商法は、ここ数年で9回の改正になりました。そして、これら改正の集大成として、会社法現代化の作業が進められています。平成16年12月には、会社法(現代化関係)部会が「会社法制の現代化に関する要綱案」を完成しました。これが総会の決議を経て確定することになりますが、これと並行して、要綱案を条文化する作業が進められています。
条文化は、また、大変な作業だと思いますし、条文が完成しないと具体的な内容が確定しないところがあるのですが、今回は、条文化する前の要綱案から想像するところで、会社法の制定後は、どのようなイメージの社会になるのかを説明してみます。条文化前の要綱案からの想像ですので、小さなところでは私の説明に勘違いがあるかもしれません。今日は、大きなプロフィールということでご理解ください。
現在、商法には、総則、会社法、商行為法、海商法が載っているのですが、海商法は一般は利用しませんので、総則、会社法、商行為法が商法のメインになっています。
商法というと、商売の法律のように感じますが、商売の法律として利用されるのは商行為法だけであって、大部分は、会社法という組織法、つまり、誰が偉く、誰が脇役かということを決めている法律です。改正法は、その中から総則と会社法を抜き出してしまいます。ですから、商法はどうなってしまうのかというと、総則がなくなり、会社法がなくなって、商行為法だけになってしまうわけです。そうなりますと、商法という法律はなくなってしまうのではないかと思います。そして、新しく作られる会社法は、商法の会社法だけではなくて、有限会社法を取り込んでしまうことになります。
つまり、《1》商法から会社法部分を取り上げてしまう。そして、《2》有限会社法を会社法に取り込んでしまう。さらに、《3》譲渡制限会社には有限会社法理を適用する。これが会社法の基本的な思想になっているわけです。
大企業について認められている委員会設置会社を無視しまして、私どもがお付き合いする中小企業を想定しますと、まず、税理士が会社の設立を依頼された場合には、最初に会社の種類を選ばなければなりません。
どういう会社の種類があるかといいますと、まず、株式会社です。これは有限責任です。有限責任というと、責任があるようですが、実際には出資を完了した後は責任はありません。ですから、有限責任会社というよりも、無責任会社ということになります。
次に合同会社という会社類型が認められることになりました。これも有限責任の会社です。さらに、現在の商法にある合資会社と、合名会社があります。そして、有限会社も残ります。しかし、現在、存在する有限会社が永久に残るだけで、新たに有限会社を設立することはできません。
そこで、会社法の制定後の会社設立についてイメージしますと、有限会社と株式会社の住み分けがなくなります。今まででしたら有限会社になる零細企業も、全て、株式会社になるのですから、株式会社と名乗っている会社でも、社会が見る目は、有限会社レベルの信用度まで落ちてしまうと思います。
いま現在は、有限会社があり、それよりもしっかりした会社として株式会社があります。株式会社を設立するには2年に一度の役員変更登記の費用を負担する覚悟が必要です。その意味で、有限会社は役員変更登記の費用も節約する会社だというイメージで見られています。しかし、会社法の成立後は、株式会社と言いましても、その意味は有限会社と同じになってしまいます。
次に、合同会社という新しい会社類型についてイメージを考えてみます。合同会社は有限責任です。つまり、株式会社と同じ無責任会社です。では、株式会社とどこが違うのか。
社員は1人でもokで、社員の氏名や出資額は登記されません。社員の入社や社員持分の譲渡には全ての社員の同意が必要です。社員の全員が業務執行権限を持ちます。ただし、定款で社員の一部の者を業務執行者とすることも可能です。法人が社員、あるいは業務執行者になることも可能です。業務執行者の氏名は登記事項です。配当の財源規制は株式会社と同様です。有限責任ですから、配当についても、株式会社と同じ制限に服するわけです。社員は退社することができますし、払い戻しも請求できます。ここは株式会社と異なるところです。株式会社の株主は退社できません。
株式会社との合併が可能で、合資会社、合名会社、あるいは株式会社への組織変更が可能です。定款の変更は社員の全員の一致が必要とされます。出資は現金、あるいは資産に限り、労務、信用の出資は認められません。これが合名会社と異なるところです。
しかし、合同会社の内部規律は、合資会社や合名会社の内部規律と同一とされます。つまり、中身は合名会社、あるいは民法上の組合のような関係になるわけです。したがって、3人が集まって合同会社を作りましたら、3人が一致しなければ何もできないわけです。業務は3人で一緒に執行しますが、3人の話し合いで、その中の1人を業務執行社員にすることも可能です。このように内部については組合法理が適用されますが、外部に対しては会社として対応します。有限責任の会社ですから、株式会社と同様で、社員は、出資する以上の責任を負いません。
合同会社について、何点かの疑問点を拾い出してみました。まず、社員持分の相続は認められるのか否かです。合名会社でしたら、社員の死亡は退社理由になります。合同会社についてはどうなのか。もし、社員権の相続が認められず、退社することになれば、相続税の課税はどのようになるのでしょう。
もっとも、医療法人で説明されていますが、死亡が社員の退社理由でも、その相続人が、即、入社し、出資持分を引き継げば、出資持分を相続したとの処理をすることが認められています。したがって、合同会社について、死亡が退社理由とされても、相続人が、即、入社するとの方法で、相続税法の問題は解消されると思います。そして、社員の死亡は退社理由になると思います。なにしろ内部の関係は組合法理に従いますので、誰が社員に加わるかについては全員の一致が必要だからです。
重要なのは税法がどのように対応するかです。つまり、パススルー課税を認めるか否かです。最初に提案されたときには日本型LLCといわれ、これが米国ではパススルー課税になっていると説明されていました。LLCが儲けた場合も、LLC、つまり、合同会社に法人税を課税するのではなく、出資者に所得税を課税するのだとの説明です。
ですから、3人が出資し、合同会社が3000万円を儲け、その利益配分割合が平等なら、各々は1000万円ずつの所得について、所得税を納めることになるわけです。したがって、法人格というのは、税法上は、あくまでも外形的、形式な存在にすぎないという制度を、日本にも導入しようとしたわけです。それが日本型LLCということで提案され、これが合同会社として導入されるものなのです。しかし、結局、合同会社が認められた後に、税法がどのようにフォローしてくれるのかというところが問題です。
私の予想では、パススルー課税、つまり、法人税を課税せず、所得税を課税するとの課税方法が認められるとは考えられません。しかし、法人税を課税せず、所得税を課税するという制度を、税法が認めてくれなかったら、合同会社は何のために導入された制度なのかが全く分からなくなってしまいます。
つまり、合同会社は有限会社と同じなのですから、わざわざ合同会社などという制度を作る意味がありません。
そもそも、日本版LLCといわれていましたが、米国の場合は、日本とは全く法制度が異なるわけです。アメリカでは、各州が一つの国です。ここが日本の県とは異なるわけです。ECにおけるフランスやドイツのような存在が、米国の各州なのです。そして、各々の州が、自分の州に企業を誘致するために、新しい組織体を作り、会社を誘致するわけです。そこの中の一つがLLCという制度です。
ただ、各州が勝手に制度を作っても意味がありません。というのは、それが連邦税制で認められないと、各州が制度を作っても誰も利用しないからです。一方、連邦税制も、各州のLLCについて課税を行うために、パススルー課税を認める要件を定める必要があります。そして、各州が、連邦税制が定めた要件を満たすように、各々工夫したLLCを作ります。そのような歴史があり、米国にはLLCが存在するのです。
そもそも、米国における法人格という概念は、日本でいう法人格とは異なるそうです。法人格自体が、日本のようにきっちりと区別されたものではないということです。その意味では、アメリカと日本の制度を比較して、議論しても、あまり歯車は合わないようです。
パートナーシップは構成員課税です。しかし、パートナーシップでは構成員が無限責任を負うことになってしまいます。そこで、無限責任ではなく、有限責任のパートナーシップを取り入れることを期待し、日本版LLCとして提案された制度が合同会社で、これが会社法には取り入れられるのですが、それが税法上、どのようにフォローされるかは全く分かりません。
パススルー課税、つまり、出資者の所得として課税し、法人には課税しないということだったら、今でも、それは簡単に行えることです。匿名組合契約を締結すれば良いわけです。一つの会社を設立し、それを営業者として、構成員各々は、組合員として匿名組合契約を締結すれば済むことです。営業者が行った商売の結果は、全て、組合員の所得として帰属することになります。新しく別の制度を作らなくても、パススルー課税は今でも可能だったのです。
さて、合同会社のイメージはどのようになるのか。恐らく、有限責任の合名会社というイメージになるように思います。有限責任との意味では有限会社と同じですが、業務執行は、委任契約に基づいて取締役に任されるのではなく、出資者の全員で行うという合名会社の業務形態になります。しかし、合同会社などという、社会に認知もされず、実体も不明な法人格を利用する経営者が存在するのかどうか。これは存在しないと想像します。
税法上の問題としては、合同会社に対する少数出資者の出資金の評価は配当還元価格になるのかどうか。といいますのは、例えば医療法人は、少数出資者であっても配当還元価格は利用できません。配当が禁止されているからだと思います。しかし、合名会社の場合は、退社が可能で、退社の際には出資持分の払戻請求権が認められるのに、純資産価格ではなく、配当還元価格による評価が認められています。
そうしますと、合同会社については、退社し、純資産価額相当の払い戻し請求権が認められるのにもかかわらず、配当が可能なことから、少数持分権者については配当還元価格が認められることになるのではないか。そのように思います。
次が合資会社です。これは今までと同じですが、一つ、二つ、プラスになった箇所があります。一つは、個人だけではなく、会社も無限責任社員になれるようになったこと。今は生きている人間でなければ無限責任社員になれないのですが、現代化法案では、会社も無限責任社員になれるとしています。しかし、会社が無限責任社員になるというのはどういうい意味なのか。つまり、合資会社が債務超過になり、出資者が無限責任を負う場合に、その社員が有限責任の株式会社だという理屈になってしまうわけです。個人の場合も、自分資力を超えた責任は負えませんので、株式会社が無限責任社員になっても同様だとの理解でしょうか。
