私自身のためのメモです。
平成21年の記録。
私が読んで良いと思った本 ☆
さらにお勧めの本 ★
222
早わかりIFRS
グラーバルタスクフォース
PHPビジネス
2009/12/22
会社法は、会社計算規則の影響を受け、会社計算規則はIFRSの影響を受ける。
しかし、国際会計基準の思想を理解している者が、はたして、存在するのだろうか。
一例として、なぜ、時価承継なのか。
その理由を「取得だから」という以上に説明できる専門家が、存在するのだろうか。
IFRSの思想まで説明してくれていたら嬉しい。
どうも、実利実益に直接の影響がない「表示」の問題には興味が持てない。
IFRSの歴史と、最終結果としての計算書類の種類だけを抜き出しておこう。
P29
その結果、EU域内の上場企業にIFRSの強制適用をいち早く決定したことで、2012年ごろ、IFRSがEUを超えて世界150か国に広がるまでに浸透し、IFRSを適用する市場の上場企業の時価総額は米国会計基準を適用するものをすでに上回るまで拡大するに至りました。
さらに会計基準の大方針という視点でも、複雑なルール主義の米国会計基準より原理原則を中心としたIFRSのほうが、よりわかりやすく採用しやすいという面などから、将来経済発展が見込まれるBRICsなどの新興国もIFRS採用を予定しています。
P42
国際会計基準で要求されている財務諸表は、日本基準でいう「損益計算書」「貸借対照表」のかわりに、それぞれ「包括利益計算書」「財政状態計算書」を用い、それに加え「キャッシュフロー計算書」、そして「株主持分変動計算書」「会計方針及び注記」の5つが指定されています(IAS1『財務諸表の表示』)。
221
東京の中古ワンルームマンションを3戸持ちなさい
重吉 勉(不動産管理業)
かんき出版
2009/12/16
プロの解説書です。
ワンルームへの投資は、私のスタイルとは違いますが。
でも、サラリーマンが、家族の生活の安心と、老後の生活のプラスαを考えるとしたら、ワンルームが限度で、かつ、安全かも知れない。
その点の考え方の違いがあるだけで、他は、私が常に考えていることと一致します。
この書籍を読んで貰えば、私が講演会で語ることの6割ぐらいはカバーしているかも知れません。
ハウスメーカーの一括借り上げを餌にしたセールスに乗るのは危険。
人口が減り続ける地方都市のアパート建築は中止すべき。
賃貸物件投資は、人口が増え続ける東京地域に限る。
東京都内の「中古」ワンルームマンションが投資の対象。
東京の単身世帯数は、今後も、増え続ける。
東京の魅力は世界屈指の経済力。
不動産投資における最大のリスクは債務。
リスク軽減の最善策は繰り上げ返済。
賃貸収入以外の収入から繰り上げ弁済を急ぐ。
多額な預金よりは、安定収入の方が老後の生活の安心感は高い。
賃貸物件投資は、働き手の病気、死亡などに備え、家族の生活を守るためにも有効。
不動産投資の最終目標は、資産だけが残り、借金がゼロになること。
不動産投資は、経済状況や地価変動の波を読み、休むことが必要。
ファミリータイプは、空室期間や、賃料不払い、内装のメンテなどリスクが高い。
昭和30年代の男性の平均寿命は63歳だが、現在は79歳。
人間の人生は、私達が想像している以上にずいぶんと長いものなのです。
木造アパートは老朽化から逃れられない。
アパート投資は難しい商売で、20年前の投資で苦しんでいるオーナーもいる。
節税目的の不動産投資は失敗する。
P64
また、日本語ではどうかというと、「不動産」ですから、「動かずに産む」という意味ですね。私は、さらにこの不動産の「動」という漢字ににんべんをつけたいと思います。そうすると「不動産」が「不働産」となり、「働かずに産む」という形になります。つまり、不動産というのは、あなたが働かなくても収益を産んでくれる本当の資産なのです。
P184
左ページ下段の2008年の都道府県別転入超過数を見てください。総務省が住民基本台帳から算出した47都道府県の転入・転出超過数をまとめたものです。08年でみるとじつに41道府県で転出者が転入者を上回り、そのぶん人口が減少しています。
逆に転入者が転出者を上回ったのはたった6都県。なかでも東京だけがダントツで増えています。08年だけで8万3000人も増えています。1998年から2008年までで約70万人もの人が東京に転入しているのです。
P200
ここで問題となったのが倒壊により亡くなった方に対するオーナーの責任です。実際に、遺族がオーナーを相手取り、訴訟を起こしたケースがあります。震災により建物が倒壊し、1階に入居中の4人が死亡。建物自体に問題があったとして総額3億334万円の損害賠償を求めて訴訟を提起したのです。
注目の判決は、「建物オーナーは遺族に対して総額1億2883万円支払え」というものでした。判決の根拠となったのは、倒壊した建物が建築当初から当時の建築基準を満たしていなかったという事実です。そのため、建物の倒壊原因のすべてが「地震」によるものではなく建物自体にもあると判断され、オーナー側の責任が認められたのです(神戸地裁平成11年9月20日判決 判例時報1716号105頁)。
220
私家版・ユダヤ文化論
内田 樹(神戸女学院大学文学部教授)
文春新書
2009/12/13
これは私個人の知的関心に限定して書かれたユダヤ人論である。
ユダヤについて中立的で正確な知識を得たいと思う人のために書かれたものではない。
そのような書物を望まれる方は、この本はそのまま書棚に戻されて、より一般的な他の入門書を手に取られた方が良いと思う。
そのような書き出しで始まります。
まさに、ゾクッとするような書き出しです。
本でも、論文でも、書き出しが良ければ、本文も良いものです。
それはカミユが語るまでもなく。
私が本書で論じたのは、「なぜ、ユダヤ人は迫害されるのか」という問題である。
なぜ、「私家版」なのか。
それは、著者が主張し、論じる事実の公平性について、読者に対する証明を省略していることにあるようです。
もちろん、著者は、自己の主張の根拠と正確性を確認し、信じていますが、これを論証しようとすると、大量の些末な論点を検証して示す必要が生じてしまう。そのような論証を省略し、著者が信じる論点をストレートに提供してくれたのが本書です。
さて、「なぜ、ユダヤ人は迫害されるのか」。
うーん、難しい。
文章は読みやすく、平易であり、論理的なのですが。
その論理が、1ページ毎に進展してしまう。
著者の優秀さについていけない。
この書を要約することには、流れの速い川に浮かんだ笹舟の動きを要約するような難しさがある。
では、本書を保存し、時々取り出して、気になった箇所を読んだら、理解が深まるだろうか。
それも難しそうな気がする。
流れに乗った笹舟は、流れの最初から見続けなければ、何故、そこにいるのかが分からない。
219
寝ない関係
モト冬樹
ワニブックス
2009/12/11
話題作りの本だろう。
その意味では、上手なネーミングだ。
書き出しは、結構、まともだ。
P19
そもそも、同じ距離感で全員とは付き合えるわけがないですよね。もしくは、最初は一定の距離感を持って付き合ってるんだけど、自然と深くなっていく人とそうでない人がいる。
当たり前ですが、みんなと友達にはなれません。最近は、この基本中の基本のことがわかっていない人が多いのかもしれません。「誰とでも仲良くしたい」、「誰にでもいい顔をしたい」、「誰にも嫌われたくない」など、どっちつかずな関係性を作ってしまう人が多い気がします。
結局のところ、みんな一人が基本だと思うんです。
だから、自分にとってマイナスになる人や悪影響を及ぼしかねない人とは付き合わないほうがいい。それだったら一人のほうがいいって僕は考えちゃうんですよね。
218
舛添メモ
舛添要一
小学館
2009/12/09
国会というのは、人口の多い村役場なのだと知った。
村役場の庶務課長が、年金問題、患者たらい回し問題、新型インフルエンザ問題で活躍する。
グータラな公務員が何年にもわたって、前例に従い、承知上で、デタラメな処理を続ける。
庶務課長は、始めてそれを知ったような顔をして記者会見し、マスコミに向けた見当違いの対策に駆け回る。
コストを無視した対策が取られるが、見当違いの対策なるが故に、成果は得られない。
民間会社なら、とうの昔に倒産しているだろう。
これは当然のことなのだろう。
経営に関して公務員と政治家は素人。
217
大人げない大人になれ
成毛眞(マイクロソフト元社長)
ダイヤモンド社
2009/12/09
我慢を日本では美徳と考える傾向がある。
しかし、この人達は、仕事を好きでやっている人達に勝てるはずがない。
マイクロソフトも、規模が拡大し、真っ当すぎる大人で溢れかえった。
それが著者が、マイクロソフトから離れることにした理由。
ネオテニー、つまり、未成熟である期間が延長された生物として、人間は成長した。
人間は、チンパンジーのネオトニー、つまり、大人になれない動物なのだ。
物事に夢中になることを意識的にコントロールすることは不可能だ。
だから、夢中になれることに出会えたら、その幸運に感謝しなければならない。
多くの大人は、例え興味を引かれるものに出会っても、自分で言い訳を並べ立てて手を出さない。
しかし、いつまでたっても、仕事が落ち着くことはないし、そう都合よく切っ掛けが訪れることもない
常に、何故かと考え続けることで奇抜な発想が生まれてくる。
こういった考え方は多くの人に嫌がられるかもしれないが、1割ぐらいの人は必ず面白がってくれる。
これまでの職業は、ブルーカラーとホワイトからの二分類だった。
それにクリエイティブ・クラスという創造性を発揮し、コアになる人達が登場する。
等々、全て、納得ができる内容です。
引用すれば、全てを引用してしまうことになります。
その中で、著者の主張を一番に表しているのが「社長と新入社員で張り合ってどうするんですか」という言葉。
そうですよね。
部下も上司も関係ない。
年齢も関係ない。
優秀な友がいれば、そこで張り合う。
アホな友は、競ってくるので、うっとうしい(これは関根の言葉)
P160
よくあるのが、「役立つ資格は何か」というものだ。結論から言えば、お勧めできるようなものはない。ただし、簿記3級だけは別である。とはいえ、これも資格が目的ではなく、簿記の勉強をすることで、会社がどのように運営されているかを知るために役立つからである。
P175
読書において重要なことは、本の内容を頭の中に入れることではない。大事なことは記憶することではなく、本を読むことで衝撃を受け、自分の内部に精神的な組み換えを発生させることだ。これは、単なる記憶以上に、自分の考えや行動に影響を及ぼすのである。
P207
なお、本書は石田忠司とのいわば共著だ。石田君は4年前のインスパイアの新入社員だった。彼は、コンサルティング・ファームや投資銀行にも内定をもらっていた引く手あまたの人材である。同じ頃、彼はインスパイアでインターンをしていた。1週間のインターン期間が終了した夜の食事会で、私から「君は大成しないな」と言われたというのだ。石田君はそれに腹を立てて入社してきたのである。
事の真相を明かせば、あまりにも立派な人材だったので、つい対抗意識をもってしまったのである。そして石田君は、その復讐をするために入社してきたのだ。見かねた取締役の見満周宣が石田君を預かることになった。「社長と新入社員で張り合ってどうするんですか」と二人はたしなめられたのだ。大人げない人は、大人げない人を見つけて仲間にする不思議な力があるようだ。
大人げなさが、大人げなさを呼ぶ。その先には、平均からは激しく逸脱した楽しい人生が待っているはずだ。
216
突然マルサがやって来た
磯貝清明(元FX投資家)
小学館
2009/12/09
FXは、何故、大金が儲かったのか。
どのような発想で投資をしていたのか。
皆さん、この著者のように破綻をしたのだろうか。
あるいは、途中で手を引き、一財産を作ったのだろうか。
P58
そして、FXを始めて2年目の2005年には、利益が1億円を突破しました。早っ!
どうしてこんなに勝てたのか、いろんな人から質問を受けるのですが、「コレ!」といった特別なトレード方法があったわけではありません。あえて言うなら、ここ一番の度胸と、多少の損失にも動じない精神力、いや鈍感力といったところでしょうか。
加えて、当時の為替のトレンドにも助けられました。
このころから本格的な円安トレンドが始まり、各国の政策金利もグングン上昇していったのです。
要するに、外貨を買えば基本的に儲かる。ときどき損もするけれど、のんびり待っていればそのうち値を戻すことが多かったし、その間はスワップポイントがガッポリ入ります。
P68
案内してもらった部屋は、広々とした1ベッドルームタイプ。
普段寝泊りしている雑然とした部屋とは似ても似つかない、高級ホテルのスイートのような豪華な部屋でした。
P69
家賃は月80万円。
2006年5月、僕はついに、ヒルズの「住人」になることを決めたのです。
P86
1億ボンドというと、その当時のレート(1ポンド=約250円)で日本円に換算すると約250億円!「日本で一番ポンド/円を持つ男」といわれていたくらいです。
しかも、ポンドは値動きが荒いので、1日の間に2〜3円はカンタンに変動します。1億ポンドを持っているということは、為替が1円動くと、資産が1億円動くということです。そりゃもう、とんでもないことになっていました。
P89
そうなると、円安になればなるほど儲かります。
買うから円安になる。円安になるから買う。その繰り返しを続けているうちに、海外の機関投資家やヘッジファンドが、どれだけ円高にもっていこうとしても、日本のFX投資家が、それを跳ね返すだけの力を持つようになっていったのです。
そして2007年7月20日、ついに1ポンドが251円を超えました。ここ数年でもっとも円に対して高くなった瞬間です。
P102
そこで言い渡されたのは、世にも恐ろしい数字。
2004年から2006年までの3年間で、僕が申告していなかったFXの利益は4億5000万円にのぼりました。そして、納税しなければならない所得税の額は、なんと1億6000万円!!
P132
話がそれちゃいましたが、とにかく僕が罰金刑を科せられるのは間違いないということで、国税局の人たちが、
「罰金を払うのに使ってください」
と言って、3000万円だけ、差し押さえずに残しておいてくれたのです。果たして罰金がこの額でおさまるのかどうかはわかりませんが。
215
骨董屋ピンクス
デニー・ピンクス
ミルトス
2009/12/03
読んだ本は、ほとんどを捨てているのですが。
でも、捨てられない本がある。
書棚から、コロッと落ちてきたのが骨董屋ピンクス。
イスラエルのヤフォに立ち寄ったときに、ピンクス氏の店を探したのですが、見つからなかった。
高齢な方なので、たぶん、その頃は、店を閉めていたのだと思う。
P35
「あなたはあの水差しがどんなものかご存じですか?いつの時代のものかわかりますか?」
「ええ、わかります」男は仕事をつづけようと歩きはじめた。私は彼を引き止めた。
「言ってみてください」
「第二鉄器時代のものです」
わたしは自分が失神するのではないかと思った。そう答えたのがイガエル・ヤディン教授(イスラエルの高名な考古学者)だったら、驚くこともなかったが…一介の街の清掃人がどうして?男は去っていったが、別れ際に「さようなら」と言い、急いでいるかのように時計を見た。
P37
「おわかりのように、わたしはドイツで生まれた人間です。妻と三人の子供がいて、教師をしておりました。実を言うと、ベルリン大学の歴史考古学部の教授でした。ある日、わたしはナチに逮捕され、アウシュビッツに送られました。妻と子供は私の目の前で殺されました。わたしから離れるのを拒んだため、犬のように撃ち殺されたんです。強制収容所にいるあいだ、わたしはこの世でもっとも汚い仕事をしていました。ナチのために、死んだユダヤ人の金歯を集めていたんです。そのときわたしは神に誓いました。もしこの地獄を生きて出られたら、わたしはかならず聖地へ行って、そこの掃除をして暮らします、と。これがその仕事です」
わたしたちが何時間そこに座っていたかわからない。わたしの口はからからに乾いていた。あまりの苦痛の大きさに、涙を流すことすらできなかった。わたしは空にむかって叫びたかった。「ああ、神様、これをごらんになったでしょうか、彼の声がお耳に届いていたでしょうか?」
214
ウェブはバカと暇人のもの
中川淳一郎(ニュースサイトの編集者)
光文社新書
2009/12/01
ネットは集合知ではなく、集合愚だそうです。
凡庸な人間がネットを使うことによっていきなり優秀になるわけではない。
ネットの可能性なども、覚めた目で語っています。
紙に印刷したグーテンベルグの時代が終わり、空に印刷するネットの時代が到来するとしても。
文章を作るのは、印刷機ではなく、人間ですね。
ネットの時代は、才能のない人達が発掘される時代ではなく、才能のな人達にも発言の機会を与えただけなのかも知れない。
本書の著者は、優秀だと思う。
本書の後半部分は読ませます。
P191
ネットは暇つぶしの場であり、人々が自由に雑談をする場所なのである。
放課後の教室や、居酒屋のような場所なのである。
P230
情報チャネルが増えたからといって、それは多様化をもたらすわけではないのだ。
P231
これと同様に、ネットがあるからといって駄作が続々と大ヒットする現象は起こっていない。
「ネット発大人気お笑い芸人」「ネット発大人気落語家」「ネット発大人気役者」も登場していない。
ネットだからすごいのではなく、良いものは良い、良いものだからすごい、それだけなのだ。
P232
日々事件が起こっては、それに対し徹底的に調べる人がいて、次のネタを血眼で探し、それを消費して飽きたら次のネタを探す。
そういった意味で、ネット社会はものすごいスピードで動いている。
だが、これは何も生み出さない。暇つぶしの材料を与えるだけである。
P237
人間が使っている以上、ネットはこれ以上進化しない。
十分、我々は進化させた。もういいじゃないか。
電話やFAXにそれ以上のものを求めず、便利な道具として今でも重宝しているのと同様に、ネットにもそれくらいの期待値で接していこうよ。
これが本書の結論である。
P238
インターネットを使うようになったからといって、飛躍的に能力が向上したわけでもないし、突然変異のごとく頭が良くなったわけでもない。
インターネットがあろうがなかろうが、人間は何も変わっていないのである。
P241
だが、多くの人にとってネットは単に暇つぶしの多様化をもたらしただけだろう。
ネットがない時代にもともと優秀だった人は、今でもリアルとネットの世界に浮遊する多種多様な情報をうまく編集し、生活をより便利にしている。
ネットがない時代に暇で立ち読みやテレビゲームばかりやっていた人は、ネットという新たな、そして最強の暇つぶしツールを手に入れただけである。
213
怒る技術
中島義道(哲学博士)
角川文庫
2009/12/01
日本は言論弾圧の国です。
この言論弾圧の歴史は、恐らく、ヒミコの時代にまで遡るのではないか。
なぜなら、言論弾圧は、日本の文化になっているからです。
言論を弾圧する本人達は、自分達が言論を弾圧しているとは思っていない。
まさに、文化としての言論弾圧の社会。
感情を持った「個人語」をつぶし、感情を持たない「世間語」に置き換える。
そして、怒りなどの感情を表に出さない社会が作り上げられていく。
定型的で毒を抜き取った安全な言葉である「世間語」を使う社会です。
P8
固有の言葉を語り出す人を「ジコチュー!」とか「無礼者!」と言って排除する。いや、もっと巧妙で「あなたには思いやりがない」とか「ひとを傷つけないように」とか「もっと言い方に気をつけて」という「やさしい」言葉をふんだんに振りかけて個人語をこなごなに粉砕しようとする。
こうして、多くの人は人間として、いや生物として怒りを当然発すべきときにも発しない、いや発することができない、という症状に陥っている。だれも怒らない。そして、だれかが怒りそうになると、みんなでそれを必死になだめようとする。怒ったらもう負けだ、と言わんばかりに、非難の目で見る。
こういう空気の中に適当に自分を合わせていけるたくましい人は、それでいいのです。善良な市民のように、感受性も思考力も麻痺してしまい、しかもそのことに気づかず、みんなと同じであることに無性に喜びを感じている輩なら生きていけるのです。
212
毒舌の会話術
尾原しげる(アナウンサー)
幻冬舎新書
2009/11/30
伝達力の強い会話には「本音」は欠かせない。
本音には往々にして「毒」が含まれるものだ。
そして、毒には「嫌われる」というリスクがある。
しかし、「薄い会話」ばかりだと、「説得力」が生まれにくい。
「親密な関係」「信頼感」は「濃い会話」によって築かれる。
「伝導率の高い、濃い会話」を成立させるためのポイントの一つが「毒舌」だ。
これが本書のテーマです。
日本人はユーモアを理解しないと言います。
これはユーモア、エスプリ、あるいはジョークの本質が理解されていないからだと思う。
ユーモアは自分を笑いますが、エスプリ、あるいはジョークは他人を笑います。
つまりは、切り口として、エスプリは毒舌なのです。
毒舌が否定的に捉えられている日本の文化は未成熟だと思う。
皮肉と嫌みの違い。
皮肉と毒舌の違い。
ここらも具体的な事実で比較してみると面白い。
211
信託で変わる「相続」の常識
方波見寧
PHP
2009/11/30
信託は、相続に限らず、魔法のツールのはずなのですが、誰も利用しません。
誰も利用しないので、利用のノウハウが手に入りません。
そこで本書を手に取ったのですが。
上品な入門書でした。
領主の権限が強かったイギリスで、土地所有権を確保する為の制度として始まったのが信託。
信託の名義人(受託者)が裏切り、信託財産を取り上げてしまう事例が多発した。
そこで、法律ではなく、良心による裁判制度が作られた。
つまり、コモンロー裁判所とは別のエクイティ裁判所です。
信託財産はバケツであり、登場人物は3人だが、それらは家庭内で賄われるのが通例。
米国では、信託が設定されてない場合は、財産が公開されるが、その公開を信託が防止している。
誰に、どの財産を渡すかだけではなく、様々な条件を付して渡せるのが信託。
遺言代用信託が、利用には便利な制度。
立命館の講義で信託を取り上げましたが、まるで講義を聴いていたかと思うような同じストーリ。
立命館の講師が考えた「信託を理解するためのストーリー」と同一の思考過程での説明でした。
210
ハッピー・リタイヤメント
浅田次郎(小説家)
幻冬舎
2009/11/26
壬生義士伝の作者が、自分を主人公にした小説。
疲れた頭には小説が良い。
それに、やはり、プロだ。
文章に遊びがあり、面白い。
神田の御輿の描写など、やはり、調査が行き届いている。
この好奇心と、人間に対する興味が、作家の才能なのだろう。
実務家が書いた書籍を読み慣れた頭には、作家の流れるような文章が心地よい。
P116
その後も先生はマイノリティの底力をいかんなく発揮して、景気低迷とはうらはらに稼ぎまくった。かつては不幸肥りをしていた妻もおよそ15キロの減量に成功し、茶室の床に花なんぞ生けているさまを見れば、とうてい同一人物とは思えない。
また極貧生活のさなか、「暴走族にだけはなるなよ」と叱り続けていた倅は、眉毛が生え揃ったなと思う間に東大を卒業して外交官になった。ガングロであった娘は、色白になったなと思う間に医大を出て、今はアメリカに留学中である。
二十数年の間にいったい何が起こったのか、書斎にこもりきりの先生にはよくわからないのだが、結果はそういうことであった。
209
ポル・ポト革命史
山田寛(元讀賣新聞サイゴン支局長)
講談社選書メチエ
2009/11/24
歴史上、集団の狂気が、幾つか存在します。
十字軍
ナチスドイツ
日本陸軍
ポル・ポト
今現在も、多かれ少なかれ、集団の狂気なのだと思います。
小泉政権
裁判員制度
民主党政権
集団の狂気の中にいるときは、それが空気なのだろう。
だからこそ、批判的な視点で事象を見なければならない。
さて、ボル・ボトの集団の狂気は、どのように始まったのだろうか。
アウシュビッツと同じ狂気です。
しかし、殺すために拷問し、拷問して殺す。
東洋文化の怖さを感じる。
篠田節子氏が弥勒で紹介した社会です。
P101
国民を洗脳するための政治宣伝には違いないが、ポル・ポトら最高指導者たち自身が、本当にそう思っていたようだ。その思い込みの強さのために、「このような世界に類のない素晴らしい革命だからこそ、内外の敵が破壊工作を仕掛けてくるのだ」との疑念の固まりになってしまう。その疑念が、やがて、粛清やベトナムとの対決を一気に加速させた。
P115
供述書とは、S21当局が少しでもそれが必要だと考えた囚人たちに書かせたものだ。約4300人分が残っており、1991年から米コーネル大学が、2年がかりですべてをマイクロフィルムに収めた。一頁の簡単なものもあれば、数百頁にのぼる大作もある。とくに重要な囚人は長期間、何回も何回も書かされている。大半が拷問を受けて、政権指導部と監獄当局の気に入るように書かされているから、陰謀や裏切り行為を自白している部分も、真実とかけ離れたものが大半のようである。そして、どんな供述をしようと、結果は一つ、死だけだった。
P215
だが、ポル・ポトも最後には小さなテーブルで妻娘と夕食をとる慎ましい喜びを口にする父親になった。S21の恐怖の所長ドッチは、難民救援に励むクリスチャンの足長おじさんに変身していた。革命のパブルがはじけた後の元指導者の老人たちの責任のなすり合いは見ていて無残というほかないが、要するに、ポル・ポト派も普通の人間たちだった証拠といえるのではないか。普通の人間たちが一つの方向にめちゃくちゃに突進したら、いくらでもこうしたことが起こり得る。オセロ・ゲームのように白から黒にそろって変わってしまう。だからこそ恐ろしいし、その歴史も知ってほしいと思うのだ。
208
雅子さまと「新型うつ」
香山りか(精神科医)
朝日新聞出版
2009/11/24
精神科医が、診察もせず、他人を「新型うつ」と診断し、それを書籍のタイトルにしても良いのだろうか。
ただ、「新型うつ」という類型は気になるので、本書を手に取ってみた。
うつ病を理由に休職し、友達と会ったりジム通いをしたり、遂には「リハビリ」と称して海外旅行に行ってしまう。
「会社を休んでこんなことをしていていいのか」という罪悪感めいた言葉が聞かれることはなかった。
つまりは、その間、会社の人達が仕事をカバーしていることに思いが至らない。
それが「新型うつ」なのですね。
社会は、自分の自己実現の為に存在すると考える人達。
これは誰にでもある傾向なのですが、その点について他人に対する配慮がなく、自分の気分を優先する。
仕事は、他人との関わりで存在するという視点が欠如している人達。
さらには、本人が考えるほど、自己期待値についての能力を持たない場合が多い。
第三者から見たら、単なるワガママなのですが、本人してみたら、それが「うつ」。
家庭で精神混乱によるパニックを起こし、動悸、めまい、吐き気が出現するのなら、それは病気でしょう。
会社で部下を使う人達って大変だと思った。
P140
“仕事を通して自分の存在の意味をつかまなければならない”と思ってしまう時代の若者は、いくら条件的には恵まれていても決してラクとは言えないだろう。
もっと言えば、現代の若者の多くは、仕事を通して自己実現を達成しなければならない、と感じており、自己実現には結びつかない仕事をしていても価値はない、とも思っているのだ。
P145
やりがいのあることをやりたいなら、まずふつうの仕事ができるところを見せてほしい、と考える雇用者側。ふつうの仕事はできないけれど、やりがいのある仕事ならなんとかがんばれるはず、と言う新型うつの労働者。どこまで行っても両者の主張は平行線をたどるばかりだ。
P150
よく考えれば、それまでのルーティンワークをうまくこなせなかった人を、よりむずかしい仕事につかせたらそれをラクラクとこなした、などということがあるはずはない。ヒロミさんが、海外との版権ビジネスの仕事を自分の思っていた通りにこなせなくても、それはあたりまえといえよう。
207
がん検診は誤解だらけ
斉藤博(国立がんセンターがん予防・検診研究センター検診研究部長)
NHK出版
2009/11/24
がん検診の有効性は、語る医者によって異なる。
さらに、どのような検診を受けたらよいのか、一般素人には分からない。
そのことを簡明に語ってくれていたら嬉しい。
うーん、難しい。
日本人全体を母集団とした効果を論じているのか、私個人についての効果を論じているのか。
世界では3つのがん検診、日本でも5つのがん検診しか受診は奨められないという。
では、私自身が、胃カメラを飲み、CTやMRの検診を受け、PETを受けることには意味がないというのか。
筆者は、もちろん、ここらを正確に説明しているのだと思います。
ただ、私の能力では、ここが読み切れなかった。
必要、かつ、充分の健康診断のリストを得たいと思っているのですが、医者側の意見も多種多様で、なかなか理解できない。
P66
それは子宮がんの細胞診というがん検診、マンモグラフィによる乳がん検診、それと便潜血検査による大腸がん検診です。この3つのがん検診以外には世界中で行われている検診はありません。
P100
まず、受診が奨められている、推奨されるがん検診には、わが国では5つあります。バリウムを使った胃のX線検査、子宮頸がんの細胞診検査、乳房のマンモグラフィ検査と視触診の併用、大腸の便潜血検査、肺のX線検査と喀痰検査の併用です(4ーページ【図表1−9】)。
P117
この10年あまりの間にがんの検診法において、世界的に何か目覚ましい進歩があったかと問われると、新しく有効性が確立された検診法というものは、大腸がんに対する便潜血検査法があるくらいでほかには存在しません。しっかりした検査法なり検診法というものはそう一朝一夕にできるものではなく、数多くの見込みのある情報があったとしても、その中で本当に成果と結びつくのはごくごくわずかと考えたほうがよいのです。最初は夢の検査法として人々に多大な期待を抱かせる新情報が流れたとしても、数年経って振り返ると結局のところ何も残っていないということが、よくあります。
206
不況になると口紅が売れる
山川悟(東京富士大学経営学部教授)
マイコミ新書
2009/11/19
奇をてらったタイトルの本は好きになれない。
タイトルは書籍のテーマを伝えるためのメッセージだと思う。
本書のテーマは、商品の提供は、モノの提供ではなく、サービスの提供でもなく、楽しさ、遊び心の提供だという視点です。
トムソーヤが、嫌で仕方がない塀のペンキ塗りを、ハックルベリーに引き受けさせ、かつ、リンゴを手に入れたあの手法です。
仕事に遊びを見付ける。
買い物を遊ばせてしまう。
教科書を読むのは苦痛ですが、小説を読むのは楽しい。
顧客が楽しいと思える入り口を作る。
その意味での著者の主張には共感できます。
ただ、その手法が見つからないのですが。
205
「ランチェスター経営」であなたの会社が強くなる
竹田陽一(中小企業コンサルタント)
サンマーク出版
2009/11/19
この作者の主張の特徴は、数字で示すことですね。
73%、25%、13%と説明した方が具体的なイメージが掴める。
数字に根拠があるか否かはともかくとして。
競争条件が有利な会社だけが実行できる「強者の戦略」と、それ以外の会社が実行しなければならない「弱者の戦略」がある。
業界1位で、市場占有率26%以上を確保し、2位との間に10対6以上の差を付けている会社は強者の戦略が実行できるが、2位を含め、この条件を満たしていない会社は弱者の戦略を実行しなければならない。
なるほどと思います。
つまりは、中小企業は「弱者の戦略」を実行すべきというメッセージです。
「君は弱者」だと定義し、数字で迫る解説手法にはインパクトがあります。
ノー天気の経営者や、試行錯誤中の経営者の経営指針になりそうです。
それに、次の説明は納得できた。
仮に、同業者100人がいるとき、10番目が実質上の中位の人になります。
これがパレートの法則。
なるほどね。
上位20人で80%の利益を確保してしまうのですから、上位10番は、その80%の利益を得た人達の中間値。
私は、上位20%に入っていれば良いと思っていたのですが、上位10%という基準に変更しよう。
P36
経営のやり方には競争条件が有利な会社だけが実行できる「強者の戦略」と、競争条件が不利な会社が実行しなければならない「弱者の戦略」の2種類あることがわかりました。
P37
その条件は、まず業界1位で、市場占有率26%以上を確保し、2位との間に10対6以上の差をつけている会社は強者の戦略が実行できるが、2位も含めこの条件を満たしていない会社は弱者の戦略を実行しなければならないというものです。この条件に業歴の古さや社長個人の学歴、資産額などは一切関係ありません。
P39
ではまず「強者の戦略」から説明しましょう。これまでの説明でもおわかりのとおり、強者の戦略を実行できるのは、ごく一握りの会社です。1000社中5社ぐらいしかありません。
P48
前章で紹介した強者の戦略に対して、これから紹介する「弱者の戦略」は、競争条件が不利な会社が商品、営業地域、業界・客層で強いものを作ったり市場占有率1位になり、根本的に業績をよくするための全社的なやり方です。大多数の「小さな会社」が実行すべき戦略といえます。
1 弱者は小規模1位主義、部分1位主義で目標を定めよ
2 弱者は競争目標と攻撃目標の分離を図れ
3 弱者は強者と違ったやり方で差別化せよ
4 弱者は対象を細分化し、1位になりやすい目標を見つけよ
5 弱者は将来1位をめざす重点目標をはっきり定めよ
6 弱者は目標の範囲を狭くし経営力の分散を避けよ
7 弱者は目標には必勝の戦術力を投入せよ
8 弱者は社長自らが直接大事な情報を集めよ
9 弱者は大事なところには思い切った革新を加えよ
10 弱者は軽装備の原則を守り、動きの速さを保て
P69
