合、59ドルのウェブ版が、125ドルの印刷版に比べて得なのかどうかはわからないとしても、125ドルで印刷版とウェブ版をセット購読するほうが、125ドルで印刷版だけを単独購読するより得なのははっきりわかる。得どころか、同時購読ならウェブ版の購読が無料になると考えてもいい。
P27
ラップがこれまでの経験から学んだのは、値の張るメイン料理をメニューに載せると、たとえそれを注文する人がいなくても、レストラン全体の収入が増えるということだ。なぜだろう?
P34
つまり、おとりであるA’を加えることで、Aとの単純な相対比較ができるようになり、おかげで、Aが、A’に対してだけでなく、ひいては全体のなかでも優れているように見えることになる。そのため、A’を選択肢に含めると、たとえだれもそれを選ばなくても、人々が最終的にAを選ぶ確率が高くなる。
P46
ありがたいことに、わたしたちは自分を囲む「円」の大きさを自力で調節できる場合がある。
小さい円が集まっているほうに移動すれば、相対的な幸福感は大きくなる。同窓会に出席したとき、真ん中で飲み物を手にして高給を自慢している「大きい円」がいたら、あえてそこから離れて、だれかほかの人と話す。
P58
これこそわたしたちが「恣意の一貫性」と名づけたものだ。最初の価格はほとんど「恣意」的で、でたらめな質問に対する答えにも影響されうる。しかし、いったんその価格が自分のなかで定まると、ある品物にいくら出すかだけでなく、関連のある品物にどれだけ出すかまで方向づけられてしまう(これが一貫性を生む)。
P74
イギリスには、夏になると四頭立ての客馬車で毎日30キロも40キロも移動する金持ちがいる。ひどくお金がかかって、金持ちにしかできないことだからだ。もしこれに賃金を払うと言われたら、金持ちの特権だったものが仕事に変わってしまい、だれもこんなことをしなくなるだろう”。
67
プラザでの10年間 ☆★
奥谷啓介
小学館
2008/11/28
ニューヨークのプラザホテルで、日本人向けの営業を担当していたホテルマンの書です。
米国流の経営手法、上司と部下の関係、米国流の考え方など、米国で、米国人として働いたのでなければ分からない実感が解説されています。
数ヶ月前に読んだ本ですが、また、読みたくなって読んでみました。
ホテル業界だけではなく、米国が分かる書です。
P78
ほとんどのホテルにはオーナーがいる。ホテルを運営する会社は、そのオーナーからホテルを借りて商売をしている。つまり、ホテルの運営会社とオーナーは異なるのだ。総支配人の大きな役割は、「今年はこれだけの利益を出します」というオーナーとの折衝にある。もちろん、オーナーはできる限り多くの利益が欲しいから、小さめの数字を出されても首肯しない。運営会社はつねに厳しい目標を課せられることになる。それが達成できないと「次の契約更新の時には、貴社に任せるのをやめる。他のホテル・チェーンならもっと利益をあげられるはずだ」といわれかねない。
P151
従業員たちの支持を得たいと思ったら、“ナイス・ガイ(いい奴)”と思われることが不可欠だ。彼らの考え方は単純で、「ナイス・ガイは助けてあげたいが、ナスティー・ガイ(嫌な奴)には協力したくない」。彼らは概して、嫌なことでも仕事だから耐えるという、日本で尊ばれる職業道徳観を持ちあわせていない。嫌悪感を抱けば、ゲストだろうと上司だろうと“ナステイー・ガイ”と見なし、「彼には協力したくない」となる。
P157
アメリカには、日本人を働き蜂のように思っている人がたくさんいる。以前、週一回行なわれる営業会議の席で、「今週は日本が祝日なので」と報告すると、「また休み?日本にはいったい何日、祝日があるんだ?」と、問いただされたことがある。私が指を折ると、「冗談だろ!日本人はもっと働く国民だと思っていたよ」と驚かれた。日本はアメリカに比べると異常に祝日が多いから、そういわれても仕方がない。アメリカの祝日は、年間6日だけだ。
P234
「ここで働いて8年と聞いているが、同僚から人種差別されたと感じたことはあるかね?」
「一度も感じたことはありません」
66
わが家は自閉率40%
星空千手
中央法規
2008/11/28
夫婦と子供3人の家族で、妻である筆者と長男がアスペルガー症候群の家庭の奮闘記です。
アインシュタインもアスペルガー症候群だったと聞いています。
アスペルガーの人達って、秀才の面を示し、長男のR君もIQ130だそうです。
ただ、書いてあることは難しかった。
日常生活が描いてあるのですが、愛情と混乱と怒りと希望と。
65
悪魔のささやき ☆
加賀乙彦
集英社新書
2008/11/24
殺人犯についても、自殺者についても、悪魔がささやくのだそうです。
凶悪犯罪の犯罪者の多くは、普通の人達であり、それが悪魔のささやきで罪に至る。
悪魔は、一瞬にささやくともあり、1年、2年とささやき続けることもある。
自殺も、悪魔のささやきがあったとしか思えない。
自殺した人達は、助けられた後に、皆さん異口同音に「助かって良かった」と言うそうです。
命を絶とうとした最後の瞬間については、ほとんどの人が多少表現の違いがあるものの、ややり、「悪魔がささやいた」というようなことを口にしていた。
精神科医で犯罪心理学者である作者が、犯罪者との面談や臨床医の経験、さらにヨブ記、失楽園などまで広がる人間の心理についての奥深い洞察を、悪魔のささやきとして位置づけて語った良書です。
P64
3歳のときに満州事変が勃発し、以来、川が切れ目なく続き広さを増すように、戦争は私の16年の人生を彩っていました。言うなれば、16年間、悪魔にささやかれ続けていたようなもの。家でも学校でも、勉強も遊びもすべてが戦争のため、勝つためにあるとされてきたんです。戦争中の大入たちの勇ましい発言、すこしでも疑いを抱くと罰してきた強圧、日本は必ず勝つ、しかし勝つためにはおまえたちは喜んで命を投げ出せという教育……あれはいったいなんだったんだ!?どうして誰も責任をとろうとしないんだ!?
P65
1947年5月3日、新憲法が施行され、天皇、皇后列席のうえ公布記念祝賀の都民大会が開催されました。6年半前、紀元2600年式典が行われたのと同じ皇居前広場で、です。10万人の都民が参加してお祭り騒ぎとなり、また花電車が走った。6年半のあいだに日本は、日本人はなんとさま変わりしたことか。そう思った次の瞬間、いや実は何も変わっちゃいないんだと気づかされました。軍国主義から180度転換はしたけれど、本質は何も変わってはいない。かつて日本人のなかに軍国主義という思想がパーッと入りこんだように、今度はアメリカ型民主主義というものが入っただけ。時代の風になびいて、まるで人が変わったように自分の思想を全部入れ替えてしまったんだ。……ってことは、いつの日かまた民主主義にかわる何かが入りこみ、日本人をとんでもない方向に突き動かしてしまうのかもしれない。
そのとき私が感じた不安は、残念ながら杞憂ではありませんでした。
P79
ところがヨーロッパだと−私はヨーロッパしか知らないけれど、たぶんアメリカもそうでしょうね−まず「自分はこう思う」と堂々と主張し、誰かと意見がくい違えば必ず論争になる。自分の意見を持っていない人問や、周囲を気にして言ったり言わなかったりする人間は馬鹿にされる。ヨーロッパで会議や学会に出ると、猛烈な論争をもう何日でもやるんです。その結果、どちらかが「わかった。これに関してはきみの意見が正しい」と納得して折れたり、双方の主張の中間地点に落ち着くこともあるけれど、決裂して「じゃあ、また次回」となる場合も少なくありません。
P86
そういう意味では−これは自戒もこめて言うんですが−日本の知識人というのは学識は豊富で知性が高くても、本当の意味での自分の思想を持っていない人が多いような気がします。個入として発言する以上は、たくさんの情報を比較し、どれが正しいかを客観的に判断したうえで、「私はこの道をとる」というのが思想家の、あるいは知識入のやるべきことなんだけれど、どうもそうではない。それよりも、権力とか、組織からの圧力とか、目には見えない時代の空気とか、絶えず移ろう流行とか、長いあいだの習慣とか、そういったものに動かされて、すぐに自分の意見を変えてしまう。一般庶民が悪魔のささやきに乗せられるのを止めるどころか、集団の先頭でみんなをあおってダーッと同じ方向に走り出してしまう。
64
超「超」整理法
野口悠紀夫
講談社
2008/11/24
野口教授の経済書は良いのですが、整理法はどうだろう。
メールにはgoogleのGメールを使う。
検索が容易だし、ネット上にデータを置くので、幾つかのパソコンを使っても同期の必要がない。
パソコンの故障や紛失についてのリスクもない。
必要なデータはメール添付で自分宛にメールを送っておく。
送信したメールも、受信したメールも、自動的にデータベースになる。
パソコン内の検索はgoogleデスクトップを利用する。
以前にはテキスト検索ソフトを使っていたが、データ量が大きくなり、検索スピードが支障になっていた。
等々と論じてますが、作者が言いたかったのは、後半部分ではないかと思う。
P222
伝統的な世界では、われわれは教科書から知識を得た。教科書は、受動的に最初から順に読めばよい。しかし、インターネットに対してそうした接し方はできない。問題意識があれば求める情報を引出せるが、問題意識がないと、迷子になる。
P223
ウェブの情報は千差万別、玉石混交であって、個々の情報が正しいかどうか、価値があるものかどうかを判断するのは、容易ではない。だから、無条件に受け入れるのでなく、疑ってかかる必要がある。「判断能力」は、これまでよりもずっと重要になった。
P226
こうなると、断片的な情報しか持たない「物識り」の価値は、急速に低下する。必要なのは、情報の意味を正しく理解し、新しい理論を構築できる人々だ。日本でも、こうした能力を持たなければ研究者として生き残れない時代が到来したのである。
P230
そんなことは、決してない。なぜなら、ここには知的作業における最も重要なプロセスが欠落しているからだ。それは、「問題設定」「仮説の構築」、そして「モデルの活用」である。
これらは、いずれもウェブからは得られない。したがって、新しい時代における知的労働者の最重要課題は、この三つを実行しうる能力の確保だ。知的作業の成否は、この三つによって決まる。本章では、これらについて述べよう。
P231 【最も重要なのは「問題設定」】
まずすべてに先立って必要なのは、「問題設定」である。「何が問題なのか。何を知りたいのか」を明確にすることだ。「明確な問題意識を持つ」と言ってもよいし、「質問事項を明らかにする」と言ってもよい。あるいは、「テーマを設定する」と言ってもよい。
P232
教師が教室での学生の質問に対して、It's a good question.(それは良い質問だ)と言うことがしばしばある。「良い質問」は、新しい「視点」を提供する。「問題をそういうアングルから見ることができるのか」という発見だ。毎日時計回りに歩いていた公園の散歩道を反時計回りに歩くと、まるで違った光景になる。それと同じことである。だから、教師は学生の「良い質問」を褒めるのである(*1)。
P234 【「仮説」を作り、検証する】
つぎの段階は、「仮説」の構築である。仮説とは、問題に対する暫定的な答であり、暫定的な命題である。主張である場合もあるし、意見の場合もある。ある現象の理解や説明である場合もある。問題設定能力と並んで重要なのは、仮説を作る力である。検索ができる段階まで仮説を特定化できれば、作業の大半は終っている。
P235
厳密な実証科学では、「仮説検定」という手続きをとる。そして、仮説と相反する結果が得られれば、仮説を棄却する(否定する)。つまり、仮説とは、否定するための命題である。そのため、「帰無仮説」と言う。仮説を積極的に支持することは一般に難しいが、「否定はされない」という意味で(消極的に)支持されるのである。
P236 【考える道具としての「モデル」が必要】
「モデル」とは、問題を考えるための道具である。現実の複雑な世界を理解するため、現実を単純化し、本質的と考えられる要素を抜出し、それらの間の関係がどうなっているかを記述したものが「モデル」だ(*)。その最も典型的な例は、古典物理学における力学の三法則である。
P237
一貫性のある主張をするために、モデルは不可欠だ。モデルがないと、その場その場のアドホックな思いつきで、主張は支離滅裂になる。また、「あるべきものがない」というのは、しばしば重要な発見だが、これを知るにはモデルが不可欠だ。
63
信託と倒産
第一東京弁護士会倒産法研究会
商事法務研究会
2008/11/21
信託は利用価値の多い手法ですが、証券化スキーム以外の利用の実績がなく、倒産時の処理に不安が残っていました。
本書は、証券化スキームの参考書ですが、それ以外の信託スキームについても参考になる記述が溢れています。
受託者や受益者の倒産についての基本的な理解について確信が持てました。
受託者の倒産については倒産隔離になり、受益権を一身専属的にすることよって、受益者の倒産からも倒産隔離が可能。
P146
受託者破産の場合における破産管財人は、信託財産と破産財団(固有財産)を区別して、前者につき新受託者へ信託事務を引き継ぎ、後者につきこれを原資として債権者へ配当すればよい。
P296
破産管財人等が受益権を譲渡する際の実務上の対応は、指名債権の譲渡とほとんど同様であろう。
まず、破産管財人等が信託契約書等を確認し、信託行為の内容を把握する必要がある。まず、性質が譲渡を許さない信託、たとえば、一定の者を扶養する信託など、受益者たる地位が一身専属的である場合には、そもそも受益権を譲渡することができない。
このようなそもそも換価が不可能な受益権については、破産管財人は財団から放棄するほかないものと考えられる。
譲渡につき受託者の承認が得られない場合、会社法上の株式と異なりこれを換価する手段(指定買取人。会社法140条等)は設けられていない。
すると、受託者の承諾が得られなければ、清算手続の場合、換価不能の資産が残存することになる。
62
小さな会社の法人税の申告と経理処理がわかる本
佐藤善恵
ソーテック社
2008/11/20
これって中小企業の経営者、あるいは経理担当者に、はい、これって渡すのに良い参考書です。
質問に対して、はい、18頁ですと答えれば済む。
経理担当者との間に共通言語が成立すれば、その後の会話もスムーズ。
入門編だから、誰でも書けるというものではない。
実務家だから書けるシャープさがある。
実務家が書いた本でないと、この頃、小説でも、読む気になれない。
61
強欲資本主義 ウォール街の自爆 ☆☆☆
神谷秀樹
文春新書
2008/11/19
ウオール街に20年以上身を置く者として言わせて頂ければ、日本の人々にアメリカ経済やウォール街の本質が全く伝わっていないし、理解されていないというのが偽らざる実感なのである。