さらに、合資会社は、合同会社、合名会社、株式会社への組織変更が可能になりました。いま現在は、合名会社や合資会社を株式会社に組織変更する方法が準備されていません。そのため、組織変更を行う場合は、合名会社は、まず、株式会社を子会社として設立し、その子会社に吸収合併をしてもらうとの方法で株式会社になるという手法を使います。
しかし、組織再編成税制で、これが危険な手法になってしまいました。といいますのは、合名会社が出資をして新たに株式会社を設立すると、いま設立された会社ですから、100%の支配関係は、今日1日しか存在しないわけですよ。そこで吸収合併させると、合名会社の繰越欠損金の引き継ぎができなくなってしまいます。繰越欠損金の引き継ぎは、5年以上前から50%超の直接又は間接の支配関係がなければなりません。これは含み損の承継の場合も同様です。
したがって、子会社を設立し、その直後に子会社に吸収合併された場合は、繰越欠損金が引き継げないということになってしまいます。組織再編成税制が導入される前は、合名会社や合資会社を、株式会社に吸収合併させ、組織変更するとの手法にはリスクがなかったのですが、組織再編成税制の導入以降は、リスクのある手法になってしまいました。したがって、合名会社の組織変更は、商法現代化法案が成立するのをまってから行った方が安全です。
次が合名会社です。合名会社の場合も、会社が無限責任社員になれることになりました。さらに、社員1名の合名会社が認められることになりました。現行の商法では、合名会社の社員が1名になった場合は解散理由です。しかし、社員1名の合名会社というのは、ある意味で矛盾です。例えば、株式会社が無限責任社員になり、そして合名会社の社員が1名の場合だったら、それは有限責任会社と同じことになってしまいます。そして、合名会社も、合同会社、合資会社、株式会社への組織変更が認められることになりました。
合名会社は無限責任ですから、会社が債務超過のときには、社員が無限責任を負うわけです。そういう会社が、株式会社に組織変更をしてしまったら、無限責任社員は、有限責任の株主になってしまうわけです。そうしましたら、債務超過になりそうな合名会社の場合は、早いところ株式会社に組織変更をしてしまうことが必要なのではないでしょうか。
ただ、無限責任の社員がいる合名会社が、有限責任の株式会社になってしまうのですから、そこでは債権者保護手続が必要になるのだと思います。債権者に組織変更の通知を発送し、「異議があれば申し出てください。債務は供託します」という手続が必要になるのだと思いますが、債権者保護手続というのは、それを受け取っても、大概は、意味もわからず放置しています。債務超過の合名会社で、個人責任を負いそうだなというときは、株式会社に組織変更し、さっさと逃げてしまうのがよいのではないかと思います。
組織変更については、もう一つ、気になる箇所があります。現在は、有限会社を株式会社に組織変更をしようとしても、債務超過の場合は組織変更はできません。株式会社を有限会社にする場合でも300万円以上の純資産がなければならない。登記手続では、株式会社は解散し、有限会社を設立するという手続になります。債務超過の会社の設立との概念はあり得ません。
しかし、将来、四つの会社類型、これに有限会社も加えれば五つの会社類型ですが、これが相互に行き来することが可能になった場合に、債務超過の場合は組織変更ができないとの縛りが維持されるのかどうか。まだ今のところ分かっていません。
この点について、私は、債務超過でも組織変更ができるようになると想像しています。現行法では、有限会社が株式会社に組織変更するのは、特別法に基づく特別な恩恵です。しかし、これからはどの会社からどの会社に乗り換えるのも自由となれば、その場合に債務超過の場合は不可とする理由がありません。有限会社が株式会社になっても、株式会社が合同会社になっても、それは肩書きの変更に過ぎず、組織体としての実体は継続することになります。その意味では債務超過であっても組織変更を禁止する理由はありません。ただ、組織変更をしてもあまり意味がないというのが、株式会社以外の四つの会社類型です。まして、株式会社以外の組織形態を、これから新たに会社を設立する人達が利用するとは思えません。
最後が有限会社です。現行の有限会社は残りますが、新たな設立は禁止されます。そして、有限会社法自体が残るのか、会社法の附則に有限会社の規定が付け加えられるのかは、まだ、結論がでていないようです。
なぜ有限会社を廃止したのかというと、会社法部会の江頭部会長の説明では、有限会社は、常に、株式会社になりたいと思っているということです。私自身は、そのような意見は、あまり聞きません。自分の意思で選択した制度ですし、単に節税のための会社なら有限会社で充分です。役員変更登記が不要などのメリットがあるのが有限会社です。
現代化法案も、有限会社制度を廃止し、強制的に組織変更をさせるのは強引に過ぎると考えたのでしょうか、有限会社として残ってもかまわないことにしました。役員の変更登記が不要との有限会社のメリットは残ることになります。
それに、もしかしたら、組織変更をせずに、有限会社を名乗っておいた方が良いかもしれません。有限会社と名乗っているだけで、歴史のある会社ということになるからです。有限会社の方が、株式会社よりも信用がある社会が来るかもしれないという、皮肉な結果が生じてしまうかもしれません。何しろ、後に説明するように、現代化法案が想定している株式会社は、現行の有限会社よりも遙かにお粗末な内容の組織だからです。
商号についても改正されます。同市町村内では同一の営業の為には同一の商号は登記することができないというのが、現行の商法ですが、この制限が廃止されます。現在は、会社を設立する場合は、最初に、類似商号の調査を行うとの手順になってますが、これが不要になります。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第19条(商号登記の排他力) 他人が登記したる商号は同市町村内に於て同一の営業の為に之を登記することを得ず 第27条(類似商号登記の禁止) 商号の登記は、同市町村内においては、同一の営業のため他人が登記したものと判然区別することができないときは、することができない。 |
会社に係る商法19条及び商業登記法27条による規制は,廃止するものとする。 |
なぜ、同一商号について制限を撤廃したのかといいますと、同一市町村内という縛りに意味がなくなってしまったからです。豊島区に会社があっても、札幌市にあっても、ネットの時代では、区別に意味があるとは思えません。現代化法案が成立した以降は、本社は豊島区にあるが、豊島区に登記ができないので埼玉に本店を置くというような無駄なことをしなくても済むことになります。
現在、同一市町村内の同一営業の同一商号の使用は禁止されていますが、同一営業が何を指すかについては微妙な判断が必要になり、その結果、会社の目的欄の記載についても、また、微妙な表現が要求されているのが現在の商業登記の実務です。
魚の販売や、野菜の販売なら、営業内容は明確ですが、しかし、ネットを利用したサービスや、知識を販売するソフト業界になってきますと、営業が同一か否かの区別には微妙な判断が必要です。
そこで、現代化法案は、同一営業のための、同一商号との制限を廃止することにしたわけです。したがって、現代化法案が成立した場合は、商号だけではなく、会社の目的欄の記載についても、大幅な自由が認められることになるはずです。
もともと、株式会社の場合は、会社の目的は、法人の行為能力を画する基準としては認識されていませんでした。魚の販売を目的とする会社が、野菜を販売しても、目的外の行為なので無効とはいわれません。会社の目的が意味を持ったのは、同一営業と同一商号との関係においてのことでした。現代化法案成立後は、この関係が消失してしまいますので、会社の目的は、まさに、何でも有りということになるはずです。
このように商号の制限はなくなったのですが、でも、同一の住所地での同一の商号は禁止されます。なぜかと言えば、同じ住所に住んでいる山田花子さんが2人いたら、どっちの花子さんか分からなくなってしまうからです。
同一住所でなければokということなのですが、同一住所でも、マンションの部屋が異なれば良いのか。たとえば、201号室と202号室なら同じ商号でも良いのか。そこらは現代化法が成立した後に、商業登記法の改正によって明らかになることです。
ただ、三菱商事や、住友物産という有名会社の商号を名乗ることは、やはり禁止されます。こちらは不正競争防止法による制限で、公知の商号は、その会社との混同を生じるので使用することができないとされています。
資本金については金額的な制限が撤廃されました。さすがにゼロ円はダメですが、1円ならokです。これにつきまして現代化法案を検討している江頭座長は、有限会社の300万円には意味がないと説明しています。ただ、確か、10年ほど前には300万円に意味があり、1000万円にも意味があるとの議論があり、最低資本金制度が導入されたわけです。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第168条の4(最低資本金) 資本の額は1000万円を下ることを得ず |
株式会社の設立に際して出資すべき額については,下限額の制限を設けないものとする。 |
それから10年ほどが経過した現在、今度は最低資本金には意味がないという話しが出てきているわけです。本当に、何とでも説明できるのが立法論ということです。
資本金が1円でもokということになりますと、今、いい具合に利用されている1000万円基準が、どのようになるのかが気になります。たとえば、消費税も資本金1000万円を区別の基準にしています。税法の世界では資本金基準がなくなってしまうのか。例えば、交際費、軽減税率、地方税などで使用している資本金基準ですが、資本金の最低額に意味がないと言い切ってしまうと、資本金自体の大きさにも意味は無くなってしまうようにも思います。
さらに、資本金の払い込みの事実を証明する手段だった払込証明書が不要になります。銀行が発行した残高証明でokということです。ただ、発起設立ではなく、募集設立の場合は払込証明が必要です。
払込証明は、どこの銀行でももらえるのが原則ですが、実際には、銀行は払込証明を発行するのを嫌がります。その理由は不明ですが、実務で、会社の設立について苦労する箇所です。払込証明が不要になり、残高証明だけでokになれば、会社の設立、あるいは増資は簡単に行えることになります。ただ、実務的な疑問として、設立時の資本の払い込み段階では、会社は設立されていませんので、残高証明は、会社名義で入手することはできません。発起人個人名義の口座で入手するのだと思います。
ここで説明しておきますと、設立の方法として、発起設立だけになるという情報が流れていましたが、募集設立も残ることになりました。発起設立に比較し、募集設立に何の意味があるのかを司法書士に教えてもらいましたら、創立総会で定款変更ができること、外国人が発起人になる場合もサイン証明が不要なこと、資本金は確定しているが、出資割合が未確定のまま設立を急ぐ場合に便利なこと、会社が発起人になる場合に、発起人である会社の目的に、設立する会社の目的が含まれている必要がないこと、複数の出資者がいる場合でも、印鑑証明は1通でよいということなどの設立手続上のメリットがあるということでした。