軽装備の目的は、【1】資金の固定化を避けることであり、【2】組織の重装備を避けることであり、【3】外観を気にしないことであり、【4】実質主義を守ることです。
P240
ではその実力はどれぐらいまで高めればよいのでしょうか。その答えはパレートの法則が教えてくれます。仮に同業者が100人いるとき、10番目が実質上「中位の人」になります。100人中10番目といえば順位評価でみると「上位の一角」にいるので自慢できそうに思えるのですが、現実はそうではないのです。
204
「嫌消費」世代の研究 −経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち−
松田久一(日本マーケティング研究所代表取締役)
東洋経済新報社
2009/11/16
現在30歳前後のバブル崩壊後の世代の消費傾向を語っています。
この人達が、消費をトレンディだとは考えなくなってしまった。
当然、消費が減少すれば、経済は成り立ちません。
エコ減税で、トヨタ自動車を保護しても、顧客が減少すれば車は売れません。
私は、日本経済が60才を超えてしまったのが、消費減退の原因だと考えています。
著者は、現在30才前後の人達が経験した原体験が、消費消滅の理由だと論じています。
P12
「クルマ買うなんてバカじゃないの?」
「大型テレビなんていらない。ケータイのワンセグで十分」
「日本語が通じない海外旅行なんて楽しめない」
P24
多くのエコノミストは、節約疲れでやがて消費は回復すると信じていたが、10年以上に及ぶ長い期間を経て、消費者は、節約を一時的な苦としてではなく、魅力的な消費スタイルとして積極的に評価しはじめた。
アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』は、ある意味で浪費がもたらしたアメリカ発の世界不況への教訓として、日本の消費者がバブル崩壊後に学んだことが「節約」(cut back)である、と積極的に紹介している(2009年2月21日)。
203
「農業という生き方」 ど素人からの就農入門
永峰英太郎(ルポライター)
アスキー新書
2009/11/15
真面目に、詳細に、就農した人達の経験談を紹介しています。
成功した事例や、途中での失敗経験、そして苦労など。
農業は、都会生活に比較したら、格段に難しい。
都会生活並みの所得を稼ぎだそうとしたら、絶望的に難しい。
しかし、農業への道を目指した人達が、自分の考えで、農業を育て上げていくストーリーを読むのは気持がよい。
家族の協力を得られているところが、さらに素晴らしい。
202
ビッグツリー 自閉症の子、うつ病の妻を守り抜いて
佐々木常夫(東レ経営研究所社長)
WAVE出版
2009/11/12
読んでみて下さい。
紹介すべき内容はタイトルに尽きています。
うーん、暫く考えてみて、著者の生き方には、別の見方もあることに気がついた。
それは前作である「ビッグツリー 私は仕事も家族も決してあきらめない」についてのアマゾンのカスタマーレビューを読んでみて下さい。私には、現実感をもって、このような環境を評価する権限はありません。
201
ゲーム理論の思考法
川西 諭(上智大学経済学部准教授)
中経出版
2009/11/12
囚人のジレンマから始まり、バブル発生原因を解明し、最後に、最終通牒ゲームと独裁者ゲームの説明で終えています。
ゲームの理論的な発想の全般を理解するのには、読みやく、良い解説書です。
ゲームの理論は、人間の行動原理の解明の理屈です。
なぜ、人間は、あえて損をする行動をするのか。
最後通牒ゲームや独裁者ゲームを理解すれば、あえて損をする自分自身の行動原理が理解できます。
人間は、完璧なる利己主義者としては作られていないということでしょう。
200
法律家のためのITマニュアル
日弁連 弁護士業務改革委員会編集
第一法規
2009/11/11
パソコン環境や、ネット環境は、スピードが落ちたが、それでも日々進化している。
「便利だ」と思って導入したシステムが、その後、さらに便利になっているかも知れない。
しかし、ネット環境は、他人と比較することがないので、旧来のシステムを使い続けてしまう。
新しい技術、新しい使い方が発見できるだろうか。
さらに、弁護士が、ネットの時代に、如何ほどか進歩したものか。
うーん、ちょっと、期待はずれでした。
IT化は、既存の業務にITを組み込むのでなく、
ITに合わせて、既存の業務の形を変えてしまうことにある。
その点が、全く、理解されていません。
「駆けて飛び回る昔の弁護士」のパソコン利用法を解説しています。
199
株式投資の未来
ジェレミー・シーゲル(金融学)
日経BP社
2009/11/04
途上国の急速な経済成長が高齢化した国々の経済にも重要なプラスの影響をもたらす。
なるほどね。
P14
この結果は、わたしの日頃の疑いの裏付けとなった。投資家はハイテク銘柄をはじめ新興銘柄を過大評価し、これといって話題性のない業界の銘柄を無視する傾向がある。そしてこうした話題性のない業界の銘柄は、しばしば目覚しいリターンをもたらす。わたしはここで「成長の罠」という言葉を使いはじめた。技術革新の先端を行き、経済成長を牽引する企業こそ、投資家に卓越したリターンをもたらすとの通念のまちがいを説明するためだ。
P15
デントの説によると、過去1世紀にわたり、株価のトレンドは、45歳から50歳までの人口トレンドと相関しあってきた。この年代は消費支出がピークを迎える年代でもある。人口予測に基づくデントの予想によると、株式の上昇相場は2010年まで続き、ブーマー世代の退職が始まると同時に、暴落する。
P16
だが人口動態について調べるにうちに、つぎの点を確信するようになった。人口トレンドは経済にとっても投資家にとっても決定的な意味を持つ。米国、欧州、日本は急速に高齢化しているが、世界の大部分はきわめて若く、この若い経済がようやくその存在を世界に示そうとしている。
モデルからみえたのは、胸踊る未来であり、デントの予想とはまるでちがっていた。途上国の急速な経済成長は、このまま持続すれば、高齢化する国々の経済にきわめて重要なプラスの影響をもたらす。ようするに、高齢化の波がもたらすマイナスの影響が緩和される。
198
人口減少経済の新しい公式
松谷明彦(政策研究大学院教授))
日経ビジネス人文庫
2009/11/04
高齢化と、人口の減少で、今後10年、20年は、どのような日本になるのだろう。
日本の体質が変わったのだから、歴史に学ぶことは出来ない。
そして、今後10年、20年の未来に備えて、自己防衛をする必要がある。
さて、未来は防衛可能なのだろうか。
キリスト教国ではあり得ない日本の優生保護法がベビーブームを急激に終結させた。
日本の経済発展の原動力になった高い貯蓄率の元は生産年齢の急激な増加であり、その原因にはベビーブームの終結がある。
日本の経済成長は、日本人の優秀さにあると自惚れてましたが、単なる人口構成の結果かも知れない。
その人口構成が、逆転しだしたときは、日本は、どうなってしまうのだろう。
197
リクルート事件・江副浩正の真実
江副浩正
中央公論新社
2009/10/30
リクルート事件の最初から最後までを語っています。
要するに、検察が想定したストーリーに合わない限り、取り調べは終わらない。
身柄の拘束が続き、関係者の逮捕が続く。
真実を貫いて生活が破壊されるのに委せるか、あるいは友人を裏切って嘘の供述をするか。
マスコミが騒げば、検察も、立場上、誰かを起訴しなければならない。
自白を強要する検察にも、自由はないのだと思う。
そのことが、延々と語られています。
196
伸びる税理士事務所のつくり方
井野達也
明日香出版社
2009/10/29
うーん、違うんじゃないかなと思う。
次の情報は、税理士の死亡、アルツファイマー、懲戒処分に備えてメモしておこう。
P83
変わったところでは「さくら税務実務研究所」という一般社団法人もあります。会計事務所に経験豊富な国税OB税理士を紹介してくれる組織です。税務顧問、あるいは副所長をお探しの場合や税理士法人のパートナーが欲しい先生にはお勧めできます。税務調査の立ち会い応援や難解な税務への回答、相続の共同受任という場面でも、国税OB税理士を有効に活用することができます。このほか、所長先生が“まさか”の時、身内に事務所の後継者がいない場合には、ご子息が引継ぐまでのリリーフとしての国税OB税理士を紹介してくれます。
さくら税務実務研究所 検索:さくら税務実務研究所(http://www.sakura-zeimu.com/)
195
だから税理士はやめられない
入江俊輔(税理士)
住宅新報社
2009/10/29
税理士の受験と、開業と、経営について自分のスタイルを語っています。
自分のスタイルを語る書籍を出版する積極性と自信。
本書の中身よりも、この積極性が、本書からの収穫。
30分で読める読みやすい文章です。
194
癌ノート
米長邦雄(永世棋聖)
ワニブックス
2009/10/28
癌治療については、自分で判断し、自分で治療方針を決めるべきと、自分の経験を時系列に沿って紹介しています。
優秀な医者でも、自分の専門分野でない場合は、素人に等しい。
外科医は放射線治療について素人。
つまりは、癌治療について、外科治療、抗がん剤、放射線治療、免疫治療のいずれがよいかは、患者自身が学習し、選択しなければならない。仮に、放射線治療でも、さらに、細分化され、それぞれについて専門医がいるわけです。
P67
秋元先生曰く「米長さんが間違えたのも、当然といえば当然のこと。それだけ、前立腺癌の治療法、特に放射線治療はここ何年かで、急激に進化してきているのです。20年前の医療、10年前の医療、今の医療を比べると、前立腺癌の場合、まったく違います。
P79
「あなたが私の立場になったら、どうしますか」という私の質問に、先生たちの答えは様々でした。
「悩む」とか「分からない」とかですからね。なかには「自分もPSA値を調べなければいけないことに気がついた」とまで言う先生もいました。医者の不養生という言葉はありますが、医者というのはみんながそうではないにしても、意外に自分の専門外のことは分からないものなのですね。
193
ヒルズ 挑戦する都市
森 稔(森ビル社長)
朝日新書
2009/10/27
森ビルの開発精神を語っています。
外からビルを見る華やかさではなく、地権者との10年を超える地道な話し合いがビルを作り上げる。
P150
私も担当者も住民と顔を合わせる機会があれば、どんな場にも出向いた。計報を聞けば、通夜から葬式まで参列し、手伝いを申し出た。反対派の家では香典を突き返されたり、追い返されたりすることもあったが、とにかく飛んで行った。
P153
特技を持つ社員は、地区の子どもたちを対象とした書道教室や算盤教室、合気道教室などを開いた。住民が転出して空き家になった住居には、防犯対策を兼ねて森ビルの社員が家族ぐるみで住み込んだ。
P165
真実と事実の違いや、人間の表と裏もたくさん見た。ひとりの人間にも善と悪の両面があることも知った。
再開発の交渉は、そうしたこともひっくるめて人間を受け入れ、心の機微や弱さがわかる人でないとできない。そういう意味では非常にきついけれど、実践的な人間研究、人生勉強の場だ。
P166
自分自身はもちろんだが、担当者ひとりひとりがそれぞれのやり方を見つけ出し、相手の懐に飛び込んで、本音を聞き出すような人間関係をつくらなくてはうまくいかない。
商品を売る場合は、買ってくれそうな人を探して売ればいい。しかし、再開発は「この人は参加する気がないから、パスして次の人に」というわけにはいかない。そこが再開発の難しいところである。
192
庭で飼うはじめてのみつばち
和田依子(フリーライター)
山と渓谷社
2009/10/23
自宅で蜜蜂を飼おうかと思った。
西洋蜜蜂ではなく、日本蜜蜂なら、さほどの危険はないのだろう。
私の自宅の周りには緑が多く、幾つかのこんもりとした森がある。
まずは、先人の知恵に学ぶべく、本書を手に取ってみた。
蜜蜂を飼うには養蜂振興法による都知事への届出が必要なのだ。
条例で、飼うための条件を定めている都道府県もある。
蜜蜂飼育届を家畜保健衛生所を通して提出する必要がある。
蜂刺されでアレルギー反応を起こす人もいる。
エピネフリンという携帯用の注射薬がある。
春の分蜜郡騒ぎも心配。
信号機に蜜蜂の固まりが付いて、警察が出動し、道路が閉鎖されたことがある。
うーん、やはり、都心での養蜂は難しいような気がする。
近所の子供が蜂に刺されたら大変。
近隣の理解を得るのが最初の作業だそうだ。
蜂蜜パーティなどで地域に溶け込んだ養蜂家(趣味)もいるそうですが。
191
生命保険のカラクリ
岩瀬大輔(独立系生保副社長)
文藝春秋
2009/10/23
生保という制度は不可思議だと思う。
保険料が高く、支払った保険料の多くが営業手数料などの間接経費に消えてしまうことだけではなく、節税に生保が使われ、そのことについて主税局が積極的な防止策を実行しないことなどの不可思議です。
筆者は、生保の過剰コスト制度を批判するという立場で本書を書いてますので、生保システムの本質が語られていると思う。
うーん、よく分からないな。
10個の契約について、コストの内訳を比較してくたら分かりやすいと思うのですが。
死差率で利益を計上していると言われても、契約者に対処できることではなく。
P41
この分析によれば、典型的な定期保険(かけ捨て型の保険)について、全体の35〜62%までが保険金の支払いではなく、生命保険会社の経費や利益に充てられていることが分かる。
この点について、株式投資に関するベストセラーを書いたある評論家は、テラ銭はパチンコ屋で2割、競馬で2割5分、宝くじで5割強。生命保険は、それらよりも悲惨なギャンブルだと評した(「山口揚平の時事日想」http://bizmakoto.jp)。
P56
保険の本業である「リスクの引き受け」から生まれる利益ともいえるが、データが公表されている1999年から2002年にかけての4年間で見ると、逆ざやによる損である「利差損」の累計額は、5兆6875億円に上り、「死差益」は10兆4345億円あった。
ここで注目すべきは、6兆円弱の逆ざや(つまり高い予定利率)による利益を享受しているのが80年代から90年代前半に貯蓄性の商品を購入した契約者であるのに対して、10兆円を超える死差益の源泉は、それからずっと後までの契約者も含めた、死亡保険や医療保険の保険料からきている、という点だ。これらの契約者の利益は、本来なら配当として還元されるべきものである。それが世代と商品間の垣根を超えて、保険会社の高すぎた運用目標の失敗を穴埋めすべく、生存保険や個人年金保険の契約者に内部移転されていることになる。
P105
「高額療養費制度」という制度のおかげである。この制度によって、自己負担額には上限が設けられている。標準的な所得層の人であれば、ひと月当たりの自己負担の上限は10万円弱である。したがって、何百万円という医療費が仮にかかったとしても、原則としてひと月当たりは10万円前後でおさまる。
P106
この自己負担部分に、健康保険適用の対象にならない「差額ベッド代」を加えた金額が、実際の自己負担額となる。差額ベッド代の平均値は、約7割が日額5000円以下で収まっている。残りの3割が、5000円から1万円となっている。
P132
「日本の生保各社の用いている生保標準生命表の死亡率は実際よりも20%以上も高い(筆者注:本論文は2002年時点。標準生命表2007ではいくらか改善されている)。この差が現在の日本の生保会社の利益の大半である死差益をもたらしている。
P193
保険にかしこく入るための七か条
1.死亡・医療・貯金の3つに分けて考えよう
2.加入は必要最小限、を心がけよう
3.まずは中核の死亡保障を、安い定期保険で確保する
4.医療保障はコスト・リターンを冷静に把握して、好みに合ったものを選ぶ
5.貯蓄は金利が上がるまで、生保で長期の資金を塩漬けにしてしまうのは避けよう
6.すでに入っていても「解約したら損」とは限らない。見直そう
7.必ず複数の商品(営業マンではない)を比較して選ぼう
190
刑事弁護ビギナーズ
高野 隆(弁護士)他
現代人文社
2009/10/20
刑事弁護人も、ストーリーの重要性を語っています。
そして、そのストーリーには簡潔さが必要だと。
P15 高野 隆
人間は「間接事実によって主要事実を認定する」のではない、ということです。裁判官であれ陪審員であれ、人間の事実認定に最も大きなインパクトを与えるのは、訴訟当事者が訴訟を通じて提供する「物語」です。
P20 高野 嘉雄
やっぱりこちら側のアナザー・ストーリーを立てて、検察官が言っているストーリー性のまやかしがどこにあるかということをやらんとね。そうすれば検察官立証の弱点というのか、ゆがみというのがわかるから。
P23 後藤 貞人
短くする訓練をすることだと思います。引き受けた事件について、裁判員を想定して「この事件はどんな事件です」と1時間で説明できるようにする。30分ならこう説明する。10分ならこう、5分ならこう、1分ではどうか。ここです。1分間で説明すること、それがまさしく根幹です。あとはディテールです。
189
カップヌードルをぶっつぶせ
安藤宏基(日清食品社長)
中央公論新社
2009/10/19
成功した会社の成功した事業承継の一例です。
成功した創業経営者は、良い意味でも、悪い意味でも、正常ではない。
しかし、これを承継する後継者は正常の場合が多い。
その葛藤を語ってくれています。
ドラマです。
P15
私に言わせれば、創業者とは普通の人間ではない。
異能の人である。
一方、創業者の事業を引き継いだ後継者は、私も含めて、だいたいが普通の人である。したがって、創業者と二代目の確執とは、異能と凡能とのせめぎあいといってもよい。
お断りしておくが、この章の内容はあくまで、私と安藤百福との人間関係の記録である。私にとっては反省と後悔がいっぱいの、慙愧の念に満ちた個人的体験であり、人さまの模範となるような内容は一つもない。しかし、同じ立場の人には、ひょっとすると、ここから「創業者とうまく付き合う方法」の教訓を汲み取っていただけるかもしれないと思っている。また、二代目、三代目の経営者だけでなく、カリスマ創業者のあとを引き継いだ経営者や、あるいは強烈なワンマン社長の下で働いている若い社員の方々にとっても、何かご参考になることがあるかもしれない。
P19
ある休日の昼、大阪府池田市にある実家の母から電話がかかった。
「会長が不機嫌で困っている」と言う。
例によって、私のことを怒っているらしい。すぐに電話をかけた。一時間話したが、そのうち59分が会長の持ち時間、私に与えられた釈明の時間はわずか1分だった。会長の機嫌は直らなかった。私も一方的にしゃべられてガチャンと切られては立つ瀬がない。
188
「押し紙」という新聞のタブー
黒薮哲哉(フリージャーナリスト)
宝島社新社
2009/10/17
新聞社の押し紙の実態を、これでもか、これでもかと提示します。
3割から4割が、押し紙だと論じています。
新聞販売店と新聞社の間に訴訟が起きた事例では、70%、あるいは74%が押し紙だった。
新聞社から出た情報でも36%が押し紙。
なぜ、押し紙が消えないのか。
1つは、発行部数に応じて広告料を設定する新聞社の都合であり、
もう一つは、販売部数に応じてチラシ折り込み料を取る販売店の都合であり。
無駄に新聞を印刷し、破棄するという意味でエコではない。
さらには、新聞社も、販売店も、共に詐欺罪です。
そして、新聞販売実数の急激な減少があります。
批判されつつも、民主主義の守り手であったのが新聞社を含むマスコミ。
その暗部を論じているのが本書です。
187
一澤信三郎帆布物語
菅 聖子(フリーの編集者)
朝日新聞出版
2009/10/17
一澤帆布の相続争と独立新規開店の顛末記です。
自筆の遺言書を第三者が偽造することがあり得るのか。
そんな思いが、裁判所の常識でしょう。
だから、裁判所は、相続人を当事者とする1件目の訴訟では遺言書を有効と判断しました。
次に起こされたのが、その相続人の妻(受遺者)を当事者とする2件目の訴訟。
その訴訟の控訴審で、遺言書の偽造が認められました。
本書は、1件目の訴訟で敗訴した後の社長と従業員の団結と独立新規開店の様子を語っています。
今後、事業承継と相続争いについて、常に、失敗事例として取り上げられる一例になるのだろう。
しかし、遺言書の偽造が真実であれば、世の中に、自筆証書遺言を偽造する人間がいることに驚き。
他人の筆跡を真似る技術に対する驚きと、相続権を失うことを覚悟して偽造する度胸と。
偽造者は、当然、第三者だろう。
そのような特技を持つ第三者を見付けることが可能だろうか。
186
「社長」を受け継ぐ
中村敏之(タナベ経営)
ダイヤモンド
2009/10/14
経営コンサルタントと称する人達は、何をアドバイスしているのだろう。
なるほどね。
弁護士、あるいは税理士は、アドバイスの基礎に、法律、あるいは税法があります。
その意味では、権威付けられたアドバイスが可能です。
しかし、コンサルタントと称する人達は、虎の威を借りることなく、アドバイスをしなければならない。
その基礎にあるのは、経験と、洞察力と、人間性だろう。
だから、この種の書籍には、感銘を受ける書と、そうでない書が混沌と混ざり合うことになる。
185
忘れられない脳
ジル・プライス
ランダムハウス講談社
2009/10/13
経験したことが、全て記憶として残ってしまう。
そのような特殊な記憶能力を持つ作者が、自分の脳を語っています。
脳って、不思議です。
「所得税法59条」という言葉は、どこに保存されているのだろう。
脳のどこかに、言葉として書き込まれているはずです。
大変な分量ですが、なんと、作者は、経験した事象の全てが、いま現在の事実のように脳に保存される。
脳の容量は無限大なのだろうか。
そのような疑問に答えてくれる良書のような気がします。
無限大なのですね。
全てのエピソード記憶が保存されているそうです。
しかし、脳の、どこに、それだけの分量の記憶を保存することが可能なのだろうか。
さらに、その記憶を検索し、必要な記憶を引き出すシステムは、どのように構築されているのだろうか。
既に、私の脳は、大量の記憶で目一杯と考えて、自己規制をしてしまうのは間違いなのですね。
まだまだ、私の脳は、幾らでも、情報を溜め込むことが可能なのだ。
184
福田君を殺して何になる
増田美智子
インシデンツ
2009/10/07
父親へのインタビュー部分など、どうかなと思う箇所はあります。
しかし、事件を加害者側から発言する本書には、そのような問題点を超えた価値があります。
なぜ、このような犯罪が起きたのか。
なぜ、一方的な報道がされ続けたのか。
なぜ、マスコミと社会の空気に迎合した判決が書かれることになったのか。
それについて、本人は、どのように考えているのか。
P18
福田君は、折り紙付きの不良だったわけではなく、どちらかといえばおたくタイプの子だった。一方で、明るくひょうきんな印象を持たれていたが、決してクラスの人気者ではなく、勉強もスポーツもあまり得意ではなかった。近隣住民や同級生からは、「素直ないい子」「不欄な子」という声も聞かれたが、「気持ち悪い」「変わったヤツ」という声もあった。しかし、世間から断罪されているような「少年法を熟知した狡猾な知能犯」という人物像は、誰もが否定した。私もそう思う。率直にいって、彼は自分の発言や行為が周囲の人にどう受け止められるか、どんな影響を及ぼすかを計算できるほど、知的ではない。
P41
「父は母親と2人暮らしで育った(福田君の父親は、幼少時に両親が離婚し、母子家庭だった)。だから、ずっとごくふつうの家庭が築きたかったんだと思います。人の気持ちを察するということが苦手なようで、気持ちが伝わらないから殴る、ということをしていたんだと思う。そういうことを、僕が小さなときから気づいてあげることができれば、違っていたかもしれません」
P122
「僕が、今の弁護方針に不満があるとすれば、弁護団が僕の将来の可能性について言うところなんだよね。だって、僕は弥生さんと夕夏ちゃんの将来の可能性を奪ってしまった。そういう僕についての可能性を唱えちゃいけないと思うんだよ。検察側の主張は事実とは違うけど、僕が2人の人を殺めてしまったことには変わりないわけで、だから、僕の可能性とか、僕は言いたくないんだよ」
「弁護士って、どうしてもさ、判例とかを気にしちゃうじゃん。ほかの判決と比べて重いとか軽いとか。僕は、そういうことじゃないと思う。僕のやってしまったことを見るべきだと思う。それを、ほかの犯罪と比べてとか、比べて比べて、いろいろ比べて、僕がやってることをぼかしてしまっているように思う」
P216
「(遺族は)本来は優しい気持ちで心穏やかに暮らしていきたいと思っていた人たちだと思うんだよ。それが、僕が事件を起こしたことで、厳しい感情を出していかなきゃいけなくなった。本当に申しわけないと思ってる」
「本当は、死刑とか願いたくないのかもしれない。でも、亡くしてしまった入たちの存在が大きくて、優しいからこそ、死刑を願わずにはいられないのだとしたら、僕のせいで本来の優しい気持ちをしまい込まなきゃならないんなら、本当に申しわけないと思う。この『申しわけない』という思いを、わかってもらいたい」
183
25歳の補習授業
糸井重里他6名
小学館
2009/10/07
語れる大人もいて、
語れない大人もいる。
P51(糸井重里)
海の水は塩辛いですけど、棲んでいる魚にとってはちょうどいいわけですから。
一見、厳しそうな職場でも、慣れてしまえばどうってことないんですよ、きっと。
P136(養老孟司)
僕の一番好きな格言は、イタリアのもの。
日本では、どん底に落ちたらあとは上がるだけだって言うけれど、イタリアでは「どん底なら穴を掘れ」って言うんですよ。
そこまでのしぶとさがあっていい。
もし今がどん底だと思う人がいるなら、ちょっと、そこを掘ってみたらどうですか。
182
記憶は嘘をつく
榎本博明(名城大教授・心理学)
祥伝社新書
2009/10/01
そもそも、記憶が確かであることについては、何の保証もないのですね。
常に、記憶は、保存されるのではなく、作られるのかも知れない。
P64
そこで、嘘の自白に追い込まれる場合として、次の二つのタイプをあげている。
【1】 自分がやっていないことは自分のなかではっきりしているのだが、いつ終わるともしれぬ拘束下の取り調べに耐えられなくて、意識的に「犯人になる」場合
【2】 追及を受け、自分なりの弁解を重ねているうちに、自分の記憶そのものに自信がもてなくなって、ひょっとして自分がやったのかもしれないと思いはじめ、抵抗線を失って「犯人になる」場合
181
うつ病の脳科学
加藤忠史(精神科医・脳科学者)
幻冬社
2009/10/01
うつ病の治療薬や、治療の難しさ。
症例や、最近の脳科学の進歩との関係を語っています。
日本の神経科医が少ない理由は東大紛争にあると説明しているところは凄い。
P208
1968年(昭和43年)に始まった東大闘争により、東大の安田講堂で機動隊と学生が衝突し、一連の騒動で東大の入試が中止となったことはよく知られている。
しかしこの時に、インターン制度撤廃、医局講座制解体を掲げて東大に立てこもった勢力が、東大精神科の病棟を自主管理(占拠)し始め、これが30年間もの長きにわたって続いたことを知る人は、あまりいないだろ
180
35歳の教科書
藤原和博(区立和田中学校校長)
幻冬社
2009/09/29
人生を支配する「ルール」が変わった。
「成長社会」から「成熟社会」に入ったからだ。
「ルール」は、どのように変わったのか。
「野球」の時代から、「サッカー」の時代に入ったのだ。
リクルートでサラリーマン生活をした経験と比較し、他人が作った価値観の下に雇われる生活を否定し、各々が思考することの必要性を提言しています。
「みんなで幸せになれる成功モデル」などは消滅してしまった。
個人がそれぞれの価値観で、独自の幸せを追求する時代に変わったのだ。
大切なのはオリジナリティであり、批判的かつ複眼的な視点を持つことだ。
なるほどね。
私達、自由業者の生活は、常に、そのような発想ですが。
ただ、大部分の自由業者、例えば弁護士は、「弁護士の常識に雇われた肩書き人間」なのかもしれない。
批判的な精神に満ちあふれた人達ですが、その批判がワンパターンの人達ですから。
P6
一人の選手が多様な役割を演じるから、ルールは野球よりよっぽど単純なのに(相手ゴールに蹴り込むだけ)、複雑なチームプレイが要求される。変化のリズムとテンポはヒップホップ並みで、やっているうちに直しながら進む「修正主義」のゲームだと言える。
P147
「批判的」と言うと、単に文句をつけたり、反対したりするイメージが強いかもしれません。しかし、本来「批判」とは「人物・行為・判断・学説・作品などの価値・能力・正当性・妥当性などを評価すること」(広辞苑)という意味です。自分の頭で考えて、対象について主体的な意見を持つことと言い換えてもいいでしょう。英語の「critical」にも「鑑識眼がある」という意味が含まれています。
179
個性を捨てろ! 型にはまれ!
三田紀房(ドラゴン桜の作者)
だいわ文庫
2009/09/29
「35歳の教科書」とは真反対の主張です。
たぶん、サラリーマンとしての生活を否定した場合と、自由業者として生きてきた人間の視点の違いだろう。
型には先人の知恵が詰まっている。
型にはまった人生を、なぜ、否定する必要があるのか。
普通に生きることこそ、重要ではないかと。
そうでしょうね。
弁護士になることだって、税理士になることだって、型の習得ですから。
先人の議論を学説として理解し、蓄積された判例の理屈を学習する。
そして、先輩弁護士に倣うのも、型の習得。
そこらが完成してない若手が、「オリジナリティ」なんて言い出したら、アホかと思う。
型を習得した後に登場するのがオリジナリティですから。
しかし、サラリーマン社会に属していたら、「35歳の教科書」の作者のように、オリジナリティこそが重要と言いたくなるだろう。
P115
もし、上司から「もっと個性を持て」「自分で考えろ」「仕事は習うもんじゃない。盗むもんだ」みたいなことを言われたら、注意しよう。
その上司には指導力がなく、ちゃんと指導するだけのノウハウも持ち合わせていない可能性が高い。
むしろ「お前は黙って言われたとおりやればいいんだ」と言われるくらいのほうが、カチンとくるかもしれないが、まだマシだ。
178
「アパート事業」による資産形成入門 ★
大谷義武(資産形成サポート)
幻冬舎
2009/09/29
良い本だった。
現場の実務の言葉だけで一冊の本が埋まっている。
大概の書籍は、実務の知恵は数ヶ所で、その他は一般論であったり、統計値だったり、社会観察だったりするのですが。この本は、実務の知恵を拾い出すと、すべての頁にチェックが入ります。
P25
しかし、今や日本では、バブル崩壊とその後の失われた10年を経て人口減少社会に突入し、借り手のいるアパートと、いないアパートに二極化しつつあります。いわば勝ち組(満室)アパートと、負け組(空室)アパートです。
地主の方々全員が努力していないということではありませんが、他人から営業攻勢をかけられて、仕方なく自分の土地にアパートを建てたような「大家さん」との競争において、「アパート事業家」が負けるはずはない、というのが私の見方です。
P31
つまりアパート事業は、資金を投資して物件を取得すれば、それでおしまいというものではないのです。物件の購入はスタートに過ぎません。長年にわたり満室稼動させ、収益をいかに上げていくかという経営的な側面が、投資の成否を左右することになるのです。
P35
その魅力は、兼業のままで、いつまでも続けることができる点にもあります。さらにいえば、本業が定年を迎えても、アパート事業には定年がありません。
P87
たとえば、対管理会社の事例を見てみましょう。管理会社(募集会社)は、数多くのアパートオーナーを抱えています。そのなかから新たな入居希望者をどの物件に紹介するかは、その管理会社(募集会社)および営業担当者のさじ加減一つで決まります。
入居者が希望する条件に複数の物件が相当する場合、「好きなオーナーの物件を優先的に紹介しよう。感じの悪いオーナーのものは後回し」と思うのは、当然のことでしょう。
当社のお客様の物件の入居状況を見ていると、面白いことに、コミュニケーション能力の高い(と思われる)方から順に入居率が良いというデータがあります。
P99
このように、アパート事業は夫婦間の理解・協力関係なしには、基本的にはできない事業です。
177
失楽園
ミルトン
岩波文庫
2009/09/28
星野之宣の2001夜物語を読んでいたら、又、失楽園が読みたくなった。
拾い読みですが、これって欧米の人達には必読の書なのだと思う。
唯一の創り主が創造したこの世界に、なぜ、サタンが存在するのか。
サタンは、なぜ、堕天使なのか。
訳者の表現力も素晴らしい。
これほどの語彙を持つ人がいることが驚きです。
P162
恐怖と疑惑が千々に乱れた思いを翻弄し、彼の内なる地獄を底の底から揺り動かした。彼は自分の内部に、自分の身の周辺に、常に地獄を持っており、たとえ揚所が変っても自分自身から抜け出せないのと同じく、地獄からは一歩も抜け出せないからだ。
より悪しき行為から、より悪しき苦悩が生ぜざるをえないのだ。
P163
神のすべての善がわたしには悪となり、悪意のみを生ぜしめた。余りにも高い地位に挙げられたために、わたしは服従を嫌悪するにいたり、ほんのもう一歩高く昇れば、我こそは最高の者となれる、そして、果てしない感謝の厖大な負債を払えば払うほどにたまってゆく背負いきれぬ負債を一挙に始末できる、と思った。
P189
それにしても、知識が禁じられるとは?そんな奇怪な、無法なことがありえようか?なぜ彼らの主は知識を与えることを惜しんでいるのか?知るということが罪であり、死である、とどうしていえるのか?彼らが罪に堕ちないのはただ無知のおかげだというのか?それが彼らの幸福であり、服従と忠誠の証だというのか?
176
寿命はどこまで延ばせるか?
