被合併法人等の未処理欠損金額の引継ぎ


 共同事業を行うための再編成であれば全ての繰越欠損金の利用がok。グループ内の再編成の場合でも、グループ化してから5年を経過していればok。しかし、グループ化してから5年に満たない場合は、みなし共同事業要件を充足している場合を除き、グループ化する前の繰越欠損金は利用できない。

● 基本的な取り扱い

 原則1 合併法人(存続会社)の青色繰越欠損金は、合併後も利用することができる(従前からの取り扱い)。
 原則2 適格合併等の場合は、被合併法人(消滅会社)の青色繰越欠損金も、合併会社で引き継いで利用することができる。

 適格合併等(適格合併又は合併類似適格分割型分割)が行われた場合に、被合併法人等に未処理欠損金があるときは、当該未処理欠損金は、合併法人等の合併等事業年度前の各事業年度に生じた欠損金とみなして合併等事業年度以後の各事業年度において繰越控除する。

 Q2 合併類似適格分割型分割とは、「資産及び負債の全部が当該分割型分割に係る分割承継法人に移転」することが要件になっている。しかし、これが利用される場合は、a会社が債務超過なので、それを解散し、別のb会社を設立する場合ではないかと思うが、その場合も「資産及び負債の全部」を承継する必要があるのか。

● 原則1の制限

 適格合併、適格分割又は適格現物出資の場合に、支配関係が作られたのが5年以内の場合は、存続会社の青色繰越欠損金も使えなくなってしまう。

 法人と特定資本関係法人との間で当該法人が合併法人等(合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人)となる適格合併等(適格合併、適格分割又は適格現物出資)が行われ、かつ、その特定資本関係法人との特定資本関係が当該法人の合併等事業年度開始の日の5年前の日以後に生じている場合において、その適格合併等がみなし共同事業要件を満たす場合を除き、当該法人の次のイ及びロに掲げる欠損金は、合併等事業年度以後の各事業年度においてはないものとされる。
 イ 特定資本関係事業年度前の事業年度に係る繰越青色欠損金額
 ロ 特定資本関係事業年度以後の事業年度に係る繰越青色欠損金額のうち特定資産譲渡等損失相当額から成る部分の金額


 Q1 消滅会社については適格合併等に限るが、存続会社については「適格合併、適格分割又は適格現物出資」の3つの場合が問題になるのか。

 Q3 存続会社の繰越欠損金の制限は、適格合併だから問題になるのであって、被適格なら問題にならないのか。そうだとすれば、適格要件を備えている場合に、これを非適格と自己否認することって可能か。

 Q4 100%の持分関係にあるとの要件で適格合併になった場合について、3年前は70%の持分だっとの場合でも、5年間の青色欠損金は使えるのか。

● 原則2の制限

 5年内に支配関係を作った場合は、支配関係が作られる前の消滅会社の青色欠損金を承継することはできない。

 適格合併等(適格合併又は合併類似適格分割型分割)に係る被合併法人等と合併法人等との間に特定資本関係があり、その特定資本関係が合併法人等の合併等事業年度開始の日の5年前の日以後に生じている場合において、その適格合併等がみなし共同事業要件を満たす場合を除き、未処理欠損金には次のイ及びロの金額は含まれない。
 イ 被合併法人等の特定資本関係事業年度前の事業年度に係る未処理欠損金額
 ロ 被合併法人等の特定資本関係事業年度以後の事業年度に係る未処理欠損金額のうち特定資産譲渡等損失相当額から成る部分の金額


● 同趣旨の規定(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)

 適格合併、適格分割又は適格現物出資が行われた場合には、存続法人及び消滅法人が特定資本関係発生日前から所有していた資産について、合併後3年内に譲渡したことにより生じた譲渡損失の金額は損金には算入できない。

 「原則1の制限」に掲げる適格合併、適格分割又は適格現物出資が行われた場合において、特定資本関係が合併等の日の属する事業年度開始の日の5年前の日以後に生じているときは、その適格合併等がみなし共同事業要件を満たす場合を除き、適用期間において生ずる特定資産譲渡等損失額は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上の損金に算入しない。




注1 合併類似適格分割型分割

 合併類似適格分割型分割とは、適格分割型分割のうち次に掲げる要件のすべてに該当するものをいいます(法法57(2)、法令112(2))。

 1 分割法人の分割型分割前に営む主要な事業が分割承継法人において分割型分割後に引き続き営まれることが見込まれていること。
 2 分割法人の分割型分割の直前に有する資産及び負債の全部が分割承継法人に移転すること。
 3 分割法人を分割型分割後直ちに解散することが分割型分割の日までに分割法人の株主総会又は社員総会において決議されていること。