現物出資について、500万円を超えない場合は検査役の調査を不要としました。いま現在は、資本金の5分の1を上回る場合は、500万円以下の場合でも検査役の調査を必要としています。
そして、事後設立制度を廃止することにしました。つまり、会社を設立してから2年以内に、その会社が不動産などを買い求める場合には、検査役の調査が必要ということになっていましたが、それが廃止されます。いま現在は、検査役の調査に代え、税理士の証明でも良いことになっていますが、それさえも不要になります。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第246条(事後設立) 第245条第1項の規定は会社が其の成立後2年内に其の成立前より存在する財産にして営業の為に継続して使用すべきものを資本の二十分の1以上に当る対価を以て取得する契約を為す場合に之を準用す 2 取締役は前項の契約に関する調査を為さしむる為検査役の選任を裁判所に請求することを要す |
株式会社の成立後2年以内に一定規模以上の財産を譲り受ける場合における検査役の調査制度については廃止するものとする。 |
ただし、事後設立として、資本金の20分の1以上の対価の物品を買い受けた場合には株主総会の特別決議が必要という要件は残ります。
現代化法が成立した後には、会社のイメージは、次のようなものが原則になると思います。会社の種類は株式会社で、株主は1名、取締役も1名です。後に説明しますが、監査役と会計参与は選任されず、資本金は100万円で、商号の事前の調査は不要。できることなら、定款の公証人による認証も廃止してもらいたいと期待してますが、こちらは公証人(大部分は検察官OB)の為に維持されるようです。
したがって、会社を設立するのは非常に簡単になります。会社を設立して欲しいと依頼されたら、「株主は貴方一人で、取締役も貴方1人。資本金は10万円でも、100万円でも良いのだけど。ああ、3万円でもよいですよ。商号は、新聞に掲載されている大会社と同じのは困るけど、何でも好きな社名にして下さい。会社の目的は、とりあえずパソコンの販売とでもしておきましょうか」。このような雰囲気になります。
そして、当日、3万円の残高証明書と発起人の印鑑証明書1通を持参すれば、翌日には会社が設立できるということになります。現代化法以降は、会社はコンビニで缶詰に入れて売っているというぐらいに簡単に設立できることになります。
株式会社の場合は、株式の譲渡制限がある場合と、譲渡制限が無い場合で大きく異なります。まず、譲渡制限がある場合で、これが税理士のお客さんになる会社の原則的な形態です。
これは取締役会を置く会社と、置かない会社に二分されます。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第255条(員数) 取締役は3人以上たることを要す |
取締役会を設置しない株式会社の取締役の員数は1人で足りるものとする。 株式譲渡制限会社以外の株式会社には,取締役会を設置しなければならない。 |
まず、取締役会を置かない会社ですが、取締役は原則として1名です。取締役が2名、あるいは3名でも構いませんが、取締役会は置きませんので、取締役会としての意思決定は存在せず、取締役各人が協力して業務を執行することになります。
監査役を置くことができますが、強制ではありません。会計参与も置くことはできますが、これも強制ではありません。監査役や会計参与が好きな経営者は、両方を置くこともできますが、恐らく、そのような酔狂な経営者はいないと思います。ただし、譲渡制限がある会社は中小企業とは限らず、中には大企業もあるでしょうから、そのような会社では監査役を置くかもしれません。
次が取締役会を置く会社です。この場合は、取締役と取締役会、それに監査役が必要になります。あるいは取締役会と会計参与を置くことになります。さらには監査役と会計参与の両方を置くこともできます。
次が譲渡制限の無い会社で、これは現行商法と同様です。取締役会と監査役と三委員会、これは委員会設置会社ですが、さらに会計監査人を置くことになります。
このように、株式会社には、大きく区分して三つの会社類型ができあがります。結局、零細な株式会社のイメージとしては、株主は1人で、取締役も1名、監査役も、会計参与も置かない会社ということになります。取締役3名が集められない人達も、株式会社を設立することができることになるのが現代化法案です。
譲渡制限のある会社の取締役を株主に限ることが可能になります。しかし、意味がある改正とは思えません。ただ、破産した者でも取締役になれるとの改正は大きな意味があります。今回の現代化法案では、これがいちばんの大きな目玉ではないかと、私は皮肉な見方をしています。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第254条の2(取締役の欠格事由) 左の者は取締役たることを得ず 2 破産の宣告を受け復権せざる者 |
取締役の資格 「破産の宣告を受け復権していない者」を欠格事由から外すものとする。 |
共同代表の制度は廃止になります。これは実際には使われていない制度でした。共同代表というのは、複数、たとえば2名の者が代表権を持つのではなく、共同してしか取引が行えないという制度です。2名代表、3名代表は、これからも利用できる制度です。
破産者でも取締役になれることになりますが、しかし、受任者の破産は、委任契約の終了原因です。したがって、破産によって一度は取締役の地位を失うが、免責復権を受けなくても、再度、取締役に選任することが可能ということになるのだと思います。
今でも、破産をして、その後、免責復権の手続をすれば、その後は取締役になれます。というより、いまの破産手続は、破産よりも、免責復権を目的として申し立てられます。
本来、破産は、財産を持っていない人達が申し立てるのではなく、財産を持っているが、それを超える債務を負担している場合に申し立てる手続です。財産を換価し、債権者の全員に平等に弁済をする手続です。
しかし、今、実際に破産を申し立てている人達の100人のうち98人までは財産を持っていない人達です。ですから、破産をしても、債権者には一銭も弁済しないわけです。つまり、本来の意味の破産手続は何も行われません。そして、同時廃止といって、申し立てと同時に、破産手続が終了するのです。管財人も選任しません。では、破産に何の意味があるかというと、免責復権という手続に目的があるわけです。つまり、破産は、平等弁済の手続ではなく、債務から免責させ、復権するための手続になってしまっているわけです。
では、免責復権までの期間はどのくらいかというと、おおよそ4カ月ほどです。免責復権を受ければ、また、また取締役になれるのですが、そこに4カ月のすき間が空いてしまうわけです。ですから、会社の代表者は、債務超過になっても、なかなか破産はできません。
でも、現代化法が成立すれば、破産をしても、また取締役に選任されればよいわけです。社長は、個人破産をしながら、会社の代表者として会社を経営することが可能になるのです。
これに何の意味があるかといいますと、会社が社長に多額の資金を貸し込んでいて、その後、会社が大きく儲けた場合は、社長に破産してもらい、社長に対する債権を貸倒に落とすことが可能になるわけです。
会社から社長に多額の貸し金を有する場合は、社長に多額の給与を支払い、返済してもらう必要があったのが、いま現在の実務です。この場合は、社長の給料に対する源泉税の負担が大変です。しかし、現代化法案が成立した後は、このような問題は社長の破産で解決することが可能になります。
会社の代表取締役のまま、破産し、会社は貸倒を計上する。そのようなことはできないと指摘されそうですが、でも、破産をしてしまえば、社長の債務は、全て、法律上はゼロになってしまうわけです。貸倒処理を否認することは税務上も不可能だと思います。
しかし、破産者が、会社の取締役になれるというのも不思議な制度です。破産者は、免責復権を受けない限りは自分の財産を管理することはできないのです。自分の財産管理ができない者が、他人の財産を管理できるということになるのです。これも不思議な制度です。
なぜ、こういう制度になってしまったのかというと、社会が崩れて壊れてしまっているからではないかと思います。破産者は商売ができないという、昔の縛りを維持したら、会社を経営できる人達はいなくなってしまう。ということで、このような制度を導入したのではないかと思います。
取締役は2年、監査役は4年、委員会設置会社の役員は1年となっていますが、定款で決めれば取締役、監査役、会計参与の任期を10年にすることができます。ただし、株式について譲渡制限のある会社に限るということです。ですから、税理士の関与先の90%までは、定款変更をすれば10年間は役員変更登記が不要になります。そうすると、特別の事情のない限り、10年間、何の登記も行われないことになりますので、休眠会社の整理の期間を、5年から12年に延長しました。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第256条(任期) 取締役の任期は2年を超ゆることを得ず 第19条(商号登記の排他力) |
株式会社(委員会等設置会社を除く。)の取締役の任期は原則として選任後2年以内の最終の決算期に関する定時総会の終結の時までとし,監査役の任期は選任後4年以内の最終の決算期に関する定時総会の終結の時までとするものとする。ただし,株式譲渡制限会社については,定款で, これらの任期を最長選任後10年以内の最終の決算期に関する定時総会の終結の時まで伸長することができるものとする。 |
しかし、10年に延長されてしまったら、関与先の役員変更登記の管理が難しくなります。2年に一度なら、税理士の仕事として管理することが可能ですが、10年に一度の役員変更登記を失念せずに管理できるのかどうか。10年後には、自分がいなくなってしまうか、相手の会社が倒産してしまうか、あるいは社長が死亡してしまうか。この三つの内の一つが実現してしまうのが10年という期間です。
そして、司法書士の収入が減ってしまうというのが、役員変更登記を10年に一度にした最大のデメリットです。
株主総会の普通決議で取締役を解任することができることになりました。現行の商法は特別決議を要求しています。選任は普通決議ですから、解任も普通決議にするというのは理屈の通った改正だと思います。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第257条(解任) 取締役は何時にても株主総会の決議を以て之を解任することを得但し任期の定ある場合に於て正当の事由なくして其の任期の満了前に之を解任したるときは其の取締役は会社に対し解任に因りて生じたる損害の賠償を請求することを得 2 前項の決議は第343条の規定に依るに非ざれば之を為すことを得ず |
株式会社の取締役(累積投票によって選任されたものを除く。)の解任決議の要件は,普通決議とするものとする。 |
監査役に業務執行権限がある場合には、取締役会の書面決議が可能ということになりました。後に説明しますが、中小企業については、監査役は業務監査は担当せず、会計監査に限定して担当します。