池田清彦(理論生物学)
PHPサイエンス
2009/09/28
「生物は遺伝子の乗り物だ」などといったいい加減なことをいう人もいるわけだがと、リチャード・ドーキンスを切り捨てているのが良い。
P54
彼女が共生説を提唱しはじめた1960年代はネオ・ダーウィニズムの全盛時であった。すべての進化は遺伝子(DNA)の突然変異と自然選択により説明できる、との単純な理論が猛威をふるっていた。共生説はいくつかの異なる生物が合体することにより新しい生物が出現するとの考えだから、ネオ・ダーウィニズムに真っ向から対立する。共生説を唱えた彼女の最初の論文は、なんと15回もの掲載拒否の憂き目に遭い、1967年にやっとのことで「理論生物学雑誌」に発表された。
P56
後に共生説がほぼ認められ、有名になったマーギュリスは、積年の恨みを晴らすべくネオ・ダーウィニズムの悪口を言いまくったらしい。1996年にボストンで開かれたシンポジウムで、ネオ・ダーウィニズムの大立者で鳥類学者のエルンスト・マイアや哲学者のダニエル・デネットらを前に、「ネオ・ダーウィニズムは、理知的に考えるなら、アングロサクソンの宗教的偏見から生じた20世紀生物学の弱小学派として忘れ去られるべきものである」と言ったらしい。会場からの反論は全くなく、ただ嵐が過ぎ去るのを待っていたとのことだ。
P92
最大で120歳までしか生きることのできない人間から見ると、千年を超える長寿はうらやましいような気もするが、人間のような複雑なシステムを維持したまま植物のような長寿は不可能なのだ。前にも述べたように、複雑なシステムを維持することと長寿はトレードオフの関係にあり、千年の寿命を望むなら、脳神経系や運動系といった複雑なシステムはあきらめる必要がある。運動もできず心をなくしてまで長生きしたい人は、あまりいないだろう。
175
鑑識の神様 9人の事件ファイル
須藤武雄(元科学警察研究所法医第一研究室長)
二見書房
2009/09/26
174
怪談
ラフカディオ・ハーン
岩波文庫
2009/09/26
怪談といえば耳なし芳一ですが。
でも、安芸之介の夢も面白い。
邯鄲の夢とテーマは同じですが、でも、教訓と怪談の違いがある。
「眼をさますと …… 彼が眠る前に黄粱を蒸していたが、その黄粱もまだ出来上っていない。すべてはもとのままであった」「安芸之介がまどろんでいた時間は、せいぜい5分か、6分だったからだ」
173
確率論的思考 ☆
田渕直也(金融アナリスト)
日本実業出版社
2009/09/21
確率論ではなく、確率論的な思考方法を語る書です。
投資に限らず、確実な事象は存在せず、すべて、不確実性の下にある。
確率的な思考方法が必要であるが、しかし、これを身につけても確実に成功が約束されるわけではない。しかし、長期的に成功を収めるためには、確率的な思考方法が必要である。
では、確率論的な思考方法とは何か。
世界で起きる物事を、どのように見るかの意識改革の在り方を示すものである。
P14
確率論的思考とは、簡単にいってしまえば、「(今、自分が想定していることや期待していること以外に)どのようなことが起こりうるのか?」「自分の認識や見通しはもしかすると間違っているのではないか?」「もし間違っていたらどんな損失が発生するのか?」といったことを常に問いかけ、どのような事態がどのくらいの確率で起こるかをできるだけ客観的に見積もり、その起こりうるさまざまな事態で発生する利益と損害を比較考量して、意思決定を下すやり方である。
P34
我々の生活の大半は、予定調和的に見える日常の連続だが、歴史は非日常の連続である。もちろん、歴史にも日常の連続はあるのだが、その部分はあまり記録されない。たまに起こる非日常的な出来事が記録としての歴史を形作っていく。
P44
人には、進化の過程で培われた心理的なバイアスがある。その心理的バイアスが、人に確率を見誤らせるのである。
P47
こうした複雑な対象では確率論的に考えることが必要なはずなのだが、人間は15万年前の脳でこれに対処しなければならない。
原始時代にはまったく想定できなかったような複雑な事象の場合に、我々は、我々の脳の限界を乗り越えて対処していかなくてはならず、確率論的思考が必要となるのである。
P106
なぜこのようなことが起こりうるのか。この答えは比較的簡単だ。人は、偶然の中に必然を見出そうとし、無秩序の中に秩序を見出そうとする生き物だからだ。だから、偶然を偶然として捉えることができないし、偶然だけから成り立っているものにも法則を当てはめてしまう。
P132
この自己正当化の影響は極めて強い。実際に投資に踏み切ると、投資をしていなければ思いつくこともなかったであろうさまざまな理由を考え出して、G社への投資を正当化しようとする。
P137
だから、ファンドマネージャーは、株式市場における偶然の影響を常に過小評価するように、所属している組織から無言のプレッシャーを受け続ける。
P191
当然のことながら、異なる見方が正しいとは限らない。だが、たとえ正しくなかったとしても、異なる見方には異なっているというメリットがある。異なる見方が存在すること自体に価値があるのだ。
P194
だが、グローブは違う。危機を予告するカサンドラたちは、それぞれ彼ら、彼女らだけしか見えていないものを見ている。つまり、異なった角度から見ているのだ。
多くの経営者や管理職は、異論を認めない。いや、異論を認めないという傾向は、そもそも人に強く備わっている心理的な構造だといってもいい。誰でもそうなのだ。自分と異なる意見を聞くと、人はあたかも自分自身が否定されたように感じてしまう。
P199
ウォルマートやデル、あるいはその他の多くの優良企業で顧客重視主義、顧客第一主義がうたわれている。格安航空会社として大成功を収めたサウスウエスト航空は、顧客を満足させるためには、サービスを提供する従業員が自主的に楽しみながらサービスを行なうことが必要だと考え、従業員第一主義を標榜している。
P208
生きながらえるうえで最も大切なことは、致命的な大きな失敗をしないことだ。そのためには、小さな失敗は、むしろ、しておくべきであるといえる。
小さな失敗は、大きな失敗の予兆を示している。小さな失敗の段階で、さまざまな分析を行ない、慎重に対策を打っていけば、大きな失敗の可能性は極小化することができる。
P211
このような精神状態だと、常に心が安らぐことはなさそうに見えるが、インテルのグローブは、そうしたパラノイア(偏執狂)的な不安症を持つ経営者だけが、真の成功を収めることができると言っている。不確実な世界では、そのくらいでないと、致命的な大きな失敗を防ぐことはできないのである。
P212
リスク・マネジメントの本当の課題は、いかに正確な将来予測ができるかという点にあるのではない。予想もできなかった事態が発生してもいかに生き延びるかという経営の意思の問題なのである。生き延びるためには、目先の利益も、体面も、財産の一部も、失うことを覚悟しなくてはならない。
172
46年目の光 ☆
ロバート・カーソン(編集者)
NTT出版
2009/09/21
3才で失明し、46才で資力を取り戻した男の経験です。
人間は、見えたようには見ていない。
全て、脳で加工して、見ている。
では、加工方法を学習しなかった者が視力を得たら、世の中は、どのように見えるだろうか。
つまり、脳が加工する前の画像です。
その画像と、私が認識してるところを比較すれば、脳の加工内容がわかります。
主人公が視力を取り戻し、いろいろな経験をする。
なんか、嬉しくて、感情移入をしてしまいます。
道路に書かれた斜線と段差の区別ができない。
花びらには、いくつもの色が、混ざり合っている。
お風呂の湯気や、シャワーの水滴。
でも、子供とのサッカーはできた。
読者の私自身が、新しい経験をしているようで、嬉しくなってしまう。
主人公は3才で視力を失ったが、その段階で動きと色を認識する能力は確保していた。
しかし、立体視する能力を獲得する前だった。
その為、視力を回復した後も、立体視や、遠近感覚が掴めない。
はたして、ここらの機能を持つニューロンへの接続は可能なのだろうか。
ニューロンには可塑性があり、他の用途に転用されてしまっているのではないか。
それを調べるためにMRIの検査をしたが、その検査結果は絶望的なものだった。
しかし、主人公は…… 結論を紹介するのは止めておこう。
P351
しかし19世紀半ばのドイツの科学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ以降、「見る」プロセスで脳が果たす役割についてそれとはまったく異なる考え方が登場し、それは今日のイギリスの心理学者リチャード・グレゴリーをはじめとする研究者たちに受け継がれている。その主張によれば、人間はものを見るうえで知識に大きく依存しているという。グレゴリーの言葉を借りれば、知識の助けがないと、目の網膜に映る像は単なる「ぼんやりした亡霊」でしかない。
P356
視覚と知識の間に深い関係があることがあらためて確認できた。その結果、今日では、人間の脳の3分の1以上の領域が視覚に関わっていると考えられている。「見る」という作業は、それほどまでに壮大なプロセスなのである。
P364
カギを握るのは学習だ。ごく幼い時期に始まる徹底した訓練と学習の積み重ねにより、私たちは人間の顔を見わけるエキスパートに成長する。羊飼いがヒツジの顔を見て一頭一頭のヒツジを見わけられるのも訓練と学習のおかげだ。羊飼いは生涯通じてヒツジの顔を見わける訓練を続け、その達人の域に達している。そう考えると、人種や年齢層が違う人の顔を見わけるのに苦労するときがあるのも納得がいく。
訓練の成果は、人の顔を見わけられることだけではない。性別を見わけ、心理状態を推し量り、その人が自分のことを見ているのかどうかも判断できるようになる。口の端のちょっとした角度の違いや、口元にあらわれる影の微妙な違いだけをヒントに、笑顔としかめっ面を見わけている場合も実は多い。遠くに立っている人の目の瞳の1ミリの動きを手がかりに、その人が自分のことを見ているのか、それとも自分の背後の人を見ているのかを判断し、眉毛の1ミリの動きを基準にその人が自分に好意をもっているのか腹を立てているのかがわかる。こういう判別作業は、相手と10メートル離れていてもできる。
P390
「同じことは人間の感情についても言えると思わないか?ある人に対して特定の先入観をもっているせいで、その人について見えることと見えないことがあるんじゃないだろうか?おれが言いたいのは、人間の頭の中や心の内面のことだよ。このスプーンや公園のベンチが美しいものだという先入観をもっていないせいで、その美しさを見落としてはいまいか?」
171
放射線医療 ☆
大西正夫(医療ジャーナリスト)
中公新書
2009/09/18
CT中毒、PET中毒の日本の現状を紹介する。
100万人当たりのCT保有台数は、1番が日本で92台、2番はオーストラリアで45台、イギリスは7.5台。
100万人当たりのMRI保有台数は、1番が日本で40台、2番はアメリカで27台、イギリスは5.4台。
患者はCT診断を期待し、医師は患者をリスクと考えて「とりあえずCT」という使い方をする。
「早期癌発見にPETは無価値」「検診での実力は虚像に近い」という専門家の声を紹介する。
日本ほど人間ドックが盛んな国はないし、被爆による癌発生の増加が予想されるという研究報告がある。
人間ドックは必要なのだろうか。
CT、MR、PET診断は必要なのだろうか。
そのような問いに答えてくれる良書のような気がする。
うーん、単純に白黒付けられる問題ではないのですね。
しかし、CTについては、レントゲンの100倍近い放射線を浴びることを意識しておこう。
癌治療については、まず、放射線科にかかることを覚えておこう。
CTについても、MRIについても、製造した時期によって数倍の能力差があることも覚えておこう。
CT、あるいはMRI診断、それに放射線治療については専門医が必要であることと、放射線の専門医は少ないことも覚えておこう。
P43
最も被曝線量が多いCT検査
CT検査を受けたときの放射線被曝線量は、単純エックス線撮影の数十倍にもなることをご存じだろうか。図1−10に示された各種エックス線検査による典型的な実効線量を比較すると、胸部CT(8ミリシーベルト mSv)は、胸部単純エックス線検査(0.02ミリシーベルト)のなんと400倍である。
P46
2004年1月31日発行のイギリスの医学誌『ランセット』に、診断用のエックス線被曝による発がんのリスクは、日本が世界で群を抜いて高いことを推定した論文が掲載された(図1−12)。がんになる割合が、日本では3.2%(男性2.9%、女性3.8%)であり、2%を超える国はほかに存在しないという趣旨だった。保有台数、検査回数ともに圧倒的に多い日本のCTがもたらす被曝線量を根拠にしていた。
170
司法官僚
新藤宗幸(千葉大法学部教授)
岩波新書
2009/09/17
仲間内の会話に登場したので購入してみたのですが。
学者の本だった。
さて、学者が、裁判制度の何を語れるのだろう。
「裁判所の権力者たち」という副題だが、何を権力構造として掘り起こすのだろう。
169
弁護士、闘う 宇都宮健児の事件帳
宇都宮健児(弁護士)
岩波書店
2009/09/16
消費者破産を救済する流れを作った弁護士です。
社会を変えた弁護士です。
弁護士としての視点で読んでも凄い。
今は違いますが、昔のカネ貸しは、電話を受けるだけで胃がおかしくなりました。
弁護士資格を利用し、楽して上手に生きるのが大部分の弁護士ですが、宇都宮弁護士は、弁護士資格の存在理由に遡って、依頼者の生活保護の為に闘う。このような弁護士が存在するからこそ、楽して稼ぐ弁護士も「弁護士」を名乗れる。
16P
悪質な業者を取り締まる貸金業規制法がない時分のことで、サラ金業界はまさに無法状態にありました。業者は「バカ!、コラ!、ボケ!」と弁護士を怒鳴りつけ、「お前、代わりに払うんかい!」と平気で脅かしをかけてきます。
168
日本人が知らない幸福
武永 賢(開業医)
新潮社
2009/09/15
ベトナムで生まれ、7度の出国(ボートピープル)に挑戦し、日本に渡航した後に医学部に進学し、医師になった。
その作者が、日本人の幸せを、自分の生活環境から語ります。
167
しがみつかない生き方 ★
香山リカ(精神科医)
幻冬舎新書
2009/09/14
「ふつうの幸せを手に入れる10のルール」という副題です。
「勝間和代」を目指さないというのが10個目のルールということでマスコミで話題になった本です。
「勝間和代」本に限らず、この種の「生き方」本を読んでも時間の無駄。
「生き方」を教えるのではなく、「売れる商品」としての本を作っているだけのことです。
しかし、本書の著者は、精神科医だ。
実務家が、現場で語る経験は、やはり、聞かせるものがあるはずだ。
「ところが、診察室にいると、その”普通の幸せ”というものを手にするのがどんなに難しいか、ということがよくわかる」と論を進めるところに、著者の、現場感覚があり、売るためだけの本ではないことを予想させる。
P66
誰もが「私ってすごい」と自分に暗示をかけ、「絶対にナンバーワンに」と我先に打って出るのは、「人の道に外れている」など道徳的に正しくないばかりではない。
P83
そしてこの「あいまいなまま様子を見る」という姿勢はまた、自分と違う考え方、生き方をしている人を排除せずに受け入れるゆとりにも、どこかでつながるものだと思われる。
P115
しかし、流すべきでないことは流さずに、きちんと向き合ってその責任を追及する。「水に流す」という文化の使い方を、もう少し正しい形に戻す必要があるのではないだろうか。
P129
深い意味がなくても仕事をし続けるのは、それじたいでけっこう意味があることなのではないか、と思うのである。
P174
実は私はある時期、有名な芸術大学の相談室に頼まれて、そこの学生たちの心のケアを引き受けていたことがあったのだが、そこには夢破れた“天才音楽家”が大勢おり、治療は難航をきわめた。
ところが、たとえば1学科100人の学生がいるとしても、世界的なコンクールに入賞してソリストになれるのは、その中の数人。「音楽のために生まれた」と信じて生きてきた人にとっては、それは挫折や失敗でしかない。
音楽の才能は十分にあるのに「こんなことのために生きてきたわけじゃない」と苦しんでいる彼らを見ていると、「生まれた意味や目的なんて、あまりはっきりしていないほうが幸せなのだ」とつくづく思った。
P186
こんな生活を25年近くも続けていると、世の中の見方もちょっとかたよってくるのが当然だと思う。私は、「がんばれば夢はかなう」とか「向上心さえあればすべては変わる」といったいわゆる“前向きなメッセージ”を聞くたびに、診察室で出会った人たちの顔を思い出して、こう反論したくなる。「あの人はずっとがんばっていたのに、結局、病気になって長期入院することになり夢は潰えたじゃないか」「両親とも自殺して、育ててくれた祖父が認知症になっている彼女が、どうやって向上心を出せばよいのか」
P198
それよりも、「私だって一歩間違えればたいへんな失敗者になるかもしれない」「いまうまくいっているのは運がよかったから」という紛れもない真実をしっかり認められる力を身につけることができたら、そのほうがずっと自分と人のためになるはずだと思う。そして、もちろん「やっぱりそんな恐ろしい事実は認めたくない」という人がいてもいいのだ。
166
脳の中の身体地図
サンドラ・プレイクスリー(脳神経科学専門)
インターシフト
2009/09/12
コーヒーカップに手を伸ばしたとき、脳は、手先がどこにあるかを認識している。
このような身体感覚は、脳の中にある。
P17
運動を行い、空間内で複雑な姿勢をとるために身体各部を誘導する能力に欠かせないマップである。足の十本の指を曲げ伸ばすと、運動マップの足と足の指の領域が活性化する。ぺろりと舌を出せば、このマップの舌とあごの領域が賦活される。このマップがあるおかげで、たいていは無意識のうちに行われる協調運動の低次の作業一切を、支障なくスムーズにこなせるわけだ。
P18
これらの身体中心のマップは実に可塑性に富んでいて、損傷や経験、訓練に応じて大幅な再編成を見せる。形成されるのは幼少期なのだが、経験を積むにつれて成熟し、速度こそ衰えてくるものの、生涯変化し続ける。ただし、いくら、こうしたボディ・マップが自分という存在の中心だと言っても、この我が身の化身はたいてい、意識の端をちらりとかすめる程度で終わっている。ましてや、そのパラメータ(変数)が年々刻々と絶えず変化し、適応しているとは思いもしない。
意識の舞台裏で続けられている膨大な量の作業を、あなたはまるで理解していないだろう。だからこそ、身体化が実に自然に感じられるのだ。ボディ・マップの持続的な活動は、あまりに継ぎ目なく、自動的で、流れるようにしっくりなじんでいるので、それが起きているとは気づかないし、人間性や健康、学習、これまでの進化の過程、サイバネティクスによって広がる未来に対する興味深い洞察を生み出しているとは、なおさら思うまい。
165
「夫婦」という妄想
斉藤 学(精神科医)
祥伝社新書
2009/09/09
なぜ、夫婦は離婚するのか。
離婚原因は様々なのだろう。
家族というもの、夫婦というもの、親子というものを断言して定義しています。
それが非常にシンプルで説得力がある。
家族とか、夫婦って、こんなシンプルな力学で成り立っているのだろうか。
精神科の医師で、カウンセラーの筆者が語るのだから、現実的な分析なのだろうが。
しかし、社会が、これほどに簡単な理屈で成り立っているのなら、それを理解する能力さえあれば、離婚も、引きこもりも、家庭内暴力なども無くなってしまうはず。
あるいは、人間は、それほど賢くないと言いたいのだろうか。
でも、本書は、専門書ではないのだ。
著者が経験した限界事例、病的事例を、一般化し、さらに、一般の家族の教訓として、一つの割り切りの「視点」を示しているのだろう。その道の専門家はユニークな「視点」を語る。そして、それは、結構、シンプルだったりする。
P182
私はいつもクリニックで、この世がどうも生きにくいと思っている人たちに出会います。生きにくい人たちに共通しているのは、何かの考えにとらわれていて、それが生きるのに不都合になっているのに、なかなかその考えから自由になれないことです。
P183
ところが「明日もあさってもこの平穏な日が続く」と思っていた、その考えをなかなか捨てきれない人は、この突然のできごとがトラウマになってしまい、なかなかそこから抜け出すことができません。もちろん誰だって、大災害で家や親しい人を失ったときには、そう簡単にそのショックから立ち直れるものではありません。ですから、そんなとき私たちのような専門家の出番になります。
164
I am here 今を意識に刻むメンタル術
宮里 藍(プロゴルファー)
角川SSC新書
2009/09/09
ゴルフはメンタルなのだ。
もちろん、技術の上でのメンタルですが。
ギャラリーに囲まれて、神経を集中するって凄いことだと思う。
で、メンタルが語られています。
163
ジャンボ機長の状況判断
坂井優基(ジャンボの機長)
PHP新書
2009/09/04
勝つことよりも、負けないこと。
生き残るためには、仕事をしつつも失敗しないこと。
ジャンボの操縦でも、日々、失敗が起きているはずです。
その失敗と、失敗を事故にしないノウハウを語ってくれるはずです。
疑問を声に出すこと。
違和感を感じても、誰も何も言わないからokなのだろうと解釈してしまう。
問題点は、具体的に、特定して指摘する。
相互に勘違いした会話にならないためだ。
空振りをしても良いから、見逃しをするな。
不安を感じたら、とりあえず、対策を発動する。
副操縦士の提案には「ありがとう」と答える。
提案しやすい雰囲気を作る必要があるからだ。
パイロットの世界は悲観論です。
離陸がokの許可が出ても、自分で確認しない限り、信用しない。
P74
多くの失敗や事故が起きてから、じつはおれも少しおかしいと思っていたとか何か変だなと思っていたというような話がいっぱい出てきます。
“ある一定の範囲に入っているけれどいつもとちょっと違う”というようなときには、なかなか皆、口に出しません。そうすると“誰も何も言わないからいいだろう”という心理が働きます。
後で述べますが、航空の世界では失敗を減らすためにCRM(CREW RESOURCE MANAGEMENT)という方法が導入されています。この技法はいろいろなことを訓練するのですが、その第一が「何か気づいたことや気になったことがあれば口に出す」ということです。
大昔はベテランの機長と新人の副操縦士の組み合わせで、機長が通常と違った操作や操縦をした場合に、新人の副操縦士が「きっと機長は何か特別な理由か、深い考えがあって違ったことをしているのにちがいない」と思うことがありました。
そんなときにじつは機長が間違えていたり勘違いをしたりしていて、それを止める人間がいなくて事故になった例がありました。現代ではスタンダードオペレーションといって標準操作がきちんと決められています。この標準操作と少しでも違うことをした場合、副操縦士は口に出して機長に指摘することが規則で決められています。
P76
先の手術の例でも、誰か一人が言い出しておけば全員がその情報を共有できますし、別の人が気づいた情報と合わせると手術を中止するという判断が出てくるかもしれません。
ちょっとでもいつもと違う、異常とまではいえないけれど何かがいつもと少し違うというときは、独り言のようにしてでもいいから、とにかく口に出すことです。自分が気づいたことは、どんなに小さなことでもとりあえず口に出すべきです。口に出せば自分が感じたことはその場にいる全員に共有されます。
そうするとほかの人がもっと別な情報を話すかもしれません。いくつかの気づきが重なると見えない事実が姿をあらわします。何かに気づいたらとりあえず口に出すことが問題の発見を容易にします。
162
講師を頼まれたら読む本
大谷由里子
中経出版
2009/09/04
講演と研修のプロデュースを専門とする著者が、講師のコツを語っています。
最初の書き出しが「寝かせない講師になろう」。
受講者に、どのようになって欲しいのか。
なにを、メッセージとして伝えたいのか。
など、筆を進めています。
なにか、キーワードが拾えそうな予感がする本です。
私の講師経験から言えば、「要件ではなく、理屈を語ろう」。
そして、「理屈の前提になる価値観を語ろう」です。
全ての要件の前提には、その要件を採用した理屈があります。
そして、その理屈の前提には、その理屈を採用した価値観があります。
価値観を語れば、「俺の考えとは異なる」と、反感を持つ人達もいるだろう
そこで、始めて、講師と受講者の会話が成立するわけです。
P104
【五つのSを意識する】
Story(ストーリー)
話の中に「起承転結」などのストーリーがあること。
Simple(シンプル)
難しいことをいかに簡単に話すか、ということが大切です。
Special(スペシャル)
「ここだけの話」と言うと、とっても得した気分になるものです。
Speed(スピード)
ゆっくり話したほうが伝わりやすいテーマもあれば、一気に話すことによって臨場感が得られるテーマもあります。
Smile(スマイル)
わたしは、お客さんを笑顔にさせることにめちゃめちゃ力を入れています。笑顔になって「損した」と思う人はほとんどいないと思います。
「楽しかった」「なるほど」「おもしろかった」。どんな気持ちでもかまいません。参加者が笑顔になった講演ほど、話が心に残るのは間違いありません。
161
ゴルゴ13の仕事術
漆田公一(漫画社会学)
祥伝社黄金文庫
2009/09/01
ゴルゴ13は凄いと思う。
P196
ゴルゴが考えるプロフェッショナルの条件とは、「10%の才能と20%の努力 …… 30%の臆病さ …… 残る40%は …… “運”だろうな」(第218話「ロックフォードの野望・謀略の死角」)なのだが、超A級の狙撃の腕や、背後に近づいてきた者を無意識に殴り倒してしまったりという習性などは、努力や育った環境などが大きいだろう。
それでも、いつどんなときでも油断をしないという気持ちだけは見習いたい。
かの高倉健は撮影の合間、絶対に椅子に座らないという。どんなに長い待ち時間でも、常にビシッとした姿勢で立っているというのだ。たとえ誰も見ていないところでも気を抜かない、そういうプロとしての意識や、姿勢が、超一流と一流を分けるのである。
160
脳は奇跡を起こす
ノーマン・ドイジ(精神分析医)
講談社
2009/09/01
脳の機能を失った人達が、再び、機能を取り戻すまでの実話集です。
脳は、固定的なものではなく、目的に添うように変化することが可能なのだ。
使わなければ退化する。
使えば、さらに、有効な機能を発揮する。
P190
サルの顔に触れると、驚いたことに、感覚神経遮断された腕の脳マップにあるニューロンが発火しはじめた。腕のマップだった部分は、顔のマップに取って代わられていたのだ。マーゼニックが実験で確認したように、ある脳マップが使われないときには、脳はみずから再編成し、ほかの機能がその処理スペースを使うようになる。驚くべきは、再編成がおよんだ規模の大きさだった。14ミリ。1センチ以上の「腕」マップがつなぎなおされ、顔からの感覚インプットを処理するようになっていた。マッピングで確認されたなかでは、最大規模のつなぎなおしである。
P191
医学全般を見まわしても、脳卒中ほど身体的な制限がかかるものは少ない。脳のある部分が死んでしまうのだ。だが、この状態であっても、死んだ部位の近くに生きた組織があれば、脳の可塑的な組織は、その部位の機能を引きつぐことが可能なのである。
159
公安検察 私はなぜ、朝鮮総連ビル詐欺事件に関与したのか
緒方重威(元最高検公安部長)
講談社
2009/08/31
朝鮮総連ビルの詐欺事件に関与した元公安部長の自伝です。
本当に犯罪行為に関与したのか、あるいは事実関係は異なるのか。
ヤメ検が徘徊する裏の世界が覗けるかも知れない。
SPCは35億円で物件を購入する。
朝鮮総連側は、毎年、家賃として3億5000万円を支払う。
朝鮮総連側は、5年後に、物権を、42億円で買い戻す。
なるほどね。
5年間の35億円の投資で59億5000万円を回収する。
そのような処理に、たとえSPCの代表者としての地位だとしても、弁護士が当事者になるのが間違い。
本人も語っているように、検察庁という守れれた社会での温室育ちの故なのでしょう。
本人の言に寄れば、首相官邸の逆鱗に触れたための冤罪だということですが。
しかし、検察の逆鱗に触れたための冤罪などは、常に、存在すること。
で、ヤメ検の社会は次の具合だそうです。
P150
検事の職を辞して弁護士となった私は、金銭面において不自由ということがまったくなかった。“ヤメ検”という言葉は、近年、広く知られつつあるが、検察OBである弁護士同士のネットワークは強固である。自身の人脈で依頼を受けたものもあったが、ヤメ検の先輩に紹介された企業も数多く、10社近くの企業の監査役や顧問といった職に就任できたのだ。
神戸製鋼所や三菱UFJ信託銀行、太陽生命といった有力企業からも声をかけていただき、そうした企業からの役職手当だけで毎月およそ300万円−1年間で3000万円を大きく超える収入が確保されていた。
反発を招く言い方を敢えてすれば、”大物検察OB”を顧問にする企業側にも、危機管理上、「用心棒」として雇いたいという思惑はある。不祥事などを起こした際も、ヤメ検であれば警察や検察に睨みが利く。そして、私がスタートさせた弁護士生活は高検の検事長を務めたヤメ検としてはまずまず平均的な姿であったのではないか。
P156
そうして私は満井の弁譲を担当することになり、直ちに公判の準備に取りかかった。東京地検を訪ね、満井の事件を担当する後輩検事にも会った。検察側の方針を見定めたうえで、「お手柔らかに」と声を掛けたのだ。これで罪から逃れられるわけなどないのはもちろんだが、大先輩の検事の頼みであれば、検察側も多少の気遣いを見せてくれる。場合によっては、こちら側と阿畔の呼吸で公判を進めてくれる−。
これが実現できようができまいが、そう思わせることも、“ヤメ検弁護士”が世間からありがたがられる最大の理由である。
満井の弁護を引き受けて間もなく、私の口座に弁護報酬が振り込まれてきた。恐らくは洋子夫人が工面したのだろう。私の手帳には300万円の入金があったと記録されている。この規模の案件で、元検事長という私の経歴からいえば、相場通りの報酬だった。
P203
「狂ってるとしか言いようがない。生きて刑務所から出られるか分からんぞ。あんたの言ってることで裁判が済むと思ったら大間違いだ」
「いいか、検察は徹底的にやる。特捜の逮捕は起訴を意味する。甘えるな!」
そう怒鳴りながら、落合副部長は勝手に調書を作成し、署名を迫ってきた。情けない話だが、私はこれに応じてしまったのだ。勾留二十日目になって疲弊している中、徹底的に怒鳴り上げられ、それに驚き、萎縮する中で調書へのサインに応じてしまった。元検事として、検察が意地でも起訴すると言っている以上、それに抗って無罪を勝ち取ることの困難さを痛いほど知っていたことも、私の弱さとなって表出した。
158
脳は眠らない ☆☆
アンドレア・ロック(医療ジャーナリスト)
ランダムハウス講談社
2009/08/30
レム睡眠の発見から始め、夢の解明についての研究者の成果を紹介しています。
夢には隠されたメッセージはなく、夢を作るプロセスは電気的な信号によって引き起こされる自動的なプロセス。そこには思考はいっさい関与しない。そう主張することでホブソンはフロイトの夢理論を完膚無きまで打ちのめした。
しかし、そのような理論が、さらに進化し、フロイド理論と統合されるような雰囲気を感じさせる展開です。
いま、読み途中で、この後が楽しみ。
良い本です。
脳科学の最先端情報を、科学者の専門分野に止まらず、医療ジャーナリストの視点で俯瞰して説明している。
単に説明付けるだけではなく、ストーリーとして完成している。
タイトルにあるように「脳は眠らない」のですね。
では、睡眠は、何のために存在するのか。
五感からの情報を遮断し、日中に海馬に蓄えた短期記憶を整理する。
つまり、過去の記憶と、今日の記憶を照合し、整理し、調整し、記憶する。
嫌な経験は、過剰反応を起こしますが、それも過去の記憶と照合されることによって冷静に評価できるようになる。
パソコンのデフラグと同じで、日々、データの照合と並び替えをしているのです。
大部分の脳領域は、意識領域とは直接つながっていないので、意識的には、その回復過程は理解されません。
しかし、その一部は意識側にも漏れてくる。
それが夢になるのです。
P127
ウィルソンらは睡眠中のラットの海馬の活動も調べた。それによって、日中の体験が睡眠中に脳内で再生されるという驚くべき現象が明らかになった。迷路を走っているときに見られたニューロンの発火パターンが、45分間のレム睡眠の半分近く、つまりラットが夢を見ていると思われるときに再現されたのだ。ジョナサン・ウィンソンが夢の生物学的用途としてあげた生存に必要なスキルのリハーサル。それが実際に行われている様子が、この実験ではっきりととらえられたわけだ。
睡眠中に再現されたニューロンの発火パターンは、昼間迷路を走っているときとそっくり同じだった。ウィルソンはそれを見て、ラットが夢の中で迷路のどこにいるか、立ち止まっているか、走っているかを言いあてることができた。再現にかかった時間も、実際に迷路を走り抜けるのにかかった時間と同じだった。
P129
クリックはジェームズ・ワトソンとともにDNAのらせん構造を発見し名声を得たが、その興奮もさめやらぬうちに今度は意識の本質に関心を移した。意識研究の一環として、夢のプロセスを調べ、1983年に記憶は睡眠中に整理統合されるという説を提唱した。クリックとミッチソンの「逆学習」説では、脳幹から前脳にランダムな刺激が送られることで、記憶の再整理プロセスが始まるとされている。あまり重要でない情報や連想が、ニューロンネットワークから削除され、捨てられる過程で、夢の素材になるというのだ。そのために夢は奇妙な要素から成るのだと、クリックらは説明した。クリックの共同研究者だったクリストフ・コッホはこう解説する。「記憶の貯蔵と想起を最適化するために、脳はコンピューターの世界で“ガーベージコレクション”(不要になったメモリー領域を集めて利用可能な領域にする機能)と呼ばれる作業を実行する。不要な事実や無効になった連想を捨てて、将来の行動に役立つ事実の記憶を強化するのだ。レム睡眠が記憶の整理統合に役立っているという説の一つのバリエーションが、この逆学習説と考えていい」
P132
手続きを学習する人間の脳のシステムは、哺乳類の進化の初期段階から受け継がれてきたもので、無意識のうちに働く。さしずめフロイトなら、私たちの意識から精神活動の一側面を隠すような抑圧的な力が働いているからだと説明するだろうが、ニューヨーク大学の神経科学者ジョゼフ・ルドゥーによると、手続き学習が意識にのぼらないのは、ただ単純にそれをつかさどる領域が意識領域と直接つながっていないからだ。感情と記憶の生物学的な基盤を探る研究で知られるルドゥーは、私たちの個性の最も基本的な特徴を形づくるのは手続き学習だと述べている。人の個性を成す要素は歩き方やしゃべり方、何に気づき、何に鈍感か、物事がうまくいかないときにどう反応するかなどである。「記憶が人格を形づくる」と、ルドゥーはその著書『シナプスが人格をつくる』に書いている。「ただし、その記憶は脳の多くのシステムに分散しており、常に意識されるとはかぎらない、いや、ほとんど意識されないと言っていい」
P190
夢を見ている間、脳は遺伝子に組み込まれた生存に必要な行動のリハーサルを行っている。と同時に、その日の出来事を振り返り、新しい重要な情報を記憶のデータベースに蓄えられた情報と統合し、世界はどういうもので、そこに自分はどう適応するかという、私たちの世界観と自己イメージを更新している。また、夢を見ている間は、脳の感情中枢が運転席に座る。つまり、処理するために選ばれる最も重要な記憶は感情の記憶、すなわち不安、喪失感、傷ついた自尊心、肉体的・心理的トラウマなどである。
P193
脳はまったくでたらめなものだろうと、出会ったものすべてから意味を引きだそうとする。その飽くことのない意味付与は、起きているときにも幅を利かせる。絶えずストーリーをつくろうとする脳の働きに、どれほど騙されているか、私たちが気づかないだけだと、ダートマス大学認知神経科学研究所のマイケル・ガザニガ所長は言う。
P200
「デルブッフが明らかにしたように、夢の一貫性のなさは、夢だけに特有のものではない。起きているときの思考も実は夢と同じように混沌としている。ただ、覚醒時の思考は論理的に結びつけられた知覚を伴うために、一貫性があるように見えるだけだ」と、スイス・ジュネーブ大学の生理学・臨床神経科学部の夢研究者ソフィー・シュワーツは説明している。
157
センスのいい脳
山口真美(中央大学文学部教授 認知心理学)
新潮社
2009/08/28
その道の専門家は、読ませる本を書きます。
客観的な事実を、人間は、そのまま認識することができない。
それは人間が生存するために創り出してきた脳の誤解なのだ。
そんな感じでしょうか。
そして、これは騙し絵や、遠近法などの脳の誤解だけではない。
私達が仕事をするときも、自分の有利に、脳は誤解してしまう傾向がある。
不利な事実は過小評価し、有利な事実を過大評価する。
自分の考え方に合わない異常性を排除してしまう。
つまりは、「見えていて、見えない」
「書いてあるのに、別の意味と理解してしまう」というミスの原因が、これなのだろう。
プライミング記憶の性質なのですが。
生存のための有意な特質が、ミスの原因になるわけです。
P103
見えないのに「見える」人がいれば、「見える」のに見えない人がいる。また、見えるがために「見えない」こともある。空間を見るということは、それだけ複雑なことなのだ。
156
大東亜戦争の真実
東条由布子
ワックス
2009/08/27
読みこなすのが大変だ。
P238
戦争が国際法上より見て正しき戦争であつたか否かの問題と、敗戦の責任いかんとの問題とは、明白に分別のできる二つの異なつた問題であります。第一の問題は外国との問題でありかつ法律的性質の問題であります。私は最後までこの戦争は自衛戦であり、現時承認せられたる国際法には違反せぬ戦争なりと主張します。私はいまだかつてわが国が本戦争をなしたことを以て国際犯罪なりとして勝者より訴追せられ、また敗戦国の適法なる官吏たりし者が個人的の国際法上の犯人なり、また条約の違反者なりとして糾弾せられるとは考えた事とてはありませぬ。
155
いつまでの「老いない脳」を作る10の生活習慣 ☆
石浦章一(東京大学大学院教授 分子認知科学)
ワックス
2009/08/26
「賢い人だけが長生きする時代に入っている」のだそうです。
脳科学などの本を読んできましたが、そこで習得した知識が、上手に解説されています。
海馬の話や、ニュウーロンの話しなど。
いろいろな書籍で、その道の専門家に語っていただくと、読む方も、確信が持てます。
10年後には、健康も、教育も、投資理論も、経済現象も、脳科学で語られるようになると思う。
P85
ちなみに、認知症の初期では、30分前に食事をしたのに、その記憶が失われて、「まだお昼ご飯を食べていない」というようなことが起こります。それは海馬が損傷して、短期記憶が失われるからです。海馬は虚血にとても弱く、血液が行き渡らなくなると細胞がすぐに死んでしまいます。
P89
いわゆるボケ、認知症といった場合、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞などによる血管性の認知症とアルツハイマー病があります。世界的には、血管性がほぼ30%程度、アルツハイマー病とされるものが50%程度とされています。ほかには脳の外傷によるもの、パーキンソン病、甲状腺機能低下症などによるものなど、さまざまな原因があります。
P157
もうひとつ、2004年には、社会の中で対人関係で優位な立場にいる人ほど海馬の神経細胞の増殖力が高まるという報告(アメリカのプリンストン大学のグールド教授)もあります。これは、上の立場にいる人のほうが人間関係のストレスがないことが大きな要因と考えられます。
アメリカで戦地からの帰還兵や幼児期に虐待を受けた人の脳を調べてみると、海馬が極端に萎縮していて、記憶障害を起こしていたことがよくあるそうです。これはPTSD(心的外傷後ストレス障害)ですが、このように、思い出したくない嫌なことを体験した人に起こりやすい現象です。嫌な体験の記憶を消し去ることで心の平安を保とうとするのですが、そのときに海馬の神経細胞がいわば自殺してしまうわけです。
P160
なぜ睡眠中やリラックスしているときに、長期記憶に移行するのかということは、ほとんどわかっていません。ただし、脳の神経細胞の電気信号を調べると、何か刺激があると、ピッピッと強い電気信号が出ているのですが、刺激がないような状態や眠っているときには、間欠的にポッポッと弱い電気信号が出ています。この電気信号が、記憶を固定したり消したりするのに必要なのではないかと推測されています。
P213
つまり、私たちが一生懸命に仕事をするのは、おもしろいということもあるかもしれませんが、それ以上に一生懸命に仕事をすれば、職場で認められるし、ひいてはそれが給料に跳ね返ってくるといった見返りがあるからです。お金という物質面だけでなく、ほめられる、認められる、楽しい、快楽があるといった、報酬があるということで、私たちはやる気が出るのです。