注2 特定資本関係

 特定資本関係とは、次の(1)又は(2)の関係をいいます(法法57(3)、法令112(3))。

 (1) 二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の総数の50%を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係
 (2) 二の法人が同一の者(その者が個人である場合には、その個人及びこれと特殊の関係のある個人)によってそれぞれの法人の発行済株式等の総数の50%を超える数の株式を直接又は間接に保有される関係
 なお、上記(1)又は(2)の直接又は間接の保有関係にあるかどうかの判定については、直接保有の株式の保有割合と間接保有の株式の保有割合とを合計した割合により行うこととされています(法令112(4)(5))。


注3 みなし共同事業要件を満たす場合

 適格合併、適格分割又は適格現物出資のうち、次の1から4までに掲げる要件又は1及び5に掲げる要件に該当するものをいいます(法法57(3)、法令112(6))。なお、共同で事業を営むための適格合併の概念とは微妙に要件が異なります。

 1 被合併法人から引き継ぐ事業と合併法人の事業とが相互に関連するものであること。
 2 被合併法人から引き継ぐ事業と合併法人の事業の売上金額、従業者の数、資本の金額又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと。
 3 合併法人から引き継ぐ事業が、特定資本関係の生じた時から合併の直前まで継続して営まれており、かつ、特定資本関係発生時と合併等の直前における当該事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと。
 4 合併法人の事業が、特定資本関係が生じた時から合併の直前の時まで継続して営まれており、かつ、特定資本関係発生時と合併の直前の時における当該事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと。
 5 被合併法人の合併の前における特定役員である者のいずれかの者と、合併法人の合併の前における特定役員である者のいずれかの者とが合併の後に合併法人の特定役員となることが見込まれていること。


注4 適用期間


 適格合併の事業年度開始の日から同日以後3年を経過する日までの期間をいう。なお、その経過する日が特定資本関係が生じた日以後5年を経過する日後となる場合にあつては、その5年を経過する日。


注5 特定資産譲渡等損失額


 1 特定資本関係法人(消滅法人)から特定適格合併等により移転を受けた資産で、特定資本関係法人が特定資本関係が生じた日前から有していたものの譲渡、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由による損失の額の合計額から特定引継資産の譲渡又は評価換えによる利益の額の合計額を控除した金額
 2 内国法人(存続法人)が特定資本関係発生日前から有していた資産の譲渡、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由による損失の額の合計額から特定保有資産の譲渡又は評価換えによる利益の額の合計額を控除した金額



Q1 消滅会社については適格合併等に限るが、存続会社については「適格合併、適格分割又は適格現物出資」の3つの場合が問題になるのか。

A その通り。このことについての次のような解説がありました。
 法人税法57条6項に、親子会社間で適格分割を行った場合には、みなし共同事業要件というものを満たしていなければ、親会社が保有していた繰越欠損金が使えなくなるという規定があります(企業組織と租税法 別冊商事法務252号106頁)。
 これは繰越欠損金を抱えた会社に、含み益を持つ資産を取り込んだ上で売却し、繰越欠損金で相殺するとの処理を防止することを念頭においているとのことです。
 つまり、繰越欠損金10億円を抱えた会社が、10億円の含み益を持つ資産を吸収分割、あるいは現物出資で受け入れる。その後に資産を売却し、繰越欠損金と相殺するとの手法です。


Q2 合併類似適格分割型分割とは、「資産及び負債の全部が当該分割型分割に係る分割承継法人に移転」することが要件になっている。しかし、これが利用される場合は、a会社が債務超過なので、それを解散し、別のb会社を設立する場合ではないかと思うが、その場合も「資産及び負債の全部」を承継する必要があるのか。

A これは「資産及び負債の全部」を承継する必要がありますので、倒産処理には使えない特例です。


Q3
 存続会社の繰越欠損金の制限は、適格合併だから問題になるのであって、被適格なら問題にならないのか。そうだとすれば、適格要件を備えている場合に、これを非適格と自己否認することって可能か。

A 不可能。次のような解説がありました。
 適格再編成とされたならば、必ず簿価での承継をしなければならないということであり、選択判断により適用が出来ると言うことではなく、強制されるものである(組織再編成税制の実務ガイダンス 中央経済社7頁)。
 第1の議論として、非適格であったものを適格としてそれで譲渡益の課税を免れたという例が、この規定(行為計算否認)の対象となるということは異論がないでしょう。逆に、今回の事例のように、非適格にしたものを適格に戻すという形の場合に、そもそも132条の2が適用されるのかどうかという議論があります。ただこの点は、条文を読むかぎり、非適格を適格に戻すことをことさら除いている文言がないので、包括否認規定の射程範囲内である、という前提で議論をすることとなりましょう(企業組織と租税法 別冊商事法務252号111頁)。


Q4
 100%の持分関係にあるとの要件で適格合併になった場合について、3年前は70%の持分だっとの場合でも、5年間の青色欠損金は使えるのか。


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