94 建物の内装の取り換え 田村大助 有しているビルをスケルトンにして内装を作り替えたが、この場合に除却部分について資産損失が計上できるのか。取り壊し工事費は、その後の内装工事とは別の費用として損金処理が可能だと思う。 T 古い内装部分は除却損で、除却にかかる費用も損金処理でしょう。耐震補強をするに際してアスベストの除去をしたのですが、これは除却損ですね。 K 除却損の費用化が可能ですか。建物の取得費が8000万円で、現在の簿価が3000万円の場合に内装をスケルトンにしたらいくらを損金化するのか。理屈では、@資産損失の部分と、A工事費用部分があり、@は除却されたのだから損金。そのような発想もあり得ますが、しかし、建物の一部の除却損は認めないと思います。 M ユニットバスを100万円で取り替えた場合は、除却費用として未償却簿価を費用化して、新しく取り付けた本体を資本的な支出にするのが原則処理ではないか。 K 建物の「一部除却」が存在しますか。建物は、建物である限り、除却できないと思います。 D 平成26年4月21日裁決があります。建物の各住居の台所及び浴室を全面的に取り壊し、その取り壊した場所に新たにシステムキッチン及びユニットバスを設置するという工事です。「減価償却資産を取り壊して廃棄した場合の損失の金額は……減価償却資産の取壊し直前の帳簿価額(未償却残額)と解される」としますが、結局は「本件建物内部の建築費用の内訳は不明であり、客観的な資料から直接算定することができない」と判断し、総床面積を基に、取壊し直前の台所部分及び浴室部分の未償却残額相当額を算定するとした裁決です。 S 3つの部屋を1つの部屋にリフォームした。壁をぶち抜いて窓にした。そのような場合に資産損失が計上できるとは思えません。ただ、3軒長屋の貸家の左1軒について明け渡しを受け、建物の3分の1を取り壊した場合なら除却損ですね。 M タイル張りの風呂場を改修した場合と、ユニットバスの時代は異なるのだと思う。タイル張りの風呂の取り替えなら、それは大工が行う修繕費ですが、ユニットバスは取り換えてしまう。それは本来は個別の付属設備の取り扱いが正しいのだろう。 F 評価損(法人税法33条)の問題でしょうか。ただ、評価損だとしたら、3棟長屋で償却後の簿価3000万円の建物が1棟を取り壊した後にも時価4000万円だったら、1棟分の損失を計上する事はできなくなってしまう。 田村大助 建物の一部が物理的に撤去された場合は、帳簿価額を按分して除却損が計上できる。つまり、3軒長屋の1軒の取り壊しのような場合です。ただ、建物として一体性を維持した上での建物の一部の部材の取り替えは、減価償却費、修繕費、資本的支出の対応関係で処理されるものであって除却損の計上は認められない。そのような理解なら納得が得やすい。 2018年2月21日現在 |
93 消費税における事業開始の意味 関根 稔 父親から貸地(非課税事業)を相続した者が、新たに賃貸物件(事業用)を取得して賃貸業を始める。その場合は、貸地の賃貸の段階で消費税法の事業者であって、課税事業者選択届は、前年度末までに提出すべきであって、賃貸物件(事業用)を開始した時点では手遅れですね。 T 相続前から別の賃貸事業をしていた者ならダメですが、サラリーマンが賃貸物件を相続したことにより新規に事業を始める場合なら、これから出しても大丈夫です。いや、相続したのは今年ではなく、数年前なのですね。そしたらダメですね。 M この場合は事業開始年度に課税事業者選択届が提出できます。課税資産の譲渡等にかかる事業を開始したのは今年なので、今年の提出でokです。消費税法施行令20条は「事業者が国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」としてます。土地の賃貸の場合は「課税資産の譲渡等」には該当しません。 K なるほど。説例の場合を救済している。土地だけを賃貸している人達は消費税とは無縁。それなのに提出期限が経過してしまうのは不合理ですから。しかし、消費税法を立案した人達は、どれほど優秀なのかと驚きます。 D 消費税法施行令20条を、さらに拡大し、過去に課税売上があった事業者でも、「過去2年以上課税資産の譲渡等又は課税仕入れがなかった事業者」が、課税資産の譲渡等を再開した場合もokとしてます(消基通1−4−8)。 K では、「課税売上又は課税仕入」が生じる事業を開始するとして、その開始の日は何時になるのでしょう。不動産賃貸業なら、賃貸物件について、テナントを募集を開始したときが事業の開始とするのが所得税ですが。 T 消費税の事業の開始の概念は異なります。もし、借家人の募集時を事業の開始とすると、賃貸用のビルを取得するについて契約を締結した日は、それに先立ち、仮に、前事業年度になってしまうので、仕入税額の還付が受けられなくなってしまう(平成24年6月21日裁決)。 M なるほど。そうしたら課税事業者選択届の提出は賃貸物件の取得の日が属する事業年度で、所得税の事業開始の届出は賃貸物件のテナントの募集を開始した事業年度になるのですね。 D この裁決は、新築請負契約を締結して着手金を入れた年度を事業開始年度としてます。賃貸ビルを外から買ってきた場合は売買契約を締結して手付金を支払った時点で事業開始となるような気がします。 関根 稔 所得税は、売上があってこその所得ですから、売上の獲得行為がスタートしないと事業の開始とは言わない。消費税は、課税売上のみではなく、課税仕入も課税の対象なので、課税仕入をスタートしたときに事業が開始したことになる。 2018年2月19日現在 |
80 他の相続人の相続税の立替払い 川嶋利洋 配偶者が子の相続税を立替えて納税しました。このような行為に贈与税が課税された事例を経験しているか。あるいは妻の相続時に、子が立替金債権を相続して混同によって債権債務を消滅させた時点での相続税の課税なのか。 H 経験はないが、数年内に第2次相続が起きた場合には問われる可能性が高いように思う。ある程度の時間が経てば、納税資金の出所までは問われないと思いたい。 S 納税資金の入手方法は問わない。それが現場の常識でしたが、贈与税の贈与はダメです。相続税の贈与もダメだと思います。 K 母親の立替金として認めて、第2次相続で精算することを認めたら、5年を経過した後の第2次相続の場合は課税漏れになってしまう可能性がある。 M そもそも相続段階で決済する貸与を認めたら、相続時精算課税が不要になってしまいます。親が死亡した時に混同によって返済するという貸付を認めたら、20%課税を受けることなく、相続時まで課税を延期することができてしまいます。 H なるほど。低金利の時代なので、仮に、親が子に5000万円を融資しても、金利2%で、1年間の金利相当額は100万円。贈与税の基礎控除以下なので、無利息で、返済の意思がない資金の融通が認められてしまう。 T 返済の合意が無く、返済の実績が無ければ、貸与は認めず、代償分割でしょう。納税者にも返済する意思がない場合が多く、これを贈与と言われたら大変なので、代償分割という指導には応じるはずです。 M 相続税の調査の段階で、通帳の記録から相続人間の納税立替を指摘されましたが、覚書を作成し、後日清算する意向を説明して納得してもらいました。 K 身内間の金銭の貸与と返済の合意をした場合には3年後に再調査を受ける可能性があります。全ての事例とは言いませんが、建物購入資金の融資を受けた事例で、2件ほど、そのような調査を経験しています。 T 代償分割は分割協議時に定める必要があるのであって、記載がない場合は贈与でしょう。 K 「相続税は、全て、長男が支払う」。その場合に、方程式をもって、代償金を求め、その代償金を遺産分割協議書(相続税の申告書)に書き込めば完璧ですが、しかし、そんな難しい計算はできない方も多いと思います。その場合に、贈与税とは言わないでしょう。相続財産の分割と納税について「贈与」を登場させるのは不合理です。 T なるほど。ただ、代償金を計上すると、当初に予定した各人の課税価額が変動してしまう。配偶者が立替払いをする場合は、配偶者軽減を考えた上で遺産分割をする必要があります。 川嶋利洋 相続税の負担額を代償金として、相続税の申告書には記載しておいた方が安全。配偶者が負担した場合は、配偶者は代償金を受け取ることになって、配偶者軽減の調整が必要になるので、予め、代償金を計算して遺産を配分しておいた方が安全です。 2018年12月11日現在 |
79 法人から個人に非上場株式を売却する場合の時価 本村昌子 非上場会社の株式を法人株主から個人に譲渡することを考えています。現在の株式の保有状況は次の通りですが、乙社と丙社の保有株式のうちの各々25%を甲社の代表取締役Aに譲渡します。 乙社 丙社 │50% │50% └────┬────┘ │ 甲社 この場合の同族株主の判定ですが、法人は譲渡後判定で、個人は譲渡前判定なので、いずれも特例的評価額が適用されるという解説があります。本当に、配当還元価額で譲渡することが認められるのですか。 Y 個人の判定は所基通59−6で譲渡前の持ち株数で判定ですが、法人については譲渡後というのはどこから判断するのか。 T 相続税法上の時価を算定する場合は取得後の株式保有割合で評価方法を判定します。法人税法上の時価は、課税上弊害がない限り、財産評価基本通達によることができるため、取得後の判定でよいのではないか。 M 法人税法上の時価について、そのような解説をする参考書もあります。「なお、法人税法上の時価の算定における同族株主判定は、譲渡後の議決権の数により判定するのが妥当であると考えます」という解説です。 S 相続税は遺産取得者課税なので、遺産の取得者の立場で判定します。父親が30%を所有していても、相続後の子の持株が4%なら配当還元価額に持ち込むことも可能です。しかし、譲渡所得は、含み益の実現課税なので、法人の下で実現していた含み益の評価では、仮に、全株式を譲渡しても原則評価でしょう。 D なるほど。譲渡後の持株で判定するとしたら、仮に、100%の株式を持っていても、株式の全てを譲渡して持株をゼロにすれば、配当還元価額での譲渡を認めるという理屈になってしまう。 M 所基通59−6は譲渡所得の規定なので売る前の判定を論じていますが、これが法人から低額譲渡を受けた場合、つまり、一時所得の問題に非上場株式が登場したら、買った後の持株割合で判定すると思います。 K 次のような解説もありますが、これは間違いですね。「法人から個人に非上場株式を譲渡する場合、売り手である法人側では法人税法上の時価が適用されます。その際、取引後に同族株主等となる場合には原則的評価額が、それ以外の株主等となる場合には特例的評価額が税務上の時価となります」。 T 純資産価額1億円、配当還元価額100万円の100%子会社の株式を第三者に売却するときに、誰が100万円で売るでしょうか。1億円に近い価額でないと売らないでしょう。 本村昌子 おかしいと思っても、活字になった解説があると信じてしまいます。通達の文字をひねくり回すのではなく、常識と、実感で考える必要がありますね。原則評価が、それこそ原則であって、配当還元価額は例外だと再確認できました。 2018年12月1日現在 |
78 役員借入金の現物出資 木村 裕 相続が始まるまでの間に同族会社への貸付金3000万円を現物出資して相続財産の圧縮を図りたい。債務超過会社へのDESになるので債務消滅益課税がリスクになる。 A 現物出資をする債権の券面額と、債権の時価との差額が債務消滅益課税ですが、債権の時価について「財産評価基本通達204及び205で評価する」という解説がある。 M 全くの間違いです。相続税の評価額は「最低でもこの値段」です。法人税の評価額は「取引価額」なので、相続税の評価額を法人税で採用することはできません。 T DESの会社法上の位置付けについて、「債務の弁済と金銭出資が同時に行われたのと同じであるし、現物出資を行う債権者にとっては、より弁済順位の低い株主の地位となることから、特に弊害が見つからない」という解説も見かけます。 M 会社法と税法では保護法益が異なります。会社法では借入金が資本金に入れ替わるのは債権者保護ですが、税法では、その処理による租税回避を防止しなければならない。 D なぜ、DESに対する債務消滅益課税が導入されたのか。債務超過で多額の青色欠損金を有する会社があり、その会社への貸付金をサービサーが銀行から買い取り、その後にDESをして債務を消滅させる。従前の税法では青色欠損金が温存されるので、債務ゼロで、青色欠損金が多額の会社を作り出せる。その会社を売りに出す。そのような節税策の防止が債務超過会社へのDESに対する債務消滅益課税です。 G なるほど。サービサーを通じた処理では、銀行は債権譲渡損を計上するのに、債務消滅益を計上する者が登場しない。税務署は損をしてしまう。その節税防止の為の税法がDESの債務消滅益課税(法人税法施行令8条1項1号)であり、業態が入れ替わった場合の青色欠損金の使用制限ですね(法人税法57条の2)。 K 事業資金として社長が会社に貸し付けている貸金の場合、つまり、債権に取引価額が存在しない場合にはDES課税はできない。 T そうですね。債務超過会社への貸付金でも回収可能額はゼロではない。では、平等弁済を想定するか、社長の債権への弁済は劣後させるのか。そのような計算は容易ではないし、課税に耐え得る評価額を計算するのは不可能です。 M 社長が貸し込んだ債権の資本化であれば、経営判断の問題であって、それに債務消滅益を認識することはあり得ない。 K 同様の処理について相続税の調査がありました。亡くなった先代の意向は「債務超過になった会社を次世代に引き継ぐのは申し訳ないので増資をした」と説明して納得して貰った。 木村 裕 制度の趣旨から考えれば、社長の会社に対する貸付金のDESに債務消滅益課税が行われるはずはない。さらに、DESをする正当な理由が説明できるようにしておく。それが現実的な処理ですね。 2018年11月21日現在 |
77 賃貸物件のキッチンの取り替え 西口 努 賃貸物件のキッチンを取り替えました。これは所基通37−13で修繕費として処理して良いのか。つまり、「資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額」がある場合は、60万円か、取得価額のおおむね10%相当額以下である場合のいずれかに該当すれば修繕費という通達です。 T しかし、その場合の取得価額は、@建物全体(5000万円)で考えるのか、A給排水設備の全体(1000万円)で考えるのか、Bシステムキッチン単体(100万円)で考えるのか。 K なるほど。建物全体であれば、ほとんどの工事が「取得価額のおおむね10%相当額以下」に納まってしまう。Aで考えても、20部屋の賃貸ビルを一棟で持っている場合であれば1部屋分のリフォームは「取得価額のおおむね10%相当額以下」になってしまう。 M キッチンやユニットバスを建物の一部と判断したのですが、「新たにシステムキッチン及びユニットバスを設置し、台所及び浴室を新設した」のだから、所基通37−10の「固定資産の価値を高め、又はその耐久性」を増す支出として資本的支出になるとした裁決(平成26年4月21日裁決)があります。 T 「建物の価値を高め、又はその耐久性を増すことになると認められる」と判断しているが、そのように認識すべきなのか。確かに、入れ替えないまま、いつまでも古い設備を続けるよりは価値が高まりますが。 S 修繕費部分が混ざることは否定できない。既存のキッチンとユニットバスが存在したはずであって、システムキッチン及びユニットバスの設置は、「新たな設置」ではなく「取り替えた」事例です。ただ、取り替えた商品が「新品」だった。「新品」だから「新たな設置」になる。そのような理屈なのか。 K 修繕費通達は、既に、時代に遅れた通達だと思う。昔の修繕は、故障し、それを大工がトンカチで直した。今の修繕は、故障しなくても、品物を取り替えることで直します。つまり、修繕はなく、常に「新品」があるのみです。 N 結局、「価値の向上があったとしても、それが機能回復するための、やむを得ない合理的な選択であったか、最も安い方法を選んだ結果だったがポイント」という判断基準ですね。平成13年9月20日裁決(裁決事例集未登載)です。 西口 努 修繕なのか、資本的な支出なのかよりも、それが「最も安い方法」であれば修繕費になる。キッチンの故障や雨漏りを放置しておくことはできない。しかし、それが「最も安い方法」ではない場合は、数十万円、数百万円の工事を修繕費として一時の損金に落とさせることはできない。それが現時点での修繕費の実務ですね。しかし、形式基準の通達が機能しないのも不便です。「資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額」についてもう少し具体的に示してほしいところです。 2018年11月11日現在 |
76 小規模宅地の同居親族は家なき子を兼ねられるか 牛嶋和子 息子は、父親の介護のため父親が所有する居宅に同居してました。父親が亡くなり、ひとり息子なので全ての財産を相続することには何の問題もありません。ところが、息子は、相続税の申告期限の前に地方に転勤することになってしまいました。つまり、申告期限までの居住要件に欠けてしまうので小規模宅地の要件を満たせません。この場合に家なき子特例の適用は受けられませんか。 K 同居の相続人である息子は、家なき子の要件を満たしません。家なき子の前提は被相続人とは非同居であって、同居の親族を兼ねることはあり得ません。それに家なき子特例が適用されるのは「被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族」がいない場合に限ります。 M しかし、「家屋に居住していた親族」は、この家屋を相続した相続人自身です。つまり、家なき子が「家屋に居住していた親族」を追い出す関係にもありません。 T 小規模宅地の思想は「生活の継続」なので、同居する親族がいるのであれば、その者が継続して居住すれば良い。その者を追い出しての他の者の居住の開始は認めない。しかし、自分自身が居住者であれば、追い出されることもなく、家なき子の保護、つまり、戻る実家の保護とも一致します。なぜ、親と同居していたら家なき子になれないのか。家を持っていない子であることに違いはありません。 D なるほど。措置法69条の4の特定居住用宅地等の定義は、イとして「被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた者」で、ロは相続開始前3年以内について「その者又はその者の配偶者の所有する家屋」に居住したことがない者ですが、本件の子はイとロを兼ねるのですね。 K しかし、今回の改正で、家なき子は「相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族」と同居していた者が除かれます。本件の子は、父親の所有家屋に同居していたので、家なき子に該当しなくなってしまいます。 T それは不当な解釈です。仮に、親と同居していた子が、東京の大学に進学することになって下宿した。その学生も、3年以内に3親等の親族の居宅に居住していたことになってしまう。 K これは救済されています。措置法施行令69条の4第3項第2号ロは、3親等内の親族が所有する家屋から、「相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く」としてます。 M 家なき子であることについて、「相続開始前3年以内」に被相続人と同居していたことは支障にならない。それなら相続時点で被相続人と同居していたことも支障にならないと考えるべきです。 牛嶋和子 なるほど。そうしたら、両親と同居していた子が、相続開始前に別居した場合も、相続開始後に家を出た場合も、家なき子として保護されそうですね。つまり、イの同居の親族要件と、ロの家なき子の要件をともに満たす相続人が存在するのですね。 2018年11月1日現在 |
75 仮想通貨を贈与したら 戸田厚司 仮想通貨の研修で、仮想通貨を贈与した場合は、贈与者に所得税課税が行われるという解説を聞いた。受贈者に贈与税が課税されるのは理解できるが、贈与者には所得税が課税されてしまうのか。その根拠はなにか。 T 所得税法59条が適用され、時価で譲渡したとみなされるのは法人への贈与に限り、さらに「山林(事業所得の基因となるものを除く)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合」に限ります。個人間の贈与に譲渡所得課税を行う根拠は存在しません。 S 仮想通貨を棚卸資産と考えるのであれば、所得税法40条で、贈与時点の時価で譲渡したとみなされます。こちらは法人に対する贈与に限らず、個人に対する贈与でも事業所得又は雑所得の課税対象です。 K 棚卸資産は「事業所得を生ずべき事業に係る商品、製品」です。仮想通貨を事業として売買している場面は通常は想定されないでしょう。棚卸資産の贈与の場合に時価で譲渡したとみなすのは、取得価額を必要経費に計上していることの反面なので、これが事業所得に限ることも納得できます。 T 対価を得ない限り所得税は課税されないのが原則。もし、贈与に譲渡所得課税が行われたら、卒業祝いに息子に自動車を贈与した場合や、誕生日に妻にダイヤの指輪を贈与した場合も譲渡所得課税が生じてしまう。 M 贈与に対して所得税課税が行われないとして、受贈者の取得価額は、無償で取得した資産として、所得税法38条の原則に従いゼロになってしまうのか。そうだとしたら、贈与を受けた者が売却した場合は大変です。 K その場合に、贈与税が課税された部分は、所得税法9条1項16号の「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当するので、その後の譲渡に譲渡所得課税をしたら二重課税になってしまう。そのような理屈は成立しないのか。 M 死亡年金について、相続税を課税し、その後、収入時に所得税を課税した場合には二重課税になる。そのことについて判断した最高裁平成22年7月6日判決があります。あの判決をきっかけに所得税法67条の4が追加されました。内容は、ほぼ所得税法60条と同じですが、所得税法60条が「山林(事業所得の基因となるものを除く) 又は譲渡所得の基因となる資産」に限っていたのを、「利子所得、配当所得、一時所得又は雑所得の基因となる資産」にまで拡大し、「その者が引き続き当該資産を所有していたもの」とみなすことにしました。つまり、受贈者は取得価額を承継します。 戸田厚司 仮想通貨を贈与した場合でも、所得税課税が行われることはない。受贈者には贈与税が課税されるが、受贈者の取得価額は所得税法38条の原則に従ったゼロではなく、所得税法67条の4に従って贈与者の取得価額を承継するということでしょうか。 2018年10月11日現在 |
74 マンションの購入と転売の消費税 関根 稔 居住用マンションを購入し、それを転売したが、転売までの間に家賃収入があり、マンション購入代価(建物部分)が共通仕入になってしまった。平成29年7月31日付の東京国税局の更正処分だが、これはやむを得ないのか。 T 業界的には頭の痛い話です。中古物件だと賃貸借契約がついたままの転売が多いが、保有期間が1日とか、2日で共通対応にされたら大変です。 S 転売までの期間をフリーレントにすれば良い。しかし、継続中の賃貸借契約についてフリーレントには合理性がないし、租税回避と認定される恐れもある。 M そもそもですが、賃貸マンションの場合だと、土地と建物を仕入れて、土地と建物を売却します。つまり建物の仕入を土地と建物の売却の共通仕入という考え方は採用しないのですね。建物の仕入は建物の売上に対応させて良いと。 K そうです。マンション全体の購入価額を土地と建物に区分します。売上側も課税対象分と非課税対象分として区分する必要があるので、建売やマンションなどのように一体として取引しても建物と土地に区分する必要があります。 M 消費税法基本通達11−2−19を利用し、「合理的な基準により区分」で課税仕入を、家賃収入と転売代価に配分する個別対応方式を適用することはできないのか。 E これはマンションの転売の事例とは異なり、「原材料、包装材料、倉庫料、電力料等」は課税売上割合の問題ではなく、どちらに消費されるかの事実認定の問題だと思う。ビルが使用する電気代を、1階の店舗の共益部分の電気代と、2階より上の住居部分の電気代に割り振るような事実認定の問題です。1棟のマンションの購入を家賃収入と転売対価に事実認定で区分することは不可能です。 M 信託を利用し、家賃受益権を別会社が買い取り、元本受益権を当社が買い取る。そうすれば当社には賃料収入は発生しない。つまり、家賃を受け取る受益権だけを別会社に取得させれば、当社に残るのは転売利益だけになりませんか。 S 信託を利用し、貸家について、元本受益権と家賃受益権を区分する方法は、信託税制の導入時にも議論したが、結局、減価償却費をどちらに割り振るか、修繕費をどちらに割り振るかの区別ができない。つまり、原因資産を区分できない場合は、信託で区別しても税法上の処理ができない。そのような結論だったと思うが、マンションの転売では利用できますね。 M 仮に、10億円の建物の課税仕入を、転売までの間に発生する数十万円、数百万円の家賃を理由に共通仕入にすることは不合理です。家賃の総額を年金現価で割り戻した価額を信託受益権とすることに不合理なところはないと思う。 関根 稔 過去の課税関係については、やむを得ないとして、将来の取引には信託の利用も一案です。信託が、このような場面で利用できることも発見です。 2018年10月1日現在 |
73 みなし役員と使用人の関係 関根 稔 「みなし役員」について定めた法人税法施行令7条(役員の範囲)ですが、1号は「法人の使用人以外の者」として、使用人は「みなし役員」には該当しないと定めています。これは次のどちらの解釈になるのですか。 第1説 使用人は、みなし役員にはならない。みなし役員になるのは「相談役、顧問その他これらに類する者」に限る(法人税基本通達9−2−1)。 第2説 使用人としての地位を有していても、経営に従事している隠れ経営者は、みなし役員になる。そのように解釈しなければ脱法されてしまう。 T 1号は使用人を除外するので、使用人の地位にある者は、仮に、経営に従事していても「みなし役員」から除外されます。つまり、第1説です。2号の場合は使用人を除外しないので経営に従事していればみなし役員です。 S では、1号で、仮に、風俗業の隠れ経営者が、使用人の地位を兼ねたら法人税法施行令7条を脱法できてしまう。つまり、「顧問+経営従事=みなし役員」であって、「使用人+経営従事≠みなし役員」であれば、隠れ経営者は使用人の地位を兼ねることで「みなし役員」から除外されてしまう。 N なるほど。風俗店の隠れ経営者が経理課長の役職を兼ねれば「みなし役員」から除外されてしまう。ただ、そのような場合は2号に該当しませんか。つまり、グループで会社を支配し、本人又は配偶者が5%以上の株式を所有していれば2号に該当するので「経営に従事」していることが事実認定されてしまう(法人税法施行令71条)。 S しかし、条文の適用について、事実認定を要件とする法の作りは不出来です。そのような立法をするとは思えません。 M 1号について、使用人を除外せず、使用人としての地位を有していても、経営に従事していれば隠れ経営者として「みなし役員」とするという法の作りでも問題はなかった。 Y 法人税法施行令7条を2つに分けて議論してますが、これは3つに分けるのが正しい。1号は、仮に、風俗店の隠れ経営者で「経営に従事」している者で、2号は同族経営者の一員で5%以上の株式を所有して「経営に従事」している者です。そして、1号が社員を除くのは、社員である以上は、経営に従事してるか、お茶汲みかは、会社法で判断する以外にない。つまり、3つ目の区分は会社法です。会社法で役員にしていれば役員、会社法で役員にしてないのであれば従業員。その原理原則を税法が実質判断してしまう権限はありません。 T 兼務役員については、さらなる詳細な詰めが必要なので、会社法の分類に従って「副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員」は兼務役員にはなれないと定めている(9−2−4)。 差し替え …… T 確かに、従業員である者を事実認定で経営に従事していると認定してしまったら、古参の従業員はみなし役員になってしまう。取締役を退任し、従業員として再雇用された人達もみなし役員になってしまう。 ――――――――――― 関根 稔 なるほど。税法が会社法を無視することはできない。取締役か、従業員なのか。これは会社法では明確に役割が分かれている。ここを税法の実質判断で、従業員であっても、経営に従事しているのだから役員だとは断言できない。しかし、それが同族グループに属し、自分か配偶者が5%以上の株式を所有し、経営に従事している場合は「みなし役員」になる(2号)。 2018年9月21日現在 |