P239
たしかに生まれつき神経質な人はストレスを受けやすいということでは、損をするといえるかもしれません。しかし、遺伝のレベルで考えると、もしそれにメリットがなければ、進化の中で滅びてきたはずなのです。
154
筆談ホステス
斉藤理恵(銀座のホステス)
光文社
2009/08/26
1歳10ヶ月の時に聴覚を失った女性が、札幌、そして銀座のホステスになる。
幼少時から、ホステスになるまでと、ホステスとしての活躍、そして将来の夢を語りました。
聴覚がなく、言葉が話せず、筆談でホステスをするって凄い。
さらには、その環境にめげず、個性豊かなホステスとして活躍しているのも凄い。
聴覚の有無ではなく、この女性の個性なのだと思います。
怒ったり、泣いたりしてますが、一番の個性は自由な発想。
そして、上手な文章を生み出します。
上司を小馬鹿にする部下にガツンと言う言葉として
「やり方は三つしかない。正しいやり方、間違ったやり方、俺のやり方だ」と。
出世が遅れたために妻に当たられているサラリーマンに対して
「少し止まると書いて『歩』く。着実に前に進んでいます」と。
153
弁護士のための租税法
加本亘(弁護士)
千倉書院
2009/08/25
税法と名付けてあったら、やはり、購入し、読んでみるのだろう。
うーん、私どもの仲間が読む本ではないですね。
全く税法を知らない弁護士が、最初に読む参考書としては意味があるのかも知れない。
152
あなたの歯科医院を90日で成功させる方法
山下剛史(歯科医を専門とする税理士)
クインテッセンス出版
2009/08/24
歯科医院の経営再生のノウハウを小説仕立てで語っています。
私は、歯科医は、1に立地で、2に立地だと思う。
しかし、立地の選択は開業時のノウハウであり、既存の診療所は、おいそれとは移転できない。
患者数の減少に悶々と悩んでいる既存の診療所には役立つノウハウなのかも知れない。
151
仕事をするのにオフイスはいらない
佐々木俊尚(フリージャーナリスト)
光文社新書
2009/08/24
北アフリカの砂漠や中央アジアの草原で、羊や牛を追って生活している人達をノマドというそうです。
ネットを利用し、事務所を持たず、自宅やカフェ、外出先で仕事をする人達が現代社会のノマドです。
週に5日は出張旅行だったコンサルタントが、ITのツールを駆使して仕事をし、わざわざ出張しなくても済む仕事のスタイルを完成させた。企業も、出張旅費を負担せずにアドバイスが受けられるノマド型の提案を喜んでいる。
私は、事務所を出してますが、この頃、ノマド型の仕事が増えています。
質問から回答、方針決定、別のアイデアの提案など、全てがネットで解決していく生活スタイルです。
自宅でも、出先での時間調整のためのカフェでも、新幹線の中でも、事務所と同一の環境で仕事をしています。
つまり、ノートとネットがあれば、そこが私の事務所です。
弁護士でありながら、ほとんど裁判所には通わない。
移動、待機、会議、打合せ等、それらの無駄を最小限に抑える仕事の方法ですが、これを可能にしたのは15年前に始まったメールとネットの社会。
さて、ノマドとしての生き方が可能か。
それを語るのが、本書です。
仕事が受注できることと、自分の仕事がノマドとして処理可能なことの他に、自分の集中力が確保できるアテンションの確保が必要なのだ。私は、ノマド生活では、精神力が最重要課題になるように思う。
P31
いまだに「会社員は会社にいてナンボ」と言ってはばからない管理職は、どの企業にもいます。彼らは、「社員を監視することこそが自分の業務」と変な勘違いをしていて、自分たちの目の届かないところに部下が行ってしまうことを極度に恐れているのです。
P60
東京西部の住宅街で彼女と暮らしている矢野さんにとっての仕事場は、自宅や近所のカフェから、公園、さらには他社のオフィスまでさまざまです。知人や取引先の会社を訪問して「うちの机を使っていいよ」と言われると、さっそくその場でバッグを開けてパソコンを取り出し、プログラミングの仕事を始めるのです。
P74
しかし実際に読んでみるとわかるのですが、実はこの本はそんな低レベルの内容ではありません。ゲイツやスピルバーグ、ジョブズといったアメリカの新しいリーダー層は、創造性とライフスタイルを何よりも大事にしていて、仕事をするのもカネのためではなくて、自分の遊びや自己実現の延長だと考えている―そういう話なのです。
P82
これはさまざまな調査からも明らかになっています。たとえばオーストラリア・メルボルン大学のブレント・コーカー教授が行った調査によると、仕事中あれこれウェブを読んで回ってネットサーフィンを楽しんでいる人は、そうでない人よりも生産性が高いそうです。
P83
コーカー教授は次のように説明しています。
「アテンションカを取り戻すためには、ぼおーっとする時間が必要です。大学や高校の授業でも、20分も経つとアテンションはいちじるしく低下してしまいますが、しかし休憩を適度に取れば、アテンションは取り戻せます。これは仕事でも同じことです」
P90
その仕事の源泉は、とにもかくにもアテンションコントロールにあります。徹底的にアテンションをコントロールし、時間を効率的に配分し、無駄をなくしているのです。
150
お役所バッシングはやめられない
山本直治(公務員向け転職サイトを主宰)
PHP新書
2009/08/24
税理士までもが国税の職員を批判することがある。
それは全くの間違いだと、私は、思う。
国税の職員は優秀ですし、非常に真面目です。
社会的な存在意義としたら税理士の10倍、弁護士の100倍だろう。
この書の作者は、「間違ったお役所バッシングこそが日本をダメにしている」というテーマで本書を書いたようです。私は、正しい主張だと思います。
大昔の役所とは異なり、最近の役所は優秀な人達が勤務しています。
そして、優秀な人達は、必然的に、仕事に誇りを持つ。
仕事に誇りを持った人達は、仕事を生き甲斐として、誠実に仕事に対応します。
その筆頭が国税の職員だと、私は、思います。
ダメなのは、役所でもなく、民間でもない、第三セクターの人達。
私立大学、各種業界団体、あるいは公益法人等で、民間の厳しさも、公務員としての社会の批判も受けず、緊張感の無い組織として生き残っている。
108頁
また、常勤の大学教員の立場は、公務員など比較にならないほど費用対効果に優れています。全員とは言いませんが、ろくに新しい研究をせず一週間に何コマかだけ、万年同じ講義ノートでしゃべっているような人でも、そこそこの高給取りなのですから。
つまり、学問の自由が聖域化してグータラを許し、教員の給与と仕事量のバランスが不合理なものになっていないかということです。しかも大学教員は、空き時間を使えば副業もできます。かつかつ働かされたうえに副業ができない公務員にくらべ、副業にかまけて教育研究を怠る大学教員こそ批判すべきではないでしょうか。
149
ハップル望遠鏡 宇宙の謎に挑む
野本陽代(サイエンスライター)
講談社現代新書
2009/08/22
ハップル望遠鏡が発見した宇宙の紹介です。
アインシュタインの相対性理論を実証的に証明したのは太陽の重力レンズ効果。
この重力レンズ効果が、宇宙には、大量に存在する。
重力レンズの効果で、宇宙の遙かに彼方の星の様子が分かる。
宇宙の膨張は、あるときから加速している。
その原因は、ダークマター、ダークエネルギーという未知の物質と位置付けられている。
仕事に疲れたときに、美しい写真と共に読む、非常に読みやすい解説です。
ハップルの後継機種はジェームズ・エウッブ宇宙望遠鏡で、18枚のセグメントを一枚の鏡として利用する。月までの距離の4倍の位置にあるラグランジュ点に置かれる。第2代のNASAの長官の名を付けられた赤外線望遠鏡だそうです。
148
病気は自分で直す
安保 徹(新潟大学大学院教授)
新潮文庫
2009/08/21
病気を創り出すのは自分自身だ。
病気は医者が治してくれるという考え方から抜け出すことだ。
抗がん剤や、放射線治療、外科手術は、ひたすら体を痛め、病気が治ることから遠ざけている。
全ての病気から脱却するために、生命体は発熱、炎症を起こして闘っている。
この戦いをサポートしたときに病気は治り、薬で止め続けたときは病気は進行する。
うーん、癌治療に対する真正面からの挑戦です。
しかし、注目されている癌治療の1つが免疫療法なので、荒唐無稽とも言い切れない。
それに、私自身、このような主張を、この頃、信じているところがあります。
人間は、遺伝子が適者生存するための乗り物だそうですが、遺伝子は、自分自身が生き残る為の手段として、人間の体のあらゆる部品を管理するシステムを作り上げている。その最終司令塔は脳だろ。人間の体は自動機械ではなく、全てが脳の指令で動いている。免疫系の全てを管理し、足の爪1つを伸ばすのも脳の命令次第。
人間は、遺伝子の生存メカニズムを自覚的に意識した最初の動物。
さて、司令塔は、どのような命令を体の隅々に送っているのだろうか。
それを意識として認識することが、健康管理の方法なのではないかと。
P111
いずれにせよ、生き方の偏りが最終的にストレスを引き金として病気になるのです。ガンの場合でも同様です。交感神経緊張で起こる発ガンと副交感神経優位で起こる発ガンの比率は、4対1くらいではないでしょうか。
そして、すべての病気から脱却するために、生命体は発熱、炎症を起こして闘うのです。この闘いをサポートしたとき、病気は治り、薬で止め続けたとき、病気は進行します。生き方の偏りを正すという基本がもっとも大切なことなのです。
P134
しかし、このような進展があったにもかかわらず、手術・抗ガン剤・放射線治療というガンの三大療法に引きずり込まれる人が、まだまだたくさんいます。その心理について考えてみましょう。
P146
医師側の意識改革で必要なのは、ガンは患者の生き方の無理で発症するということ、そして生き方を見直してからだを労われば、ガンは自然退縮するということを早く認識することです。この認識がないと、悪いところを取ってしまう、小さくする、くらいの発想しか生れてきません。そして、その治療として行う抗ガン剤や放射線治療は、ひたすらからだを痛めつけ、治ることから遠ざかる流れに入ってしまいます。
147
現代アメリカ宗教地図
藤原聖子(比較宗教学)
平凡社新社
2009/08/20
西洋の文化や政治を理解するのに宗教の理解は不可欠です。
特に、米国について然りです。
東洋人が四面楚歌などという諺を日常的に使うように、放蕩息子の帰還という聖書の喩えを日常的に使うのが西洋の文化です。
そして、米国では、主(創り主)の存在を信じる国民は9割。
ブッシュは特殊だったとしても、そのブッシュが大統領になる国です。
P78
これとは逆に、あらゆる宗教的要素を政治や公共の領域から取り除くのは、フランス流の政教分離である。アメリカ政府が、どの宗教の信者にも祈りの場を提供することで、諸宗教を平等に扱おうと努めるのに対し、フランス政府は、誰にもそのような場を提供しないことによって、諸宗教に平等に接することができると考えてきた。
この違いが生じたもっとも大きな原因は、アメリカは「宗教による革命」、フランスは「宗教に対抗する革命」によって今日の社会のもとを築いたことである。
P79
フランスは、宗教的な事がらを個人の内面に限定し、その限りでの信教の自由を保とうとしてきた(つけ加えれば、日本は憲法ではアメリカ的だが、いわゆる国家神道を廃止して民主社会を作ったという歴史的経緯や市民の感覚ではフランスに近い)。
146
ユダヤ人の歴史(現代編)
ポール・ジョンソン
徳間文庫
2009/08/19
何のためにアウシュビッツが作られたのか。
ドイツのマスコミや知識人は傍観したのか。
マスコミや知識人などは、実力行使を伴った国家権力の前には存在しないのですね。
影で批判した知識人もいただろうし、声を上げた知識人もいただろろう。
しかし、歴史を変えるほどの影響力を発揮したマスコミも知識人もいなかった。
平和ないまだからこそ、マスコミと知識人は自由に発言できるのだと思った。
平和ないまだからこそ、マスコミと知識人は発言しなければならないのだと思った。
そうしなければ、何時、ヒトラーが現れ、小泉が現れ、小沢が現れるか分からない。
145
差別と日本人
野中広務
辛 淑玉
角川Oneテーマ21
2009/08/19
本物の政治家が語る。
格差のある社会は絶対にあってはならない。
これは冷淡な小泉政権の負の遺産に違いないが……
このような「前書き」の言葉を読むだけで、この人の深さと基準点の確かさが分かる。
ダブルスタンダードでは差別とは闘えないと論じている。
P187
このごろもう疲れちゃってるんだ、ほんとに。自分の出生問題の波及の大きさ、日本の閉鎖性と、僕はずっと闘ってきた。誰も手をつけなかった同和利権に関する税の問題などは、自分が政治家でいる間につぶしておかなければ、永久にこれは続いていくと思った。四面楚歌の時もあったけれども、いろいろな人の力を借りてやってきた。みんなまじめにやろうよと、一生懸命やろうよということを僕は伝えたかったからね。
144
なぜ正直者は得をするのか ★★
藤井聡(京都大学大学院工学研究科教授)
幻冬舎新書
2009/08/17
人間は利己主義だとされている。
社会制度も、経済学も、人間は利己主義だという前提で作られている。
しかし、これは違うのではないか。
「人間とは、そもそも純粋な利己主義なのだ」と信じてしまうだけで、他人の善意が想像できなくなる。その結果として、当の本人である自分自身が「損得勘定だけで判断を行う、純粋な利己主義者」へと変質していってしまう。
人間の行動原理は利己主義にあると教育する経済学部と、その他の学部の学生では実験結果(フランクの実験)に差異が見られた。
経済学部以外の学生は、約6割が協力を選択し、裏切りを選択したのは4割だった。
しかし、経済学部の学生は裏切りを選択したのが6割で、協力を選択したのは4割だった。
チャリティ募金には一切寄附をしないと答える回答者の割合が、経済学部の学生では、他の学部よりも2倍から3倍は高いという結果だった。
公共財への自己資金の提供については、経済学部以外の学生は42%の金額を提供したが、経済学部の学生は20%しか提供しなかった。
P45
これらの研究はいずれも、ここまで論じてきたことを支持している。つまり、「人間とは、そもそも純粋な利己主義者なのだ」と信じてしまうだけで、自然な感情が徐々に歪められ、当の本人である自分自身が「損得勘定だけで判断を行う、純粋な利己主義者」へと変化していってしまうのである。
以上の議論を踏まえるなら、もし、今まで「人間とは、そもそも純粋な利己主義者なのだ」と信じていた人物がいたとするなら、その人の思考回路は既に、(本来ならば、この世には現実には存在しなかったはずの架空の)「利己主義者的な思考回路」へと歪められているのかもしれないのである。もしそうであるとするなら、今からでもその歪んだ信念を“矯正”するための、意識的努力が必要なのではなかろうか。
素直に「ありがとう」と言える人間かどうかという分かれ目は、あなた自身が他人の好意の存在を信じているかにかかっている。そして、他人の好意を信じることができるか否かは、「人間は、皆、純粋なる利己主義者ではない」という結論を、貴方が知っているか否かにかかっている。
うーん、良い本です。
社会が善意で作られているという視点自体が嬉しい。
独裁者ゲーム、最後通牒ゲームにも言及し、損をすることを承知の上で行う「復讐」という行動も、人間が利己主義ではない証拠だと論じる。公務員の行動原理を利己主義とする発想が間違いであることを指摘し、イギリスの「共有地の悲劇」と日本のタクシー業界の規制緩和を比較して、利己主義的な行動が経済的効率性を生むという規制緩和の発想を批判している。
さらに、後編では、利己主義が、個人的な意味でも敗北に繋がると論じている。
人間の生物学的な進化は、裏切り者を検知する嗅覚を発達させてきた。オオカミが生き残る為に嗅覚が必要だったように、それが人間が生き残る為に必要な素質だったからだ。私達の世界は、利己主義者が、彼の利己性を隠し通すことができない、限りなく「透明」に近い社会なのだ。
実質的に自己利益を最大化しようと考える真に賢明な利己主義者であれば、自己の利益の最大化を目指すという心理的傾向を消し去ることこそが、合理的だという結論になる。
P5
すなわち、“得”をするのは利己主義者ではなくむしろ正直者なのであり、利己主義は最終的には“敗北”せざるを得ないのだ、という結論である。
本書は、正直者は最終的には馬鹿を見ないのだということを、だからこそ幸せは正直者に訪れ利己主義者には不幸しか訪れ得ないのだという現実を、明らかにしようとするものである。
P98
なぜなら、緩和されたその規制とは、そこに潜む社会的ジレンマを“飼い慣らす”ために、社会が長い時間をかけて編み出してきたものだったからである。それゆえその規制が撤廃されるや否や、それまでおとなしくしていた、様々な社会的ジレンマが“暴走”し、利己主義者が跋扈する事態を招いてしまったのである。
P104
こう考えるなら、近代経済学の祖と目されているアダム・スミスの基準から言って、社会には、過度な利己主義を抑制するための規制を設置することこそが、“道徳的”な判断なのである。そして、すべからく規制を緩和すべし、と唱える昨今の論調こそが、不道徳な主張なのだ、と結論づけなければならないのである。
P120
その戦略とは、ゲーム理論家の間では「Tit for Tat戦略」と呼ばれ、日本語では「しっぺ返し戦略」と訳されているものであった。その内容は、いたって簡単で、次のようなものである。
・まず、最初の対戦においては、必ず「協力」する。
・二回目以降の対戦においては、相手と同じ行動を繰り返す。つまり、相手が前回「協力」を選択したのなら今回は協力を、前回裏切ったのなら今回は「裏切り」を選択する。
P138
さて、究極的には社会的な「警察システム」にも繋がり得る、一人ひとりの心の中にある「裏切り者検知モジュール(装置)」を、なぜ、私たちは身につけるに至ったのだろうか。こうした点については、近年、「進化心理学」という分野で議論が積み重ねられている。
コウモリや犬やオオカミという存在にとっては、進化プロセスの中で聴覚や嗅覚を発達させることが得策だったのであり、それゆえに、聴覚や嗅覚が発達した。それと同様に、人類にとっては、進化のプロセスの中で、裏切り者を検知する嗅覚を発達させることが得策だったのであり、それゆえに、裏切り者を検知する嗅覚・装置を高度に発達させたと考えられているのである。
P139
すなわち、私たちの世界はやはり、利己主義者が、彼の利己性を隠し通すことができない、限りなく「透明」な世界に近いのだと、考えざるを得ないのである。
P148
すなわち、「実質的に自己利益を最大化しようと考える“真に賢明なる利己主義者”であるならば、“自己利益の最大化を目指す”という心的傾向を“消し去る”ことこそが、合理的なのだという結論を得るはずだ」という帰結である。
143
高齢者・障害者の財産管理と福祉信託
日本弁護士連合会 遺言信託プロジェクトチーム
三協法規出版
2009/08/14
成年後見制度などに比較し、信託の方が利用の自由度が高いと思うのですが、なかなか利用されません。
信託の正否は、良い受託者を得ることですが、これが難しい。
さらに、信託の利用を妨げる理由として「信託財産の名義を受託者に移転することの心理的な抵抗感」と説明されています。
信託の利用の手法としては、【1】自分が死亡した後の身障者である息子の生活費の定期的な確保と、【2】自分自身の判断力が失われるた後の定期的な生活費の確保が例示されてますが、信託は、それ以外にも無限の利用価値があります。
ただ、必要なのは、信頼できる受託者の確保です。
課税上の不利益は存在せず、倒産隔離され、法律的な保全は確かですが、しかし、財産を使い込まれてしまうという事実上の不正を防止するためには、信頼できる受託者が不可欠です。
142
貧乏はお金持ち
橘玲(経済作家)
講談社
2009/08/11
雇用情勢を映画館に喩え、各種の提案は見当違いだと批判します。
派遣社員を、終身雇用社員として雇うゆとりは企業には存在しない。
新たに社員を雇えば、既存の社員がはみ出してしまうなど。
しかし、この視点には「需要」が存在しないと思う。
映画館に喩えるのなら、映画を見たいという客が増えれば、映画館などは幾つでも建築される。
では、映画を見たいという客は、どこから出現するのか。
それは安定した収入が得られる労働者の存在だろう。
従業員を解雇し、段ボールハウスに追いやったら、映画を見るゆとりや経済力は失われてしまう。
日本型雇用形態を、年齢、経歴などで差別する制度で、世界基準に遅れていると指摘する。
しかし、労働に対する価値観や、世界観は、各々の国で異なっても良いのではないか。
愛社精神、帰属意識、安定感などが労働の根源であって、収入の確保のみが労働の目的ではないと思う。
しかし、まだ、54頁までしか読んでいない。
才能のある作家なのだから、たぶん、この後に、教訓、驚きなど、いくつものテーマを用意してくれているのだと思う。
やはり、読ませます。
アメリカのニューリッチは、自分達をビジネスマンではなくクリエイターだと考えている。
金銭的な報酬は好きなことをやったついでにたまたま手に入れたものでしかない。
著者のテーマはフリーエージェント(雇われない生き方)が時代の流れだということ。
米国でも、会社人間からフリーランスへの社会の変動があったのだと。
P35
だが残念なことに、この日本的雇用制度には致命的な欠陥がある。会社組織は軍隊と同様ピラミッド型だが、入社時にすべての社員に終身雇用と年齢に応じた昇進を約束すれば必然的に円筒形の組織ができあがってしまう。軍隊は強制的に兵士を退役させていくが、解雇ができない企業がこの矛盾を解消しシステムを維持しようとすれば、常に組織を拡大させていくほかない。こうして日本企業は次々と業務を多角化・拡張し、利益率よりもシェアの拡大に血眼になり、子会社や系列会社を増殖させていった。城が指摘するように、年功序列プラス終身雇用制とは原理的にネズミ講なのだ。組織が拡大し新しい社員が入ってくるかぎりシステムは機能するが、いったん成長が止まると瞬く間に崩壊してしまう。
P68
アメリカでも日本でも、会社はある意味、効果的な社会福祉制度として機能してきた。右も左もわからない新卒社員にも給料が払われ、仕事に失敗して大赤字を出しても生活は保障され、加齢にともなって生産性が落ちても給料は上がっていく。だがいまやM&Aは日常茶飯事になり、歴史のある大企業が消滅しても誰も驚かなくなった。かつては親子三代が同じ会社に勤めることも珍しくなかったが、いつのまにか会社の寿命は個人の人生よりも短くなった。互助会的福祉制度は会社の永続性を前提としているが、肝心の会社がなくなってしまえばどのような忠誠も報われることはない。
会社にしがみついていれば、会社とともに沈んでいくだけだ。会社を中心に人生を設計できる時代は、ずっとむかしに終わってしまったのだ。
141
現代法律実務の諸問題
日弁連研修委員会
第一法規出版
2009/08/11
日弁連の夏期研修の速記録です。
多数の講演が収録されてます。
しかし、弁護士は時代に遅れてしまった。
この20年間、内容に進歩がない。
でも、その中で紹介したいのが次の講演。
「破産事件にまつわる税法の落とし穴」
この弁護士は、ずいぶんと、文章が上手になった。
話し方も、格段に進歩したと思う。
破産会社が申告しないと加算税が課税される。
だから、申告する必要がある。
その趣旨だったら、加算税は、劣後債権。
だから、破産会社は、還付金が手に入る場合を除き、法人税の申告をする必要がない。
と、語っているように読めます。
私は、正しい主張だと思います。
P423
破産管財人が申告をしたり、届出をしたりするのは、破産財団を増殖させる、あるいは、破産財団の目減りを防ぐのが目的であって、法人税法や消費税法に定められた納税者の義務を果たすのが目的ではありません。
極端な話、そんなものはどうでもいいのです。
最高裁判所は、破産法人にも法人税法の清算中所得に係る予納申告及び納付の規定が適用され、予納法人税が財団債権にあたらない場合でも、破産管財人に予納申告等の税法上の義務があると述べています(最三小判平成4年10月20日 判時1439号120頁)。法人税法上正しいことを述べてはいるのですが、破産管財人がそこまでほんとうにやらなければならないのかどうかは、甚だ疑問です。
税法の正義を貫徹しようと思えば、無申告の場合、租税庁は質問検査権を行使することができます。質問検査権の行使に基づいて、決定によって税額を決めることができます。自らに与えられた権限を行使しないでおいて、破産管財人が申告しないからと、破産管財人を非難するのはおかしいという議論もありえます。
P419
ここに書かれている無申告加算税は、新破産法では劣後的破産債権になりましたので(破産法99条1項1号、97条5号)、これは考慮する必要がありません。ある意味で、自然人破産の場合の議論と同様に、義務はないが、破産財団にとってメリットがあればやった方がいいという考え方です。
140
イエス伝
山本七平
講談社α文庫
2009/08/09
山本七平氏の本はどれも読ませます。
ただ、私の方に、読みこなすだけの能力がないだけです。
自分は正しい、そう信じている人にはイエスは見えない。
だから、同時代に生きていても、ヨセフスには、イエスは見えなかった。
イエスの時代にも出生届があった。
ローマ政府が人頭税を徴収し(14歳から60歳までの男子)するためだった。
山本七平氏の解説書は、聖書の解説ではなく、歴史の解説であるところが安心できます。
山本七平氏の「聖書の旅」に触発されてイスラエルを訪問したこと2回。
もう一度、今度は夏のイスラエルを訪問してみたいと思う。
ああ、エルサレム、エルサレム、預言者たちを殺し、おまえたちにつかわされた人々を石で打ち殺す者よ、ちょうどめんどりが翼の下にひなを集めるように、私はおまえの子らを幾たび集めようとしたことであろう。それだのに、おまえたちは応じようとしなかった。
139
シェパード
フレデリック・フォーサイス(ミステリー作家)
角川文庫
2009/08/09
フォーサイスの短編です。
こちらはシェパードが見事。
シェパードは牧羊犬です。
ちなみに、私が飼っているのはオーストラリアン・シェパード。
電子機器が全てダメになってしまった戦闘機が第二次大戦で使われたモスキートに救われます。
ドイツから傷ついて戻ってくる航空機を向かえに行って連れ戻す。
それがシェパードの役割です。
計器類が故障したコクピットの状況や、夜と月と雲と霧などの描写は、経験者でなければ語れないほど具体的です。
フォーサイスの長編なら、お勧めは「イコン」でしょうか。
138
帝王
フレデリック・フォーサイス(ミステリー作家)
角川文庫
2009/08/09
フォーサイスは長編が見事です。
でも、短編も読ませます。
本書に収録された「免責特権」「完全なる死」、そして「帝王」は全てが見事です。
「免責特権」で語る弁護士の一言は、裁判を嫌うのはイギリスでも、日本でも同じなのだと納得します。
「完全なる死」は、相続と、相続税についての完璧なる対策をテーマとします。
「帝王」は、何が良いのか、よく分からないのですが、でも、何度も読んでしまう短編です。
銀行員が、長期勤務の褒美として銀行から与えられた休暇にマカジキを釣る。
それだけの話なのですが。
137
金のゆりかご
北川歩実(ミステリー作家)
集英社文庫
2009/08/06
幼児期の能力開発訓練が後にドラマを生む。
スチーブンキングのファイヤースタータを連想させるスタートです。
ファイヤースタータでは、ロトシックスという薬がチャーリーの超能力を生み出しました。
さて、本書は、紀伊国屋新宿本店の書店員が推薦し、出版後3年を経過してから売れ出した小説です。
136
最新脳科学で読み解く脳のしくみ ☆
サンドラー・モット(脳科学雑誌編集長)
東洋経済新報社
2009/08/05
「車のキーはなくすのに、なぜ車の運転は忘れなのか」という副題です。
うん、この副題が本書の良さを語っている。
勇気を持った処理ができる弁護士は、たぶん、「扁桃体」に損傷があるのだ。
「扁桃体」が発達すれば、リスクに対して、臆病になる。
「大脳基底核」と「島」が発達すれば、正しい行動について、そこがメッセージを送ってくれるのだ。
だから、自分の好き嫌いの感情に従えば、それが正しい選択になる。そのように大脳基底核を育て上げるのが、日々の学習なのだ。
P157
なかでも、不安の身体的サインが低下する。たとえばトランプをしているとき、扁桃体に損傷がある人は、リスクに対して心拍数が上がるとか手のひらに汗をかくなどの反応が起きない。動物もおなじで、扁桃体が傷つくと不安をかき立てるような状況にもあまり反応しなくなり、警戒心が薄れ、すくんだり逃げたりすることが少ない。
「嫌悪」の感情は進化的に古くて、狩猟動物が食べるのに適した食物かどうかを見きわめる必要性から生まれた。嫌悪感をつくるのに重要な脳の領域は、「大脳基底核」と「島」。人間の島に電気的刺激をあたえると、吐き気を催し、不快な味を感じる。大脳基底核か島のどちらかでも損傷したラットは、気分を悪くする食べ物を避ける学習がうまくできない。人間の場合、このふたつの領域の役割はもっと広くて、他人の同様の感情を認識することも含まれている。だから、これらの領域を損傷した患者は、嫌悪の表情をうまく認識できないんだ。
P158
なんとこの、この大脳基底核は、傷んだ食べ物だけではなく、道徳的良識に反することに対しでも、「鼻にしわを寄せる」という行為を引き起こすらしい。たとえば島は、「うしろめたさ」(自分に対する嫌悪感と言われている)を感じる経験を考えるときに活性化する。
もっと一般的に言うと、島の仕事は、「体の状態を感じとり、体が必要とすることをしたくなるような感情を引き起こす」ことらしい。もちろん、体が必要と思っていることが必ずしも信頼できるとはかぎらない。島はニコチンなどの薬物に対する欲求にも関わるからね。
島は、「前帯状皮質」や「前頭前野」など、意思決定にかかわる領域に情報を送っている。それから社会的行動の調節にも重要。たとえば身体的状態(顔が赤くなる)から感情的状態(恥ずかしい)を推論するのを助けている。さらに島は、自分の行為や状態と、他人のそれに、おなじ反応をする脳のシステムのひとつだ。こうしたシステムには他にミラーニューロン系がある。
P162
だから、こんどだれかに「そう感情的にならないで」と言われても気にしないで。感情は …… 好ましいものでもそうでないものでも …… 効果的な行動へうまく導いてくれるし、情報が足りなくて論理的な判断ができないとき、自分の行為から考えられる結果を予測する手助けをしてくれる。
さあ、感情的になろう。感情調節システムがきちんと作動しているかぎり、それはたぶん正しい選択だからね。
135
こうなったら会社はたたみなさい
三浦紀夫(倒産経験のある作家)
東洋経済社
2009/08/03
従業員や取引先に迷惑をかけられない。
倒産すると連帯保証人に被害が及ぶ。
倒産後、自分自身がどうやって生活していったら良いかが分からない。
経営者が倒産について躊躇するのは上記の3つの理由と、次の2つの理由だそうです。
成る程と思う。
破産したらこの世の終わりだというような倒産に対する恐れ。
銀行に返済できなくなったら自分の信用がなくなり、この世では商売ができなくなる。
著者が取材した倒産社長12名の内の4人は、生命保険金を目当てに自殺を考えたという。
この著者は、倒産についての実感と実態を理解していると思う。
私が、実務で、日々語ることと、ほぼ、同じ内容を語っている。
民事再生や、破産などの不毛な議論ではなく、事業の閉め時や、心の持ち方、破産が必要な場合と不要な場合、連帯保証人に対する態度や、その後の処理、再企業についての考え方や就職の手法、立ち直りまでに要する期間など、経験者でなければ語れない実感を語っている。それも、ただ経験しただけではなく、その経験を考察し、一般化し、かつ、具体的な知識として位置付けているところが優れている。、
倒産を、法律問題や、経済問題としてだけではなく、メンタルな面として捉えているところも、倒産不可避という場面に対面した経営者に対する指針になると思う。法律家の書籍や、コンサルタントの書籍にある無駄な解説部分が存在しないのも好感が持てる。
倒産する社長よりも、身近な倒産の相談に乗ることが多い税理士が読むべき本かも知れない。
本当に倒産することになり、この本を読んだら、倒産の実感が分かるだろう。
134
アパ・マン 成功投資術
浦田 健(不動産コンサルタント)
日本実業出版社
2009/07/31
税法を語る人達は、不動産投資と株式投資を実践すべきだと思う。
自ら実践せずに語る言葉では、総論、抽象論の域を出ることができない。
アパート投資に限らず、全ての投資には思想が必要なのです。
しかし、自ら実践しなければ、その思想を理解し、習得することができません。
そして、投資物件の選択には視点が必要なのです。
しかし、視点を語るには、アパート経営の成功体験が必要です。
さて、どのような思想と視点を語ってくれるだろうか。
うーん、アパート経営の一般的な解説書でした。
例えば、近くに投資をするか、遠隔地に投資をするかというテーマでは、「基本的に初心者は、いま住んでいる町、勤務地など、土地勘のあるエリアから始めるのが無難だ」と説明しています。これは全く正しいのですが、このことについて語るべき実務の知恵は幾つもある。それが実感として語り尽くされていません。
万人の読者に向けての解説書では、アパート投資の価値観にまで深入りすることができなかったのだろう。
133
アパ・マン 満室経営術
浦田 健(不動産コンサルタント)
日本実業出版社
2009/07/31
資産税のアドバイザーには不動産経営の知識は不可欠です。
可能なら、自ら実践して経験を積んでおくべきが不動産経営です。
さて、不動産経営の1番のリスクは何か。
2番目のリスクは空室です。
不動産賃貸業は、刺身などの生もの以上の生ものを扱っています。
刺身なら、翌日でも売れるかもしれませんが、アパート経営の空室は、翌日には売れません。
どのような採算計算も、空室の多いアパートで絵に描いた餅です。
さて、そのようなアパートなら満室経営が可能なのだろうか。
うーん、この著者よりも、私の方が、アパート経営についてはプロだと思う。
132
日本赤軍私史 パレスチナと共に
重信房子
河井書房新社
2009/07/30
美人の闘志重信房子の自伝です。
いま裁判中の著者が、学生時代からパレスチナ運動までを語ります。
なぜ、連合赤軍のような集団が作り上げられたのか。
なぜ、パレスチナに行くことになるのか。
パレスチナで何をしていたのか。
パレスチナにおける抵抗運動についての500頁の長編のドラマです。
日本では、連合赤軍の時代は遠い昔に終わりました。
しかし、イスラエルでは、いま現実に戦闘状態にある。
そのことが著者を革命家として居続けさせたのですね。
二つ三つさらに多くのベトナムを、
ゲバラに続けと我ら日本を発ちたり。
38年前の今日、私は日本を発ちました。
あの日の決断が鮮やかによみがえります。
そのように記述を終えています。
革命が歴史だという信念に一生を使った運動家の自伝です。
P39
しかし、赤軍派は地道なそうした活動には目を向けなかった。権力の弾圧に抗しつつ学園闘争や社会運動からも同盟員を引きあげ、「前段階蜂起」へと武装闘争によって牽引するという方向に自らの役割を見出していった。当時は私もそうであったようにラジカルな若者たちは、「武装闘争」が他の大衆的で地道な運動よりも価値があるように考えていた。確かに、自らが自己犠牲、捨て石になろうとか、我々こそが世界革命を切り拓くというロマンに満ちた夢に賭けていた。
「もし我々が空想家のようだと言われるならば、救いがたい理想主義者だと言われるならば、何千回でも答えよう。そのとおりだ、と」。これはチェ・ゲバラが言ったことばだが、私たちは、科学や理性より情熱の論理化された結晶のように結集していった。私自身もそのうちの1人であった。こうした無自覚にも傲慢な考えを「使命感」として捉えていた。そしてこうした非妥協に闘うことにもっとも革命的価値を置いていた。
P41
私が大量のナップザックを購入したことが罪とされた。ナップザックがなぜ凶器なのかと抗議しつづけた。学生がナップザックに石を入れて運び、投石したためだと言う。結局起訴されなかったが、私の素性を知ることや大菩薩峠事件取り調べのための別件逮捕であった。こうした強引な逮捕は私をますます闘争に駆り立てたようだ。
P43
私たちは「過激派」と呼ばれたが、それらは権力との攻防の結果でもあった。当時もっとも暴力的だったのは公安警察であった。
公安権力は暴力団のようにガラが悪く、脱法行為をくり返していた。当時を思い出すと、一番の「過激派」は赤軍派より権力の先兵の公安当局であった。
P45
こうして、当時のベトナム、パレスチナ解放運動の国際的局面と、日本での弾圧敗北の中から活路を見出そうとしていた赤軍派の「国際根拠地論」が結びつく条件がそこに生まれた。といっても、当時の私たちの主観的願望にすぎないのだが。
131
千年、働いてきました 老舗企業大国ニッポン
野村進(ジャーナリスト)
角川Oneテーマ21
2009/07/30
創業100年、200年の企業が多いのが日本の特徴。
西欧諸国にも、アジアにも、そのような企業は非常に少ない。
その理由は、職人気質にあるのではないか。
商人のアジアと、職人のアジアがあるが、日本の老舗企業の大部分は職人企業。
そのような視点で、幾つもの企業を紹介しています。
老舗事業に止まらず、新しいものに挑戦することで生き残っている企業を紹介している。
老舗企業とバイオテクノロジー、老舗企業の世界進出と、読ませるところは幾つもあり、又、登場する社長の経営哲学も面白い。
非常に読みやすい本ですが、これは作者の筆によるところが多いのだろう。
この作者の才能を持ってすれば、大概のことは、ストーリーに仕立てることができそうな気がする。
130
ぼうず丸もうけのカラクリ
現役のお坊さん
ダイヤモンド社
2009/07/21
税理士である住職が、お寺の経営を語りました。
住職の住まいは、社宅扱いにならず、宿直室扱いなのですね。
つまりは、家賃は無料だと。
しかし、小学校に通っている子供が生活しているのに、家賃無料というのも不思議です。
工場に隣接する社長の自宅と、どこが違うのだろう。
129
「デキる人」ほどなぜ人間ドックに行くの?
馬渕和子(医師)
講談社α新書
2009/07/18
人間ドックって必要なの。
どのような人間ドックがよいの。
バリウムによる胃の撮影は必要なの。
ペットは有効なの、毎年、ペットを受ける必要があるの。
ここらを説明してくれることを期待して本書を手に取ったのですが、さて。
128
人の気持ちがわかる脳 ☆
村井俊哉(臨床精神医学)
ちくま書房
2009/07/18
脳科学ブームという一般の人達を巻き込んだ現象が生じて、たいして目新しいくもない子供の発達や教育理論などが大々的に宣伝されているのをみるとうんざりする。しかし、心の現象は実は脳で起きている出来事であるということに違和感を感じないであろう読者の方々を想定して、ここから話を進めていきた。
当然のことながら心の現象は脳で起きているのです。
安心して読める解説書のように思います。
「ハト派、タカ派ゲーム」を例に脳の発火の実験を紹介しています。「腹内側前頭前皮質」に障害があると、不公平感が押さえられないとか。これらを、MRを使った実験や、脳に障害を負った人達を被験者とした実験で説明し、さらにインドネシアでの自分の経験を元に語っています。
脳科学で説明できるのは、その事象によって発火する部分の特定だけであり、意味の理解には、精神分析や自己観察が必要なのだ。「ハト派、タカ派ゲーム」も自己の利益を最大化するという合理的な理由だけではなく、相手が利益を受けることについての怒りや不公平感、そのゲームをみているギャラリーいて、彼らが自分をどう見るかという評価も、行動に影響を与える。
まさに、「ハト派、タカ派ゲーム」は、裁判そのものであり、ギャラリーを増やすことによって、トラブルをプライドのゲームにしてしまうのだ。そして、「最後通牒ゲーム」と同じで、自己の利益の最大化ではなく、自分を見くびっている相手方が不当な利益を受けることに対する怒りのゲームにしてしまう可能性もあるのだ。
P64
つまり、現実のハト派・タカ派ゲームでは、大切なのは個人的利益、他人を度外視した自分だけの報酬ではない。ゲームの目標が変わってしまうのだ。自分の財布、自分の休息など、自分にとっての利益ももちろん大事なのだが、自分をみくびっている相手の態度が許せない、不公正なことをされているのが我慢ならない、という激しい怒りが、個人の利益を超えて自分を突き動かすことになる。
P65
さらに、ゲームのハト派・タカ派ゲームではプレイヤーは二人だが、現実のハト派・タカ派ゲームではプレイヤーのほかにたくさんのギャラリーがいる。自分の行動を彼らがどう見ているか、そのことも自分の行動に大きく影響してくる。私たちは、自分自身の利益を増やしたり、自分自身の安楽を求めるだけでなく、そういった不特定多数のギャラリーから白い目で見られたくないし、できれば賞賛されたいと思うのだ。
P96
腹内側前頭前皮質を「耐えがたきを耐え忍ぶ脳」と呼ぶならば、島皮質は、その場の怒りの感情に任せて後のことを省みず、感情で私たちを振り回しているだけではないだろうか?
むしろ私たちの冷静な判断と生存には、不公平・不公正に対する島皮質が担う感情の働きは余計なものではないだろうか?
