戻る 進む

 校正作業中

                               (第9回分)

◆ 合同会社の減資

 合同会社は、持分会社との意味では同一のグループに属しますが、合名会社や合資会社とは債権者保護の面で全く異なる規範に従います。合同会社は全員が有限責任だからです。
 しかし、合名会社も、いつの間にか合同会社になってしまうことが可能なのです。定款変更をしてしまえば良いのです。合資会社の場合なら、無限責任社員が退社し、有限責任社員だけになってしまえば、定款が自動的に変更され、合同会社になったとみなされます。

 ▲条文▲
 第639条(合資会社の社員の退社による定款のみなし変更)
 合資会社の有限責任社員が退社したことにより当該合資会社の社員が無限責任社員のみとなった場合には、当該合資会社は、合名会社となる定款の変更をしたものとみなす。
 2 合資会社の無限責任社員が退社したことにより当該合資会社の社員が有限責任社員のみとなった場合には、当該合資会社は、合同会社となる定款の変更をしたものとみなす。

 しかし、合名会社や合資会社と、合同会社との間には基本的な差異があります。合名会社と合資会社には出資の概念は存在しますが、資本金の概念は存在しません。特に、合名会社の場合は、労務や信用の出資が認められていますので、資本金などが登場する余地はありません。合名会社と合資会社では、資本金も、登記事項ではありません。

 620条には、合名会社と合資会社を包括する概念である持分会社について、資本金の定めを置いているとの意味で、位置付けが難しい条文です。合名会社、あるいは合資会社とは概念の異なる会社、つまり、有限責任社員だけで成り立つ合同会社という存在を認めたため、持分会社についても資本金概念が必要になってしまったことの矛盾を調整するために置くことにした条文ではないかと想像するところです。

 ▲条文▲
 第620条【資本金の額の減少】
 持分会社は、損失のてん補のために、その資本金の額を減少することができる。
 2 前項の規定により減少する資本金の額は、損失の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えることができない。

 合名会社と合資会社には資本金との概念は存在しませんが、しかし、定款の変更、あるいは無限責任社員の退社によって合同会社になってしまいます。そして、合同会社には債権者保護の為に資本金が必要です。この矛盾を解決するために、会社法は苦労しているように思います。本来は、合同会社は、株式会社にグルーピングする必要があったのかもしれません。

 合同会社の場合は、例えば減資については債権者保護規定を置いています。しかし、合名会社や合資会社には債権者保護規定は存在しません。なぜならば、合同会社の最後の砦は資本金ですが、合名会社、あるいは合資会社の最後の砦は無限責任社員の存在だからです。

 ▲条文▲
 第627条(債権者の異議)
 合同会社が資本金の額を減少する場合には、当該合同会社の債権者は、当該合同会社に対し、資本金の額の減少について異議を述べることができる。
 ==省略==

◆ 合資会社の利益配当


 合同会社は利益額を超える配当ができないとの規制があります。しかし、株式会社のように、300万円の純資産を確保すべきとの制限はありません。合同会社は、無限責任社員が存在せず、最低資本金制度も、300万円の配当規制も存在しないとの意味でも、会社法が採用した基本理論との整合性に矛盾する存在です。

 これは合同会社の生まれに原因があったのかもしれません。合同会社は、会社法の議論の終了間近に、経産省の提案に応じ、急遽、導入されることになった制度だからです。法務省の優秀な官僚は、全員が無限責任の合名会社、無限責任社員と有限責任社員が混在する合資会社、そして、全員が無限責任社員である合同会社と、まさに、モザイク模様としては上手に三つの会社を位置づけました。しかし、結果としては基本的な矛盾を作り出してしまったのが合同会社と言えるかもしれません。

 ▲条文▲
 第628条(利益の配当の制限)
 合同会社は、利益の配当により社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(以下この款において「配当額」という。)が当該利益の配当をする日における利益額を超える場合には、当該利益の配当をすることができない。この場合においては、合同会社は、第621条【利益の配当】第1項の規定による請求を拒むことができる。

◆ 定款の変更


 定款の変更には総社員の同意が必要です。持分会社の内部関係は、民法上の組合の規律が適用されるからです。民法上の組合は、組合員全員の相互の契約ですから、契約条件の変更には全員の意思の合致が必要であり、多数決で契約を変更することはできません。これが637条です。

 ▲条文▲
 第637条(定款の変更)
 持分会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができる。