72 一般社団法人への相続税の課税 関根 稔 一般社団法人への相続税課税ですが、同族判定が理事に限定されている理由が不明です。なぜ、社員ではなく、理事なのか。社員には理事任命権があるのだから、社員こそが同族支配の判定基準だと思う。 A 同族オーナーが、相続税課税を避けるために自社の従業員を理事にする。つまり、一般社団法人はオーナー家が100%支配で、理事は同族会社の従業員の場合だが、この場合は従業員が死亡したら相続税の対象になってしまう。 T 一般社団法人では法人が社員になることも可能なので、社員を基準にしたら相続税が課税できない。 K 相続税が課税されるのは理事の相続人ではなくて法人です。つまりは、どのような場面で相続税を課税しても良いのだと思います。仮に、10年毎に相続税を課税するとしても、社員の死亡毎に相続税を課税するとしても、理事の死亡毎に相続税を課税するとしても良かった。その中から「執行機関についての同族支配」を判定基準にしたのでしょう。 D 個人は、当然のことながら個人が支配者で、会社は株主が支配者。一般社団法人は、一般社団法人自体が支配者なので、課税対象も、納税義務者も、納税要件も、一般社団のピラミッドの中で完結している必要がある。一般社団法人に社員という株主を想定することが間違い。理事任命権限であれば一般財団法人の場合は評議員になってしまう。 M 納税義務者は一般社団法人であり、課税対象は一般社団法人の純資産なのだから、理事の個性は問わない。理事に財産があるか、無資力なのかで違いが生じてしまうのは、仮に、次男が1億円を相続した場合でも、長男が3億円を相続するか、10億円を相続するかで、次男の相続税が異なってしまう相続税の計算方法の限界です。 S 理事に指名した従業員の遺産は自宅と預貯金で合計5000万円。しかし、一般社団法人に10億円の純資産があれば相続税の税率は55%です。基礎控除以下の理事の遺産に55%の相続税を課税するのは、さすがに暴挙ではないかと思う。 D 相続税を負担するのは一般社団法人だが、理事に連帯納付義務が生じたら、一般社団法人に課税された相続税を負担することになってしまう。理事1名という一般社団法人で、理事が死亡したら、理事の家族は大変なことになります。 T 何らかのイベントを捉えて、そのときに相続人がゼロの場合の相続税を課税すれば良いのですね。理事が死亡した場合をイベントにするのであれば、その機会に、相続人をゼロとする相続税を一般社団法人に対して独立して課税する。理事と社員の両方を判定要素にしてもよいと思う。 関根 稔 一般社団法人は持ち主が存在しない法人、つまり、持ち主が存在しない財産なので、税法的には、日本国内の独立国のような存在です。どのような課税方法で租税回避を防止するか。理事の死亡を原因として相続人に加えた改正法は過渡期的な制度と位置付けるべきですね。 2018年9月11日現在 |
71 息子が支払ったリフォーム代 白井一馬 父の居宅に、息子が500万円を支出してリフォームした。これは贈与税の課税対象なのか。父親の所有居宅について、500万円相当を共有にしてから支出すれば贈与税は課税されないと聞いたが、そのような登記手続まで実行すべきか。 M 贈与税が課税されると説明するのが教科書事例です。しかし、同居する息子が、自分の生活を快適にするために、あるいは年老いた両親のために自宅をリフォームした場合に本当に贈与税を課税するのだろうか。 A 非公開の裁決がある。「請求人は、請求人の母が工事費用を負担した請求人所有の居宅の改修工事について、相続税法第9条に規定する経済的利益に当たる」とした裁決だ(平成29年5月24日名裁)。 N 相続税法9条を適用した裁決や判決例であれば幾らでもある。しかし、課税の現場で相続税法9条を適用する事例は聞かない。裁決や判決を持ち出す実務家は、自分自身の実務経験を、もう少し信じるべきと思う。さらに、裁決や判決には、それに至る背景事情がある。 T 裁決や判決の情報を現場にフィードバックする仕組みがあるのだから、実務では裁決や判決を無視できない。 S ご紹介の事例は未公開裁決ですね。実務の指針としてフィードバックする裁決や判決は雑誌社が記事として取り上げます。そのような事案は実務の理屈として理解できる常識的な取り扱いです。未公開裁決は、課税庁側も実務的な価値が無いから公表していないのだと思う。 A 実務の現場では相続税法9条の適用など想定してないと聞いたことがある。ただ、それが課税対象か否かを課税庁に照会すれば、当然、課税対象だという回答が戻ってくる。父親の居宅の改装も課税庁に問えば相続税法9条ですが、では、実務現場で、そのような課税が行われているか。私は、そのような事例を聞いたことがない。 K 相続税の補完税たる贈与は、通常は、父親から息子への財産移動です。息子から父親への財産移動に贈与税を課税し、その後、父親の死亡について息子に相続税を課税する。それでは二重課税になってしまう。そんなものに相続税法9条を適用しなくても課税上の弊害はない。もちろん、実務家としてリスクは避けるべきだが、わざわざ相続税法9条を適用して贈与税を申告する事案とは思えません。 H ご紹介の非公開の裁決事例は、要旨を読む限りでは、母親が息子の居宅の改築費用を負担した事例で、改修費用が2700万円、息子には年額2000万円の所得があった事案。つまり、相続税の節税を想定した租税回避事案のように思える。 白井一馬 税理士の立場だと、条文を杓子定規に解釈し、相続税法9条などの適用を想定しますが、確かに、身近に相続税法9条を適用した事例は見受けない。税法の条文解釈の前に、社会の常識で判断すべきが税法解釈ですね。その為には実務の経験量が必要です。 2018年9月1日現在 |
70 所得税基本通達59−6と子会社株式の時価 渡邉雄一 会社の株価評価を所得税基本通達59−6で行う場合には、評価対象会社は小会社として評価します。では、評価対象会社が所有する100%子会社が大会社の場合に、子会社の株式をどのように評価するのか。 株主 | 会社 = 小会社として評価 | 子会社 = 大会社として評価? K 財産評価基本通達による評価方式が小会社であれば、子会社が大会社であっても小会社として評価すべきと思います。支配関係がある場合は、純資産と類似業種比準価額の折半で評価すべきというのが制度の趣旨でしょう。 T 平成25年3月26日裁決は、40条申請の事例ですが、評価会社は小会社の折衷法で評価するが、評価会社の子会社は中会社評価と、もう1社の子会社は大会社評価と判断してます。 S 所得税法基本通達59−6で評価する場合は3つに分かれます。@中心的な同族株主に該当する場合は小会社で、A中心的な同族株主以外の同族株主は配当還元価額。ただし、B中心的な同族株主が存在しない場合の同族株主は大会社でも中会社でも良い。もちろん、少数株主は配当還元価額です。 M そうしたら子会社の株式の評価が小会社方式に限定されることはないと思います。評価会社の中心的な同族株主か否かの判定は容易ですが、子会社にとっての中心的な同族株主か否かの判定は容易ではありません。 K 株主の下に親会社がいて、その下に子会社がいる場合の同族支配の議決権関係は50%超の連続で良いのですね。つまり、株主(納税義務者)が親会社の株式を50%超所有し、親会社が子会社の株式を50%超所有する関係にあれば、株主は子会社についても同族株主の地位を確保すると考えるのですね。 S そうですね。財基通188(同族株主以外の株主等が取得した株式)は「『同族株主』とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいうの有する議決権の合計数」として法人税施行令4条を準用し、同条は「他の会社の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50を超える数」を有する場合としています。 T そうしたら所基通59−6の場合も50%超の連続になりますね。しかし、中心的な同族株主の判定について25%超の連続という概念は存在しません。子会社に対して「直系夫婦一親等の姻族」による25%支配という概念を連続させることは不可能です。 渡邉雄一 なるほど。所得税基本通達59−6は、中心的な同族株主による支配がある場合に限って小会社の評価としている。しかし、その判定が可能なのは直接の支配関係にある場合に限り、間接支配の子会社については中心的な同族株主の25%超の支配という概念は認識できない。つまり、子会社の株価の評価について小会社方式が強制されることはない。 2018年8月21日現在 |
69 相続による事業承継と青色承認の提出期日 小川成幸 12月20日の相続で、被相続人の青色申告事業を引き継いだ個人事業者の青色申告承認申請の提出期限は翌年の2月15日までということなのか。所得税基本通達144−1は準確定申告書の提出期限までに提出すれば良いとしている。つまり、相続開始日から4ヶ月なので3月20日まではokのはずだ。 T 業務を開始した場合には、業務開始日から2ヶ月以内(法人税法144条)だが、相続の場合は、準確定申告の提出期限である4ヶ月まで猶予している。突然の相続による事業承継なので当然だと思う。なぜ、12月20日の相続の場合は4ヶ月どころか、2ヶ月の余裕も無いという解釈が登場するのか。 S 相続の場合は翌年の2月15日でも仕方がないのです。仮に、5月1日に死亡した場合は、その4ヶ月後の9月1日が提出期限で、その年の12月31日が青色申告の自動承認の日になっている(所得税法147条)。その条文で「その年11月1日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合」は翌年2月15日が自動承認の日になっている。 K なるほど。12月20日に死亡した場合に、もし、その日から4ヶ月とすると、4月20日が提出期限になってしまう。しかし、その申請についての自動承認の期日は2月15日というのは前後関係が逆転してしまう。自動承認の日より遅い提出期限はあり得ないので、この場合は2月15日が提出期限になる。 M それなら、相続の場合には、自動承認の日について、準確定申告の提出期限である4ヶ月以降の日を自動承認の日にすれば良いのではないか。 T そのような条文は作れないでしょう。仮に、12月20日死亡の場合に、提出日を4月20日とすると、3月15日の所得税の申告は青色申告なのか、白色申告なのかが確定しない。 S しかし、相続による事業の開始ではなく、通常の事業の開始の場合については、「その年1月16日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から2月以内」が青色承認申請の提出期限になっている。仮に、12月20日に事業を開始した場合なら2月20日までokだ(所得税法144条 )。この場合の自動承認の日は2月15日と逆転してしまっている(所得税法147条)。 D その場合は、自動承認ではなく、所得税法146条の「税務署長は……承認又は却下の処分をするときは、その申請をした居住者に対し、書面によりその旨を通知する」という手続になるのではないか。12月31日に事業を開始した場合であれば2月末が提出期限なのでギリギリで3月15日には間に合う。 小川成幸 事業を開始した場合に、特に、相続によって事業を承継した場合に、準確定申告の日より前に、青色承認の申請を提出することは、事実上は難しいように思う。しかし、年末の相続の際には2ヶ月の余裕も無いことは記憶しておきたい。 2018年8月11日現在 |
68 使用人兼務役員への給与等の支給 岡野 訓 「役員のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するもの」が使用人兼務役員ですが、使用人としての肩書きのない職員も使用人兼務役員ですか。 T 中小企業では、役員の内のほぼ100%が兼務役員でしょう、役員業務、つまり、取締役会への参加だけで給料が貰えるはずがありません。さらに、兼務役員の「役員分の給与」は中小企業ではゼロではないか。極端には、社長でさえ、現場で作業をしている会社が多いと思う。 M 中小企業で、使用人兼務役員として認められないのは代表取締役と監査役です。監査役は、仮に、従業員の名義を借用した場合でも、監査役の役職にある以上は従業員の地位を兼ねられません(会社法335条2項)。 S 法基通9−2−6も、使用人が少数である会社などは、「常時従事している職務が他の使用人の職務の内容と同質であると認められるもの」は使用人兼務役員としてます。 M そうしたら、中小企業の場合は定款などの規定で「副社長、専務、常務」などと任命されない限り使用人兼務役員ですね。その場合に気になるのが従業員給与、従業員賞与、従業員退職金です。これは定期同額給与、事前確定届出給与、株主総会を要する役員退職金には含まれないのですね。 K 従業員時代と同様の支払い方法で、他の従業員と同一の時期に支払っているのであれば、従業員給与です。退職金についても従業員退職金規定に基づく支払いであれば従業員退職金です。 T そうしたら、代表取締役以外は事前確定届出給与の届出は不要ですね。従業員賞与としてボーナスを支払えば良いのですから。退職金についても、役員退職金については株主総会の決議が必要ですが、従業員退職金であれば総会決議は不要です。 A 脱法手段として、3名の取締役について事前確定届出給与の届出をしておいて、その年度の所得具合が明らかになった段階で、その内の2名、あるいは1名にだけ役員賞与を支給するという方法が語られてますが、これを従業員給与で実行すれば、事前確定届出給与は必要ないのですか。 M 役員の地位がある以上は、全てが従業員給与で処理できると考えるのは無茶でしょう。従業員への支給と認められるのは、その者が従業員だった時代と比較し、あるいは他の従業員と比較して正常な金額であって、それを超えた恣意的な金額は、それなりの理由がない限り、役員としての地位に基づく支給と事実認定されるリスクがあります(法基通9−2−23 使用人分の給与の適正額)。 岡野 訓 中小企業では代表取締役と監査役以外は、全員が従業員兼務役員で、従業員給与、従業員賞与、従業員退職金の支給は、他の従業員と比較して不合理でない限り是認される。年度途中での給料の増減や、賞与の支給についても従業員と比較して不合理でなければ従業員分として認められる。そのような理解ですね。 2018年8月1日現在 |
67 借家人への建物の贈与 佐々木克典 息子から家賃を受け取っている家屋があります。この家屋とその敷地を親から子へ贈与するのですが、借家権控除と貸家建付地控除をしても良いのか。賃貸契約は混同によって消滅するが貸家評価を使っても問題ないのか。 S なるほど。贈与の前には借家権がある。しかし、贈与してしまうと貸主と借主が一体化して借家権が消滅してしまう。贈与の前で土地建物を評価するのか、贈与後で評価するのか。遺産取得者課税だと贈与後のような気がする。 T 土地の賃貸借契約について、無償返還届を提出している場合の20%減額は、土地の賃借人自身が土地(底地)を取得する場合はゼロです。平成4年11月16日最高裁判決が「個別通達は第三者による利用制限を減価事由として考慮したものであって、本件遺贈のような借地契約の当事者間での当該土地の譲渡には妥当しない」と判断しています。つまり、借地人である会社が底地の遺贈を受けた場合に20%減額は認めないという理屈です。 S しかし、借家権は、利用制限による減額ではなく、借家権自体の価値を認めた評価だ。財産評価基本通達93(貸家の評価)で借家権の評価を定めてます。 M そうしたら借家権控除はokとするのが理屈です。しかし、それが可能であれば、まず、息子に家を貸家し、その後に贈与すれば、合法的に贈与税の節税ができてしまう。 K 親子で家賃を取る家族が存在するのか。賃貸物件の一室を使わせている場合であればあり得るのでしょう。同族会社であれば建物を貸し付けて家賃を取るのは当然ですね。 H 本事例のように借家契約の消滅時(出口時点)に借家権価額を認めるのであれば、借家契約を締結した段階での入口課税が問題にならないのか。 T 借家契約について、借家契約の時点での入口課税は無理です。財産評価基本通達94(借家権の評価)で「この権利が権利金等の名称をもって取引される慣行のない地域にあるものについては評価しない」としてます。借家権が評価されるのは、居抜きで店舗が売れる銀座のクラブくらいで、それだとしても内装の売却であって、借家権の売却ではないように思います。 M そうだとすると、租税回避にどのように対処するか。事実認定で賃貸借契約が実態と違うと否認するのか。しかし、実際に賃料を受け取っていれば否認できない。 K その辺りが税理士の倫理観でしょう。息子に家を貸して家賃を請求するという家族は存在しない。そのような普通の親子関係を前提に作られている税法について、家賃を支払っていれば借家権控除は可能と論じるのは躊躇します。 佐々木克典 庭先に息子が家を建築して地代を支払う場合や、父親が建築した建物で息子が家賃を支払う。そのような事案で第三者との契約と同様の評価減をして良いのか。常に、悩む問題ですが、親子の場合と、同族会社の場合と、他人の場合で取り扱いを区別することは不可能。そこでどのように立ち振る舞うか、それが税理士の倫理観ですね。 2018年7月21日現在 |
66 特定同族会社事業用宅地の地代の要否 佐久間裕幸 特定同族会社事業用宅地の特例は、被相続人の土地又は家屋の賃貸の承継が要件なのか、同族会社の経営の承継が要件なのか。つまり、賃貸業の保護なのか、同族会社の経営の保護なのか。 T 被相続人(父)の経営する同族会社は、事業承継で後継者(息子)に代替わりしたので、引退後は役員報酬は受け取れないため、父親が地代又は家賃を受け取っていることを要件にした。しかし、相続後については、後継者は役員報酬で生活を担うので、貸し地を相続すれば、貸付業(賃料)を承継することまでは求めない。 S @賃貸業の承継と、A事業の承継のどちらが保護の対象なのか。@であれば貸付業(賃料)を承継すべきだし、Aであれば父親が経営に関与していたことを要件にすべきではないか。相続時点まで父親が引退せず、役員給料を受け取っていた場合でも、賃料の支払いがないとダメなのか。 M 個人事業(家業)では本人又は生計一の相続人の事業に限るが、特定同族会社事業用宅地では限定がない。本人も、生計一親族も、会社経営に関与している必要がない。 T 特定同族会社事業用宅地は、他の特例とは異なり、相続開始前は地代か家賃の支払いが要件で、相続開始後は会社の役員であることが要件。つまり、被相続人からの事業の承継ではなく、賃貸業から会社経営へのバトンタッチ税法なのです。親族等が持株の50%超を有するという要件も生前に限られる。 ┏━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━┓ ┃ 相続の前 ┃ 相続の後 ┃ ┣━━━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━┫ ┃ 賃料の支払いが必要 │相続人が役員であること┃ ┗━━━━━━━━━━━┷━━━━━━━━━━━┛ M この絵から見える姿が重要です。その姿こそが保護されるべき姿です。会社の設立は、被相続人や、生計一親族に限らない。つまり、被相続人にとって意味があるのは地代のみ。会社の経営に関与しない被相続人に会社は無価値です。土地を相続した相続人は、貸地契約を継続することは要件だが、@賃貸業(賃料)を継続して貸付事業用地の特例を受けるか、A会社の取締役を続けて特定同族会社事業用宅地の特例を受けるか。Aであれば賃料の支払いは要求されない。 佐久間裕幸 なるほど。父親の賃貸業から、後継者への同族会社経営のバトンタッチが制度の趣旨ですね。父親は賃貸業という事業を経営し、後継者は役員として会社を経営する。それが必要条件だ。居住の承継や、事業(家業)の承継という事実は存在しないが、法人化して企業を経営する態様は千差万別なので、その多くに適用できるように制限する要件を最低限に抑えた。 2018年7月11日現在 |
65 特定居住用宅地と区分所有登記の意味 川嶋利洋 5階建ての1棟マンションを所有していた父親の相続で、5階に父が居住し、4階に長男夫婦が居住して、1階から3階は第三者に賃貸している。区分所有登記の無いマンションだが、この場合は父と長男は同居していたと考えて特定居住用宅地の特例の適用があるのか。 A 区分所有登記がなければ長男は同居親族に該当し、他の要件を満たせば5階と4階部分に対応する5分の2の面積は特定居住用宅地に該当します。 T なぜ、区分所有登記が無い場合に限るのか。区分所有登記の有無に関係なく、「構造上区分された数個の部分で独立して住居……の用途に供することができるもの」は区分所有建物と考えるのが「建物の区分所有等に関する法律」の解釈ではないのか。 S 区分所有登記をしていれば5階と4階が別々の2戸の建物であることが明確だが、登記が無い場合は、2戸の建物なのか、1戸の建物の中の2つの部屋なのか区分は明確ではありません。だから税法は区分所有登記をしない限り1戸の建物とみなすことにしたのです。 M なるほど。区分所有登記が無い場合の廊下や階段は1戸の建物内の内廊下で、区分所有登記がある場合の廊下や階段は共有部分になる。 K ただ、家なき子特例の関係では、区分所有登記が無い場合でも2戸の建物とみなすことがあります。区分所有登記を必要とするのは通達(69の4−7の3)の取り扱いなので、これを納税者の不利に適用することはできない。そこで家なき子特例の判定要素を「同居」ではなく「起居」にしている(69の4−21)。つまり、長男は5階で父親と「起居」していないので同居の親族とはみなされない。 T 家なき子と認める為の「家屋に居住していた親族」がいないという要件では「起居」という概念を採用した。しかし、区分所有登記が無い場合は5階と4階は1つの家屋の2つの部屋だ。だから、次男に家なき子特例が認められた場合は、父親の居住部分に限らず、長男の居住部分に対応する敷地も小規模宅地に含まれる。まさに納税者に有利です。 S 家なき子特例の同居の親族の有無の判定では2戸の建物と考え、5階部分に「起居」しない長男は同居の親族には含めない。しかし、居住用地の範囲についての判定では1戸の建物の2部屋と考えて長男が住む4階部分も小規模宅地に含まれる。 川嶋利洋 説例では、@長男が相続すれば、長男は同居する親族として敷地の5分の2について小規模宅地の適用が受けられる。A次男が相続すれば、次男は家なき子として敷地の5分の2について小規模宅地の特例が受けられる。B長男と次男が相続すれば、各々が5分の1について小規模宅地の特例が受けられる。そのキーワードが内廊下、外廊下、それに「起居」ですね。 2018年7月1日現在 |
64 老人ホームの入居と小規模宅地の適用判定 谷 修二 老人ホーム入所中の父の自宅は特定居住用宅地の対象だが、次のケースでは適用されない。つまり、同居親族がいない父が介護老人ホームに入所した後に、生計別の長女夫婦が実家に戻り、その後、相続が開始した場合です。 K 父が死亡するまで戻らず、空き家にしておけば、長女も、家なき子特例が使えます。つまり、父親の生前に戻ったらダメですが、相続開始後に戻ればokです。 M この設例は家なき子に該当すると思う。長女は「続開始前3年以内に相続税法の施行地内にあるその者又はその者の配偶者の所有する家屋」に住んでいない(措置法69条の4第3項2号ロ)。被相続人は「相続の開始の直前」において介護認定を受けているので、旧宅は「当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用」に含まれる(同条1項)。 N 生計別の親族が留守宅に引っ越してきたらダメです。措置法施行令40条の2第3ですが、「被相続人等(被相続人と前項各号の入居又は入所の直前において生計を一にし、かつ、同条第1項の建物に引き続き居住している当該被相続人の親族を含む)以外の者の居住の用」とした場合はダメとしてます。 A なるほど。介護老人ホームに入所したら、即、被相続人は転居扱いにされる。だから、配偶者以外には、同居した親族も小規模宅地特例は受けられなかった。それが平成25年度税制改正で介護老人ホームに入所しても、被相続人は転居扱いされず、同居していた親族も小規模宅地特例が受けられるようになった。 T それなら立法技術上のミスではないか。同居親族についての保護を継続するという条文を作成したが、被相続人が配偶者の無い単身居住者である場合を想定しなかった。つまり、家なき子まで思考が及ばなかった。実家に父親を残し、大阪に転勤中の長女夫婦の場合で、父親が介護老人ホームに入所することになったとしても、直ちに長女夫婦が実家に戻れるわけではない。やっと、3ヶ月後に、長女は会社を退職し、実家に戻った。その場合が救済されないのは不合理です。 A なるほど。相続の開始前に、実家に戻り、実家に住んでいた子を「家なき子」に取り込む発想を国は思い付かなかった。 K 相続税の申告に際して、居宅に住んでいる親族が、@父親が介護老人ホームに入居する前から同居か、A相続後に住むことになったのかを確認するのを失念してしまいそうです。 M 実務では是認されると思う。当事者の意思として、介護老人ホームの入所は「病院への入院」と同等の扱いです。 谷 修二 実務では是認されているかもしれないが、ただ、条文としては相続前に実家に戻ってはダメ。しかし、死ぬまで実家に戻るなとはいえないし、長女夫婦が実家に戻った後に、父親を、一度、介護老人ホームから実家に戻すのも現実的には困難。悩ましい条文です。 2018年6月21日現在 |
63 雑損控除を受けた不動産の売却 磯貝慎一郎 熊本地震で半壊になり、雑損控除を受けた居住用不動産を売却します。その場合の取得費はいくらになるのか。 T 雑損控除は、時価の世界なので、取得費の世界には影響を与えないように思います。災害損失が生じても、その年度で雑損控除と相殺する所得がなければ、税法上の取り戻し効果は得られなかったのですから。 M 雑損控除によって被災直後の時価まで損失計上している。被災直後の時価まで取得費は切り下げられると考える。被災直後から売却時まで家事用に供していれば減価償却費相当額を差し引きます。 W 所得税基本通達51−9(損失が生じた資産の取得費等)に従えば災害損失は控除すべきですね。 H それは資産損失として損失額を必要経費に算入した場合です。雑損控除の適用を受けた場合は所得税基本通達72−8(損失の生じた資産の取得費)です。取得費を、その時点での災害損失後の時価まで引き下げることにしてます。 S なるほど。@減価償却後の取得費と、A損失発生後の時価を比較し、@が小さい場合は@が維持され、Aが小さい場合はAまで引き下げられる。つまり、雑損控除は時価で計算するので、災害時の時価から災害分(雑損控除)を差し引いたのが、その後の取得費になる。 災害前の時価 @が小さい Aが小さい ┌─────┐ ┌─────┐ ┌─────┐ │ │ │ 災害損失 │ │ │ │ │ ├─────┤ │ 災害損失 │ ├─────┤ │災害後の時│ │ │ │災害時の取│ │価A │ ├─────┤ │得費@ │ │ │ │災害後の時│ │ │ │ │ │価A │ └─────┘ └─────┘ └─────┘ K 事業、あるいは業務用の資産ではなく、雑損控除も受けなかった。その場合の取得費は、実際の取得費が維持されるのか、あるいは所得税基本通達72−8の取得費の修正が行われるのか。 T 修正は行われないでしょう。取得原価が、途中で災害によって修正される理屈はありません。塀に車がぶつかった、台風で屋根瓦が飛んだ、石をぶつけて窓ガラスを割ってしまった。そのような場合の全てで雑損控除として処理をしているとは思えません。あくまでも事業等の損失として計上した場合と、雑損控除を利用した場合の減額の理屈です。 磯貝慎一郎 事業等に利用している場合であれば帳簿価額で管理されるが、その他の資産について、災害時の時価と、災害後の時価を遡って調べるのは困難です。雑損控除をしていない場合は簿価の切り下げが必要ないという理屈が、もし、成立したら、修繕費などの資本的な支出を投じた場合を除き、取得費を利用しているかもしれませんね。 2018年6月11日現在 |