島皮質が私たちにとって意味があるのかないのか、不公平・不公正感に対する私たちの感情に意味があるのかないのか。その問いに対するひとつの答えがある。それが「利他的懲罰」というキーワードだ。
P97
このような行動は、一見他者を攻撃しているように見えるので、寄付行為やボランティア活動などの自己犠牲的な利他的行動とは正反対のように見える。しかし実は、自分を犠牲にして、集団全体の協調性を高める方向に貢献しているという点では、寄付行為やボランティアとタイプは違っても、同じく利他的行動と言えることになる。
これを、自己犠牲を払って他者を罰することにより公共のために行動しているという意味で、「利他的懲罰」と呼ぶ。
P99
簡単にいうと、αが小さい人は、不公正に対しては甘く、自分の実際の取り分を黙々と増やす、ある意味合理主義者、逆にαが大きい人は、不公正に厳しく、自分の取り分を犠牲にしても他者を罰する人ということになる。
P137
しかも、天気の場合と違って、自分の内面、心というのはとらえどころのないものである。「Aさんが見栄っ張りといっているのなら私は見栄っ張りかもしれない」と、他入の視点を通してみた自分の像が、自分自身の心を左右してしまうような本末転倒の事態も起こりかねない。
このように、自分の評判、他者からの自分の評価について想像する私たちの能力は、他者の心を想像する能力の中では、多少レベルの高い部類に属する能力と考えられている。そして、この本では扱うことができないが、脳科学の最後の謎ともいえる「自己意識」は実は、他人の心を通して自分の心をみる、というこの脳活動から生まれてきているのではないかとも考えられているのだ。
P168
自分は他の人と比べると、最後通牒ゲームのような場面、つまり相手が主導権を握って分配率を決める場合、取り分が少ないとむかっとくる(αが高い)ほうかな、逆に独裁者ゲームのように自分に完全に決定権がある場合、相棒にもかなりのお金を分けてあげる(βが高い)ほうかな、などと自分の行動を想像して、タイプ1から4のどこかに分類してみていただきたい。
127
科学者たちはなぜ見誤るのか
福岡伸一(分子生物学)
講談社現代新書
2009/07/17
福岡教授が、生命科学者の視点で見た社会の事象を語っています。
ランゲルハンス島、ゲテイ・センターの絵画、ベネチアにある不治の病という水路、コンビニのサンドイッチ。
深い思考を語る作者は、何を語っても深い。
126
16歳の教科書
金田一秀穂他
講談社
2009/07/14
たぶん、3度は読んだ本ですが、新幹線の友として、また、購入してしまいました。
国語で、大切なのは、美しさよりも正確さ。
だから、心を描写する日記や作文よりも、事実を正確に描写する新聞記事を書かせた方が良い。
文章に必要なのは、正確な事実の描写であり、読者に伝わる表現力です。
数学は知識ではない。
社会に出てから微積分や二次関数を生かす機会は滅多にない。
数学的思考、つまり、ものの考え方や論理の進め方を学ぶのが数学。
人間は、言葉でしか思考しません。
つまりは、言葉は思考そのものなのです。
だから、事実を正確に表現できる言葉が必要になります。
そして、考えるべきは論理です。
その論理的な思考力を高めるのが数学です。
それが、義務教育の王様が国語と数学であることの理由。
P70
たとえば、弁護士という仕事に就こうと思ったとき、何よりも大切なのは数学的思考力です。法律の知識なんてものは、大人になってから幾らでも頭に入ります。でも、数学によって鍛えられる思考力は、若い皆さんたちの年齢でしか伸ばすことができないものなのです。
125
新・資本論
堀江貴文
宝島社新書
2009/07/14
ホリエモンが書いた金銭観です。
たぶん、本人は、ちょっと違うカネについての視点を提供しているつもりなのだろ思います。
124
薄暮
篠田節子
日本経済新聞社
2009/07/10
日経新聞の夕刊紙に連載された小説の書籍版です。
大阪出張、名古屋出張が続くので、良い本を見付けると嬉しくなります。
うーん、篠田節子さんの小説は、やっぱり、「イビス」と「カノン」が良い。
123
検事はその時
中尾 功(検事長)
PHP研究所
2009/07/06
刑事事件は、被疑者にとって見れば地獄ですから、常識を越えた葛藤があるのだろう。
そのような立場にはなりたくないものである。
では、刑事事件の地獄を、検察側から見たら、どのように見えるのか。
うーん、その辺の著者の思考力について素直な感想を書くのは怖いですね。
著者は、現職の検事長ですから。
122
心は遺伝子の論理で決まるのか
キース・E・スタノウィッチ
みすず書房
2009/07/04
人間が進化するために遺伝子が進化してきたのではない。
遺伝子が生活しやすいように、人間を変更してきたのだ。
人間は、単に、遺伝子の乗り物にすぎない。
これがリチャード・ドーキンスの主張。
いま、生物学はコペルニクスの時代なのだ。
適者生存は、人間が作った勝手な妄想であり、生存を図っているのは遺伝子。
遺伝子の生存のために都合の良い入れ物として作られたのが人間であり、生物であり。
しかし、人間は、遺伝子の意図を理解し、その意図を解析することを可能にした最初の生物。
そして、遺伝子の意図は、脳に表れ、結局、生物学と脳科学は、いずれ合体するかも知れない。
TASSなどは、その典型例だろ。
進化が作り上げたTASSは、われわれを合理的決定に導いてくれる。
それが、脳科学で学習した大脳基底核の働きに似ているように思う。
P410
さてそこでスタノヴィッチ氏が取り上げるのが、分析的システムである。近年の思考に関する認知研究が明らかにしたことの一つに、人間の思考システムは一定程度まで独立した二つのサブシステムからなっている、というものがある。
いままで述べてきた直観的で、効率的な認知を可能にするTASSだけではなく、人間は分析的思考を可能にするシステムももっているのである(もっとも研究史からすれば、分析的システムの方が長い歴史をもつのだが)。
この分析的システムを動かすのには時間がかかり、認知的負荷も大きいのだが、これによって人は仮想的な思考ができたり、体系だったプランを立てられるのだ。この分析的システムは言語の獲得、文化の創出とともに、進化のプロセスの比較的最近になって、おそらくヒトだけに作り出されたシステムである。
分析的システムを活用することで、TASSの出力をそのまま受け入れるのではなく、それを批判的に吟味、検討し、われわれ人間個体の幸福のための道を探求できるようになるはずである。
121
16歳の教科書 2
綾戸智恵(ジャズシンガー)他
講談社
2009/07/01
16歳の教科書は、本当に、良い本でした。
違和感にこだわるという発想など見事です。
前作は、カリスマ教師が語ってくれた16歳の教科書です。
今回は、卒業し、社会で成功した人達が語る16歳の教科書。
君の明日を変える「生きた言葉」が、ここにはある。
と、期待して読み出したのですが。
卒業生諸君、君達には、勉強の楽しさが表現できなのかね。
16歳の教科書を、もう一度、読んでみたくなった。
120
信託法改正と相続税・贈与税の諸問題
川口幸彦(税務大学校教授)
税大論叢
2009/06/26
信託法の改正時に、信託法を、一通り、勉強した。
税法改正時に、信託関係の税法を、一通り、勉強した。
しかし、理解が十分だとは、とても思えない。
そこで見付けたのが、この税大論叢です。
200頁の分厚い論文ですが、読み通してみようと思う。
信託とは、自分の財産を信じて託することであり、中世イギリスのユースを歴史的な起源としている。
そのような書き出しも嬉しい。
収益受益権と元本受益権とを区分する手法について相続税評価額を論じてますが、所得税については、どのようになるのだろう。家賃を受けとる収益受益権者が減価償却費を計上し、不動産所得を申告するのか。あるいは元本受益者が減価償却費を計上し、不動産所得を申告するのか。
改正税法の全ては、「この判定については、仮に信託がないものとした場合に同様の権利関係を作り出そうとすればどのような権利関係となるかが参考になると考えられます」と解説していますが、信託を利用せず、収益受益権と元本受益権を区分することが可能なのだろうか。
P371
収益の受益者である甲の妻乙と残余財産の給付を受ける長男丙という2人の受益者がいる。乙が有するいわゆる収益受益権については、将来受けるべき利益の価額に、課税時期からそれぞれの受益の時期までの期間に応ずる基準年利率による複利現価率を乗じて求めた価額の合計額がその受益権の評価額(16,351万円)となり、丙が有するいわゆる元本受益権については、課税時期における信託財産の価額から、いわゆる収益受益権の評価額(16,351万円)を控除した価額がその受益権の評価額(13,649万円)となる。
119
筆跡・印象鑑定の実務
吉田公一(元警視庁文書鑑定官)
東京法令
2009/06/26
文書偽造の訴訟事件を担当したことがあり、筆跡鑑定はブーズー教の呪いと同じだと知りました。
ただ、この筆者の鑑定理論は優れていた。
しかし、何が優れているかの正確なところを覚えていない。
そこで、筆跡鑑定の何たるかを、再度、読み直してみようと思う。
P54
筆跡鑑定では、原則として比較対照する文書相互間に字体と書体が同じ文字、あるいは書体が近似する文字の存在が必要であるが、社会一般にはそれらの事情がよく知られていないため、文字さえあれば筆者の異同識別が可能であると考えられている面が少なくない。そのため「東京」と「横浜」などのように比較対照する文字が全く違うものが鑑定資料として提示されることがあるが、「東京」と「横浜」とでは一つひとつの字画の形や字画の組立て方が違うから、それらの文字相互間では比較検査ができない。
118
ミラーニューロンの発見 ☆
マルコ・イヤコボーニ(神経学者)
早川新書
2009/06/25
今後、10年は、脳科学の時代です。
次々に新しい発見があり、出版があります。
ミラーニューロンは、対象者の認識による発火現象が、自分の脳内でも生じるという現象です。
これで、生物は、相手が感じている感覚、相手が考えている感情を、自分でも追体験して理解する事ができる。
要するに、感情移入ニューロンです。
この書籍の読破には時間がかかりそうです。
私たちの脳は、自分でボールを掴んだときも、他人がボールを掴むのを見たときも、ボールを掴むという話しを聞いたときも、すべて同じように発火する。だから、他人がボールを掴んだ事実も、美味しそうにアイスクリームを食べている事実も、自分の頭で、その意味内容を理解することができる。
そのような視点で、他人と会話をすると面白い。
私が、この裁判は勝てますと言ったときには、私の脳の一部と、相談者の脳の一部の同じニューロンが発火する。
この裁判は無理ですと言ったときに、同じ脳が発火する人とは会話が成立し、そうでない人達は、不満を感じたときのニューロンが発火するのだろう。
つまりは、同じニューロンを発火させるような説明が、上手な説明なのだ。
それが共感であり、他人の身ぶりの意味するところを当たり前のように理解させる物理的な手段なのだ。
P336
では、そんなにも重要なミラーニューロンとは、いったいどういうものなのか。それが本書で300ぺージ以上もかけて説明していることなのだから、一言で表すのはとうてい無理な話なのだが、あえてかいつまんで言えば、自分がある行動をしているときに活性化するニューロンでありながら、その行動を他者がしているのを見ているときにも同じように活性化するニューロン、ということになる。
つまりミラーニューロンとは、他者の行動を自分の脳内で「鏡」のように映し出す神経細胞なのである。さらに研究の結果、このニューロンは他者の「行動」だけでなく、その行動の「意図」までも識別できるようであることがわかってきた。もちろん、そのような複雑な反応特性をもつニューロンが存在するとは、十数年前には誰も予想していなかった。
P337
サルの脳内で初めて見つかったミラーニューロンは、その後の研究によると、人間にも存在するらしい。つまり私たち人間の脳内には、他人のしていることを見て、まるで自分がそれをしているかのように感じさせる細胞があったということになる。
だから私たちは、他人の喜ぶ顔を見ればつい自分も笑顔になるし、他人が悲しんでいるところを見ればもらい泣きもする。他人がなにをしようとしているか、なぜそうしようとしているかも、他人の身ぶりや表情から、すぐに察しがつく。
私たちの「共感」の土台は、このミラーニューロンにあったと考えられるのである。そして、他人の身ぶりの意味するところを当たり前のように理解させ、人間どうしのコミュニケーションを促進しているという点で、ミラーニューロンは言語の起源にも関わっているのではないかと目されている。
117
老化も進化 ★
仲代達矢
講談社α文庫
2009/06/25
その道で成功した人達の著作には、いずれも教訓があります。
役者の生き方は、弁護士の生き方に似ていると思いました。
カネではなく、仕事を楽しむことです。
売れないときこそ、自分を磨く。
売れない自分を楽しむことです。
仕事を楽しもうと思ったら、自分のオリジナリティを見付け、常に探し続けること。
それが珍しきものであり、面白きものなのです。
自分の成功体験に如何ほどの価値があろうか。
日々、成功体験の破壊をし続けるのが役者道であり、弁護士道であり、商売人道です。
P27
心に元気を持ちなさい。
はじめはいろんな理由で俳優になろうとしているの。
有名になりたいとか、お金持ちになりたいとか。
それはなんでもいいの。
でも不思議に、結局俳優として残っているのは、お芝居が好き、芸術が好きという人だわ。
P81
千載一遇のチャンスを自分の手でどう捉えるか…。
私は待ち時間をどう充実させるかにかかっていると思います。
待つことにもそれなりの心構えが必要です。
長い待ち時間にどれだけ自分を鍛錬して、実力を蓄積できるか。
その間のストレスや不安を克服して、どれだけ前向きに過ごせるか。
そして、初心を忘れず、どれだけ情熱を持ち続けられるか…。
P83
その中の一節、「我々の見せるものは“おもしろきもの”でなくてはならぬ。“めずらしきもの”でなくてはならぬ。それが花だ」に私は心を惹かれます。
私なりの解釈をすると、“おもしろきもの”とは可笑しいというより興味を惹かれるもの。好奇心を掻きたてられ、「この芝居は何を言いたいのだろう」「主人公はどう考えたのだろう」とお客さまに推測させる謎が必要なのではないかということです。
“めずらしきもの”とは何かというと、それは新しさです。
今までになかったもの、目新しいものを常に発見し、他にない独自性のあるものを演じること。
それは表現者としての宿命でしょうか。
P84
ただ、役者はどうしても長いことやっていると、つくり上げてきたものを大切にしすぎ、守りの態勢に入ってしまいます。
実は私、役者としての過去の経験はあまり意味がないと思っているのです。
今までのものを全部捨てるくらいの気持ちが必要です。
50年もやっていれば、なかなか捨てきれない。
それでも“めずらしきもの”を追い求め、捨てよう、捨てようとすることが大切だと思うのです。
これはビジネスの世界でも同じではないでしょうか。
環境や状況が変わっているのに、自分が経験した過去の成功体験がなかなか忘れられない。
「あの時はこうやって成功した」と昔の回想や自慢ばかりして、現実を見ようとはしない、過去の栄光から逃れられないのです。
116
半島ふたたび
蓮池薫
新潮社
2009/06/22
韓国訪問記の第一章と、翻訳作家として自立するまでの第二章です。
文章を扱う仕事をしてますし、北朝鮮でも、翻訳の仕事をさせられていた。
ですから、読みやすい文章を書きます。
さて、翻訳本ですが、そこに登場するエスプリは、原作者のエスプリなのか、翻訳者のエスプリなのか。
オシャレな表現は、原作者のセンスなのか、翻訳者のセンスなのか。
翻訳作家として、そこらを語ってくれているだろうか。
P167
「小説家なら想像力や構成力といった資質が求められるにちがいないけど、元があっての翻訳は、あくまでも原書に忠実であればいいんじゃないの?」
「うん、たしかにそのとおり。でも原作に忠実って、言葉でいうほど簡単じゃないんだ」
「翻訳は単なる言葉の置き換え作業じゃない。言葉の背後には『論理・感情の流れ』があって、それを的確に日本語に移しかえる。それが僕らの仕事というわけだ。場合によっては、表面的な字面を大きく変えてでも『論理・感情の流れ』のほうを重視することだってある。そして、その流れは当然単語レベルですむものではなく、文と文のつながり、段落と段落のつながりにまで及ぶんだ」
P168
僕はすぐに推敲作業にはいる。
原作を離れ、日本語訳だけを読み返していくと、実に多くの欠点が目につく。
誤字脱字はもちろんのこと、同じ表現の繰り返し、漢字とかな表記の不統一、さらには意味不明文にいたるまで、いったいいつ“商品”としての読み物に仕上げられるのかと不安にかられてしまう。
でも、親友のアドバイスどおり、あせらず、じっくりと推敲作業を進めていった。結果、推敲を重ねるたびに文章が見違えるように良くなっていくのがわかる。ああ、これが翻訳の醍醐味かな?僕は今後への手ごたえを少しずつ感じ始めていた。
115
ブラック・スワン
ナシューム・ニコラス・タレブ
ダイヤモンド社
2009/06/22
どうも、テーマを探すのに苦労をする本です。
たぶん、14頁から引用した部分がテーマなのだろう。
事故が起きる前の予防が大切だという意味なら、まさに、私の生き方だ。
事故が起きる前に対策を取り、何の事故も起きなかったときは、対策を提案した者は誰からも評価されない。
これも私の生き方そのものだ。
事故は、事前に予防し、何事もなかったように人生を過ごす。
その為にこそ利用すべきが法律を含む、生き残りの知恵です。
裁判は、予防法学を怠り、洞察力が欠如した場合に出現する丁半博打です。
前文
ブラック・スワン(黒い白鳥)とは、まずありえない事象のことであり、次の三つの特徴を持つ。予測できないこと、非常に強い衝撃を与えること、そして、いったん起こってしまうと、いかにもそれらしい説明がでっち上げられ、実際よりも偶然には見えなくなったり、あらかじめわかっていたように思えたりすることだ。
グーグルの驚くべき成功も9・11も黒い白鳥である。
宗教の台頭から私たちの日常生活まで、ほとんどすべての背後には黒い白鳥が潜んでいる。だが、実際に起こるまで黒い白鳥という現象に私たちが気づかないのはなぜだろうか?
その謎を解き明かしてくれる本書を読めば、世界の見方が変わるだろう。
P14
先ほど考えた、私たちの知らないことの価値にも同じ論理のねじれが当てはまる。
治療より予防のほうがいいのは誰でも知っている。
でも、予防のために何かをして高く評価されることはあまりない。
本に書かれることもない貢献をした人たちの犠牲のうえに、歴史の本に名を残した人たちを、私たちは崇め奉る。
私たち人間は軽薄だ、でも、それだけじゃない(軽薄なのは、ある程度直せる)。
私たちはとても不公平な種族なのである。
114
コンプレックスで勝つ
垣内秀天(ベンチャー経営者)
四海書房
2009/06/22
私は、精神分析学については、フロイドの弟子のアドラーの信奉者です。
アドラーは、人間の根源的な行動原理をコンプレックスに置きました。
劣っているという意味のコンプレックスだけではなく、他人との関係における「こだわり」としてのコンプレックスです。
人間は、他人から見られる評価を無視しては生きていけない。
不幸だから不幸なのではなく、不幸と見られることに耐えられないのだ。
私の周りには、コンプレックスで潰れてしまった人達がいます。
あるいは、逆に、プライドに潰されてしまった人達です。
非常に評価の高い書籍ということで手に取ったのですが。
経営者の精神論以上の理論を教えてくれるのだろうか。
うーん、私にダメでした。
理屈でしかモノが考えられない専門職と、広い視点を持っている商売人では、必要とする知識(と考えてしまうところが専門職の限界)が違う。
113
星野リゾートの事件簿
中沢康彦(日経トップリーダー副編集長)
日経BP社
2009/06/21
星野リゾートは本物なのか。
なぜ、ただの旅館が、経営の仕方で儲かる商売になってしまうのか。
そのような興味で読み始めました。
星野リゾートの経営は、顧客満足度の向上と、本書の副題にある「なぜ、お客様はもう一度来てくれるのか?」にあるのだ。
ただ、それには、精神論だけではなく、具体的な手法があるはずです。
そうでなければ、来客数の減少で倒産したホテルが再建できるわけがありません。
しかし、本書のように、最初から星野リゾートの経営を誉めることを目的に書かれた書籍では、その点の掘り下げた議論は期待できない。
でも、幾つかの注目すべき「視点」は存在しました。
「ニッパチの法則」は弁護士業にも、税理士業にも存在するのだろう。
今日、相談に来てくれた来客を大切にしよう。
彼が、明日の8割の利益を生み出してくれるのですから。
P68
「負けるな。頑張れ、新人!」
川村は、社長から届いた返信メールに驚いた。
メールをアルツ磐梯の全スタッフに送ると決めたとき、送り先に社長が含まれていることを知っていた。
だが、新入社員の送ったメールに対して、まさか社長から真っ先に反応があるとは思っていなかった。
P75
リピート客は非常に重要である。サービス業には「ニッパチの法則」がある。
これは「2割のリピート客が、実は8割の利益を生み出す」という収益構造を意味する。
リピーターは何度も利用してくれるだけでなく、知り合いなどを連れてきてくれることがある。
関連するほかの施設を利用してくれることもある。それだけに星野社長もリピート客を増やすことにこだわっている。
112
あしたのための「銀行学」入門 ★
大庫直樹
PHPビジネス新書
2009/06/21
銀行経営について、気がつかなかった幾つもの視点を教えてくれる本です。
貸し渋りは、融資が出来ない中小企業の増加が原因。
企業経営の複雑化は、資本、知恵、ノウハウを要求し、ひとり社長による中小企業経営を難しくしている。
信用保証協会がモラルハザードを起こしてしまった。
保証料は1%だが、バブル崩壊以降、保証協会の損失は2%、3%に増額し、これが国や、地方自治体による補てん、つまり、税金が投入されることになっている。
このような事実を踏まえ、2007年10月からは責任共有制度が導入さえれ、銀行も20%の信用コストを負担するようになった。
銀行は、500万円を融資する中小企業からは1年間に5万円から10万円の粗利しか稼ぎ出せない。
これを50社担当しても1年間で250万円から500万円。
中堅企業への融資では20万円から40万円の粗利になり、50社を担当すれば1000万円から2000万円の粗利になる。
しかし、間接部門の経費を考えれば、中堅企業への融資では、銀行は採算を確保することが難しい。
預金が集まりすぎて、銀行は、採算性を落としている。
市場からの資金の導入と、預金による資金の導入の金利差は、ほとんど存在しない。
預金保険料や、コンピュータ投資などのコストを考えると、預金は、採算性の悪い手法。
しかし、全ての資金を市場から取り入れるのは危険。
採算性が悪い預金という制度も維持する必要がある。
93年は90%だった預貸率が、いまは70%になっている。
インターネット銀行は、もっと低く、10%から30%程度。
郵貯は、預金を集め、政府関連に融資されるが、郵貯が抱える180億円の貯金が一般の銀行に流れたら、預貸率は50%に下がってしまうだろう。
ゆうちょ銀行が貸出業務に進出してこないのなら、あった方が良いというのが銀行の本音ではないか。
P84
このようにしてかかる費用を預金金利に上乗せしていくと、95年以降はむしろコストを持ち出しして預金を獲得しているようなありさまです。
それでも銀行は、預金は銀行固有の業務であると考え、また預金をしたいという顧客のニーズに応えるために預金業務を行っています。
P98
預金がどんどん集まる時代となり、貸出を伸ばせない銀行には預金という資金の在庫があふれかえるようになりました。そこで、銀行が打つ手は、預金減らしに走ることになります。投信や貯蓄性の保険(たとえば年金保険)を販売することが、その具体策です。
P100
貯蓄性の保険の場合、商品としてのしくみが複雑で説明に時間がかかることなどもあって、その手数料率はさらに魅力的なものになっています。販売時の手数料で5%前後くらいではないでしょうか。
P212
中小企業の経営自体に根本的な問題があると考えるべきです。
このような大問題を抱えている中小企業ですが、まだまだ日本経済の主力を占めていることは間違いありません。従業員数の割合で見てみると、小型企業で全体の17%、中型企業で42%と、合計で60%近くを占めています。それだけのウエイトを占めているわけですので、見過ごすわけにはいきません。
中小企業が営業利益の水準を大きく引き下げているひとつの理由は、資本の蓄積が進まなかったため、競争力を向上させるしくみづくりが遅れたことではないでしょうか。
十分な資本を持つことは、昔に比べて今では一層大切なことになりました。
かつては、生産現場では腕の良い職人のような技術者によって、競争力のある製品がつくりだされていました。しかし、今やコンピュータなどによって制御された工作機械などが、とても人間業ではできないような精度で、さまざまな製品を効率よく短時間で作製できるようになりました。
P213
小売業であってもIT化を進め、商品管理や顧客管理をきめ細かく行うことが重要になっています。また、小売業であれば個人酒店が大手コンビニチェーンの傘下に入ることが少なからず起きています。
言いかえれば、中小企業であっても匠の技で勝てる競争が減り、しくみで競争しなければいけなくなったということです。そのため、企業規模を大きくして資本の蓄積を進めることが、この問題の解決の上では重要になっていきます。
111
ツレがうつになりまして
細川貂々
幻冬舎文庫
2009/06/19
漫画です。
漫画の方が良い書籍もありますが、鬱の解説なら、書籍の方が良い。
鬱って、なったことはありませんが、見かけたことは、度々。
弁護士業をしていれば、何にでも会います。
さて、鬱とは何か。
たぶん、自分が変わってしまうのではなく、周りの人達が変わってしまうのです。
本当は、自分の中心軸が社会から外れてしまうのですが、それが理解できないのが鬱なのですから。
鬱にならないための対策は何か。
正常なときに、精神分析、あるいは精神病についての書籍を山と積んで読んでおくことです。
そうすれば、自分の中心点が動いて、他の人達とずれてしまったときに、ずれた自分を客観視することができます。
鬱でなくても、自分の中心点なんて、朝と夜とでは、異なっている。
なんて、気楽なコメントを書けるのは、実際には、鬱を経験していないからだろう。
110
誇りと復讐 上下巻
ジェフリー・アーチャー
新潮文庫
2009/06/12
イギリスの国会議員で、サッチャーのお気に入り。
そして、刑務所に入ったこともある世界のベストセラー作家。
私は、「ロスノフスキ家の娘」が好きです。
たぶん、3度は読み返しただろう。
イギリスの刑事裁判がドラマの舞台なので、弁護士業としての収穫もあるのではないかと期待しながら。
ストーリーはモンテクリスト伯の社会です。
無実の罪、誤判、身代わり、脱走、復讐。
ドラマですから、弁護士のミスも、ドラマとして作られたミスですし、作者が、どの程度、法律制度を認識しているのかも分かりません。
しかし、私なら、私の判断ミスで、無実の被告人に20年の懲役が言い渡されたら、生きていくのが辛くなってしまう。
そんな視点で小説を読んでしまうところが職業病です。
P264
「友達にはどんな投資も勧めない主義なんだ」と、ダニーは答えた。「どう転んでも勝ち目がないからね―儲かればわたしに勧められて投資したことを忘れるし、損をすればいつまでも覚えていて、事あるごとにその話を持ちだす。だからわたしのアドヴァイスは、失くしたら困る金ではギャンブルをしないこと、夜眠れなくなるほどの金額でリスクを冒さないこと、これだけだよ」
「いいアドヴァイスだわ。どうもありがとう」
109
できれば晴れた日に
板橋 繁(40歳代の内科医)
ヘルス出版新書
2009/06/11
「なぜ、かくも卑屈にならなければならないのか」は、この本を読むための前段です。
同一の作者の「自らの癌と闘った医師と、それを支えた主治医たちの思い」の記録です。
誰でも癌になる可能性があります。
そして、若くして癌になる人もいます。
しかし、医師が若くして癌になる。
幼い子供3人と妻を残し、癌の苦痛と闘った医師の記録です。
映画と現実は違うのだと知った。
死ぬのが分かっていて、自ら患者を治療し、夢中になって本を読み、講演をし、同僚と話し、妻と話し、子供達と話をする。
なぜ、若くして癌にならなければならないのだろうか。
この本を読んで感動した読者がいても、その思いは著者には伝わらない。
P15
妻と子どもたちの未来に、できれば晴れた日が続きますように。
P254
その数日後の9月12日、早朝に携帯電話が鳴った。たった今、息を引き取ったとの、奥さんからの連絡だった。取り急ぎ、大学病院に駆けつけ、病室で最後の別れに立ち会った。最後まで思うとおりに闘えたよと言いたげな曇りのない死に顔であった。胃癌発症から2年7ヶ月、自ら最後の闘いと位置づけた再発後の化学療法開始からは6ヶ月の経過であった。
108
なぜ、かくも卑屈にならなければならないのか
野笛 涼(40歳代の内科医)
ヘルス出版新書
2009/06/10
患者と医療関係者の関係を本音で語ります。
だから、匿名の著作です。
医者は疲れている。
昼夜を問わず治療を求める患者。
完璧を求める患者。
医療の限界に目を向けようとしないマスコミ。
結果責任を問う司法。
医者は真面目なのだと思う。
本書の著者が亡くなってしまったことについて涙を流そう。
医者にかかることがあったら、その医者に全幅の信頼をおこう。
さらに、全幅の信頼をおいていることを言葉と態度で示そうと思う。
P36
先に述べたように、特に地方の病院には救急医療を万全にできる体制はない。それでも病院が24時間いつでも灯を点けているのは、医療者としての使命感が現実の困難さをカバーしているからなのである。そういう良心を踏みにじらないでほしい。
P79
この殺人犯は更生の余地がある、死刑ではなく懲役としよう。何年かの刑期を勤めたあと、殺人犯は社会に出る。しかし更生はできず、再び殺人を犯してしまう。こうした例で、「更生の余地がある」と主張した弁護士や、そう判断した裁判官の責任は問われないのか。
P120
権威主義者だ、パターナリズムだ、諸悪の根源だ、と言われそうだ。権威を笠に着るつもりはないけれど、権威を全て捨てようとは思っていない。この権威を維持するために自分を磨く努力を続けるのであれば、それは価値がある。
P220
我々医療者は生命に奉仕しているのだ、という意識がないと実は医療は成立しない。病気を診て患者を見ない、というのはワルイ医者の典型のように言われるが、あなたは全ての患者を同じように愛せるのか。
患者の中には性格の曲がっている者もいるし、指示を守らないのもいるし、こちらを脅かす奴もいる。中には自分が(私が)愛する者を傷つけるようなことをした者だっているかもしれないではないか。
そういう患者のことを一人ひとり見ていっては、全員に同じように力を入れて医療ができるとは思えない。それでは医者として失格だ、と言う方もおろうが、では合格する医者は何人いるかな。
少なくとも私は患者一人ひとりの内面を見ていったら公平な医療を施していけるか、自分の健康や生活を削るようにしてまでも全員を同じように診ることができるか、そういう自信はない。
だからこそ、生命に奉仕しよう、と決心している。その患者を救うか救わない(救わない、と決心することはないが)かではなく、その生命を救うよう最大限の努力をするのである。
患者一人ひとりは私との間に何らかの関係−良い関係・悪い関係−が生じるかもしれないが、生命であれば好きも嫌いも、敵も味方もない。生命より大切なものはない。
P230
結局は原点に還ってゆく。正直でいる、ということは医療の原点ではない。
人間関係を築く時の、人間の原点である。
これ以上、何か付け加える必要があるようには思えない。
結論としては実に単純でつまらないものとなったかもしれないが。
107
進化しすぎた脳 ☆
池谷裕二(東京大学薬学系研究科準教授)
講談社
2009/06/10
以前に読んだ本ですが、また、引っ張り出して読んでいます。
当時は関心を持てなかったところが、いまは熱意をもって読める。
無意識に人格が宿るという視点は大脳基底核の解説を読むまでは認識できなかった。
一週間をかけて、一行も抜かさず、再読する予定。
脳は、意図的に、誤解している。
脳は、意図的に、不確実性を生み出している。
脳は、意識よりも、先に結論を出している。
脳は、言語、手足からの情報によって進化し続けている。
私が高校生だったら、そして秀才だったら、池谷研究室に入りたい。
106
新聞・TVが消える日
猪熊建夫(元毎日新聞経済部副部長)
集英社新書
2009/06/07
インターネットによって、コンテンツ産業の立ち位置はどう変わっていくのか。
コンテンツ市場の主役を占める新聞とテレビ業界はどうなるのか。
朝日新聞が営業赤字になり、産経新聞は経常赤字になった。
日本テレビとテレビ東京も、純利益ベースで赤字になってしまった。
新聞記事のほとんどは、新聞社のホームページで読むことができる。
しかし、これは新聞社がコンテンツを創り出すことで成り立っている現実だ。
コンテンツを創り出す業界が存在しなければ、ネットは空の箱になってしまう。
コンテンツ産業とネットは、どうやって折り合いを付けていくのだろうか。
そのような問題意識で書かれたのが本書です。
東京中野区の新聞購読世帯は、1997年度は66%だったのが、現在49%。
新聞購読者数は、毎年2%の割合で減少している。
高校生で、新聞を全く読まないのは50.5%。
携帯電話を含むインターネット利用時間は女子で124分、男子で91分。
漫画雑誌の販売部数は、2007年は、1995年と比較し、47%減。
ブログの使用言語では、日本語が37%、英語が36%、中国語が8%。
結局、多額のコストをかけてコンテンツを作る人達と、ネットとの関係は、まだ、解決策が見つからない問題なのだ。コンテンツがなければネットは成り立たない。しかし、ネットはコンテンツ産業に見返りを与えることができない。
P41
東京キー局が番組をブロードバンドで同時送信すれば、確かにその想いが実現する。インターネットの世界に国境とか県境の概念はない。どこの県民もキー局の番組をパソコンで自由に見られることになる。
これまでキー局の番組を見たくてもすべては見られなかった地方の県民にとっては、これはハッピーな話である。大歓迎であろう。
だが、そうなると地方テレビ局の存在意義はなくなり、県域免許制など無意味になってしまう。地方テレビ局は倒産に追い込まれ、東京キー局を中心とした地上波の体系は崩壊してしまう。
P126
新聞社は当初、自社のクレジットが明記されたニュースを巨大サイトに提供することで存在感が高まり、紙の新聞の購読者が増えることを期待した。それは裏目に出た。「ニュースはタダ」という認識を若者、青年層に刷り込むばかりであった。新聞購読者が増えるどころか、新聞離れを助長させてしまった。
巨大サイトは、ネット掲載になじむよう若干の編集作業はするものの、ニュースのほとんどは新聞記者の原稿を提供してもらった「素」のもの。「新聞社・通信社なしには、ニュース・サイトは成り立たない」と認めている。ヤフーは読売、毎日など数十社からニュースの提供を受けているが、それをウェブ上に転載することで、多くの広告を集め、大きな利益をあげている。グーグル、マイクロソフトしかりだ。多額の取材コストをかけた新聞・通信社情報は、結果的に「横取り」されているのだ。
105
脳はここまで解明された
合原一幸(東京大学生物技術研究所教授)
ウェッジ
2009/06/06
20世紀の終わり頃から、脳の研究は非常に活発化した。
米国は1990年代を脳の10年と位置付けて多額の予算を投下した。
さて、脳科学には多様なアプローチがあるようだが、どのような視点での驚きを提供してくれるのだろうか。
調整装置
┌───────┐
│睡眠・覚醒 │ … 頭を休めて情報を整理する
├───────┤
│小脳 │ … 運動を学習する熟練する働き
├───────┤
│大脳基底核 │ … 脳の動きがばらばらなならないように制御
├───────┤
│大脳辺縁系 │ … 報酬系の上位概念として価値判断を切り換える。
└───────┘
制御装置
┌──────┐
│連合野 │ … 言語、メンタル行動
├──────┤
大脳・大脳皮質 │感覚運動機能│ … 複雑な運動
─────────┌───┐ ├──────┤
脊髄・脳幹で処理│報酬系│→│生得的行動 │ … 餌を取り、異性を追う
└───┘ ├──────┤
│複合運動 │ … 歩いたり、泳いだり
├──────┤
│反射 │ … 光がと瞳孔の関係
└──────┘
P26
「ヘブの学習則」は脳における同様のメカニズムである。つまり、電気パルス信号が脳の中のある経路を通り抜けると、シナプスの学習により、その経路は次のときには信号が前よりも少し伝わりやすくなっている。あたかも、脳の中をたくさんの活動的なけもの達が歩き回るように電気パルス達が飛び交っているような光景である。
104
僕が2ちゃんねるを捨てた理由
ひろゆき
扶桑社新書
2009/06/05
2ちゃんねるの創立者の「ネットビジネス現実論」です。
世の中で当たり前と思われていることには、本当は思い込みに過ぎないものが多い。
ネットの社会について、その思い込みを断じています。
新しい言葉が登場するが、そんなのは昔からやっていたことじゃないかと。
これからのネット社会の進歩の方向を予想するのなら、ネット社会のど真ん中にいて、社会を斜めに見ている作者の視点は面白いと思う。
そのような予感を感じさせる書き出しです。
太平洋の海底ケーブルを通るネット情報の費用は、誰が負担しているのか。
これが疑問だったのですが、そのことも説明してました。
サイトの運営者は、プロバイダーに回線を繋いで貰う代わりに、データーの量に応じた従量制の料金を支払う。
だから、画像サイトでは赤字が出てしまう。
P96
ネットというのは誰でも利用できるツールにすぎません。ところがマスコミのなかには、「ネットというものはツールではなくメディアだ」と感じている人がいます。そのうえ、もともと自分たちがやっていることが正しく、単なるツールを悪だと思って敵視する。そういった考えになってしまうのは、頭の悪い発想としか思えません。
でも、ネットというものは、雑誌であろうがテレビであろうが、やろうと思えば誰でも参入できる単なる手段。その手段を敵だと見ている時点で、たぶん物事の捉え方が間違っているのです。
P102
まず、前著や本書に書いていることは、僕の個人的な価値観や意見のように見えますが、そういうわけではありません。あくまで「論理的に考えたらこうなるよ」という話を書いているのです。「1+1=2」で、「2+2=4」であるということは誰でも答えられます。つまり、同じ情報を与えられて論理的に導いた結果というものは、僕でなくても誰でも同じことだと考えているわけです。しかし、ほかの人がやってくれないので、僕が書いているだけ。こういったことを、頭では理解している人はたくさんいるのに、あえて口に出さないのは、理論的に話を進めると、周りに敵を作りやすくなり、それをデメリットと感じる人が少なくないからです。
P110
テレビ局は、国から電波という限られた資源を「あなたたちだけしか使っちゃいけませんよ」という条件をつけて与えられているだけでなく、その電波を受信する機械、つまりテレビが日本中に1億台以上もあるなど、儲けるためのお膳立てが整っているのです。しかも、番組の合間にCMという広告を入れるビジネスモデルが構築されていて、視聴者を惹きつけるためのタレントが出演してくれやすい状況もある。コンテンツ自体も、視聴者がそれなりの数がいることからもわかるように、おもしろいものが作られているわけです。
それでもうまく経営できていない。下手をすれば赤字になってしまうというのは、どう考えても経営陣が無能なだけなのです。
103
「不況の時はやっぱり公務員」のウソ・ホント 公務員入門
山本直治(公務員からの転職支援 役人廃業.com主催)
ダイヤモンド社
2009/06/04
「不況の時はやっぱり公務員」はウソだと語ってくれているのかと思ったのですが、しかし、それは読み取れなかった。
「不況の時はやっぱり公務員」はホントのようだ。
P38
そもそも仕事とは、ある作業に従事するために1日のおよそ3分の1、いやそれ以上の時間にわたって拘束されるものです。どんなに高い給料をもらえるといっても、苦痛でしかたない仕事を続けるのは悲惨です。普通、まずは待遇云々を考える前に、選ぶべき仕事の中身が自分にとって楽しいか、やりがいがあるか、大変すぎないかという観点から入るはずです。
102
純米酒を極める
上原 浩(夏子の酒の上田久元鑑定官のモデル)
光文社新書
2009/05/29
酒は純米、燗ならなお良し
アルコール添加の清酒を批判しています。
良いことは良いと言うし、悪いことは悪いと言う。
悪いことを悪いと言っても毒舌には当たるまい。
そのような視点で、日本酒業界の現状と、目標とすべき将来を語っています。
夏子の酒は、良い漫画でした。
あの漫画で、私は日本酒を学習しました。
この本で、日本酒を、再学修してみようと思う。
まさに、夏子の酒の世界です。
妥協のない酒造りの世界が語られています。
材料だけではなく、技術でだけではなく、まさに、味覚、嗅覚などの五感と人格をかけた酒造りの世界です。
山田錦を使えばよいわけではなく、精米歩合を高めればよいわけではない。
戦後の3倍増醸とアルコール添加が、日本酒を、如何に悪くしたか。
作者が主張するように、日本酒は、立ち直る必要がありそうだ。
さて、自宅の冷蔵庫に山形の「雪満々」という大吟醸がある。
精米歩合35%で、山田錦を使っている。
5年間、ゆっくり眠った古酒だ。
それと、新潟の「〆張りずる」の吟醸がある。
こちらは生貯蔵酒で、精米歩合50%。
これを作者が述べる方法で飲んでみよう。
まず、10%程度の水を割る。
日本酒のアルコール度数は高すぎるそうだ。
そして、人肌までぬる燗にする。
うーん、冷酒としてそのまま飲む場合と比較し、どうなんだろう。
確かに、酒としての刺激が消えて、料理を引き立てそうに思う。
悪酔いしない、良い飲み方かも知れない。
寿司屋では、この飲み方をしてみよう。
日本酒を水で割り、燗にするという飲み方は知らなかった。
著者は、戦争中の必要悪だった三倍増醸が当然になってしまった酒業界を切り、
