平成16年11月20日改訂
 平成16年11月21日改訂
 平成18年 6月 5日改訂


第4条(資料の提供)
 申告間際に書類を持ち込まれ、時間のゆとりがない処理であっても、そこでミスを出せば税理士の責任です。この責任を回避する方法は存在しませんが、せめて、言い訳、あるいは抗弁として提出できる切っ掛けを作っておくべきと考え、1ヶ月のゆとりを持った書類の提出を確認しています。

第4条(元資料の作成)
 架空の棚卸表、あるいは水増しした売掛残高表をもって粉飾が行われることがあります。倒産等の際に、債権者から、その粉飾が税理士の責任だと言われないための予防策です。

第6条(事前の報告)
 税理士賠償保険の適用事例の8割は消費税です。この怖さを、依頼者と共に税理士も確認すると意味の条項です。

第7条(特例などの選択)
 各種の特例の選択は、「節税」と「リスク」の選択でもあります。リスク回避のために選択した手法について、後に、節税との視点で批判される場合があります。そのような事態に備え、「善良なる管理者の注意義務」を、「自己の財産におけると同一の注意義務」にまで引き下げる「とっかかり」を書き込んでおきました。

第8条(申告書類などの検証)
 例えば、賃貸アパートの賃料収入の計上漏れについて、これが税理士の責任だと委嘱者に責められているとの事案の相談を受けたことがあります。確かに、預かった通帳には入金の事実が記載されているのですが、しかし、収入が計上漏れになっているか否かなどは、納税者にとっては自分の収支ですので、申告書を見れば簡単にわかるはずです。納税者は、承知の上で脱税をしたのではないかと疑いたくなる行動ですが、しかし、このように主張されると弱いのが専門家です。そこで最終のチェック責任は委嘱者にあることを確認するための条項をおきました。

第9条(申告後の申告書類の検証)
 税務申告書に税理士が署名押印を代行することがあります。これは絶対に止めて欲しい処理です。自分が知らないのに税理士が勝手に提出したと主張した事例の相談を受けたことがあります。それが嘘であることは明らかなのですが、しかし、署名押印を代行している場合は、税理士も手を汚しているとの意味で、きれい事だけで判断する裁判所を説得し難いのも事実です。しかし、申告期限が迫っている場合などは建前だけでは処理できません。そこで、そのような事態が生じた場合も、その後に申告書を郵送(書留郵便)し、それを委嘱者が受け取っている場合は、その段階での最終チェックは委嘱者の責任との条項を加えておきました。その段階での委嘱者から苦情があれば、修正申告書の場合を除き、更正の請求で対処できたはずとの抗弁を可能にするためです。

第10条(登記などの処理)
 何から何までを税理士に依頼したと誤解する委嘱者がいます。もちろん、役員変更登記や業法の届出まで受任しても良いのですが、仮に、これを受任しなかった場合には、そこで誤解が生じないように記載しておくことにしました。

第11条(契約期間)
 契約終了時に、税理士に対する責任追及の資料集めと思えるように執拗な資料の引き渡しを請求する事案があります。そのような事案に備えての条項です。



 税理士の免責条項は書き込んでありません。一般包括的な免責条項では専門家は免責されないというのが法律的な理解ですし、それに、受任段階で、免責条項をまき散らした契約書を利用することは困難でもあり、また、無責任に見えてしまうことが多いと思います。そこで、一般的な免責条項ではなく、「確かな仕事をするためにはお互いの協力が必要」とのスタンスの責任分担契約書にしたわけです。

 トラブルを扱っている弁護士が作成した契約書ですので、各々の条項の意図を説明しますと、委嘱者との信頼関係を前提にする税理士顧問契約としては陰険すぎるとの印象を持たれるかもしれません。しかし、「俺に任せておけ」との時代ではないことと、いざというときの契約書であることをご理解頂ければ、陰険さも必要なファクターであることを理解して頂けると思います。


 通常の税理士業務については、仮に、依頼者との間に免責の合意をしていたとしても、その合意によって税理士が免責されることはないと考えるべきです。医者が患者から取得する手術の免責文書(静岡地裁浜松支部昭和37年12月26日判決)と同じであり、そのような合意によって専門家を免責させていたのでは、専門家制度の意味がありません。

 免責条項について、契約自由の原則、あるいは民法420条の損害賠償額の予約を根拠にして、税理士の場合も免責の合意が認められると主張する論がありますが、これは訴訟手続に於いて採用される主張とは思えません。契約自由の原則によって免責の合意が認められるのなら、真っ先に弁護士が利用しているはずです。民法420条は、損害額の算定の困難さを救済するための条文であって、損害賠償額を制限するための条文ではありません。

 しかし、節税スキームについては免責の合意が認められる可能性があります。そのことを判断したのが千葉地裁平成12年3月27日判決で次のように判断しています。

 そもそも節税対策であることの認識がある以上、それが功を奏して他の法形式を選択した場合よりも税金の点で利益を享受することがある反面、場合によっては期待するような節税効果があげられないことのあり得ることも当然に想定すべきものである。

 つまり、節税スキームである以上は、《1》それが功を奏して他の法形式を選択した場合よりも税金の点で利益を享受することがある反面、《2》期待するような節税効果があげられないことのあり得ることも当然に想定すべきものであって、それは錯誤の範疇の問題ではないとの判断です。

 この理屈を契約書上の免責文言にすれば、次のように表現されることになります。

 第×条(節税スキームについての特約)
 節税手法についてのアドバイスは、他の法形式を選択した場合よりも課税面で有利な結果が享受できることを目的に行いますが、法令、あるいは税務通達などの税務実務の変更や、予想したところと異なる法律解釈、その他の理由によって、予定した節税効果が受けられない場合があり得ます。さらには、意図したのとは逆に、予想しない不利益な課税を受ける可能性も皆無ではありません。節税スキーム(税額軽減を意図して行う取引など)は、このようなリスクを理解した上で実行されるものとします。


 法律上は無効な約定であっても、契約として合意した事項であれば、通常の契約当事者は、その合意を尊重します。その趣旨で作成した契約文言を参考に紹介します。

 第×条(免責条項)
 税理士の過失によって委嘱者が過大な税金を負担し、あるいは過少申告加算税などが賦課される等の損失を被った場合でも、税理士は、直近2年分の顧問料相当額(会社法427条で定めることができる会計参与又は会計監査人の責任限度額)以上の賠償義務を負わないものとします。ただし、税理士に故意がある場合には税理士は免責されません。


 会社法427条は、取締役だけではなく、専門家である会計参与と会計監査人についても、損害賠償額を年間報酬の2倍に限定するという制度を導入しました。善意でかつ重大な過失がない場合、つまり、過失責任の場合は免責されます。これは、専門家については責任限定契約を認めないとする従前の法解釈に反する制度です。

 会社法が、そのような思想を導入したのであれば、専門家が締結した責任限定契約が認められる可能性も皆無とはいえません。少なくとも、交渉の拠り所になります。そこで、上記のような契約条項を考えてみました。

 第×条(賠償保険)
 税理士の過失によって委嘱者に損失を与えてしまう場合に備え、税理士は限度額×億円の税理士賠償保険に加入するものとします。なお、税理士の責任は賠償保険で填補される金額に限るものとし、賠償保険では免責の対象とされ、保険給付の対象にならない損害については、税理士は賠償の責を負いません。ただし、税理士に故意がある場合は税理士は免責されません。