62 清算型遺贈と譲渡所得 関根 稔 「土地を売却し、債務や諸費用に充てて、残金を友人に遺贈する」。そのような清算型遺贈についての譲渡所得の申告は、@準確定申告なのか、A相続人なのか、B受遺者なのか。 T 清算型遺贈について、その事案を包括遺贈と定義したうえで、所得税法12条を適用し、「相続人は相続財産に係る譲渡益を享受しておらず、その譲渡益は包括遺贈の受遺者が享受している」のだから、譲渡所得の申告は受遺者が行うべきとする相談事例を目にしたことがある。 K 所得税法12条は「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属すると見られるものが単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」と規定している。これは実質所得者課税を宣言したものであって、清算型遺贈には馴染まないように思う。 S 包括遺贈であれば、受遺者は相続人と同じ地位(民法990条)になるので、譲渡所得の申告について負担割合が法定相続分になるのか、受遺者の相続分を含むのか、受遺者に限るのかの違いがあっても、受遺者が譲渡所得の申告義務者に含まれることは間違いがない。 T しかし、法定相続分での申告義務なのか、受遺者が全額を申告する義務があるのかには大きな違いがある。それに包括遺贈ではなく、特定遺贈の場合について課税関係を明らかに出来ない理論では価値がない。 K 清算型遺贈は、受遺者に、多様な負担を承継させたくない場合に利用されることが多い。土地を遺贈すれば、その後の管理の負担が生じてしまうし、包括受遺者は債務まで承継することになってしまう。 W 登記手続では、いったんは相続人名義になり、その後、換価として第三者に売却される。遺言執行者がいれば、遺言執行者の押印で処理できるとしても、登記手続は相続人を経由することになる。つまり、相続人が譲渡所得の申告をすべきではないか。 K 相続人に譲渡所得の申告義務を負わせたら、債務と費用の弁済に充てた残金は受遺者に渡ってしまうのに、相続人は、譲渡所得にかかわる所得税だけを負担させらることになる。 T 所得税も、費用に含まれると解せないか。しかし、費用を差し引いた残金と遺言書に書いてなければ控除できない。 M 負担付遺贈とは位置付けられないか。「換価し、その代金を受け取る」という清算型遺贈は、「土地の遺贈を受けるが、それを換価し、代金を受け取る」という負担付遺贈ではないか。 関根 稔 なるほど。遺贈された土地は実質的に受遺者に帰属する。受遺者は、それを換価し、譲渡所得の申告をして納税し、残金を取得する。それを遺言書で表現すれば清算型遺贈の遺言書になる。つまり、換価することを負担とした土地の特定遺贈と考えれば良いのですね。 2018年6月1日現在 |
61 空き家特例の1億円の限度額 関根 稔 被相続人と長男で2分の1ずつの共有になっていた家屋と敷地について、長男が被相続人の共有持分を相続し、自己の持分と合わせて1億2000万円で売却した場合は、譲渡対価が1億円を超えるため3000万円の特例控除の適用は受けられない。しかし、次男が被相続人の共有持分を相続し、長男の持分と合わせて1億2000万円で売却した場合は、次男が相続した2分の1の持分の譲渡の対価は6000万円なので特別控除の適用がある。そのような解説があるが、その理解で良いのか。 T 相続開始前に子に持分を贈与し、相続する持分を1億円以下に抑えれば特例が受けられてしまう。そのような租税回避の防止ではないか。 M しかし、それなら次男に相続時精算課税で贈与してしまえば良い。長男が相続する持分の売却価額は6000万円なので、その部分には空き家特例が適用できてしまう。 T 母と長男で各々が6000万円を支出して居宅を建築した。あるいは父の相続によって母と長男が1億2000万円の居宅を共有取得した。この場合も、母の持分を長男が相続すると、長男の持分を加えたところで1億円基準が適用されてしまう。租税回避ではないのに空き家特例が否定されるのは不合理です。 K そもそも、なぜ、1億円を超えると特例の適用が否定されるのか。「贅沢居宅」を除外する趣旨か。それなら共有者の持分も加えて1億円判定をすべきではないか。 S 共有者(長男)が相続し、その後に売却する場合は、相続部分と固有の所有部分が区別できない。つまり、1つの居宅の譲渡なので全体について1億円基準が適用される。 M 相続した物件が、他の相続人(次男)と共有関係にある場合は、相続した者(長男)は、共有者(次男)の持分の売却を強制することができない。だから相続分に限っての1億円基準が適用される。つまり、次男の持分を合わせて売却代金が1億2000万円になっても空き家特例は否定されない。 S しかし、その場合も、売却した居宅が1億円を超える「贅沢居宅」であることは否定できない。 A 次男が共有持分を持ち、次男は居宅を相続しない。その場合は、次男は相続とは無関係だ。無関係の者が持つ持分の譲渡を、空き家特例を制限する1億円の基準に加えることはできない。 T なるほど。被相続人から居宅を承継しない次男は、相続人に関しては他人と同様。空き家特例を適用する場合の1億円判定に、他人の持分の譲渡を加える理由はない。居宅を相続しない次男を、ただ、法定相続人だという理由で空き家特例の一員に加える理屈は存在しない。 関根 稔 1億円を超える「贅沢居宅」であっても、居宅を相続した相続人を基準にして考えるのであって、居宅を相続しない相続人は含まれない。理屈はシンプルなのですね。 2018年5月21日現在 |
60 使用貸借と借地権の認定 平野多津男 同族会社は、社長の所有地を昭和の時代から使用貸借で借りて、工場敷地として利用している。もちろん、無償返還届の提出はありません。この底地を会社が買い取る場合は更地価額で良いのか。 T 法人を契約の当事者にする場合は使用貸借でも借地権を認識する。これが法人税法の作りです。たとえば、法基通13−1−14は「借地権の設定等に係る契約書において将来借地を無償で返還することが定められていること又はその土地の使用が使用貸借契約によるものであること(いずれも13−1−7に定めるところによりその旨が所轄税務署長に届け出られている場合に限る。)」と定めてます。つまり、使用貸借の場合も無償返還届の提出が必要だという理屈です。 S なぜ、使用貸借に権利金相当の価値を認めるのか。@法人には無償の契約はあり得ない。だから、A賃料を支払ったとみなす。その結果、B賃料を支払ったのであれば借地契約だという3段論法なのか。 M その理屈には大いに疑問がある。借地権価額を認めるのは、借地法が適用され、借地契約の法定更新が認められ、容易には明け渡しが認められないことや、それなりの手続をすれば借地権が譲渡できることが理由だ。使用貸借には、そのような権利は存在しません。 K 昭和48年以前は、使用貸借についても借地権が認識されていた。それが昭和48年11月1日付の「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」で変更され、使用貸借には借地権を認識しないことになった。しかし、昭和48年以前に借地権を認識した土地について相続が開始した場合は、借地権が存在しないものとして相続税を課税したら不合理なので、経過的取扱いとして「従前の取扱いにより……借受者に贈与税が課税されているもの」については、土地価額から借地権相当を控除した価額に相続税を課税することにした。 M なるほど。相続税の分野では、使用貸借について借地権を認識しない取り扱いに変更した。つまり、継続的な処理を必要としない相続税では、その次の相続に限っての経過的な取り扱いで対処できた。しかし、貸借対照表で継続管理する法人税法では、そのような理屈の乗り換えは難しい。 E 歴史的な経過が、その通りだとしても、使用貸借に借地権を認識するのは疑問がある。無償で借り受けて、自動更新が保証されず、期限が来れば明け渡しで、第三者への対抗要件もない。 M そもそも法人税法が定める使用貸借は、@建物の敷地としての使用に限るのか、A建物の敷地ではない場合も含むのか。@に限ると思うが、借地借家法や、民法などを見ても、使用貸借に@とAを区別する理屈は存在しない。 平野多津男 実務としては、無償で貸与した場合も無償返還届の提出ですね。しかし、相続や売却が迫っている場合には無償返還届では対処できない。個人の取り扱いに合わせてくれないと困ります。 2018年5月11日現在 |
59 同族会社への不動産管理料 辻 貴史 5000万円ほどの賃料収入がある個人だが、管理業者に4%ほどの管理料を支払い、それとは別に同族会社に10%の管理料を支払っている。この場合の10%は高すぎるのか。仮に、個人が高額部分を自己否認し、修正申告書を提出した場合は、会社側は更正の請求が認められるのか。 K 課税庁が税務調査で指摘する金額と、それに応じずに更正処分を受ける金額は異なる場合がある。調査段階で妥協して修正申告をした方が有利になる。平成18年6月13日裁決(速報税理2007年1月21日号)では、課税庁が調査の過程で示したのは賃料の5%だったが、更正処分では、平成13年分4.19%、平成14年分2.75%、平成15年分4.4%。そして審査請求では課税処分が是認されました。 M 個人が修正申告書を提出しても、法人が受け取った管理料が減額されれば良いのだが、そのような処理は認められるのか。 T 個人の修正申告と、法人の更正の請求の関係は、実務では次のように処理されてます。 @納税者本人が管理会社に対して過大部分の返還を求めない場合は過大部分を減額しない。A過大部分について、遡及して契約を減額更改するとともに、納税者本人が管理会社に対して返還を求める場合は過大部分を更改した日の事業年度の損金に算入する。 K 遡及して契約を減額修正した場合に、返金した時点での損金に算入できるのか。税務は後からのやり直しを認めないのが原則だと思うが。 T 上記の@とAは、不動産の管理料に関しての特別の取り扱いで、管理料に限った実務での救済です。 Y 管理料方式とは逆の処理にして、同族法人にサブリースして30%の中抜きを認める場合は問題があるのか。 T その場合は同族会社の行為計算否認です。貸金業を経営する個人が、低利で、同族会社に融資した事例で、平和パチンコ事件の理論的根拠になった判決です。個人が所有する賃貸物件を低額な家賃で同族会社に賃貸した事例についても、個人の不動産所得が否認された事例を身近に経験してます。 K 個人が会社に不動産を賃貸する場合は、仮に、無償でも是認されるので、テナントから受け取る家賃の30%を中抜きした場合でも問題はないと思うが。 T 会社に過大な管理料を支払うか、会社に低額な家賃で賃貸するか。これは裏表なので、一方を否認するのであれば、他方も否認しなければならない。理屈を求めるとすれば低額での役務の提供の否認です。 辻 貴史 外部の管理業者に依頼せず、全ての業務を同族の管理会社が行っている場合の管理料と、外部の業者にも依頼している場合の同族会社の管理料は異なる。前者であれば、仮に、10%、15%は是認されても、後者の場合は8%程度が上限になり、課税処分だと5%以下になってしまう場合もある。 2018年5月1日現在 |
58 共有地の分割と譲渡所得 田川裕一 共有地の分割について所基通33−1の6は「持分に応ずる現物分割」を原則として、注書きで「土地の面積比と共有持分の割合とが異なる場合であっても、その分割前後のそれぞれの土地の価額の比が共有持分の割合に概ね等しいときは、その分割はその共有持分に応ずる現物分割に該当する」とあります。そうすると共有地の現物分割は、土地の面積比であっても、分割後の土地の価額比であっても良いことになるのですね。 K そうです。仮に、二路線に面した角地を按分する場合には、面積比と価額比では分割前の持分比率と不一致になります。 S そのような場合に、面積比で分割したら、所得税は課税されないが、贈与税は課税されることになる。相続によって母と子で2分の1ずつの共有にしたが、その後、表通りと裏通りに面するように同じ面積で分割するという場合です。 T 贈与税が課税される可能性はあるが、所得税は課税されないと思う。50対50の共有地について、aが20を取得して、bが80を取得した。その場合に30が譲渡されたとみなされたとしても、対価はゼロなので個人への譲渡は認識されません。個人間の分割であれば、対価が認識されない限り、譲渡所得が認識されることはありません。 A なるほど。50対50の共有について、aが20を取得して、bが80を取得した場合に、aは30を譲渡し、20の対価を得たと考えるのも不合理。 M そもそも共有地の分割について「譲渡」の事実が認識できるのか。仮に、譲渡に対価を要しない法人間の分割だとしても、共有物の分割は「譲渡」にはならないように思う。 N なるほど。共有は、両名の所有権が重なり合った関係(私共はミルフィーユ型と定義しますが)なので、税法が独自に「譲渡」を認識しなければ、民法上は「譲渡」を認識するのは無理ですね。 K 仮に、100坪の土地であれば、共有は、各々が100坪の所有権を有する。それを片方は20坪に減縮し、他方は80坪に減縮する。そのような理屈であれば所有権を移転する譲渡は認識できない。極端には、一方がゼロで、他方が100坪になっても所得税は課税されない。贈与税は課税されてしまいますが。 W なるほど。だから共有物の分割は交換ではないのだ。共有物の分割については交換特例の要件が要求されない。100坪の土地を20坪と80坪に分けても、差の60を交換差金として譲渡所得課税を行うとは言わない。 田川裕一 共有は、それぞれが100%を所有する関係であって、一方が共有持分を放棄しても、それを譲渡とは認識しないし、放棄を受けた側も資産を取得するわけではない。ただ、相続税法9条は、それを「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」と認識し、みなし贈与の対象にしている(相続税法基本通達9−12)ということですね。 2018年4月21日現在 |
57 仮想通貨の課税関係 掛川雅仁 仮想通貨の取扱いが公表された。ほとんど当然の内容だが、マイニング(採掘)への課税が気になった。マイニング時点で収益を認識し、時価を取得価額にする取り扱いだ。「この場合の所得金額は、収入金額(マイニング等により取得した仮想通貨の取得時点での時価)から、必要経費(マイニング等に要した費用)を差し引いて計算します」としている。 T マイニングについて、@売却または支払手段として利用した時点で課税するか、A取得時点で課税するのか。Aとして取り扱った方が、その後の移動平均等による取得価額の把握が容易だ。 M マイニングは原始取得なので、鉱山所得や公有水面の埋め立て(土地の原始取得)と同様にマイニング時点では課税せず、マイニングに要した費用を取得価額とするのが理屈と考えていた。採掘時点で課税するのは農産物の収穫基準と同様の考え方なのか。 E 農産物は、自家消費があるので収穫基準に合理性があります。仮想通貨は、自家消費が無いのに収穫時に課税するとしたら取得原価主義に反します。仮想通貨の採掘時に課税するのは租税理論に反する解釈のように思う。 K マイニングは、日本銀行の紙幣の発行と同じなのか。そうしたら日本銀行は紙幣を発行すると同時に収益を認識するのか。それはあり得ないと思う。 T 日本銀行は、融資(債権債務)としてしか紙幣を市場に放出できない。融資をしても利益を認識せず、返済を受けても損失を認識することはない。マイニングの理屈と比較することはできないと思う。 S もし、比較するのであれば江戸時代に徳川家が行った貨幣改鋳です。徳川幕府は、貨幣発行権限を独占した。金を掘り出し、それを小判として市場に放出する。まさに採掘です。 M そうしたら、金鉱山で金を採掘している住友金属鉱山と同じなのか。あの会社の場合は採掘した金は商品として取得原価が計上される。 S 住友金属鉱山が、仮に、金貨を鋳造したら、その時点で時価の実現だろう。その金貨で買い物ができるのですから。 K しかし、仮想通貨は、通貨ではなく、単なるモノに過ぎない。消費税法施行令で支払手段に類するものとされているだけだ。それならば、マイニングで取得したビットコインは、棚卸資産であり、その取得価額は、費用の額だろう。 M それを言えばドルだってモノですし、ベネズエラのボリバルだってモノです。支払手段は日本円に限らず、他国の通貨も支払い手段でしょう。そして仮想通貨は無国籍通貨です。 掛川雅仁 なるほど。金鉱山のように商品を採掘するのでなく、支払い手段としての通貨を採掘する。採掘が、即、利益の実現なのだ。だから採掘時の時価を計上する。仮想通貨について、政府は、消費税の取り扱いに続いて、所得課税でも通貨であることを認めた。 2018年4月11日現在 |
56 所得拡大促進税制の微妙なライン 磯貝慎一郎 所得拡大促進税制について、決算前の打ち合わせは、どのような基準で実行してますか。@基準事業年度の国内雇用者に対する給与等の支給総額、A前事業年度の国内雇用者に対する給与等の支給総額、B適用年度の平均給与等支給額。これらが微妙なラインにある場合です。 A 利益が多く出そうなときに「決算賞与の支給はどうですか」と提案する絡みで付随的に検討することはあります。 T そもそも、会計帳簿、つまり、借方と貸方理論から見えない適用要件について、税理士は顧問先の経営状態を監視する義務があるのですか。適用要件を満たしていることを見落とした場合は責任があるとして、給与の支給方法について事前にアドバイスをする義務ですが。 K 適用要件は必ず伝えるとして、どこまで税理士が試算の義務を負うのか。仮に、100件の顧問先に対して、どの程度の割合で適用要件を満たすのか。会社の規模が大きい場合は適用要件のみを伝えて、試算は会社にお願いするケースもあります。 S 適用要件を満たしているのに適用を失念した場合は救済がない。当初申告要件を満たさないので更正の請求は認められません。税理士職業賠償責任保険の適用事例があるとも聞いてます。 M 適用はしたが、その計算が間違っていた場合は更正の請求が可能か。法人税などの本法で当初申告要件が廃止になったのと同時に、措置法について適用額の制限が廃止されました。 K 更正の請求で適用額を増額することは認められてません。「控除される金額の計算の基礎となる雇用者給与等支給増加額は、確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を限度とする」とされてますので増額は不可です。 T しかし、第42条の12の5第4項の書き出しに「確定申告書等」は「同項の規定により控除を受ける金額を増加させる修正申告書又は更正請求書を提出する場合には、当該修正申告書又は更正請求書を含む」として更正の請求を含んでいるように読めます。 K いや、ダメです。「以下この項において」と言う文言がないので、最初に登場する「確定申告書等」と、次に登場する「確定申告書等」の範囲は異なります。次に登場する「確定申告書等」は、措置法2条2項27号の定義の中間申告書と確定申告書に限ります。 M なるほど。しかし、これを条文から読み取れる税理士が何人いるのだろう。民法なんて「相続は、死亡によって開始する」なので誰でも読めますが、税法は職人芸の世界です。 磯貝慎一郎 完璧を期そうとしたら、可能性のある会社について期中から給与の支給額を監視しなければならない。適用を失念してしまえば更正の請求での救済もない。良い政策でも、数字をフォローするのが難しい政策立法は税理士泣かせです。 2018年3月21日現在 |
55 農地と非上場株式に係る贈与税の納税猶予の違い 山崎信義 農地についての贈与税の納税猶予制度と、非上場株式についての贈与税の納税猶予制度について、贈与者が死亡した場合は、農地も非上場株式も相続税の課税対象に取り込まれますが、相続税の課税価格に算入する価額は次のように異なります。同じ納税猶予制度なのに@とAの違いが設けられている理由は何でしょうか。 @ 贈与者に係る相続税の課税価格に算入される農地等の価額は、贈与者の死亡の日における価額(措法70条の5第1項) A 贈与者に係る相続税の課税価格に算入される非上場株式の価額は、その贈与の時における価額(措法70条の7の3第1項) T 贈与を受けた後の稼ぎは、後継者が作り出した財産なので相続税は課税しない。贈与後の内部留保を後継者が作り出した価値とするのは遺留分の固定合意と同じ考え方です。農地については、贈与を受けた後の地価上昇分を後継者が作り出した財産とはいえません。 K 農地の納税猶予は、相続時精算課税制度導入前からの制度なので、贈与時の評価で固定するという思想を採用していない。 T 平成29年度税制改正で、相続時精算課税を選択した非上場株式の贈与について贈与税の納税猶予の適用が認められましたが、それ以前は適用が認められていませんでした。非上場株式の納税猶予の制度を設計した段階で相続時精算課税を意識したとは思えません。もし、相続時精算課税を意識していたのであれば、制度の導入時点で相続時精算課税への乗り換えを認めたはずです。 K 株式の納税猶予の場合は、株式時価の20%相当額に係る相続税額を使って猶予税額を計算するので時価評価時点が問題になるが、農地の納税猶予の場合は、農業投資価格を使って猶予税額を計算するので相続時に洗い替えしても害はない。 M しかし、農地について価格固定効果がないとしたら、どんな場合に贈与の特例を利用するのでしょう。相続時に選択しても同じですね。 T それは制度の趣旨について勘違いしてます。もともと制度は税法基準ではなく、税法以前のニーズがあって、それを税法が邪魔しないことが立法趣旨です。生前に農地の後継者を決めて相続紛争を防ぐというのが制度の趣旨です。 M 確かに、農地については法定相続分に基づく遺産分割は不似合いです。農地を遺産分割してしまったら農業経営の継続は不可能です。都心型の農地を想定すると「土地」が主人公になりますが、農地の納税猶予の主人公は「農業」なのです。 山崎信義 なるほど。私達は税法からアプローチする。だから、退職金を支払い、株価を下げて生前贈与する。事業承継税制については、それがメインの利用法になっていることが間違いなのですね。税法を先に考えると制度を読み間違えてしまいます。 2018年3月11日現在 |
54 更正の請求における評価額是正の可否 末永敦康 法定申告期限から5年を経過している事案で、遺産分割が完了したので、相続税法32条に基づく更正の請求をする予定だが、その際に当初申告の評価額の誤りも取り込むことが可能か。 T 32条は相続税額についてプラス・マイナス・ゼロの場合の更正の請求です。一方の相続税が減れば、減った分だけは他方の相続税額が増えるという関係です。つまり、相続税の総額を減らす当初申告の誤りは救済されません。 S 法定申告期限から5年を超えてしまったら、課税庁側の更正処分も、納税者からの減額更正の請求があった場合に限り、そのときから1年以内に限って他の相続人に増額更正処分ができるという作りです(相続税法35条3項)。 K 嘆願制度の利用も無理ですね。あれは更正の請求期間が1年だった時代に課税庁に対して嘆願する制度でした。職権による更正処分でも5年を超えたら実行できません。 S 仮に、100年を経過してから32条の事実が生じ、そこで当初申告の間違いまで修正してしまったら、更正処分の期間を5年に制限した意味がなくなってしまう。5年は、会計法30条、31条の制限なので、税法が5年を無視することはできません。 T なるほど。しかし、32条に基づいて相続税額が減少する場合があります。配偶者に対する相続税額の軽減、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例。それに、取引相場の無い株式について遺産分割が未了なので原則評価だった場合に、分割し、中心的な同族株主から外れ所有分が5%未満になれば配当還元価額に減額されます。これは32条に基づく救済なのか、あるいは別に条文が準備されているのか。 K 配偶者の軽減は相続税法32条1項8号が減額を認めてます。「分割が行われた時以後において同条第1項の規定を適用して計算した相続税額がその時前において同項の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなつたこと」。小規模宅地の特例は租税特別措置法施行令40条の2第19項が相続税法32条1項8号を読み替えて適用してます。 M 相続税法32条2項の各々の規定は、過去に遡っての調査を必要とせず、その時点での事実に基づいて更正処分ができる事実に限ってます。死後認知の場合は32条1項2号が取り込んでますが、取引相場の無い株式の取得分が変更したことで評価額が変わった場合まで32条で救済されるとは思えません。 末永敦康 32条は、相続税額の総額に変更が無い場合で、死後認知を想定しても、相続財産の総額に変更が無い場合に限る。つまり、その時点での税務調査を要せず、当初申告からの計算の修正だけで更正処分が可能な場合に限る。それ以外の増額更正処分、減額更正処分は会計法の5年間で打ち切られてしまう。そのような位置付けですね。 2018年3月1日現在 |
53 無限責任社員の債務控除 谷 修二 アパート建築業者の案件で、建築費は全額が借入で、融資先は合資会社。オーナーのみ無限責任社員になり、相続時には債務控除を受ける。つまり、建物の相続税評価額と借入金の差額について債務控除が可能という説明だった。私は相続税評価額ではなく、実勢価額と認識しているが、これは間違いなのか。 K 国税局の質疑応答事例は「会社財産をもって会社の債務を完済することができない状態」としてます。会社の債務が完済できない場合なので、実勢価額でしょう。 S 債務超過の合資会社について解説した資料に仙台国税局の文書回答事例もあります。債務超過会社の無限責任社員が有限責任社員になった場合について、債権者に対する責任は「社員変更登記後2年を経過した時に消滅します。このことから、この時点で……無限責任社員は債務を弁済する責任を負わないとする経済的利益を受けることになることから、無限責任社員に対し所得税の課税が生じることとなると考えます」と回答してます。 T ネットの情報ですが、「課税の公平という観点から、相続税法上の清算価額計算としての意義を有するところの財産評価基本通達に基づいて債権債務を評価するのが妥当であろう」とする解説があります。 M ネットの情報は、まず、信頼性の検証が入口です。@書いてある論理が信頼できるのか、Aどのような経歴と学識の方なのか。@については読む側の知識と経験値で検証しますが、私は、この見解は信頼性に疑問が付くと思います。 S まず、疑問1として債務控除の前提になるのは実勢価額か、相続税評価額なのか。疑問2として「会社の債務を完済することができない状態」とは数字上の差し引きの概念なのか、さらに会社の破綻状態を要求するのか。 K 疑問1ですが、これが実勢価額であることは明らかであって、議論の余地もないと思います。では、なぜ、路線価という主張が登場するのか。おそらく、持分会社法理が民法上の組合というところにあるのではないか。民法上の組合であれば資産は相続税評価額で計上します。 T 仙台国税局の文書回答事例で、無限責任社員が有限責任社員に変更登記をした場合に、資産を相続税評価額で計算し、債務超過の場合には一時所得課税をするというのは不合理です。 M 私は、さらに、資産と負債の数字上の差し引きで債務控除を認めるのではなく、「会社財産をもって会社の債務を完済することができない状態」が現実的に発生していることが必要だと思います。債務の確実性は「負担することが確実」という概念で判断するのが相続税の理解です。 谷 修二 国税局の質疑応答事例と仙台国税局の文書回答事例を照らし合わせると、債務超過は、少なくとも実勢価額で評価した上での債務超過と考えるべきですね。さらに、「債務は確実と認められるものに限る」という相続税法14条の趣旨から、会社の破綻状態を要求すると考えるのが無難でしょう。 2018年2月21日現在 |