それを不思議に思わない業界を切り、
純米酒こそ本物の日本酒だと論じ、
純米酒を造り続ける地方の蔵元を紹介しています。
純米酒に復帰しない限り、ワインなど、世界の酒とは並べないと。
読んでいて、作者の体温が伝わってくるような気がしました。
P182
私流の言い方をするならば、酒には基本的に3種類しかない。すなわち「金を払ってでも飲みたい酒」「タダなら飲む酒」「飲めと言われれば飲むが1合につき1000円くらいの迷惑料を貰いたい酒」の3種類で、利き酒の結果もこれに基づいて採点していくと分かりやすい。
(利き→元は口偏に利)
101
アメリカ人弁護士が見た裁判員制度
コリンP.A.ショーンズ(同志社大学法学部教授)
平凡社新書
2009/05/29
陪審員制度と裁判員制度は趣旨を異にする。
陪審員制度は個人を公権力から守る最後の砦であるのに対し、裁判員制度は裁判官と国民が一緒になって悪い人のお仕置きをどうするか決めるための制度だ。
私は、裁判員制度には興味がないのですが、米国の陪審員制度と私法取引には興味があります。
そこが語られているのではないかと、本書を読み始めたのですが、さて。
良い本です。
アメリカでは「善意と良識のある人」をも疑い、これが法制度や弁護士の態度にも反映されている。
しかし、日本では「善意と良識」で裁判が運営されている。
目の前にいる痴漢の被害者のことを考えれば、被告人を無罪にすることはできない。
それじゃ、痴漢の被害者は、自分の主張が認められなかったという二次被害を受ける。
被告人が無罪になれば、彼は、長時間にわたって身柄を拘束され、否認しているにもかかわらず起訴された、無意味な被害者になってしまう。
無罪の人を、そのような目にあわせた警察も検察も悪いことをしたことになり、身柄の拘束を許可した裁判所も、それに加担していたことになってしまう。
「善意と良識」のある人達は、自分がやっていることを良いことと考えたい。
どのような判決が、「今日も良いことをしました」という気持と仕事に対するプライドに繋がるだろうか。
それは、被告人を有罪にすることだろう。
被告人以外の人達にとって、それが一番に「善良で常識」のある結論だ。
そのような制度を変えるために導入される(?)のが裁判員制度ですが、米国の陪審員制度と、日本の裁判員制度には、本質的なところに違いがある。
アメリカの陪審員は評決をするについて理由を示す必要がない。
陪審員は法律を無視するパワーを持っている。
コモンロー裁判所ではなく、エクィティ裁判所としての機能を果たしているのが陪審員制度なのだ。
P132
しかし、ブッシェルの事件で確立された大原則、すなわち、陪審は評決に当たり理由を示す必要はなく、評決の内容について責任を取らされることはないという原則は、陪審にすごいパワーを与えている。それは、「法律を無視するパワー」だ。
P137
しかしそれでも陪審は依然として「法律を無視するパワー」を持っている。しかし、そうしたパワーを「持っていますよ」と、裁判過程の中で知らせることはできない、というのが今のアメリカの陪審制度の奇妙な状況である。
アメリカの刑事裁判ではときどき、「これでもか」といわんばかりの奇妙な抗弁(たとえば、「甘いものを食べ過ぎて気がおかしくなった」など)がなされて、ニュースになることがある。
アメリカの裁判制度はいい加減であるというイメージに一役買っているが、こうした抗弁は実は、「奇妙な状況」の産物である場合がある。要するに、被告人に罪を免除すべき特殊な事情があっても、弁護士は陪審に対して「法律を無視してください」とアピールすることは許されないから、とにかくいい加減でも、陪審員が同情できるような“事実的な何か”をひねり出すほかないわけである。
P227
日本は確かに治安がよく、それはかけがえのないものである。しかし、日本の刑事裁判について様々な文献を読んだり人から話を聞くにつけ、いったんお役所を敵に回せば、逆に日本のほうが怖いという念は禁じえない。
それも、お役所が「悪い」からではなく、99%善意と良識のある人たちが「正しいこと」をやっているつもりだからこそ怖いのだ。
100
死ぬとき後悔すること 25
大津秀一(終末期医療医師)
致知出版社
2009/05/28
死ぬときに何を後悔するか。
それは現実にならないと理解できません。
しかし、先人の経験があるのなら聞いてみよう。
それが25個の項目なら、先に解決しておくことも可能はずだ。
うーん、人の一生ですから、「遺言書を書いておく」「旅行をしておく」というテクニックとして解決できる問題ではないのですね。
終末期医療を担当する医者には頭が下がります。
医者の意見は、無条件に信用し、受け入れようと思った。
P181
何も老いるまで待つ必要はない。
例えば、「5年ごとに何かしらを残せるようにする」などと計画を立てて、それを達成できいるように生きていくのも良いことだと思う。
99
聞き方のルール
松橋良紀(コミュニュケーション改善コンサルタント)
明日香出版社
2009/05/27
話す事よりも、聞くことが大事だ。
その聞き方の思想を語ってくれています。
よし、著者の説明を聞いてみよう。
セールスマンが話す割合は30%、相手が70%でもしゃべりすぎだ。
一番に言いたいことは、全てを話し終えた後に出てくる。
沈黙を気まずく思い、何か話さないと相手に悪いと思うあまり、相手の発言を待てない。
これを沈黙恐怖症という。
15分ぐらい相手が沈黙して答を探していても、気まずい思いを抱かせない雰囲気が作れることが大事な技術。
「話しを聞いたからには解決してあげよう」という考えが間違い。
貴方が尊敬する人から何かを相談されたら、軽々しく意見を言うことはないはずだ。
コミュニュケーションでの言葉の占める割合はとても少ない。
メラビアンの法則といい、90%以上は非言語のコミュニュケーション。
ボディーランゲージ 55%
声のトーンとテンポ 38%
言葉 7%
これらを101の項目に分けて具体的に語っているのが本書です。
実戦の経験に基づく本物の理論と理解しました。
やはり、ものを語るのは言葉ではなく、基底核に蓄えられた無意識の「動き」なのだろうか。
それが本書から得た私の最大の収穫でした。
98
ナンパを科学する
坂口菊江(進化心理学)
東京書房
2009/05/25
面識がない男から、性的な意図をもって、突然に声をかけられる。
作者は、それをナンパと定義して研究している。
美人だからナンパされるわけではない。
痴漢に遭う女性が、ナンパされるわけではない。
服装の派手さも影響を与えていない。
何がナンパの原因なのか。
人間は、五感の他に、第六感目の情報を発信しているのではないか。
第六感目の情報は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚と同様に、あるいはそれ以上に、無意識的に、相互の情報交換の手段になっているのではないか。
そのような疑問に答えてくれるのではないかと、本書を手に取った。
非常に緻密な論理で、どこまで著者の思想を把握できがかわかりませんが。
で、私の理解したところでは、第六感目の情報は、「行動」「動き」なのではないか。
それは、その者が意識せずに表現している歩き方などの表現と、状況に応じた感情表現をコントロールする能力の高さです。
そして、歩き方などの表現は基底核が管理するという意味で、第六感の表現手法として、何か、納得できるような気がします。
基底核は、その人自身の社会経験の全てを学習し、意識することなく機能する、その人自身の個性そのものなのですから。
P119
服装や容姿が行動特性予測のためのある程度の手がかりになることは既に述べた。しかし、動きを含んだ情報がさらに具体的に潜在的なターゲットに関する手がかりを与えるとしたら、路上などの公共の場で、最初に人の目に入ってくる動きは何だろう。
それは歩き方ではないか、と考えた人たちがいる。
グレイソンとスタインはニューヨーク市中の一般の歩行者をビデオで撮影し、さまざまな暴行をおかした罪で収監されている受刑者に、「襲いやすさ」を評定させた。受刑者たちの判断は互いによく一致しており、ターゲットとして適当であると判断された人物とそうでない人物を特定することができた。
P127
低セルフ・モ二ター者のパートナーとの親密度はつき合う期間が長くなるにつれてよく上昇していくが、高セルフ・モニター者の場合はつき合い始めた時点で既にかなり親密度は高く、その後つき合う期間にともなう親密度の上昇はそれほどでもない。高セルフ・モ二ター者は優れた対人コミュニケーションスキルを使って、ねらった相手を比較的容易に落とすことができるかもしれないけれども、特定の対人関係に対して多大な投資はしたがらないようだ。
高セルフ・モ二ターの男性は、性格に問題があっても容姿が魅力的な女性を好んだのに対し、低セルフ。モニターの男性は、容姿がそれほど魅力的ではなくても性格のよい女性を好むことが示された。
97
専門医が語る毛髪科学最前線 ☆
坂見 智(大阪大学皮膚・毛髪再生科教授)
集英社新書
2009/05/24
自分の頭をさして誓うな。あなたは髪の毛一すじさえ、白くも黒くもすることができない(マタイ)。
さて、人間は、どこまで神の領域に近づいたのだろうか。
それが気になって本書を手にしました。
専門家の書籍は、安心して読めますし、読み応えがあります。
成人男性4200万人に対し、髪を気にしている人達の割合は次の通り。
ハゲ、薄毛対策は、大変な規模の市場が成り立つ業界です。
薄毛を認識している者 1260万人
薄毛を気にしている者 800万人
薄毛の対処の経験者 650万人
現在、対処している者 500万人
2005年からは男性型脱毛症の治療にファイナンステリドが病院で処方できるようになった。男性型脱毛症の原因をブロックする飲み薬で、3年間の連続服用試験で80%近くの人達に髪の毛がやや増加するという現象がみられたそうです。
ミノキンジルという塗り薬もあり、5%製剤の臨床実験が終わり、2009年6月にはリアップX5という商品名で市場に登場する予定。
移植する方法もあるそうです。
後頭部から切り取った頭皮組織を、顕微鏡で見ながらさらに毛包単位に切り分けて移植する方法。
脱毛治療のテレビコマーシャルは多いのですが、はたして、どのような手法かと不思議に思っていたのですが、少し、分かったような気がします。しかし、通うべきはテレビコマーシャルの業者ではなく、脱毛治療を専門としている皮膚科のような気がします。
最後に、髪についての迷信を取り上げています。
昆布もワカメも髪には関係がない。
一夜にして白髪になることはあり得ない。
髪自体は角化して死んでいる細胞からできているので、精神的なショックで色が変わることはあり得ない。
白髪を抜いても、白髪が増えることはない。
ストレスと禿の因果関係も証明されていない。
頭皮の油が脱毛の原因ということもない。
シャンプーの品質は影響が無く、髪を頻繁に洗いすぎると禿になるという因果関係もない。
頭皮を刺激しても髪が育つことはない。
頭皮を刺激するカンター付きのヘヤーブラシは外国の学会では爆笑が起こったそうです。
96
語前語後
安野光雅(画家)
毎日新聞出版
2009/05/20
算私語録の著者の同様の雑語録です。
「人の為」と書くと偽りになるとか。
こういう本を電車の中で読んでいて、クスッと笑うと、変な目で見られるだろう。
絵が描けて、文章が書ける。
ゆとりと、遊び心のある天才です。
一時停止を怠った。
警察官が言った。
「罰金は7000円。事故を起こしたときよりも安いです」
P126
言いたいのは、インターネットの情報を山ほど積んでも所詮情報にすぎず、自分の体や頭の中、つまり自身の経験や思考の中から生まれてくると思える創造的なことがらは、インターネットの中にはないということだ。
何かに書いたことがあるが、それは「世界地図を見て、島を発見しようとしている」ことにすぎない。
95
日本のお金持ち妻研究
森剛志(甲南大学経済学部準教授)
東洋経済新報社
2009/05/19
世帯年収1億円以上の家族を取材しています。
大概の人達は慎ましい生活をしていて、月の生活費も少なく、ブランドものも購入しないと紹介しています。
テレビに出るセレブの人達は例外中の例外。
年収に関係なく、普通の人達と同じ生活をしているのがお金持ちの人達。
当たり前と言えば、当たり前の話です。
しかし、当たり前ではない特徴もあります。
育った家は裕福だったかの問いに9割がyesと答え。
医師、弁護士、会計士を合わせると15%。
母親の教育水準は高く。
夫婦共に大卒である割合は、一般平均が18%であるのに、81%。
医者の割合が多く、祖父の代でも医者だった人達が多い。
お金持ちになるためには、生まれながらのお金持ちである必要がある。
それが結論のように思います。
94
司法改革の時代
但木敬一(元検事総長)
中公新書
2009/05/19
著者は、修習生時代の検察修習の指導教官でした。
そこで、興味を持って手に取った本なのですが。
時代の流れが、流れるままに紹介されています。
政府の財政力の減退、公務員の信頼感の喪失、情報の公開、裁量行政の衰退が、官僚の権限と影響力を奪った。
後戻りができない大きな地殻変動が既に起きている。
その現実から目を背けることはいかないのだ。
そして、ロースクール制度が作られ。
2018年には法曹人口が5万人になる司法試験合格者数の増加と、裁判員制度が作られた。
唯一廃案になったのが、訴訟費用敗訴者負担制度。
確かに、そんな時代でした。
時代の変革が起きていた。
筆者は、そのような時代変革を受けて、お上任せではなく、国民参加の制度を作ることを肯定的に論じています。
しかし、本当にそうなのだろうか。
複雑化した社会では、各々の専門家が業務を分業する時代なのではないか。
裁判制度で判断すべきは、事実認定だけではない。
責任能力や正当防衛、条文毎の構成要件事実の判断など、判例が積み重ねてきた先人の知恵が必要になる。
そのような判断が素人にも可能だというのなら、いままでプロは何をしていたというのだろう。
これが手術などの医療行為なら、素人に任せるとは言わない。
化学実験であっても、素人に任せるとは言わない。
会計監査も、税務申告も、素人に任せるとは言わない。
私は、変革の方向を間違えたのがあの時代だったのだと思う。
仮に、訴訟費用敗訴者負担制度が導入されたら行政訴訟は起こせなくなっていた。
敗訴判決を受けた当事者は、訴訟の結果の予測を誤ったとして、自分の弁護士を訴える。
そのような時代にならなかったことを、不幸中の幸いとして喜ぶべきだろうか。
93
画商の眼力
長谷川徳七(日動画廊社長)
講談社
2009/05/13
絵画の贋作などは、幾らでも作れる。
たぶん、本物よりも上手な贋作だって作れるだろう。
では、真贋は、どうやって見抜くのだろう。
ひらめきではなく、努力なのですね。
P218
ことほどさように、鑑定というものは難しいものです。
ひとりの作家が「いつ・どこで・どういう絵を描いたか」といった足跡を可能な限り調べ、それを裏付ける膨大な資料を持っていなければ、おいそれと鑑定などできるものではありません。
鑑定には、気の遠くなるような作業を通じて得た資料と、その過程で身につけた知識が必要で、それがあって初めてカタログ・レゾネもできるというものです。
P228
ここで言う絵の経歴とは、「いつ・どこで描かれた」だけではありません。誰の手に渡り、どういう経緯を辿ってきたかも、すべて含んでいます。
それでだいたい本物かどうかわかるのは、絵はある日突然、目の前に現れるわけではないからです。前後に何のつながりもなく、パッと現れたような絵だと、偽物の確率は高いと言えるでしょう。
92
タンパク質の一生 ☆
永田和宏(細胞生物学者)
岩波新書
2009/05/11
私達の体は60兆個の細胞でできている。
そして、1つの細胞は80億個のタンパク質を持っている。
細胞は、常に分解と生成を繰り返しており、アクティブな細胞は1秒間に数万個のタンパク質を作り出す。
まるで、私達の体は化学プラントのようだ。
そのような工場の動きを、私は意識せずに、日々、生活している。
少しは意識すべきではないかと考えて、この本を読み出したのですが。
面白いですね。
まさに、体の中は科学プラントです。
DNAが持つ情報をmRNAが写し取る。
RNAは、アミノ酸をmDNA情報に従って並べてポリペプチドを作成する。
ポリペプチドを折りたたんでタンパク質を作る。
タンパク質は、その後、壊されてアミノ酸に分解される。
そのアミノ酸と食料として取り込んだアミノ酸を併せて、また、ポリペプチドを作成する。
その過程で、不良品を排除するシステムが4重に作られている。
体中で、全ての細胞のタンパク質が、常に、上記のような作成と分解を常に繰り返している。
そして、人間の体のタンパク質は、1年で、ほとんど全部が入れ替わっている。
私がボーっとしている間にも体の中の化学プラントは、フル生産をしている。
犬の散歩をしている間も、私の中で数億個の化学プラントがタンパク質を作り、そして分解し、集合体として私自身を維持している。
不思議なことです。
DNAは二重らせんだが、これがほどけて、各々が対になるようにタンパク質をつなげていく。
対になる構造なので、全く同じ二重らせん構造を再生産することができるそうです。
だから、対になっているタンパク質が紫外線で壊されたときも修復が可能になる。
しかし、インフルエンザウイルスやエイズウイルスは二重構造ではない一本の鎖なので、壊れた場合には、それを修復するためのデータが無い。
それが全く違った遺伝子に変質し続けるという性質を作り出しているそうです。
これも不思議な現象です。
仮に、インフルエンザウイルスが二重らせん構造だったら、1つの免疫で撲滅できたはずです。
人間の免疫機構と戦うために、二重らせんではなく、一本の鎖構造に成長したのでしょうか。
91
再生
石田衣良
角川書店
2009/05/09
私が、この作者の「約束」という短編集が好きだったのを知っている家族が、第2作として購入してきてくれた。
しかし、この短編集の第1作目の「再生」は、既に、読んでいた。
自転車に乗った少女がラベルに書いてあるローリング・カペルネ・メルローという赤ワインが登場する短編だった。
このワインを買って飲んでみたが、私には美味しくはなかった。
でも、「再生」という作品自体はピカイチだった。
この作者は、短編について天才だと思う。
90
ジャガイモの世界史
伊藤章治(環境史)
中央公論
2009/05/09
ヨーロッパは、ジャガイモ、トマト、トウモロコシなどが南米から持ち込まれる前は、何を食べていたのだろう。
ジャガイモは16世紀に南米のペルーから輸入されたそうです。
アイルランドのジャガイモ飢饉の様子も気になっていた。
アイルランドの飢饉も、日本の飢饉の場合と同じように、連年単作が影響を与えているのですね。
P64
アイルランドの場合はどうなのか。アイルランドのジャガイモ飢謹は、ジャガイモ単作(モノカルチャー)のゆえに起こったのだといわれる。しかし、英国による土地と作物の厳しい収奪のもと、残された石と岩盤だらけの狭隘な土地でアイルランド国民が生き残るには、ジャガイモ単作という選択しかなかったのだ。
ヨーロッパの他の国々でもジャガイモは全滅したが、他の作物で補い、飢饉を回避している。さらに、飢饉が最も深刻なときでさえ、穀物を満載したアイルランドの船が英国に向かっていた。
センが言うように「貧しい人に食糧を買えるだけの所得」があれば、防げた飢謹だったことは明白である。
89
単純な脳、複雑な「私」 ☆
池谷裕二(東大大学院薬学系研究科準教授)
朝日出版社
2009/05/08
脳の行動バターンを日常生活における現象として解説しています。
海馬の話などを期待したのですが、そうではなく、脳の現象面の紹介でした。
いや、やっぱり良い本でした。
「直感」と「ひらめき」は異なるそうです。
「ひらめき」は、思い付いた後に理由が言える。
「直感」は自分でも理由が分からない。
「ひらめき」は大脳皮質が担当しているが、「直感」は基底核が担当している。
「基底核」は、手続記憶を担当する部分で、自転車の乗り方や、ピアノの弾き方を記憶する部分。
意識することなく、足を動かす、腕を上げる、箸を使う、自転車に乗る、ピアノを弾くなどの手続記憶を司っている。
そして、「直感」も無意識が管理している。
なるほどね、意識しないところで、脳は、何十もの判断してますが、「直感」も、それなのですね。
そして、箸の持ち方を失敗しないのと同じに、基底核の作動は、無意識、かつ自動的、かつ正確なんだそうです。
直感は、虫の知らせ、あるいは違和感として、意識にメッセージを送ってくれているのかもしれない。
だから、直感を大事にする必要があるのではないか。
さらには、直感こそが、その人自身の個性かも知れない。
なぜなら、正義感や、好き嫌いの感情は直感だと思えるからです。
P83
ただ、そういうときでも、次の一手はこれを指したら勝てる、と感じるらしいんです。しかし、その理由は本人にもよくわからない。「なぜかわからないけれど、次の一手はこれしかないという確信が生まれるのです。理由はわからないけれど、その信念に従って試合を運んでいくと、不思議と勝っちゃうんです」と。
P84
そういう「訓練」をした人の脳は、その盤面を見ただけで、「直感」が働く。無意識の脳が膨大な計算を瞬時に行って、その答えを、つまり「次の一手」をそっと当人に教えてくれるんでしょうね。その直感に従っていれば、そう、直感というものはほぼ正しいので、勝てる。
一方、私はといえば、将棋の訓練を受けていないですから、プロ棋士と同じ盤面を見ても、何もアイデアは浮かびません。「直感」が働かないんですから。
こういうことを考えていくと、ひとつの重要な結論に達しますね。そうです、直感は「学習」なんですよ、本人の努力の賜物なんです。直感は訓練によって身につく。そして、ちょうど私たちが箸を自然に持てるように、その理由は本人にはわからないにしても、直感は案外と正しいんだということになります。
P86
さて、直感やセンスは基底核でつくられるということは理解できたでしょうか。
実は、基底核にはとても心強い性質があります。それは大人でも成長を続けるということです。
ただし、それ以降でも、一部の脳部位はまだまだ成長することが10年ほど前に発見されました。
大人になって成長する脳部位は2ヵ所ありまして、ひとつは前頭葉で、もうひとつは基底核だったのです。
P87
逆に、70から見たら、50歳や60歳なんて、まだ若造なんでしょうね。
少なくともこの意味では、歳をとることは、脳にとってはよいことだと言えそうです。
88
中二病取扱説明書
塞神雹夜
コトブキヤ
2009/05/07
伊集院光が使い始めた言葉だそうです。
男は、みんな、中学2年生という感じがします。
【邪気眼系】 自分には隠された力があると信じている人たち。
不思議な力に憧れている。
【DQN系】 社会に反する行動をとり、不良を演じる行為。
根はまじめだったり臆病だったりするので、本当の不良には決してなりきれない。
【サブカル系】 流行に流されず、マイナー路線を好み、他人とは一線を画そうとする存在。
本当にサブカルチャー好きなのではなく、他人と違う趣味を持つ自分がかっこいいと思っている。
P8
学生の、特に多感な時期である中学生のときは、誇大妄想なんて誰にでもよくあること。もちろん、思春期を過ぎても妄想や虚言にまみれた人も大勢いると思います。そんな中二病がもたらす失敗を繰り返していくうちに、恥という文化を学習していく。中二病はいわゆる、人間の本能のようなものなのだと思うわけです。中二病を経験することで自らの過ちを知り、必要のない自己表現をしない、まっとうな人間になれるのではないでしょうか。
P9
1 忘れたい記憶を呼び覚ます危険性もあるので注意してご利用ください。
…… 省略 ……
3 クッションを用意しておくと、読んでて恥ずかしくなったときに顔をうずめてジタバタできます。
4 友人や家族と読めば昔話に花を咲かせることでしょう。
5 その際、古傷をえぐられる危険があるのをお忘れなく。
…… 省略 ……
10 中二病なのに自覚がないお友達に勧めるのもいいでしょう。
87
人間はウソをつく動物である
伊野上裕伸(保険調査員)
中公新書
2009/05/05
保険調査員として遭遇した「嘘つき」の事例を、自動車事故、自殺などについて語っています。
警察や、税務署のような強制力がない状態で事実を調べる。
なるほどなと思う事実認定の経験談です。
保険を巡る被害者の心理と医者との関係、それに、医者や弁護士を敵には回せないが、しかし、問題のある人達と認識しているだろう作者の思い。その部分を引用しておきます。
人間観察としては、保険会社の調査員は、まさに、そのものずばりの存在です。
文章化される前の事実は、さらに、ドロドロだろう。
P138
この事故が示談となって解決されるまでは、主人公の座にとどまっていられる。彼は人生で初めての経験を存分に楽しんでいただけなのかもしれません。一流家電メーカーも、損害保険会社も、弁護士も、有名病院の院長も、歯科医も、医大の権威ある教授までもが自分の言動に振り回されるのを見ながら、彼は「むちうち症」にのめり込んでいったのにちがいありません。
P141
裁判沙汰になっている保険詐欺や、保険事故で証人として呼ばれたこともありますが、その場合にも、わたしはあくまで弁護士の手助けとして調査活動をしている立場なのです。
そういうわけで、わたしの真の難敵は弁護士ではなく「弁護士法」にあると言えます。医者と同様、お話ししたいことは山ほどありますが、今回はコラムだけにとどめておきます。
86
満室経営バイブル
今田信宏(賃貸業)
かんき出版
2009/05/05
アパート経営の収支計算は、入居者が確保できてこそ、成り立つ採算計算です。
自らアパート経営をする著者が、満室経営を語っています。
コンサルタントが説明する本と違い、話が具体的です。
しかし、具体的すぎて、なんか、いじましい。
でも、賃貸業なんて、そもそも、いじましい商売です。
だから、このいじましさが、アパート経営に必要なノウハウです。
満室経営の募集条件は次の3つだそうです。
1 相場に合わせた家賃と敷金・礼金
2 相場より若干大目の広告料
3 担当者に対するキックバック
入居者は、内見回数に成約率を乗じた割合で決まる。
内見が全くない物件では、いつまでたっても入居者は決まらない。
内見は誰が行うのか。
仲介業者の活躍があってこその入居率。
そして、誰でも自分へのメリットを最大限に生かそうとする。
だから、仲介業者の担当者へのキックバックは不可欠。
半月分、あるいは1ヶ月分のキックバックが相場。
家賃は、管理料と共益費込みで、4万9000円とか、5万4000円のように、5000円単位をマイナス1000円する。
ネット検索では、利用者は5万円以下、5万5000円以下という検索をするからです。
仲介業者への依頼時には、常に、連絡が取れるようにしておく。
細かい値引きなど、連絡が取れないとチャンスを逃がす。
物件のネーミングは、入居者の立場を考えれば貴重。
山田荘、山田コーポでは入居者は二の足を踏む。
物件の入り口と看板には費用をかけるのが有効。
内装よりも、アプローチを優先する。
看板をライトアップするのも効果的。
リフォームは募集前に行う。
入居者が決まってからリフォームすると約束しても、部屋の汚さが目立ってしまう。
内装工事は、個々の業者に依頼するよりも、管理業者に依頼した方が、結果として安くつく。
管理会社経由だからこそ、期間などについて、無理が言える。
管理業者を利用するか。
自宅から離れた賃貸物件については依頼しなければならないので、自宅に近い賃貸物件には付加価値がある。
自宅近くなら、土地勘があり、購入時の判断ミスを防げる。
枯れた植木などは印象が悪い。
枯れた植木は撤去し、玉砂利を敷く。
エレベーターの管理にはPOG契約とFM(フルメンテナンス)契約がある。
エレベータのメンテナンスは築10年後から必要になるので、FM契約は将来の修理費を先払いしていることになる。
新築物件にFM契約をするのはナンセンスだが、中古物件をPOGに変更するのもナンセンス。
エレベーターの管理料は、それなりに高額なので、エレベーターのある物件の収益性は劣る。
エレベーター内の床の汚れなどが内見者に与える影響は大き。
掃除を心がけるべきはアプローチと同じ。
P144
そのうえで、契約時には次のようなことをきちんと宣言しておくことが大切です。
「私は、満室経営を非常に重視しています。そのための努力は惜しみません。私自身、管理会社さんに絶大なる協力をします。入居者づけの問題がある場合は、ともに解決していきましょう。ただし、家賃は相場レベルに合わせますが、相場以下で募集する気はありません。
管理会社さんには、最大限の努力と協力を要請します。おたがいが協力した結果、それでも満室にできない場合は、管理会社の変更も経営判断の一つとせざるをえません。私としても不本意ですので、ぜひご協力をお願いします」
85
飯島愛 孤独死の真相
田山絵里(ノンフィクションライター)
双葉社
2009/05/04
飯島愛さんは不思議なキャラクターの芸能人でした。
そして、辞め方も不思議だった。
しかし、もう、話題にもならず、忘れ去られようとしている。
もう一度くらい、思い出してあげるのが礼儀ではないかと手に取ったのですが。
仕事に対して真面目で、礼儀正しく、色々な人達との交際を大事にするという証言は、死者への弔いという以上に、真実を語っているように思えた。
しかし、引退の理由、そして死亡した理由は分からなかった。
何度もの挫折を繰り返す、起伏の激しい生活だったようですが、その中に2人の会計士が登場したことは驚きです。
1人が1億円のカネを横領した会計士で、もう1人が東京国税局の査察に入られた会計士です。
もっとも、この作者に、会計士、税理士、それに経理担当者を区別する知識があるのか否かは不明ですが。
P134
彼女は仕事に対してはとても真面目でした。あいさつはいつも礼儀正しいですし、誰に対しても失礼のない対応を心がけていたようです。誕生日プレゼントを渡すのが彼女の楽しみのひとつだったようで、“私にはこういうことしかできないし”と、本人は謙遜していましたけれど、彼女と仕事を一緒にするスタッフたちはうれしかったんじゃないでしょうか。
84
スーパーセールス姉妹 母から受け継いだ豊かなこころ
柴田知栄
廣瀬佳栄
日本経済新聞社出版部
2009/05/02
母親は、保険営業の世界で30年連続日本一の実績があり、ギネスブックにも掲載された。
その娘の知栄さんは全国一位を9年連続で達成し、佳栄さんは2位を5年連続で達成した。
営業の心とテクニックは、全ての事業に通じるところがあるように思える。
さて、どのような経験を聞かせて貰えるのだろうか。
うーん、こうすればというテクニックの紹介はないですね。
世の中には、そのようなテクニックは存在しないのか、あるいは作者に、それを認識し、表現する能力がないのか、さらには意図的に隠しているのか。
結果に大きな違いが生じる場合は、精神力を超えた、何か、物理的、技術的な違いがあると思うのですが。
ただ、私のように、生命保険は掛け捨て(定期保険)が一番と考えている者には、取り扱っている商品自体の魅力が感じられず、なぜ、保険契約者として他人を紹介する人達がいるのかも理解できませんでした。
紹介者には、その道の成功者が多いのだと思います。
次の言葉は、人間についての洞察力として、流石と思わせます。
感情から論理に、そして情緒にという過程を経て決断をするのか。
まさに、納得です。
P134
二度目はひとりでお伺いすると、社長から、
「お母さんは天才やな。ギネスに載るようなトップ・オブ・ザ・トップセールスの人ってどんな営業するんかと興味津々やったんやけど、和子さんはホンマ人がモノを買うメカニズムのセオリーを無意識か意識的か知らんけど実践しているわ」
と指摘されたのです。
突然、そんなことを言われ、キョトンとしていると、
「ええか、人がモノを買うときには、感情→論理→情緒という流れで、こころの動きが変化するね。その心の動きがあって初めて人はモノを買うっていう行動に出るねん。車を例にすると、まずデザインがカッコええ!と世の男性は思うわけ。でも、それだけじゃ買わないやろ。国産か外車か、性能やら値段やら、いろいろと比較するのが普通や。奥さんがあきれるほど、雑誌やカタログを見たり、ショールームに行ったりと熱心に検討を進めるのが一般的やろ。でも、最後は何が決め手になると思う?」
「やっぱり、値段が安いとか、デザインかしら…」
「たしかに、それも重要やな。けど、決断の最大の要因は、実はセールスマンなんや。それこそ、つぶさに比較検討した人でも、最後はセールスマンの熱心さや誠実さが決め手となっていることが多いねん。これは調査済みの事実。和子さんはお客さまとのやりとりのなかで、そういったモノを買うときのこころの変化を自然に、しかも何の違和感もなく実践している。保険に入ってもいいと思ったし、どうせ入るのなら、柴田さんから入ろうと思ったわ。ホンマ見事な営業やったな」
社長はさらにこう続けました。
「和子さんの営業スタイルをノウハウとして確立できれば、すごいビジネスになるやろな。でも、無理やな。お母さんは天才、それもコツのない天才やから、なかなか他の人には真似できんやろな」
83
ハチはなぜ大量死したのか
ローワン・ジェイコブセン
文藝春秋
2009/04/30
昨日、果樹園の経営者から、蜜蜂が減っていると聞いた。
確か、ニュースでも、蜜蜂が減って、果樹園の受粉に障害が出ていると聞いた。
米国では、この現象が2005年頃から発生しているそうです。
2000箱の巣箱の3分の2が突然に死んでしまった。
400個の巣箱のコロニーは、32群だけを残して壊滅してしまった。
2007年の春までに北半球の蜜蜂の4分の1が失踪した。
蜜蜂がないと蜂蜜が食べられません。
そのような影響かと思っていたのですが、とんでもない。
果物に限らず、野菜や草花も受粉ができずに生育を止める。
朝食に並ぶ食料の多くが消失する。
さて、この危機の原因は何なのだろう。
問題は解決できたのだろうか、あるいは解決できるのだろうか。
300頁を超える大作ですが、読みやすい文章なので読破できそうです。
結論は出ていないようです。
農薬などの複合汚染が原因と推定されているが、原因は不明。
仮に、蜜蜂がいなくなってしまったら。
蜂蜜はもちろん、オレンジやイチゴなどの果物、穀物、アーモンドなどのナッツ、野菜、野の草花など、多くの食物や動物の餌の生育が不可能になってしまう。
蜜蜂の消滅は、人類消滅の原因にもなってしまうのかもしれない。
アインシュタインも次のように語っているそうです。
もしハチが地球上からいなくなると、人間は4年以上は生きられない。
ハチがいなくなると、受粉ができなくなり、そして植物がいなくなり、そして人間がいなくなる。
なぜ、これほどに調和した世界が存在するのだろうか。
主の御心なのだろうか。
それを破壊し続けるのが人間生活なのだろうか。
蜂群崩壊症候群 消えたミツバチの謎
82
先を読む頭脳
羽生善治(将棋棋士)
伊藤毅志(情報工学科助教授)
松原 仁(システム情報科学部教授)
新潮文庫
2009/04/28
認知科学では、自分の思考を客観的に捉えることを「メタ認知」と呼び、自分の思考を説明する能力を「自己説明能力」と呼ぶそうです。
羽生名人の思考と、コンピュータのモデルを比較して論じるようだが、さて。
81
好きになる免疫学 ☆
多田富雄(東大名誉教授)
荻原清文(医学博士)
講談社
2009/04/27
免疫学って面白そう。
人間が生き残る為には、優れた免疫が必要です。
この書籍には、免疫力を高める手法が紹介されているのだろうか。
良書でした。
免疫は、まず、自己と、非自己を認識することからスタートする。
非自己を、マクロファージが捕食し、ウイルスの断片をヘルパーT細胞に提供する。
断片を提供されたヘルパーT細胞は、それを非自己と認識し、サイトカインという化学物質を放出し、キラーT細胞の目を覚まさせる。
しかし、キラーT細胞は、ウイルスの感染細胞を傷害するが、ウイルス自体は殺せない。
そこでもう1人の主役であるB細胞が登場し、抗体を発射して、ウイルスを殺す。
その過程で、B細胞は、免疫記憶細胞になって、リンパ節の中に隠れ潜み、同じ抗原が出現するのを待ち構える。
それが免疫。
しかし、インフルエンザウイルスや、エイズウイルスは、次から次に衣を変えてしまうので、免疫記憶細胞の過去の記憶が役に立たない。
T細胞は、どのようにして自己と非自己を認識する能力を備えるか。
教育現場が胸腺だそうです。
97%以上のT細胞は、胸腺の選別で除去されてしまう。
さて、免疫力を高めることが可能か。
抗体はタンパク質なので、その材料であるアミノ酸が不足すれば抗体が作れない状態になる。
では、ストレスが免疫機能を低下させるか。
これは研究途中だそうです。
しかし、笑いは、炎症を起こさせる分子の血液中の濃度を下げることが証明されている。
私は、一昨年の健康診断で、胸腺の部分に腫瘍があると指摘されました。
その為、MR、ペットなどの再検査が必要になったのですが、結局は、異常なし。
胸腺は、少年の頃は存在するが、大人になれば消滅してしまう機関。
それが私には未だに残っている。
これは免疫機能が、未だに学習中ということなのだろうか。
P130
たとえば、がんの患者さんのT細胞を集めてきて、T細胞に活力を与える差し入れ分子(サイトカインの1つであるインターロイキン2)を加えてT細胞の力をよみがえらせます。そして、元気になったT細胞を患者さんに注射して戻すという治療法が開発されています。
あるいは、患者さんのがん細胞をいったんからだの外に取り出して、そのがん細胞に、免疫担当細胞に活力を与える物質を放出させるよう細工をします。たとえばがん細胞に、免疫担当細胞に活力を与える差し入れ分子(インターロイキン2やインターフェロンガンマ)の設計図(遺伝子)を注入します。すると、がん細胞はその設計図を読み取って、差し入れ分子を放出するようになります。このような細工を加えたがん細胞を再び患者さんのからだの中に戻せば、免疫担当細胞の力をよみがえらせることができるのではないかと期待されています。
P152
どの脳細胞がどの脳細胞と結合できるのか、あるいはどの脳細胞が結合に失敗して死んでしまうのか、ということはまったく“偶然”によって決まります。
T細胞やB細胞に関していえば、たとえ一卵性双生児であっても遺伝子のセットは異なります。B細胞やT細胞は遺伝子を切り貼りしながら新たな遺伝子を作り出していくわけですが、その切り貼りのしかたがまったく“偶然”によるものだからです。“偶然”を大切にするからこそ、1つ1つの生きものはかけがえのないもの、というのは少し大げさないい方かもしれませんが、“偶然”をおおいに利用した「開花と刈り込み」という壮大な無駄は、脳や免疫が遺伝子の影響を超えてかけがえのない個性を作るために必要なことだったのです。
P153
そして脳細胞を包む星細胞も、T細胞をはぐくむ胸腺上皮細胞も、神経堤細胞という同じ系統の細胞から生まれるということが最近わかってきました。つまり星細胞と胸腺上皮細胞とは兄弟のようなものなのです。
しかもさすがは兄弟、彼らは形も働きもよく似ていて、血管をしっかりと包んで、余計な物質が血管からしみ出ないようにしたり、舞台の役者である脳細胞やT細胞を包んで、滋養の因子や細胞死の因子を与えるのです(ImmunologyToday2000;21:133)。
80
運命の人
山崎豊子
文藝春秋
2009/04/25
沖縄返還についての日米秘密協定の存在を報道した毎日新聞記者の事件。
田中角栄の「日本列島改造論」のゴーストラーターは新聞記者だったのだそうです。
79
免疫細胞治療
武藤徹一郎(癌研有明病院医師)
幻冬舎
2009/04/25
健康な人でも1日に5000個のがん細胞が発生する。
しかし、免疫細胞(リンパ球)が攻撃し、がん細胞を死滅させてくれる。
でも、リンパ球の監視の目をかいくぐってがん細胞が生き残ると、それがガンになる。
検査で発見できるがんの大きさは1センチで、そこまで成長するのに10億個の細胞が必要。
1個が2個、2個が4個、4個が8個と増える細胞分裂の回数で30回に相当する。
30回の細胞分裂には10年から15年を要するので、がん細胞は数十年も生き残ってきた細胞。
がんの原因が10個だとすれば、たばこが3で、それ以外の生活習慣が3。
残りの4は人間はどうすることもできない原因。
野菜と果物を食べ、タバコを吸わず、食塩を控え、酒を飲まないず、毎日運動して、余り太らないのがよいと解説しているが、これは免疫力を増やすということだろうか。
しかし、タバコの害が大きいことは驚くばかり。
本書に限らず、どのような医学関係の本にもタバコの害が書いてある。
ピロリ菌感染と喫煙の組み合わせで胃がんリスクは11倍になるという。
九州大グループが福岡県の住民を長期追跡調査した研究結果だそうです。
まず、挑戦すべきは、禁煙だろう。
さて、本書のテーマである免疫細胞治療ですが、これは患者から採血し、リンパ球を取り出し、体の外で薬剤を強力に働かせながら培養し、数を増やしたり活性化させた上で、薬剤を洗い落としたリンパ球だけを点滴で体に戻す方法だそうです。
ペプチドワクチン療法は、がん細胞の表面に存在するペプチドというタンパク質の欠片を患者に注射するという方法。
キラーT細胞は、ペプチドを異物と認識し、がん細胞の表面にあるペプチドを目印として、がん細胞を攻撃する。
免疫療法は、人間の自然治癒力を利用した治療法ですから、副作用がない。
手術、放射線治療、抗がん剤と並行して実施すべき第4の治療法として注目。
免疫力が高くなる生活をしよう。
たぶん、規則正しい食生活と、ストレスのない生活が、癌を、退けてくれるのだと思う。
しかし、そのような精神的な事象が免疫に影響を与えるのだろうか。
免疫学の本を読んでみよう。
78
ご冗談でしょう、ファインマンさん
R.P.ファインマン(物理学者)
岩波現代文庫
2009/04/23
独創的な物理学者が日常を語る三冊の内の一冊だ。
非常に評価の高い本だと聞いた。
うーん、私にとっては安野光雅氏の「算私語録」の方が面白かった。
算の国に、私語の多い者があり、師匠は弟子に私語を書き留めるように命じた。
P43
みんなこの「発見」に沸き立ったが、誰もがとっくにかなり進んだところまで微積分をやっていて、「どんな曲線についても、極小点(最低点)での導関数(接線)はゼロ(つまり水平)である」ということは知りぬいているはずなのだ。
ただそれを実際に当てはめてみることができなかっただけだ。言うなれば、自分の「知っている」ことすら知らなかったということになる。
これはいったいどうしたことなのだろう?人は皆、物事を「本当に理解する」ことによって学ばず、たとえば丸暗記のようなほかの方法で学んでいるのだろうか?
