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                               (第8回分)

◆ 事業の譲渡等

 事業の全部、あるいは重要な一部の譲渡、又は、他の会社からの事業の全部の譲受け等の場合は、株主総会の特別決議による承認を受ける必要があります。これは商法245条と同様です。

 ▲条文▲
 商法246条(事後設立)
 第245条【営業譲渡、譲受等の決議】第1項の規定は会社が其の成立後2年内に其の成立前より存在する財産にして営業の為に継続して使用すべきものを資本の20分の1以上に当る対価を以て取得する契約を為す場合に之を準用す
 2 取締役は前項の契約に関する調査を為さしむる為検査役の選任を裁判所に請求することを要す

 会社の設立後2年以内に資産を譲り受けるときには、裁判所に検査役の選任を申し立てて調査を受けなければなりませんでした。しかし、検査役の調査には、どの程度の費用がかかるのか、どの程度の期間を要するのかが分からず、実務界からは批判がありました。
 その為、弁護士や税理士の証明でもよいとする商法の改正が行われたのですが、しかし、税理士の証明で良いと言われても、そのような証明書を発行するのにはドキドキするところがあります。土地の買い取りでしたら、不動産鑑定評価書を添付すれば良いのですが、しかし、特許権や、債権の評価を求められても、そのような資産を評価するノウハウは持ち合わせていません。仮に、実在する資産であることが確実であっても、増資手続に自分が書いた証明書が使われるとなると、一抹の不安が残ります。

 これらの規制を免れるため、設立後2年を経過した会社を購入するという無駄なことも行われてきました。しかし、会社法では商法246条は廃止され、事後設立についての検査役の調査は不要になりました。ただし、事後設立について株主総会の特別決議が必要なことは従前の通りです。

◆ 解散


 休眠会社の整理の期間が12年になりました。役員の任期を10年にまで延長することができることになりましたので、その後、2年間の経過で休眠会社になってしまうとの構造にしました。

 ▲条文▲
 第472条(休眠会社のみなし解散)
 休眠会社(株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したものをいう。以下この条において同じ。)は、法務大臣が休眠会社に対し2箇月以内に法務省令で定めるところによりその本店の所在地を管轄する登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出をしないときは、その2箇月の期間の満了の時に、解散したものとみなす。ただし、当該期間内に当該休眠会社に関する登記がされたときは、この限りでない。

 2年間というと、相当のゆとりがありますが、しかし、その前に10年間との長期間のゆとりがあります。10年間、取締役の任期に気を遣わなかった場合に、その後の2年間について登記の必要性に気がつくものでしょうか。

 休眠会社については、法務局からの事前の連絡がありますので、住所の変更がない限り対応は可能ですが、しかし、取締役の改選を怠ったとの理由により、過料を納めることになる事例は増えるように思います。

◆ 清算と特別清算


 会社を清算する場合は、裁判所への届出が必要とされていましたが、その届出義務がなくなりました。しかし、以前から実行されていなかった手続ですので、実務への影響はありません。特別清算についても影響のある改正はありません。

 会社の整理手続は廃止されました。再建手続について、会社更生、和議、会社整理との三本立ての時代があり、一時期、会社整理手続のメリットが賞賛された時代もありましたが、その後、民事再生法の制定などによって、会社整理の手続はほとんど使われなくなっていたようです。

◆ 持分会社


 株式会社の説明を終わりにして、持分会社の説明に入らせていただきます。会社法は、株式会社に対して、持分会社との概念を新設し、合名会社、合資会社、合同会社の三種類の会社を持分会社グループの住人として指名しました。

 しかし、実際には、持分会社を利用することは少ないと思います。いまさら、合名会社や合資会社を設立しようと考える人達は少ないはずです。最低資本金制度が存在した時代なら、1000万円、あるいは300万円を用意することができない人達が、とりあえず法人格を手に入れるために合資会社を設立するということもあったかもしれませんが、しかし、会社法は最低資本金制度を廃止しました。

 それに、持分会社には致命的な欠陥があります。社員の退社を認め、退社した社員は、出資持分に応じて、会社からの払い戻しを受けることができると定めていることです。

 仮に、持分会社が不動産を所有する場合に、社員が退社したときは、払戻金を準備するために所有する不動産を売却しなければならないかもしれません。会社に留保利益があるときは、出資持分に相当する部分の払い戻しが必要になります。つまり、社員の退社は会社の存続を脅かす事態を生じさせてしまうのです。これは医療法人の場合と同様です。そして、社員は自由に退社することができるのです。