52 移転価格税制と寄附金の違い 濱田康宏 全く対価を貰っていない場合は移転価格税制の話にならず、寄附金課税の問題で終わってしまう。少しでも対価を貰っておけば寄附金課税の話にならず、移転価格税制の話で議論できるようになる。そのような説明を聞いたが正しいか。 K 低額譲渡や、低廉な役務提供であっても寄附は寄附なので、無償の場合は寄附という分類は粗すぎる。寄附(贈与の意図)があった場合は寄附金で、それ以外は移転価格という意見も粗すぎると思う。 T 寄附に「意図」は不要です。低利で融資をした。そのような場合は、寄附の意図があっても、無くても、正しい金利との差額は寄附金です。 N 「移転価格税制は……租税回避の意思の有無、関連者支援の意思等に関係なく結果的に独立企業間価格で取引されているか否かが問題となります。贈与の意図が認められた場合(実質的に贈与したものと認定された場合)は寄附金課税、それ以外は移転価格税制が適用されるのが妥当だ」という解説があります T これでは説明になってません。上記の「移転価格税制」を「寄附金」と入れ換えても意味は同じです。 N 「移転価格税制≠寄附金税制」の違いが分からない。なぜ、移転価格税制の専門家と会話が通じないのだろう。移転価格税制を担当する人達は、税理士の実務から入った人達ではないので税法的な発想をしないのか。税理士側に限らず、国税庁の職員の場合も同様です。簿記と税法ではなく、英語が出来る人達が移転価格税制を担当している。 E 確かに。複式簿記を知らなくても、法人税の別表を見たことがなくても、移転価格文書は作れます。でも、英語ができなければベンチマークスタディができないので文書は作れない。諸外国との調整の結果として樹立された制度なので、日本の税法との摺り合わせは難しい。 Y なるほど。移転価格税制は「税」という名の税法とは全く異なる制度ですね。だから移転価格税制を専門にする人達には寄附金の説明ができず、ベーシックな税法を担当する人達には移転価格税制が説明できない。もし、簡略化することが許されれば移転価格税制は「総額的な認定手法」で、寄附金は「個別の費目に区分しての否認手法」だ。 T たとえればDCFでの株価計算と財産評価基本通達による株価の関係です。共に株価の計算で、共にこれが正しい株価だと主張するが、しかし、算定した金額の違いを両者は摺り合わせることは出来ない。 濱田康宏 町の中小企業も国外に子会社を持つ時代です。そこに移転価格税制が適用されるのか。しかし、移転価格税制の認定手法の中心を占めるのは「取引単位営業利益法」だが、これを理解しているのは国税局の担当者に限る。だから、税務署の調査で移転価格税制が登場する事は想定できない。町の中小企業の税務調査では、従前どおりの寄附金認定しか登場しないと考えて良さそうです。 2018年2月11日現在 |
51 債務者が支払義務を争う債権と貸倒損失 三野隆子 追加工事でもめて300万円ほどを支払って貰えない債権があります。社長はあきらめても良いと言っているのですが、貸倒損失を計上できる理由が不十分です。債権放棄書を送るのでしょうか。 K 相手に支払能力があるのなら債権放棄書を送っても貸倒損失として認めてくれないでしょう。貸倒引当金の計上も理由がなく、寄附金と認定される可能性が高い。値引処理でしょうか。 M しかし、相手に塩を送るような処理は経営者の信条として受け入れ難い。それに値引き処理であれば無制限に認められるわけではないと思う。 S 債権放棄をすると抜き差しならないことになってしまう。元役員に対する債権について貸倒処理をしたところ、税務調査があって、反面調査では元役員は独立して商売をしているとのこと。貸倒損失の要件がないという指摘を受けたことがあります。しかし、元役員の財産の所在は税務署には守秘義務があって教えて貰えない。そこで、「承知しました。では、今年も、来年も、再来年も、貸倒損失としての更正の請求を続けます。いつかは、貸し倒れが認められるでしょう」と反論して交渉したのですが、債権放棄書を郵送していたら救済がありませんでした。 K 相手が支払わないと主張するのであれば、貸倒損失として処理してしまえば良いのです。昔は1円でも回収できれば貸倒損失は否認されましたが、いまは貸倒引当金に乗り換えられます。 M 法人税基本通達11−2−2ですね。「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」の追完で個別評価金銭債権の貸倒引当金への乗り換えを認める。 A 貸倒引当金に乗り換えるにしても、個別評価引当金が計上できる理由を満たす必要がある。債務者が営業を継続してる状態では法人税法施行令96条第1項2号の「債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと」を満たさない。 K そもそも、相手が支払義務が無いと言っている債権です。相手の言い分を飲めば存在しない債権なので、貸倒損失でも、債務消滅損でも、何でも良いと思います。 T 存在しない債権という証明の為に、ある程度の資料は用意しておくべきですね。弁護士からの内容証明郵便。金額によっては調停の申立くらいはしておいた方がよいでしょうか。 K 不要でしょう。債権放棄をしていない限り、否認されたところで翌期認容です。 三野隆子 損金処理をせず先延ばしをしたら、いつ貸倒損失処理をするのか、そのチャンスを失いますね。損失に落とした年度に「なぜ、今年なのですか」と問われると答えられません。それが税理士のリスクになってしまうので、先延ばしせず、先取りしての貸倒処理が必要です。 2018年2月1日現在 |
50 事業承継税制の提案 林 朱実 事業承継税制ですが、これをアドバイスしないと税理士過誤と言われてしまいませんか。つまり、@贈与税の納税猶予は相続時精算課税への乗り換えが可能になって猶予取り消しによるリスクがなくなったこと。A相続税の納税猶予を受けた後の取り消しのリスクは利子税ですが、利子税は年0.8%という低率になっていること。 K 相続税の納税猶予を受けて、次の相続で猶予を受けない場合でも、先の相続税が免除になり、その分は絶対にお得。いまや相続で事業承継税制の適用の可否を納税者に提示しないのは税賠案件になったということなのか。 T 相続の度に税額の8割相当額の免除が受けられるなら猶予を受けることを前提に考えるべきです。事業承継税制は5年間の経営継続の要件と、その後の事業継続の要件があるが、5年間の経営継続の要件をクリヤーすれば、その間の利子税は免除されます。つまり、10年後に取り消されても本税と4%の利子税の負担です。 M 本税は、納税猶予を選択しなかった場合にも当然に負担する税金なので、本税を負担しても損害とはいえない。損失は4%ですが、これで10年間の期間が稼げるのであれば無理に納税資金を確保する必要はありません。コストが10年間で4%であれば、10年間の時間稼ぎの意味からも利用すべきです。 S 事業は子が承継するが、いずれ解散し、あるいはM&Aで譲渡してしまう。そのようなときは事業承継税制は利用できなかった。相続人が一生について事業継続をしなければならない。つまり、赤福や虎屋のような老舗企業が利用する制度。そのような思い込みがありましたが、いま制度が変わっていますね。贈与についての納税猶予でも、先代社長が辞任するという要件が廃止され、先代社長は有給の役員として残っていてもok。 T 事業承継税制のプロは、それなりの手間が掛かる手続なので相続税額が、仮に、2000万円を超える場合でないと提案し難いと言っています。少額の相続税の事案での事業承継税制の利用は可能なのか。 M 仮に、事業承継税制を利用すれば1000万円の相続税が200万円になった。そのような事案で、アドバイスをしなかった税理士のミスと主張されたら、800万円の節税の為には、事務処理のための税理士報酬が500万円の支出になると主張しても、これは裁判上の抗弁になりません。 W では、事業承継税制が適用になる事案については、事前に、その要件を整えるアドバイスをしておくのは不可欠になるのか。贈与税の納税猶予も、相続時精算課税に乗り換えられるのであれば、相続時精算課税の利用よりも有利だ。 林 朱実 日々、お付き合いしている会社について、事業承継税制の適用が可能なのか、相続前に対処しておく処理があるのか、その確認をしておくことが必要ですね。 2018年1月21日現在 |
49 小規模宅地と代償分割 小野 恵 2人姉妹が相続人の事案で、自宅は小規模宅地の適用が受けられる姉が相続します。ただ、平等な相続を想定しているので、自宅の売却見込み額を計算して、その半額を姉が代償金として支払うことにしたい。それを実行すると姉の相続財産がマイナスになってしまいます。 K 仮に、実勢価額が1億円、路線価が8000万円、小規模宅地の評価減を利用したら1600万円。代償金5000万円を支払ったら、長女の取得財産はマイナス3400万円。マイナスの資産を相続した者は相続税の納税義務者から外れてしまい、次女のみが5000万円について相続税を納める。これは相続税の計算では不利ですね。 T 代償分割の圧縮計算が認められます。相続税法基本通達11の2−10を適用して代償金を圧縮計算することができます。 S 圧縮計算は実勢価額と路線価の価額差の圧縮に限りませんか。つまり、小規模宅地の評価減後の宅地評価減と路線価の価額差の調整には利用できないと思う。 M そもそもですが、あの通達が登場したのは前橋地裁平成4年4月28日判決が理由だったと思います。地価高騰の時代で、遺産分割の交渉をしている間に地価が上昇してしまった。分割時の時価を利用すると「Aの法定相続割合は27分の1であるにもかかわらず、更正処分によってAが負担することになったのは相続税の総額1億4135万円のうちの1億1775万円。これは相続税総額の83%に相当する」。それは不公平だと訴え、代償金について圧縮計算することが認められた。 T そうしたら相続税法基本通達11の2−10の圧縮計算も、相続時と分割時の時価の調整にしか利用できないのか。 M それに限らず、通達は、実勢価額と路線価の価額差の調整も認めています。相続人と包括受遺者の全員の協議に基づく合理的と認められる方法で良いとしています。しかし、小規模宅地の価額差の調整までは無理でしょう。 代償財産の相続税評価額 代償債務の額×――――――――――――――――――― 代償財産の代償分割の時における価額 W 居宅のみの一部遺産分割を実行したら如何か。代償金の金額は、換価の時期や、換価代金が確定した時点で追加して遺産分割を行えば良いと思います。 S その場合でも、代償金を支払えば、長女はマイナス、次女はプラスになってしまう。しかし、更正の請求と修正申告は不要ですね。両者間で合意し、相続税を精算することにすれば良いのですから。 小野 恵 遺産の一部分割であれば、小規模宅地評価減の後の金額を長女の相続財産に計上し、その他の財産を次女の相続財産に計上する。代償金を計上することによるマイナスの出現を防ぐことができますね。 2018年1月11日現在 |
48 特定新規設立法人の趣旨 白井一馬 課税売上が5億円を超える会社を含むグループが、新たに法人を設立したら1年目から納税義務があると定めればシンプルだ。しかし、それでは適用の範囲が広がりすぎてしまう。どのようにして適用の対象を絞っているのか。 T 消費税法にはグループ法人課税のようなグループを単位にする思想は存在しない。あくまでも課税売上が5億円を超える事業者を基点としなければならない。 K 特定新規設立法人の要件を拾い出せば、新設法人は、@課税売上5億円を超える事業者Aか、その事業者の完全支配関係にある会社が1株以上を出資し(消費税法施行令25条の3第1項1号括弧書き)、A事業者Aが完全支配するグループに50%超を支配されていることが必要(消費税法12条の3)。つまり、課税売上5億円を超える会社の分割を想定し(要件1)、完全支配グループに50%超の株式を持たれている必要がある(要件2)。 M それなら要件@については、親会社が課税売上5億円を超える場合に限らず、祖父会社が課税売上5億円を超える場合も本制度に含めるべきだった。しかし、祖父会社が5億円超の場合は適用されない。 祖父会社=課税売上5億円 | 親会社=課税売上1億円 | 新設会社 T 消費税法12条の3は、消費税法12条(分割等があつた場合の納税義務の免除の特例)の派生の租税回避防止税制なのです。だから、課税売上5億円超の会社の分社型分割(親子分割)か、分割型分割(兄弟分割)であることが必要です。 S なるほど。だから次の場合も適用されるのですね。課税売上5億円の子会社を分割型分割したのと同じです。 親会社=課税売上1億円 │ ┌───┴────────┐ │ │ 子会社=課税売上5億円 新設会社 T 消費税法12条の3は孫会社が5億円超の場合も取り込んでいますが、それも実質的には分割型分割と同等という理解です。孫会社が分割型分割を行った後に親会社に株式を移転したのと同じです。 親会社=課税売上1億円 │ ┌───┴────────┐ │ │ 子会社=課税売上1億円 新設会社 │ 孫会社=課税売上5億円 白井一馬 課税売上5億円超の会社が、現金出資による分社型分割か、あるいは分割型分割を実行する。そのような方法で設立した会社を特定新規設立法人として納税義務者に取り込む。ただし、法律上の会社分割と異なって事業の譲渡が要件ではないので、課税売上5億円超の場合に限定し、租税回避を防止するために完全支配ではなく、50%超支配まで取り込んだ。そのように考えれば理屈はシンプルですね。 2018年1月1日現在 |
47 国外転出時課税と納税義務の承継 川嶋利洋 長男は日本に居住するが、長女はアメリカに居住している。被相続人は3億円相当の有価証券を所有し、2億円相当を長男に、1億円相当を長女に相続させる旨の遺言書を遺している。国外転出時課税に係る所得税申告と納税は誰が行うのか。 K 相続人の全員が準確定申告と納税義務を負います。平成27年3月付の「国外転出時課税制度(FAQ)」も「相続対象資産を取得していない相続人についても、国外転出(相続時)課税の申告をする必要はありますか」という問に、「被相続人等が相続対象資産を譲渡等したものとみなしますので、適用被相続人等の準確定申告は、その相続人がすることとなります(所法124@)」と答えてます。 M 国外転出時課税は、所得税法の制度なので、有価証券の評価は財産評価基本通達ではなく、所得税基本通達59−6に基づく評価額です。遺言書をもって、国外に居住する長女が有価証券を取得しないようにしておけば、国外転出時課税について準確定申告は回避ができるのか。 T その通りです。国外転出時課税は、国外に有価証券が転出する際に課税する税制なので、準確定申告の期限までに遺産分割を完了し、国内の居住者が有価証券をすべて取得してしまえば課税されることはありません。 Y 有価証券は、上場株式に限らず、同族会社株式も含みます。小規模の株式会社でも出資金に含み益があれば、子が国外に居住している場合は国外転出時課税の対象になってしまう。そのような場合に、相続から4ヶ月以内に遺産分割を終えて国内居住者が有価証券の全てを相続するか、あるいは国外転出時課税について所得税法137条の2の納税猶予の手続を行うことが現実的に可能なのか。 S 4ヶ月内の遺産分割が行われていなくても、相続税の申告期限までに遺産分割を完了し、国内居住者が全ての有価証券を取得すれば救済されるように思う。遺産分割によって国外居住者が有価証券を取得した場合でも、その段階での納税猶予の申請が認められるように思う。所得税法137条の2第5項には「その提出又は記載若しくは添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるとき」の宥恕規定があります。 K 父親の相続財産なので、基本的に相続人は、その内容を知りようがないというのが原則。その場合に4ヶ月内の処理を要求するのは無理だ。仮に、息子が事業承継して同族会社株式の所在を知っていた場合であっても、本件のような政策立法について、法の不知を罰していたら弁護士と税理士以外は日本では生活できなくなってしまう。 川嶋利洋 関与先で、国外に居住する相続人がいる場合は、遺言書の作成は不可欠ですね。宥恕規定で救済されるとしても保証がない。税理士が国外転出(相続)時課税について適切なアドバイスをせず、相続人の申告漏れとなった場合は税理士が顧客から訴えられることになる。 2017年12月21日現在 |
46 中古資産の購入と資本的支出 関根 稔 中古ビルを購入し、耐震構造の為の資本的な支出をしました。この場合に「100分の50に相当する金額を超える」には2つの場合があるのですね。 @ 新築費用の「100分の50に相当する金額を超える場合」と、A 取得価額の「100分の50に相当する金額を超える場合」です。 減価償却省令3条(中古資産の耐用年数等)に定める「100分の50に相当する金額を超える場合」はAですが、@は、どこに定めがあるのですか。 T 耐用年数の適用等に関する取扱通達1−5−2です。「見積法及び簡便法を適用することができない中古資産」として、「事業の用に供するに当たって支出した資本的支出の金額が当該減価償却資産の再取得価額の100分の50に相当する金額を超える」ときは、中古ビルの取得価額と資本的な支出を合計した金額について、新たな資産の取得として法定耐用年数を適用すると定めています。 K 仮に、新築時の建築価額が9000万円で、中古資産の買取価額が1000万円。これに事業の用に供するために5000万円を支出した場合であれば6000万円で新築の建物を取得したとみなします。 M なるほど。新築費用の2分の1を超える資本的な支出をしたら、新規に建物を建築したのと同様とみなす。では、Aの場合は、中古ビルの取得費と、その2分の1を超える資本的な支出は、どのように区分して減価償却をするのですか。上記の例であれば、資本的な支出が800万円の場合です。資本的な支出が400万円の場合であれば簡便法、つまり、「当該資産の法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の100分の20に相当する年数を加算した年数」を耐用年数として減価償却費を計算しますが。 S この場合は1800万円については簡便法が適用できません。減価償却省令第3条1項1号に基づき「当該資産をその用に供した時以後の使用可能期間の年数」を見積もることになります。 T ただ、「当該資産をその用に供した時以後の使用可能期間の年数」の見積は、ほとんど不可能ですね。 K 耐用年数の適用等に関する取扱通達1−5−6は「資本的支出の額を区分して計算した場合の耐用年数の簡便計算」として、取得費と資本的な支出この2つをミックス(折衷)した耐用年数を計算することにしてます。つまり、本体部分は簡便法による1年当たりの償却費、資本的支出部分は法定耐用年数による1年当たりの償却費を計算し、これらを合算した金額で中古資産の取得価額全体を除したものを耐用年数とします。 関根 稔 なるほど。資本的支出が、@再取得価額の50%を超える場合は法定耐用年数、A取得価額の50%を超える場合は折衷法、B取得価額の50%以下の場合は簡便法。この頃、耐震工事など、中古ビルの取得時に多額の資本的な支出を行う事例が増えてきました。その場合は3つに分けて考える必要があるということですね。 2017年12月11日現在 |
45 借地権者の地位に変更がない旨の申出書 渡邉雄一 父親が借地している土地(底地)を息子が地主から買い取った。その場合は「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を提出するが、これが逆の場合。つまり、父親が所有している土地について、息子が借地人から借地権を買い取った。この場合の届出書が存在しない。 K 「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を修正して税務署に提出すれば受け付けて貰えます。何度か税務署に提出してますので、これが実務で採用されている手続です。 T 全ての処理について、用意周到に書式を準備している税務署が、底地の買い取りについて書式を準備しているのに、借地権の買い取りについては書式を準備していない。これは単なる準備不足なのか。 S 底地を買い取る場合であれば、幾らかのディスカウントがあったとしても、それなりの時価で買い取ると思う。しかし、借地権の買い取りは、要するに、借地の明け渡しであって、無償から名目的金額、それなりの金額と、買取価額には大幅な差異が生じる。仮に、借地権価額が6000万円の場合に、息子が300万円の立退料相当を支払って買い取り、相続税で借地権を主張するのは不合理。 M なるほど。息子が買い取る場合であれば、地主(父親)も、名義変更承諾料を請求しない。まさに、親子馴れ合いの買い取りです。 T 借地の明け渡しの際には、明け渡して貰うよりも、名目的な立退料を支払って、息子が買い受ける方が相続税では有利だ。そのような事例を聞いている。父親に買取代金を支払う資力が無いのか、相続税を想定して息子が買い取っているのか、それは不明だが。 N 「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」の提出を怠っていた場合に、相続の段階で、親子間の借地権の存在を認めて貰うことは難しいのか。このような手続を知らない納税者は多いと思う。法律は「知らざるは罰す」だが、税法の解釈指針は常識であって、そのようなミスを厳しく指摘するとは思えない。 S 本則に則り、底地を買い取った場合であれば、その土地には父親の借地権が存在したことが認められると思う。何しろ、地上には父親名義の建物が存在し、地代を支払い続けた実績がある。しかし、息子が借地権を買い取った場合は如何だろうか。借地を買い取った場合だと通常は建物は取り壊されてしまうと思う。 N そうであるなら「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」は、本則の場合よりも、書き換えて利用する場合の方が重要だ。 渡邉雄一 息子が借地権を買い取ることで相続税が節税になってしまう。それを知っているから国税庁は、土地(底地)を買い取る場合の書式は準備したが、借地権を買い取る場合の書式は準備していない。しかし、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を書き換えての利用を受け入れている。この提出は実務では重要なのだ。 2017年12月1日現在 |
44 借地の無償返還 平野多津男 社長が同族会社に貸与している土地だが、権利金の支払いがないまま始まった貸借関係で、現時点では自然発生借地権が成立している。建物が古くなり、使用の必要が無くなったので、建物を撤去し、借地を無償返還しようと思うが、個人に受贈益課税が生じてしまうのか。 A 旧借地法では建物の滅失と朽廃は区別していた。朽廃であれば借地権は消滅するが、取り壊しなどの滅失では借地権は消滅しない。 K 旧借地法は、@滅失(建物を取り壊した場合)と、A朽廃(基礎が腐って、柱が浮き、壁に穴が開いて、天井からは星が見える)状態は区別し、ほとんど朽廃を認めない裁判実務だが、しかし、税法と借地法とは別の理屈だ。 S そもそも論として、価値ある借地権を無償で放棄するのは経済的合理性に反する。会社が容易に放棄するわけがないと思う。かなりの理由が無くてはならないとは思うが、その理屈の構築が難しい。 T それは違うように思います。昭和の時代は借地権が売れたし、地主の承諾が得られない場合は裁判所に譲渡許可の申立をしてでも買い手は探せた。しかし、今は借地権を買う人達は減ってしまい、裁判所の許可を得てまで借地権を買い取る人達は皆無だと思う。利用価値の無くなった借地を現金化する方法はなく、そのまま使い続ければ地代を支払い続ける必要がある。 M 借地権の使用目的が消滅した場合は、借地権の売却まで想定する必要はなく、無償で返還するのが常識であって、税務も、その常識を認める。ただ、それが認められる保証がないので悩むところです。 N いまから無償返還届を提出すれば良いのではないか。遅滞なく提出とされているが、いつ提出しても受領するし、効果を認めるのが税務の実務だ。しかし、借地契約の継続中の無償返還届の提出であれば良いが、立ち退きや、売却などの出口が決まってからの無償返還届の提出は気になる。 H 法人税法基本通達13−1−14は、「借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により、借地権が消滅し、又はこれを存続させることが困難であると認められる事情が生じたこと」を無償返還の理由としているのだから、これに従えば良いと思う。 N そもそも、借地権は使用を終えたら無償で返還するのが常識です。私も、母親が居住していた借地を無償返還した。多くの借地契約では使用の必要がなくなったら無償返還されていると思う。 S ただ、それが同族間で行われて、かつ、返還を受けた土地を直後に売却している場合などは、会社側の都合による無償返還なのか、地主側の都合による無償返還なのかが分からなくなってくる。 平野多津男 借地権の無償返還に認定課税をした例などは、実務では聞いたことも、見たこともないので、会社の都合による無償返還は認めると思う。しかし、その土地を保有し続ける場合は良いとして、直ちに売却してしまう場合はリスクがあって不安が残ります。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年11月21日現在 |
43 広大地の評価方法の改正 小島健昭 広大地評価について、財産評価基本通達の改正案が公表された。内容は「広大地の評価」の廃止と、「地積規模の大きな宅地の評価」の新設だが、どのように位置付けるべきか。 K いままでの広大地評価は、@適用対象か否かが不明確だったが、A評価計算は路線価と地積のみを要素とする単純な計算だった。改正案では地区区分や容積率など、はっきりした基準を使うことで@を明確にして、Aについては奥行補正や不整形地補正などの通常の減額計算を施した上で、さらに面積に応じた減額率を採用することにした。 S 旧基準では「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」で、開発行為を行うとした場合につぶれ地が出るかといった実質的な判断が適用要件とされていた。そのため開発想定図の作成方法によって適用の可否が左右された。それが新方式では次のような形式的で明確な基準が用意された。 ○地積が500u以上であること(三大都市圏以外は1000u以上) ○普通商業・併用住宅地区、普通住宅地区にあること ○市街化調整区域の内の開発行為が可能な地域にあること ○都市計画法に規定する工業専用地域に所在しないこと ○容積率が400%以上でないこと(東京都の特別区は300%以上) K 既に、開発を行っているか否かなどは問われないので、既に高層マンションが建築されている宅地でも適用になる。 T 通達本文は宅地にだけ言及しているが、同時に公表された「概要」では農地、山林、原野、雑種地にも適用があるように読める。つまり、宅地として開発される前提の評価対象の土地は全て含まれる。 S 次に計算方法だが、これは2段階で考える。1段階目で奥行補正などの一般の宅地の評価方法を採用し、2段目で規模格差補正率を乗ずる方法だ。新しい指標として規模格差補正率が誕生し、その算式が提案されている。 その算式の意味するところは、地積が増えるに従って減額幅を大きくして行く部分と、更に全体に80%を乗ずる減額だ。減額率は@三大都市圏に所在する宅地は500u以上の面積からで、A三大都市圏以外の地域では1000u以上の面積から20%から30%の減額になる。 T 旧通達と比較すると、開発の為には私道の設置が必要になる地域、つまり、零細規模の建売が売り出される地域では不利になり、一区画の面積が広い邸宅街と低層マンションの適地が有利になったと考えれば良いと思う。 小島健昭 規模格差補正率は「土地は地積が大きくなるほど価額が低くなる」、つまり、開発行為による道路等のつぶれ地が減額の要因だ。これは旧規定と同じだが、新方式は、その計算方法を、図面などに頼らず、単純に面積に応じた割引率を適用することにした。勿論、実務は多様だが、広大地の適用の可否について悩む場面は少なくなるような気がする。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年11月11日現在 |