と、挑戦されてしまった。
よし、受けてやろうと読み始めた。
良い書です。
ウォール街で投資銀行を経営していた著者が語っている。
そして、拝金主義に毒されず、自分のスタイルを守り通した著者の書です。
弁護士業界も、拝金主義に毒されつつある。
自分のスタイルに確信をもつためにも読んで価値のある一冊でした。
紹介すべき箇所を引用すると、書籍の全文になってしまう。
P52
この合弁会社を作るときに、豊田通商側の代表であった役員から、同社が何故こうしたことに取り組むのかを伺った。
「我々が欲しいのは顧客なのです。一人でも多く顧客を増やしたい。顧客を増やすためには、顧客のためになる新しい技術が必要です。そのためにはどんなにお金をかけてもいいと思っています。多くの技術はトヨタグループ企業の社員でも開発できますが、もちろん、我々では開発できない技術もある。また我々にはベンチャー企業を育成するようなノウハウもない。勉強すればノウハウも蓄積できるでしょう。しかし、時間がかかってしまう。だから、この合弁会社をつくって、我々には開発できない技術を持っている会社を育成したい。この合弁会社を創る目的は、キャピタル・ゲインを上げることではないのです。たとえキャピタル・ゲインを上げても、それは社内ではまったく評価の対象にはなりません」
私は日本人だから、日本贔屓の部分を持っているが、この役員の話には感銘を受けた。現在のアメリカ企業の経営者から、このような話を聞くことはほとんどあり得ないに違いない。
82頁
ここで述べたように、金融の世界では人間の学習能力は低いといわざるを得ない。おそらく、その根底には際限のない人間の「欲」というものがあるからだろう。残念ながら、その欲をコントロールする術を金融機関そのものは持っていない。
金融業で、最も大きなリスクは、「人」と、「人の持つ欲」である。
60
不正は急に止まれない
中島茂
日経プレミアムシリーズ
2008/11/19
多くの不正や事故を紹介し、その原因と、対策についての考え方を紹介しています。
弁護士としての視点での精神論と技術論です。
次の引用部分は、良かった。
私も、「私はこうして受付嬢からCEOになった」を読んでますが、最初の100頁ほどで挫折してしまっていた。
私達の仕事は、密室の仕事です。
だから、つい、便宜的な処理に偏る危険がある。
しかし、それが事故、事件として出現したときは、真昼の太陽の下で吟味されることになる。
さらには、密室の仕事に慣れ、便宜的な処理に慣れてしまう感性と倫理観が危険。
どのような有効な手段であっても「目的は手段を正当化しない」ことを常に意識し続ける必要があります。
66頁
一介の受付嬢からヒューレット・パッカードのCEOまで上り詰めたカーリー・フォルナリーナ氏は、その著書「私はこうして受付嬢からCEOになった」の中で、「目的は手段を正当化しない」という言葉を使っています。
彼女は、「たとえ誰に見られていなくても、絶対に捕まるはずがなくても、悪いことは絶対にやってはいけない」「1つの綻びが組織全体を危険に陥れてしまう。モラルは成果に勝る」と言っています。
まさにその通りなのです。
59
税理士のためのマーケティングマニュアル
船井総合研究所
第一法規出版
2008/11/17
弁護士のためのマーケティングマニュアルは良かった。
税理士のためのマーケティングマニュアルはどうだろう。
弁護士のための……は、スキルを磨くとか、語ることを持つ、スピードなど、サービスと品質の向上がテーマだった。
弁護士には、スキルを磨けば、客は自動的に付いてくるという思いがあります。
本書では、どうやって客を取るかの一点のテーマが繰り返し提案されている。
金融機関からの紹介、生保から紹介、ホームページや、セミナーなど。
ただ、次の文章だけは良かった。
実践しているつもりですが、しかし、効果はないと思う。
そもそも顧客獲得のための行動ではありませんから。
でも、好きなスタイルなので実行してますが。
157ページ
弊社創業者の船井幸雄(現最高顧問)は「経営の神様」と呼ばれたコンサルタントで、これまでお手伝いしてきた数千社という企業で指導実績を上げてきました。
しかしながら、そんな船井幸雄でも当初はコンサルティングがうまくいかないこともあったそうです。しかし、その失敗を通じて、成功する経営者と失敗する経営者をほぼ100%見極めることのできる独自のルールを発見し、著書で発表しました。
それが船井総研に現在も受け継がれている「成功の3条件」というものです。この成功の3条件とは次の3つです。
【1】勉強好き
【2】素直
【3】プラス発想
【1】勉強好き
一般的に「勉強」とは、本を読んだり、講習会に出たりして知識を吸収することをいいますが、船井幸雄は勉強とは「知らないことを知ろうとすること」だといっています。
どんなときでもわからないことがあったら調べ吸収する、そのクセをつけることがまず大切なのです。
【2】素直
次は「素直」です。ここでいう素直とは「よいと思ったことはすぐやり、悪いと思ったことはすぐやめる」ことをいいます。
一般に人は誰かが何かを提案しても、「そんなことはない」、「そんなことは無理だ」とやってもみないうちから否定してしまう傾向があります。このような傾向がある人は、ほかの人がどんなによい提案をしても聞き入れることがなく、決して成功することはないというのです。
まずは「否定しない」という姿勢が大切です。
あるいは、返事だけよくて実際に行動しない人もいますが、これも同じで、どんなによいと思ったことでも、実行に移さないと成果は出ません。「すぐやる」ということが重要です。この否定しないで受け入れて、すぐやる人を「素直」というのです。
【3】プラス発想
最後のプラス発想は「どんな状況においても前向きに受け止める」という世間一般にいう「プラス発想」ではありません。船井幸雄のいうプラス発想とは「どんな状況下においても決してあきらめず。できる見通しがついたら前向きに取り組む」というものです。
換言すればいったんは最悪の状況を想定して考え抜き、そのような状況の中でも大丈夫という確信がもてるようになったら、余計なことを考えず楽観的にやるという発想法をいいます。
この3つの条件を満たすことができる経営者は必ず成功するというのです。もちろん会計事務所の所長先生も「経営者」です。皆さんも常に心掛けてください。
58
仕事はストーリーで動かそう ☆
川上徹也
クロスメディア・パブリッシング
2008/11/14
必要なのはストーリーです。
事務所から帰宅の山手線で読み切ってしまいました。
最後に、次のように結んでいます。
そして、最後に、「ストーリは常に変わらなければならない」ということです。
成功事例として取り上げたストーリーも、明日には古いものになってしまうかもしれません。
57
間違いだらけの経済政策 ☆☆☆
榊原英資
日経プレミアシリーズ
2008/11/14
経済学は、昨日の経済現象を説明する昨日の天気予報の学にすぎません。
しかし、学問としてではなく、人生論としての視点を与えてくれることは確か。
で、今は構造変化の時代だと。
マクロ経済は、1つの構造を前提に分析される。
構造自体が変化してしまう社会では、既存の経済理論は適用できない。
構造の変化は、国を単位としていた経済の終焉。
だから、安い労働力の輸入によって、商品と人件費のデフレが生じ。
世界の需要増大による資源の枯渇が、高い資源と稀少金属価額を作り出す。
つまりは、インフレとデフレが同時に起きる社会に、低金利政策、円安政策、需要喚起政策などが有効なのか否か。
P34
こうした現象が一般的な原因はさまざまですが、一つきわめて重要なのは、「日本が特殊で、かつ遅れている」という認識がいまもって、特に学者やアナリストの間に強くあるということです。
P35
日本的現実と理論とがくい違うと、「日本的現実が遅れているのだから、まずこれを変えなくてはならない」という、本来の理論と現実のあり方からいったら、まさに逆立ちしたような議論がしばしばなされたのです。
P37
遅れた日本シンドロームから離れて、日本経済を見てみれば明らかですが、日本は高度成長を経て、石油危機を乗り切った1980年代からは大変豊かな国になっています。世界第二のGDP大国であるばかりではなく、一人当たりGDPでは80年代後半から先進7ヵ国のうち最も高いレベルを享受しています。
P40
この「転倒性」をはっきり認識することはきわめて重要です。「なぜならば、日本で起きている問題に対処する場合、欧米を参考にしても意味がないからです。」
今まで、そして現在も、日本人は日本で何か難しい問題が起こると、欧米を見回して、それにならって問題を解決しようとしてきました。しかし、この「転倒性」はその方法論自体を否定してしまうのです。先頭を走っている日本が後ろを振り返って欧米を見たところで、参考になるものはほとんどないというのです。
P47
こうした事実を背景として、日本には、いまだにアメリカをモデルとして日本経済を変えていく必要があると考えている人々が少なくなく、日本で「改革派」と呼ばれている人たちのかなりを占めているのです。竹中平蔵なども、おそらく、そうした考えを持つリーダーの一人だと言えるのでしょう。
P72
例えば、東アジアの経済統合は現状どこまで進んでいて、今後、どういうスピードでどこまで進んでいくのか。この動向によっては日本経済の全体の舵取りを変えていかなくてはならないからです。
P73
また、もし相対価格の変化が構造的で価格革命が起きているとしたら、例えば、為替政策をどう変えていくかを考えていかなくてはならないでしょう。
P75
21世紀はおそらく数百年に一回の大きな構造変化の時代です。16世紀あたりから次第に世界に拡がり、その動きを加速してきた近代産業資本主義が大きく変わる気配を見せています。
56
遺留分をめぐる紛争事例解説集
星野雅紀
新日本法規
2008/11/04
1年を超えた贈与についての最高裁判決についてのコメントを読んでみた。
全く無批判的な解説でした。
P78
相続人に対する生前贈与で民法903条1項の特別受益に当たるものについては、同法1044条が同法903条を準用していることから、民法1030条の定める要件(相続開始前1年間にした贈与又は1年前にした贈与であって遺留分権利者に損害を加えることを知ってされたもの)を満たさないものであっても、遺留分算定の基礎となる財産に加えられるというのが通説である。
しかし、このような贈与について、遺留分減殺の対象とするために民法1030条の定める要件を満たすことを要するか否かについて、学説が分かれていたところ、本判決は、民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たすかどうかを問わず、減殺の対象となると判示したものである。
55
将軍たちの金庫番 ☆
佐藤雅美
新潮文庫
2008/10/31
徳川幕府の崩壊ですが。
土地にしか課税できない五公五民が原因なのではない。
江戸時代の初期には、日本のGNPの大部分が農業生産物だっただろう。
だから、五公五民でGNPの半分を取り上げることができた。
江戸末期には、商業が発展し、GNPに占める農業生産物の割合は落ちていた。
しかし、五公五民では、農業からしか税収を確保することができない。
江戸幕府は国税を作らなかった。
徳川は、全国の金山を支配することで良しとした。
しかし、金の採掘量は減っていった。
徳川幕府は日本全体を管理している。
しかし、税収は、自分の領地に限った。
藩は、自分の領地について、課税権を独占していた。
やっぱ、税金が歴史を作っている。
P41
幕府は全国支配を確立していく選程で、全国のめぼしい金銀鉱山の採鉱権を一手に収めた。時をあわせてゴールドラッシュが起こり、幕庫には堆く金銀が積まれた。金がありすぎて必要ないと思ったか。
結果として幕府は支配地以外で租税徴収権をもたなかった。それでいて幕府は天下の政治をとりしきっていた。一種の行政上の過剰サービスを行なっていた。
その行政過剰サービスの帳尻をあわせるというのが、御手伝普請を強要した理論的根拠だと思われる。
P46
なるほど諸大名は領内で独占的に租税を徴収する権利をもっていた。しかし、一方で参勤交代による“旅費”と隔年の江戸住まいによる“生活費”に、桁違いの浪費を強いられていた。たとえば、遠隔地の薩摩藩はこの時期旅費だけで毎年(片道)1万5千両もつかわされていた。歳入はおよそ10万両だ。旅費は歳入の15パーセントにものぼった。
幕府が諸大名にそのような浪費を強いていたのはいうまでもない。諸大名を貧乏に陥れるためである。
P51
統治する側は、幕府も、大名も、全員財政に苦しんでいた。その分統治される側の、とりわけ商人が潤っているという、江戸時代は奇妙で不思議な社会構造に出来上がっていた。
P100
江戸時代、大名は封建領主として領内の自治権を有していた。自治権のなかで、とりわけ侵すべからざるものが租税(年貢)の徴収権であった。「全国御用金令」はその大名の租税徴収権を踏みにじろうとするもので、諸大名の自治権を根底からくつがえそうとしていた。うっかりすると封建制度をひっくり返してしまうかもしれないという内容になっていた。
P103
宝永5年(1708年)、富士山が噴火した翌年、降灰の除去という目的で幕府が全国民に課した国役金令だ。それを眺めている過程で、幕府は支配地以外での租税徴収権をもたずに天下の政治をとりしきっているという矛盾に田沼は気づいた。
この矛盾の解決と、最終的には諸大名の領地を没収してしまうという二つの命題を重ねあわせて、田沼は「全国御用金令」を発令した。“あれは田沼さまがなされたこと”と後世評価される、もうひとつの“事業”を行なおうとした。
田沼の「全国御用金」の額は、宝永の国役金令の、高百石当たり2両という額を5年分割したものだ。負担額は5年分で宝永の国役金令とおなじになる。多くはない。にもかかわらず、今度は御三家をはじめとして諸大名、さらには旗本に至るまで猛烈に反発した。
それは、“諸大名の領地の没収”という狙いがすけてみえたからである。また『麟徳記附録』の筆者が日本惣戸税と認識しているように、ひいてはそれが諸大名の侵すべからざる租税徴収権を侵そうとしているのが、やはりすけてみえたからである。
54
検索バカ ☆
藤原智美
朝日新書
2008/10/31
タイトルを見ただけで内容が分かる。
しかし、書評では、「空気を読む」との関係で紹介されている。
なるほどね。
自分で考えないから、空気を読む。
空気を読むことと、オリジナリティは、真反対の概念なのだ。
P204
頭を整理するために、これまでの話をふり返ってみます。まず私たちの「考える」環境の変化についてです。IT技術の進展で私たちは自力で「考える」ということに力を注がなくとも、コピペなどを使って適当に「成果」をあげることができるようになりました。
P205
なぜ私たちはクウキを読むのか?