ですから、中小企業については、取締役会の書面決議は認められません。でも、そこらの中小企業の場合は、夕食のテーブルを囲みながら、毎日、株主総会を開催してますし、その実態は会社法成立後も変わりません。
取締役の責任限定、免責、過失責任についても整理するようです。責任の限定は、会計参与にも適用されます。そこで、責任を限定してもらえば、会計参与になっても安心と考えるのは間違いです。
責任限定は、会社に対する責任の限定であり、会社の債権者や、融資銀行などに対する責任は限定されません。したがって、第三者から訴えを起こされた場合は責任限定の効果は及びません。
弁護士法人も、監査法人も、担当する社員を指定すれば、その業務についての責任は、弁護士法人、あるいは監査法人と、その業務を担当した社員に限定され、その他の社員は責任を負わないということになっています。しかし、そのような責任限定は、依頼者との関係の責任に限ります。
監査法人が粉飾を見逃し、投資家から損害賠償請求の訴訟を起こされた場合は、監査法人が責任を負うのと同時に、社員の全員が無限責任を負うことになります。
したがって、会社が粉飾決算をして、その決算書を示して仕入れ先と取引をした。このような場合に、仕入れ先から詐欺だ、不法行為だとの訴訟が起こされた場合は、取締役の責任限定も、会計参与の責任限定も、効力を有しません。
株主代表訴訟は、制限された部分と、拡張された部分があります。
株主代表訴訟は、本来は裁判を起こした人の利益にはならないのです。判決の主文は「会社に対して幾らの賠償金を支払え」という内容になります。原告に賠償金が支払われるわけではありません。会社に賠償金を支払えという裁判ですから、まさに公益的な裁判なのです。
公益的な裁判なので、会社法現代化法では、原告個人の利益を図る目的がある場合は訴訟を起こしてはダメとか、会社に損害を与えることだけを目的とする訴訟を起こしてはダメという縛りが入ることになりました。
ただ、どういう条文になるのかは、条文化してみないと分かりません。どのような要件がある場合に、私欲を図る訴訟と認定するのかは、非常に難しい判断だと思います。裁判官が、これは不正な利益を目的としているとか、会社に損害を与えることだけを目的としていると判断をするのだと思うのですが、そのような判断できるのか否か。これは、非常に難しい判断だと思います。
会社の正当な利益が害され、また、会社に過大な負担が生じる場合もダメとしています。これもどのように判断するのか、立法の理念と必要性は理解できますが、具体的な案件についての判断になると、非常に難しい問題だと思います。これが、株主代表訴訟について縮小された部分です。
株主代表訴訟ですが、この訴訟の現状を説明すれば、善人と悪人が原告になる裁判なのです。善人というのは、いわゆる株主オンブズマンに属する人達で、会社が悪いことをしたら、株主代表訴訟を起こし、会社のルールを適正化しようと頑張ってくれる人達です。
悪い人たちというのは、新聞にどこかの会社のスキャンダルが掲載されると、事実関係を調べもせず、即、訴状を提出してしまう人達です。なぜ、訴状を提出するかというと、弁護士報酬に目的があるわけです。
例えば、会社に対して10億円を支払えとの判決を得れば、賠償金を受け取るのは会社ですが、でも、担当した弁護士は、会社に対して弁護士報酬を請求することができるのです。
原告は、会社の為に、会社に代わって裁判を起こしたのですから、原告が負担した弁護士費用を会社に請求するのは当然です。ということで、株主代表訴訟を商売にする弁護士がいます。
悪い人達が起こした裁判でも、正当な裁判であれば、それは是認されるべきですが、中には、和解金を目当てにした訴訟を起こす人達もいるのだと思います。そこで、先ほどのような制限をすることにしました。
拡張された部分は原告適格の問題です。現在は、株主代表訴訟を起こしている株主が、株式交換、または合併によって株主の地位を失った場合は、訴訟における原告適格を喪失し、訴えは却下されることになっています。訴の却下を目的とした株主代表訴訟対策の株式交換と思える事例があったのですが、会社法現代化法以降は、そのようなテクニックが使えなくなりました。
参考判決 | 現代化要綱 |
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東京高裁平成15年7月24日判決 株主代表訴訟中に株主が株式交換により完全親会社の株主となり訴訟対象会社の株主の地位を喪失した場合には、当該株主は、当該訴訟の原告適格を喪失する。 |
株式交換・株式移転による原告適格の喪失の見直し等 イ 完全子会社となる会社につき係属中の株主代表訴訟の原告が,株式交換・株式移転により完全子会社となる会社の株主たる地位を喪失する場合であっても,当該株式交換・株式移転により完全親会社となる会社の株主となるときは,当該原告は,当該株主代表訴訟の原告適格を喪失しないものとする。 ロ 合併の消滅会社につき係属中の株主代表訴訟の原告が,合併により消滅会社の株主たる地位を喪失する場合であっても,当該合併により存続会社等の株主となるときは,当該原告は,当該株主代表訴訟の原告適格を喪失しないものとする。 |
株主代表訴訟対策の株式交換と思えるのは次のような事案です。
最初の事例が日本興業銀行です。興銀の株主が、興銀について株主代表訴訟を起こしていたのです。興銀の取締役は興銀に対して何億円かを支払えとの株主代表訴訟ですが、株式交換で、原告が興銀の株式を失い、ホールディングスの株主になってしまったため、訴えは却下になってしまいました。
それを悪用したのが大和銀行です。大和銀行はニューヨーク支店でデリバティブ取引を行い、それを1人に任せていた為に1000億円近い損失を計上してしまったのです。担当者は、そのことを自白する手紙を頭取に送ったそうです。頭取はびっくりして、大蔵省の担当者に相談をしました。結局、米国の証券取引への届出が遅れ、多額の罰則金の支払いが必要になりました。
株主代表訴訟では二つの賠償金が請求されています。一つはデリバティブ取引で大きな損失を被ったことについての監督義務違反で、もう一つはアメリカへの報告を遅らせたことで大きな罰金を受けたことについての損害賠償請求です。
この訴訟について、大阪地裁は、取締役と監査役11名に対して970億円の支払いを命じる判決を言い渡しました。このままだと取締役は破産してしまうので、どうなることかなと他人事ながら心配していましたら、訴訟は控訴され、控訴された後に、大和銀行が株式交換でホールディングスを作ってしまったのです。何のための株式交換かと言えば、それは、この裁判をつぶしてしまうためです。
結局、株式交換が行われる前日に、裁判の方は和解になりました。総額2億5000万円を取締役が連帯して支払うとの和解です。そのような濫用的な株主代表訴訟対策を防止するために、株式交換をしても、株主代表訴訟の原告の地位は失われないという条文が作られることになりました。
監査役は業務監査権限を持つのが原則です。しかし、株式の譲渡制限会社では、定款に定めることによって、監査役の権限を会計監査に限定することができます。なぜ、原則を業務監査にしたのかというと、監査役というのは素人ですから、会計監査を行う知識を持っていないわけです。
監査特例法 | 現代化要綱 |
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第22条(監査役の職務及び権限) 小会社の監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案その他のものを調査し、株主総会にその意見を報告しなければならない。第19条(商号登記の排他力) |
《1》 監査役は,原則として,業務監査権限及び会計監査権限を有するものとする。 《2》 株式譲渡制限会社(監査役会を設置する株式会社又は会計監査人を設置する株式会社を除く。)においては,定款で当該株式会社における監査役の権限を会計監査権限に限定することができるものとする。 |
どちらかというと業務監査に向いているということで、監査役には業務監査を担当させるのを原則にしたそうです。
ただ、そうしますと、中小企業では監査役のなり手がなくなってしまいます。そこで、商工会議所などの要望で、譲渡制限会社では定款で特に定めれば、会計監査だけの監査役を置くことができるとなったそうです。
ただし、監査役の業務監査が行われませんので、それを補填する意味で、株主の権限を強化しました。例えば、株主は、裁判所の許可を得なくても取締役会議事録を閲覧することができることになりますし、自ら取締役会を招集することができることになります。
税理士が監査役になっている場合は、現代化法が成立したときには、そのままでしたら業務監査の権限も責任も負うことになってしまいます。定款を変更し、監査役の権限は会計監査に限るとしておく必要があるところです。
現行商法 | 現代化要綱 |
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会計参与の資格・選任等 会計参与は,公認会計士(監査法人を含む。)又は税理士(税理士法人を含む。)でなければならないものとする。 会計参与は,株式会社又はその子会社の取締役,執行役,監査役,会計監査人又は支配人その他の使用人を兼ねることができないものとす |
会計参与には、粉飾でも、逆粉飾(脱税)でもない正確な決算が要求されます。減価償却費の計上の先送りや、貸倒処理の先送りは許されません。幅のない真実が要求されます。
幅のない真実というのは次のような意味です。税理士でしたら、極端にいえば、脱税でなければ良いわけです。今年は減価償却費を計上しないことにするとか、貸倒引当金を計上しないとの粉飾処理が認められるわけです。つまり、利益を増やす方向での先送りは許されるわけです。利益の過大計上なら税務署は怒りません。
逆に、会計監査人は逆粉飾が許されます。保守主義の程度を超えれば問題ですが、でも、保守主義の範囲内との説明が付く処理なら、耐用年数を過少に見積もっての減価償却費の過大計上も、貸倒引当金の過大計上も、会計監査人なら許されます。利益の保守的な計上なら会社の関係者に迷惑をかけることはありません。
でも、会計参与の場合は、適正な決算書を作成するのが目的ですから、粉飾も、逆粉飾も許されません。利益の過少計上は脱税になり、利益の過大計上は粉飾になってしまいます。前者は税務署からクレームを受け、後者は債権者からの損害賠償請求の原因になります。
そのような意味で、税理士は、ある線から右側は全てokで、公認会計士は、逆に、ある線から左側は全てokだったのです。つまり、両者とも、ある幅を持った判断ができたのですが、会計参与と税理士を兼ねた場合は、粉飾も、逆粉飾もできません。
さらに、公認会計士がいうところの二重責任との理屈も使えません。決算書を作成するのは会社であり、公認会計士の責任は、その決算書の適正性を証明することにあるとの二重責任論です。つまり、粉飾について、発見不能との抗弁が使えないわけです。
監査法人が訴えられた事件を担当したことがありますが、その中心的な争点は、粉飾が発見可能であったか否かになります。そして、会計監査人は、粉飾が発見不能だったと抗弁することになります。