 「定款に別段の定めがある場合」というのは、《1》総社員の同意によっても定款を変更できないとの定めを指すのか、あるいは、《2》総社員の同意が無くても定款を変更できるとの定めを指すのかが、読み取れません。

 つまり、《1》定款の変更はできないと書いてある場合は除いて、総社員の同意によって定款の変更をすることができると読むのか、あるいは、《2》仮に3分の2の多数決で定款を変更できると定めることが可能だと読むのかの疑問です。

 《2》の場合なら、通常は、このような条文にはしません。「持分会社は総社員の同意によって定款の変更をすることができる。ただし、定款をもって決議の要件を軽減することができる」と書きます。

 そうすると、やはり、持分会社の定款には、「変更することができない」との特別の定めを置くことが可能なのでしょうか。なぜ、新しく作られた法律を一生懸命議論しなければ意味が読み取れないのでしょうか。もっと分かりやすい条文を作る必要があったのではないかと思うところです。

◆ 社債


 持分会社を終わりにして、社債に移ります。株式会社と持分会社についての共通の条文として社債の条文が置かれています。つまり、持分会社も社債を発行することができます。
 持分会社の規模は小規模と予定されますので、通常は、持分会社は社債は発行しないと思います。しかし、最近、私募債の利用が提案されています。仲間内の50以下の人達に社債を発行するのが私募債です。

 ただ、良い私募債と、悪い私募債があります。良い私募債は節税のために利用される私募債です。社長が会社に融資をしている場合に、利息を受け取ると、雑所得になり、総合課税の対象です。地方税も加えれば最高で5割の税率が適用されます。でも、私募債にしてしまえば、社債の利息ですから、2割の源泉分離課税で済ませることが可能です。

 悪い私募債は、友達からカネを借りる手段として使われる私募債です。昔から、「友達からはカネを借りるな、友達にはカネを貸すな」と言われてました。当たり前の常識でした。

 しかし、「私募債を発行したので引き受けてくれ」「私募債を発行したので部長以上は100万円以上を引き受けてくれ」というと、友達や社員からの借金とは思えなくなってしまいます。私募債と名称を変えると、借金ではなく、別の種類の取引に見えてしまうのが人間の弱さです。

◆ 組織変更


 組織変更について説明させていただきます。組織変更の条文で、最初に混乱させられるところが、実体的な条文と、手続的な条文を区別し、別の章に置くとの条文構成です。実体的な定めを先に1章に置いて、5章に手続的な定めを置いています。

 組織変更は、《1》株式会社が持分会社になる場合と、《2》持分会社が株式会社になる場合を定めています。前述したとおり、持分会社内の会社の種類の変更、つまり、合名会社、合資会社、合同会社の間の異動は、組織変更の条文ではなく、定款の変更で行います。

 そして、定款の変更については債権者保護手続は不要ですが、組織変更の場合は、株式会社が持分会社になる場合も、持分会社が株式会社になる場合も、債権者保護手続が必要です。無限責任社員が有限責任になる場合、つまり、合名会社が合同会社になる場合には債権者保護手続は不要なのですから、組織変更において債権者保護手続が要求される根拠は、社員の責任の問題ではなく、債務者である会社の形態が変わってしまうことについての債権者の保護にあるのだと思います。

◆ 合併


 株式会社と株式会社の合併は、当然、可能です。持分会社同士の合併、あるいは株式会社と持分会社の合併も認められました。

 合併における大きな特徴としては、消滅会社の株主に交付する合併の対価が、存続会社の株式に限定されず、現金や親会社の株式などの資産、あるいは社債を交付することを認めるなど、対価が柔軟化したことにあります。

 A社とB社の合併について、A社を存続会社とする場合に、B社の株主には、A社の株式ではなく、たとえば現金を支払ってしまうことができるわけです。それが合併決議、つまり、特別決議で実行可能なのです。

 いま、私が会社を経営しているとします。しかし、持ち株割合は8割で、残りの2割は弟が所有している。しかし、弟との関係が思わしくない。株主総会を開催しろとか、配当を支払えと煩くて仕方がない。

 そのような場合には、私が、もう一つ、別の会社を作るわけです。そして、別の会社を存続会社として、いま経営している会社を吸収合併してしまうのです。商法による合併なら、A社を存続会社としてB社を吸収合併したら、B社の株主に交付するのはA社の株式です。

