会社法 中小企業に与える影響

 第1 会社法の基本思想

 会社法は非常に難解です。しかし、会社法に2つの思想が存在することを理解してしまえば、知識の位置付けは容易です。

 会社法の思想は、1つが有限会社法の取り込みであり、2つ目がファイナンスです。

 まず、会社法の第1の思想である有限会社法の取り込みから説明すれば次の通りです。会社法は、商法の株式会社に追加して、有限会社、それに委員会設置会社を株式会社に取り込みました。そして、有限会社を主人公にしました。

 商法時代の株式会社では、トヨタ自動車が主人公で、町の八百屋は脇役でした。株式会社において、株主が出資を回収する手段は、株式を譲渡する以外にありません。したがって、会社法の基本原型は、株式の譲渡を自由とするトヨタ自動車です。

 株式について譲渡制限のある町の八百屋は株式会社制度の脇役でした。そして、節税目的の有限会社は、会社制度においては、まさに、傍系の家族でした。

 ところが、会社法では、節税目的の有限会社が主人公になります。
 次に、町の八百屋が並び、そして最後にトヨタ自動車が続くことになります。


  <=== 商法 ===>  <= 有限会社法 =>
 ┌───────┐┌────────────────┐
 │譲渡制限はない││  株式には譲渡制限がある   │
 └───────┘└────────────────┘
 ┌───────┐┌───┐┌───────────┐
 │トヨタ自動車 ││八百屋││   有限会社    │
 └───────┘└───┘└───────────┘
  <=主人公=>  <脇役> <=== 傍系 ===>
 ┌────────────┐┌───────────┐
 │ 取締役会を置く    ││ 取締役会を置かない │
 └────────────┘└───────────┘
 ┌────────────┐┌───────────┐
 │ 取締役は3名以上   ││ 取締役は1名    │
 └────────────┘└───────────┘
 ┌────────────┐┌───────────┐
 │ 株式会社法理     ││ 有限会社法理    │
 └────────────┘└───────────┘
 ┌────────────┐┌───────────┐
 │ 株主総会は一定事項  ││ 株主総会は全権機関 │
 └────────────┘└───────────┘
  <=公開会社=><===公開会社ではない会社== >
  <= 脇役 =>< 準主役 > <=== 主役 ===>

 そのように理解してしまえば、会社法の条文の位置付けは簡単です。

 例えば、株主総会の決議事項について、295条1項は、「株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる」としています。これは取締役会が設置されていない有限会社についての制度です。そして、2項では、「法律と……定款で定めた事項に限り決議をすることができる」としています。これが商法の株式会社についての条文です。

 増資についても同様です。会社法199条は募集事項の決定としていますが、募集事項の決定には株主総会の特別決議が必要です。なぜなら、有限会社における増資は定款の変更決議だからです。しかし、公開会社であれば取締役会の決議で募集事項が決定できます。これが譲渡制限のない株式会社についての法理です。

 機関設計についても同じです。50個近い機関設計の組合せが可能だと説明されていますが、要するに、有限会社、株式会社、委員会設置会社の機関設計を並べただけです。それに会計参与を加えれば50の機関設計が可能になります。

 したがって、会社法の知識の大部分は、商法や有限会社法についての既存の知識で位置付けることが可能です。そして、最初に有限会社法理が登場することを理解してしまえば、会社法の条文も、混乱せずに読み解くことが可能です。

 会社法の第2の思想はファイナンスです。証券会社は、上場会社の株式を仲介し、現物、先物、オプションと商品構成を広げてきました。そして、会社法は、遂に、自分自身も商品化してしまったのです。

 現物株式の売り出しが新株の発行です。そして、配当優先株、買い取り請求権株式、償還株式と、幾つもの商品(種類株式)を揃えました。さらに、オプションまで売り出せるようにしました。それが新株予約権です。これは、会社自身を投資の対象にしてしまうファイナンスの思想です。

 つまり、株主は、会社の所有者ではなく、投資家になってしまったのです。

 ですから、対価を支払えば、出資者の地位を奪い、会社から負いだしてしまうことも可能です。それが全部償還種類株式であり、合併や株式交換における対価の柔軟化です。特別決議をもって株主を追い出してしまうのです。その場合でも、株式買い取り請求権を与えれば、投資家の保護に欠けるところはありません。

 株主平等や、株主絶対の思想は不要になりました。なぜなら、株主は、会社の所有者ではなく、会社に対する投資家になってしまったのです。

 会社法は、自分自身を商品化してしまいましたので、会社自身が乗っ取られてしまう可能性があります。そこで、同時に、乗っ取り防止制度を導入しました。それが黄金株です。つまり、会社法の種類株式には、ファイナンスの手段としての種類株式と、乗っ取り防止のための種類株式が存在するになるわけです。

 1 剰余金の配当  …… ファイナンス
 2 残余財産の分配 …… ファイナンス
 3 株主総会において議決権を行使することができる事項 …… 企業支配
 4 譲渡制限株式 …… 企業支配
 5 買取り請求権付株式 …… ファイナンス
 6 強制償還株式 …… ファイナンス
 7 会社が株主総会の決議によって全部を取得すること …… 倒産法制
 8 特定の事項について、その種類株主総会の決議が必要 …… 企業支配
 9 種類株主総会で取締役、監査役を選任すること …… 企業支配

 会社法の第2の思想がファイナンスであることを理解してしまえば、種類株式、特別の権限を持つ株主、単元株式制度、合併や株式交換についての対価の柔軟化、それらの場合の株主総会の要件、あるいは債権者保護手続の要否についての判断は簡単です。




  目  次

 第1 会社法の基本思想
 第2 会社を設立しよう(会社の種類)
 第3 株式会社の組織を決めよう
 第4 会社の商号を決めよう
 第5 資本金は1円でもok
 第6 株式という概念
 第7 種類株式の多様化
 第8 特別の権限を持つ株主
 第9 単元株の決め方
 第10 株式の譲渡
 第11 株主総会と種類株主総会
 第12 取締役会と代表取締役
 第13 会計参与
 第14 会社の計算
 第15 新株の発行
 第16 新株予約権と社債
 第17 減資と資本の部
 第18 組織変更
 第19 会社法を総括すれば

  =校正作業中==