それは世問が存在した昔から、私たちには独力で考え、主張するという姿勢が弱かった、欠けていたことも大きな要因です。世間のなかだけで生きていけば、自力で考えて自分の意見をもつ必要はありませんでした。
しかし世間が解体して、そこにクウキ読みの日常が入れ替わった。世間がなくなって自立する前に、私たちはクウキ読みの日常規制を受け入れてしまったのです。
世間からクウキへ、さらに検索に象徴される情報社会は、なおいっそう自発的思考を奪いつつあります。それはとりもなおさず、社会的意識を私たちからはぎ取ります。
P219
思考をつかさどるのはいうまでもなく言葉です。考えるということは、自分の言葉を探すということでもあります。他人の言葉を借りながらも、どこかで自分の言葉に着地させなくては考えたことになりません。
私はこの本のなかで、人々が自分の思考をショートカットして、他者に解決策や結論をゆだねる傾向を批判的に指摘しました。
理由は自分の思考、考えをスルーして簡単に手に入れた言葉は、けっきょくその人を救うことも、助けることもない、と思うからです。
53
「つまらない」と言われない説明の技術
飯田英明
日経ビジネス文庫
2008/10/29
この著者も、発表にはストーリーが必要と論じてました。
P61
わかりにくい説明は、相手にとってジグソーパズルと同じです。
ジグソーパズルなら、「このピースは、全体のどこにあてはまるのだろう。このピースと、あのピースは関係あるのだろうか」と、あれこれ考えることが楽しいものです。しかし説明やプレゼンテーションで、内容の全体像を相手に考えさせては、イライラされるだけです。
52
ローマ法の歴史
ウルリッヒ・マンテ
ミネルヴァ書房
2008/10/27
これはよい書籍だ。
読むのが楽しみだ。
しかし、読むのが大変だ。
29頁
債務の相続を認めていた。
代襲相続を認めていた。
相続分均等の定めがあった。
遺産分割を認めていた。
祭祀承継を認めていた。
80頁
履行前の贈与の撤回を認めていた
贈与は公正証書でのみ行えるとしていた。
遺贈の金額を制限していた。
遺贈を遺産の総額の半分までに制限していた。
1頁
ローマ法はもともとは一つの国の法秩序であったが、今日に至るまで真の世界法へと発展した唯一の法である。ローマ法は、14世紀以降、中央ヨーロッパで「普通法」とみなされ、19世紀には私法の偉大な法典に組み入れられた(1804年フランス民法典、1811年オーストリア民法典、1896年ドイツ民法典、1907年スイス民法典)。
これらの法典は、その娘にあたるといえる法典を通して、ローマ法のシステムを全世界にもたらした(ラテン系諸国の法典はフランス民法典と密接な関係にあり、オーストリア・ハンガリー帝国解体によって成立した諸国はオーストリア民法典の影響を受けており、トルコ、日本、タイ、中国は、程度の差はあれ、ドイツ法やスイス法を継受した)。
ローマ法が世界を征服したのは歴史の偶然ではない。ローマ法は抽象度の高いものであったので、いかなる形の社会や経済にも適用することができるのである。
51
取引の社会 アメリカの刑事司法
佐藤欣子
中公新書
2008/10/22
アメリカの刑事訴訟では、なぜ、有罪答弁がなされているのか。
起訴してしまえば良いではないか。
なぜ、検察は、取引に応じる必要があるのか。
大昔に、この書籍のタイトルを見て以降、疑問に思っていたところです。
その答は日本の税務の現場です。
国税は、課税処分をしてしまえばよい。
しかし、課税処分をせずに、お互いの妥協による取引をする。
つまりは、日本の税務行政は、米国の刑事事件と同様のシステムを採用している進歩した制度。
P90
アメリカの刑事司法の真の特徴は、「有罪答弁」である。
アメリカにおいては、全刑事事件について約95パーセント、重罪だけについていえば、大よそ70から80パーセントの事件が「有罪答弁」で処理されていると推定されている。
P91
それではなぜ「有罪答弁」による「取引司法」は、かくもアメリカ刑事司法に深く滲透し、アメリカ刑事司法を支配するに至ったのであろうか。
ごく最近、1920年代まで、法律家は一致してこの答弁取引に反対していた。しかし有罪答弁への依存度が高まるにつれて態度が変化した。…… 多くの者は有罪答弁の制度は改良の必要があることを認めながらも、まだ半世紀にもならない昔、一致して反対していたように今や一致して答弁取引を弁護しているように思われる。
P92
そして弁護人は裁判所や検察官との依存・協力関係の維持・拡大を利益とするのである。
メトロポリタン・コートの常連弁護人はあらゆるレベルの裁判所職員や警察・検察関係者との密接・親密な関係を隠そうとはしなかった。これらの非公式な関係こそ彼の法律業務を維持し築き上げてゆくためばかりでなく答弁や量刑の交渉のために不可欠なのである。…… 法律実務は主として個人的影響力の問題なのである。
P94
しかし日本人の理解するかぎり、「取引司法」を、発達させた指導理念は実体的真実主義に塩づけされていないアメリカ型当事者主義にほかならないのである。形式的真実ないし手続上の事実に終始し、裁判をまず「個人的事項」と考えるアメリカ型当事者主義を苛酷なまでに強烈な個人主義の上に展開させたアメリカ刑事司法の所産にすぎないのである。
50
すべての経済はバブルに通じる ☆
木幡績
光文社新書
2008/10/13
住宅ローン1000本をまとめて、優先債権として800本分を切り出す。
残りの200本を10個だけ束ねて1000本分を優先債権として切り出す。
残りの1000本を20個だけ束ねて2000本分を優先債権として切り出す。
最後の残りに保証を付けて、それも優先債権とする。
この手法で、売れない商品を、売れる商品にした。
これは2つの効果を生む。
住宅ローン債権という地域性、個別性のある商品が、リスクとリターンという単純な指標の商品になり、市場での売買が可能になる。それが市場規模を大きくする。
大きな市場は、流動性リスクを減少させる。
それが、さらに、投資家を呼び込む。
流動性を与えることによって資産価値を増大させたが、しかし、証券化は、総体としてのリスクについての軽減手法ではない。
つまりは、サブプライムローン問題では、住宅ローンの破綻は1つの原因に過ぎず、証券化が生み出した価格スパイラルが崩壊したことが本当の原因なのだ。
やっぱ、これは優れものだ。
ローンを借りる人達の必然性。
不動産を売却する人達の必然性。
融資をする人達の必然性。
債権を購入する人達の必然性。
これらが全て整って、バブルが発生し、バブルが崩壊した。
つまりは、1人ひとりの行動は、全て、必然性の結果であり不可避。
悪い奴を探せば。
ここに至るバブルを放置した政府でしょう。
その意味では、金融の量的規制でバブルを止めた日銀の政策は正しかったのだと思います。
61頁
各国政府、メディア、エコノミストたちは、サブプライムローンあるいは、証券化そのもの、そしてこれらをアシストした格付け機関を目の敵にして非難を浴びせている。
しかし、世界で起きている金融危機は、サブプライムとは関係なく、このリスクテイクバブル崩壊のプロセスなのである。
60頁
リスクテイクバブルとは何か。それは、多くの投資家がリスクを求めてリスク資産に殺到し、それによりリスクがリスクでなくなり、結果的に彼ら全てが儲かることになり、さらに他の投資家も含めてリスクへと殺到する状況を指す。
49
やりたいことは全部やれ!
大前研一
講談社文庫
2008/10/10
ヤマハの川上源一氏は、どちらかと言えば批判的に紹介される場面が多かったように思います。しかし、身近なコンサルタントの評価では一番に凄い経営者。エピソードを読むと、成る程と思います。
三浦雄一郎氏と加山雄三氏についての紹介も面白い。
56頁
戦後の経営者の中で誰がいちばんすごいか、という質問を受けたら、私は迷わずにヤマハの川上源一さんではないかと答える。松下さんも、本田さんも、盛田さんも、中内さんも、全盛時代にはそれぞれ甲乙つけがたい面白さとすごさがあった。しかし川上源一さんは、いわゆる創造的破壊力においては、誰をも寄せつけないくらいの強烈なイノベータであった。
61頁
ピアノを買ってください、と言うのではなく、音楽をお教えしましょう、という真にマーケティングの真髄のようなシステムを、貧しい頃の日本に作り上げてしまったのだ。そのお陰で、1980年には日本の家庭におけるピアノの普及率は20パーセントを超え、世界一となっている。
72頁
晩年の彼は恵まれなかった。マスコミ嫌いも手伝って、人前にもあまり出てこなくなった。浩さんを後継者に選んだが、源一さんが元気がなくなるのと時を同じくして社内クーデターが起こり、追放されてしまった。一緒にやっていた私も、コンサルタントとしてはお払い箱となった。
157頁
あの人の場合、カート代がもったいないのではなく、せっかくトレーニングできるチャンスがあるのに車などに乗ったらもったいない、という意味である。それで、かなりきつい山岳コースをホイホイと、それも走りながらの第2ラウンドを難なくこなしてしまうのである。
162頁
つねに新しいことにチャレンジし、たぐい稀な才能に恵まれたこの加山雄三という人は、「遊び心」の真の達人で、それを職業にまで高めた幸せな人だとつくづく思う。
48
治らない治療の時代 医療者心得帳
春日武彦
医学書院
2008/09/30
なるほどね。
患者は7割程度しか医者を信じていない。
私自身が患者になった場合も同様だった。
いま、帰った相談者は、私のことを7割程度しか信頼してなかったのか。
全面的な信頼を示していたが。
もっとも、全面的に信頼されるよりも健全な関係ではありますが。
自分で考えるという自主性の確保が法律相談の主目的なのですから。
112頁
たまには担当医のことを教祖様みたいに妄信する人もいますが、多くの患者さんは医者のことなんかせいぜい7割程度しか信じていないと見るべきでしょう。それよりはテレビの健康情報や聞きかじりのマスコミからの知識をよっぽど信用しているようです。
だから薬は医者が金儲けのために「あえて多めに」出しているとか、不要な薬も在庫処分のために便乗処方しているのではないか。そんな程度の疑いをひそかに抱いている可能性はけっこう高いと思います。寂しい話ですよね。
ただし、そんな疑いをもちつつも、さらには「個人的には、こんな奴とはつきあいたくないなあ」などと思いつつも、やはりそれなりに頼ってくる(頼らざるを得ない)のが患者という立場であります。
ある種のアンビバレンツが生じているほうが、よほど自然であり健全です。十全に信頼しているわけではないが、縁を切ってしまうほどには「ひどい医者」「いかがわしい医者」とは思っていない。
あまりにも信頼を寄せられ、頼りきられるよりも、そんな淡い関係のほうが「まとも」です。そうでないと、縁談や人生相談まで持ち込まれかねません。ささいなことで失望されたりしかねません。
47
マッキンゼー式 世界最強の仕事術
イーサン・M・ラジエル
ソフトバンク文庫
2008/09/29
頭の良い人達とのオシャレな会話には知的な発見があります。
仕事をするのも、事務所を構えるのも、カネを稼ぐのも、頭の良い人達との会
話の機会を得るための手段にすぎない。
それぞれの分野で活躍している人達の経験には学ぶべきところが多い。
253頁
マッキンゼーは卒業生に鮮明な記憶を残している。
そのサンプルを幾つか。
素晴らしく頭のいい人達で構成された少人数のグループ、その思考パワーが私
にはとても楽しかった。
高い能力をもった、頭のいい、意欲のある人達がぞろぞろいました。
そのままとどまる人達の能力レベルです。
人です。おしなべて頭が良いし、一緒にいて楽しかった。
スタッフの平均的な知的能力です。入社したばかりのアソシエートから、大半
のシニア・ディレクターまで。
働く人の質です。普通の企業の社員の平均的能力は、マッキンゼーで能力のい
ちばん劣る人より下です。
人です。ファーム内やクライアント企業で接触した広い範囲の様々な人達。
46
前法務副大臣が明かす司法の崩壊
衆議院議員 河井克行
2008/09/29
弁護士会と、司法業界は、どこで勘違いしてしまったのでしょうか。
P29
しかも最近よく言われるように、「『法化社会』の実現が、一連の司法改革の目標である」という考え方に至っては、はっきり言って、法曹界の思い上がりであるとしか思えない。
はたして現在の日本には、「法の支配」が十分に行き渡っていない、日本の社会は法化社会になっていないとでも言うのだろうか。
百歩譲って、仮に「法化社会」の言葉が「皆が約束事を守る社会」のことを言うならば、法曹、なかでも弁護士を増やす必要などまったくない。
なぜなら、人々に約束事を守らせることが、弁護士の仕事ではないからだ。
P31
これまで関係者が納得するように、皆が丁寧に話し合い、問題解決を図ろうとしていた過程をすべて「裁判沙汰」に持っていくことが、「法的需要の増大」の本質であり、そんなものは日本社会にとってまったく必要ないものである。
P52
百歩譲っても、「大方の意見の一致がみられた」というのはまったくの嘘である。
ちなみに、この司法制度改革審議会会長というのが、のちに法科大学院の[生みの親」と評されることになる佐藤幸治氏であり、「年間3000人の養成(中略)はミニマムの数字である」と主張したのが、あの「平成の鬼平」こと中坊公平・日弁連会長(当時)なのである。
P55
したがって日本の場合、法曹三者と隣接士業、さらに企業の法務部社員(「アメリカなどでは企業における法務活動についても弁護士が担当するのが普通である)も含めれば、広義の法曹人口は約27万人となり、じつは日本は、アメリカに次いで最も法曹を数多く抱える国だということになるわけだ。
P193
しかしここで法曹界は勘違いをしてはいけないのだ。彼らがあくまで「やむを得ず」必要とされる存在であるということを。その根本を忘れていることが、いまの法科大学院の制度設計に大きく影響を及ぼしていると私は思う。
だからこそ、ここで私はあえて声を大にして言いたい。
言葉は悪いかもしれないが、私なりの言い方をさせていただこう。
法曹界は、名誉ある「社会のドブさらい」であれ!と。
国民一人ひとりのそれぞれが、人生をそれぞれに送っている。順調な人生もあれば、逆境からなかなか這い上がれない過程にいる人もいるだろう。そこには、妬みや恨み、嫉み、憎悪といった感情が生まれ、いわゆる「事件」が生じる。
社会の最低限の規律・法律の範囲におさまらない言動が生じる。ゆえに、社会総体としてみれば、どうしても「ドブ」のような暗い部分が生まれる。それは否定しがたい事実である。だからこそやむを得ず、その「ドブ」の中のゴミをさらい、ドブを浄化し、社会福祉の向上を図る人が必要になる。
これは世のため、人のためを思う人間でなければできない仕事である。これほどの高邁で尊い仕事をできる職業は、世の中にそうない。そして、その手助けを行う実施部隊こそが、法曹界なのではないか。
45
問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ
正常と異常のあいだ
春日武彦
光文社新書
2008/09/26
最近は鬱の時代と言われています。
それを、躁の側からながめてみようと一読してみました。
なるほどと思うところが多かった。
常に自分の心はぶれているのですから、躁、鬱、統合失調症、あるいは精神分析や心理学の書籍を何冊か、自分が正常なときに読んでおくべきだと思う。
P56
ここで病気としての躁病について述べておくと、躁的な気質の延長上に躁病は位置するのだろうか。たしかにそのように感じられはするが、おそらくそうではない。躁病は脳内の生化学的な異常を背景としており、原則として薬剤での治療が可能である。だが性格的なものとしての躁傾向は、生化学云々というよりも精神構造の問題である。論点が異なる。ただし結果的にある種の精神構造と躁病とが似た状態を呈するのは事実であり、それは人間の心の表現形として躁的なものはパターンとして定着しやすいということなのであろう。奇人と病人とは、似て非なる存在なのである。
44
会社法体系 1〜4巻
江頭憲治郎編集
青林書院
2008/09/25
この4冊は全巻が出版されたのですね。
江頭教授は、会社法部会の部会長だったと記憶してます。
その後に作られた会社法は、部会の議論とは全く異なる。
さて、江頭教授は、どのような立場で、会社法体系を編集しているのか。
第1説 …… 批判的視点
第2説 …… 淡々と事実を解説
第3説 …… 会社法に賛成
やはり、第1説でした。
これが学者としてのスタイルです。
P8
しかし、今回の具体的な会社法及び法務省令の内容については、批判は少なくない。