これでは知識など、すぐ吹っとんでしまうこわれ物みたいなものではないか。
77
会計天国
竹内謙礼
青木寿幸(公認会計士)
PHP研究所
2009/04/22
このタイトルでは読まないわけにはいかない。
この小説を読めば会計学が理解できると宣伝されている。
しかし、二兎を追うのは無理だろうと思って読み始めたのですが、非常に読みやすい。
ちょっと楽しみ。
いや、ダメだ。
このストーリーに読者を引きずり込むのは無理だろう。
私は、会計が分かってますので、斜め読みで、読み飛ばせますが。
これを真剣に読むのなら、簿記の教科書を読んだ方が良い。
いや、私のホームページの
簿記入門の方が分かりやすい。
昔、「経済学殺人事件」という小説を読みました。
これを読めば、最新経済学が理解できるという宣伝でした。
理解できたのが当時の最新の経済学だったのか否かは分かりませんが、面白い小説でした。
価額の小さな商品には取引価額のバラツキが大きいが、価額が大きい場合はバラツキは小さくなる。
その点がキーワードになっている殺人事件でした。
76
エコノミストは信用できるか ☆
東谷 暁(フリージャーナリスト)
文藝春秋
2009/04/13
日本の経済は最悪の状態なのか、あるいは世界の中で良い方なの。
今後、さらに急激に落ち込むのか、あるいはほどほどなのか。
エコノミストと称する人達の意見はばらばらです。
思い返してみれば、バブル時に、それが日本の力だと論じていたのがエコノミストと称する人達。
小泉政権の時代に、無茶な施策で国民の被害を大きくしたのもエコノミストと称する人達。
物作りは時代遅れだと主張し、投資銀行的なスタイルを推薦していたのもエコノミストと称する人達。
デリバティブ投資を実践し、倒産してしまったロングタームのメンバーはノーベル賞を貰った経済学者。
彼らの予想が当たらないのは、彼らのアタマが悪いからなのか、あるいは、経済学はブーズ教の占い程度の学問なのか。それが分析してあるのではないかと本書を読み始めたのですが、さて。
本書は「主張の一貫性」という視点でエコノミストを分析しています。
本書は良書でした。
経済学についての良心の書です。
20年前の土地バブルについて、某エコノミストは「日本は急速に国際金融市場で占める地位を高め …… この動きはおそらく今世紀中は変わることはあるまい」と断言し、某エコノミストは「東京の地価高騰は、主として東京の経済力の高まりという経済的要因によって生じた」と論じ、さらに、某エコノミストは「日本のストック経済は、一般的に考えられるよりも、強硬な基礎を持っており」と論じていると、多数のエコノミストの主張を紹介しています。
そして、その予想が外れたことと、それについての反省もなく、また、別のことを言い出すのが経済学者だということと。
これらのノー天気な予想は、日経平均が5万円を超えると論じていた20年前の株屋の株価予想と同じに見えてきました。
つまり、株屋とエコノミストは同種の人間なのではないか。
税理士と税法学者が、同じ税法を論じるように、
株屋とエコノミストは同じ経済を論じるのですから、この2つが異なる理由がありません。
明日の株価が予測できず、今日の株価の成立理由が説明できないように、
経済学者も、明日の経済を予測することはできず、今日の経済が正常か否かを説明することはできないのだ。
本書が紹介する経済学者の各々の時代毎の発言を読むと、まさに株屋の予想です。
そして、過去について反省することなく、変節してしまうところも株屋と同じ。
エコノミストと称する人達の主張も、株屋の予想と思って聞けば惑わされず済みます。
なるほど、日本経済は強いという予想もあり、弱いという予想もある。
その意味で、竹中平蔵氏の「前後の一貫性」についての評価が、40人のエコノミストの中で最低点であることも面白い。
経済学者の良心を問う書です。
P254
あれほどIT革命を絶賛し、アメリカはバブルではないと煽ったツケはどうするのか。このように、ちょっと考えてみただけでも、この人物の言論はそのとき次第で、何ら信頼を寄せるに値しない。
P264
経済問題を取材対象にするようになったのは、本格的に景気が悪くなった97年ころからだったが、他の分野にも増して次第に強く感じるようになったことが3つあった。
一つ目がエコノミストのかなりの部分が、前言と矛盾したことを平気で述べているように思えたこと。
二つ目がエコノミストという論者たちは、異様なほど自信に満ちているものだということ。
三つ目がエコノミストという人たちは、方法論において何と禁欲的なのかという驚きだった。
75
リストラされた100人の貧困の証言
門倉貴史
宝島社新書
2009/04/12
派遣切り、内定取り消し、リストラなど、職を失った100人の生活を紹介しています。
それにしても派遣業法は悪い法律です。
なぜ、導入時に、人権派、労働者側の人達は反対しなかったのだろうか。
先が読めなかったのか、あるいは反対したのに導入されてしまったのか。
派遣社員が出現し、雇用契約の意義が薄れた結果として、正社員の終身雇用の意義も薄れてしまった。
終身雇用、年功序列などは、失ってから気がついた日本の価値でした。
74
銀行員という職業 その素顔を垣間見る ☆
寺田欣司(元銀行員)
近代セールス社
2009/04/12
世の中の仕事は次の3つに分類できるように思います。
【1】 サラリーマン、公務員などの勤め人
【2】 自営業者、中小企業経営者などの商売人
【3】 医者、弁護士、税理士などの資格商売
【3】に属する弁護士は、商売人でもあるが故に【2】の考えは想像できますが、【1】は想像することさえできない。
何が辛く、何が嬉しく、何が生き甲斐なのか。
そして、【1】の典型が銀行員だろう。
その銀行員が、いま流行のディリバティブや証券化などの金融業ではなく、預金を集め、これを融資するというベーシックな銀行業務について語っています。
ただ、東大法学部を卒業したエリート銀行員ですから、それ以外の多数の銀行員とは異なる立場だろう。
【1】の人達にとっては、学歴は、一生について無視できない差異を作り出すはずです。
本書では、部下の結婚式への出席、人事部への不満、他店の支店長との関係、同僚の死や病気、仕えてきた支店長の人物評、上司、あるいは部下との関係など、行員、あるいは支店長としての銀行経験が、多様なエピソードが語られています。
では、私に、銀行員の喜びと生き甲斐が理解できただろうか。
うーん、やはり、分からない。
語られることは、ほとんどが上司、あるいは部下との関係。
これが技術者なら、技術と製品を語るだろう。
医者なら、治療、手術、患者を語るだろう。
弁護士なら事件を語り、税理士なら税務処理と調査経験を語るだろう。
そして、銀行員は上司、そして部下との人間関係を語る。
これが銀行員の苦労、喜び、生き甲斐なのだろうか。
ただ、それでも本書は良書でした。
筆者の真摯な銀行員としてのスタイルが表現されている。
銀行員は、誉められず、非難されることが多い。
しかし、多くの人達とお付き合いができるし、様々な人生模様を目撃することが出来ると。
P33
ご主入が亡くなり、葬儀費用にとご主入名義の預金を引き下ろそうと事情を話したところ、相続手続きが終わるまでは預金は引き下ろせません、と断られたのですがどうしましょう、こんな相談を知り合いから受けたことがある。葬祭費に使われるお金は相続財産からは除外される。つまり社会通念土妥当な金額の葬祭費用であれば、銀行から預金引き出しができる。その銀行窓口が法律を知っていれば、こう答えか返ってくるはずだが、頑なに預金引き出しを拒否して客を困らせる銀行が今でもある。勉強不足である。
P143
先輩から言われて、「採算当てゲーム」をしばしばやったものである。よく利用する喫茶店に入り、椅子の数、メニューの単価、客の回転数を観察し、1ヵ月のグロス収人を推定する。テナント料は立地と店の広さからかなり正確に推定できる。喫茶店の従業員の絵与、原価率はどこもそう変わらない。これでこの店のオーナーのネットの収入を推定する。こんなことを銀行の同僚と議論をするのだ。こうした遊びが、取引先からの融資申し込み内容に矛盾がないかどうかの判別に役立ち、融資判断の腕を磨くこともできる。
P162
これには世期に、銀行マンに対する美しい誤解があることが関係している。銀行マンは経理に明るい上にお堅いから、経理担当として大いに役立つという誤解である。
銀行マンは経理に明るいのではなく、数字に明るくてそろばんが得意なだけのことだ。複式帳簿で成り立っている会社の経理帳簿をつけられるほどの知識を持っている銀行マンはさほど多くない。銀行マンがつけられる帳簿は、せいぜい小遣い帳に毛の生えた程度の単式簿記、言葉を変えれば大福帳くらいである。もっともお堅いところを買われて町内会の会計係にするのは良いことだ。みんな喜んでくれるだろう。
P240
銀行業は客の信頼を一義と考え、身持ち固く間違いを起こさず、である。だが、金融業は金で金を生み出すものである。日本人は、おそらくはその国民性として銀行業に向いている人が多いと言えるだろう。だが金融業に向いているとは言いにくい。
P242
銀行マンとは悲しい商売である。銀行マンを一生懸命やっても、後世に残る「もの」をつくるわけでもなく、文化勲章もノーベル賞ももらえない。リスク覚悟で支援した経営者から、成功すれば自分の決断が良かった、失敗すれば銀行が金を貸さなければこんなことにはならなかった、と言われることさえある商売だ。
だが銀行マンをやると誰でも、会社経営者からおじいちゃんおばあちゃんまで、世の中のあらゆる階層の人々とのお付き合いができ、世の様々な人間模様を目撃することができる。仕事を通じてこれほど幅広く社会を見聞できる職業は他にはなかなかない。これが銀行マンの特権であり、銀行マンが素晴らしい職業である由縁だ。
しかしその特権を生かすためには、銀行カウンターの外に立つ必要がある。つまり客商売の原点、お客様の立場に立つのだ。これが「銀行業の原点回帰」であると考える。
73
それでは、訴えさせていただきます
労働者を守る弁護士有志の会
角川SSC新書
2009/04/11
労働法の書籍には偏りがあり、読みこなすのが難しい。
どこまでが正し法律解説で、どこからが筆者の主張なのか。
もっとも労働争議で正義を論じることに、如何ほどの意味があるのかは疑問ですが。
正義は労使共に存在し、共に正義だけでは解決できない意地とメンツと生存の危機を抱えての労使関係なのですから。
解雇には、【1】普通解雇、【2】懲戒解雇、【3】整理解雇があり、さらに、【4】自己都合による退職があるのですが、【1】、【2】、【3】の手法を採用するのは暴挙と言うべきだろう。
使用者側の相談を受ける税理士としては「退職勧奨」の方法をアドバイスすべき。
【4】の自己都合の退職では、失業手当について不利になります。
しかし、【1】、【2】、【3】の解雇では、解雇無効を主張されるリスクがあります。
この二律背反を防ぐのが「退職勧奨」です。
退職勧奨によって離職した者は、解雇により離職した者として、「特定受給資格者」になり、失業保険について、一般の離職者に比べ手厚い給付日数の適用が受けられるからです。
もちろん、優先すべきは雇用の確保であり、究極的な判断が要求された場合に限っての決断ですが。
72
にっぽん町工場遺産
小林泰彦(イラストレータ)
日経プレミアムシリーズ
2009/04/11
ユニークな製品を作っている町工場の紹介です。
痛くない注射針を作った
岡野工業も紹介されています。
糖尿病の人達は、一日に何度も注射をすることが必要です。
その人達のための注射針で、パイプから作るのではなく、金属板を丸めて作った。
岡野工業は、注射針に限らず、金属加工のマジシャンとして、幾つもの製品を世に送り出しています。
それが、従業員6人の町工場だそうです。
弁護士は、自称、優秀な人達なのですが、その優秀な人達が、日々、法律的な揚げ足取りに頭脳を使っている。
そのことを不思議とも思っていないのが、自称、優秀な人達なのですが。
この頭脳を、物作りに使ったら、岡野工業に負けない商品が作れそうな気がします。
今は、完全に負けてますが。
理系で優秀な人達が医者になり、文系で優秀な人達が弁護士になる。
これは間違った社会でしょう。
理系で優秀な人達は科学者、技術者になり、文系で優秀な人達は経営者になる。
これが正しい社会です。
物は社会に付加価値を作り出しますが、争いはゼロサムのゲームにしか過ぎません。
71
「この人、痴漢!」と言われたら ☆★
栗野仁雄(ジャーナリスト)
中央公論新社
2009/04/09
最近、タイトルで売る本が増えています。
本書も、同様の書籍と思って読み出したのですが、実に良い本でした。
前半は、13名の人達が公職選挙法違反で起訴された志布志事件や、婦女暴行で有罪判決を受け、懲役3年の判決で服役した後に真犯人が名乗り出た氷見事件など、次から次に罷免事件の紹介があり、ちょっと退屈します。
しかし、後半は良かった。
12歳から88歳までの男性と、全国民、必読の書です。
貴方が、真実は有罪なのなら、日本の裁判制度は完璧です。
しかし、貴方が、真実は無罪なのなら、裁判制度に救済を求めるのは、無い物ねだりです。
否認し続ければ保釈されず、罪を認めなければ、反省していないとして、執行猶予が付かない。
無罪を主張することさえ許されないのが、日本の刑事裁判です。
民事事件と、刑事事件を問わず、裁判になったら負け。
その為には、裁判の怖さと、不条理を知ることです。
最高裁(平成21年4月15日判決)で痴漢について逆転無罪判決が出ました。
この判決が、痴漢事件の怖さを物語っています。
【1】防衛医科大教授(63)
防衛大学の教授でも逮捕されてしまう。
逃げも、隠れもしないのに。
そして、勾留生活を過ごす。
【2】起訴休職
起訴されただけで、職を失う。
最高裁判決が出るまで収入が途絶える。
【3】一、二審は懲役1年10月の実刑判決
痴漢でも、否認をすれば実刑。
嘘であっても事実を認めれば執行猶予だろう。
つまりは、無罪さえも主張できない裁判制度。
【4】判決は5裁判官中3人の多数意見
もう1人が有罪側だったら、最高裁でも有罪だった。
反対意見を付けた田原裁判長(弁護士出身)と堀籠幸男裁判官(裁判官出身)は「女子高生の供述は具体的で信用できる。同じ車両に乗車したのは混雑して押し込まれた結果にすぎない」などと述べた。
P167
身に覚えがないのに電車の中で、あるいはホームに降りた時、女性から突然、「痴漢したでしょ」と言われたらどうするか。
まずは、そのままホームで話し合うことである。駅員に促されても絶対に駅事務室に行ってはならない。「私人逮捕」されたことになるからだ。駅員は「ここでは邪魔になる」とかいろいろ理由をつけて事務室に行かせたがるが、自分の責任にしたくないだけだ。絶対に行ってはならない。
矢田部さんは言う。「駅事務室に行った時点で、実はすでに現行犯逮捕されている。私人逮捕ですね。そして事務室では女性とは話し合えません。すぐに警察が来て女性を連れて行ってしまう。警察は、恐怖感を持っている被害者を守るとの名目で、絶対に加害者とは一緒にしません。だから、女性と話し合えばわかる、と思っても話し合う場はありません。男性諸氏にはまず、それを知っていただきたい」。
駅事務室でも、駅長、駅員は事情など聞かない。すぐに警察(鉄道警察隊)を呼んで引き渡すように、というマニュアルがあるのである。では、どうするか。
駅事務室に行かない、逃げもしない。とすればベストの策は。
女性に名刺など連絡先を渡すことである。「それはいやな思いをしましたね。でも私ではありません。だから逃げも隠れもしませんよ。でも今は会社に行かなくてはならないので、何かあればここに連絡して下さい」と言うのだ。名刺がなければ免許証を見せてもよいし、電話番号、住所を教えてもいい。警察は、令状請求をしなくては逮捕できなくなる。
P174
よほどの事情がなければ、名を名乗ったほうがいい。本来、濡れ衣を着せられて名乗る義務などないはずだが、逃げたりせずに堂々と名乗って連絡先も教えるほうが、周囲の人にも「やっていない」ということがアピールできる。そうすれば、女性が「この人、捕まえて下さい」などと叫んでも、無理矢理取り押さえようとする入はあまりいないだろうから、致命傷になりがちな「私人逮捕」も防げる。
それでも相手女性や周囲の人が駅事務室に連れて行こうとすれば、「事務室に行けば、私人逮捕になってしまうから拒否します」と、明確に断ろう。
駆けつけた駅員にも同じように説明することだ。駅員には「この女性が、私が痴漢したと間違って訴えています」と、丁寧に説明すればいい。そして「事務室に行けば私人逮捕になってしまうから絶対に行きません」と断ろう。駅員も私人逮捕のことくらい知っている。
それでも駅員が事務室に強引に連れて行こうとすれば、「あなたは私が痴漢をしていることを現認したのですか」と厳しく詰問しよう。駅員には強引に駅事務室に連れて行く権利はない。
P176
女性が言い分をまるで聞かず、強引に駅事務室に連れていこうとするのであれば、「間違っていたら刑法の虚偽告訴罪であなたを訴えますよ」と言うのが効果的だろう。「仮に痴漢の被害が事実だとしても、人違いなら虚偽告訴罪は成立します」と言えば、興奮状態でも少し冷静になって引く女性は多いはずだ。こうした法律用語をしっかり覚えておくとよい。女性も、いい加減な訴えはまずい、と考え直すだろう。
P180
弁護士費用は、私選なら、着手金で30万円が目安である。50万円くらいになることもある。このほか、コピー代、交通費などの経費も請求される。経費についてはよく相談しよう。昔は資力のある依頼人なら、新幹線を使えばグリーン車料金を請求したこともあったそうだが、弁護士の競争も激しくなったせいか、今はそんなことは滅多にないという。
ちなみにホリエモンの弁護士の着手金は2000万円。さらに「経費は使い放題」だったそうだ。
70
脳はなにかと言い訳する ☆
池谷裕二(脳科学者)
祥伝社
2009/04/08
人間は、並列処理コンピューターなのだろう。
ノイマン型のコンピューターでは、一度には1つの計算しかできません。
銀行の大型コンピューターは、これをタイムシェアリングシステムで使っているだけ。
つまり、0.00001秒ごとに、利用者を切り換える方式です。
しかし、人間の脳は、そのようにはなっていない。
税法を考えながら、道を歩いても、通行人にはぶつからず、道も間違えず、鞄も落とさない。
無意識下で働いているCPUが、これらの情報を同時並行的に処理している。
で、仕事をしていて、ふとした違和感が、これなのです。
意識化のCPUではなく、無意識下のCPUが危険を察知し、メインCPUにメッセージを送り込んでいるのです。
だから、ふとした違和感を大切にすることが必要。
ふとした違和感センサーが如何に発達しているかがプロの才能。
理屈で税法を考えるだけではなく、感性で税法を理解する必要があるのです。
感性って、無意識下で働いているCPUが送り込む情報なのですから。
それと、必要なのは知的好奇心なのです。
マウスの場合も、人間の場合も。
P2
脳には不思議なことがたくさんあります。
ただ、はっきりしていることは、「意識できること」よりも「無意識のまま脳が実行していること」のほうがはるかに多いということです。
P3
これはいったいどういうことでしょう。
理由はわかりません。
そもそも理由などないのかもしれません。
ただ、意識を一種の「警告システム」であると考える学者がいます。
耳を傾ける価値がありそうです。
つまり、想定外の事件が生じたときに、意識が生まれ、私たちに知らせるという考え方です。
P100
すると気づくのだが、「できるマウス」と「できないマウス」がどんな集団にも必ずいるのだ。さらに面白い事実は、できるマウスはどんな種類のテストが課されても「平均的によくできる」ということである。この理由を詳細に調べ上げたのがメイツェル博士の受賞研究だ。
P101
この点に関して、メイツェル博士は、個々の「行動性(どれだけ活発に動き回るか)」や「体重」は知能には無関係であると結論づけている。こうした点よりもむしろ「好奇心」や「注意力」の個人差が重要なファクターになっているという。つまり、どんな仕事でもよくこなす人は「集中力」が高いというわけだ。
P108
「IQテスト」の設立に貢献した一人に、ビネーという人がいます。彼は、人間の能力にはいくつか大切な要素があって、そのうちの一つは熱意、つまり「熱中する能力」だと言っています。
P109
だとしたら、記憶力がいいとか、要領がいいとか、器用だとかといった能力よりも、「興味を持って熱中できる遺伝子」のほうが重要ではないかと、私には思えてくるのです。となると、この本を読んでくださっている読者の皆さん、少なくともここまで読んでくださっている読者の皆さんは、そういう意味でよい遺伝子をお持ちなのだと思います。
69
ケーススタディM&A会計・税務戦略
小谷野公認会計士事務所
金融財政事情研究会
2009/04/06
実務家の書籍は私達の業務には不可欠です。
学者の書籍には存在しない重みがあります。
さて、取引相場のない株式の評価は実務における難問の1つなのですが。
本書にあるように、「利害の対立する第三者間の取引」については、当事者が決めた価額を、税務も認めるのだろうか。
確かに、法人税基本通達逐条解説は、9−1−14について、「ただし、純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた取引価額は、たとえ上記したところと異なる価額であっても、一般に常に合理的なものとして是認されることとなろう」と解説しているのですが、その実例を聞きませんし、また、第三者の範囲が明確ではありません。
オーナーが従業員から持株を買い戻した場合は、当事者が合意した価額ではなく、原則的評価方法が採用され、贈与税が課税されます。それは仙台地裁平成3年11月12日判決(判例時報1443号46頁)でも確認されているところです。
さて、当事者が決めた価額が是認されるという事例が実際に存在するのだろうか。
24頁
売買実例のある株式の譲渡であり、税務上、乙社の取引価額は問題ないものと思われます。利害の対立する第三者との取引である限り、当事者間で決めた譲渡価額により取引することは問題ないものと思われます。ただし、取引先や主従関係等必ずしも両者の立場が対等でなく、当事者の一方の判断により譲渡価額が形成されるような場合は慎重にその取引価額を決めなくてはなりません。
68
投資銀行が邦銀に屈した日 ☆
北村 慶(金融機関勤務)
東洋経済新報社
2009/04/06
業界首位のゴールドマン・サックスは商業銀行のライセンスを取得して銀行になり、2位のモルガン・スタンレーは三菱UFJファイナンスから資本を調達し、3位のメルリ・リンチは米国銀行のバンク・オブ・アメリカに救済合併され、4位のリーマン・ブラザーズは経営破綻し、5位のベアー・スターンズは米国銀行のJPモルガンに救済合併された。
世界市場でM&A、アセットマネージメント業務などに従事してきた現役の金融マンが、金融市場の現状と、今後を語るのが本書だそうです。何を語ってくれるのか、現場で実際に仕事をしている人達の言葉は重いので、ちょっと、楽しみです。
P20
三菱UFJとの基本合意が締結された22日には28ドルで取引されていたモルガン・スタンレーの株式は、徐々に値を下げていきました。
そして、9月29日には20.99ドルと20ドル台割れ寸前となりました。
こうした中、モルガン・スタンレーは、9月29日に、三菱UFJとの間で、法的拘束力のあるディフィニティブ・アグリーメント(最終合意書)に調印しました。
P23
そして、2008年10月10日金曜日、モルガン・スタンレーの株価は、一時6ドル台となり、終値ベースでも9.68ドルとついに10ドルを割り込みました。
ここに至り、三菱UFJは進退窮まった状況に追い詰められました。
すなわち、同社には、モルガン・スタンレーとの正式契約どおり、同社の普通株式を購入価格25ドル25セントで約3000億円分購入する義務があります。
しかし、その時価は9.68ドルと購入価格の半分以下ですから、その差額の15.57ドル相当、総額約1800億円が、買ったその日から含み損となります。
また、日本の会計基準では、株価が簿価の半分以下であり、回復の可能性があると断言できない場合には、この巨大な金額を、決算上、損失(減損)として損益計算書に計上する必要があることになります。
P25
2008年10月10日金曜日、モルガン・スタンレーの株価が10ドルを割り、一時6ドル台となった段階で、三菱UFJは“おとなしいハトからの脱皮”を決断します。
厳しい状況を踏まえ、モルガン・スタンレーに対し、出資条件の見直しを要求することを決めたのです。
しかし、両者は一度、正式契約(ディフィニティブ・アグリーメント)を結んでいます。その見直しを要求するなどということは、常識では考えられないことです。
P26
しかし、モルガン・スタンレーは、三菱UFJからの出資条件見直しに応じました。
また、米国の金融当局であるFRB(連邦準備制度理事会)も休日にもかかわらず、出資の条件変更の申請書を受け付ける、という離れ業を行ったのです。
つまり、米国政府も、全面的に三菱UFJによるモルガン・スタンレー出資の実現に協力したのです。
P33
彼女によれば、先週まで急落していく株価に呆然とし、将来に不安を感じていたモルガン・スタンレーの社員たちは、見知らぬアジア人一行を自社の経営トップが下にも置かぬ扱いで案内しているのに気づき、自発的にパラパラと拍手が起こったそうです。
特に、リストラの第一候補に擬せられていたセールス部隊のセクションでは、自社を救ってくれた“救世主”とも言えるアジア人の登場に、社員全員が立ち上がり、スタンディング・オベーションが起こった …… そう、彼女は教えてくれました。
67
大聖堂 上中下
ケン・フォレット
ソフトバンク文庫
2009/04/05
アリエナを主人公とする同名の書籍の続編です。
前作は素晴らしい完成度でした。
さて、続編は素晴らしいのか否か。
「続編」には駄作が多いので心配しながら読み始めたのですが、さて。
66
遠野物語 座敷童子
柳田国男
集英社文庫
2009/04/03
税務上のミスの相談があった。
そして税務調査が入った。
そのミスは調査対象になるのか。
運命の女神は気まぐれなのか。
女神は、この一事を持って、納税者と税理士の運命を逆転させてしまうのか。
結局は、こちらからの説明事項で納得してもらい、何事もなく終わりました。
運命には、ほんの小さなミスから始まり、常に裏向きのトランプを引くような暗転が始まるという恐怖がある。
大概の場合は、トランプは、常に表向きなのですが。
弁護士の存在価値は、
座敷童子であること。
また、母屋の方で騒ぎが始まったようだ。
P25
旧家には
ザシキワラシという神の住みたもう家少なからず。この神は多くは十二、三ばかりの童児なり。折々人に姿を見することあり。土淵村大字飯豊の今淵勘十郎という人の家にては、近きころ高等女学校にいる娘の休暇にて帰りてありしが、ある日廊下にてはたとザシキワラシに行き逢い大いに驚きしことあり。
これはまさしく男の児なりき。同じ村山口なる佐々木氏にては、母人ひとり縫物しておりしに、次の間にて紙のがさがさという音あり。この室は家の主人の部屋にて、その時は東京に行き不在の折なれば、怪しと思いて板戸を開き見るに何の影もなし。
しばらくの間坐りておればやがてまた頻りに鼻を鳴らす音あり。
さては座敷ワラシなりけりと思えり。
この家にも座敷ワラシ住めりということ、久しき以前よりの沙汰なりき。
この神の宿りたもう家は富貴自在なりということなり。
ザシキワラシまた女の児なることあり。同じ山口なる旧家にて山口孫左衛門という家には、童女の神二人いませりということを久しく言い伝えたりしが、ある年同じ村の何某という男、町より帰るとて留場の橋のほとりにて見馴れざる2人のよき娘に逢えり。物思わしき様子にて此方へ来たる。
お前たちはどこから来たと問えば、おら山口の孫左衛門が処から来たと答う。
これがら何処へ行くのかと聞けば、それの村の何某が家にと答う。
その何某はやや離れたる村にて、今も立派に暮らせる豪農なり。
さては孫左衛門が世も末だなと思いしが、それより久しからずして、この家の主従二十幾人、茸の毒に中りて一日のうちに死に絶え、7歳の女の子一人を残せしが、その女もまた年老いて子なく、近きころ病みて失せたり。
65
俺は、中小企業のおやじ ★★
鈴木 修(スズキ自動車会長)
日本経済新聞出版社
2009/04/03
その道のプロは語るべきものを持っています。
それが空論でも、精神論でもなく、実学であるところが素晴らしい。
中小企業の親父のような顔も良い。
「私に言わせれば、どんな先見の明も、すべて後解釈といいますか、後付にすぎません」と謙虚に語るところが良い。
「弁護士にはカネを惜しむな」「1円のコストダウンが生死を分ける」「手間がかかっても一から自分で作り上げた方が良い結果が出る」など、淡々と語ってますが、全て、修羅場を超えてきた著者の言葉の強さがあります。
P19
自動車会社にとって、最も大事なのはクルマです。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、その企業の経営者がどんなに人格者でも、いかにブランド力があっても、商品に魅力がなければ会社は傾いてしまいます。
自動車にかぎらずメーカーとはそういうもので、「商品がすべて」といってもいい。いろいろ理屈をいっても、新商品が世の中に支持されて売れなければ話になりません。
スズキの歴史も突き詰めていけば、あるクルマがヒットしたり、ヒットしなかったりの歴史といえます。
P97
「製造業は1円のコストダウンが生死を分ける」といわれます。外部の人は「そんなのはおおげさじゃないか。1円はしょせん1円だ」と思われる方も多いでしょう。でも、1円を大事にするというのは、決して空疎な精神論ではありません。1円の重みというのは、私たちが日々実感していることなのです。
スズキの場合、2008年3月期の連結売上高が3兆5000億円、利益が800億円、4輪の販売台数が240万台でした。わかりやすくするために、それぞれ3兆円、900億円、300万台だとしましょう。このとき、クルマー台あたりの売り上げは100万円(=3兆円÷300万台)ですが、利益は3万円(=900億円÷300万台)でしかない。
また、クルマは、1台あたり1万点とも3万点ともいわれる、非常に多くの部品からできています。仮に1台あたり2万点の部品からできているとすると、1部品あたりの利益は、わずか1円50銭(=3万円÷2万点)にすぎないのです。
このように、売上高3兆円、利益900億円というと非常に大きなビジネスをしているように見えますが、実際には、1部品あたり1円50銭の利益を積み上げた結果にすぎない。
もし1部品あたり1円50銭のコストダウンができれば利益は倍増しますが、反対に1円50銭のコストアップになれば利益は吹き飛んでしまう。1円単位、10銭単位のコスト削減が会社の収益をどれほど大きく左右するかが、おわかりいただけると思います。
P107
しかし、海外、とりわけ途上国での工場建設が続いたなかで、ずっと「教える立場」でいたために、少々、おごりがあったことも否めません。弱い相手とばかり試合をしていると、「自分の腕前が上がった」と勘違いしてしまうものですが、実際には腕はなまってしまうことのほうが多いのです。
海外にあるインドやハンガリーの工場を指導しているうちに、自分たちの技量への過信が生まれたのでしょう。社員の自信過剰や勘違いを厳しく指摘し、反省を促すのも経営者の役割です。
P156
この事件を振り返って思うのは、重大事が起こったときに、経営者が自ら現場に行って自分で判断することの重要性です。私が浜松に引きこもって部下任せにしていたら、ロサンゼルスの頼りなさそうな弁護士を起用することになったかもしれません。そうなれば、状況が悪化したのは必至で、スズキのイメージは大きく傷ついたことでしょう。
もうひとつは、弁護士にはカネを惜しむな、ということです。これは医者についてもいえることですが、ケチケチせずに最高の人材を雇えば、その見返りは大きいことを知りました。そして、やはりそのことを教えてくれたのもGMです。
P157
1997年の秋、東京モーターショーで来日したジョン・スミス会長とワゴナー社長に呼ばれて、GMの幹部とミーティングしました。その席で「ボトムアップはコストアップ。トップダウンはコストダウン」と言ったら、それをスミスさんがたいへん気に入ってくれました。「下からの積み上げで決めようとすると、議論百出で時間ばかりかかる。トップダウンこそコスト削減の近道だ」としゃべったのです。
P159
後にワゴナーさんは、「GM社内で、この言葉が流行語になりました」と笑いながら話してくれました。確かに、それから来日したGMの幹部たちは皆、この言葉を知っていました。
P172
スペイン撤退から学んだことは次の2つです。
まず、「会社というのは、いろいろ手間がかかっても一から自分でつくりあげたほうが、いい結果が出る」という教訓です。世の中では「M&Aブーム」といわれた時期もありますが、少なくとも自動車産業でM&Aをやって大成功しているところはありません。
自力でコツコツと積み上げてきた企業が成功し、ダイムラーとクライスラーのような大合併は結局、失敗だったと思います。フォードも、せっかく買収したジャガーを売ってしまいました。
64
メールは1分で返しなさい!