本来でしたら、会社の処理は粉飾ではなく、許された会計処理だという抗弁も成り立つのですが、しかし、粉飾自体は争えない事例が大部分です。何しろ、実行行為者である社長自身が、粉飾処理だと認めてしまっている事例が大部分だからです。
そこで、会計監査人としては、「仮に粉飾だったとしても、それは発見が不可能だった」という抗弁で争うことになります。仮に土地を売却するとの処理なら、契約書が存在し、代金は入金し、売買代金の適正性を証明する不動産鑑定書も揃っていたと主張するわけです。しかし、会計参与は、そのような抗弁は使えなくなります。なにしろ会計参与は、取締役と一緒に決算するのです。二重責任とか、粉飾の発見不能との抗弁が成立する余地がありません。
さらに、会計参与は、使い込みなどの不正についても責任を負うことになります。公認会計士が行う監査では、従業員の不正摘発などは監査の目的とはされていません。仮に、不正摘発まで会計監査の目的に含めた場合は、内部統制や、試査、あるいは重要性の判断などといっていることはできず、会計資料の全件を調査する必要が生じてしまいますが、現在の監査は、そのような全件監査ではありません。社員の使い込みは会計監査の目的ではないのです。
しかし、会計参与は取締役と一緒に決算書を作成します。そうしましたら、取締役と同等の立場で、従業員の使い込みについても調査する責任が生じてしまいます。
内部統制組織が完成し、1000億円、あるいは2000億円の金額が動く大企業なら、1億円、あるいは2億円の使い込みは、監査意見にも影響を与えません。しかし、中小企業で、1000万円、あるいは2000万円との数字が問題になる決算では、その作成過程において、どの数字が正しく、どの数字が間違いだということが分かるはずだと指摘されることになると思います。
会計参与として、決算書の作成に関与しても、実際には、使い込みを発見することは困難です。会計参与も、全ての取引に立ち会うわけではありませんし、横領事件などについては完璧な書類が整えられているのが通例です。インチキは大量の伝票の中に埋もれてしまっています。会計資料から全てのインチキが発見できるわけではありません。
しかし、裁判は、「後知恵」で判断する制度です。「全ての伝票をチェックしたのでしょう。全ての伝票をチェックせずに適正な決算はできないでしょう。全ての伝票をチェックすれば、この伝票がおかしいことは分かったのではないですか。そうしたら、この取引が正しいかどうかを調べればよかったじゃないですか」というのが、後知恵で判断する裁判所の思考過程です。つまり、従業員に使い込みがあれば、会計参与は、自動的に責任を負うことになってしまうのが、裁判制度の現実だと理解する必要があります。
さらに難しいのは、私どもは専門家ですから、素人が監査役を引き受ける場合とは次元が異なる責任を負うわけです。素人でしたら、知らなかった、気がつかなかったという言い訳ができます。でも、専門家には、知らなかった、気が付かなかったとの言い訳は許されません。
代表取締役の責任は重いのですが、それにしても素人です。法律を知らなかった、税法に気が付かなかったとの言い訳が許される場面は多いと思います。一般の取締役は、さらに免責の機会が多いと思います。しかし、会計参与の免責の基準は、一般素人の基準ではなく、専門家としての基準です。代表取締役よりも厳しい責任基準が適用されるのが会計参与です。
さらに、会計参与の場合に、この会社なら大丈夫だろうと引き受け、その後10年が経過し、会社の具合が悪くなった場合に、そこで会計参与を辞任することが可能なのかという現実的な問題があります。つまり、沈没船から最初に逃げ出すネズミになることが可能か否かです。経理担当者が退職した会社は危ないと、世間一般で言われるところを実践する必要が生じてしまうのです。
もう一つ、粉飾事案についての心配です。税理士が粉飾事案に関与してドキドキしてしまったという話は、それこそ何件も相談を受けています。税理士も、最初から粉飾だと説明され、それへの協力を請われれば断るはずです。しかし、最初は、ちょっとした会計処理への協力から始まってしまうわけです。
たとえば、翌月10日分の売上500万円だけを、当期に組み入れても良いかとの質問から始まります。申告は決算の2ヶ月後ですから、取引は完了し、既に、500万円は入金しています。そこで、税理士は、悪意のない経理処理として500万円の先食いに協力するわけです。欠損を計上したら銀行との関係が難しくなってしまうとの説明を拒否するのは困難です。
でも、翌期には、10日が20日になり、500万円が1000万円になります。その翌期には20日が30日になり、1000万円が2000万円になります。そして、5年後には5000万円の粉飾になってしまっている。そこまで大きくなってしまうと、修正は不可能です。その段階で真実の決算を組めば、一度に5000万円の損失を計上することになってしまい、その理由と責任が問われ、事情によっては銀行融資の書き換えの停止による倒産との事態も想定されます。
では、最初の段階で10日分の利益の先食いを断るべきだったのか。しかし、その時点での予想では、一度に限り、今期に限りの先食いで済むはずの粉飾でした。それが断れるほどの冷たい付き合いができないのが、税理士と経営者との関係です。
しかし、会計参与になった場合は、最初のボタンのかけ間違いに注意しなければなりません。つまり、10日分の500万円の売上の先食いに協力して欲しいとの協力を求められた時に、冷たく断る必要があるのです。最初に断らないと、結局、会社の債務についての連帯保証人になってしまうのが、取締役と共同して決算を組むことの意味だと思います。
そして、会計参与も役員として株主代表訴訟の被告になりますから、会社で内紛が生じたときは、取締役と一緒に、被告席に座る覚悟が必要です。
現行商法 | 現代化要綱 |
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会計参与の会社・第三者に対する責任については,社外取締役と同様の規律を適用するものとし(商法266条5項,7項,12項,18項,19項,266条ノ3参照),株式会社に対する責任については,株主代表訴訟の対象とするものとする。 |
監査役にはならない方が良いと指導してきたのが税理士会だと記憶していますが、その税理士会が、会計参与への就任を勧めているのです。しかし、監査役になる方が、会計参与になるよりも10倍はリスクが少ないと思います。
会計監査人も株主代表訴訟の対象に含まれることになりました。
現行商法 | 現代化要綱 |
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会計監査人の会社に対する責任について,株主代表訴訟の対象とするものとする。 |
これには会計士協会の反対がありました。会計監査人は、あくまでも外部の請負人であって、会社の執行部ではないので、株主代表訴訟の被告に含めるのは理論的には間違いです。
株主代表訴訟は、取締役は自分たちのミスを追求しないだろうとのお手盛り対策として取り入れられている制度です。そのときに株主が会社に代わり、その取締役を訴えるとの制度が、株主代表訴訟です。
そうしましたら、会計監査人は、会社にとっては外の人です。会計監査人がミスをした場合には、取締役の判断で、会社が会計監査人を訴えれば良いわけです。訴えなければ、今度は株主代表訴訟で、取締役が訴えられることになります。会計監査人に対する損害賠償請求を行わないことを、取締役の任務懈怠とする株主代表訴訟です。会計監査人を株主代表訴訟の対象に含めるのは理屈が通らないことです。
そのように主張し、会計士協会は会計監査人を株主代表訴訟の被告に加えることには反対したのですが、委員の皆さんは聞く耳を持ちません。「会計監査人も対象に含めた方が良いに決まっているではないですか。その方が良い社会になるではないですか。監査法人は、責任を取るのが嫌だから反対しているのでしょう」ということで、反対説は聞き入れられず、会計監査人も被告に含まれることになってしまったというのが議論の流れだそうです。
昔でしたら、専門家が意見を言えば、素人の皆さんは謙虚に聞いてくれました。しかし、この頃は、専門家が意見を言っても聞いてくれません。専門家の常識が否定され、素人の声に負かされてしまったのが、いま進行している制度改革なのですが、会計監査人が株主代表訴訟に含まれることになってしまったのも、素人の声の一つだと位置づけることになると思います。
ただし、社外取締役と同様の責任限定が会計監査については可能になりました。しかし、これは会社との関係の責任限定であって、第三者との関係では限定されません。したがって、粉飾を見逃し、第三者から損害賠償請求の訴訟が起こされた場合は責任限定の対象にはなりません。それに、粉飾の見逃しが過失の場合なら良いのですが、故意と認定された場合は責任限定の対象にはなりません。
常識的には、故意に粉飾を見逃す会計監査人はいないのですが、でも、故意と判断されてしまう事例は想像されます。会計監査人が事実を認識したが、その事実についての判断の結果、それを粉飾ではないと結論づけた場合です。判断に間違いがあった場合は、事実を認識しているのですから、それが故意による粉飾の見逃しだと指摘されることになってしまいます。
さらに実務上の危惧を述べれば、株主代表訴訟を起こすときは、ついでに会計監査人も被告にしてしまうとの配慮が働くと想像されることです。取締役に対して株主代表訴訟を起こす場合に、ついでに会計監査人も被告に加えておけば、その後の不正行為の立証に役立ちます。それに、取締役は無資力でも、監査法人が無資力ということはありません。
会計監査人を被告に加えるコストは、監査法人の住所と会社名、それに代表者名をタイプするインク代と、訴状を送るための郵便料金3000円程度です。それだけのコストで被告を何人でも増やすことができるのが訴訟手続です。
ですから、株主代表訴訟を起こすときは、ついでに、会計監査人も被告に加えてしまう。これが訴訟のテクニックになります。被告が増えれば、被告間の利害が対立し、被告側の足並みが乱れてくれる可能性が増えます。各人、自分の免責を主張するために、隣に座っている被告の悪口を言わなければならなくなるからです。
会社の役員関係について、会社法の現代化法成立後は、どのようなイメージの社会になるのかを概観してみます。取締役の任期を10年にするとの定款変更が必要になります。会計参与になる場合は、会社の連帯保証人になるとの決断が必要です。就任を依頼された場合の断りの理由を今から考えておいた方が良いのではないかと思います。肯定的な改正事項としては社長の破産があります。社長を破産させて、社長に対する貸し金を貸倒に落とすとの方法が認められました。これは今回の会社法改正の最大のヒットだと思います。
取締役会が無い場合と取締役会がある場合で大きく異なります。
取締役会が無い場合は、決議事項は原則として無制限です。現行の商法は株主総会の決議事項を限定しています。それ以外の事項は取締役会が決めることになっています。