法律上法務省令に委任されていない事項を法務省令で定めていると思われる点もある。
P9
法務省当局のご都合主義以外の何ものでもなかろう。
P13
会社法においては、強行規定か任意規定かについて解釈の余地を認めないと主張するのである。
しかし、当該立法担当官の主張に対しては、学説からの批判が強い。
批判の第1は、I2で述べたように、会社法の各規定が立法担当官の主張するほど厳密に作られているか否かは、疑わしいことである。
43
ルポ内部告発 なぜ組織は間違うのか
奥山俊宏
朝日新書
2008/09/23
企業スキャンダルの報道が増えています。
これはスキャンダルが増えたのではなく、内部告発が増えた結果。
昔から、企業スキャンダルはありましたが、隠蔽されてきたわけです。
しかし、現在では、不正を承知の上で隠蔽すれば、その隠蔽行為自体がスキャンダルになってしまう。
不正の隠蔽の被害者は、国民であり、消費者です。
会社、あるいは役所の透明化のためにも非常に喜ばしい傾向。
これでもか、これでもかと、内部告発の事例が紹介されています。
42
ヤメ検 司法エリートが利欲に転ぶとき
森功
新潮社
2008/09/23
横に座って見ていた事件が、幾つか、登場しました。
その頃、ヤメ検をながめてましたが、生態は理解できなかった。
図太いのか、神経質なのか。
でも、次の一文はOB税理士の理解に役立ちます。
OBのスタイルと、試験組の違いは、断言するか、共に悩むか。
お互いに、そのスタイルが好きなのだから仕方がない。
274頁
依頼者には必ず不安があるから、どのように対処すればいいか、適切なアドバイスをしてやる。
それだけでも、本人はずいぶんと気が楽になる。
事件に対する知識と経験。
事件のスジ読みが弁護士にとって大きな武器になるのだ。
これが捜査経験のないプロパーの弁護士だと、自分で責任を負いたくないから、むしろ、悪い結果を伝える傾向がある。
「逮捕・起訴されるかも知れない微妙な線です。実刑と執行猶予のボーダライン上だな」
そのようにのらりくらりとアドバイスされては、依頼者はますます混乱するばかりだ。
曖昧なのは、逆にいい結果が出れば恩を売れるからだが、誰が、そんな頼りない弁護士に身を預けるだろうか。
ところが本当のヤメ検のやり手弁護士は、曖昧なことは言わない。
「この事件は執行猶予がつく。必ず私が執行猶予を勝ち取ってやる」
そう断言する。
的確に事件の状況を判断し、依頼人に安心感を与える。
仮に、「実刑だ」と突き放されても、被疑者はそれなりの覚悟ができるものだ。
要は依頼人の不安をいかに払拭できるか。
いわば刑事弁護の報酬は、その安心料も含まれているのだ。
41
今日、ホームレスになった 13人のサラリーマン転落人生
増田明利
彩図社
2008/09/22
ドラマのある人生を拾い出してますから、皆さん、大学を卒業し、優良会社に入社したエリート。
家は売り払い、妻とは離婚し、子供とは縁が切れて。
そのようなドラマのプロローグはどこにでもある一章から始まる。
P18
自分では財務のプロだなんて思い上がっていたけど、やはり年齢で除外されます。まあ、37、8歳が限界、税理士資格があっても40歳までということでした。不況になって人が余っている時代に同じ職種で、いい条件でっていうのは無理があったんですね。職安回りもしましたが紹介されるのは中小企業の経理事務ぐらいでした。
P28
業務実績は四半期毎に点数化され、一定のポイント以下だと警告があるんです。儲けないとクビだぞってね。警告があると3ヵ月間でかなり事態を好転させないと退職勧告されるんです。
日本の企業だったらこれまで利益を出していたんだし、市場が混乱しているのだから仕方ない。次に取り戻せと大目に見てくれますよね。だけど外資はそれが通用しないんです。
P64
たまにデパートの配送や郵便局の仕分け作業みたいな短期のアルバイトはやったけど、そんなものは大した収入にはなりません。1年もしないで蓄えを使い果たしアパートの家賃も払えなくなってしまいました。夜逃げして野宿生活に転落だ、あっけなかったね……。
40
ドトールコーヒーの勝つか死ぬかの創業記
鳥羽博道
日経ビジネス文庫
2008/09/21
喫茶店に新しい文化を創り出した経営者です。
フランス、ドイツ、スイスを訪問した。
関心があれば見えてくる。
関心がなければ何も見えない。
確かに。
視察旅行だけではなく、全ての現象についていえることです。
その後、著者が、日経新聞の「私の履歴書」に登場しました。
波瀾万丈の人生です。
そこでも、色々な人達から教訓を学んでいます。
これも、関心のない人には見えない教訓でしょう。
私も、今だから、これが分かる。
17才では、私には絶対に見えなかった教訓です。
82頁
関心があればこそ見えてくる。
関心がなければ見ているようで、実はなにも見えていないのだ。
目的意識があるから、関心が高いから、その光景をいつまでも心の中に鮮明にに、克明に留めておくことができる。
私の履歴書 鳥羽博道(日経新聞 平成21年2月5日)
最初に店が売れた。上品で凛とした年配の芸者さんが「サンパウロ」を買うことになり、豊竹さんはその引き継ぎを17歳だった私に全て任せてくれた。全てを終えた後のこと。その芸者さんはふと真顔になり、居住まいを正すと私にこう言った。
「鳥羽さんはまだ若いのに、とてもしっかりしています。でも、周りからそう言われるがために、自分自身を小さくしてしまうかもしれませんので、気をつけなさい」
ギクリとした。昔の芸者さんの厳しさに触れた思いがし、この言葉は、私の脳裏に焼き付く言葉となった。
私の履歴書(平成21年2月26日朝刊)で幾つかの言葉を語ってます
長の一念
働き一両、考え五両
主師親の三徳
品質は人知
因果倶時
どれも知らない言葉でした。
そこで強調しているのが「因果倶時」。
現状が正しいという理解と同じです。
なぜ、これらの言葉に説得力があるのか。
精神論ではなく、社会に対する「見方」「見解」だからだと思う。
因果倶時(いんがぐじ)
原因と結果というものは必ず一致するのだ。現在の自分がどういう位置にあるかを知りたいと思うなら、過去の原因を見て御覧なさい。原因を積み重ねてきて結果として今日がある。将来、自分はどうなるのだろうかと知りたいのであれば今日一日積んでいる原因をみれば分かる(ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記より)。
39
集中力
谷川浩司
角川Oneテーマ
2008/09/13
将棋で、これだけの中身の濃いことが語れることが凄い。
やはり、一つの社会で成功した者の思考は深い。
91頁
これからどうなるのか先が読めない − そういう時代に私たちは生きているようである。
世界中の情報がリアルタイムで集められ、その処理技術も日々進化しているというのにである。
私は、いくら多くの情報やデータを収集しても、それだけでは、先は読めないと思っている。
もちろん、専門家には専門家の見方や考えがあってのことだろうが、先を読むのが仕事の棋士から見ると、情報をどんなにたくさん集めても、ロジカルに分析するだけでは情報におぼれるだけだということを経験から知っているからである。
将棋の一局は、初手から詰めまで普通百十手だが、それでも先を読むのは難しいのだ。どんなに読んでも十手から二十手先ぐらいまでだ。なぜなら将棋の場合は、局面の変化への対応が重要になるので、それ以上読んでもあまり意味がないからだ。まして、社会は複雑に、激しく動いている。今日の情報そのものが、明日はもう古くなってしまうのだ。
92頁
情報におぼれてもだめ、最新情報を取り入れるだけでは長続きしない。では先を読む思考とはどういうものなのだろうか。
私が将棋を指す場合は、もちろん一手、二手と展開を論理的に考えて検証もするが、直感によって読む場合が多い。その時の判断基準は感性である。
ある局面を見た瞬間に、「好き」か「嫌い」か、「美しい」か「美しくない」か、「自分に合っている」か「合わない」かという印象を持つのである。理屈抜きでパッと見てそう感じるのだ。
38
誰でも良いから殺したかった
碓井真史
ベスト新書
2008/09/13
事件が起きると、その原因を追及します。
それは正しいのですが。
そして、その原因は、親だったり、教育だったり、社会だったりするのでしょうが。
しかし、同一の原因について、同一の結果が生じるわけではありません。
同一の結果が生じない原因について、それが原因だと指摘することが正しいのか。
もし、そのような指摘が正しかったら、それは、少なくとも、倫理的な責任を負う原因にはなり得ないと思います。
15頁
その場で警官に取り押さえられた青年は、かっては中学校でトップの成績を修め、県下一の高校に通った秀才でした。
29頁
秋葉原の加害青年が、偏り過ぎないしつけを受けていたら、今回の犯行は実行されなかったかもしれません。
37
法人投資家のための証券投資の会計・税務
大和総研 制度調査部編著
大和証券
2008/09/12
素晴らしい。
一例として、キャップ・フロアー・カラー取引は変動金利を対象とするオプション取引ですとして、取り引きの概要と、会計処理を説明している。
金利スワップなら、会計処理と税務処理を説明しています。
これって、そこらのデリバティブの参考書よりも役に立ちそう。
仕訳で解説してあるところが見事。
仲間内で読み合わせをしたら、デリバティブ取引の初心者ぐらいの知識は獲得できそう。
大和証券の本店に行きましたら無料でくれました。
36
宮大工棟梁 口伝の重み ☆
西岡常一
日経ビジネス人文庫
2008/09/10
その道で成功した人達の言葉には重みがあります。
木を生かすところが素晴らしい。
曲がった木を、のこぎりでまっすぐに切るのでなく、曲がったままに使う。
1000年の建築を考えたら当然なのだと思います。
これは自分自身についても言えます。
曲がった自分は、曲がったままに使う。
243頁
正しいことは一つしかないんやということです。
「正しいという字を見てみよ、一つに止まると書くやろ」と。
「あれもいい」、「これもいい」ちゅうことは絶対ない。
245頁
時間をかけてすればだれでもちゃんとできる。はやくやって、きちっと仕上げろということなんですが、それをおまえは遅い、職人というのはなあ、頭と手と同時に動かなあかん、頭で考えていることが同時にそのまま手に出てこないかん。
35
妹たちへ ★★
日経WOMAN編
日経ビジネス文庫
2008/09/04
さすが、その道で成功した女性達ですので、読ませる文章を書きます。
さらには、弱点をさらけ出した記述など、成功したものでなければ書けない文章です。
自分の失敗などを素直に表現した、まさに「妹たち」へのメッセージです。
228頁
最後に「妹たちへのメッセージ」として送りたいのは「自己責任が大事。何でも他の人や周囲のせいにせず、人生における成功の定義も自分で作って」ということである。
つまり、「こうすれば成功する」というマニュアルはない。
私の人生を振り返っても、決して、「社長になるには。一番になるには」と思って仕事をしたことはない。人との出会いでいただいた機会に感謝し、精一杯努力をしてきたに過ぎない。
唯一心がけてきたつもりなのは、「人とではなく昨日の自分と競争する」こと。そして「昨日の自分より一日分賢くなるための努力」である。どういう仕事であれ、与えられた仕事を充実させる自己努力をしていれば、いずれ自分の人生の「成功」という定義が見つかるような気がする。
34
JRはなぜ変われたのか
JR東日本顧問 山之内秀一
毎日新聞社
2008/09/04
1日52億円の赤字が、1日26億円の黒字になるのですから、国鉄民営化は、20世紀最大のヒット商品です。
仲曽根民活は、バブルを発生させ、その後の20年の国民の苦労を生じさせたと思っていたのですが、違うかもしれない。JRの民営化なんて、国労などの組合活動を知っている者にとっては絶対に不可能なことだった。
本当に、なぜ、国鉄は民営化出来たのか。
これは不思議です。
郵政民営化も、20年後には、同じ評価になるのでしょうね。
33
平成20年度税制改正完全対応 公益法人税制
朝永英樹監修
2008/09/03
この種の書籍には、新しい制度を全面的の肯定して解説しているものが多いのですが、本書は、微妙にですが、新制度について批判的な視点が書かれています。批判は、制度を、より深く理解するために必要です。
その意味で、推薦できる書籍です。
158頁
反対に、普通法人である法人が公益法人等となる場合の普通法人の時代に生じた含み益については、課税すべき利益に対し未だ課税がなされていないわけですから、課税を行わなければならない、ということになると考えられます。
32
入りやすい店、売れる店 ★
馬渕哲+南條恵
日経ビジネス人文庫
2008/08/19
客寄せ踊り、客寄せ音頭、客追い踊り、客追い音頭、店は縄張り争いの空間、店員の身体信号、一点注意の接客方法、全体注意の接客方法、攻撃の動きを使った接客方法、容姿信号、表情信号、視線信号、空間利用信号、音声信号、動作信号、販売員空間と客空間、ひやかし商品空間とひやかし安全信号、ゆったりアクション、さくらパワー。
豊富な経験を想像させる著者の言葉の使い方です。
小売店を経営していたら、即、実践したい思想が大量に詰まっています。
もしかしたら、小売店ではなく、法律事務所にも適用できる思想なのかもしれない。
客との距離を、如何に小さくするかが、客商売の必要条件なのですから。
28頁
狩猟採集の際には、当然、安全で豊富な獲物が得られる場所が好まれたことでしょう。現代の狩猟採取現場である「店」の場合にもまったく同じことが言えます。
29頁
客には買い物を通してスリルを味わいたいという気持があることもまた事実です。いい獲物には、当然、多くの危険が伴うという感覚が客にとって入りにくい店にも強い魅力を感じさせます。どんな魅力的な商品が並んでいても、販売員が少ないセルフの店がなんとなく退屈なのは、実は、そこに危険な販売員が存在しないからなのです。
30頁
店は客が自由に出入りできる空間だと誤解しがちですが、客観的にながめると、店はそこを管理しそこに長時間存在している販売員の縄張りにほかなりません。つまり、ものを買うためには、客は、危険をおかして販売員の縄張りの中に入っていかなければならないのです。
31
やまない雨はない
倉嶋厚
文春文庫
2008/08/15
この頃は鬱の時代といわれています。
そこで、新聞で紹介されていたので一読してみたのですが。
でも、理解するには至りませんでした。
心の問題なら、「精神分析入門(宮城音弥 岩波新書)」のような学術書の方が馴染みやすい。
もし、自分の心に不安が生じたら、精神医学の書籍を山と積んで読んでしまうことだと思います。
不安を感じている自分を客観視することができれば、その不安をコントロールできるのですから。
P166
屋上に通った十日間
確実な方法をあれこれ考えたあげく、結局はマンションの屋上から飛び降りることに決めました。7階以上の高さがあれば完全だという話はどこかで聞いて知っていたからです。
写真機を持って屋上へ上がったのは、カモフラージュのためです。遠くから誰かが見てやしないかと思って、時々写真機を掲げて撮る真似だけしたりしました。
実際、一度屋上で人と会ってしまったこともあります。最上階にお住まいの方でした。写真を撮るそぶりでごまかそうとする私に「冬景色はいいですよ」とその人は言い、「私もそう思いましてね」などと受け答えしたのを覚えています。
屋上からあたりを見渡すと、通りを歩いて見知った町とはまた別の風景が広がっていて、これまで気づかなかったいろいろなものが目に入ります。遠くのマンションの窓に人影を認め、ああ、あそこにも人が住んでいるんだな、などと思ったりもします。こちらから見えるのだから、向こうからも屋上のへりに立つ私が見えるはず。何をやっているんだと見筈められたらどうしようと思うけれども、意外と誰もこちらに気づきません。私が立っている場所からよく見える道を毎日通っていた水口さんも、屋上に立つ人影には一度も気づかなかったようです。
30
医療の限界
泌尿器科医師 小松秀樹
新潮新書
2008/08/15
医療の基本言語は統計学だそうです。
同感です。
私が手術を受けるときは、仮に医者のミスで死亡したとしても、医者を訴えるなと、家族に言い聞かせておこう。
幾つかの選択肢から一つの治療法を選択することは、その結果が悪かったとしても、ミスとはいえない。
P19
しかも、日本人の少なからざる部分が、生命は何より尊いものであり、死や障害はあってはならないことだと信じています。一見、筋が通っているようですが、そのために死や障害が不可避なものであっても、自分で引き受けられず、誰かのせいにしたがる。私は、あえてそれを「甘え」と呼びます。しかし、メディアや司法はそれを正当なものとみなし、ときに十分な責任を果たしている医師を攻撃するのです。
