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                               (第10回分)

◆ 会社分割

 会社分割に限らず、「営業」という言葉に代わり、会社法では「事業」という言葉が使われるようになりました。これが単に言葉の問題であり、会社には事業との言葉を用い、個人事業者には営業との言葉を用いるだけであれば、実務に与える影響はありません。

 しかし、会社法が、事業との新しい概念を、営業とは別の概念として採用したのだとしたら、会社分割に与える影響は小さくありません。営業という言葉でしたら、競業避止義務についての事例を中心にして、判決や学説によって、その概念は確定していました。しかし、事業との概念は確定していません。

 会社分割は、営業としての包括的な一体としてのみ行うことができると解釈されていたのですが、しかし、総務(人事・経理・庶務)部門を会社分割の対象とすることも認められるなど、会社分割と営業の概念は、いささかファジーなところがあります。それが、さらに、事業という概念となってしまうのか否かです。

 ▲条文▲
 第757条(吸収分割契約の締結)
 会社(株式会社又は合同会社に限る。)は、吸収分割をすることができる。この場合においては、当該会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社(以下この編において「吸収分割承継会社」という。)との間で、吸収分割契約を締結しなければならない。

 そもそも、会社分割は、リストラの手段として採用されたとの一面があります。雇用契約を前提にすると、子会社を別に設立しても、社員を子会社に異動させることはできません。社員との間の雇用関係を第三者に譲渡することはできないのです。それを認めたら奴隷売買になってしまいます。

 しかし、会社分割の手法を利用すれば、社員を子会社に異動させてしまうことが可能です。立法に関係した人達は、本音では、会社分割は商法の問題ではなく、労働法の問題だと分かっていたのだと思います。しかし、これに反対しても主張が通る時代ではない。そこで、建前として、会社分割に営業という概念を取り入れたわけです。

 営業という概念を取り入れ、雇用契約を移転するのではなく、運送部門、百貨店部門、あるいは松戸支店を移動するのが目的であり、そこで働く従業員が移動するのは副次的な事柄だという法律にしたわけです。つまり、営業概念の採用によって、組合側代表の議員の顔を立てたのが、商法による会社分割の制度だったのです。

 しかし、会社法では、営業ではなく、事業との言葉を採用しました。事業の分割なら、包括的な一体としての概念ではありませんので、どのような部分であっても、会社分割との手法で移動してしまうことが可能なわけです。極端に言えば、社員だけ譲渡することもできるのではないかと想像しています。

 そのような悪意のある改正なのか、あるいは、単に個人事業には営業との言葉を用い、会社には事業という言葉を用いるとの国語的な問題なのか、そこは、まだ私にはわかりません。しかし、政府がやることには悪意がないわけはないのですから、単に言葉の問題として理解することには躊躇するところがあります。

 会社分割(相澤哲参事官 旬刊商事法務1752号)

 現行法においては、吸収分割は会社の営業の全部または一部を他の会社に承継すること(現行商法374条ノ16)、新設分割は会社の営業の全部または一部を新設会社に承継すること(現行商法373条)と整理されている。

 しかしながら、吸収分割・新設分割において承継されるものは、あくまで吸収分割契約書・新設分割計画書において承継するものと定められた権利義務であり(現行商法374条ノ26、374条ノ10)、それらにおいて定められていない権利義務が承継されることはない。すなわち、単に承継すべき営業を特定するだけでは、具体的に承継されるべき権利義務が定まるわけではなく、承継される権利義務であるか否かは、まさに吸収分割契約書・新設分割計画書に承継するものとして記載されるか否かによって定まる。

 そこで、会社法では、吸収分割・新設分割の定義についての整理を行い、それぞれ「株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させること」(会社法2条29号)、「1又は2以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させること」(会社法2条30号)という定義を設け、「営業」概念にはしばられないものとしている(注3)。

 (注3) 現行法上、「営業ノ全部又ハ一部」(商法373条、374条ノ16)と規定されていることをもって、吸収分割・新設分割における分割の対象は、それ自体が営業としての内容を備えているものでなければならないという解釈がとられている(原田晃治ほか『会社分割に関する質疑応答』別冊・商事法務233号(2000)8頁)。