42 売値の建物と土地への配分 平野多津男 不動産鑑定士の評価では建物の評価はゼロ、かつ、土地建物の売買契約書でも建物の価額はゼロ。その場合は建物ゼロと考えて良いか。 K 取り壊して新しい建物を建てた方が経済的に合理性があるという内容の不動産鑑定評価書を添付して消費税を申告し、調査の現場で議論になったことがあります。後にOB税理士から「建物が存続していたらゼロはなかなか厳しい。よく頑張ったね」と誉められてしまいました。 S 不動産鑑定理論は、現状の利用状態という限定された価額ではなく、一般市場で成立する「正常価額」を判定するので、税務上の価額の割り振りとは別の理屈だと思います。不動産鑑定理論では有効活用していないビルは取り壊すという前提で評価するが、税務では現状に基づき土地と建物を評価します。 T 仮に、当事者が建物の価額をゼロと合意しても、動機は多種多様ですし、地上の建物に利用価値がある限り、建物の時価がゼロということはありません。 M 古い建物で、@アスベスト除去と、A耐震基準を満たすためには多額の経費がかかり、B消防設備も壊れていて直す必要がある。その場合でも建物の減額要素にはならないのか。 S それを実行するのであれば減額要素です。実行しないなら、森友学園への国有地の払い下げと同じ結果になってしまいます。税務調査の段階での言い訳(忖度)です。 E 実務的には次のような条件が必要だと思う。@客観的に価値がない、A売主にとっても価値がない、B買主にとっても価値がない(取壊予定)。 T 仮に、取り壊しが経済的合理的であっても、買い手が建物を使用継続する。その場合は建物の時価があるのでしょう。 M 都内の戸建ての売買であれば、10年前に建築したハウスメーカーの建物でもゼロ評価かもしれません。なにしろ、買主は取り壊して自分好みの居宅を建築します。しかし、取り壊さなかったらゼロとは認定できません。 W 市場(交渉)で成立する売買価額を税務は認めますが、土地と建物への価額按分については当事者の合意は認めない。それが、@租税回避の場合にだけ議論になるのか、A全ての場合の価額の配分が議論されるのか。しかし、建物の価額をゼロと合意したら、ゼロになるというのは無茶な議論です。 T ゼロだから問題になるのですか。1円だったらどうなのか、10万円だったらどうなのか。仮に10万円の値をつけていた場合に固定資産税評価額で按分しろと言ってくるか。 M ゼロだから理論的に疑問が生じてしまう。ゼロでなければ、その後は実感です。3階建てのビルが10万円だったら、やはり、おかしいです。 平野多津男 利用できる建物が存在し、それが利用され続けている以上は、建物の価額をゼロとするはおかしい。ただ、アスベストの除去費用など、実際にはマイナスの建物もありますので、現実の申告を行う場合は悩むことになります。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年11月1日現在 |
41 駐車場の賃貸と課税売上 西口 努 土地を賃貸し、借主が駐車場として利用します。アスファルトとフェンス費用は貸主の負担ですが、これは土地の貸付として消費税は非課税になるのか。 K 幾つかの裁決があるが、アスファルト舗装した場合は課税売上という事実認定になると思う。 T 土地を貸した場合は非課税売上で、土地の使用を許諾した場合は課税売上。つまり、アスファルト舗装をしたから施設の賃貸になるという理解は間違いだと思う。もっとも、アスファルト舗装をした場合は、通常は駐車場としての土地の使用許諾の場合が多いと思いますが。 M 仮に、月極駐車場としての使用を認めた場合に、これを土地の賃貸と定義したら、土地のどの部分を貸したことになるのか。月極駐車場などは、土地の賃貸ではなく、車の駐車を認める土地の使用許諾です。 N 消費税基本通達6−1−5は、土地を駐車場に利用させた場合について、「地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等をしていないとき」は土地の貸し付けに含まれるとしてます。つまり、アスファルト舗装をしたら施設の賃貸として課税売上です。 S フェンスを設けて土地を賃貸しても、仮に、隣接する会社の駐車場用地として一括して賃貸したら非課税売上でしょう。荒れ地に擁壁工事をして土地を賃貸するのと同じです。 K フェンスやアスファルト舗装に意味を持たせるのが税理士流ですが、借地借家法の適用など契約類型に意味を持たせるのが弁護士流です。アスファルト舗装をしても、土地に付合し、土地の賃貸であることに違いは生じません。つまり、@建物の敷地として土地を貸せば借地借家法が適用され、Aそれ以外の目的で土地を賃貸すれば賃貸借契約であり、B駐車場や、お祭りの縁日などに土地を使わせれば使用許諾契約です。 F 消費税では、税理士流の発想をするのか、弁護士流の発想をするのか。擁壁を設置し、整地して土地を貸しても、土地の賃貸借契約になるので、アスファルト舗装に意味があるとは思えません。仮に、月極駐車場を土地の賃貸だとしたら、通路部分も賃貸することになるのか、賃貸面積はどの範囲で、他の者の侵入は禁止されるのか。つまり、独占的利用権の範囲を特定する必要が生じてしまう。 T コインパーキング業者が地主から土地を賃借する場合は、通常、貸主側で整地し、アスファルト舗装、コインパーキング機器の設置まで施した上で賃借します。これは資金を寝かせないというビジネスモデルであると同時に、地主に支払う地代を課税仕入にする為の意味合いがあるのかもしれません。 西口 努 税理士流だと、施設を設ければ、それは減価償却資産で、施設の賃貸と位置付けますが、弁護士流だと、施設を設けても土地の賃貸であることに違いは生じない。つまり、土地の使用許諾なのか、土地の賃貸なのか判断が必要ということになるのですね。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年10月21日現在 |
40 債務引受になる遺産分割 渡邉雄一 資産1億円、債務8000万円の相続で、兄が資産1億円を相続し、債務は兄弟が2分の1の割合で承継する。つまり、弟は債務のみ承継しても大丈夫か。税務署が、相続税法9条のみなし贈与と指摘しないだろうか。 K 債務は法定相続分で承継するのが民法427条です。それに対して、資産を、どのように遺産分割するのも自由です。弟が債務だけを承継しても、税務署が贈与と指摘することは考えられません。 S 相続税では不利ですね。兄は資産6000万円について相続税が課税されるが、弟は相続税の納税義務者にならない。 T 民法の解釈については同意します。ただ、これを複式簿記(借方と共に貸方)の世界で考えたら、兄は資産6000万円を相続し、弟は債務4000万円を負担することになる。これは不等価の遺産分割であって兄が債務引き受けした印象です。 K これが会社分割であれば次の具合です。 ───────┬─────── 資産 1億円│負債 8000万円 これを会社分割して次の2つに分けます。 ───────┬─────── 資産 1億円│負債 4000万円 ───────┬─────── 資産 0万円│負債 4000万円 これは債務引受です。なぜ、民法は、これを許すのか。債務が、法定相続分に従って当然分割だからだが、それは預金が法定相続分に従って当然分割だという理屈と同じではないか。 M なるほど。最高裁の事例は、相続人Aが生前に5500万円の贈与を受けていた。相続時に残っていた3800万円の預金はAとBが1900万円を当然分割して相続は終了と考える。それが不公平だとBが訴訟を起こした。そのような事案です。それに対して、最高裁平成28年12月19日判決は「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」と判決してます。 T 民法427条は、債権は当然分割としていて、従前の判決は、これに従ってました。債務も当然分割とする理解に変更はないのか。 S そもそもですが、民法は単式簿記です。資産側のことしか考えていません。だから、遺言で書ける事項は資産に限りますし、遺言や遺産分割で債務の承継割合を定めても債権者に対抗できません。 N ただ、相続人間の遺産分割では債務の遺産分割も可能ですね。そこで、あえて不等価の遺産分割をする。それは相続税法9条に該当してしまわないのか。 渡邉雄一 実務が、本件のような遺産分割を認めていて、贈与税を課税していないことは理解してますが、しかし、理屈を考え出すと、イレギュラーな遺産分割を行うことには不安を感じます。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年10月11日現在 |
39 5棟10室基準の判定の日 牛嶋和子 不動産貸付業を営む個人が年の中途でアパート1棟を譲渡したため、年末時点では貸室数が10室未満になってしまいました。この場合は5棟10室基準を満たしていないとして事業的規模以外になってしまうのでしょうか。つまり、青色申告の特別控除65万円の適用の可否です。 A 扶養親族に該当するか否かは年末で判断するので、事業的規模か否かも年末時点の現況で判断するように思います。 K いや、不動産所得が事業規模か、業務規模かは、青色申告の特別控除65万円の他にも、賃貸用資産の取壊しや除却などの資産損失、賃貸料の回収不能による貸倒れの時の処理方法、専従者給与や専従者控除が使えるかどうかの違いが生じます。これは事業所得と雑所得の違いです。不動産所得が事業規模か、業務規模かの判定は、事業所得か、雑所得かの判定に準じるのだと考えます。 H 一区画の大きな土地を賃貸して地代収入が年2000万円程ある方について65万円控除しました。税務署から「5棟10室基準を満たさないから事業的規模でない」と指摘されましたが、「地代収入だけで充分過ぎるぐらい生活できる」のだから事業的規模だと主張したことがあります。正しい反論の仕方かどうかはわかりませんが。 S 収入金額や、所得金額は関係ないでしょう。事業規模と業務規模の区分は収入基準でも、所得基準でもない。弁護士が開業しても、この頃、売上が厳しく、仮に、売上300万円で、所得50万円の場合でも事業所得です。しかし、1つの土地を貸して2000万円の収入があっても、それを事業規模とはいわないと思います。 T 事業規模、つまり、事業所得というには、やはり、時間的、施設的、専業的な存在が必要でしょう。会社経営者が株式投資を副業として行う場合に、事業所得であることが否定された判決も、事業所得か否かの判定に設備の有無を使っています。 M なるほど。不動産所得には事業所得と雑所得がある。しかし、不動産所得として一本にしてしまったために、事業規模と業務規模の判定が必要になってしまった。その判定基準を5棟10室にした。それなら年度の途中で、仮に、3日間でも事業規模の日があれば、事業所得規模該当として65万円控除は可能ですね。弁護士事務所を3日間だけ開業した場合と同じです。 牛嶋和子 仮に、3日間でも10室であれば、3日間だけ弁護士業を開業した場合と同様に65万円控除は認められる。ただし、弁護士の場合は3日間の事業所得を限度とするが、不動産賃貸の場合は365日分の不動産所得を限度とすることが可能。不動産所得を事業所得規模と雑所得規模に区分しなかったための矛盾ですね。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年10月1日現在 |
38 措置法40条申請と寄附金控除 浦上立志 土地を市町村に寄附した場合は、措置法40条で譲渡所得は非課税ですが、この譲渡所得の取得原価に相当する金額は寄附金控除の対象です。取得価額が不明の場合は概算取得費5%相当を寄附金額と認識して良いのですね。 A 若干、疑問に残るのが、法人税法37条(寄附金の損金不算入)7項は現物寄附について「その贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額」と定め、寄附財産の時価評価額としていますが、所得税法には現物寄附について時価評価という定めをおいてません。 H 所得税では収入すべき金額は対価があることが前提なので、寄附ならば対価はゼロ。ただし、法人に贈与した場合は所得税法59条で時価課税なので、自治体への寄附も時価が認識され、措置法40条で非課税という理屈です。 T 時価を算定して、その5%を概算取得費として寄附金控除を受けるのであれば、時価は高額になるほど有利で、概算取得費も、これを利用せず、実際の取得費を利用した方が有利になる場合がある。 S 措置法40条の適用を受けず、贈与資産の時価相当について、寄附金控除を受けた方が有利になる事例は存在しませんか。 A 措置法40条1項で「国又は地方公共団体に対し財産の贈与又は遺贈」には所得税法59条は適用されず、強制的に非課税なので、譲渡資産の時価について寄附金控除は選択できません。 M 仮に、国等への寄附ではなく「公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人 又は団体に対する寄附金」だった場合は、贈与した資産の時価について措置法40条申請と寄附金控除の選択が可能です。 T 譲渡所得の場合は20%の税率ですが、その他の所得の場合は55%の税率が適用される場合があるので、措置法40条を適用して20%の課税の免除を受けるよりも、55%の税率について寄附金控除を受けた方が有利な場合があり得る。 K もし、市町村に土地を贈与する場合であれば、市町村に土地を譲渡して措置法31条の2の「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」を受けて15%の税率による譲渡所得課税を受ける。その後、代金相当額を寄附して、寄附金控除を受けて55%の節税効果を受けた方が有利という理屈ですね。 T この場合に、寄附金控除は、譲渡所得(税率20%)ではなく、事業所得等(税率55%)から優先して控除して良いのですね。所得控除は総所得金額から先に控除しますので。 浦上立志 もしかしたら、今まで、40条申請に拘り、不利な選択をしていた可能性もあるということですか。しかし、他の所得が、どの程度の金額なのか、寄附金控除の関係でも制限額が生じるので、かなり面倒な計算になりそうです。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年9月21日現在 |
37 契約の解除と更正の請求 野口洋岳 事業承継のために甥に持株を贈与します。ただ、銀行の経営者保証を入れ換えられなかった場合は株式譲渡はなかったものとする解除条件を入れています。保証が外れなかった場合には贈与はなかったことにできるのでしょうか。 A 国税通則法施行令6条第1項2号の「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に係る契約が、解除権の行使によつて解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によつて解除され、又は取り消されたこと」に該当して更正の請求が可能です。 T 契約に解除条件を入れれば更正の請求が可能だが、解除条件を入れず、双方で解約の合意をした場合はダメなのですね。 S 解除権は、民法に定める解除権に限らず、契約で定める解除権も含みます。何しろ、 相手方(B)から強制的に解除されてしまう事象なので、解除された側(A)の処分行為を認識することは不可能です。つまり、Aについては贈与も売買も認識できません。 しかし、双方の合意で解約した場合は、Aについても、Bについても、自由意思による処分行為が認識される。だから、「やむを得ない」場合でないと、遡及的な契約の消滅理由にはならず、更正の請求理由にはならない。そして、「やむを得ない」は、ほとんど認められないのが税務の取り扱いです。 K 契約で定める解除権を税務は無制限に認めるのか。極端には事実が露見して課税されたら解除とか、税法解釈に相違があって課税されたら解除のような解除条項です。 S 露見したら解除は無理でしょう。理由は権利の濫用でしょうか。ただ、税法解釈の相違は解除が認められるように思います。私は次のような条項を利用したことがあります。 「交換特例の適用があるという前提の交換契約であって、後に、等価に欠けるという指摘があり、それが正しい指摘である場合は、Aの取得持分を増減して調整し、それを持ってしても交換特例が満たせない場合は、当事者は、相手方に対して契約解除を請求することができる」。 H 本件であれば停止条件の方が無難です。贈与税を申告し、後に解除条項で更正の請求を求めるのは、税務署にも手間を掛けますし、税務署の処分を求める以上は不確実性が残ります。 M 本件は当事者が個人の場合です。これが法人の場合は如何ですか。 H 法人税では確定した決算は覆りません。法人税基本通達2−2−16(前期損益修正)も、「当該事業年度において契約の解除又は取消し、値引き、返品等の事実が生じた場合でも、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、当該事業年度の損金の額に算入するのであるから留意する」としています。 野口洋岳 本件に限らず、税務上のリスク対策としても、契約書に解除条項や、停止条件を書き込んでおくことは有効ですね。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年9月11日現在 |
36 セルフメディケーション税制 関根 稔 セルフメディケーション税制は、スイッチOTC医薬品の購入について、1万2000円を超えた金額を8万8000円を限度に所得控除を認めますが、なぜ、それに加えて健康診断を受けるという要件があるのでしょう。 K @健康保険組合や市町村国保等が実施する健康診査、A生活保護受給者等を対象とする健康診査、B予防接種(定期接種又はインフルエンザワクチンの予防接種)、C勤務先で実施する定期健康診断、Dいわゆるメタボ健診、E市町村が実施するがん検診です。確かに、医療費の節減が目的であれば、これらの検査を要件にする必要は無いですね。 S 新しい医療費控除としてスイッチOTC医薬品の情報だけが流れると、3月15日は、これらの診察を受けていない方たちと、診察を受けた旨の証明書類を持参しない方たちで混乱すると思います。 T 「健康の維持増進および疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人」という前提があるので、自主的に健康診断を受けた人たちが医薬品を購入した場合を救済するのでしょう。 M しかし、医療費控除の適用を受ける納税者(仮に、夫)が健康診断を受けている場合は、薬の服用者が健康診断も予防接種も受けていない妻や子であってもセルフメディケーション税制の適用があります。 S 自費で受診した人間ドックは対象外です。セルフメディケーション税制に関するQ&AのQ8で、「一定の取組に、任意(全額自己負担)で受けたものは含まれますか」との問いに、「申請者が任意に受診した健康診査(全額自己負担)は、『一定の取組』に含まれません」と回答します。 K 小さな病気の場合は、医者にかからず売薬で済ませて欲しい。その趣旨の制度がセルフメディケーション税制なので、医者の診療収入が減ってしまう。その見返りに健康保険組合が実施する健康診査や、患者自身が自費でインフルエンザの予防接種を受ける。つまり、医師会との交渉で決まった制度なのでしょう。 T スイッチOTC医薬品についても、A錠は対象だが、B錠は対象外と聞いて、薬効の強さなど患者のことを考えた制度と思ってましたが、これは医師会とのネゴで了承を得た薬なのですね。 K なるほど。だから、人間ドックは除外されているのですね。人間ドックも、健康診断と同様に「健康の維持増進および疾病の予防」に役立ちますが、セルフメディケーション税制で収入が減ることはない。だから受診の奨励対象には含まれない。 S 夫が健康診断を受診すれば、一家が支払ったスイッチOTC医薬品について限度額までの控除を認める。これは誰が服用したかが区別できないためだと思っていたが、確かに、医師の診療報酬の見返りと考えれば理屈が通ります。 関根 稔 税制であれば理屈がある制度になっているはずですが、セルフメディケーション税制は理屈が理解できない。それは医師会とのネゴで採用された制度だからなのですね。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年9月1日現在 |
35 空き家の譲渡特例 山中千秋 相続した居住用資産(空き家)を譲渡した場合の特例ですが、その要件には「譲渡時に一定の耐震基準を満たす」ことがあります。特例の対象になるのは昭和56年5月31日以前に建築された建物ですが、新耐震基準が施行されたのは昭和56年6月1日なので、特例の対象になる建物は耐震構造を満たさないという矛盾があります。 K そもそも、なぜ、耐震基準を満たす必要があるのですか。空き家の増加を防ぐ趣旨であれば、耐震基準を満たさない古い建物こそが、放置されないように、特例の対象として譲渡を奨励すべきと思います。 T 耐震構造を満たさない場合でも、建物を取り壊して敷地を売却すれば特例の対象です。注意すべきは、敷地と共に建物を相続し、建物を取り壊してから敷地を売却することです。売主が取り壊すことが要件であって、買主が取り壊すのではダメです。 K 税法は、小規模宅地特例を除き、譲渡の特例では建物が主人公です。利益が出るのは土地であっても、居住するのは建物です。だから、譲渡の特例では建物と共にする土地の譲渡であることが必要です。その趣旨が空き家特例でも生きているのですね。しかし、空き家特例では、耐震工事を行わない限りは、建物を取り壊す必要があります。その趣旨が読み取れません。 M 耐震構造を満たせば生活するうえでは安全ですが、しかし、居住者がいない建物が増えて困るのが立法趣旨であれば、耐震構造がなくても、耐震構造があっても売却を奨励すべきと思います。なぜ、「耐震構造or取り壊し」が要件なのですか。 W 耐震住宅を増やして、将来の災害対策費を減少させることが必要。そのために耐震住宅を広める必要がある。それが立法趣旨ではないか。 S 空き家の解消と、耐震構造の無い建物の取り壊し。この2つの制度目的がある。しかし、この2つの制度目的は矛盾します。耐震構造の無い建物に特例の適用が無く、空き家のまま放置されることになってしまいます。 K そもそも3大都市圏を除けば、住宅用建物の80%は新耐震基準以前の建物だと思います。ただ、取引の実際としては、耐震構造がある場合も、無い場合も、建物は取り壊して売られますが、「わざわざ壊せ」と命じる必要があるのだろうか。 S なるほど。立法趣旨が理解できました。「空き家特例」ではなく、「取り壊し特例」なのですね。耐震構造の無い建物は危険なので放置できない。しかし、居住している限り取り壊しは命じられない。そこで空き家になったときに、譲渡所得課税で優遇し、建物を取り壊すか、耐震工事を行うように期待する。政府は「空き家特例」とネーミングしますが、私たちは「取り壊し特例」と呼ぶべき制度だ。 山中千秋 昭和56年5月31日以前に建築された建物であることが要件で、さらに、耐震工事を行わないのであれば取り壊す必要がある。つまり、「空き家特例」ではなく、「取り壊し特例」ですね。 2017年8月21日現在 |
34 遺留分減殺請求と延滞税 高田祐一郎 遺留分減殺請求によって5000万円の代償金の支払いを受けたが、これについて、@修正申告書を提出した場合は延滞税は課税されない(相続税法51条2項1号ハ)のに、A更正処分を受けた場合は、「相続税法32条の事実が生じた日の翌日から起算して4月を経過する日」の翌日から延滞税が課税されてしまう(同条2項2号ハ)。なぜ、このような差異があるのか。 T 相続税法32条に基づく修正申告や期限後申告には申告期限という概念は存在しない。相続から10ヶ月が法定申告期限だが、その時点では財産を取得せず、遺留分減殺請求によって財産を取得した者が、遡って相続から10ヶ月の法定申告期限を適用されるのは不合理です。 H 相続税法32条の事由が生じた場合は、「期限後申告書を提出することができる」「修正申告書を提出することができる」(相続税法30条、31条)であって、「提出しなければならない」とはなってません。相続税法32条に基づく相続税の申告は義務付けられていないのです。 M 相続財産の全額について相続税が申告されているのであれば、32条の事由が生じた場合に、修正申告や期限後申告を求めなくても国は損をしません。逆に、配偶者の相続税額の軽減や、小規模宅地の特例の適用を受けないと損をするのは納税者です。だから、これらの申告を納税者の義務とする必要はなかったのです。 T 相続税法32条の場合に、納税者が自主的に修正申告や期限後申告書を提出することは禁止されてません。その場合は提出期限の定めはない。だから、申告書の提出によって租税債務が確定した日までは延滞税が課税されない。これが最初の設問の「相続税法51条2項1号ハ」の場合です。 K 自主的な修正申告ではなく、他の者が更正の請求をしたために、それ以外の相続人に更正処分、あるいは決定処分をする場合は、それが相続税の除斥期間が成立する5年以内の場合も、除斥期間が成立した5年後の場合も、32条の事実が生じた日の翌日から起算して4月を経過する日を超えると延滞税が課税される。つまり、更正の請求をした側に相続税を還付し、還付加算金を支払うのだから、その見返りに、更正処分を受けた相続人に対しては延滞税を課税する。それが「相続税法51条2項2号ハ」ですね。 高田祐一郎 なるほど。一方に租税を戻す処理をして、その事実に基づいて更正処分をした場合に限り、32条の事実が生じた日から4ヶ月という期限を設けて、その翌日から延滞税を課税する。その場合においても、自ら期限後申告し、あるいは奨励に応じて期限後申告書を提出した場合は延滞税は課税されない。つまり、32条の事実が生じた場合に、当事者間で相続税を精算し、更正の請求をしなければ延滞税の問題は発生しない。そのような理屈で整理されているのですね。 2017年8月11日現在 |
33 第2次相続が開始した後の遺産分割 細野由美子 父の第1次相続では、相続税の申告が不要だったので、土地の相続登記は行ってません。ここで母が亡くなったので、相続税の申告が必要ですが、父が所有していた土地の法定相続分を、母の相続財産に加える必要があるのですか。 M 税法は、第2次相続が開始した後に、第1次相続の遺産分割を行うことを認めてます。第1次相続の遺産分割を行って、その土地を子が相続した旨の処理をすれば、母親の相続財産には含まれず、第2次相続に加算する必要はありません。 S その場合でも、相続登記は、父から法定相続割合で母と子が相続し、次に、母親の相続分を子が相続した旨の登記手続が必要です。不動産登記は、権利移転の経過を忠実に表記する必要があります。 T 家事調停になった場合は、裁判所は、現在の権利関係しか判断できないと聞いた。つまり、第1次相続と第2次相続を経由するが、現在の当事者が子2人であれば、第1次相続と第2次相続を区別せず、子2人の権利関係しか判断できないという理屈だ。 N 裁判所は、特段の理由がある場合を除き、過去の権利関係の判断を示すことができません(最高裁昭和47年2月15日判決)。現在の権利関係である子2人の相続人の取り分を決めるだけです。その場合でも、税務上は2人の子が父親から直接に相続したという処理が可能です。 M 相基通19の2−5(配偶者が財産の分割前に死亡している場合)ですね。これの注書きで、調停や審判の場合も、「配偶者の共同相続人又は包括受遺者の全員の合意により、配偶者の具体的相続分に対応する財産として特定させたものがあるときは上記の取扱いができることに留意する」と解説しています。つまり、母親が死亡した後であっても、母親の相続分をゼロと特定すれば良いのです。 K 相続登記ですが、第2次相続が開始する前に、第1次相続の相続人において遺産分割協議が為されている場合は、遺産分割協議書が作成されていない場合でも、遺産分割の事実を、子2人の署名押印で証明すれば、第2次相続を経由せず、直接に子2人に相続登記が可能という解説を見かけました。 S 平成28年3月2日付の法務省民事局の回答です。第1次相続の遺産分割が為された事実を「遺産分割協議証明書」で証明すれば、権利移転の経過は忠実に登記されたことになる。法務省民事局の回答事案は最終的な相続人である子が1人の場合です。 細野由美子 なるほど。第2次相続の相続人が1名の場合について遺産分割が可能か。これが心配だったのですが、第2次相続が開始する前に遺産分割が為されている場合であれば、第1次相続で直接に子が相続した旨の処理は、不動産登記でも、相続税の申告でも心配なく行えるということですね。 2017年8月1日現在 |