しかし、会社法現代化法は、取締役会を置かない組織を認め、全ての事項を株主総会で決議することができるとしました。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第230条の10(総会の権限) 総会は本法又は定款に定むる事項に限り決議を為すことを得 |
取締役会を設置しない株式会社における株主総会に関する規律については,次のとおりとするものとする。 《1》商法230条ノ10の規定は,適用されない。 《2》 株主総会の招集通知は,会日の一週間前(定款で短縮可能)までに発すれば足りる。 《3》 株主総会の招集通知については,書面又は電磁的方法によらないことができる。 《4》 株主総会招集通知への会議の目的事項の記載又は記録を要しない。 《5》 各株主は,単独株主権として総会における議題提案権を有する(議題提案権の行使は制限されない)。 《6》 株主総会招集通知への計算書類及び監査報告書の添付を要しない。 《7》 議決権の不統一行使については,事前通知(商法239条ノ4第1項参照)を要しない。 |
招集通知は1週間前に発送すればよいことになり、会議の目的の記載は不要です。現行の商法では、役員変更や、金庫株の買い取りなどについて、招集通知に議題としての記載が要求されました。でも、譲渡制限がある場合は、議題を記載せず、当日の抜き打ちの決議が可能になりました。ただし、金庫株の買い取りについては、その決議の後に、取得する株式の種類と数、一株当たりの取得価格などを株主の全員に通知し、株主は、自分の株式を買い取ることを求めるとのことができるとしました。
したがって、株主総会では、敵方の株主が欠席した場合は、そこで勝手な提案をして、それを抜き打ちに決議してしまうとの対応が可能になります。
取締役会がある場合は従前と同じ制度です。
総会の招集場所の制限が無くなりましたので、グアムでもハワイでも自由なところで総会を開催することが可能です。ただ、株主が出席し難い場所での総会の開催は、株主総会無効の理由になると思います。子会社の株主総会をハワイで開催し、出張費用を経費に計上するとの対応が可能かもしれません。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第233条(招集地) 総会は定款に別段の定ある場合を除くの外本店の所在地又は之に隣接する地に之を招集することを要す |
株主総会の招集地に関する制限(商法233条)は,廃止するものとする。 |
株主の全員が集合し、夕食のテーブルを囲みながら、毎日、株主総会を開催するとの中小企業の実務には変更はありません。
特定の種類株式についてのみ、譲渡制限を付けることを可能にしました。現行の商法は、株主間の株式の譲渡についても取締役の承認を要求しています。有限会社は社員間の出資持分の譲渡は自由です。
今回、有限会社と株式会社が合体しますので、株主間の譲渡についても会社の承認を要することになりました。ただし、定款をもって、株主相互の譲渡は自由と決めることができるようになります。
取締役会を置かない場合の譲渡承認は株主総会です。
相続や合併による移転も承認の対象に含めることができます。現行商法では相続や合併は包括承継であり、譲渡ではありませんので、名義変更の承諾は不要です。相続した株式について、譲渡承認が認められなかった場合には、会社に対して購入者の指定を求めることができます。会社は、会社自身で買い取ることもできますし、第三者を買受人として指名することもできます。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第204条(株式の譲渡性) 株式は之を他人に譲渡すことを得但し定款を以て取締役会の承認を要する旨を定むることを妨げず |
定款で相続及び合併による譲渡制限の定めのある株式の移転についても承認の対象とする旨を定めることができるものとする。 (注) 「承認の対象とする」とは,株式が相続人等に当然に移転することを前提とし,株式会社がその移転を承認しないときは,その株式を買い取ることができるものとすることをいう。 |
当事者間の協議で売買価額が決まらなければ、裁判所に申立てて、裁判所が株価を決定します。さて、そういう手続が必要になった場合に、相続税の株価評価はどうなるか。たぶん財産評価基本通達で評価するとの原則は変わらないと思います。理屈としては、財産評価基本通達は、あくまでもその段階で譲渡できるという前提での株価計算ですので、譲渡できない株式については、別の評価方法が認められても良いように思います。
株式の消却は、自己株式に限って行うことが可能になりました。つまり、株主が株式を所有したままでの株式の消却は、有償と無償とを問わず、行えないことになりました。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第213条(資本減少と定款の規定による場合の株式の消却) 株式は前条の規定に依るの外資本減少の規定に従ふ場合又は定款の規定に基き株主に配当すべき利益を以てする場合に非ざれば之を消却することを得ず |
株式の消却については,自己株式の消却という制度のみに整理するものとする。 (注) 自己株式以外の株式を消却するには,株式会社が当該株式を取得した上で消却するものとする。 |
以前には、1株の額面が500円だとすれば、それに発行済株式数を乗じれば、資本金額が計算できました。有限会社は、いまでもそのような計算式が成り立ちます。その後、この計算式は成り立たなくなり、さらには額面まで廃止されてしまいました。
株式の併合や、分割が認められ、株式数を減少させない減資や、株式数を増加させない増資も自由に行えることになりました。つまり、株式数を増やし、あるいは減らすことと、資本金の増減は全く別の手続になってしまったのです。
株式数を減少するときは減資で、減資をするときは株式数を減らすとの思い込みが成立してますが、そのような思い込みは捨てて頂く必要があります。現在は、株式数を減らさなくても、減資ができます。減資をしなくても株式数を減らすことが可能です。
さて、現代化法では、さらに株式を消却することができるのは、自己株式として買い取った場合に限るしています。現行商法では、株主が所有している状態で、全ての株主、あるいは一部の株主について、その持ち株を消却することが可能です。現実に、株式数を減少する有償、あるいは無償減資という手続があります。
しかし、株式数を減少する有償、あるいは無償減資という手続は行えなくなります。100株を発行し、資本金2000万円の会社が、50株を消却し、資本金を1000万円に減資するとの手法が認められなくなります。株式の消却は、自己株式として買い受けた場合に限定されます。たぶん、これは金庫株の買い取り、さらには、その場合の課税関係との整合性を維持する為の改正だと思いますが、具体的に、どのような内容になるのかは、条文が示されないと分かりません。
税法との整合性について触れれば次の通りです。今までの8回の商法改正は、商法が先走って行ってきたことで、税法側の意見は聞いていないように思います。税法は、商法改正を一生懸命にフォローしてきました。国税庁のお役人は優秀ですから、いままでは何とか商法の独走をフォローしてきました。しかし、それでも何点かの矛盾点が生じてしまいました。
その一つが、金庫株の買い取りと、株数を減少する減資の問題です。金庫株の買い取りでは、株主には、配当所得、あるいは譲渡損益が発生しますが、これが減資の場合にも適用される課税の理屈なのか否かが問題になります。
減資と金庫株の買い取りは、株主には同一の結果を生じさせます。つまり、株主が所有する株式について、会社が、1株500円で買い取っても、1株を消却して500円を払い戻しても、株主側の課税関係は同一になるはずです。そして会社側の課税関係も同じになる必要があります。
しかし、1株の時価が500円の株式について、これを仮に、発行会社が金庫株として1株300円で買い取った場合はどうか。この場合は会社には200円の受増益が計上されます。では、1株300円の払い戻しによって株式を消却した場合はどうか。減資は資本取引ですから、会社に受増益を計上させることはできません。
参考 減資の課税関係(発行会社の場合)このように、株式を消却した場合と、金庫株を買い取った場合とで異なる課税関係が生じてしまうのですが、これは同一の経済的効果には、同一の課税を行うとの租税原則に違反します。そこで、株主が手元に持っている段階で株式の消却は禁止してしまうことにしました。
増資の手法として、デット・エクイティ・スワップが商法に明文化されました。つまり、会社に対する債権で履行期が到来している債権は、それを債権額で出資にすることができることが、会社法に明文化されるわけです。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第280条の8(現物出資の検査、弁護士の証明等、裁判所の処分) 現物出資を為す者ある場合に於ては取締役は第280条の2第1項第3号に掲ぐる事項を調査せしむる為検査役の選任を裁判所に請求することを要す但し現物出資を為す者に対して与ふる株式の総数が発行済株式の総数の十分の1を超えず且新に発行する株式の数の五分の1を超えざるとき又は現物出資の目的たる財産の価格の総額が500万円を超えざるときは此の限に在らず |
株式会社に対する金銭債権のうち履行期が到来しているものを当該債権額以下で出資をする場合には,検査役の調査を要しないものとする。 (注1) 債権の存在を証する書面を登記の添付書面とするものとする。 (注2) 相殺禁止に関する規定は,金銭等で払い込むべきものと定められている場合における引受人からの相殺を禁止する旨の規定に改めるものとする。 |
現行商法でも、デット・エクイティ・スワップは認められています。会社に対して10億円を融資しているが、会社が債務超過で、仮に1億円しか返済できないという場合について、その債権は1億円として出資するのか、あるいは10億円としての出資が可能かとの議論がありましたが、東京地裁商事部の裁判官が、旬刊商事法務に、10億円での出資を認めるとの解説を書き、それで実務は運用されてきました。
1億円しか回収できない債権について、なぜ、10億円の価値が認められるのかというと、債権者にとっては1億円の価値しかない債権でも、債務者にとっては10億円の価値があるとの理屈に根拠があるわけです。
しかし、会社に対する債権を出資払込金とするとの処理は、まさに、見せ金や預け合いの部類の処理だと思います。株主は有限責任ですから、払い込みぐらいは現実にキャッシュで行って頂く必要があります。デット・エクイティ・スワップは犯罪ではないかと私は思うのですが、それを商法に明文化し、合法化してくれました。
さらに、デット・エクイティ・スワップについては検査役の調査を不要としてくれました。ですから、税理士が、ドキドキしながらデット・エクイティ・スワップについて税理士としての証明書を作成するとの仕事は無くなってしまいました。
ただし、通常の増資決議をして、金銭で払い込むと決めながら、その払い込みを会社に対する貸し金と相殺することは禁止されます。
新株発行不存在確認の訴えを明文化し、対世効を与えることになりました。現行商法にも新株発行無効の訴えがありますが、無効の訴えは新株発行の日から6ヶ月以内に起こさなければなりません。