 ところが、会社法では、B社の株主に交付する資産は、A社の株式に限定されず、現金でもよいわけです。そのような合併を行うと、現金を支払うことによって、株主から弟を追い出してしまうことができる。それが749条の定めです。対価が柔軟化したのは、合併に限らず、会社分割、株式交換の場合も同様です。

 ▲条文▲
 第749条(株式会社が存続する吸収合併契約)
 会社が吸収合併をする場合において、吸収合併後存続する会社(以下この編において「吸収合併存続会社」という。)が株式会社であるときは、吸収合併契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。
 ==省略==
 2 吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して株式会社である吸収合併消滅会社(以下この編において「吸収合併消滅株式会社」という。)の株主又は持分会社である吸収合併消滅会社(以下この編において「吸収合併消滅持分会社」という。)の社員に対してその株式又は持分に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項
  イ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該吸収合併存続株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項
  ロ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
  ハ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
  ニ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
  ホ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

◆ 三角合併


 三角合併との話を聞きますが、対価の柔軟化が、まさに三角合併の根拠になっているのです。

 米国の親会社と日本の子会社がある場合に、日本の子会社が、日本国内に存在する会社をM&Aで取得することを考えたとします。手段は、株式交換でも、合併でも良いのですが、その場合の対価として、米国の親会社の株式を交付することができるようになりました。これが三角合併です。

 日本IBMが松下電器の株主に吸収合併を提案する。しかし、松下電器の株主は応じない。そこで米国IBMが松下電器の株主に吸収合併を提案する。交付するのは米国IBMの株式になる。
 松下電器の株主総会の特別決議を経て、日本IBMは松下電器を吸収合併する。そして、米国IBMは松下電器を子会社にする。それに要するのは、米国IBMが株券を印刷するだけの手間だ。

 ただ、そのような手法は、3社が国内の会社であれば、商法でも実行可能でした。親会社Aと、子会社Bが存在する場合に、Bが別に存在するC社を吸収合併する場合は、まず、《1》親会社Aと、C社が株式交換をし、C社をA社の子会社にして、C社の株主にはA社の株式を交付する。その後、B社とC社が合併すれば、C社の株主にA社の株式を交付するとの結果を導くことができます。


            ┌────┐     ┌────┐
            │ 株主 │     │ 株主 │
            └────┘     └────┘
        株式交換   |          |
   ┌────┐ → ┌────┐     ┌────┐
   │ 株主 │   │米IBM│ →   │米IBM│
   └────┘ ← └────┘     └────┘
      |       |          |  |
      │       |          |  |
   ┌────┐   ┌────┐  ┌────┐┌────┐
   │松下電器│   │日IBM│  │松下電器││日IBM│
   └────┘   └────┘  └────┘└────┘
                     日IBMを存続会社とする合併



 あるいは、子会社BとC社を合併し、C社の株主にB社の株式を交付し、その後、親会社A社が株式交換を行い、B社株式を取得した旧C社の株主に、A社の株式を交付してしまうとの方法です。

 しかし、三角合併と言われる手法を税法が是認するか否かは、今の段階では全く分かりません。会社法を改正しても、税法を改正しなければ、絵に描いた餅にすぎません。

 唯一、税法が認めるかもしれないのは、合併の対価として、日本国内に所在する親会社の株式を交付する場合です。前述したように、合併と株式交換の2度の手続で実行できる手法ですから、税法上、これを認めても弊害はありません。

 しかし、現金を交付し、あるいは外国の親会社の株式を交付する三角合併は、税法上、適格合併として課税の繰延を認めるとの結論にはならないはずです。

 もちろん、現金を支払う場合でしたら、当然、消滅会社には譲渡益課税を行います。さらに、株主にも配当所得課税と、譲渡益課税が行われることになります。

 つまり、合併の対価は、株主が受け取るのですが、しかし、合併処理は、それだけの話ではありません。《1》消滅会社の全ての資産を存続会社に売却し、《2》その対価として株式を受け取り、《3》それを株主に交付するとの構成になっているわけです。それが税法上の理屈です。

 したがって、《1》と《2》の段階で消滅会社に譲渡益課税が行われ、《3》の段階で、株主に対する配当所得課税と譲渡益課税が行われてしまうのです。組織再編の怖さは、まさに、この3つの課税が行われてしまうことなのです。

戻る 進む