 会社法においては、次のような点にかんがみて、従前のような解釈を採用しないこととしている。

 従前の解釈に対しては、営業概念自体は判例上確立されている(最判昭40年9月22日民集19巻6号1600頁等)ものの、具体的事案において、ある特定の権利義務の集合体が「営業」に該当するかどうかは必ずしも一義的に明らかではなく、その判断は容易ではないところ、それにもかかわらず、吸収分割契約書・新設分割計画書に記載されている権利義務が一体として営業としての実質を備えていると評価されない場合には吸収分割・新設分割が無効となるとすることは、組織変更行為である吸収分割・新設分割の効力を不当に不安定なものとし、かえって債権者などの会社関係者の混乱を来し、法的安定性を害する結果をもたらすとの批判がされている。


(会社法で遊ぼう プログ)
 Q2
 "100%子会社への金銭貸付"は(投資)事業だと思うのですが、この"事業(債権)"を債務者である当該子会社に対して吸収分割することは可能でしょうか?

  子会社が承継するのは"自己に対する貸付"なので、現実にはその事業が消滅してしまうため、「子会社に対する貸付」は事業には当たらないのでしょうか?でも承継する会社が当該子会社でない場合はその事業は継続するので、その場合は事業に該当すると思うのですが。。。

 A2
 子会社に対する貸付債権だけでは、事業には該当しないと思いますが、会社分割の対象は、事業に関する権利義務であって、事業そのものである必要ありません。

  したがって、親会社が、貸付債権のみを子会社に会社分割により承継することもできます。 なお、会社分割後に、承継会社が事業を継続することも会社分割の要件ではありません。


◆ 税法の適格要件


 税法の適格要件は、100%支配、50%超支配、共同事業要件の3種類があります。50%超支配の場合は従業員の8割以上が移動する等の要件がありますが、100%支配の場合については、そのような要件は定めていません。そこで、100%支配要件の場合も、営業一括の分割である必要があるのかについて議論がありました。そして、100%支配要件の場合は、おそらく、営業概念は不要なのだろうと理解されていました。

 なぜなら、特定現物出資の場合で、100%支配の場合には、そもそも営業の承継などは要件とされていないからです。しかし、特定現物出資の場合でも、50%超支配の場合は、従業員の8割が移動するなどの営業概念が登場します。

 仮に、会社法が営業概念を要求しなくなったのなら、100%支配要件の場合は、税法上も営業との概念を意識することなく、組織再編を実行することが可能になります。

◆ 株式交換、株式移転


 株式交換と株式移転については債権者保護手続は不要です。なぜなら、株式交換と株式移転は、株主の資産の移動であって、会社の資産には影響を与えません。

 日本興業銀行などの3行が株式移転を実行しても、日本興業銀行の資産内容には影響を与えません。持ち株会社の資産には影響を与えますが、しかし、日本興業銀行の株式を入手し、その見返りに持ち株会社の株式を発行するだけであって、債権者に影響を与える債権債務の変動はありません。


         株式移転
   ┌────┐ → ┌────┐    ┌────┐
   │ 株主 │   │持株会社│    │ 株主 │
   └────┘ ← └────┘    └────┘
    │  | 新株発行            |
    │  |              ┌────┐
    │  │           →  │持株会社│
    │  │              └────┘
    │  │               |  |
  ┌──┐┌──┐           ┌──┐┌──┐
  │興銀││一勧│           │興銀││一勧│
  └──┘└──┘           └──┘└──┘


 しかし、会社法は、合併、会社分割、株式交換、組織変更について、対価を柔軟化しました。つまり、株式交換を行った場合に、日本興業銀行の株主に、持ち株会社の株式ではなく、現金、その他の対価を支払うことも可能にしました。その場合は、会社の資産負債の状況に変動が起こります。そのような場合は債権者保護手続が必要だと規定しました。
 対価は、現金などの資産の場合もありますし、社債を交付するとの方法で、債務を負担することも認められています。特別決議で少数株主を追い出してしまうことを可能にしたのが対価の柔軟化です。


            ┌────┐   ┌────┐
            │ 株主 │   │ 株主 │
            └────┘   └────┘
        株式交換   |        |
   ┌────┐ → ┌────┐   ┌────┐
   │ 株主 │   │ a会社 │ → │ a会社 │
   └────┘ ← └────┘   └────┘
      | 現金支払            |
      │                 |
   ┌────┐            ┌────┐
   │ b会社 │            │ b会社 │
   └────┘            └────┘