二人の株主が、各々50%の株式を持っている場合に、一方の株主が、自分の支配権を確保しようと考え、株主の新株引受権を無視し、自分にだけ新株を割り当てた増資を行う。その場合でも、6ヶ月内に新株発行無効の訴えを起こさなければ、新株の発行は有効になり、違法者側の支配権が確保されてしまうわけです。
一時代前は、譲渡制限のある会社でも株主の新株引受権は明文化されていませんでしたので、代表取締役が、勝手に増資し、支配権を確保するとの手段は、よく実行されていました。
そのようなときに、弁護士が起こすのは新株発行無効の訴えなのですが、新株発行の後6ヶ月を経過してしまえば、そのような訴訟は起こせません。そこで、新株発行不存在確認の訴えを起こしたわけです。
新株発行が無効なのではなく、新株発行の事実が存在しないとの訴えです。新株発行の事実が存しないのに、増資の登記がなされているだけだとの訴訟です。新株発行が不存在だと主張する訴訟ですから、10年後でも、20年後でも起こせる訴訟です。しかし、新株発行不存在確認訴訟は商法には明示されてませんでした。実務が認めた訴訟類型です。
それを明文化するのが現代化法です。現代化法は、新株発行無効の訴えの提訴期間を1年に延長しますが、それでも救済されない事件は、新株発行不存在の訴訟で救済することになります。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第280条の15(新株発行無効の訴え) 新株発行の無効は発行の日より6月内に訴を以てのみ之を主張することを得 |
《1》 株式譲渡制限会社における新株発行無効の訴えの提訴期間を1年に延長するものとする。 《4》 新株発行の不存在確認の訴えを明文化し,その判決に対世効を認めるものとする。 |
そして、判決は、原告と被告との間にだけで既判力が生じますが、新株発行無効の訴えと、新株発行不存在の訴えについては、対世効を認めることにしました。つまり、原被告以外の全ての関係者に対して判決の効力を認め、新株発行は無効であり、存在しないとの事実を宣言することになるわけです。
譲渡制限のない会社が発行できる議決権制限株式は、発行総数の2分の1に制限されます。逆に読めば、譲渡制限のある会社については発行済み株式の99%を議決権制限株式にすることも可能です。
公告や通知等の手続を経ずして、強制転換することができる株式を発行することができることにしました。種類株式というのは、不思議な存在だと思います。いろいろな種類の株式を商法が認めてくれました。配当、議決権、残余財産の分配などについて、色々と組み合わせたら、たぶん、100種類の株式を作ることもできます。しかし、誰も利用していません。
なぜ、利用しないかといえば、上場規定があって、上場する株式は1種類に限られているからです。政府が銀行救済の為に資金を投下し、優先株の発行を受けましたが、あの優先株は上場されてはいません。ということで、幾つの株式を作っても、それを市場に上場することは不可能なのです。では、会社法部会の人達は、何のために種類株式の制度を作ったのか。中小企業のためとしか思えません。
確かに、中小企業の場合なら、どのような種類の種類株式を作ることも可能です。例えば、残余財産請求権のない種類株式を作っても良いわけです。そうしましたら、残余財産請求権のない株式は、相続税の評価において、幾らと評価されることになるのか。仮に、父親が50%、息子が50%の出資をする会社において、父親の所有する株式を残余財産請求権のない株式にしてしまったら、父親の相続時の株式の評価はゼロになり、相続税もゼロになるのか。そのようなことが可能なのでしょうか。
種類株式というのは、税法のことを知らない商法部会の人達が、一生懸命に検討し、導入してくれた制度なのですが、これを悪用しようとすれば、中小企業では、それこそ何でもありの節税対策ができてしまうのが、種類株式なのではないかなと思います。
株券は定款に定めがある場合を除いて発行しないことになります。株券の不発行制度は、既に、商法改正に取り込まれています。上場会社は何年か後に株券がなくなります。譲渡制限のある会社につきましては、原則、発行しないけれども、株主から請求があった場合には株券を発行するとの条文になっています。そして、株式譲渡の対抗要件が変わってきます。つまり、株券は有価証券で、現金と同じですから、引き渡しが対抗要件です。
不動産の売買なら登記することが対抗要件で、債権の譲渡なら内容証明郵便を発信することが対抗要件です。株券の場合は株券を引き渡すことが対抗要件ですが、株券が無くなってしまったら、株券の引き渡しができません。そこで、会社に対する譲渡の届出と、名義変更手続が第三者に対する対抗要件になることになります。
種類株式は中小企業の相続税の節税のために導入された制度かもしれません。自己株式の取得と減資には注意と知識を必要とするというところが、これからも続くと思います。それは商法の問題ではなく税法の問題です。
ここはあまり意味がないので省略します。
これが私どもの専門分野です。そこを検討してみますと、剰余金の分配、つまり、配当手続ですが、これと同様の手続が統合されることになります。
つまり、利益の配当、中間配当、資本金および準備金の減少に伴う払い戻し、自己株式の取得を、全て、配当と同様の規制に服させ、配当可能利益を限度として認めるとの処理に統合します。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第290条(利益の配当) 利益の配当は貸借対照表上の純資産額より左の金額を控除したる額を限度として之を為すことを得 1 資本の額 2 資本準備金及利益準備金の合計額 3 其の決算期に積立つることを要する利益準備金の額 4 其の他法務省令に定むる額 |
株主に対する金銭等の分配(現行の利益の配当,中間配当,資本及び準備金の減少に伴う払戻し)及び自己株式の有償取得を「剰余金の分配」として整理して,統一的に財源規制をかけるものとする。 |
ただ、税務上は、配当の場合でも、資本準備金の払い戻しの場合でも、全て、利益の配当として、配当所得になるのだと思います。
税法は商法と離縁しましたので、商法の処理に影響されず、商法との誤差は別表4と5で調整することにしました。商法が勝手な処理をしても、税法は、資本積立金と利益積立金を区別して考えるとの思想になっています。
ここで資本概念について整理しておきますと、商法、会計、税法では次のような違いがあります。
商法は、資本金と準備金をセットにし、それとその他の資本の部を区別します。会計は、資本金と資本剰余金をセットにして、それと利益剰余金を区別し、税法は株主拠出金と留保利益を区別します。
そして、商法は、資本金と準備金を債権者保護の留保金として、この減額については債権者保護手続を要求します。その他の留保金の払い戻しは株主総会の決議で自由に行うことができるとの制度です。
会計は、資本と利益を分けなければいけませんので、資本金と資本剰余金、それに利益剰余金を区分します。
税法は、株主拠出金と内部留保金を分けることになります。株主拠出金は払い戻しても、株主の利益とは認識しませんが、内部留保金を払い戻し場合は配当所得として課税をします。
ですから、資本の部の話しをするときには、それが商法の話しなのか、会計なのか、税法なのかを区別して議論をしないと話しが混乱します。
人的分割については、物的分割と剰余金の分配との制度に整理されることになります。つまり、会社分割は、物的分割だけが残ることになります。
いま現在の税法では、非適格の場合について、人的分割、つまり分割型分割については、物的分割と剰余金の分配との思想を採用しています。つまり、新設会社に資産を譲渡し、代償として出資金証券を受け取り、それを株主に分配するとの手続です。
法人税法 | 現代化要綱 |
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第62条(合併及び分割による資産等の時価による譲渡) 内国法人が合併又は分割により合併法人又は分割承継法人にその有する資産及び負債の移転をしたときは、当該合併法人又は分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該合併又は分割の時の価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。この場合においては、当該合併又は分割型分割により当該資産及び負債の移転をした当該内国法人は、当該合併法人又は分割承継法人から新株等をその時の価額により取得し、直ちに当該新株等を当該内国法人の株主等に交付したものとする。 |
人的分割については,「物的分割+剰余金の分配」という構成とし,分割会社の株主に対して交付される財産が新設会社又は承継会社の株式(一株に満たない端数に相当する金銭を含む。)の場合については,剰余金分配に係る財源規制は課さないものとする |
現代化法も、そのような考え方を採用し、人的分割を廃止し、全て、物的分割として整理することにしました。つまり、子会社を設立し、その株券を手に入れたら、それを親会社の株主に交付するとの手続です。株式を親会社の株主に交付すれば人的分割ですし、そのまま所持し続ければ物的分割ということになります。
このような思想は、米国の真似だと、米国の税法を専門にしている弁護士から説明を受けました。米国には人的分割は存在せず、全て、物的分割だとのことです。そして、会社が出資証券を手に入れたら、それを株主に配分すれば人的分割になり、配分しなければ物的分割になる。では、分割後、5年を経過した後に株主に配分した場合は、物的分割になるのか、その場合は支配権が継続するとみなすのか等について、議論があり、さらに、株式を交付するのではなく、50年償還の社債を交付した場合はどうなるのかとの議論が、既に、何年も前から行われているということです。
純資産額が300万円未満の場合は、配当が行えないことになります。つまり、資本金は1円でも良いのですが、しかし、配当を行おうと思えば、資本の部には300万円の残高が必要だということです。そして、臨時株主総会での剰余金の分配も可能にするそうです。
現行商法 | 現代化要綱 |
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株式会社は,いつでも,株主総会の決議によって,剰余金の分配を決定することができるものとする。 |
それから特別決議によって現物配当を行うことを認めるそうです。不景気の時代に、ボーリングの玉を賞与として支給した会社があるそうですが、次の不景気が到来した場合には、株主に対してボーリングの玉が配当されることになるかもしれません。
臨時株主総会での利益剰余金の資本組み入れが認められることになりました。もし決算報告をする際に、欠損状態の貸借対照表では困るというときは、臨時株主総会を開催し、欠損金と利益剰余金を相殺し、お化粧をした決算書を作成して年度末に提出するとの処理が可能になりました。