 ▲条文▲
 第611条(退社に伴う持分の払戻し)
 退社した社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる。ただし、第608条【相続及び合併の場合の特則】第1項及び第2項の規定により当該社員の一般承継人が社員となった場合は、この限りでない。
 2 退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。
 3 退社した社員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。

◆ 合同会社と有限責任事業組合契約


 合名会社、合資会社、それに合同会社の三つを、持分会社と命名した法務省官僚の優秀さには驚かされます。経産省が横やりを入れてきた日本型LLCを、法務省の官僚は、上手に、合同会社として位置づけてしまったのです。

 合名会社は、社員の全員が無限責任社員で、合資会社は無限責任社員と有限責任社員が存在し、合同会社は有限責任社員のみという組織形態での位置付けです。まさに、ゲーム的な感覚としては綺麗な位置付けになっています。

 そもそも、合同会社は、経産省が日本型LLCとして提案してきたものです。経産省の意図は、LLCについて、パススルー課税、つまり、LLCとして事業を行うが、しかし、LLCには課税されず、LLCの構成員に課税するという制度を期待していたわけです。
 しかし、やはり、法務省の役人の方が優れていました。「いいよ、いいよ、導入してあげるよ」といって、導入したのですけれども、LLCを合同会社として会社法に組み込んでしまいました。

 会社法上の会社になってしまったのですから、国税庁が積極的に後押しをして、租税特別措置法に特例を設けるなどの対応をしない限り、合同会社についてパススルー課税が適用されるということはあり得ません。経産省の目論見は頓挫してしまったわけです。

 しかし、その後、経産省は、敵もさるもので、日本型LLPという制度を提案し、これは有限責任事業組合契約に関する法律として成立しています。有限責任事業組合は、民法上の組合ですから、当然、パススルー課税です。

 民法上の組合の場合は、人格がありませんので、組合に対する債権債務は、組合員個人の債権債務になり、組合員は無限責任を負うことになります。つまり、3人で共同して税理士事務所を経営し、事業経営に失敗し、あるいは誰かがミスをして損害賠償責任を負った場合は、組合員の3名全員が債務全額についての弁済の責任を負うことになってしまうわけです。

 しかし、有限責任事業組合契約の制度は、組合員を有限責任にしてくれたのです。したがって、3人で税理士事務所を開設し、組合員の1人が失敗したときでも、失敗した組合員は専門家として損害賠償の責任を負いますが、他の組合員は個人としては責任を負わなくて良いわけです。有限責任事業組合の財産の範囲での弁済義務を負うだけです。

 ただ、残念ながら、有限責任事業組合契約は、税理士、司法書士、弁護士は利用できないことになるはずです。それ以外の事業で、ちょっと危ないという商売を始めるときにはLLPは使えるかもしれません。仲間を探し、有限責任事業組合契約を締結してから商売を始めます。そうすれば事業に失敗した場合でも、組合員個人は責任を負わなくて済むわけです。

 逆に、有限責任事業組合と取引する場合は、相手は無責任組合なのだと認識して取引を行うべきです。有限責任事業組合と取引をしても、代金を支払ってくれないかもしれません。

 なお、LLC、あるいはLLPとの制度は、米国に存在する制度だとのことです。米国では、各々の州が事業を誘致するために、事業家にとって有利な制度を構築します。それがLLCであり、LLPなのだそうです。もともと、米国における法人格の概念は、日本のようにきっちりと確定したものではなく、LLC、あるいはLLPという、まさに中途半端な制度も、事業家に有利であり、企業誘致に役立つとの理由で採用されてしまうのが米国の実情のようです。

◆ 合同会社は無責任


 法務省の役人は、上手に、日本型LLCを、合同会社と位置付け、それを持分会社の一員と位置づけました。会社法では、《1》無限責任社員のみ、《2》無限責任と有限責任社員、それから、《3》有限責任社員のみと、上手に棲み分けの会社形態として位置づけました。

 では、有限責任社員のみの株式会社と、合同会社は、どこが異なるのでしょうか。立法担当者に説明させますと、株式会社は組織法上の存在だが、持分会社は、対外的には法人として人格を持つが、内部の関係には組合法理が適用されると説明します。ですから、持分会社の定款の変更は、全員の一致をもって行うことになっているわけです。社団について適用される多数決原理は採用されません。

 しかし、合同会社は、有限責任ですから、株式会社と同じで、出資者は、個人としては責任を負いません。さらに、株式会社でしたら、最低でも300万円までは会社に純資産を確保し、それを下回った場合は剰余金の分配が行えないとの制限がありますが、合同会社には、そのような制限は存在しません。