32 相続直前の改築費用 佐々木克典 建物の改築工事終了後に相続が開始しました。国定資産税評価額に改築部分が反映されていなかったため、当方から申し入れて固定資産税評価額を改定してもらいました。その結果、1億円の改築工事の固定資産税評価額が1000万円です。改築費用の70%を計上するよりも、よほど節税になりました。 K 改築だけですか、あるいは増築部分があるのですか。増築部分が無いのであれば、固定資産税評価額の増加額はゼロだと思います。ただ、税務署を納得させるために、固定資産税評価額に幾らかの増額をしてくれたのであれば、納税者にとっては嬉しい話です。 S 耐震工事を行い柱を増やしたので、床面積が増えなくても固定資産税評価額が上昇するケースです。それに、増築がなくても、大規模な改築は家屋の固定資産税評価額の増額になると思います。固定資産税評価担当の目に行き届くかどうかは別として。 T 「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」の質疑応答があります。「その増改築等に係る部分の再建築価額……の100分の70に相当する金額」を加算した価額でもよいとする質疑応答です。 M しかし、増築の場合は固定資産税評価額は改定されますが、改築の場合は改定されていないのが実務だと思います。質疑応答も「増改築」という言葉で、ここを不明確にしているように思います。 H 仮に、区分所有ビルの一室をリフォームした場合ですが、この場合であれば固定資産税評価額の改定はないですね。「区分所有に係る一棟の家屋を一括して評価のうえ、当該家屋の税額を算定し、その税額を各々の区分所有者に配分」するのが区分所有ビルについての固定資産税評価額ですから。 A 確かに、マンションの101号室をリフォームしたら、マンション全体の固定資産税評価額が改定され、201号室の固定資産税も増加してしまうというのは不合理です。では、マンションのリフォームは固定資産税評価額を増額せず、戸建ての改築は固定資産税評価額を増額するのか。それも不合理です。 Y 古いマンションはリフォームしてから売りに出されますが、それの買い手に相続が発生した場合に、固定資産税評価額での相続税の申告であって、売主が支出した改装費の7割は加算しません。そうであるなら自己所有物件を改装し、その後に相続が開始した場合にも、改装費の7割を加算する必要はないと思います。 T しかし、相続直前の改装費を無視したら不合理ではないですか。そもそも固定資産税評価額を相続税の課税価額とすることで生じる矛盾ですが。 佐々木克典 議論をしてくると、増築の場合はともかくとして、改築の場合には改築費用を加算する必要がないような気がしてきました。しかし、相続直前に多額の支出があることも事実です。本件のように、市役所に申し入れて、固定資産税評価額を改定してもらう。これが安全策でしょうか。 2017年7月21日現在 |
31 相当地代を受領する土地の評価 平野多津男 個人が所有する土地を会社に賃貸しているが、賃貸の当初は通常地代だったが、現時点では相当地代になっている。この土地は「相当の地代を支払つている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」が適用され、借地権価額はゼロになるのか。借地権が消えてしまうのも解せない。 S 地代は改定してないのに地価が下がって相当地代になったのか、地代を増額したために相当地代になってしまったのか。前者の場合であれば自然発生借地権は消えないと思う。もし、これで消えてしまうのであれば、権利金を支払った場合の借地権も消えてしまう。 M 地代を増額したことで相当地代になった場合も、これで自然発生借地権が消えるのであれば、地代の増額の時点で借地人から地主への借地権相当の贈与が認識されてしまう。 T 地代の改定と共に契約を締結し直した。そのような事実が存在する場合であれば、@無償返還届の借地権から通常借地権に、A通常借地権から相当地代借地権にという移動を認めると思うが、単に、地代水準が変わった場合や、地代を改定した場合に借地権が消滅したらおかしい。 K 権利金の認定課税も、相当地代も、無償返還届も、全て、契約締結時点の認識であって、契約の途中で入れ換えられるものではないと思う。 N しかし、通達は、当初の契約に関係なく「相当の地代を支払つている場合の借地権の評価」として借地権価額はゼロ、敷地価額は80%としているように読めるので怖い。 G 途中から相当地代に改定して借地権を消滅させる租税回避が許されるはずがない。通達は、地価の上昇のみを想定した作りになっているので、地代据え置きによって相当地代になる時代を想定していない。 S 借地契約が存在すれば借地権を認識するのが当然(大原則)。ただ、権利金課税をすることは中小企業経営では困難(気の毒)なので、年6%地代を支払えば借地権を認識しないことにした(例外1)。しかし、年6%地代を支払うのは中小企業経営では困難なので無償返還届という制度を構築した(例外2)。 N なるほど。現在の地代が年6%だからといって「大原則」が否定されるはずはない。「大原則」を否定するのであれば、借地借家法を否定し、税法上の借地権は「地代との逆相関」という相続税評価額になる。しかし、そのような原則を聞いたことがない。 平野多津男 地価が上昇することのみを想定した時代に作られた通達なので、地価が下がり、通常地代が相当地代になってしまう時代を想定していない。それは理解できたが、実務で処理する場合に通達の文言に反して良いのか、制度の趣旨で解釈してしまって良いのか。地価下落を想定した通達に改正してもらわないと不安だ。 2017年7月11日現在 |
30 相続税の小数点の計算 藤本洋士 相続税申告書の「各人の算出税額の計算」における「あん分割合」について次の計算は可能か。つまり、配偶者の負担分を多くしてしまうために、切り捨て分を、全て、配偶者に寄せて切り上げてしまう方法です。 配偶者 0.482を0.50 長男 0.259を0.25 二男 0.259を0.25 K 可能です。相続税法基本通達17−1は「小数点以下2位未満の端数がある場合において、その財産の取得者全員が選択した方法により、各取得者の割合の合計値が1になるようその端数を調整して」各取得者の相続税額を計算することを認めています。 H 私は、配偶者の割合は0.49を超えられないと思います。税法での小数点計算は、常に納税者有利ですが、しかし、納税者「恣意」ではないでしょう。「小数点以下2位未満」としている趣旨にも反します。ただ、課税の現場で、赤信号を皆で渡っている実務があれば、それこそが実務ですが。 S 当初申告は、小数点以下2位未満は納税者の自由だ。しかし、修正申告や更正の請求を行うと、原則通りになって納税者有利の端数処理が使えなくなる。そのような実務だと考えればよいのか。平成24年12月14日裁決は、相続税の「更正をする場合において、各財産取得者が当初申告において選択した端数調整方法を用いることができるのは、例えば、更正の前後において各財産取得者全員の相続税の課税価格に増減がない場合等、極めて限定的に解するのが相当である」と判断しています。 T 相続税法基本通達逐条解説は、修正申告の場合でも「各取得者が小数による割合を選択したことにつき、これを容認した場合には、更正をする場合も、その選択した方法によって相続税額を計算することができることとしたのが、相基通17−1のなお書である」と解説してます。 M 相続税の計算では按分計算が3箇所に登場します。 @ 相続税の総額を計算する場合 A 各相続人等の相続税額を計算する場合 B 配偶者に対する相続税額の軽減を計算する場合 @とBは厳格で、分数計算しか認めていませんが、Aは自由です。極端には長男が相続税の100%の負担としても誰も文句は言いません。長男が相続税の全額を負担するという代償金分割と同じです。しかし、ここに配偶者が加わった場合は、結局は、Bの計算と同じ几帳面さが求められると思います。 藤本洋士 なるほど。 配偶者の税額軽減で有利になってしまう場合や、2割加算の影響が出る場合は、恣意的な切り捨てや切り上げで思わぬしっぺ返しをくらう可能性がある。テクニックに走った税額計算は租税正義にも反しますね。 2017年7月1日現在 |
29 調整対象固定資産と高額特定資産 佐野 隆 消費税法の構造は租税回避税法として理解すると容易だ。その中の1つが調整対象固定資産(100万円)の仕入を行った場合の3年縛りです。しかし、なぜ、これが100万円の場合と1000万円の高額特定資産の区別があるのか。 K 3つの場合ですね。@わざわざ課税事業者選択届を提出した場合と、A資本金1000万円以上の会社が設立2年以内に調整対象固定資産の仕入を行った場合は100万円基準。しかし、B課税事業者が高額特定資産の課税仕入を行った場合は1000万円基準です。 S @は平成22年に自動販売機節税を理由に導入された。居住用の賃貸アパートを建築するについて、自動販売機を置いて課税売上100%にして仕入税額控除を受ける。仕入税額控除を受ける為に、わざわざ課税事業者を選択したのだから、その後の3年間は縛る。 T Aも同時に導入されました。資本金1000万円の会社を設立すれば、課税事業者選択届を提出しなくても、自動的に課税事業者になって仕入税額控除が受けられます。法人を利用した脱法を防止するために3年について縛る。 S Bは平成28年に導入されました。1取引単位について支払対価の額が1000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産を仕入れた場合を対象にしています。 K これが消費税の3つの租税回避税法だが、なぜ、Bのみ、100万円以上ではなく、1000万円以上を制限の対象にしているのか。 T 資本金1000万円の会社が、設立2年目に100万円の中古のトラックを購入しただけなのに3年縛りが生じてしまう。しかし、設立3年目であれば999万円の資産の購入はokになる。これは不合理ですね。 N 資本金1000万円の会社を設立して2年目に購入した場合であれば「悪意」の節税手法です。しかし、賃貸物件は最低でも1000万円を超えるでしょう。100万円基準は少額すぎます。3年目が1000万円基準であれば、2年目でも1000万円基準で良かったのではないか。 M 仮に個人事業者の場合であれば、事業開始2年目に100万円の調整対象資産を購入しても、課税事業者を選択しない限りは3年縛りにはならない。それなのに資本金1000万円以上の法人の場合は同様の取引について3年縛りが発動してしまう。それも不公平です。 K これを1つの制度として理解することはできないのか。設立年月日に限らず、調整対象資産を購入し、還付を受ける手続を採用した場合は、その後3年間は免税事業者や簡易課税は選択できないという理屈です。 佐野 隆 税法に決められていることなので、立法論を論じても意味はないが、しかし、@とAの100万円基準と、Bの1000万円の基準。ここに理屈が無いことは理解できました。 2017年6月21日現在 |
28 会社の売却と財産評価基本通達 渡邉雄一 後継者のいない会社だが、優秀な番頭がいるので彼に会社を譲渡したい。しかし、原則評価による株価は1株20万円、配当還元価額であれば1株5万円。49%までは配当還元価額で譲渡できるとして、それを超えたら番頭が支配株主になってしまう。 S 病気で倒れたオーナー経営者が従業員に旧額面で株式を譲渡した例がある。オーナーにしてみれば会社を廃業せずにすむし、退職金などの負担も発生しない。株式など無償で贈与しても良いと思っている。 K これはokでしょう。企業価値の評価には財基通は登場しません。財基通が登場するのは株式の評価に限ります。企業譲渡はDCFでも、交渉の駆け引きでもokです。 T なるほど。株式の評価と企業の評価は異なる。ただ、他人間の株式の売買でも贈与税が課税されることがある。この辺りを整理して貰えませんか。 K 昭和の時代のM&Aは身内間が大部分でした。つまり、赤字会社から優良部門を抜き出して新社を設立する再建型のM&Aです。その時代には営業権は超過収益力であって、そもそも赤字会社に超過収益力は存在せず、新社が営業権を承継することは認められませんでした。営業権という名目で旧社の債務と青色欠損金を承継しただけです。あの時代には営業権を否定した判決は幾つもあります。 S しかし、この頃のM&Aは第三者間で実行されます。そして、純資産額と売買対価の差額が営業権です。それが法人税法にも取り込まれて資産調整勘定や負債調整勘定として採用されてます。つまり、会社が所有する資産の時価も、それを基礎にした株価(相続税評価額)も、第三者間では取引の制約にはならないのです。 H その理屈は会社の譲渡ではなく、株式の譲渡という視点で考えても同じです。相続税法基本通達9−2は他人間にも適用されますが、9−4は親族間に限ってます。9−2は、会社に利益が提供され、そこから生じる既存株主への利益移転を課税対象にします。具体的に利益が生じているので身内に限る必要はない。しかし、9−4は、ある株主から他の株主への利益移転の規制であって、新たに生じた部分の利益移転ではない。だから、身内間の価値の移転に限って適用されます。 T なるほど。株式の評価と企業の評価は異なる。そして、税務は企業の評価について自主性を認めている。さらに、株主間の持分の移転について相続税法9条が適用されるのは身内間の価値の移動に限る。それが相続税法基本通達の9−4ですね。 渡邉雄一 株式の評価といえば財基通。思い込みに染まっている発想を洗い替えする必要がありますね。一般の人達が財基通を意識しながら取引をしているはずがない。経済的合理的に決定された株価を通達が否定するのも不合理です。ただ、財基通を無視した取引には度胸が必要です。 2017年6月11日現在 |
27 無議決権株式と中心的な同族株主 朝貝義幸 長男が40%の議決権株式を所有し、長女、次女、三女が各々20%の無議決権株式を所有する同族会社で、長女、次女、三女に相続が開始した場合は、役員でない限り、配偶者、あるいは子ども達が相続する無議決権株式は配当還元方式の評価という理解でよいか。 S ダメでしょう。6親等の傘の中に入ってしまえば、自己の持ち株が無議決権でも、それを配当還元価額で評価する理屈はありません。長男が100%の議決権を有し、6親等の親族の中に入ってしまえば、相続株式が無議決権株式でも原則評価です。ただ、無議決権株式の5%の評価減は利用できます。 K いや、配当還元価額が利用できます。長男が100%の議決権を有する中心的な同族株主になります。長女は、長男と兄弟姉妹なので中心的な同族株主に含まれますが、長女の夫と子ども達は、長男を中心とした「中心的な同族株主」には含まれません。相続後の各人の議決権も5%未満なので配当還元価額です。 T なるほど。それならば、長女の夫や子ども達が相続する株式は、無議決ではなく、議決権株式でも良いのですね。自分を中心にして配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族が所有する議決権の総数が25%を下回れば「中心的な同族株主以外の同族株主」に該当して配当還元価額が利用できます。上手に遺産分割して相続人各人の議決権を5%未満にする必要がありますが。 M 仮に、株式の90%を相続しても、それが無議決権株式で、自分を中心にした配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族の中に25%の議決権がなければ配当還元価額が利用できます。無議決権株式しか相続しない株主は「中心的な同族株主以外の同族株主」なので配当還元価額です。 A なぜ、財産評価基本通達は議決権基準を採用するのか。法人税は発行済株式の100分の50を超える株数(法人税法2条1項10号)である場合と共に、議決権の100分の50を超える場合も同族会社と判定する(同法施行令4条5項)。財産評価基本通達こそ、財産評価の目的なのだから、議決権ではなく、残余財産の分配の基準になる持ち株数を採用すべきではないか。 K 議決権基準と共に、株数基準が採用されれば、株式の総数の90%を相続しながら配当還元価額が適用されるという無茶な結果にはならないですね。 S 株式の90%を相続しても、それが無議決権株式であれば配当還元価額で良い。そのような実務が認められるはずはないと思うが、課税庁は、どのような理屈で否認するのだろうか。 朝貝義幸 種類株式を利用すれば、どのような節税でも行えてしまう。しかし、株式の種類は全株主の同意があれば元に戻せてしまう。無議決権株式で相続税が節税できるとは思えませんが、財基通が議決権基準を採用する限り、ここは疑問として残るのですね。 2017年6月1日現在 |
26 事前確定届出給与と職務執行の対価性 高橋昭彦 3月決算法人で、3月に未払計上(別表4加算)し、5月の定時株主総会で事前確定届出給与の決議をして、それを6月に支払う。そのような会社を見かけたが、これは正しい処理か。 K 制度の趣旨は事後的な利益操作の防止なので、事前確定届出給与を期限内に提出し、その後に支払うのなら大丈夫だと思います。 T 前期に未払計上したら別表4加算しても前期の費用だ。当期に事前確定届出給与として処理しても認められない。では、前期の経費処理が、未払金処理ではなく、役員賞与引当金だった場合はいかがか。 H 『法人税及び消費税等の処理における誤り易い事例とそのチェックポイント 平成23年9月 国税庁調査課東京国税局調査審理課』は、過去の職務執行の対価であることが明らかな場合として、「任期満了者も支給対象としているものや、前期末に引当金計上しているもの」はダメだと解説してます。 M 法人税法施行令69条3項1号には、そのような制限は存在しない。法人税法が要求するのは、@事業年度開始の日から3ヶ月内の決定と、A事前確定届出給与としての届出だけだ。 S 役員賞与引当金の実務として、各人への支給額を計算し、それを合計した金額を引当金として計上する。つまり、未払計上と引当金の違いはあるが、会社自身が前期の費用と認めてしまった報酬は、その後に事前確定の届出をしても認められない。 H 支給に先だって届出れば良いだけでなく、それが届出以降の職務執行の対価であることが必要。5月の定時株主総会で決議した事前確定届出給与を6月30日に支払うという説例について「民法上委任の報酬は後払いが原則とされていることを考える」と税務上問題があると指摘した上で「使用人への盆暮れの賞与と同じ時期」に支払っていればokと解説するQ&Aがある。つまり、5月に選任された役員に対して6月に事前確定届出給与を支払うのでは、職務実績が存在しないという趣旨だ。 S 前期の功績を考慮して事前確定届出給与を支給することや、上積みした定期同額給与を支払うことが制限されるとは思えない。各人別の支給額を未払金、あるいは引当金として計上することで前期の職務の対価であることを自認した場合に限る。 T 法人税法の条文と国税局が解釈したQ&Aとの間に微妙にズレがあるように思う。条文は会社と取締役の間の報酬決議を事前に届け出ることを要求しているだけだが、国税庁は、利益処分か否か、つまり、職務執行との対価性を要求している。だから、前期の職務の執行ではダメだとする解釈が登場する。 高橋昭彦 実務上の安全な対応としては、前期末に役員報酬の未払いを計上し、あるいは役員賞与引当金を計上したら、当期の事前確定届出給与には取り込めない。そのように考えるべきですね。 2017年5月21日現在 |
25 医療法人の持分の譲渡と相続 酒井啓司 持分のある医療法人について、持分は譲渡することも、相続することも可能ですね。 K 社員総会の承認を得れば譲渡も可能です。さらに営利法人に対する譲渡も認めています。平成3年1月17日付の「医療法人に対する出資又は寄附について 東京弁護士会会長あて厚生省健康政策局指導課長回答」は、株式会社などの営利法人が医療法人の出資者になり得るかという問に対し、「出資又は寄附によって医療法人に財産を提供する行為は可能であるが、それに伴っての社員としての社員総会における議決権を取得することや役員として医療法人の経営に参画することはできない」と答えています。 S 営利法人の場合は、@社員になるのはダメだが、A出資持分を譲り受けるのはok。そのような意味でしょうか。しかし、出資持分のある医療法人なら、出資者は社員であるべきではないですか。株式会社であれば出資者が株主であることと同じです。ところが、回答は「出資持分≠株主」という処理をokとしている。社員権の無い出資では税法上は寄附金になってしまいませんか。 M 悪く言えば医者だけの特権で、よくいえば医療法人制度の普及のために投資を認める必要があったからでしょう。 S では、社員の地位の相続はいかがか。医療法人の定款は社員の死亡を退社理由にしている。これは税理士法人も同様で、社員の死亡は退社理由です。 M 「出資額限度法人(医療法人)に関する質疑応答事例について(情報)」で、「出資払戻請求権を相続等により取得した相続人等がその払戻しに代えて出資を取得した場合には、当該出資払戻請求権の価額は、財産評価基本通達194−2の定めに基づき評価する」こととしています。つまり、社員の出資持分の相続を認めます。 K 相続人が、相続後、社員として入社し、出資持分を相続した場合ですね。社員として入社しなかった場合は、退社を理由として、払戻請求権について、被相続人に対する配当所得課税を受けることになります(『回答事例による所得税質疑応答集』 医療法人を死亡退社した場合の持分払戻請求権に係る課税上の取扱い)。 S 医療法人の社員は医師であることを必要としませんが、税理士法人は社員を税理士に限っているので同一の議論はできない。相続、即、配当所得になってしまう。しかし、税理士である息子が直ちに税理士法人に入社した場合は出資持分の相続を認めると思います。でも、合名会社法理ですから、医療法人のように出資持分を会社名義にするのは不可能です。 酒井啓司 医療法人の社員の相続では、相続人間で争っていると、理屈としては「死亡退社」の扱いを受けて配当所得課税がされてしまう危険がある。生前の処分か、遺言書の作成か、内部留保が多いので慎重な対応が必要です。 2017年5月11日現在 |
24 引き渡し直前の貸家の相続 濱田康宏 2月1日の相続開始だが、建替中のアパートがあって、2月10日に完成引渡しを受けた。サブリース契約なので着工時点で賃貸契約が締結されていた。この場合に建物を建築費の70%で評価するのは気の毒に思うのだが。 S 相続時点で建物は、ほぼ完成していたのですね。柱、屋根、壁が完成していれば、その時点で、建築部材ではなく、建物としての所有権が成立します。大阪高裁昭和52年9月20日判決は「屋根及び周壁又はこれに類するものが、土地に定着して備わり、各階に通ずる階段が設けられ」ている場合は「エレベーター又は冷暖房などの設備工事が未完成で」も独立の不動産となると判断しています。 M 既に建物として完成しているのだから、建物としての評価で良い。しかし、引き渡しを受けていないのだから、相続財産は建物の引渡請求権、つまり、建築費相当額ではないか。 S 代金を支払っている場合は、建物になった時点で、即、建物は発注者の所有物になります。引き渡しは、事実上(占有)の問題です。最高裁昭和44年9月12日判決は、工事の進行に応じて代金を支払っていた場合に「建築された建物の所有権は、引渡をまつまでもなく、完成と同時に原始的に注文者に帰属する」と判断しています。 T それなら、相続人は、固定資産税評価額が付されていない建物を相続したことになって、建築費の70%相当の評価額ではないか。 N いや、「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」については、その「家屋と状況の類似した付近の家屋との構造、経過年数、用途等の差を考慮して評定した価額」で良いとする質疑応答があります。新築でも、この取り扱いが認められると思います。通常の場合は、建物の固定資産税評価額は建築費の70%を大幅に下回ります。ハウスメーカーの建築なのか、町の工務店なのかの差があったとしても建築費の40%程度でしょう。 K 貸家建付地評価減はいかがですか。着工時に賃貸借契約が締結されていますが、売買契約途中の相続と同様に、相続人が承継するのは借家権の制約が付いた物件なので、貸家建付地評価減は可能だという答えになりますか。 T 貸家建付地評価減については、賃貸借契約が締結されているだけではなく、建物が完成し、使用収益の開始が可能な状態にあることが必要ではないか。ただ、貸付事業用宅地の評価減は可能ですね。措置法通達69の4−5の事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合です。 濱田康宏 税理士が自己規制してしまうと納税額は確定してしまう。加算税を怖れず強気の申告ですね。妥協した申告を行うのは納税者に迷惑をかけます。見直し税理士が待ち構えているのでいい加減な仕事はできません。 2017年5月1日現在 |
23 中心的な同族株主の判定 佐藤増彦 兄が70%を所有し、弟が30%の株式を所有している会社。弟が死亡すると、弟の相続人は原則評価で株式を取得することになってしまう。経営に参加せず、所有する意味のない株式について原則評価は厳しい。 K 最高裁(平成11年2月23日判決)で争った事案がありました。株式を相続し、所有株と合わせて7.4%の持分割合になった。しかし、経営陣は原告から5親等の距離にある人達で、原告が会社の経営に関与することはない。この場合でも、原告が相続した株式は原則評価になってしまう。 T 原告は「6親等内の血族までも含めることは時代錯誤」「5%規制には何ら合理的根拠はない」と主張したが、地裁判決は「区分の基準となる持株割合を7%あるいは10%とすれば合理的であるとする根拠はない」と原告の主張を否定しています。 H 相続税の失敗事例です。相続前の原告の持株は4.99%だった。おそらく、前回の相続時点で、税理士が、中心的な同族株主にならないように5%未満の持株にしたのでしょう。今回の株式も、他の相続人が取得すれば配当還元価額が利用できました。 M そもそもですが、同族株主と、中心的な同族株主の関係ですが、まず、同族株主に含まれれば原則評価になるが、その場合でも中心的な同族株主でなければ配当還元価額が利用できる。 H そこで注意すべきが、@誰かの傘と、A自分の傘の違い。同族株主か否かは誰かの傘で判定し、株主の誰かの傘の中に入ってしまえば同族株主です。しかし、中心的な同族株主か否かは自分の傘で判定する。自分の傘に、配偶者、直系血族、兄弟姉妹、一親等の姻族を入れて25%以上になれば私は中心的な同族株主です。 M なるほど。誰かの傘の雨垂れの滴る6親等の距離に入ってしまえば同族株主。しかし、私を中心に食卓を囲む本当の家族が持っている株式の総数が25%未満であれば配当還元価額が認められる。 K 具体的には、判決の事例だと、5親等の距離にある人達が50%以上の株式を持っていても、自分の傘の下に25%の株式が無ければ配当還元価額が利用できる。ただし、自分の持株が5%以上だとダメ。 N そうすると弟が30%を持っている相続では救済がない。弟の傘の中には、兄を含めて100%の株式が入ってしまう。 K いや、相続税は遺産取得者課税なので、弟の相続人の立場で判定します。相続人の配偶者などの傘の中の持株合計が25%を下回れば配当還元価額です。弟の相続人にしてみたら叔父は自分の傘には入りません。 佐藤増彦 それでも、私の事例では、中心的な同族株主で合計して30%の持分です。いや、6%の株式を、それ以外の方に遺贈する遺言書を作成し、各々の相続人は5%未満の相続にすれば良いのですね。 2017年4月21日現在 |
22 欠損補填と均等割の計算 本村昌子 法人住民税の均等割の改正ですが、欠損金の補填として、「その他資本剰余金」を充当しても、住民税の均等割の税率区分の基準になる額は減少しないという理解でよろしいですか。 H 資本金や資本準備金を減少させ、それを振り替えて増額した「その他資本剰余金」を1年以内に欠損填補に充てた場合は、法人住民税の均等割の判定に影響が生じます。それなら、なぜ、従来からの「その他資本剰余金」を欠損填補に充てた場合を無視するのでしょう。 K 不思議ですね。債権者保護手続を行った欠損填補だけ、その勇気を称えて均等割を軽減させる。あるいは公告という外部から確認できる手続を最低条件としたのか。 S 今回の改正はプラス(従前より増加)と、マイナス(従前より減少)のセットです。そしてプラス側は次の関係になります。 (資本金+資本準備金)> 資本金等の額(税法上の金額) この場合は、会社法の金額である「資本金+資本準備金」を採用します。上場会社が株式市場から自己株式を取得すると全額が資本金等の額(税務上)の減少になってしまう。それによって均等割が減ってしまうのは不合理だからです。 M 会社法上は、自己株式の消却で「その他資本剰余金」が減じてしまいます。自己株式の取得による弊害防止が目的なので、自己株式の消却で動いてしまう「その他資本剰余金」は計算要素に含めず、「資本金+資本準備金」のみを課税標準にした。そのような理屈です。 T @会社法の「資本金+資本準備金」の額が、A税法上の資本等の額を超える場合は@を採用する。この場合に、本来は、会社法の数字として「資本金+資本準備金+その他資本剰余金」を採用すべきだが、立法目的からして、その他資本剰余金は計算要素に含めない。 N なるほど。そうしたらマイナス側は次のような発想ですね。資本金と資本準備金で欠損補填しても、税法上の資本等の額を減じないのは気の毒だ。欠損金で当初の払込額が毀損しているのに、均等割の計算では当初の払込額にこだわるのはおかしい。そこで会社法上の「資本金と資本準備金」を減じて欠損補填に充てた場合は、1年以内に欠損補填を行った場合に限り、税法上の「資本金等の額」から補填額を減額することにした。つまりは、欠損金が税法上の資本金等の額を食ってしまったとみなす。 K 逆に、利益剰余金の資本に組み入れれば、税法上の資本金等の額を増額する。つまりは、赤字処理を認めた見返りに、黒字を税法上の資本金等の額に加算するという理屈ですね。 本村昌子 なるほど。プラスとマイナスの両方の処理について共に登場する会社法の数字は、「資本金+資本準備金」であって、「資本金+資本準備金+その他資本剰余金」ではないのですね。 2017年4月11日現在 |