P20
医師はみなヤブ医師である。なぜなら、いくら医師が努力しても必ず失敗して、人間はいずれ死ぬから。
P22
とくに救急医療の現場では、常に最適の医療が最速で提供できるわけではありません。すべての患者の病状に応じた完壁な準備などありえないし、そこに居合わせた医師個人にそれを求めるのは無理というものです。野球にたとえるなら、10割打者でなければ「おまえはダメなやつだ」というのと同じです。
医療行為は不確実です。医療の基本言語は統計学であり、同じ条件の患者に同じ医療を行っても、結果は単一にならず、分散するというのが医師の常識です。
29
会社法体系2巻 株式・新株予約権・社債
青林書院
2008/08/13
商法は、民主主義の実現でした。株主には、株式数に応じて投票権があり、選任された役員は、会社の為に業務を遂行する。少数株主であっても、会社の所有者として、会社の意思決定に参加する。
しかし、会社法は、独裁政権の実現です。株主は、株式の種類に応じて差別され、永久に投票権を持たない株式が発行されます。支配株主の判断一つで、少数株主は、全部取得条項種類株式などを悪用した手法で追い出されてしまう。
誰も批判しないのかと思っていましたら、真っ当な学者が、ここらを批判してました。
P51
株主の平等を定める会社法109条1項の規定は,その廃止を含めて早急に見直されるべきである。それまでの間,この規定は,資本団体及び社団としての株式会社の本質に照らして,株式会社が,株主を,株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うならば,平等原則(恣意的差別の禁止)に反しないことを一般的に宣言した規定と解するのが妥当である。そして,将来,平等原則を立法するのであれば,会社法109条1項の規定を改正して,「株式会社は,株主を,合理的理由なしに,不平等に取り扱ってはならない。」と定めるのが適切であろう。
28
会社法体系4巻 組織再編・会社訴訟・会社非訟
青林書院
2008/08/13
情報を追いかけていると、あの気持の悪い会社法の立案担当者のおかしな発想に毒されてしまいます。
やっと、まともな学者の会社法の解説書が登場してきましたので、軌道修正のために読破しています。
会社法、あるいは会社計算規則の条文は弁護士にも読みこなせません。
弁護士に読みこなせない条文が、一般社会の法規範となっていることに、誰も、疑問を感じないのでしょうか。
P85
会社法施行規則183条6号等は「履行の見込み」の開示しか要求しないので,会社法のもとにおいては会社分割の実体要件ではないのかが問題となるが,会社法施行規則の規定の仕方は,会社法制定前の登記実務が上記旧商法の規定文言を理由に分割会社・承継会社・設立会社のいずれかが帳簿上債務超過であると分割の登記を受理しなかった点を改めさせる必要から行われたと伝えられ,そうであれば,会社法のもとでも,いずれかの会社に債務の履行の見込みがないことが会社分割の無効事由となる。
27
市場検察
村山治
文藝春秋
2008/08/11
朝日新聞の記者が書いた検察構造の解説書です。
談合なんて、私が司法試験を受験したときは、講学上の条文でした。
しかし、これが適用されるようになってきた。
その歴史的な背景を説明しています。
重いですね。
しかし、さすが新聞記者なので、読みやすい文書を書く。
それと、UFJ銀行は無罪だったのですね。
検察庁や、金融庁などの国家権力に目を付けられたら終わり。
恐ろしい社会です。
P34
日本の独占禁止法は、敗戦後の占領時代、連合国軍総司令部(GHQ)による経済民主化の一環として1947年に導入された。そもそもアメリカをルーツとするこの法律は、それまでの日本の統制経済と真っ向から対立するものだった。
占領下に導入されたこの独占禁止法は、その後の東西冷戦の進展によって、封印されることになる。
それが、東西冷戦の終結により再び大きくパラダイムが変わる。その本格的な始まりが80年代の後半からの日米構造協議だった。アメリカは米国企業の日本市場への参入を後押しするため、長らく放置してきた「独占禁止法」の強化を、半ば強引に要求するようになった。
P42
東京国税局が90、91年度に管内のゼネコン各社に対して行った税務調査では、いずれも2年間で鹿島が計約31億9000万円、清水建設が約62億4000万円、大成建設が約55億8000万円を自己否認していた。
P52
大手も、指名競争入札で指名された場合にいちいち工事の見積もりをしていたら、費用がかさんで経営が圧迫される。指名機会が多い超大手業者は取るつもりのない工事まで見積もりをしていたら身が持たない。業者間で調整し、無駄な見積もりを避けるべきだ。
P317
検査妨害が、それらの経理処理の不正を隠すための行動だったとすれば、有価証券報告書に虚偽を記載した証券取引法違反(粉飾決算)の疑いが出てくる。決算にかかわる事柄は、頭取の職務権限に属する。当然、頭取の刑事責任も問われることになる。
ただ、事実は、それほど単純ではなかった。04年3月期は株式市況が改善し、UFJは4000億円の益出しができた。それぐらい余裕があり、決算の実態を隠す動機がなかった。
特捜部の調べに対し、UFJ側は、厳しい方の決算案にもとづき1兆数千億円の積み増しをすることになったのも、主任検査官の目黒が強く指導し、その剣幕に監査法人が同調したためUFJとしてはやむなく応じたものだと説明した。
捜査を通じて、特捜部は、目黒が指導の根拠にした金融庁の基準や目黒の適用の仕方が正しいのか、という問題もあると考えていた。金融庁の不良債権区分マニュアルは、検査官によって判断が違っていた。債権評価は判断する人によって異なる。融資先の成長性や経営者の能力評価によって60%の危険とみるか、40%とみるかの差が出てくる。それに引き当て金を積む基準もあいまいだった。
P319
結局、いくら行員を追及しても、頭取が検査妨害に関与した証拠は出てこなかった。
特捜部の聴取を受けたUFJの監査人「中央青山監査法人」の公認会計士は「引き当て率について、急に金融庁の方針が変わったため、積み増しを求めた。自分たちはUFJの黒字決算を承認するつもりだった」と供述した。
会計士の供述通りなら、UFJの検査忌避に関わる事業年度は黒字だったことになる。だとしたら、むしろ、UFJは「被害者」だった可能性もある。
26
ダメな自分を救う本 ☆
石井裕之
祥伝社
2008/08/10
「16歳の教科書」に執筆している著者の書です。
潜在意識は「ないもの」を理解することは出来ない。
「ピンクの象をイメージしないで下さい」と言われると、頭の中はピンクの象でいっぱいになってしまう。
だから、「ないもの」ではなく、「あるもの」「出来るもの」をイメージするところから始める。
16歳の教科書が大人にとっても良い書籍であったのと同様に、年齢を問わず、良書です。
18頁
「いま、この瞬間に自分に何ができるか?」
……
いつかそのうち……ではない。
来年でもない。
来週でもない。
明日ですらない。
「いま、この瞬間」に出来ることを考えるのです。
いま、この瞬間に君が何をするか?
それが全てです。
25
プリズン・ストーリーズ
新潮文庫
ジェフリー・アーチャー
2008/08/08
国会議員になり、サッチャーに気に入られ、詐欺に遭い、詐欺をして、刑務所に入り。だから、多数の弁護士と知り合いで、裁判制度の隅々まで、実感として理解している作家だろう。
で、彼が、刑務所の愉快な仲間達について、また、短編を書いた。
41頁
「弁護士に相談しなくちゃ」
クリスは渋々同意したが、弁護士がどう考えるかについてはいささかも妄想を抱かなかった。法律はあなた方の味方ではない、従って成果を保証できない以上、郵政公社を訴えることは勧められないと、おのれの職務に忠実な助言をした。
P101
「その逆に……」と、サムが言いかけた。
「まったくひどい人種だよ、弁護士ってやつは」ディックは相手にみなまで言
わせなかった。
「ふしぎなことにきみたちは困ったときだけわれわれを頼りにする」と、サム
が言い返した。
24
国税査察官
立石勝規
講談社文庫
2008/08/06
私自身、愚痴を言いながらも、いま現在の仕事を楽しんでます。
では、銀行員になったら、何が、楽しいか。
メーカーの研究職になったら楽しいのだろうか。
コックになって料理を作るのも楽しそうだが。
で、身近な職業の楽しさを語っている書籍がありました。
作者の内部考察は確かなので、この感覚も、確かだと想像します。
P119
国税局の新人は数年、税務署を回る。税金を逃れたカネを追いかける時、彼はゾクゾクするものを感じた。自身でも予想もつかなかった反応である。地下へもぐったカネの行く先をつかんだ時には、何ともいえない満足感を覚えた。篠崎自身も気がつかなかったが、獲物を追い詰める「ハンターの血」が彼に潜んでいたらしい。
宅間の推薦で査察部に配属された篠崎は、より大きく悪質な脱税事件を追うことになる。獲物を仕留めた時の満足感は、税務署時代と比べものにならない。
23
西遊記
平岩弓枝
毎日新聞社
2008/08/05
日経新聞の私の履歴書に平岩弓枝が登場したので「西遊記」を手に入れてみました。
これだけの文章が、なぜ、書けるのか。
文章を扱うのが弁護士ですが、しかし、作家の文章とは比較しようもない。
87頁
「およそ、師となる者は、弟子と共に学び、共に精進し・共に成長するのです。其方が未熟者なら尚更のこと、共に錬え合ってこそ、まことの師弟と申すものです」。
22
遺留分の法律と実務
相続・遺言における遺留分減殺の機能
埼玉弁護士会編集
ぎょうせい
2008/08/04
相続人に対する贈与は、1年を経過した部分も遺留分減殺の対象に含まれる。
これが最高裁判決ですが、その理屈が分からない。
1年を超えた分は遺留分の対象に含めないという論も、ちゃんと存在したのですね。
特別受益の価額を遺留分減殺の対象に含めることについては、消極説と積極説の争いがあったと本書が解説しています。
消極説の根拠は、特別受益の持ち戻しと遺留分の減殺とは制度的な意義を異にし、遺留分算定と遺留分減殺の対象とは必ずしも一致しないということ。私は、理屈の問題としては、この消極説を支持します。
しかし、この点については上記の最高裁判決で、積極説ということで結論がでたことになります。
では、生前贈与を受けた者が、相続を放棄し、特別受益の計算に含まれなくなった場合は、遺留分減殺の計算では含まれることになるのか。これが残った疑問です。
21
逐条解説会社法 第2巻 104条〜187条
中央経済社
2008/08/01
真っ当な学者の論は、読んでいて気持がよい。
立案担当者の気持の悪い説明とは、ちょっと次元が異なります。
学者の議論で、正常な会社法の理屈が構築されることを期待します。
逐条解説ですから、全文を頭から読み始めることは不可能です。
しかし、気になった条文について「解釈上の問題点」だけ読んでも面白い。
法律は、そもそも面白いものです。
天才と秀才が論じているのを読み聞きする限りは。
108条 95ページ
しかし、組織再編対価を柔軟化し、少数株主の締出しを認めた前提として、そのような締出しには経済的合理性があるという理解があったのであり(江頭憲治郎『結合企業法の立法と解釈』260頁以下(有斐閣、1995年)参照)、経済的合理性のない株主の締出しや権利内容の変更を行うことを主たる目的とした合併が適法といえるかは疑わしい。
したがって、全部取得条項付種類株式を利用すれば、特別多数決によって、どのような場合にも少数株主の締出しを適法に行うことができ、株主の権利内容をどのようにでも変更できると解することは妥当ではない。
すくなくとも、対象となる株主全員の同意が必要となる取得条項を付すための定款変更(会社110条・111条1項)について、厳格な手続規制を潜脱する目的で、全部取得条項付種類株式を利用する(取得条項付株式を取得対価とする全部取得条項を付す)ことはできないと解すべきである。
20
創業家物語
有森隆
講談社
2008/08/01
51のオーナー会社について、事業の始めから現在に至るまでを6頁ほどで上手にまとめています。
私自身が、いままで見聞きしてきた情報と照らし合わせても、正確な記述だと納得します。
西武王国の愛人問題や、ダイエーの子への事業承継へのこだわりなど。
最初から最後まで通して読む書物ではなく、ヒマなときに、ふと手にとって、気になった会社についての記述を読む本です。
19
そうだ、葉っぱを売ろう! ★
横石知二
ソフトバンククリエイティブ
2008/7/29
80歳のお婆さんが、パソコンを駆使し、年収1000万円を稼ぐ。
葉っぱを売るシステムを発案し、作り上げた農協職員。
なぜ、誰も真似ができないのだろうか。
必要なのは、葉っぱではなく、熱意のある企業家なのだ。
P214
いま私がやっていることは、後継者を育てること。このことができなければ、町は消えてしまう。
その具体策は、夢の種を蒔くことである。後継者を育てるには、いまの自分自身が輝くことから始まり、夢の種を蒔かなければならない。気を育て、後押ししてあげること。
95歳になる中野フクエさんは、75歳で「彩」を始め、自分で夢の種を蒔いてみた。そのことによって、子どもさんが戻り、孫さん夫婦まで子どもを連れて帰ってきた。
おばあちゃんの言った「やってみるって、大事やな」「自分が踏み出る勇気やな」と語る言葉に、幸せをつかんだ人の喜びがあふれている。
夢の種を蒔くことが、地域を再生することの出発点にもなるだろう。
18
最後の授業
ランディ・パウシュ
ランダムハウス講談社
2008/7/27
3Dグラフイックソフトを造ったカーネギーメロン大学の46歳の教授が、膵臓癌の宣告を受け、余命4ヶ月の段階で行った最後の講義。
ネットを通じて数万人の人達が、この講義を聴いたとか。
私も、英語が聞き取れれば聞いてみたい。
作者が語る米国ユーモアが見事です。
P18
研究者として、僕は何回かすばらしい講義をしてきた。でも、コンピュータサイエンスの分野で最高のスピーカーと思われることは、言ってみれば「七人の小人」のなかでいちばん背が高いというだけのこと。それに、そのとき僕は、自分のなかに伝えたいことがもっとあるのだと感じていた。
27頁
スティーブは、歯科医に行ったばかりだと言い、僕は二度と歯科医に行かなくていいんだと自慢した。
239頁
飛行機の客室乗務員の言葉を忘れないようにしている。
まわりの人を手伝う前に、自分が酸素マスクを付けて下さい。
242頁
拍手が鳴り止まなかった。その音は遙か遠くで鳴っているみたいだった。
ジュディが僕の耳元でささやいた。
「お願い、死なないで」
17
16歳の教科書 ★★★
なぜ学び、なにを学ぶのか
著者7名の特別講義
講談社
2008/7/21
国語を、なぜ、学ぶか、どのように学ぶか。
英語なら単語の記憶から始めればよい。
数学なら公式の理解から始めればよい。
「学力」とされるれるものは、ほとんどが記憶力のことなんです。
しかし、国語の場合は、新しく覚えることが非常に少ない。
と、論を進め、国語はコミュニュケーションの問題だ。
だから、「非常に美しい」という信条以前に、なぜ、美しいのかを客観的に語る必要があると、論を進めています。
私は、国語は、思考のツールだと思います。
人間は、言葉でしか思考しない。
「赤いリンゴ」といっても、頭の中に赤いリンゴは浮かんでこない。
だから、国語が出来ない人達は、思考も出来ない。
税理士であれば、通達を、その文字のままとしか理解できない人達です。
P50
でも、数学で学ぶのは「知識」じゃないんです。
もっと根っこのところにある「数学的思考」、つまり、ものの考え方や論理の進め方などを学ぶのが、数学という学問なんですね。
だから僕はいつも、数学力とは「真実を見抜く力」だと言っています。
たとえば、大人になってインチキ臭い儲け話を持ちかけられたとする。ネズミ講とか、マルチ商法みたいな話、あるいは「絶対に値上がりする株があるよ」といった投資話ですね。ここで数学力の弱い人は、すぐに「それは素晴らしい!」と乗ってしまいます。
しかし、数学力のある人なら、
「結局、ここで最終的に儲かるのは誰なのか?」
「自分の支払うお金はどこへ流れ、自分にどれだけ返ってくるのか?」
「その保証はどこにあるのか?」
「この営業マンの語っているロジック(論理)に、おかしな点はないか?」
などを冷静に判断することができます。
つまり、世にあふれるインチキを見破り、そのウラにある真実を突きとめることができるんですよ。