◆ 持分会社の資本金


 合名会社や、合資会社は、無限責任社員が存在しますので、資本金はゼロでも良いわけです。というより、合名会社や合資会社には資本金という概念が存在しません。資本金は登記事項にもなっていません。出資金との概念は存在しますが、しかし、資本金との概念は存在しないのが合名会社であり、合資会社です。合名会社の貸借対照表にも資本金が登場することがありますが、それは簿記会計の結果であって、法律上、資本金との概念が存在するわけではありません。

 しかし、持分会社の仲間でも、合同会社は異なります。合同会社の社員は無責任です。そして、合同会社には資本金の概念があり、それが債権者の為の最後の守りになっています。もちろん、資本金は登記事項です。合同会社の設立には出資の履行が義務付けられ、また、合名会社が定款を変更し、合同会社になる場合にも未履行の出資の履行が強制されます。

 ▲条文▲
 第640条(定款の変更時の出資の履行)
 第638条【定款の変更による持分会社の種類の変更】第1項第3号又は第2項第2号に掲げる定款の変更をする場合において、当該定款の変更をする持分会社の社員が当該定款の変更後の合同会社に対する出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していないときは、当該定款の変更は、当該払込み及び給付が完了した日に、その効力を生ずる。

 では、合名会社が組織変更し、合同会社になった場合には、合同会社の資本金は幾らになるのでしょうか。仮に、債務超過の合名会社が合同会社に組織変更をした場合には、資本金は幾らになるのでしょうか。

 合名会社のままなら、債務超過であっても、いずれ出資者が無限責任を負うのですから支障はありません。しかし、合同会社の場合は、出資者は無責任であって、最後の頼りは資本金しかありません。にもかかわらず、定款変更によって合同会社になった当初から、その会社は債務超過なのです。

 合名会社、あるいは合資会社という資本金の概念を持たない会社組織と、資本金の概念を持つ合同会社との組織変更を認めることについて矛盾が生じることはないのか、他人事ながら心配しているところです。

 持分会社としてグルーピングしましたが、合同会社は、商法時代の常識からすれば、全く異質な存在なのです。本来は有限会社、あるいは株式会社にグルーピングされるべき存在だったのです。

◆ 持分会社間の組織変更


 合名会社、合資会社、合同会社の相互の組織変更は、定款を変更するだけで行うことができます。持分会社と株式会社間の組織変更も可能ですが、それには債権者保護手続などが必要になり、また、組織変更として特別の定めがありますので、後に説明することにします。

 ▲条文▲
 第638条(定款の変更による持分会社の種類の変更)
 合名会社は、次の各号に掲げる定款の変更をすることにより、当該各号に定める種類の持分会社となる。
 1 有限責任社員を加入させる定款の変更合資会社
 2 その社員の一部を有限責任社員とする定款の変更合資会社
 3 その社員の全部を有限責任社員とする定款の変更合同会社

 さて、持分会社間の組織変更は、定款の変更によって行うことが可能になるのですから、仮に、合名会社が債務超過の場合であっても、合同会社への組織変更が行えるはずす。

 持分会社間の組織変更については、債権者保護手続も要求されていません。会社の組織変更によって、無限責任社員が有限責任社員になった場合には、その旨の登記を行う前に生じた債務については、無限責任社員として弁済の義務を負います。ただし、登記から2年間が経過すれば、無限責任社員の義務からは解放されます。

 したがって、債務超過になり、社員が無限責任を負うことになってしまった合名会社でも、定款を変更し、合同会社になり、その後、2年間、会社を継続することができれば、無限責任社員は無限の責任から解放してもらえることになるわけです。

 ▲条文▲
 第583条(社員の責任を変更した場合の特則)
 ==省略==
 3 無限責任社員が有限責任社員となった場合であっても、当該有限責任社員となった者は、その旨の登記をする前に生じた持分会社の債務については、無限責任社員として当該債務を弁済する責任を負う。
 4 前2項の責任は、前2項の登記後2年以内に請求又は請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後2年を経過した時に消滅する。

◆ 法人も無限責任社員


 合名会社、あるいは合資会社について、法人も無限責任社員になれることになりました。もちろん有限責任社員にもなれます。

 有限責任の法人が、合名会社の無限責任社員になるというのも不思議な現象だと思いますが、これを禁止する理由はありません。大手の上場会社が、自社の不動産を管理する会社を設立する場合には、自社を出資者とする合名会社を設立すれば良いのかもしれません。



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