21 法的整理手続と貸倒損失 小野正博 法的整理手続で、再生計画認可の決定で債権が切り捨てられた場合に、そこで損金に落とさないと、その後の事業年度では損金処理ができない。それが法人税基本通達9−6−1なのか。もちろん更正の請求は可能だが。 T 破産も、法的貸倒れに該当すると思うが、法基通9−6−1には会社更生や民事再生はあるが、破産の記載がないのが気になります。 M 破産は、民事再生とは異なって債権の切り捨ての制度がない。債権の消滅の効果が生じるのは破産廃止か、破産手続の終結時点に限る。それが何時になるのか、破産管財人への確認手続が必要になる。 H 破産では、法人破産と個人破産を区別すべきと思う。個人の場合は破産終結後も債務が残る。その後の免責決定で法律上の債務消滅の効果が生じる。法人であれば破産手続が終結すれば、通常は清算結了になるので、法律上も債権は消滅だ。 S さらに厳密にいえば、破産手続で清算されるのは破産財団に限ります。仮に破産財団が放棄した資産は貸借対照表に残ります。厳密には破産の終結は法律的には債務の全額の消滅ではない。処分するのが困難などの理由で、破産財団が放棄した資産に抵当権を持っている債権者もいます。 N 平成20年6月26日裁決は「廃止決定又は終結決定」があれば「金銭債権もその全額が滅失したとするのが相当であると解され、この時点が破産債権者にとって貸倒れの時点」と判断しています。通常の場合は「廃止決定又は終結決定」時の損金です。 M 債務者が破産宣告したら、よほどのことがない限り、破産宣告時点の損金処理でokです。わざわざ破産管財人に終結時点を確認する必要はありません。ただし、この場合は法基通9−6−2の「貸倒れとして損金経理」が必要です。破産配当が行われる破産事件は5%も存在しません。昔は、1円でも回収可能であれば全額が損金否認でした。いま、貸倒処理は貸倒引当金に乗り換えることができます(法基通11−2−2)。調査があり、貸倒損失の時期が早すぎると言われても「では、90%は貸倒引当金」と主張できるのが現行通達です。逆に、貸倒処理する時機を失ってしまうと面倒です。 K 債権を損金に落とすために、債権放棄書を送付する実務がある。あれは有害無益だ。法基通9−6−1(4)の「債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」を利用する趣旨だが、しかし、債権の回収が可能だと認定されると、貸倒損失が否認され、債権を放棄してしまったら翌期以降の救済がない。 小野正博 回収不能の事故が起きたときに処理しておかないと、その後の処理を失念してしまうリスクがある。昔と異なり、早め、早めの損金処理が必要です。貸倒引当金に乗り換えられるのならリスクはありません。貸倒処理と債権放棄をセットで考える思い込みも解消しておいた方が安全です。 2017年3月21日現在 |
20 法人への遺贈と6つのミス 佐野 隆 同族会社に土地を遺贈する遺言書の作成を検討しています。無償返還届を提出して同族会社に賃貸している土地です。借地上に同族会社の建物がありますが、株主は子ども達なので、土地を相続させて共有にするより、同族会社に持たせた方が良いという考え方です。 T 同族会社に土地を遺贈すると5つのミスが発生します。そのようなミス事例があり、2つの訴訟が起きて、最高裁(平成4年11月16日判決)まで争ったのですが、全面的に納税者の敗訴で終わっています。 S 私が覚えているところでは、@被相続人に所得税法59条の譲渡益課税が行われ、A会社には法人税法22条の受贈益課税が行われた。Bそれらの評価額は相続税評価額ではなく実勢価額になります。その後に遺留分減殺請求があり、相続人と同族会社は、それぞれ@とAの課税の減額を求めたのですが、遺贈を受けた時期と、減殺請求で代償金を支払った時期が異なるので更正の請求は認められず、支払時期の損金といわれてしまいました。それがCのミスです。 M 最後にDのミスは、同族会社に相当地代で賃貸していた土地なので、本来であれば20%の減額が受けられるはずだが、利用制限をしている同族会社自身に対する遺贈なので、使用制限を理由とする減額は認められないという結論になってしまいました。 S 税法は理屈が面白いので、裁判官も喜んでしまったのか、多数意見、反対意見などが付され、税法の教科書としても利用できる判決です。裁判官の税法についての理解度という視点で読むと面白いところがあります。 T おそらく、6番目のミスも生じます。最高裁の判断事項には含まれていませんが、同族会社が土地の遺贈を受けたことを理由に、株主である息子達に相続税法9条を理由にした相続税が課税されます。 Y 相続税評価額で計算して、さらに貸地の20%の評価減が受けられれば、相続人の数が多いので多額の相続税にはなりません。法人に遺贈するというミスで6つの課税関係が生じてしまうと、遺産総額を超える税負担になってしまうかもしれない。 M 土地が共有になって困るのであれば信託を利用すれば良いのです。遺言代用信託で、同族会社を受託者として、受益権は相続人に取得させます。つまり、登記原因を信託として土地の所有名義は同族会社になります。信託の内容として、土地は建物の敷地として利用し、同族会社に建物を売却する必要が生じたときは敷地も同時に売却する旨を定めておきます。そうすれば土地の所有権が分散することも、土地と建物の処分が別々になることもありません。 佐野 隆 なるほど。信託を利用すれば当初の目的が達成できるのですね。課税関係を理解せずに法人への遺贈の遺言書を作成していたら大変なことになってました。 2017年3月11日現在 |
19 国外への非課税売上と仕入税額控除 高田祐一郎 国外にある土地を譲渡するについて、国内の弁護士に支払った報酬は、課税売上対応の課税仕入になるという国税庁の質疑応答「国外で行う土地の譲渡のために国内で要した費用」があります。そもそもの基本的な考え方として、なぜ、土地の譲渡が課税売上になるのですか。 S 土地の譲渡は非課税だが、非課税になるのは「国内において行われる」資産の譲渡のうち別表第1に掲げるものだから、「国外」において行われる土地の譲渡は非課税売上には該当しない。つまり、課税売上に該当し、それに要した国内での課税仕入は、個別対応方式を採用する場合には、課税資産の譲渡等にのみ要するものとして仕入控除税額が可能です。 T 付加価値税の理屈からいえば、土地は、国内で売却しても、国外で売却しても非課税売上です。なぜ、国外で売却した場合に、これが課税売上になるのか。土地の売却には付加価値を認識しないのが理屈だと思うが。 M 理屈ではなく、条文の作りの問題です。土地の譲渡が非課税なのは、付加価値税の基本から登場する理屈ではなく、別表1に掲げているからです。 S では、別表1に掲げる理由は何なのか、付加価値に含まれないという理屈ではなく、別表1に記載しないことにしたからだけなのか。つまり、理屈など一点も存在しない。別表1に記載されているか否かが全ての判断基準になる。しかし、別表1に書き込んだ方は、何かを考えて別表1に書き込んだのか。 N 金融機関が、外国で金融商品を売却した場合や、外国で融資を行った場合のコストについても仕入税額控除を認める。その趣旨です。別表第1は、1号で土地の譲渡、2号で有価証券等の譲渡、3号で利子を対価とする貸付金などが「国内」で行われた場合を非課税売上としている。つまり、これらが「国外」で行われた場合は、消費税法31条で課税売上として、仕入税額控除の対象にする。 E 土地の売却だから違和感なのですね。国内で土地を仕入れて、国外で売却することはあり得ません。実感が理解できるのが、@有価証券について国外で売買をする証券会社や、A国外で融資活動をして利息を受け取る銀行です。 S なるほど。国外で土地を仕入れて、国外で売却する。これらは国外取引だから、売上側では「対象外取引」になるが、仕入側では「仕入税額控除」を認める。土地の譲渡を課税売上に分類しても、土地の譲渡に対して付加価値を認識するわけではない。 高田祐一郎 証券会社や銀行は、国内に間接部門を置いて、家賃など、大量の課税仕入を行っている。これを控除(還付)しなければ、外国での証券販売や、外国での融資について、他の諸国の販売価額に負けてしまう。だから、国外での販売に消費税の影響を生じさせないために、非課税取引ではあるが、仕入税額控除を認める。しかし、消費税法を立案した担当者の能力には脱帽です。 2017年3月1日現在 |
18 無償返還届を提出した場合の株式評価 松本慎太郎 無償返還届を提出して会社に土地を賃貸しているが、会社を弟に承継させるので、土地と持株を弟に譲渡する。その場合の譲渡価額はどのように計算するのか。 M 無償返還届を提出している場合でも敷地の20%減額が認められる。ただ株価計算では借地権20%を加算する必要がある。 T 土地持分は30%で、株式は100%所有の場合は、土地持分30%について20%しか減額できないのに、株価の計算では土地全体に20%を計上することになって不合理。 K いや、その場合であれば株価の計算で加算すべきは6%(持分30%に対する20%)だろう。土地の減額分を借地権に計上すべきという理屈だ。 S 株式だけの贈与の場合でも、株価計算に、敷地の20%を加算するとした平成27年3月25日裁決がある。裁決は「将来贈与者に相続が開始した場合に相続人となる蓋然性が高い」ものが「受贈者である場合」は「借地権相当額を会社の純資産価額に算入すべき場合がある」と判断している。 M その理屈はおかしい。無償返還届を提出し、あるいは6%地代で新たに土地を賃貸した場合にも20%部分について受贈益を認識することになってしまう。年6%の地代を支払っている場合は土地に対する利回りは保証されているのであって、借地権価額はゼロ。その理屈が否定されたらおかしい。 N 無償返還届を提出しているのに、20%相当の借地権価額を認識するような理屈はおかしいですね。無償返還届は借地権をゼロと評価する制度です。 T 敷地が同族会社に遺贈された事案で、最高裁平成4年11月16日判決は「個別通達は第三者による利用制限を減価事由として考慮したものであって、本件遺贈のような借地契約の当事者間での当該土地の譲渡には妥当しない」と判断しています。つまり、借地人である会社が底地の遺贈を受けた場合に20%減額は認めないという理屈です。 M 裁判所が判示するように、20%は借地権ではなく、使用制限に基づく評価減だ。だから借地権として20%の権利を認識する必要はないはず。あくまでも土地と株式の同時取引の場合の公平論に限ると思う。 S 裁決は「先に株式の贈与が行われ、その後、当該土地について贈与を行うか又は当該同族関係者に相続が開始した場合」には「借地権相当額が相続税ないし贈与税の対象から除外される」ことになるので不当だと理由を述べています。理屈を超えた公平論ですね。 松本慎太郎 20%の評価減は、借地権評価ではなく使用制限なのですね。そして、借地権の時価は認識しないが、課税の公平上、所有権と借地権が同時に相続(贈与)される場合は株価計算に20%相当の借地権価額を考慮させる。さて、現実の申告で、どちらの考え方を採用すべきか、実務は難しい。 2017年2月21日現在 |
17 債務超過会社への貸付金の評価 田中 良幸 オーナーから会社への多額の貸付金がある事案で、オーナーの相続について、会社への貸付金は債権額で計上する以外にないのか。 T 相続税の申告期限までに法人を解散し、清算を結了させれば、債権額はゼロ、あるいは回収可能額での評価を認める。しかし、解散できない事例だと対応できない。 M 相続税の申告期限までに解散し、清算結了をすれば良いという取り扱いは、常識を実現した良い理屈だと思う。仮に、父親が歯科医を経営していたが、子が承継しない場合の歯科器具や、両親の相続後に地主に返還する借地権など、相続税の申告期限までに対応した場合は相続財産から除くことにしてもらえれば嬉しい。 K そもそもだが、相続税法22条は、相続財産の評価は「財産の取得の時における時価」としている。財産評価基本通達205も、手形の取引停止処分を受けたり、法的整理の開始があった場合は、「回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない」としている。 S 正論だが、ただ、法人税の貸倒損失の理屈であれば、評価に間違いがあっても翌期以降に修正されるが、相続税の場合は、その時点の課税なので、課税庁側が評価減に慎重になるのも理解できる。さらに、債権について評価を認めるとしたら、被相続人が負担する保証債務について、主たる債務者が倒産していない場合であっても、負担が予測される金額について債務控除を認めないと不合理だ。それが技術的に可能なのか。 H 会社に対する貸付金について、債権の現物出資、つまり、DESをすると債務消滅益課税をするのが法人税法の建前だ。つまり、債務超過会社への債権は評価できるという前提になっている。それが相続税では評価が難しいというのはご都合主義ではないか。 S DESについて債務消滅益課税を受けるのは、仮に、サービサーから債権を買い受けた場合に限るのではないか。つまり、評価額がサービサーとの取引によって明らかになっている場合だ。取引額が明らかになっている事例なら、その直後に相続が開始すれば取引価額で評価してくれると思う。 T 事前の対策であれば、DES、債権放棄、第三者への債権譲渡という方法が可能だ。第三者としてサービサーが利用できれば良いが、買い取る債権に制限がある。一般社団法人を設立し、そこに譲渡してしまったら良いと思う。仮に、低額譲渡と言われても、取得価額は債権額なので譲渡益は生じない。いや、そもそも債権の譲渡には所得税法59条の適用がない。 田中 良幸 不良債権を相続してしまったら大変です。社長が多額の資金を貸し付けている関与先があったら、事前に対応すべきが顧問税理士としての注意義務。心して日々の業務に当たる必要があります。 2017年2月11日現在 |
16 低い地代しか支払っていない借地 松本 慎太郎 昭和初期に第三者から土地を借用し、年額10万円の地代を支払ってきた。しかし、10万円は、土地の固定資産税より低額だ。借用地には父親が倉庫を所有し、息子が経営している会社に貸与し、会社が地主に直接10万円の地代を支払っている。 K 賃料を支払って借りている土地であれば、地代が固定資産税を下回っても、有償による賃貸借、つまり、借地権が存在することは争えないと思う。地主も、借地権があると考えているはず。 S 仮に、身内間の契約でも、地代が適正額であるか否かは、契約の締結時に判定する。地代を増額せず、放置していたら、地代が固定資産税相当額を下回ることになって借地権が自動的に消滅してしまう。そのような理屈は不合理です。 K 業績の悪化で、地代を引き下げ、あるいは免除されている同族会社があるが、契約設定時の理屈で考えるのであれば、借地権の存否については過去の地代の推移を調べる必要がある。 M 地代の支払いがあった場合でも、地代が固定資産税相当額以下なら使用貸借であることを認める。それは実費精算の理屈であって、一旦は締結された賃貸借契約が、地代の推移によって自動的に使用貸借契約になることはあり得ない。 T いま、同じような問題を抱えているが、バブル時に比較し、地価が下がって、逆に、地代が相当地代に近づいてしまった。その場合は、相当地代通達の適用を受けての按分計算が必要になるのか。契約締結時に通常地代だったのであれば、自然発生借地権が発生していると考えて良いのか。 S 相当地代通達は、借地契約締結時の権利金認定を避けるための制度(法人税法施行令137条)であって、その後の地価の推移によって借地権が消滅したら不合理。そもそも税法は地価下落という時代を想定していないように思う。 W 地代の水準が、常に、借地権割合に影響を与えるのであれば、財産評価基本通達は、そのような作りになっていないとおかしい。契約締結時の現状で判定するので良いと思う。 K 建物を利用する法人が、地主に、直接に地代を支払っていることを、どのように解釈するか。たんなる地代の代払いと考えて良いのか。 S そのように思う。会社が借地人に家賃を支払い、借地人が地主に地代を支払う。それが地主への直接の支払いとして実行されているだけだ。つまり、借地人は、貸家建付借地権と理解して良いと思う。 K しかし、地代の実費を支払っているだけの借家について、それが有償による契約と言えるのか。実費負担の使用貸借契約ではないのか。 松本 慎太郎 現場は、理論であると同時に、妥協でもあるので、借地権は存在するが、しかし、貸家建付借地権であることは否定する。その辺りが落としどころでしょうか。 2017年2月1日現在 |
15 建物を無償貸与した場合と消費税 佐野 隆 レストランとして使用していた家屋を半分に区切って、その半分を娘の歯科診療所として無償で使わせることにした。これは課税売上になってしまうのか(消費税法4条5項1号)。法人の場合であれば、仮に、役員に無償で貸与した場合でも課税売上にならない(法4条5項1号、消基通5−3−5)。なぜ、両者に差異を設けたのか。 T 対価の有無でしょう。消費税法は課税標準の測定に対価を利用している。だから、無償の譲渡や無償の役務提供には対価が認識できない。そこで租税回避税法が発動する。個人事業者が事業用資産を取得し、それを家事使用する場合には対価が発生しない。そもそも同一人による右手と左手の取引だ。だから「役務の提供」という対価をみなす必要がある。 H しかし、そうであるなら、役員に無償で貸与した場合も対価を認識すべきではないか。法人の場合は無償貸与は課税売上に含めていない。 K 消費税法は無償による役務の提供は、個人と法人を問わず、課税売上に含めていないのです(5−1−2、5−3−5)。消費税法4条5項1号と2号が定めるのは、あくまでも資産の譲渡です。 H なるほど。消費税法4条5項は「次に掲げる行為」は「資産の譲渡とみなす」としている。つまり、「資産の譲渡等」とはしていない。だから、「貸付け並びに役務の提供」を含まない(法2条1項8号)。資産の譲渡と認識できる場合のみを課税売上にしているのですね。 M 個人の場合も、事業用資産をたまたま家事に使用した場合は課税売上とは認識しません(5−3−2)。資産を完全に家事用に転用した場合のみ課税売上を認識します。レストランの一部を区切って娘の歯科診療所に転用した場合は事業用資産を家事用資産に転用したことになるのです。娘の事業用に使用する場合でも、父親の事業としては、自己の事業からの転用であって、家事使用への転用と同じです。 K 法人の場合は、事業という一車線道路を走っているので、課税仕入をした商品は課税売上として出ていく。しかし、個人の場合は事業という路線と、家事という路線の二車線道路を走っている。途中で事業用路線から家事用路線に入れ換えると課税漏れが生じてしまう。だから、事業用として課税仕入をした店舗を、家事用路線に入れ換えたら、そこで課税売上を認識する。つまり、娘に無償で使用させるのは家事用資産への路線変更なのですね。だから、その時点で課税売上という処理になる。 佐野 隆 消費税法4条5項1号は、家事のための消費に限らず、家事のための使用を課税売上にしている。これは、たまたま路線を変更した場合ではなく、家事用路線に完全に変更してしまった場合なのですね。それにしても消費税法を作った主税局の人達はどれほど優秀なのか。 2017年1月21日現在 |
14 無限責任社員についての債務控除 関根 稔 無限責任社員に相続が開始すると、会社の債務超過部分について債務控除が認められる。そのことを利用するために、債務超過の株式会社を合名会社に組織変更したという話を聞いた。 W わざわざ個人責任を引き受けるために合名会社にする必要はないので、連帯保証をしている事案ですね。 M 国税庁の質疑応答は債務控除が可能だと説明している。「合名会社、合資会社の会社財産をもって会社の債務を完済することができない状態にあるときにおいて、無限責任社員が死亡」したという説例で、「その死亡した無限責任社員の負担すべき持分に応ずる会社の債務超過額」について相続税法13条の債務控除が可能という説明だ。 K 債務超過であれば債務控除が認められるのか、あるいは負担が現実化する破綻状態を要求しているのか。 M たんなる債務超過でも良いように思う。仙台国税局の平成21年2月4日の文書回答事例だが、「無限責任社員が有限責任社員」になった事例について、「社員変更登記後2年を経過した時」に「債務を弁済する責任を負わないとする経済的利益を受ける」ので無限責任社員に贈与税の課税事由が生じるとしている。 T 会社法583条が根拠だ。社員の地位の変更登記をしてから2年で無限責任社員の責任が消滅することから、2年経過時点を課税の時期にしている。 W 会社が債務超過状態の場合を、無限責任社員の責任と認識するため、それを免れたときに課税所得を認識する。それなら相続税でも債務控除が認められて当然だ。 M 文書回答事例は「時価による純資産価額がマイナス」で、2年を経過した時点でも債務超過で、2年の間に債務の弁済がない事例について答えている。その間に債務超過が解消し、あるいは債務が入れ替わってしまえば贈与税の課税はないのだと思う。 U 無限責任社員の責任は会社法に基づく責任なので、相続税評価額ではなく、時価(実勢価額評価)になる。もし、この理屈を債務控除についても援用するのであれば「時価による純資産価額がマイナス」の場合に限ることになる。しかし、事業を継続している場合に、時価債務超過だったら、本当に、相続税で債務控除を認めるのか。会社の債務を保証している場合の保証債務は、会社が破綻状態でない限り債務控除を認めないことと矛盾しないのか。 関根 稔 旧商法では、合名・合資会社が有限・株式会社になることと、有限・株式会社が合名・合資会社になることを認めていなかった。会社法が合同会社を取り入れたことから、この壁がなくなってしまったために生じた疑問だが、事案によっては有効に活用できるかもしれない。税理士法人や弁護士法人は合名会社法理なので身近な事例でもある。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年1月11日現在 |
13 法人への遺贈 谷 修二 同族会社に不動産を遺贈する遺言書が登場したが、この課税関係を考えると目眩がします。@遺贈を受けた法人は不動産の時価を益金に計上して法人税課税、A被相続人に時価によるみなし譲渡課税(準確定申告)、B遺贈によって増額した株式の相続税評価額に対して株主への贈与税課税。 K Aのみなし譲渡所得課税について、納税義務者は受遺者である法人なのか、遺産を取得しない法定相続人なのか。Bの課税は、贈与税なのか、相続税なのか。銀行指導で作成した遺言書だそうだが、これは課税関係を意識して作成したのか。 T Aの納税義務者は法定相続人です。準確定申告による所得税(租税債務)は被相続人の債務です。しかし、財産を取得しない相続人が租税債務だけを承継するのも不合理です。他に財産が無ければ相続放棄も検討すべき事例です。 S Bについては相続税です。相続税法9条は「贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす」としています。ただ、Bの課税が為されるのは親族に限るでしょう。相続税法基本通達9−2は租税回避の場合で、9−4は親族が利益を受けた場合ですが、本件が租税回避の事案とは思えません。 H 相続税法9条が、実務で、実際に適用されているのか。私が見聞きした事案は、全て、租税回避の事案。9条の適用が問題になりそうな事案について、現場で課税庁の職員と雑談した際にも、彼らは9条の適用は想定していないと語っていた。現場の一事例ですが。 T 専門家が、専門書を書く場合は、おどおどしく書く必要があり、相続税法9条などは、まさに実務家の注目を引く題材です。しかし、実際に現場で相続税法9条の適用事例を聞くことはありません。判例等には登場することがあるが、おそらく、租税回避事案だと思う。 K 受遺者の法人が、遺贈を放棄した場合も、法人に対する遺贈として課税関係が生じてしまうのか。遺贈を放棄するか否かは民法では自由だ(民法986条)。しかし、経済的合理的に行動すべき法人が権利を放棄したら、受贈益と寄附金の両建てになってしまうのか。 S 遺留分減殺請求で対応したら如何か。ただ、同一事業年度内に減殺請求を確定させないと、遺贈による利益を計上した年度と、減殺請求で財産が消滅した年度が違ってしまうので、受贈益を直接に相殺することができない。 谷 修二 既に、発生している相続なので、どうしようもないのだが、しかし、納めなくても良い税金を、二重、三重に支払う申告業務は、税理士として楽しくない。税法の素人の納税者が納得してくれるのかどうか。遺言書の作成段階で税理士に相談することが不可欠と思う事案です。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2017年1月1日現在 |
12 更正の請求期間を5年に 関根 稔 更正の請求が5年について可能になった。相続税の更正の請求で、遺産分割や、遺留分について、仮に、法定申告期限から4年目に解決した場合は、国税通則法23条1項で法定申告期限から5年なのか、2項の後発的な更正の請求理由で2ヶ月なのか、相続税法32条で4ヶ月なのか。 T 法定申告期限から5年内であれば、23条2項ではなく、1項が適用される。2項が適用されるのは法定申告期限から5年を経過した後に限る。したがって、後発的な更正の請求理由である相続税法32条の場合も、23条1項の5年だと思う。 M 相続税法32条は、一方を増額すれば、他方を減額する。つまり、減額側を保護することは、増額側に不利益になってしまう。32条の4ヶ月の制限は維持されるのではないか。相続税法35条3項も「第32条第1項第1号から第6号までの規定による更正の請求に基づき更正をした場合において」と定めている。仮に、国税通則法23条1項による更正の請求に基づいて更正処分がされた場合は相続税法35条3項が適用できなくなってしまう。 T なるほど。法定申告期限から5年ギリギリに23条1項の更正の請求があった場合には、他の相続人に対して更正処分ができなくなってしまう。あくまでも32条の更正の請求であることが必要なのですね。実務は安全が一番なので32条の4ヶ月は守っておくべきです。 S 4年目の遺産分割だと、配偶者の相続税額の軽減や、小規模宅地の評価減の特例は利用できない。法定申告期限から3年内の遺産分割が要件だ。当初申告要件が廃止されたが、法定申告期限から3年以内の分割要件は維持されている。 K 当初申告要件が廃止されたのは、配偶者の相続税額の軽減のみであって、小規模宅地の評価減は廃止されていない。だから、申告段階で、措置法規則23条の2の「分割見込み書」を添付することが必要だ。 H 「分割見込み書」は一枚の紙で、配偶者の相続税額の軽減と、小規模宅地の特例を兼ねるが、これを添付しなかった場合の効果は分かれる。配偶者の税額軽減は認められるが、小規模宅地の評価減は認められない。実務では救済されるにしても、それが原則だ。 関根 稔 課税庁が行う更正処分も5年について可能になった。納税者に有利になったのか、不利になったのか。更正の請求期間が5年に延びて、一番に喜んでいるのは相続税の見直し税理士だろう。5年間も落ち着かない処理をするのでは税理士業も大変だ。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年12月21日現在 |