怪しい儲け話、インチキ宗教、詐欺、それから犯罪。これらに巻き込まれないためには、数学力って絶対に必要な力であり、自分の身を守る術なんです。
P99
そういう意味でいうと、大学入試っていうのは、初めて「世の中は厳しい」という現実に直面する大チャンスだと思うのです。
たった1点で、居場所さえ奪われてしまう。
オマケもお情けも通用しない。
真の実力主義で貫かれた世界ですから。
受験とは、皆さんを「一人前の大人」にしてくれる大きなチャンスなのです。
P126
「自分」は最大のミステリー。解くことはできない。
だけどね、手がかりを得ることはできるんだよ。それも日常のなかで。
それが「違和感にこだわれ」ということなんだ。
世界はいろいろな意味で完成されてはいません。誰も異を唱えたことのない不合理がたくさんある。
至るところに「穴」が空いているんだよ。
もしみなさんが「あれ?なんでこんなことが見過ごされているんだろう」って思ったとしたら、チャンス到来。
その違和感を握りしめてほしいんだ。
誰もが見過ごしている大きな穴ぼこ、そこに違和感を感じる「感度」自体が、みなさんの個性だからです。
政治に違和感を感じたら、素通りしないでその違和感を追求してみる。
もしかしたらそれが契機で政治学を専攻することになるのかもしれない。ひょっとしたら将来、政治家や新聞記者になるのかもしれない。
英語の文法ってなんかヘンだよな。そう違和感を感じたら、立ち止まって考えてみる。やがては僕のように言語学者や英語教師になるのかもしれない。
自分の心に宿った小さな違和感、小さな不本意、小さな不自然。
それを放置しないことだよ。虫眼鏡で拡大して見極めるんだ。
その問題意識の中にこそ、大切な大切な「ほんとうの」自分が住んでいるんだからね。
僕もそうやって、いまの仕事に辿り着いた。
ちなみに僕の違和感は「なぜこれほどの時間・労力をかけても英語はものにならないのか」です。それだけを朝から晩までもう10年以上考え続けています。
ふと芽生えた違和感はね、ときとして人の一生を左右するほど大切なものなんだよ。
16
他人より年収10倍稼げる税理士になる方法
田中弘・本郷孔洋
すばる舎リンゲージ
2008/7/21
この3ヶ月内に弁護士の業務開拓の書籍を二つ読みました。
そして、税理士についての、この書籍を手に取ったのですが。
弁護士の場合は、筆者の筆の運びが、如何に評価される弁護士になるか。
評価される弁護士は、どこが違うか。
スキルを磨いてきた人達と、スキルの磨き方。
というトーンでした。
でも、税理士の場合は違うのですね。
如何に客を探すか、如何に儲かる商売をするか。
その趣旨の手法を探すのが目的であれば、先人の知恵として一読の価値があります。
弁護士増員で、弁護士業が税理士業と同じになってしまうのは近いと思いますが。
弁護士には、無罪判決、弱者救済、反権力、理論派などの良い伝統を守って欲しい。
15
聖域
篠田節子
集英社文庫
2008/7/21
購入してから気が付いたのですが、この小説は以前にも読んでました。
この作者の小説は、全て、読んでいるので当然のことだったのですが。
「神鳥イビス」が一番で、次が「カノン」でしょうか。
カノンは賀来千香子の主演でビデオになっているのですが、テーマを変えてしまっているのが残念なところです。
さて、聖域を再読してみました。
文末の紹介にあるように、この作者の魅力は「卓越した文章の美しさ」。
見事なストーリーですが、それも文章という技術を経なければ読者には伝わりません。
日々、書面を作成することを生業としているのが弁護士です。
視点を変え、論理を逆転させるというのが弁護士に問われる文章力です。
しかし、この作者の文章は、劣等感も感じさせないほどに見事な文章です。
14
タクシー王子、東京を往く ★
川鍋一郎
文藝春秋
2008/7/14
日本交通の三代目社長が、1ヶ月間、タクシードライバーを経験した経験談を書籍化したものです。
巨額な債務を抱える会社を再建し、いま、若手の経営者として注目を浴びている社長。
留学の経験があり、黒タクを採用し、業界を変えた経営者。
英語も不自由なく話せる。
まさに、さわやかで、欠点を指摘することが出来ない社長の現場経験論。
全体として肯定的であり、肯定的だからこそ、会社の再建ができたのでしょう。
欠点を指摘することが出来ないほど、完璧な人材。
ということを、タクシードライバーの経験を書き起こした本書からも感じます。
確かに、カネ持ちの王子だ。
日本交通のタクシーに乗るのが楽しみになります。
13
鈴木敏文の本当のようなウソを見抜く ★★
セブンイレブン 鈴木敏文
日経ビジネス文書
2008/7/14
弁護士自身が、弁護士増員論を主張しています。
経済原則に従えば、供給の増加は、価額の下落でしかない。
何故、自分の価額を下落させる運動をするのだろう。
そのような主張をする弁護士の視点にあるのが「市民」なのですが。
「市民のために」という言葉が出ると、反論を許さず、思考停止になってしまうのが弁護士。
P32
「顧客のために」という言葉を社員に禁じる
鈴木流の売り方説法は、巷に氾濫している最も一般的な常識を覆すところから始まる。例えば、あなたは仕事で思うように成果が出ないとき、こんなふうに思うことはないか。
「自分は顧客のためにこんなに努力しているのになぜ売れないのか」
もし、あなたがそう思い悩んでいるとすれば、売れない理由は「顧客のために」と考えていること自体にある。顧客満足度が重視される今の時代には、「顧客のために」という意識こそが求められていると思われがちだが、「これには”本当のようなウソ”がある」と鈴木氏は言う。現に、IYグループにおいては、「顧客のために」という言葉を使うことを社員に禁じているほどだ。それはなぜか。本人に理由を語ってもらおう。
12
弁護士の転職と就職 ☆☆☆
弁護士ヘッドハンターが語る25の経験則
弁護士 西田 章
商事法務
「スキルを磨くのではなく、スキルを磨ける環境を確保することが重要」と、弁護士の就職斡旋業に転業した弁護士が書いてました。
この言葉って、その後、たぶん、30回は、成る程と思っています。
こういう視点に気が付く弁護士は天才だと思います。
「数多くの経験を積むのではなく、1つの経験から幾つ学べるかが必要」と、私は思っています。
これも重要な視点だと自画自賛しています。
スキルを磨こうと焦っても、空回りするだけ。
経験を積もうと焦っても、空回りするだけ。
だから、スキルを磨ける環境を確保することと、1つの経験から幾つもの知識を学び取る視点が重要。
11
弁護士のためのマーケティングマニュアル ☆
船井総合研究所
第一法規出版
P19
私がこれまで500名以上の先生にお話を伺った中で、同じような環境にあっ
て、依頼者が非常に多い先生と、そうではない先生との違いの一つは、「語るべ
きこと、語れること」を持っておられるかどうか、であると思います。
130p
対応スピードが遅いことは、おそらく致命的ではないかと思います。弁護士が
少ない時代で、頼れる人が1人しかいないという状況では許されるかも知れませ
んが、そうではないとすれば、十分に乗り換えられる理由になるのではないでし
ょうか?
P162
弁護士の「商品力」ということを考えると、あれもこれもできる、できる分野
が多い、ということも大きな強みですが、「ある分野で、一番である」というこ
とも、大きな強みと言えます。
10
アフガンの男 上下
フレデリック・フォーサイス
角川書店
フォーサイスの著作は、ほとんど全てを読んでます。
長編も良いのですが、短編も良い。
帝王とか、シェパードとか。
でも、今回のフォーサイスは難解で読み難く、つまらない。
ニューヨークテロの後に、さらに大規模なテロが計画されているというキーワードを手にれた。
米国は、テロの内容を探らせるためにスパイを送り込む。そのスパイが主人公。
これだけの調査をしての執筆は、さすが、フォーサイスだ。
9
新公益法人の制度・税務・会計
都井清史
学陽書房
書き出しの最初の4ページで、既に、次の情報が掲載されている。
実利、実学の書と期待できる。
特例民法法人は、非営利法人になるのを、出来るだけ先延ばしするべきなのだ。
もっとも、所得の内容を考えてからですが。
法人税の節税メリットから見た順位
1 公益社団法人及び公益財団法人
2 特例民法法人
3 収益事業課税が適用される一般社団法人及び一般財団法人
(非営利型法人)
4 全所得課税が適用される一般社団法人及ぴ一般財団法人
8
粉飾の論理
高橋篤史
東洋経済社
この書籍は、業界のことが、なるほど納得の状態で書かれている。
だから、私の知らない箇所の記述も正しいのだろうと信頼できる。
P.297
「(自分たちが示した)条件を逆手にとられて、書類を全部揃えてきた。ダメとも言えなくなってしまった」
徳見はその時の心境をそう語っている。
P.299
佐藤らはカネボウ側から個人的な便宜を受けていたわけではなかった。粉飾を容認したことで直接の経済的利益を得てはいない。
わざわざ問題取引先の財務調査に入り、その損益計画の妥当性について検討を加えるなど、カネボウと中央青山監査法人との関係が緊密だったことは間違いない。
だからと言って、中央青山が得る監査報酬が特別に高額だったわけでもない。
事業部門やグループ会社が多岐にわたり、問題案件も多かったカネボウの監査は、むしろ手間がかかり、効率が悪かった。両者の関係に「癒着」と言うほどの積極的な意味合いを見つけることは難しい。
結局、「馴れ合い」という言葉が、関係性を言い表すには適当なのかもしれない。お互いが易きに流れたのである。おそらく最初は小さな綻びだったのだろう。それが修復されないまま、馴れ合ううちにどんどん広がってしまった。会社側はそれを取り繕おうとするあまり適切な会計処理から逸脱し、会計監査人は消極的な姿勢に徹することで結果的にそれに加担してしまった。
実のところ、カネボウの監査において佐藤らがターニングポイントと言えるような大きな選択を迫られたという場面はない。「騙された」と叫ぶほどの最善さえ尽くされなかったのが実相だ。呆れるほどの無自覚と終わりなき逃避だけが、そこでは繰り返された。その行き着いた先が2000億円を超す粉飾決算だったというわけである。
法廷で見る三人の会計士たちは、その職業が持つ厳粛なイメージからはおよそかけ離れていた。そこにあったのは、弱々しい中年男性の姿でしかなかった。
7
いったい誰を幸せにする捜査なのですか
草薙厚子著
光文社
「僕はパパを殺すことに決めた」を書いた著者の書です。
検察との50日間闘争
検察官の嘘、罠、暴言なんてタイトルがついてます。
供述調書の引用が書籍の大部分を占める書籍を著書として発行して良いのか。
少年法の精神を、どのように考えているのか。
取材源が簡単に露見してしまう資料の引用について、何も考えなかったのか。
人間、身勝手になれば、何にでも理屈が付けられるという一例。
この著者の本音の会話に興味があり、最後まで読んでみる予定。
6
中小企業のための組織再編成の会計・税務と申告書作成の実務
佐藤信祐著
清文社
佐藤氏も、精力的に執筆しています。
非適格組織再編成について「のれん」と同月発売です。
実務上のポイントとして100個の注意点が掲載されてますが、それをチェックしながら、自分の知識を確認してみるのも面白いかも。
著者は、とりあえず、組織再編成に留まっていた方が良さそうです。
しかし、組織再編成について、筆頭の専門家であることは確か。
5
組織再編におけるのれんの税務
佐藤信祐
中央経済社
やはり、これは買いです。
組織再編成税制は、適格から理解するのではなく、非適格から理解すべきだと。
そして、企業結合会計基準の定めなどと比較しながら、対価の時価算定などについて論を進めています。
企業結合会計基準は、非適格組織再編成を基本としています。
だから、並行して解説していただければ、税法と会計の両者が理解できるのではないかと。
4
リクルートのDNA−起業家精神とは何か ☆
江副浩正
角川書店
書評を頼まれた。
リクルート出身の起業家や経営者の方々にお会いすることが多い。
彼らは共通して、活動的できびきびとした雰囲気を持ち、自分の仕事に対して常に前向きである。
そのような人材を集めたのか、リクルートの社風に育てられたからなのかと常々疑問に思っていたが、この本を読むにしたがい、それがリクルート特有の自由闊達な雰囲気と、優れたマネジメントシステムの賜だと知ることができた。……以下略……
3
死刑弁護人 ☆
安田好弘
講談社α文庫
やっと読み終わりました。
で、最後が次の一文。
安田弁護士の文章を引き継いで、最後に新聞記者が書いた文章です。
安田弁護士なら、このような書き方をしなかっただろう。
P430
強制執行妨害の罪に問われた安田に、無罪の判決が言い渡された。
判決理由の朗読が続く。検察の立証をアンフェアと批判し、安田をタフ・ネゴシエーターと形容した裁判長は、もういちど陳述台に立つよう安田を促し、向かい合って語りかけた。
「あなたとは、また法廷で、こんどは別のかたちでお会いしたい」
私は支援者とともに法廷に座っていたが、安田がこみ上げた感情を抑えきれず、ほんの一瞬だけ、涙と唾を噴き出したのを見た。
2
ジェネラルパーパス・テクノロジー
野口悠紀夫
アスキー新書
何時もの野口教授の主張です。
物を造ってないで、googleに学べと。
でも、小さな言葉の一つずつに教訓があります。
P5
つまり年功序列制は、ITの導入や活用に対して、抑制的に働くのである。
P23
その結果、アイルランドの一人当たりGDPが日本を抜いたのだ。すでに見たように、10年前に日本の半分の水準であったアイルランドの一人当たりGDPは、いまや日本の倍近い水準になっている。
P47
ITがもたらす巨大な変化は、産業革命に匹敵する。産業革命のときと同じような変化が、情報処理に関して現在生じつつある。それによって、本章の1で述べたように経済活動が大きく変わり、世界経済の構造が大きく変わった。したがって、この変化を「IT革命」と呼ぶのは、まったく適切なことだ。それは経済活動をすでに大きく変えたし、今後も変えてゆくだろう。
1
民事訴訟における事実認定
司法研修所
法曹会
「動かない事実」がなぜ重要かと言えば,それは,当事者が展開する,若しくは裁判所が仮説として得た「ストーリー」を検証する試金石となるからです。
証言を聞くとき,記録を読むときには,常にストーリー(仮説)をイメージしながら,これを検証するつもりで当たることが重要です。そしてその場合に,既存の証拠と対比するだけではなく,その仮説を前提としてあるべき証拠はそろっているか,ないとすればなぜそれがないのかといった形で,積極的に検証していくことが大切です。
白紙の状態で証拠に向かっても正しい認定はできません。弁論等を通していろいろなイメージ,ストーリーを自ら多重的,複眼的に用意して,集まった証拠を総合して,どのイメージが合うかを探り当ててゆくのが事実認定であると思います。
つまり,主張整理段階で,各当事者が主張するストーリー(仮説)をきちんと出させ,いわば対立の軸を明らかにした上で,それぞれの主張にどの程度の合理性があるか,証拠の裏付けがあるかなどの一応の見通しを立てるわけです。言い換えれば,この段階で反対尋問の先取りをしてそれぞれの主張をテストし,事件の筋を見分けるのです。かつて言われていたように,証拠調べは白紙の状態で臨んだ方がいいというのは,適当でないと思います。
0
新幹線ガール ★
徳淵真利子
メディアファクトリー
新幹線でのワゴン販売ですが、アルバイトから始め、1年4ヶ月目には個人別ワゴン売上ランキングの1位になった女性の著作です。
個人の平均売上高の3倍を売り上げているそうです。
東海道新幹線に乗るのが、ちょっと、楽しみになりました。
何時も、コーヒーを頼んでますが、次回も、絶対に。
190頁
最後に、この本を読んで下さったすべての方々が、新幹線のことを好きになってくれればとても嬉しく思います。皆様のご乗車をパーサー一同、心からお待ち申しております。
1
資本開国論 ☆☆
野口悠紀夫
ダイヤモンド社
どの頁を開いても読ませる一文が登場します。
みんな、本を読もうよね。
小学校の先生も言っていたし。
148頁
社会保障負担は日本企業の国際競争力の大きなマイナス要因になっている。
厚生労働省の基本ケースでは、将来の年金額の現役世代の収入に対する比率は51.6%になる。
150頁
精算金を用いて民間保険と契約することとする。このような清算ができるかどうかを計算してみよう。一定の思想の下で計算すると、不足額は、実に800兆円程度と信じられぬほどの巨額なものになる。言い換えれば、年金制度は「もはや止めることができないから続けるしかない」という恐ろしい状況に陥っている。