◆ 分割型分割の消滅


 会社分割には二つの種類がありました。一つが物的分割であり、分社型分割です。もう一つが、人的分割であり、分割型分割です。


 《1》物的分割 …… 子会社を作る

   ┌────┐      ┌────┐
   │ 株主 │      │ 株主 │
   └────┘      └────┘
     │           │
  ┌───────┐  ┌───────┐
  │  法人x  │  │ 分割法人x │
  └───────┘  └───────┘
            →    ↓
              ┌─────┐
              │新設法人a│
              └─────┘

 《2》人的分割 …… 兄弟会社を作る

   ┌────┐      ┌────┐
   │ 株主 │      │ 株主 │
   └────┘      └────┘
     │     →    │  │
 ┌───────┐ ┌─────┐┌─────┐
 │  法人x  │ │分割法人x││新設法人a│
 └───────┘ └─────┘└─────┘



 分社型分割は子会社の設立で、分割型分割は兄弟会社の設立です。分社型分割が物的分割で、分割型分割は人的分割です。商法ではこの二つの分割があったのですが、会社法では人的分割がなくなりました。あるいは、人的分割も認められているという言い方もできます。

 どういうことかと言いますと、物的分割の方法で、人的分割を行ってしまうことにしたのです。まず、物的分割で子会社を設立し、分割会社は子会社の株式を手に入れます。その株式を、剰余金の分配として、株主に交付するのです。そうすれば、結果として、株主は物的分割によって設立された会社の株式を手に入れます。

 上記の図で説明すれば、まず、《1》の手続で、法人xは、新設法人aを設立します。その後、法人xは、会社分割によって入手した新設法人aの株式を、株主に対して剰余金の分配として交付します。すると、結果として、《2》の形が完成します。


      ┌────┐        ┌────┐
      │ 株主x│        │ 株主x│
      └────┘        └────┘
       │  ↑   →      |  |
   ┌──────↑─┐   ┌─────┐┌─────┐
   │分割法人a ↑ │   │分割法人a││新設法人b│
   └──────↑─┘   └─────┘└─────┘
  分社型  ↓  ↑
   分割 ┌─────┐
      │新設法人b│
      └─────┘


 会社分割の場合は債権者保護手続は不要です。なぜなら、子会社を設立し、資産を分割譲渡しても、その見返りに子会社の株式を取得します。これは子会社の設立のための現物出資と同じことで、資産の増減はありません。

 しかし、会社分割が、人的分割になる場合、つまり、取得した株式を剰余金の分配として株主に交付してしまう場合は、債権者保護手続が必要です。取得した株式が会社から流出してしまうからです。

◆ 差損が生じる場合の合併


 差損が生じる場合も合併が可能になりました。差損が生じるのは、《1》時価承継ではプラスだが、簿価承継ではマイナスの会社を吸収合併する場合と、《2》合併の対価として交付する資産の価額が、時価では承継した会社の純資産額を下回るが、簿価では上回るという場合です。

 ▲現代化要綱▲
 7 組織再編行為に際して差損が生じる場合
 (注1) 「差損が生ずる場合」とは,次に掲げる場合を指すものとする。
 《1》 存続会社等が承継する負債の簿価が資産の簿価を超える場合
 《2》 組織再編行為に際して交付する対価の存続会社における簿価が当該組織再編行為により承継する純資産額を超える場合
  (注2) 所要の開示手続を設けるものとする。

 差損が生じる場合といっても、時価純資産でマイナスの会社を吸収合併することが認められたわけではありません。時価純資産ではプラスだが、簿価純資産ではマイナスの場合の合併です。

 差損の意味について立法担当者に確認したところ、「会社法では、承継債務額が承継資産額を超える場合における合併も許容されており(全社法795条2項1号参照)、帳簿価額、時価換算価額のいずれもが債務超過である会社を消滅会社とする吸収合併も可能となる。無対価合併もあり得る」との回答を得ました。つまり、時価マイナスの会社の吸収合併も可能との回答です。

 しかし、その後に雑誌などに掲載される解説記事を読むと、営業権を計上すれば時価プラスになる場合を想定しているようにも読める文書があり、立法担当者が言う「債務超過」の意味は不明です。