株主総会の決議によって資本の部の入れ替えができることになりました。どのように入れ替えることが可能なのか、具体的なイメージが分からないのですが、たとえば、剰余金を取り崩したり、利益積立金を剰余金に組み入れるなど、何でもやってくださいということなのだと思います。
減資、あるいは減準備金については、普通決議によって行える場合と、債権者保護手続が不要な場合を想定するそうです。なぜ、減資について債権者保護手続が不要になるのかは分かりません。
減資と、減準備金の減少限度額を設けないことになります。これは当然のことです。何しろ、資本金は1円でも良いのですから、1000万円の資本金の会社が、999万9999円を減資するのもokということです。利益準備金の積み立ては分配した剰余金の10分の1で、資本金の額の4分の1の制度は維持されます。
計算書類を含め、株主持分変動計算書を作成し、株主に交付することが必要になります。つまり、資本の部が、株主総会の普通決議で移動できるようになりましたので、どのように移動したかを、株主持分変動計算書で明らかにするとの趣旨だと思います。
現行商法 | 現代化要綱 |
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第281条(計算書類およびその附属明細書の作成) 取締役は毎決算期に左に掲ぐるもの及其の附属明細書を作り取締役会の承認を受くることを要す 1 貸借対照表 2 損益計算書 3 営業報告書 4 利益の処分又は損失の処理に関する議案 |
株主持分変動計算書 株式会社は,貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び附属明細書に加え,株主持分変動計算書を作成し, これらの書類(附属明細書を除く。)を株主に送付しなければならないものとする。 |
決算公告を必要とするか否かについて議論がありました。中小企業については必要がないとの意見がありましたが、結局、すべての会社に強制することになりました。上場会社などでEDINETに有価証券報告書が公示されている会社は、公告は不要となる予定です。
ただ、決算公告が実際に行われるようになるのかというと、これは税理士の努力次第というか、社会の動き次第ですが、実際には決算公告は誰も実行しないとの実務に変化は生じないように思います。
計算の部については、様々に検討してもらいましたが、中小企業の実務には影響がないというのが結論です。そもそも配当などという無駄なことは実践しないのが中小企業の知恵です。
これは変更ありません。
組織再編成については、柔軟化ということで、吸収合併、吸収分割、株式交換について、株主への給付を、存続会社の株式ではなく、金銭その他の資産とすることを認めることにしました。
つまり、合併したときは、いままでは、消滅会社の株主には、存続会社の株式が割り当てられたわけでが、これについて、株式を交付せず、極端には金銭を支払い、又は関連会社の株式を交付するとの手法も採用できるようになります。
現行商法 | 現代化要綱 |
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対価柔軟化 吸収合併,吸収分割又は株式交換の場合において,消滅会社の株主,分割会社若しくはその株主又は完全子会社となる会社の株主(以下「消滅会社の株主等」という。)に対して,存続会社,承継会社又は完全親会社となる会社の殊式を交付せず,金銭その他の財産を交付することができるものとする。 |
このため、米国の会社が日本の会社を乗っ取りやすくなったと報道されてますが、しかし、そのようにはならないだろうと思うのは、このような処理を税法が認めてくれそうもないからです。税法が認めなければ何もできません。
合併について、合併存続会社の株式が株主に割り当てられる場合は、それが適格合併であれば、含み益課税は行われず、配当所得課税も行われません。
しかし、合併会社の株式以外の資産、例えば、合併会社の親会社の株式を交付する場合には、株主に対しては含み益課税が行われ、配当所得課税も行われてしまうはずです。税法は、それほど鷹揚ではありません。そのような処理を認めたら、幾らでも、財産の乗り換えができてしまうことになります。
吸収合併について、交付する株式が存続会社の株式の20%以下の場合は、株主総会の決議は不要となります。小さな合併は取締役会の決議で処理できることにしたわけです。90%以上の支配関係にある会社の組織再編成については、被支配会社の株主総会決議は不要となります。90%以上の支配権があれば、株主総会を開催しなくても、結論は確定しています。無駄な手続は不要にしたということです。
しかし、組織再編成において差損が生じる場合は、常に株主総会の決議を要するとしました。差損が生じるのは、《1》承継する資産の簿価よりも負債と増加する資本等の金額の合計額の方が多額な場合と、《2》交付する資産の簿価が時価を超える場合、《3》交付する自己株式の簿価が時価を超える場合、それに、《4》存続会社が消滅会社の株式を所有している場合に、その簿価が時価に比較して割高になっている場合ですが、現代化法は《1》と《2》について株主総会の決議を必要としました。
《1》と《2》について株主総会の決議を必要としたのは、これらが合併によって発生する「損失」の可能性があり、「損失」を引き受ける可能性について株主総会の決議を必要としたとの理屈と思えます。それに対して、《3》と《4》は合併に基づく損失ではなく、自己株式について実現する資本の入り繰りに過ぎないとの解釈だと想像します。
=注=
《1》の差損は実質は営業権であり、資産の部に計上されるのが本来
(ただし、簿価引継の場合は営業権は計上されない)。
《2》の差損の実質は譲渡損であり、損金として計上される。
《3》の差損の実質は、自己株式の譲渡損であり、資本の部に計上される。
《4》の差損の実質は、自己株式の消却損であり、資本の部に計上される。
現行商法 | 現代化要綱 |
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組織再編行為に際して差損が生じる場合 組織再編行為に際して存続会社において差損(対価として交付する自己株式の処分差損を除く。)が生ずる場合には,当該組織再編行為が簡易組織再編行為の要件に該当するときであっても,株主総会の決議を要するものとする。 (注1) 「差損が生ずる場合」とは,次に掲げる場合を指すものとする。 《1》 存続会社等が承継する負債の簿価が資産の簿価を超える場合 《2》 組織再編行為に際して交付する対価の存続会社における簿価が当該組織再編行為により承継する純資産額を超える場合 |
しかし、これは、債務超過会社の吸収合併まで認める趣旨ではないと思います。簿価で債務超過の場合の処理であり、時価で債務超過の場合の吸収合併を認めるわけではないと思います。
ただ、債務超過会社の吸収合併も100%支配の場合は認めるとの議論が、第1次案、第2次案の頃にはありましたので、ここらも条文化してみないと分からないところがあります。
解散すると、清算手続、あるいは特別清算手続が必要なのですが、清算手続において、裁判所への書類の届出制度が廃止されました。もっとも、通常清算において、裁判所に届出をしている清算人は、ほとんど存在しないと思いますので、実務には影響を与えない改正です。誰もやっていないことを、やらないと決めただけの話です。
今までの中小零細の株式会社というのは、さらに零細の有限会社のイメージになるのではないかと思います。つまり、株式会社という名称をもらっても、今までなら、3人の役員がいて、資本金は1000万円以上であり、2年に一度の役員変更登記をする会社であり、あえて有限会社ではなく、株式会社を選択したのだから、それなりの覚悟のある会社で、これから成長しようとしている会社なのだとの気配を感じましたが、今後は、そのような気配が見えなくなってしまうわけです。
株式会社というだけでは信用されないし、信用できない社会になります。これは良いことです。現在でも、株式会社というだけで信用できるわけではないのですから、良いことなのですけれども、いささか寂しい気はします。
会社毎に適用される内部規制が異なることを考えながらの手続が必要になります。つまり、取締役会は存在するのか、監査役は存在するのかなどの組織について、定型が無くなってしまいました。法律というのは何のために存在するかと言えば、当事者が明示的に合意しなかった事項を補填するために存在するわけです。つまり、生命保険会社の普通約款と同じです。
ところが現代化法案では、何でも有りの組織にしてしまいました。すると、会社法は普通約款の役割を果たさないわけです。普通約款は存在せず、皆さんが定款で決めて下さいという社会になるわけです。取締役の任期を何年にするか、会計参与を置くか、それは皆さんが自由に決めてくださいということです。
選択の幅は広がりましたが、取引の相手の会社が、どういう状態かを調べる場合には、定款を持ってきてもらわないと分かりません。では、定款を持ってきてもらったら分かるかいうと、定款は何時でも変更可能です。変更には公証人の認証も要りません。株主総会で承認を受けたかどうか分からない定款で、その会社はどういう実態かということを理解しなくてはならなくなってしまったのが、今回の現代化法です。
何度かの商法改正がありました。株式交換、自己株式の取得解禁、会社分割などです。これらが必要な制度か否かはともかく、それなりに重要な改正でした。しかし、今回の現代化法案では、何が目玉かは不明です。会社分割、株式交換、金庫株の取得などとの大きな目玉は存在しません。唯一、私が評価できるのは、代表取締役が破産してもokという改正です。今回の現代化法案を受けて、税法がどのように変わるかですが、たぶん、ほとんど変わらないと思います。どちらかと言えば、税法が採用している思想が、商法にも再採用されたということだと思います。
すべての法律には基本理念があります。税法でしたら、課税の公平であり、簡素化です。しかし、この理念は失われてしまいました。課税の公平はともかく、この頃の税法改正が簡素化を目指しているとは思えません。仮に、法人税法を理解できる税理士がいたら手を挙げて頂きたいと言いたいぐらいに複雑化したのが税法です。
商法の基本理念も失われてしまいました。以前の商法は、株主平等と債権者保護が基本理念でしたが、今、そんなものは存在しません。種類株式によって株主平等は無くなり、増資に際して払い込んだカネまで配当できる制度ですから、債権者保護の思想も疑わしいものです。そのような基本理念は、現代化法案でさらに無くなってしまいました。
今回は学者のお遊びと役人の失業対策に終わってしまった法律改正という感じがします。有限会社を株式会社に取り込んでも、それに何の意味があるのかは不明です。
しかし、改正された箇所は大量に存在し、商法が定款に譲った箇所も大量にあります。さて、定款をどう変更した方が良いのか。現代化法の成立に際して、どのように対処したらよいのか。これは中小企業を引率している税理士が担当する箇所です。現代化法が成立する段階では、さらに大量のマニュアルが発表されると思います。今日は、その先駆けとして、現代化法が成立した後の社会のイメージを説明させて頂くとの意味で、将来の中小企業のイメージを取り上げてみました。ご静聴、ありがとうございました。