153頁
小泉構造改革がリップサービスとパフォーマンス以外の何物でもない事を示す何よりの証拠である。
154頁
欧米諸国の歴史を見ても、議会は、税に関する事項を君主の先決に任せないために設けられた。フランス革命も、アメリカの独立戦争も、税の問題が革命の発端になっている。
2
貸し込み 上下2巻
黒木亮
角川書店
巨大投資銀行の黒木亮氏の新作です。
今回は日本の銀行の融資に関するトラブルと訴訟。
どうも、実際に訴訟を経験したか、あるいは実際の訴訟の記録を見ながらの執筆と思います。
準備書面や、証拠の申請、書証の成立の推定や、それを拡大した最高裁判決に対する批判などが登場します。まだ、1巻目の60頁なので、満足な紹介は出来ないのですが。
弁護士として読んだ場合には、巨大投資銀行ほどのインパクトは感じません。
3
入門信託と信託法 ☆☆☆☆
樋口範雄学習院大学教授
弘文堂
良い本だった。
信託は、契約でなく、信任関係なのだ。
医者に診察を任せ、弁護士に財産の管理を任せ、社長に経営を任せる。
だから、信託財産を、受託者の財産と分離するという倒産隔離まで認める。
それは、委託者の信頼に、受託者が応えるためなのだ。
信託受益権は、債権ではなく、物権なので、第三者に対しても信託受益権を主張することが可能。
受託者には梨花の冠が要求される。
自己の利益追求のために行動することは禁止されるのは当然として、適正な価額でも、自己が信託財産を買い取ることは禁止される。
受託者が権利を濫用した事例についての裁判の歴史を経て、磨き上げられたのがイギリスの信託制度。信託法は、イギリスでは基本法という位置付けられている。
イギリスを代表する法制史家は、イギリス人がなした法律上の貢献で最大のものは信託だといった。「法律上はも何ら問題がなくても、いったいそれで貴方の良心に恥じるところはないのか」というのが受託者の義務なのだ。
信託法が、エクイティ裁判所による個別の倫理的判断と実践の「結晶」であるとすれば、その伝統のない日本において、信託はどのようにして「継受」しうるのか。憲法に引きつけて言えば、そのようなエクイティの伝統とその倫理的な背景を欠いている私たちは、国民と国家との関係を本来の意味で「信託」関係として正しく把握できるのか。信託の意義をつかみ損ねた私たちは、結局、国民と国家との関係を「親子」関係と理解する戦前の観念から脱することができないのではないだろうか。樋口先生の本は、このような重たい問いを私たちに突きつけているように読めました。信託に関心のある方もない方も、是非お薦めしたい一冊です。
4
死刑執行人サンソン ☆
国王ルイ16世の首をはねた男
集英社新書
フランス革命、独立戦争、大政奉還は、全て、税法が原因だと思うのですが。
フランス革命前夜から、断頭台までを、死刑執行人サンソンが語っています。
98%が第三身分だったのですね。
日本の場合は、武士と農民の割合は、どの程度だったのだろう。
P49
シエイエスは言う。
「第三身分とは、何か? …… すべてである。
政治の領域において、これまで第三身分は何であったか? …… 何ものでもなかった。
第三身分は何を求めているか? …… 政治において、何ものかになることを」
これまでのフランスは身分制社会だった。日本の「切り捨て御免」ほどではないにしても、身分によってかなりの格差があった。第一身分が僧侶、第二身分が貴族、残りが第三身分で、人口の98パーセントは第三身分だった。
ただ、僧侶が第一身分とはいっても、ほとんど王侯のような暮らしをしている枢機卿や大司教といった一握りの高位聖職者と、一般の住民の間で生活しているその他大勢の司祭たちとの間には利害の対立があり、この後者の僧侶たちの立場は第三身分に近かった。実質的に社会の実権を握っていたのは第二身分の貴族階級であり、2パーセントにも満たない人間が国の中枢を牛耳り、98パーセントの人間を支配していたのであった。
P50
この年の5月に、175年ぶりにヴェルサイユで3部会が召集されることになっていた。
各身分の代表を選ぶ選挙はすでに終わっていた。宮廷が3部会の召集を決めたのは、財政再建に国民の協力を求めるためだが、ルイ16世の呼びかけに応じて、宮廷には財政以外のさまざまな問題についての陳情書もフランス全土から多数寄せられており、3部会ではこれらの問題も論議されることになっていた。この3部会が、やがては国会(立憲国民議会)に発展するのである。
5
最強の投資家 バフェット
牧野洋
日経ビジネス文庫
これはインパクトのある著作です。
「学者達は、こんな実績を合理的に説明できず、事実上、研究の対象から外しているほどだ」
「テクニカル分析は、…… 米国では賢明な投資家からは、占い師の仕事と一蹴されるようになっている」
「バークシャーでは、バフェットの報酬は基本給の10万ドルだけで…… だ企業のCFOとしては恐らく最低だ。…… 保有株からの配当はなく、保有株の換金売りもしてないため、富豪といっても大した消費能力を持っていない」
P84
パフェットは後に、「現実の世界ではありえないことですが、株式市場では『4億ドルの価値夕持つ資産を8000万ドルで売り払っている』と気づかずに、私に売ってくれる人たちがいたのです」と語っている。プロを含めた投資家の多くはワシントン・ポストの本質価値ではなく、ほかの投資家が売りそうだという思惑を判断材料にして同社株を売っていた、というわけだ。
P86
「まず、ウォーレンの風貌に驚かされました。ウォール街の銀行家や実業界の大物とはとても似つかないのです。野暮な中西部のおじさんといった感じでした。でも、彼の頭脳とユーモアにたちまち惹き込まれました。彼が私にとって魅力的なのは、その後もずっと変わりません。私は後で友人に、『もしこの世にミスター・クリーン(正真正銘に潔癖な入)がいるとしたら、それはパフェットです』と書いたほどです」
P106 …… ロングタームについて語って。
ルーミスの報告では、パフェットはヒリブランドとの会合後、バークシャー副会長のチャーリー・マンガーに対し、LTCMからの要請を断った理由について、「バークシャーをヘッジファンドへの投資会社にする考えはないよ。しかもこのヘッジファンド(LTCM)では、平均IQ(知能指数)が170にものぼる10人か15人の秀才たちが一生懸命働き、そして全財産を失おうとしているのだから。なんてバカげたことだろう」などと語った。
P123 …… 対等合併はあり得ないという米国の思想について
バークシャーの株主向けに書く「会長の手紙」の中で、パフェットはM&Aの功罪について時々指摘している。M&Aは通常、「A社がB社を買収する」とか「B社がA社へ身売りする」と表現される。合併であってもどちらが買い手でどちらが売り手なのかはわかり、厳密には対等合併はありえない。株式を使ったM&Aは、パフェット流の解釈に従えば、「A社はA社の一部を売り渡してB社を買収する」か、「B社のオーナー(株主)はB社の事業と交換する形でA社の一部を手に入れる」となる。
P123、124 …… 増資はタダという日本の思想について
日本では、1980年代後半のバブル期に、大企業が時価発行増資などでこぞって株式市場から資金調達し、エクイティをいたずらに膨張させた。エクイティをただ同然と勘違いし、調達した資金を低採算の事業へ投下するなど、1990年代に過剰資本、過剰設備の問題を引き起こした。実は、エクイティは銀行借り入れや社債発行で調達する負債資本(デット)よりもずっとコストが高く、それゆえ経営者はエクイティの多用を慎まなければならないのである。
1990年代の終わりには、日本でも株式交換制度が導入され、「負債を増やさずに大型M&Aができる」といった見方が経営者の間で広まった。バブル期に蔓延した「エクイティはただ同然」との見方がなお完全に消えていなかったことを示唆している。株式交換制度は大型M&Aを可能にする魔法の杖ではないのだ。そもそも、この制度が導入される前から、長い間にわたって合併という形で株式交換が広範に行われてきたことが認識されていなかった。
P140 …… アメリカの取締役の地位について
ディズニーの基準では、取締役会メンバーの6割が独立性を確保していた。その基準とは、現在会社の従業員ではない、過去3年間会社の従業員ではなかった、会社と特別な利害関係を持っていない−などだった。社内出身の取締役がほとんどの日本企業の基準に照らし合わせれば、十分すぎるほど独立性が確保されていたとはいえ、米国企業の基準では違った。ディズニーはビジネスウイーク誌のガバナンス番付で「ワーストボード(最悪の取締役会)」と見なされていた。
P157 …… 米国人は、会話に、ユーモアを加えることについて
「ずっと昔に読んだことがあります。続編が出ないことを願っています」
バフェットは特有のワンライナー(気の利いた寸評)を交えながら、手際よく質問に答えた。
P207
米企業の取締役会は、ミルスタインのような専門家を多用する。というのも、取締役会メンバーの大半は自分のオフィスも秘書も持たない社外取締役だからだ。日々の業務に精通していないからといって、経営陣に安易にアドバイスや情報提供を求めることは許されない。監視の対象である経営陣に依存していては客観的な判断を行えなくなるとの考えが背景にある。
そのため、取締役会は第三者の弁護士事務所や投資銀行、コンサルティング会社、ヘッドハンティング会社、会計事務所、報酬評価会社などの専門家集団を雇い、目的に応じて縦横無尽に利用する。そうすることによって、経営陣に劣らない独自の情報武装や判断材料を得て、独立性を確保するわけだ。
日本企業の経営者が展開する「社外取締役は経営に無知だから使えない」との論調は米国では聞かれない。経営に詳しいよりも、経営と一定の距離を保てることが重要と考えられている。外部の専門家をほとんど必要としないパフェットは例外的な存在だ。
P208 信託の受託者の義務について
ゴスとコックスとの会合後、ミルスタインはボストン在住の弁護士、ロイ・ハマーとの面会にこぎ着けた。ハマーはバンクロフト一族が持つ多数の信託の管財人を務めており、一族の利益を代弁する立場にあった。時は1996年の暮れだった。
「私はエリザベス・ゴスの代理人です。何かトラブルを起こそうとしているわけではありません。ただ、管財人としての受託者責任についてきちんと考えてほしいということを申し上げます。さらには、私が一族メンバーに直接話しかける機会も設けてもらいたい」
受託者責任というのは、他人の財産の管理を信託された人物は、信託の受益者のために忠実に行動する責任を負っている、という意味だ。ダウ・ジョーンズの場合、受託者責任を負っているのはハマーで、受益者はバンクロフト一族だ。ミルスタインはゴスの代理人として、「管財入は配当で満足している旧世代だけでなく、配当ではなく、株価の値上がりを求める新世代の利益も考えて行動しなければならない」という原則論を述べたのである。
米国では、受託者責任は「プルーデントマン・ルール(思慮深い人の規則)」と呼ばれる規定に基づいている。年金など他人の財産を預かった受託者(年金の管理・運用担当者など)は、受益者(年金加入者など)の利益のために忠実に行動しなければならない、という規則だ。株式会社であれば、取締役は受託者で、株主は受益者である。
日本にはこれに相当する明確な規定が長い間なかった。そのため、例えば、年金を運用する生命保険会社(受託者)が団体保険契約など営業上の見返りに魅力のない取引先企業の株式を取得し、年金加入者(受益者)の利益を損ねても、特に法違反となることもなかった。
6
現代人のためのユダヤ教入門 ☆☆
デニス・プレガー、ジョーゼフ・テルシュキン
ミルトス
ユダヤ教について教えてくれる最善の書です。
ユダヤ教というより、宗教について教えてくれる書です。
ラビの著作です。
この著書を読めば、他の「ユダヤ商法」的な本を読む気はなくなります。
神の存在について疑いを抱くことは、善いユダヤ人であることの妨げにはならない。
ユダヤ教では、神の存在に疑いを抱いても、ユダヤの律法に従って行動するかぎり、善いユダヤ人とみなされる。ユダヤの律法に反する行為をしながら神を信じるユダヤ人が善いユダヤ人であるとは言えない。
ユダヤ人は絶対的確信をもって生きるのではない。確信は狂信者の印であり、ユダヤ教は極めて狂信主義を嫌う。疑問は、人間の魂の謙虚さにとってためになる。
善を選ぶ上で、悪を選ぶ自由もあると感じる必要がある。神存在し、あらゆる行動が記録されているとはっきりと分かっていれば、人は悪を選ぶ自由があるとは感じないだろう。
神の存在に疑いを抱くことは当然であり、許されることであり、善いユダヤ人であることと矛盾しない。善いユダヤ人は神の存在を否定できない。
P23
現代のもっとも重要な正統派ラビの一人、エマニュエル・ラックマンはこう表現している。「ユダヤ教は信仰と献身を命じるが、同時に、疑問をもつことをも奨励する。ユダヤ人は絶対的確信をもって生きるものではない。確信は狂信主義のしるしであり、ユダヤ教はきわめて狂信主義を嫌う。疑問は、人間の魂と謙虚さにとってためになるものである。……」
P30
原注 前記のどれもが、モラルや宗教の領域のいずれにおいても、理性は不要であると言っているのではない。より高いモラルの源泉や倫理的な唯一神教なしに、単なる理性だけでは悪を許し、悪に導く結果となる。同様に、単なる神の信仰も悪を許し、導く。宗教のない理性は共産主義を、理性のない宗教は十字軍とカタフィをもたらした。
7
月報 司法書士 2008年4月
司法書士のための文章技術
読売新聞の記者が、文書の書き方を紹介しています。
勉強になります。
私は、一度、「、」の使い方が分からなくなったことがある。
どこに「、」を打つべきなのかと。
当時は、文書はリズムだなんて誰も教えくれなかった。
P52
補助符号のなかでも、もっとも使い方が自由で、しかし、使い方が難しいのが、読点である。
句読点と云うものも、到底合理的には扱い切れないのでありますという言い方をしている。
読点は、執筆者が読者に意図を正確に伝えるために、工夫しながら用いる道具である。文章をリズム感を持って読んでもらう上での、調子づけのためにも使う。朗読する場合、どこで間をおくか、どこで息継ぎするかを考えると、わかりやすい。耳で聴いて意味がよくわかるということは、読んでも理解できるということだ。
木下本によると、「黒い目のきれいな女の子」は「八通りに読める」という。
8
戦後日本経済史
野口悠紀雄
新潮選書
必然性論を論じています。
バブル時を経験したところから言えば、確かに、必然性論は説得力があります。
ジャブジャブとカネが集まってくる。
現金を現物で保存しておくことは出来ない。
だから、土地投資や、財テクに走らざるを得ない。
でも、バブルだからって、全員が失敗したわけではない。
何が正常かを見る目がある人達と、そうでない人達がいただけ。
サラリーマンには判断の自由がないので、社長の能力が問題だった。
そして、バカ会社と、バカ個人は倒産した。
それは決して必然性ではない。
バブルがあり、バブル崩壊があるからこそ、先を見る人間は、そこで理を得る。
偶然で生きている人達は、必然性論の中で踊らされる。
P230
日銀のみならず、すべての経済組織が単一の国家目的のために奉仕すべきだとされた。その中心が、統制金融だ。それは、大蔵省のコントロールの下、長期信用銀行、都市銀行を頂点とする金融機関が整然と役割分担して預金を吸収し、重化学工業に資金を供給する仕組みだ。
ただし、資金供給の対象は、終戦によって、軍需産業から重化学工業に変わった。戦時体制の目的が、全体として戦争から成長に変わったのである。第一章の1で述べたように、終戦からわずか11日後に「軍需省」の看板が「商工省」に書き換えられたのは、その象徴である。
しかし、軍人を除く軍需官僚がそのまま商工官僚になったのと同じく、日本の経済体制の基幹はそのままだった。とりわけ、経済官庁と金融機関は、ほぼ無傷で残った。つまり、「戦後民主化改革」といわれたものは表面的なものにすぎず、経済活動の中核的組織にまでは及ばなかったのである。
この体制は、60年代の高度経済成長の実現と70年代の石油ショック克服において、目覚しい働きをした。しかし、80年代になって、時代遅れのものになった。それにも拘らず、銀行を中心として生き残りを図った。それがバブルを引き起こし、自らを崩壊させた。バブルの発生も崩壊も、戦時体制の性格を考えれば、歴史的必然だ。
P240
1980年代の日本企業で、財テクをやらない財務担当者は、「無能力者」の烙印を押された。そうした環境の中で、「私は財テクには反対なので、やりません」などと、誰が言えただろう?