11 債務の遺産分割 濱田康宏 遺言書があって、財産の帰属は決まっているが、債務の承継については遺言書に定めてない。実務的に、債務だけの遺産分割協議書を作成してますか。 S 債権者、特に銀行は債務者を1人にすることを希望します。債務者が2人だと、各々に対して時効の管理が必要になってしまう。ただ、税法的に考えると債務の遺産分割は気持ちの悪いところがある。債務引受として贈与税を課税するといわれる気持ちの悪さです。 H 債務を相続した場合は、法定相続分の当然分割なのです。そのため、相続人の誰か1人が債務の全額を引き受けると債務引受になってしまう。いや、そのような場合に、税務署が、本気になって贈与税課税をするとは思えません。仮に、ほとんどの財産を長男に相続させるという遺言がある場合に、債務は、法定相続分で承継だとは遺言者も考えていないはずです。 M そもそも公証人は、債務について遺言書に書くことを嫌う。民法は、資産だけを想定した単式簿記なので、債務について遺言できる構造にはなっていない。債務について遺言で触れるのであれば負担付遺贈(民法1002条)を利用しなければなりません。相続人が、遺言書で、強制的に債務を引き受けさせられるのは不合理です。 D しかし、一般に、債務を含めた遺産分割を行ってます。債務が、法定相続分に応じた当然分割であれば、これは債務引受として贈与税の課税対象なのか。そのような課税を聞いたことがない。 H 資産の遺産分割と共に行われる債務の分割は、法律上は、代償分割です。長男が時価3億円の土地を取得する代わりに、次男に代償金1億円を支払う。その代償金を、次男が法定相続分に応じて承継した債務1億円を引き受けることで決済する。 D この場合は、債務について相続税法基本通達11の2−9(代償分割が行われた場合の課税価格の計算)の圧縮計算は可能でしょうか。仮に、資産(実勢価額5億円、路線価3億円)の場合に、債務1億円を負担する場合の圧縮計算です。 H 債務として圧縮計算をするのは難しいように思う。そもそも平成4年4月28日前橋地裁判決を原因として制定された通達だが、@相続時と分割時の時価差を調整するのか、A相続時の時価差も調整の対象に含めて良いのか。実務はAであり、代償財産の価格変動を背景に制定された歴史を辿れば、圧縮計算を認めるのは代償金に限り、債務については想定していないように思う。 濱田康宏 複式簿記の世界で生活していると、資産も、負債も分割可能ですが、民法は単式簿記であること、債務は当然分割(民法427条)であることを考えると、遺産分割協議書を作成するのが怖くなります。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年12月11日現在 |
10 債務超過会社との合併 松本慎太郎 父親が100%の株式を所有する資産超過会社と、子が100%の株式を所有する債務超過会社との合併。無対価合併だと非適格で、欠損金は切り捨てになるが、合併法人が被合併法人の株式を1株1円で全て取得し、完全子法人として合併すれば適格合併になる。 S 債務超過会社の吸収合併が、仮に、債務引受といわれても、法人支配のグループ法人税制なら受贈益は認識しないのでok。しかし、合併直前の株式の移動で脱法できてしまうところがグループ法人税制の限界です。 T 債務超過で清算予定の会社を合併する。事業上の合理性がどこにあるのか判然としない。組織再編行為にも租税回避や債務引受の実態があれば寄附金認定(法基通9−4−1、2)という解説がある。 S 法人を親会社とする100%子会社なら、寄附金と受贈益は認識されないし、100%子会社の解散なら無条件で青色欠損金が承継できる。寄附金課税の心配はないと思う。 A 適格合併になると思うが、支配関係前の青色欠損金の引継には問題は生じないのか。 S 兄弟支配が親子支配に入れ替わっても、それが100%支配のグループ内であれば5年50%超の支配関係に影響を与えないのは確定した解釈です。 K 1対0.01株ぐらいの合併比率で兄弟会社間の合併を検討しているが、これなら無対価合併に該当せず、もらった合併法人の株式の時価も数万円なので贈与税の問題も発生しない。中小企業の合併目的の多くは繰越欠損金の引継にあり、被合併法人は債務超過の場合が多いと思うが、合併で寄附金課税というのは想像できないが、実際に課税されたケースはあるのか。 S 組織再編税制は、理論的な整合性に欠けたところがあり、課税庁側も故障箇所に手を入れるのは嫌なのだと思う。債務超過会社の合併には課税関係が生じるという趣旨の課税庁側の解説もある。 H そもそもですが、債務超過会社の吸収合併も、会社法上は許されるのですね。 S それは当然です。会社法の前提になる企業結合会計では、時価は、会社が債務超過か否かで判定するのではなく、企業結合によって給付された株式の時価をもって判定します。買収者が、会社に価値があり、吸収合併するについて対価(株式)を交付するのなら、それを禁止する理由はありません。 K 非適格合併なら、債務超過部分は債務引受になりますが、第三者間で行われた場合なら、合意価額こそが時価です。非適格合併であれば借方に資産調整勘定(営業権)が計上されます。 松本慎太郎 寄附金課税が行われた事例は聞きませんが、何事にも最初があります。グループ法人税制を利用するのが無難そうですね。グループ法人税制の処理を否認する理屈は存在しないように思います。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年12月1日現在 |
09 借家に付した造作の評価 梅野広二 借家に付した造作ですが、純資産価額で株式を評価する場合にはゼロで良いのですね。造作の買取請求権を放棄する旨の合意がある場合です。 S 自分の建物に内装してレストランを開業したら、その内装費用は資産計上でしょう。借家の場合でも同じではないですか。 T 借家については評価不要だとする解説がある。造作費を建物付属設備として資産計上している場合でも、「繰延費用」と同様に会計上の期間損益計算として資産性があるに過ぎず、相続税の財産に該当しない。交換価値のないものであるときは評価の対象にする必要はないという趣旨の解説です。 S 仮に、建設協力金方式で建物を建築する場合はスケルトンで賃貸し、内装は借家人が工事します。その工事の結果、その後の営業が可能になるわけだから、その内装に価値が存在しないはずはないと思うが。 M 質疑応答に2つの間違いがあるように思う。借家権は評価ゼロだという理屈に引っぱられていることと、処分価額が相続税評価額だという理屈に引っぱられていること。 H 処分価値がなくても相続税では資産計上します。仮に、自分の建物に寿司屋用の内装をしても、息子が寿司屋を承継しない限り、寿司屋の内装に価値はないし、建物を売却する場合にも寿司屋の内装が売れるわけではない。 E 借り物の場合は、所有物とは別の理屈が成立するのだと思う。無償返還届を提出して土地を賃借する。そこに造成費をかけても、原状回復の合意があれば地主には受贈益課税をしない。借地人は、造成費が損金に落とせるとは思えないので、造成費は借地権として計上する。造成した結果、借地人は、借地を有効利用できるのだが、しかし、相続税では造成費の資産計上は求めないと思う。 H なるほど。借家人が内部造作を加えて、それによって借家を有効利用できるのは勿論で、内部造作の一括損金計上は無理なので、内部造作として減価償却をするとしても、相続税での資産価値はゼロとして評価する。 U 賃借人が権原に基づいて賃借建物に附属させたものは、借家人が自由に撤去することができる。建物から分離して取引の対象になるものであれば動産で相続税法の財産に該当する。そのような趣旨の質疑応答もあります。 梅野広二 付合して取り外せない内部造作は、法人税上は資産だが、相続税の評価では資産価値を認めない。ただ、取り外せる資産は動産として評価する。この区分は実務では難しそうです。壁紙、床材、天井材、照明などは独立していないが、換気扇や、トイレ、くくりつけのカウンターなど微妙。そのような結論になりそうです。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年11月21日現在 |
08 借地の無償返還と認定課税 中根治美 独り住まいの母親が居住する借地は、母親が死亡した後には地主に返還する予定です。建物も地主に引き取ってもらいますが、無償で借地権を返還したら地主に贈与税が課税されますか。 S 所得税基本通達59−5は、借地を無償で返還する合意があり、建物が老朽化した場合の借地の返還については所得税法59条を適用しないとしています。 K 所得税法59条は、個人から法人へのみなし譲渡なので、個人から個人への借地の返還には適用されないが、ただ、思想は同じだと思う。 M 親族関係がない第三者間の無償返還に受贈益は認識しないと思う。第三者間の取引であれば、無償による借地権の設定にも、無償による借地の返還にも実務では認定課税をしていないはず。 H 身内間の借地の設定でも認定課税の例は聞きません。そもそも権利金を取らなければ土地が貸せないのでは同族会社の経営の縛りになってしまう。権利金の認定課税が現実にそぐわないから、年6%地代の借地権や、無償返還届の制度を作ったのだと思う。無償返還届についても、「遅滞なく提出」とされているが、実際には、いつ提出してもok。私の知り合いの税理士は相続後に提出して認められたと語ってました。 S ただ、建物の無償の引き取りには、地主に対する受贈益課税があります。贈与税なのか、所得税だとしたら不動産所得か、一時所得なのか。 T 一時所得とした判決があります。建物収去等の原状回復義務の履行を免除して建物を引き取った事案です。課税庁は、建物の価額相当の不動産所得と認定したが、裁判所は一時所得だとする納税者の主張を認めました(平成17年3月3日名古屋地裁判決 速報税理2008年3月1日号)。 M 法人からの無償譲渡なら一時所得だが、個人からの無償譲渡の場合は贈与税かもしれない。いや、朽廃した建物について税務署が受贈益課税をするとは思えませんが。それと、借地人の相続では、借地権は相続税の課税対象に含まれてしまいますね。 H しかし、それは不合理です。母親が亡くなった後には、相続人は、借地を利用する予定も、目的もない。昭和の時代なら借地にも価値があったが、朽廃家屋の出現が話題になっている時代ですから、借地を返還してしまう人達は多いと思う。 K 借地が相続税の課税対象になってしまうのは困ります。居住しないのでは小規模宅地の特例も受けられません。いや、家なき子なら適用されますね。相続税の申告期限までは借地権を維持する必要がありますが。 中根治美 借地の返還や、建物の取り壊しの問題が、地主への課税ならまだしも、相続税の問題や、小規模宅地の問題にまで広がってしまうのですから、税法って、怖いですね。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年11月11日現在 |
07 信託と遺留分減殺請求 関根 稔 受益者連続信託については、遺留分減殺請求が可能なのは、最初の受益権の移転だけであって、2度目、3度目の受益権の移転には減殺請求ができないと思うのですが、これが可能という解説があります。 M 仮に、妻を第1次受益者として、先妻の子を第2次受益者とする受益者連続信託なら、遺留分減殺請求ができるのは第1次受益者への移転のみです。第2次受益者への移転は、@委託者からの移転であって、A第2次受益者からの移転ではないので、第2次受益者の遺留分権利者が登場する余地はありません。立案担当者も、そのように語っています。 S 立案担当者というのは、信託の立案担当者ですか、民法相続編の改正の担当者ですか。 H 信託法の担当者で、孫引きですが、次のような解説があります。 「立法過程では、委託者が死亡し、第1次受益者による受益権の取得の段階でのみ遺留分を考えるべきと説明されている。…… 第1次受益者たる妻の死亡時に第2次受益者である長男に受益権が移転するとしても、そこには妻から長男への相続を観念しないということである」。 W 第1次受益者に対して遺留分減殺請求をする場合に、受益権の評価が難しいという議論もありました。第1次受益者は、制限された受益権しか取得しないので、第1次受益者と、第2次受益者の利益を合わせて評価しなければならないという意見です。 S 評価は簡単でしょう。受益者連続信託は、複層化した信託ではなく、第1次受益者が100%の受益権を取得する信託です。仮に、私の妻に預金1億円を相続させる。妻の死亡時に余っているものがあれば長男に相続させる。それを信託で実現したのが受益者連続信託です。 T 信託でなければ制度が構築できないのですね。これが単純な遺言だったら、妻が相続した1億円は妻の固有財産と混ざってしまう。妻死亡時に残っている部分が特定できません。しかし、信託なら1億円の現金を持つのは受託者なので妻の固有財産とは混ざりません。 W 現金であれば制限はかからないが、賃貸用不動産ならどうでしょう。仮に、第1受益者は家賃は収受できるけれど、不動産の売却代金を受け取ることはできない。不動産の売却代金にありつけるのは最終受益者のみです。これだと第1次受益者の受益権の評価は難しい。 S それは複層化した信託です。第1次受益者が収益受益権を取得し、第2受益者が元本受益権を取得します。ただ、その場合でも、税法上は収益受益権を取得した者が100%の受益権を持つとして課税関係が整理されています。いわば節税防止税制です。 関根 稔 税法が登場すると、途端に難しくなりますが、信託法と民法相続編だけであれば、遺留分の理屈は簡単に説明できそうです。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年11月1日現在 |
06 債務超過会社へのDES 関根 稔 債務超過会社に対してデット・エクイティ・スワップ(債権の現物出資)を実行したところ、税理士から「DESによって会社に債務消滅益が認識され、法人税が課税される」と指摘され、債務消滅益の発生を前提にする法人税の修正申告書を提出した。そのような裁判例が紹介されましたが、債務超過会社にDESしたら、本当に債務消滅益課税が行われると考えますか。 H 平成18年の改正税法の公式見解では、債務超過会社へのDESでは、債権の時価と債権額の差額に債務消滅益を認識すると解説しています。 W 条文上の根拠は法人税法施行令8条1項1号、同119条1項2号です。「給付を受けた金銭以外の資産の価額」を資本金等の額の増加額としてます。つまり発行会社は資本金等の増加額と債務額の差額の債務消滅益を得たことになります。 M 債権の時価を、どのように評価するのか。仮に、銀行からの借入金に抵当権が設定されていた場合は、それに劣後する債権として評価するのか。会社の経営の為に社長が注ぎ込んでいた貸金を資本に振り替えた場合に、債務消滅益課税をすることなど、常識で考えればあり得ません。 S サービサー経由の債権の譲渡があった場合を想定しているのだと思います。仮に、銀行が会社に1億円を融資していた。それをサービサーに300万円で譲渡し、それが社長に500万円で転売された。社長が債権を持っていると相続税では1億円と評価されてしまう。そこで、債権を会社にDESしてしまう。そのような場合の課税関係ではないかと。 H そのように思います。従前は何の課税もしませんでした。しかし、銀行が債権譲渡損を計上するのに、その見返りの債務消滅益が発生しない。そのような課税関係を悪用し、債務は存しないが、青色欠損金を持つ会社が作り出され、その会社が転売されるようになった。 S サービサーなどを経由して債権の時価が明らかな場合と、それを許したら租税回避になってしまう場合のDESに限っての債務消滅益課税です。 K 債務超過会社にDESをした事案について、調査の現場でのやり取りを聞いたことがあります。課税することは考えていないというのが税務署側の見解だったそうです。たんなる現場の一事例ですが。 関根 稔 この事例では、税理士の指導で修正申告をして受理されています。課税庁も、修正申告が提出されれば、あえて、それを不要だとは指導しない。その結果、最初にDESをアドバイスした税理士が損害賠償請求を受けています。事案の詳細は判決が公表されていないので不明ですが、まさに、怖い事案です。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年10月21日現在 |
05 相続した株式を会社に売却したら 渡邉雄一 相続した株式を、相続税の申告期限から3年以内に会社に売却する場合の相続税の取得費加算(租税特別措置法第39条)と、みなし配当の特例(租税特別措置法9条の7)ですが、これは相続税の申告期限前の譲渡でもokですね。 K 2つの特例とも、条文が「相続の開始があつた日の翌日から」としてますのでokです。 S 取得費加算の場合は、当然、相続税が生じていることが必要ですし、配当所得の特例の場合も、「納付すべき相続税額があるもの」が条件ですが、遺産が未分割の段階では、自分が負担する相続税額は未確定です。このような状態でも適用が可能でしょうか。 K 相続税の申告期限後に所得税の申告期限が到来すれば、所得税の申告に相続税額を取り込めますが、逆に、所得税の申告期限の方が、相続税の申告期限より先に到来してしまう場合は困ります。 M みなし配当の特例の場合は、「会社に譲渡する時までに」会社に対しての届出(租税特別措置法施行令5条の2第2項)が必要になりますから、その時点では相続税額の負担が決まっていない場合があります。 K その場合は、相続税額の見積額(租税特別措置法施行令5条の2第2項2号)を届け出ることになりますし、取得費加算の場合は、所得税の申告期限までに、相続税額が確定していることが要求されています(措置法通達39−1)。 W この2つの特例を利用し、その後、遺産分割をした場合は、当然、修正申告と更正の請求がセットでしょう。まず、取得費加算については、相続税額が増加した更正の請求と、相続税額が減少した場合の対応(租税特別措置法施行令25条の16第2項)が準備されています。 S 配当所得の特例は如何でしょう。会社は配当所得としての株数プロラタによる利益積立金と資本金等の額の按分計算を行なってますが、配当所得としての源泉徴収は行なってません。発行法人は買い取り代金を支払ってしまうので、その後、相続人の事情によって相続税の負担がないという事実が出現しても、会社側の源泉徴収は不可能です。 渡邉雄一 「みなし配当課税の特例に関する届出書」の記載要領には、「譲渡人の納付すべき相続税がゼロであることが、届出書の提出後に判明した場合にも、みなし配当課税を行うことになります」と解説されてます。しかし、遡及的に源泉徴収義務が生じるとは考えられません。会社の源泉徴収義務は免除されるが、しかし、株主(売主)に対しては配当所得課税が行われてしまう。そのような作りなのだと思いますが、条文上の手当が見つかりません。実務での答えが待たれるところです。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年10月11日現在 |
04 同族会社事業用宅地の立法趣旨 佐野 隆 父親の土地を借りて、子が建物を建てコンビニを経営していた。 子が生計一なら良いが、別生計の場合は事業用宅地の特例が受けられない。これは家業の保護としては気の毒ではないか。 K 居住用宅地の場合も、生計一の親族は保護されるが、別生計の場合は保護されない。相続時点で判断するのが小規模宅地なので、相続時点において事業と被相続人の繋がりが切れていれば仕方がないのではないか。 H しかし、子の事業が法人経営だった場合は、社長が被相続人と生計一か否かを問わず、同族会社事業用宅地の特例が利用できる。税理士は、このような事例では法人成りを指導すべきです。 S なるほど。生計別の子が社長だったとしても、会社の敷地は同族会社事業用宅地になる。長寿化の時代、親に相続が開始するころには、子は50代、60代で別世帯を構えている場合が多い。 K 会社経営の場合でも、@被相続人の所有地、あるいは建物を法人に有償で貸している場合はokだが、Aそれらを無償で会社に貸している場合はダメです。不思議なのは、なぜ、ここで土地建物の有償の貸与が小規模宅地の要件に登場するのか。それも法律ではなく租税特別措置法基本通達69の4−23に有償であるという要件が登場すること。 H あくまでも土地が主人公だからです。個人でコンビニを経営する場合は、敷地を利用してのコンビニの収入が被相続人と生計一親族の生活の糧になる。会社を経営する場合は、会社の収益ではなく、会社が支払う地代家賃が被相続人と生計一親族の生活の糧になる。 S 居住用宅地や事業用宅地の場合は被相続人と生計一親族の土地の利用が保護されます。しかし、同族会社事業用宅地の場合は、法人の土地の利用が保護されるのではなく、法人から支払われた地代家賃が、被相続人と生計一親族の生活の糧になっていることが保護されるのです。 H 相続の直前において会社の持株割合が50%を超えることや、相続税の申告期限まで、土地を相続した者が法人の役員であることなどは、貸付事業用宅地ではなく、同族会社事業用宅地としての割り増しの減額を認めるための要件なのですね。基本は地代家賃が生活の糧になっていることが保護の対象だと。 佐野 隆 小規模宅地特例の保護法益は、あくまでも土地であって、コンビニや、同族会社の経営ではない。ただ、貸付事業用宅地と異なり、その地上で事業が営まれていることから減額率を割り増しにしている。しかし、主人公が土地の利用(賃貸)であることは制度の趣旨から譲れない。そのような立法趣旨ですね。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年10月1日現在 |
03 役員退職金の分割支給と年金課税 本村昌子 役員退職金を分割で支給する場合に、5年を超えて分割支給すると年金扱いになってしまう。受取側は雑所得になるようですが、具体的にはどのように課税されるのでしょう。 K 公的年金でしょう。所得税法35条の雑所得として「恩給(一時恩給を除く)及び過去の勤務に基づき使用者であつた者から支給される年金」としています。 S 役員退職金は、「株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度」の損金に計上するのが原則(法人税基本通達9−2−28)です。その場合なら、仮に、退職金が10年分割で支払われた場合も、年金ではなく、退職金の分割払いでしょう。 T なるほど。通達が例外処理として認めている「退職給与の額を支払った日の属する事業年度」に損金経理をするという方法を選択し、それを悪用した場合は、受給者側について年金と認定されてしまう。 S そうですね。年金と認定されてしまえば、年金総額を未払金計上しても、一括しての損金処理は認められません(法人税基本通達9−2−29)。 会社が総会決議日に一括して損金処理 = 退職所得 会社が支払日に分割して損金処理する = 雑所得(年金) W 退職金を分割支給し、任意の時期に、任意の金額を支払えることにしたら、退職金を利益調整に使えてしまいます。定期同額給与や事前確定届出給与で利益調整を防止しているのに、退職金の分割支給を利用すれば脱法できてしまう。その場合でも、受給者は退職所得としての優遇が受けられるのは不合理です。 H 代表者の退職に際して、退職金を分割支給し、法人は利益調整をしながら、受給者は退職所得として優遇を受けられる。それを防止するのが制度趣旨といわれてしまえば反論できません。 E 退職金を一括して損金計上し、源泉徴収も完了した上で、支払額について金銭消費貸借契約を締結し、その後に分割弁済をすればokと解説されています。そのような処理が認められるのであれば、金銭消費貸借を経由しなくても退職金の分割支給が認められるべきです。 H 総会決議日の損金を原則としながら、その後の支払日の損金処理も認める。そして5年を超えた分割払いは年金だとする解説が残っている。やはり、この辺りは通達で明記して貰わないと不安ですね。 本村昌子 退職金が年金扱いされたら大変です。会社には、やはり、一括支給をアドバイスします。仮に、分割支給になるのなら金銭消費貸借の利用ですね。実務は安全が第一ですから。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年9月21日現在 |
02 家なき子と特例の立法趣旨 佐野 隆 家なき子特例には「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く」という一文がある。つまり、相続開始前3年以内に相続人か、その配偶者の所有する家屋に居住していた場合はダメだが、それが被相続人と同居していた家屋ならokとしている。 M なるほど。母親の所有地に息子がマイホームを建築し、母親と息子が同居していた。 ところが、息子が大阪に転勤することになった。そのような場合ですね。3年以内に息子は自己所有の建物に居住しているが、家なき子になる。 K 母親と息子の同居は要件ではないでしょう。息子が大阪転勤になったので、その留守宅に母親が住むことになった。そして、大阪転勤中に母親に相続が開始した。その場合でも、息子は家なき子です。母親を留守宅に住まわせるという親孝行をしたことに対するプレゼントです。 S 課税庁の職員は、どこまで先を読んでいるのだろう。私達は要件で小規模宅地特例を理解しているが、課税庁の職員は、どのような立法趣旨で小規模宅地特例を構築しているのか。 T 「戻る実家の保護」。それが家なき子特例の立法趣旨ですね。 N あれっと思ったのは、実はこの息子、相続開始から3ヶ月後に自宅マンションを購入している。「戻る実家の保護」という立場からは、相続後に自宅マンションを購入することは制度の趣旨に反するのではないか。しかし、これについて適用除外という規定はなさそうです。 T 家なき子特例では実際に居住することは要求されません。相続税法が要求するのは、相続税の申告期限までの10ヶ月に限る。税法は10ヶ月を超えての義務を監視することができないという理由なのか。いや、違いますね。おそらく、10ヶ月時点で正しかった税務申告が、その後の事情で違法になるのは不合理という理由ですね。 N なるほど。10ヶ月以内に居住することが命じられないのなら、3ヶ月以内の居住を命じることもできない。だから、実家に戻らず、相続後にマイホームを取得しても、家なき子であることが否定されない。 佐野 隆 家なき子特例の立法趣旨は「戻る実家の保護」なのですね。だから、実家に居住する親族がいる場合は家なき子特例が利用できない。しかし、家なき子が実家に戻る時期までは義務付けられていない。だから、相続直後に別にマイホームを取得した場合も、家なき子であることは否定できない。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年9月11日現在 |
01 受益権の譲渡と自己株式の特例 白井一馬 株主が株式を信託譲渡して受益権に変えていた場合に、株主の相続後に、発行会社が受益権を買い取った場合も、相続税の申告期限後3年内の自己株式のみなし課税の特例(租税特別措置法9条の7)が利用できるのか。 K 会社法の理解では、自己株式の買い取りとは異なるので、受益権を買い取るについて株主総会(会社法162条)を省略することができてしまう。配当可能利益の範囲内での自己株式の取得という制限(会社法461条)も発動しない。受益権の取得が、そもそも会社法で許される行為なのか。 M 会社法は受益権の譲り受けを想定していないように思う。仮に、議決権が受託者に委託されていた場合は、自己株式について議決権が行使されてしまう。 K ただ、税法上は、そのような権利についても課税関係を構築しなければならない。受益権が第三者に譲渡された場合は、株式の譲渡(所得税法13条)として有価証券譲渡所得課税なのだから、会社に対する譲渡であっても税法上は株式の譲渡ではないか。 M しかし、その場合でも、自己株式の譲渡として配当所得になるとは思えない。議決権が受託者に留保されたら、株主権が消滅してしまう自己株式の取得に矛盾する。 S すると、会社に対して受益権が譲渡された場合は、それが相続税の申告期限から3年という制限内であるか否かに関わらず譲渡所得ということになるのか。それを認めたら、配当所得課税を譲渡所得課税に入れ換える租税回避を許してしまう。 H その後、受益者としての会社が、信託終了時に自己株式を取得する。その場合は、借方は自己株式で、貸方は受益権という単純な仕訳になるだろう。つまり、自己株式を取得したのに配当所得課税が行われないという租税回避になってしまう。 T 逆に、受託者が、受託された株式を、信託の趣旨に従って会社に譲渡した場合は、有価証券譲渡と考えて良いか。 S そのように思う。受託者が行った株式の譲渡の効果は受益者に帰属するので、受益者に対して有価証券譲渡所得課税が為される。つまり、相続税の申告期限後3年内の自己株式の譲渡所得の特例が利用できる。 白井一馬 信託受益権は、税法上、信託財産の譲渡と同じとみなされる(所得税法13条)という税法の理屈と、私法上の所有者は受託者であって、受託者が信託財産である株式を会社に譲渡するという2つの場合に、有価証券の譲渡という事実が認識される。しかし、それを発行会社に対する自己株式の場合に当てはめようとすると矛盾が生じてしまう。上手に整理されている信託の課税関係だが、自己株式の取得との関係では、さらに整合性を検討すべき課題が残っていることが分かった。 (文責 税理士・公認会計士・弁護士 関根稔) 2016年9月14日現在 |