◆ 簡易組織再編成と略式組織再編成


 合併、会社分割、株式交換について、次の場合は、株主総会の決議を省略することができます。

┌────────┬────────────────┐
│        │会社法             │
├────────┼────────────────┤
│ 吸収合併存続会│ 存続株式会社等は……特別決議に│
│社、吸収分割承継│よって……吸収合併契約等の承認を│
│会社、株式交換完│受けなければならない。     │
│全親会社の手続 ├────────────────┼────────────────┐
│        │ 消滅会社等が存続株式会社等の議│ 消滅会社の株主に交付する金銭等│
│  =存続=  │決権の10分の9以上を有している│が存続株式会社等の譲渡制限株式で│
│  第796条 │場合には適用しない。      │ある場合であって、存続会社が公開│
│        │ =自分が支配されている場合= │会社でないときは、この限りでない│
│        │   消滅会社         │ =存続会社が譲渡制限株式を発行│
│        │    ↓ …… 90%    │している場合に、譲渡制限株式を割│
│        │   存続会社(こちらの手続) │り当てる場合は、《1》種類株式を│
│        │                │発行している場合は、その種類の種│
│        │                │株主総会決議が必要になり、《2》│
│        │                │そうでない場合は新株の発行につい│
│        │                │て株主総会が必要になるのでダメ。│
│        │                │           
     │
│        ├────────────────┼────────────────┘
│        │ 消滅株式会社の株主に対して交付│
│        │する存続株式会社等の株式の数に1│
│        │株当たり純資産額を乗じて得た額が│
│        │、存続株式会社等の純資産額の5分│
│        │の1を超えない場合には適用しない│
│        │。               │
│        │ =5分の1しか交付しない場合=
├────────┼────────────────┤
│ 吸収合併消滅会│ 消滅株式会社等は……特別決議に│
│社、吸収分割会社│よって……吸収合併契約等の承認を│
│、株式交換完全子│受けなければならない。     │
│会社の手続   ├────────────────┼────────────────┐
│        │ 存続会社等が消滅株式会社等の議│ 合併対価が譲渡制限株式等である│
│  =消滅=  │決権の10分の9以上を有している│場合で、消滅株式会社等が公開会社│
│  第784条 │場合は適用しない。       │であり、かつ、種類株式発行会社で│
│        │ =自分が支配されている場合= │ないときは、この限りでない。  │
│        │   存続会社         │ =譲渡自由の株式のみを発行して│
│        │    ↓ …… 90%    │いる会社の株主に、譲渡制制限株式│
│        │   消滅会社(こちらの手続) │を割り当てる場合は、《1》種類株│
│        │                │式を発行している場合は、その種類│
│        │                │の種類株主総会が必要になり、《2│
│        │                │》そうでない場合は、譲渡制限株式│
│        │                │への変更には株主総会の特殊決議が│
│        │                │が必要になるからダメ。  
   │
│        ├────────────────┼────────────────┘
│        │ 存続株式会社に承継させる資産の│
│        │帳簿価額の合計額が吸収分割株式会│
│        │社の総資産額の5分の1を超えない│
│        │場合には、適用しない。     │
│        │ =5分の1しか引渡さない場合=
├────────┼────────────────┘


◆ 外国会社と訴訟、雑則、それに罰則


 外国会社について、疑似外国会社の営業が禁止されたことから、ケイマンなどに本社を置き、日本に支店を置く会社が問題になる可能性が生じてきました。

 ▲条文▲
 第821条(擬似外国会社)
 日本に本店を置き、又は日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない。
 2 前項の規定に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

 そのほか、第7編として雑則編を設け、訴訟、登記、公告などについての事柄を一括して規定しました。ここに定めた公告方法は、なかなか貴重な知識になるかも知れません。二つの方法で広告することによって、債権者保護手続を省略することを認めたからです。
 ただ、登記や公告は、弁護士の専門外ですので、一括して定めてあるとの説明だけにして、内容は省略させていただきます。

 罰則については、商法と比較し、実質的な変更は行われていないと聞いています。いずれにしろ、罰則の知識が必要になることは少ないと思います。

 これで会社法の1条から979条までの説明を終わりにさせていただきます。



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