獲得預金額で昇進が決まる銀行の支店で、「こんなことばかりやっていたら、銀行はおかしくなる」と、誰が公言できただろう?
組織に生きる人々は、組織の方針にしたがって仕事をせざるをえない。そうしない限り、組織の中で生き延びるのは不可能だ。だから、バブルの中で、どの銀行もどの証券会社も、同じようなことをやったのである。
もちろん、経営者は企業の方針を決められる(それこそが経営者の役割である)。しかし、決定できるのは、きわめて限定された範囲内だ。
これは、バブルに限ったことではない。戦後の経済史の全体がそうである。私は、本書を通じて、戦後日本の経済が、なぜこのような経路を辿らなければならなかったかを、繰返し書いてきたつもりである。
それらのすべては、歴史的必然の法則に従うものだった。
9
外資の常識
藤巻健史
日経ビジネス文庫
昔、「算私語録」というのを読んだことがあります。
ディラーが書いた私語録ですね。
伝説のディラーだそうです。
あちこちと紹介したい文書はありますが。
でも、実務家が講師になることと、大学講師になる関係を論じている次の文書は納得です。大学は理論を学ぶべきところであり、実務は、刺激でしかない。
大学や、ロースクールで、実務家が教育をすることは間違い。
大学教育は、やはり、理論教育のプロである大学教授に任せるべき。
大学教授が、理論教育のプロであるか否かは、また、大量の議論が必要ですが。
P95
「私のような実務家の話を聞けば、一層、そのバックグラウンドにある理論について追求したくなるはずだ。理論のバックグラウンドがないと、実務をやるときに自信が持てない。私の授業を聞いて、金融が面白いと思ったら、大学の本当の先生の理論の授業をまじめに聞け。ここは専門学校ではない。大学はあくまでも理論を学ぶところだ」
それにしても学生に話をするのは非常に楽しい。一橋以外にも慶応大学商学部や東洋大学経済学部でも2時間ずつほど講義をしたが、本当に刺激になる。プロの方々に講演するのとはまったく別の興奮を覚える(筆者注:現在は一橋大の他に早稲田大学大学院商学研究科でも毎年、半年間の講義を持っている。早稲田大学の諸君来たれ!)。
10
粉飾の論理 ☆
高橋篤史
東洋経済新報社
P.17
ドイツが誇る知の巨人、ゲーテをもってして、「人類が発明したもののうちで最も美しいものの一つ」と言わしめた複式簿記は、特定の人間によって発明されたものではなく、歴史的な時聞軸の中で自然に発生したものであり、まさに人類の叡知と呼べるものだ。精緻なバランス思考こそが、その基底にあり、それはどこか神々しくもある。
P.297
「(自分たちが示した)条件を逆手にとられて、書類を全部揃えてきた。ダメとも言えなくなってしまった」
徳見はその時の心境をそう語っている。
P.297
結局のところ、カネボウと中央青山監査法人との「共謀関係」とは何だったのか。佐藤らが粉飾の手口について指南した形跡はほとんどないし、ある程度の適切な会計処理をカネボウ側に要求していたことは確かなようだ。粉飾への積極的な関与という構図からはほど遠いように思われる。
これは企業会計をめぐる現実問題なのだが、「クロ(=粉飾)」と「シロ」とはそれほど明確に分けられるものではない。貸倒引当金や繰延税金資産の計上額など見積もりの要素が入ってくると、そのことはなおさらで、ある程度「グレー」の中での線引きを迫られる。実質支配力基準に基づく子会社の判定も似たようなところがある。
一般的には「グレー」な部分での線引きを保守的に行ったほうが、企業経営にとっては健全であり、正しい経営方針の出発点にもなるのだが、目先の決算内容をよく見せることばかりに固執する会社には甘えが生じやすい。
言うまでもなく、それを正すべきなのが会計監査人の責務なのだが、時に会社と同じように甘えが生じる。すると、いつしか両者が共有する「グレー」は肥大化していき、一般的な基準からずれていくことがある。長年の経営不振で倒産の瀬戸際に追い込まれていたカネボウの場合、それが極端だった。
佐藤らがカネボウの粉飾に果たした役割は、逆説的な言い方ではあるが、その消極的にすぎる監査姿勢にあった。
P.299
佐藤らはカネボウ側から個人的な便宜を受けていたわけではなかった。粉飾を容認したことで直接の経済的利益を得てはいない。
わざわざ問題取引先の財務調査に入り、その損益計画の妥当性について検討を加えるなど、カネボウと中央青山監査法人との関係が緊密だったことは間違いない。
だからと言って、中央青山が得る監査報酬が特別に高額だったわけでもない。
事業部門やグループ会社が多岐にわたり、問題案件も多かったカネボウの監査は、むしろ手間がかかり、効率が悪かった。両者の関係に「癒着」と言うほどの積極的な意味合いを見つけることは難しい。
結局、「馴れ合い」という言葉が、関係性を言い表すには適当なのかもしれない。お互いが易きに流れたのである。おそらく最初は小さな綻びだったのだろう。それが修復されないまま、馴れ合ううちにどんどん広がってしまった。会社側はそれを取り繕おうとするあまり適切な会計処理から逸脱し、会計監査人は消極的な姿勢に徹することで結果的にそれに加担してしまった。
実のところ、カネボウの監査において佐藤らがターニングポイントと言えるような大きな選択を迫られたという場面はない。「騙された」と叫ぶほどの最善さえ尽くされなかったのが実相だ。呆れるほどの無自覚と終わりなき逃避だけが、そこでは繰り返された。その行き着いた先が2000億円を超す粉飾決算だったというわけである。
法廷で見る三人の会計士たちは、その職業が持つ厳粛なイメージからはおよそかけ離れていた。そこにあったのは、弱々しい中年男性の姿でしかなかった。
11
株で大損をした私の反省
PHP研究所
1300万円を180万円に減らし、その後、5000万円を回復した元新聞記者の自伝です。私は、いま、180万円まで減らしたところを読み終わりました。
で、紹介する趣旨は、デスクや同僚から「文章の上手な記者」と誉められたこと。入社当初は原稿のへたくそな記者ポッポだったが、毎日、鬼デスクの赤字が入り、跡形もなくなった自分の記事を見ながら、「何時か、1箇所も赤字を入れられないようにしてみせるぞ」と頑張ったこと。
なんて書いている通り、電車の中で気楽に読めます。
そして、最終的には儲かった。
これは野口教授の完全市場仮説に対する挑戦です。
読み終わらなければ。
それと、文書を、まず、わかりやすく書くコツは、新聞記事の書き方です。
どんな難しい事象でも、中学生に読める文書として、その文書だけで説明が完結した文書になっている。さらには、第三者としての視点での吟味が完了している文書。
12
公認会計士VS特捜検察
細野祐二
日経BP社
反転は、悪人の善意編でした。
これは、善人の善意編です。
なんか、深みのない思考力というか。
危ない人ですね。
危険とか、リスクとか、無縁で生きてきた人間って感じがします。
もちろん、書籍に書いてある字面は、全面的に会計士が正しいし、それに反論できる記述は無いのですが。しかし、文書で表現された実態を現実のものとして想定すれば、この会計士のような行動は取らないだろう。
というように、私には読めました。
「会計とは、事実ありのまま処理すればよいのですから、事実通りの処理をするのに難しいと言うことはないのです」なんて会話が、現実の社会でなされるとは思えない。もし、それがなされたとすれば、商業高校1年生の簿記の時間。
13
反転 ★★
元特捜検事 田中森一
幻冬舎
他人について書いていることは、全て、真実ですね。
私も、バブルの頃に仕事をしてましたが、時代的にも、登場人物の行動的にも、ほぼ、真実です。
ただ、自分の犯罪のことになると、急に、話しが曇ります。
わざと曇らしているのか、自分にとっては明白なので、逆に、説明が不完全になってしまうのか。しかし、これだけの文書量ですから、編集者がいるはず。
読書感想として、まさに、「ヤクザ」ですね。
本人は真正直な人間だと自分自身を評価しているのでしょうが。
でも、「ヤクザ」なのが検察庁なのか、この著者が個人的に「ヤクザ」なのか。
いずれにしろ、普通の人間が、この種類の「ヤクザ」と対面したら、とても、敵うはずがない。だから、被疑者を自白させ、本当の暴力団員と親しく付き合い、そして刑事事件を起こし、刑務所に入ることになってしまったのでしょうが。
高額な手形に、保証としてであっても、弁護士が裏書きするなんてあり得ない。
通常の弁護士にしてみれば、別の世界であり、あり得ない「ヤクザ」の世界です。こんな弁護士の噂を聞いて、これを大物弁護士と思って真似をしたら大変なことになる。単純な「ヤクザ」の世界の人間です。
というのが読書感。
しかし、この手の「ヤクザ」が検察官の全体なのか、一部なのか。
いずれにしろ、検察庁の中にも、ヤメ検の中にも、多くの「ヤクザ」が存在するのだろなと、別世界を覗かせていただいた書籍。
14
ヤクザマネー
NHK取材班
講談社
タイトルからイメージする内容を期待するとガッカリ。
想像の範囲内の情報です。
危ない事件を引き受け、失敗し、責任を取らされて、結局、落ちてしまう弁護士がいるそうです。
昔、刑事事件で逮捕された弁護士が、切っ掛けは、暴力団の事件での失敗だったと語ってました。
P40
ホームレスの人間を連れて来る場合もありますね。ホームレスを、適当なアパートに入れて、住民票を移して。その後、クレジットカードをつくったり、金融屋にカネを借りに行ったりしてね。ひいては、住宅ローンまでいくわけですよ。すると、家もあるし、生活の実体もあるようにみえる普通の人間になるんですよ。もうホームレスじゃない。そんなホームレスの名義を売っている、そういうビジネスをしている人もいるわけですよ。ネット口座っていうのは、面接は必要ないじゃないですか。ネット上で登録すれば、後は書面が送られてきて、その書面に書き込んで郵送すれば、口座は簡単につくれるわけです。
P164
元銀行員。あと元公認会計士。それから不動産に強いやつ。あと金融ですね。消費者系の人間もいたな。商工ローンの人間とかね。こういう連中とチームを組んで、シノギをしているんです。こいつらの専門知識は、ものすごく使えるんでね。うちのチームは、経歴でいったら、そこそこいいとこ行ってるような人間が多いですよ。
チームといっても行動を縛ったりはしないので、あくまでシノギに関してのチーム。だから上下関係もないし、俺がヤクザだからって指示することもない。逆に、こっちのほうが先生、先生って言いながら使ってますよ。そう言っておけば、気分いいじゃないですか」
P170
投資顧問会社の経営者はこう説明した。
うまくいっているときは暴力団は何も言いませんよ。だから証券アレンジャーやブローカーも暴力団と対等な関係のままでいられる。でも一度失敗すると、別の儲け話を持ってきて穴埋めしろということになる。こうなったらもう暴力団の企業舎弟と同じですよ。ヤクザを儲けさせるためだけに仕事をするようになってしまう。そんな人間は何人もいますよ。
15
アメリカ信託法ノート
樋口範雄
P2
かつてイギリス法制史の泰斗,メイトランドは,「イギリス人が法律学の分野で成し遂げた最大・最高の業績は何かと問われるならば,それに対する最も適切な答えは,信託の考え方をの幾世紀にもわたって発展させたことだ」と記した.
英米法の特色の1つに,その中心をなす判例法がコモン・ローとエクイティの2つの体系に分かれるということがある.
信託法は,このうちエクイティの発展させた法理であり,メイトランドは,別の部分で,「エクイティの功績すべてのうち,最大かつ最重要なものは信託の考案と発展である」とも述べている.冒頭で引用した言い回しでは,さらに信託の重要性が強調されて,エクイティにとどまらず,英米法全体を特徴づけるの制度だとしているわけである.何しろ,イギリス人の発明した最大・最高の法制度であるというのであるから.
16
神は妄想である
リチャード・ドーキンス
早川書房
宇宙空間のティポットの喩えは面白い。
だれも、宇宙空間に浮いているティポットの存在を否定できない。
だから、宇宙空間にはティポットが存在するのだ。
創り主の存在は否定できない。
しかし、創り主の存在を否定できないのは、宇宙空間のティポットの存在が否定できないのと同じであり、創り主はの存在は、その程度の可能性。
従って、不可知論は、2分の1の可能性ではなく、無神論とイコールだ(と言っているか否かは各人の判断)。
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