神垣あゆみ(フリーライター)
フォレスト出版
2009/04/02
ビジネスはスピードが命です。
仕事ができる人ほどメールが早い。
メールをすぐに返すことで得られるメリットとは大きい。
このようなテーマで、状況に応じた返信メールの雛形を紹介しています。
雛形は、私達の仕事には使えません。
しかし、著者が指摘する1分は正しい。
仕事は優先順位です。
自分の仕事を優先してくれなかったと思わせるのは、メールを送った方に対する不親切です。
1年間の仕事が365個だとしたら、その処理には次の2つの方法があります。
仕事に要する時間に差異は生じないのですが。
でも、【1】の人達は常に忙しく、【2】の人達はゆとりをもって仕事をします。
【1】常に、30個の仕事を溜め、毎日、1つずつの仕事を終わらせる。
【2】いま入ってきた仕事は、いま手を付けてしまい、ストックする仕事をゼロにする。
63
宗教改革の真実
永田諒一(岡山大学文学部教授)
講談社現代新書
2009/04/01
いまパソコンの時代であり、ネットの時代です。
これはグーテンベルグが印刷機を発明した時代に匹敵するのではないか。
誰でもが新聞社になれて、誰でもがテレビ局になれる時代です。
そして、プロテスタントの発生とグーテンベルグの印刷機は切り離せない関係にありました。
そのことを再確認するため本書を読むことにしました。
誰でもが印刷した聖書を読めるようになり、免罪符などが、聖書のどこにも書いてないことが露見し、プロテスタントが主張されたと想像していたのですが、違うのですね。
ルターはプロテスタントを提唱し、印刷機を利用した印刷物などを利用して一般市民への布教活動を始めた。
カトリックは、公報活動に遅れた。
それは今の時代と同じです。
プロテスタントが出現したように、ネットは、社会を変えるだろう。
その時代に、私達は生活している。
つまり、歴史の目撃者なのです。
P36
スクリブナーは、ドイツで出版されるドイツ語書籍について、15世紀の終わりから16世紀はじめごろまでは、年間平均で約40種程度であったが、1517年にルターが『95ヵ条論題』を発表して宗教改革がはじまった後、1519年には111種、1523年には498種になったという数字をあげている。
ほかにも彼は、1518年から26年までに出版されたドイツ語文献が、1501年から17年までの出版量の約3倍になっていること、1519年の出版物の3分の1、1523年の出版物の5分の2がルターの著作であること、1523年の498種の出版物のうち、418種が宗教改革に関する内容であったことなども記している。
P62
宗教改革派はすばやく活版印刷術の利用価値を見抜いた。
彼らは思想宣伝のために、安価、大量の活版印刷物を流布させて成功を収めた。
しかし、一方のロ−マ・カトリック教会はどうかというと、これに消極的であったために遅れをとってしまった。
P107
ルターは、貞潔、清貧、服従という修道士のあるべき生活を、行動としてだけでなく、心の問題としても完全に実現することをめざしたが、それは不可能であった。修道士生活の完遂は人間にとって不可能な目標であり、神ははじめから人間にそのような生活を望んではいないというのが、彼が坤吟の末に引き出した結論であった。ルターの後年の回想を書きとめた弟子たちの記録によれば、彼は、修道士としての自らの生活努力について次のように語ったという。
「私は修道会の規則を実に厳格に守った。だから、もしも修道士のうちで、修道士生活の内容によって天国に到達する者があるとすれば、それは私だったと言うことができる。私を知っている修道院の仲間たちは、みな、それを証明してくれるだろう。もしも私があれ以上つづけていたなら、私は、徹夜の勤行や祈りやその他の聖務で、自分自身を殺してしまったに違いない」
彼は、修道士だけではなく一般の聖職者の独身制についても、それを否定する結論に到達した。神は、すべての人間が結婚による家庭生活のなかで子孫を残し育てるように定めたのであり、聖職者の独身制は神の意思ではないし、人間の成就しうる課題でもないという考えである。
P108
ルターの見解表明に呼応するように、宗教改革運動の開始後たちまちのうちに、各地で多くの修道士や修道女が修道院を去り、また、彼らや一般の聖職者たちが次々に結婚しはじめた。
62
ロスノフスキ家の娘
ジェフリー・アーチャー
新潮社
2009/04/01
これも5回は読んだ小説で、また、読み途中です。
イギリスの国会議員であるジェフリー・アーチャーの作品で、ケインとアベルのストーリーをい引き継いだ作品。
P51
思ったことをずけずけいいすぎた点はお詫びしなくてはなりません、ミスター・ロスノフスキ、でもあなたの偏見を大目に見ておきながら、ほかの人々の偏見を非難することは、わたしにはとてもできないのです
P306
きみのお父さんはヘンリー・オズボーンのことをいつもどういっていた?
スカンクは死ぬまでスカンクだ、といわなかったかい?
P314
「わたくし、フロレンティナ・ケインは、アメリカ合衆国大統領の職務を忠実に執行し、持てる能力の最善を尽して合衆国憲法を保持し、守り、擁護することを、厳粛に誓います。神よわれを助けたまえ」
P316
エドワードはドアのほうへ歩いて行く第43代アメリカ合衆国大統領を笑顔で見送った。
お伴の大佐がトランシーヴァーのスイッチを入れて、小声でいった。
「女男爵(バロネス)が王位に戻る。契約は完了した」
61
動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか ☆
福岡伸一(分子生物学)
木楽舎
2009/03/31
良い本だった。
命とは何かについて、一つの定義をしています。
生命とは、人間の身体に宿るものではなく、人間の身体の形を作り出している流れそのものをいう。
流れる川に作り出された淀みが人間の形であり、そこを流れる水自体が命なのだと。
アミノ酸の流れの中に淀みができて、その流れ自体が命になるのだそうです。
だから、消しゴムにも、鉛筆にも、パソコンにも、机にも、死体にも命はない。
流れがないからです。
P12
大学と研究者の関係は、日本と米国とではまったく異なる。日本の場合、国公立大学はもちろん、私学であっても、大学は公共的なものだから、教授たちはほぼ終身雇用制度によって守られており、半ば親方日の丸的な、安住の地となっている。給与は大学が払ってくれるし、研究費も基本的なべースは保証されていることが多い。
米国の場合、まったくそうではない。大学と研究者の関係は、貸しビルとテナント店舗の関係である。研究者は研究費をどこからか稼いできて、その一部を大学に納める。いわばショバ代だ。
そのかわり、大学は研究スペース、光熱水道などのインフラ、掃除や警備などのサービスを提供する。その上で、有名大学ならばブランド名の使用権が与えられる。
特に理科系のブランド大学は徹底している。ショバ代を多く払える研究者、つまり外部資金獲得額の多い有力教授が、その額に応じたスペースとサービスを大学から受けることができる。自分の給与はもちろん、部下たちの給与も、その研究費から都合するのは言うまでもない。
P43
さて、ここが大事なポイントである。3歳の時に行った実験の「1年」と30歳の時に行った実験の「1年」では、どちらが実際の時間としては長いものになっただろうか。
意外に思われるかもしれないが、ほぼ間違いなく、30歳の時に感じる「1年」のほうが長いはずなのだ。なぜか。
それは私たちの「体内時計」の仕組みに起因する。生物の体内時計の正確な分子メカニズムは未だ完全には解明されていない。しかし、細胞分裂のタイミングや分化プログラムなどの時間経過は、すべてタンパク質の分解と合成のサイクルによってコントロールされていることがわかっている。つまりタンパク質の新陳代謝速度が、体内時計の秒針なのである。
そしてもう一つの厳然たる事実は、私たちの新陳代謝速度が加齢とともに確実に遅くなるということである。つまり体内時計は徐々にゆっくりと回ることになる。
しかし、私たちはずっと同じように生き続けている。そして私たちの内発的な感覚はきわめて主観的なものであるために、自己の体内時計の運針が徐々に遅くなっていることに気がつかない。
だから、完全に外界から遮断されて自己の体内時計だけに頼って「1年」を計ったとすれば、3歳の時計よりも、30歳の時計のほうがゆっくりとしか回らず、その結果「もうそろそろ一年が経ったなあ」と思えるに足るほど時計が回転するのには、より長い物理的時間がかかることになる。つまり30歳の体内時計がカウントする1年のほうが長いことになる。
さて、ここから先がさらに重要なポイントである。タンパク質の代謝回転が遅くなり、その結果、1年の感じ方は徐々に長くなっていく。にもかかわらず、実際の物理的な時間はいつでも同じスピードで過ぎていく。
だから?だからこそ、自分ではまだ1年なんて経っているとは全然思えない、自分としては半年くらいが経過したかなーと思った、その時には、すでにもう実際の一年が過ぎ去ってしまっているのだ。そして私たちは愕然とすることになる。
つまり、年をとると1年が早く過ぎるのは「分母が大きくなるから」ではない。実際の時間の経過に、自分の生命の回転速度がついていけていない。そういうことなのである。
P67
もし、他の生物のタンパク質がそのまま私たちの身体の内部に取り込まれれば、どうなるだろうか。当然のことながら、他者の情報は、私たち自身の情報と衝突し、干渉し合い、さまざまなトラブルが引き起こされる。アレルギー反応やアトピー、あるいは炎症や拒絶反応とは、すべてそのような生体情報同士のぶつかり合いのことである。
そこで、生命体は口に入れた食物をいったん粉々に分解することによって、そこに内包されていた他者の情報を解体する。これが消化である。
消化とは、腹ごなれがいいように食物を小さく砕くことがその機能の本質では決してなく、情報を解体することに本当の意味がある。タンパク質は、消化酵素によって、その構成単位つまりアミノ酸にまで分解されてから吸収される。
タンパク質が「文章」だとすれば、アミノ酸は文を構成する「アルファベット」に相当する。「I LOVE YOU」という文は、一文字ずつ、I、L、O、V……という具合に分解され、それまで持っていた情報をいったん失う。
P77
ならば、コラーゲンを食べ物として外部からたくさん摂取すれば、衰えがちな肌の張りを取り戻すことができるだろうか。答えは端的に否である。
食品として摂取されたコラーゲンは消化管内で消化酵素の働きにより、ばらばらのアミノ酸に消化され吸収される。コラーゲンはあまり効率よく消化されないタンパク質である。消化できなかった部分は排泄されてしまう。
一方、吸収されたアミノ酸は血液に乗って全身に散らばっていく。そこで新しいタンパク質の合成材料になる。しかし、コラーゲン由来のアミノ酸は、必ずしも体内のコラーゲンの原料とはならない。むしろほとんどコラーゲンにはならないと言ってよい。
P111
タンパク質は貯蔵できない。なぜならタンパク質(正確に言えばその構成要素であるアミノ酸)の流れ、すなわち動的平衡こそが「生きている」ということと同義語だからである。タンパク質の合成と分解のサイクルはとどめることができず、この回転を維持するために、外部から常にタンパク質の補給をしなければならない。
成人の1日あたりのタンパク質所要量は60グラム(乾燥重量)だ。だから、私たちは何も毎日、血の滴る何百グラムものプライムリブを常食する必要はもちろんない。しかし、1日に60グラムのタンパク質は、身体の代謝回転を駆動するためにいつも必要とされているのである。
P231
「動的な平衡」とは何か
生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである。
だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数ヵ月前の自分とはまったく別物になっている。分子は環境からやってきて、一時、淀みとしての私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。
つまり、環境は常に私たちの身体の中を通り抜けている。いや「通り抜ける」という表現も正確ではない。なぜなら、そこには分子が「通り過ぎる」べき容れ物があったわけではなく、ここで容れ物と呼んでいる私たちの身体自体も「通り過ぎつつある」分子が、一時的に形作っているにすぎないからである。
つまり、そこにあるのは、流れそのものでしかない。その流れの中で、私たちの身体は変わりつつ、かろうじて一定の状態を保っている。その流れ自体が「生きている」ということなのである。
シェーンハイマーは、この生命の特異的なありように「動的な平衡」という素敵な名前をつけた。
ここで私たちは改めて「生命とは何か?」という問いに答えることができる。
「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という回答である。
そして、ここにはもう一つの重要な啓示がある。それは可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基盤、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」であるということだ。
生命現象とは構造ではなく「効果」なのである。
60
空は、今日も、青いか?
石田衣良
集英社文庫
2009/03/30
素晴らしい作家です。
作品が売れているのが分かる。
文章の一行に無駄が無く、中身がある。
しかし、私には読めません。
角田光代が語るように、その年齢にならないと読みこなせない書籍がある。
しかし、その年齢を超えてしまうと、読めなくなってしまう書籍もある。
この著者の作品は20代、30代の人達が読むものだと思う。
しかし、約束(角川文庫)は良かった。ラベルに自転車の絵が描いてあるワインが登場する短編も良かった。
うん、年齢を問わず、良い作品を書く作家なのかもしれない。
P20
就職活動まっただなかの大学4年生から手紙をもらった。彼女は公務員志望で、去年の秋から予備校にかよったという。不景気も出口が見えてきたけれど、まだまだ空前の公務員ブーム。人気の省庁では100倍を超える倍率なのだそうだ。
予備校では試験勉強はもちろん、面接や小論文対策、ときには合格裏事情まで、懇切丁寧に教えてくれる。彼女は必死に勉強し、国家公務員の一次試験にのぞんだ。六法をふくめた30科目近くの専門知識が問われる筆記試験と論文である。
彼女の心のバランスが突然崩壊したのは、論文試験のなかばをすぎたときだった。予備校では論文試験の傾向と対策をみっちりと教えこまれている。長年の経験からこうすれば合格するという秘訣はすでに明らかだ。小手先の受験技術なら、日本の予備校に敵はない。
公務員の論文試験に合格する鉄則は5項目である。
(1)国に対する批判をいれてはいけない
(2)現役の国家公務員に対する尊敬の念を表現する
(3)マスコミ風の文章にしない
(4)自分の考えをいれない
(5)国を立てること
筆記試験は上々の出来で、60分1600字の論文試験に突入した。所定の課題で日本国の官僚が読んでよろこぶ完壁な文章を仕あげるのだ。3分の2ほど書きあげて、腕時計を確認する。経過時間は半分の30分。ペース配分は万全だった。ここで一度読み直してみよう。そのとき「合格したい」の一念だった彼女の心は崩壊した。
自分が書いた文章を読んで、急に強烈な圧迫感と悲しみを感じたという。隙のない文章、だがそのなかには自分のかけらはひとつもはいっていない。「自分のない、国を立てた文章づくり」。そんな論文を書いている自分に嫌悪を感じて、爆発的に涙があふれてきた。また、もうひとりの自分は急にやってきた拒絶反応に驚いてもいたという。
59
アビス 上下
オースン・スコット・カード
角川文庫
2009/03/28
3回、4回と再読した小説が何冊かありますが、そのうちの一冊がアビス。
SF小説ですが、主人公のリンジー、バド、その他の人達が魅力的に書かれています。
ビルダーは、手を触れあうことで、その時々の感情まで含め、全ての記憶を交換(コピー)することができる。
手を触れあうことで、全ての記憶を交換することができたら如何に便利だろうか。
下巻195頁
リンジーの死を悼んでいる。記憶が失われるからではない。失われることがないからだ。我々がリンジーを悼むのは、彼女の世にも独特の行動が、よかれあしかれ、他の人間が誰ひとりしたことのない奇妙な行動が、もう二度と行われなくなってしまうからだ。我々が悲しむのは、永遠に覚えていられるリンジーの過去ではなく、決して知ることができないリンジーの未来なのだ。
下巻245頁
それが、人間が私達に教えてくれた事柄の中で、いま我々に教えてくれている事柄の中で、一番肝心な点だ。よろしいか、人間たちは全員がお互いに他所者同士なのだ。彼らは決して他人を真に理解することなく、お互いにひたすら当て推量し、思い違いをし、曲解し、欺き、誤解しあいながら一生を終える。それなのに、永遠に退所者同士なのに、人間達はときおり信頼しあう。心からいつくしみあって、相手を救うためなら、喜んで死ぬ……他の人間を幸せにするためなら、喜んで自分を変える。このように一足飛びに信頼し、愛することが習い性となっているために、バド・グリフマンはこのよな信頼を我々までに寄せたのだ……我々のことを知りも、分かりもしないのに。彼にとって他所者なのに。
58
無趣味のすすめ
村上龍
幻冬舎
2009/03/27
確かに、私の場合も、趣味は、常に仕事に結びついています。
ソフト作りも、パソコンも、さらには税法まで。
その他にも、その時代に夢中になった諸々の趣味がありますが、それらも仕事をする上での発想や価値観の基礎になっています。
ここに書き込んでいる書籍の感想も、日々の仕事の発想や価値観の基礎になり、その書籍を読んだ翌週、あるいは翌月には、その書籍の内容を、依頼者に対し、あるいは講演会で、事案解決の喩えとして語っています。
釣り、ゴルフ、将棋、テニスなどを趣味とする人達を否定はしませんが、それは私達のような職業に就いている者とは別の人生と思えます。
P7
趣味が悪いわけではない。だが基本的に趣味は老人のものだ。
好きで好きでたまらない何かに没頭する子どもや若者は、いずれ自然にプロを目指すだろう。
P9
だから趣味の世界には、自分を脅かすものがない代わりに、人生を揺るがすような出会いも発見もない。
心を震わせ、精神をエクスパンドするような、失望も歓喜も興奮もない。
真の達成感や充実感は、多大なコストとリスクと危機感を伴った作業の中にあり、常に失意や絶望と隣り合わせに存在している。
つまり、それらはわたしたちの「仕事」の中にしかない。
P87
問題は、メモを取る行為そのものではなく、メモを取らなければいけないほど重要な情報に常に飢えているかどうかだ。
P94
自分は今どんな情報に飢えているのか、それがわかれば目標は8割方達成されたも同然だろう。
だから、どんな本を読めばいいでしょうか、と他人に聞くような人は最初から可能性がない。
P118
年末には数千万冊のスケジュール手帳が店頭に並ぶらしいが、スケジュールを管理する、という概念を一度放棄するといいのではないかと思う。
やるべきことに優先順位をつける、という方法を勧めたい。
仕事とプライベートにおけるその人の優先順位が、その人の人生なのだ。
P123
そして、実際の交渉においてもっとも重要なのは、相手の立場に立って考えるということだ。
不思議なことに日本社会では「相手の立場に立って考える」ことが弱気な態度だと誤解されやすい。
たとえば「次の六カ国協議では北朝鮮の立場に立って考えたい」などと言うと弱腰だと批判されかねない。
だが相手の立場に立ってみないと、つまり相手はどう考えるのだろうと想像力を働かせないと、交渉などできない。
P124
徹底的に相手の立場に立って考えること、交渉はその地点からしかスタートできない。
P225
成功して絶好調のときに失敗しておくべきというのは真実だが、現実としては、いつまで経っても成功できない人のほうが圧倒的に多い。
非常に多くの人が仕事や人生で失敗する。
そしてほとんどはリカバリーできず、失敗者として生涯を送る。
失敗を糧として成功する人は本当にごくわずかなのだ。
マスメディアは、派手な失敗のあとに這い上がるという成功譚が好きで、そういった物語を番組で紹介したがる。
だからついだまされてしまうのだが、失敗そのものに価値があるわけではない。
57
物語 フランス革命 ☆
安達正勝(フランス文学者)
中公新書
2009/03/25
税法の歴史、特に、税法と民主主義の関わりを語るときには、フランス革命とアメリカの独立戦争についての理解が必要です。
その趣旨で手に取った本書ですが、読み物としても非常に読みやすい。
こういう書籍が手に入ったときに、地方出張などがあると嬉しい。
飛行場での時間つぶしも、新幹線も気になりません。
P28
現在のわれわれの社会は三権分立にもとづいているが、絶対王政においては行政・立法・司法の権限が国王に集中していた。国民は三つの身分に分けられ、第一身分が僧侶(聖職者)、第二身分が貴族、残りの一般庶民が第三身分(平民)だった。第三身分が人口の98パーセントを占めていた。
僧侶が第一身分とはいっても、枢機卿や大司教といった一握りの高位聖職者を除けば、民間で暮らしていた大部分の僧侶の境遇は第三身分に近かった。1789年5月に開催される三部会ではこうした一般僧侶が第一身分代表議員300人のうち208人を占めていて、このことが三部会全体の動向を左右することにもなる。
実質的に社会を領導していたのは貴族階級であり、2パーセントにも満たない人々が残りの98パーセントの人々を支配してきたのであった。そして、第三身分(その8割以上が農民)が重税にあえいでいたのに対し、僧侶と貴族には免税特権が与えられていた。
P42
国家財政が破綻しかかっていることは、ルイ十六世にはよくわかっていた、食うや食わずの農民からは厳しく税金を取り立て、贅沢三昧の生活を送っている貴族は税金を払わなくてもいいというのは、だれが見てもおかしい。貴族が税金を払ってくれれば、国家財政も好転するはずだった。
ルイ十六世が財務総監のカロンヌと協議を重ねた上で1787年に名士会を召集したのは、特権身分に税負担を求めるためだった。貴族と僧侶の免税特権を廃止し、すべての土地から上がる収益に同一基準の税をかけよう、というのであった。第一身分の僧侶階級は国土の10パーセント、第二身分の貴族階級は25パーセントを所有していたので、この税制改革が実現すれば、大幅な税収増が見込まれた。
P45
第三身分とは、何か? …… すべてである。
政治の領域において、これまで第三身分は何であったか? …… 何ものでもなかった。
第三身分は何を求めているか? …… 政治において、何ものかになることを。
第三身分が権利に目覚めれば、ほんの一握りの特権階級が98パーセントの人々を支配する体制が長続きするはずがなかった。そしてまさしく、第三身分は目覚めつつあった。
6月17日には、第三身分は「国民議会」と称して独立する動きを見せた。第三身分の動きはルイ十六世の不意をつくものだったが、それでも第三身分の議員は一人の例外もなく王政主義者であり、「国民議会」を宣言したのちに全員で「国王万歳!」と叫んだのであった。
ルイ十六世は改修工事を口実にして、第三身分が会議を開いていた部屋を閉鎖させた。20日、議場が閉鎖されているのを見た第三身分の議員たちは、急遽、室内球技場に場所を変え、「憲法制定まで解散しない」ことを誓った。いわゆる「球技場の誓い」である(テニスの原型となった球技なので「テニスコートの誓い」とも呼ばれる)。
P78
革命が始まった最初の頃は、後に起こる国王の処刑や恐怖政治期の大量流血など、そんなひどいことになるとはだれも思っていなかった。新たに憲法を制定し、国王と国民が一致協力して改革を推し進めていけばすばらしい世の中になる、と人々は楽観的に信じていた。
P90
国王とともに新しい国造りにあたろうとしていたフランスの人々にとって、この事件は青天の霹靂だった。人々は憤激した …… なんということだ、国王ともあろう人が、従僕に変装してまでも外国に逃げようとするとは!
国王は外国と謀ってフランスに攻め入ろうとしているという、以前からささやかれていた噂が俄然、信憑性を増した。ルイ十六世は一挙に国民の信用を失い、「王政を廃止せよ」という声がフランス全土から怒濤のように沸き起こってきた。
何度も言うが、ルイ十六世は改革派の国王だった。フランス革命がルイ十六世の治世下に起こったのは彼が改革派の国王だったからだ、とも言えた。改革を行なわねばならなかったが、王政の伝統にも忠実であらねばならなかった。
二つの要請に引き裂かれ、ルイ十六世は方向性を見失ってしまった。ここからさまざまな失策が生じるのであるが、「ヴァレンヌ逃亡事件」はその最たるものだった。この事件がその後の革命の展開に与えた影響には、実に計り知れないものがある。
P94
9月3日、国会で憲法が採択された。この憲法は「1791年憲法」と呼ばれる。14日、ルイ十六世は国会の議場に赴いて、憲法を受け入れ、国民に忠誠を誓った。しかし、国王には玉座が用意されておらず、単なる肘掛け椅子しかなかった。チュイルリー宮殿に戻ったあと、ルイ十六世はすすり泣いたという。
ともかくも、こうしてフランス史上初めての憲法が制定され、フランスは立憲君主主義国になった。この91年憲法では、国王は不可侵の存在とされ、国会を通過した法律に対する拒否権が国王に与えられていた。革命を指導してきた開明貴族・最上層市民たちにとっては、革命はここで終わるべきものだった。そして、実際、彼らは革命は終わったと信じたことだろう。
しかし、すでに国王に対する国民の信頼がすっかり失われていたため、この立憲君主政体には、いわば、魂が入っていなかった。
P130
(ギロチンというのは英語読みで、フランス語ではギヨティーヌguillotineと言う。ギヨタンの綴りはguillotin)。最終的にどのような機械にするかについての詰めは、ギヨタンとルイ博士と死刑執行人サンソンの三人によって協議された。
P196
ルイ大王校を卒業後は郷里のアラスに戻って弁護士になり、社会的に弱い立場にある人の弁護をすすんで引き受けた。「弱い立場にある人々、抑圧された人々、貧しい人々を擁護する職業以上に崇高な職業があるだろうか?」とロベスピエールは言っている。腕も良かった。「話をする際の態度、表現の選択、弁論の明晰さ」において同僚たちをはるかに上回っていた、とある同僚は証言している。
P220
恐怖政治が始まるのは1793年秋からである。その要となるのが革命裁判所であった。
革命裁判所が設立されたのは、この半年前、1793年3月10日である。
「裏切り者と陰謀屋は罰せられるべきであるのに、共和国には真の裁判が存在しないことに市民たちは気づいている。市民たちが前線に出発するのを嫌がっているのは、ただこの理由からだけだとみんなが言っていた。前線に赴こうとしている市民たちは、確実に信頼できるような法廷を求めている。こうした法廷は必要不可欠である……。もし国民公会がこれを設置しなければ、よき市民たちの気持ちを逆撫ですることになろう」
P221
こうして、ほんの数日間の議論で革命裁判所の設置が決定されたのであった。
革命裁判所は「あらゆる反革命的企て、自由、平等、統一、共和国の不可分性、国家の内的および外的安全を脅かすあらゆる行為、王政を復活させようとするあらゆる陰謀」に関わる事件を管轄する特別法廷で、控訴・上告はいっさいなく、ここで下された判決は、即、確定の最終判決であった。
革命防衛のために設置された革命裁判所が、本来の使命を逸脱し、政敵排除にも利用されるようになるのである。
P232
国民公会が8月1日にマリー=アントワネットを革命裁判所に送付することを決議したのは、こうした動きを牽制するためだった。つまり、「いい気になっていると、王妃の命はないぞ」という脅しである。しかし、革命政府の本音は、前王妃の裁判が近いと諸外国に思わせておいてこれを外交交渉のきっかけにし、前王妃の身柄と引き換えになんらかの有利な譲歩を勝ち取りたい、ということだった。
P233
しかし、相手側に交渉に乗ってきそうな様子がないままに時間が経過し、恐怖政治が始まろうとする時期に行き当たってしまった。
裁判が開始されたのは10月14日だった。
裁判は2日間にわたって行なわれ、16日の午前4時過ぎ、死刑の判決が言い渡された。いったん独房に戻されたマリー=アントワネットにはもう数時間の命しか残されていなかったが、少しも取り乱したところがなかった。
56
リスクをヘッジできない本当の理由 ★
土方薫(住友商事 エグゼクティブマネージャ)
日経プレミアムシリーズ
2009/03/24
市場にはリスクと不確実性があり、リスクは取り込むことができるが、不確実性は取り込めない。
リスクは過去の情報から推察することが可能だが、不確実性は予測できない。
損失の発生に対する恐怖は、一定の限度を超えたところでガラッと変質し、勾配曲線が折れ曲がる。
折れ曲がり点を超えたところで投げ売りが始まる。
折れ曲がり点がどこかは多数のトレーダーの恐怖によって変動し、予測不能。
投げ売りが始まる前までは、常に、折れ曲がり点の手前にいて、そこは反転点でもあるのですから。
P95
「市場はときに、参加者の資金繰りが破綻するまで、非合理な状態に止まることがある」
ケインズの没後、50年余り経って、彼の言葉は現実のものとなった。これが市場の本性なのだ。
P154
もちろんこうした行動を取るのは、トレーダーだけの特異なものではない。私たちも似たり寄ったりのところがある。会社が倒産するときのことを思い起こしてほしい。ある事業を諦めるときは、耐えるだけ耐えて、もうこれ以上は駄目だと思った水準ですべてを諦めるのがほとんどであろう。バブル崩壊で消えていった銀行、証券会社、そして不動産会社もみな同じだ。決して自分の全財産の増減を見ながら、少しずつ事業を縮小し、気がついてみたら会社がなくなっていたということはない。会社は一夜にして崩壊するのだ。
このように、リスクのある環境下において人が下す評価価値というものは、ある一定限度を超えた瞬間にガラッと変わってしまう。こうした人の行動パターンを証明したのが、行動経済学の権威であるD・カーネマンとA・トヴァースキーである。彼らは、「人はある基準になる点を境にして(彼らはこれを「参照点」と定義している)利益局面で得られる価値よりも損失局面で失う価値を2.0〜2.5倍ほど重要視する」ということを、実験で明らかにした。つまり、儲かっている状態ではさほど気にかけなかった利益でも、それと同じ金額だけ損をすると、より深刻に感じる。その差が2倍から2.5倍であるというのだ。
P157
ひとりのトレーダーに火がつき、それが次のトレーダーを追いつめる。次のトレーダーも損切りを始めると、いよいよ、あらゆるところから火の手が上がり始める。どこかのファンドが破綻しそうだとかいったニュースが流れたりすると、トレーダーはさらに追い込まれてくる。そこで価格が踏みとどまってくれれば問題はない。
P158
サイコロには、こんな人間の心理的バイアスなどわかるはずもない。市場に売り手も買い手も存在するような平常な状態であれば、価格は基本的にはランダム・ウォークする。この状態であればサイコロの出番だ。価格モデル通りの現実が見えてくる。よって、リスク管理は効果を発揮する。保有している資産なり事業が潜在的に持っているリスクと、それらが生み出すリターンを比較し、自己資本を勘案しながら、どこまでリスクヘッジをすべきか決定する。サイコロ相場が続く限り、リスクヘッジも有効であるはずだ。すべて計算通りにつつがなく物事は運ぶ。
しかし、いったんタガが外れると、ランダム・ウォークとはいかない。それこそ市場関係者全員が音を上げるまで価格が一直線に下落し続ける、一方通行(One way)相場になってしまうのだ。こうなったらもう観念するしかない。暴落は中途半端なところで止まらない。
55
ユーモア革命
阿刀田高(作家)
文藝春秋
2009/03/07
ユーモア、エスプリ、ジョーク、ダジャレの違いを読んでみたかった。
作者がいうウイットとエスプリは同じなのだろう。
そして、ウイットには、理性や批評精神があり、ほとんどの場合、皮肉がきつくなる。
ソフィスティケーションの訳が、「詭弁」、あるいは「都会風に洗練されていること」になるのも面白い。
P150
このエッセイは、笑いに関わる私たちのメンタリティをユーモア、ウイット、ジョーク能力に分けるところから出発した。
区分は恣意的であり、明確さを欠いている。
が、あえて言えば、ユーモアは心の作用であり、人間を、人生を、この世の中を広く、やさしく、おおらかに捉えることと関わっている。
やわらかい脳味噌を培い、水平思考やセレンディピティとも手を結んで、生きる英知を与えてくれるものだ。
ヒューマニズムとも関わりが深い。
ウイットは、むしろ理性の賜物で、意図的に人間、人生、社会を普通とはちがった視点からながめ、微笑を生み、批評精神を持ち合わせている。
これは諷刺文学を生む基盤ともなっている。
ジョーク能力は、はっきりと笑いを作り、笑いを楽しむことに直結している。
なんらかの仕掛けがあり、大きな笑いを生む。
P151
私たち日本人は多彩な言葉遊びを持っているが、俳譜・川柳のたぐいを考えればすぐさまユーモアやウイットとの深い関わりが思い浮かぶし、日常の言葉じゃれは、はっきりと周囲の笑いを狙っている点を見れば、これはジョーク能力のほうにより深く関わっている。
P153
もちろんセンスのよいものと、ひどいものと、品質に差があるのは自明だが、それとはべつに言葉じゃれは日本語の特質と深く関わっている。
日本語に多く外国語には少ない、と一応は断言できる。
それは日本語が音素の少ない言語であり、それだけに同音異義語が多く、類似の発音が多くなる、いきおい言葉じゃれや語呂合わせが生じやすいのだ。
P178
ウイットと批評精神の関わりについて大がかりな引用を一つ示そう。
ウイットの発露となると、ほとんどの場合皮肉がきつくなる。
手の混んだソフィスティケーションもある。
54
記憶力を強くする ☆☆★
池谷裕二(神経薬理学講師)
講談社
2009/03/07
この著者は天才です。
天才であるにもかかわらず、一般素人に読める文章を書く。
気になる箇所を引用しましたが、真面目に引用すると、全文になってしまいます。
脳には1000億のニューロンがあり、一つのニューロンには1万の触手(シナプス)がある。
つまり、私の頭の中には、1000億の人達が住んでいて、1万人の隣人と会話をすることができるのです。
隣人との間に成立する会話は1000兆個です。
ニューロンとシナプス
脳の免疫系を担うミクログリア
しかし、そのような多数の会話が可能だとしても、ただ、それだけのことで、なぜ、人間の思想と記憶回路が造り出せるのか、そちらの方が不思議な現象でした。
さて人間は、どのように思考し、どのように記憶をストックするのか。
それが気になって、この書を読み始めました。
なるほど、海馬のシナプスが持っているグルタミン酸とAMPA受容体なのか。
なるほど、海馬でのLTP(長期増強 long-term potentiation )なのか。
LTPとLTD
ここまでがミクロの議論で、マクロの議論は次の通り。
ミクロとマクロの両面から脳科学は研究されているそうです。
必要なのは好奇心と探求心をもって物事を眺めること。
面白いという情動は扁桃体に働きかけて海馬のLTPを促進する。
興味があることが覚えやすいのは、海馬がθリズムで活動を始めるから。
海馬に対する刺激は、海馬の中の歯状回の顆粒細胞を増加させる。
顆粒細胞の増加は記憶力を増強する。
強く記憶するためには感動していることが必要。
楽しいという情動があれば、脳は自然にそれを覚えてくれる。
年齢による記憶力の減退という現象は存在しない。
年齢とともに、1つのことに熱中する感動が薄くなってしまうことが問題。
必要なのは、常に環境の刺激に敏感になり、海馬にθリズムを作るだけの緊張感を保つこと。
記憶、あるいは思考のメカニズムも、生物の適者生存の結果なのです。
環境の刺激に対する敏感さを失うということは、生存の必要性を、社会も、また、自分自身も認めたということ。
脳のために必要なのは、少年の好奇心なのですね。
P5
脳の複雑なはたらきは、脳に含まれている約1000億個の「神経細胞(ニューロン)」によって営まれています。
P6
回路に含まれる神経細胞どうしの接点を「シナプス」とよびますが、このシナプスの総数は人の脳では1000兆個にも及ぶといわれています。
平均すれば、ひとつの神経細胞が1万個の神経細胞と神経回路を作っている計算になります。
人間社会も人と人との相互のつながりで成立してはいますが、それでも毎日1万人もの人と互いに連絡を取りあっている人はいないでしょう。
しかも、個々の神経細胞は、1分間に数100から数万回も連絡をやりとりしているというから驚きです。
「世界は広し」とはよく聞く言葉ですが、「脳の中はさらに広し」であると実感させられます。
脳はまさに「小宇宙」とよぶにふさわしい稠密空間なのです。
P53
ここでふたたび進化論の話です。
じつは、動物の種類によって、海馬の歯状回、CA3野、CA1野という三つの部位の大きさの比率が異なることがわかっています。
進化論的に下等な動物ほど「歯状回」がよく発達しています。
反対に、進化論的に高等な動物になるにしたがってCA1野が発達してきます。
人ではCA1野の割合がかなり高くなります。
実際、神経細胞が鍛えられて数が増えるという現象は、歯状回に特有のものです。
海馬の中で増殖する能力をもっている神経細胞は歯状回の顆粒細胞だけです。
顆粒細胞が増えると記憶力が増強するというわけです。
歯状回は海馬への信号の入り口ですから、入り口の神経細胞が多いほど記憶力がよくなるということです。
要するに、海馬に入ることのできる情報の容量は「記憶力」と深い関係があるのです。
P68
1.短期記憶 30秒〜数分以内に消える記憶、7個ほどの小容量
2.長期記憶
1.エピソード記憶 個人の思い出
2.意味記憶 知識
3.手続き記憶 体で覚えるものごとの手順(How to)
4.プライミング記憶 勘違いのもと?サブリミナル効果
┌─────────┐
│ エピソード記憶 │ 個人の思い出
│ 顕在記憶 │ 経験した思い出、語った思い出
├─────────┤
│ 短期記憶 │ 30秒〜数分以内に消える記憶
│ 顕在記憶 │ 7個ほどの小容量
├─────────┤
│ 意味記憶 │ 知識
│ 潜在記憶 │ 米国の第1代大統領の名前
├─────────┤
│ プライミング記憶 │ 勘違いのもと?
│ 潜在記憶 │ サブリミナル効果
├─────────┤
│ 手続き記憶 │ 体で覚えるものごとの手順(How to)
│ 潜在記憶 │ 歩く、走る、自転車に乗る
└─────────┘
P73
また、この階層は人間の成長過程にもあてはまります。
子供から大人になるにつれて、もっとも早く発達するのが手続き記憶、つぎがプライミング記憶、意味記憶、短期記憶、いちばん遅れて発達するのがエピソード記憶です。
生まれてから3、4歳のころまでの記憶がないという現象は、皆さんも自分自身の体験として気づいていることと思います。
これは「幼児期健忘」という現象で、エピソード記憶の発達が遅れていることが原因です。
実際に、10歳くらいまでは意味記憶がよく発達していて、その歳をすぎるとエピソード記憶が優勢になってきます。
P81
θ波も脳波の一種なのですが、α波ほどは一般に知られていないようです。
θ波は主に海馬から発せられる脳波で、1秒間に5回くらいの周波数(5ヘルツ)で規則正しくリズムを打っ特徴をもっています。
この周波数のことを「θリズム」といいます。
反対に、飽きたりマンネリ化したりなど気持ちが散漫になってしまっては、θ波は発生しません。
興味をもってものごとを見つめ考えるときにのみθ波が出るのです。
つまらない勉強のことよりも、興味あるもののほうがよく覚えられることは、私たちもしばしば経験します。
これは海馬がθリズムでどれだけ活動したかが関与しています。
ですから、記憶力を高めたければ、覚えたいものに興味をもってθ派を発生させ、海馬をより強く活動させるよう心がければよいのです。
P119
複雑な生命現象の詳細が科学の力で解明されつつある現在、あらためて考えてみますと、神経活動のミクロな仕組みはすべて物理化学の法則にしたがう機械であることがわかります。
活動電位を伝えるナトリウムチャネル、それに応じて神経伝達物質を放出するシナプス小胞、神経伝達物質を感知して開閉する受容体チャネル。
驚嘆すべき巧妙さをもってはいるけれども、わかってみれば単純な機械にほかなりません。
P120
そして、ここで紹介した、動物の生命現象の枢要であるシナプスもまた、物理化学的な機械にほかなりません。
考えたり、笑ったり、悩んだり、こうした複雑な人の行動も、結局は脳に備わった精巧な機械が行っているのです。
皆さんが、いまこの本を読んで何を感じているかは人それぞれでしょうが、こうして本を読む行為や、それによって感じたり考えたりすることさえも、結局は脳の中の「化学反応」です。
こうしたミクロな化学反応が、多彩にそして複雑に絡みあい、驚くべき「多様性」を作りあげているのです。
私は何も精神に対する物質の根源性を主張する唯物論の絶対的な支持者ではありませんが、それでもなお、生命という不可思議な現象を研究すればするほど、見えてくる答えは、生物とは物理化学の法則に素直にしたがう構造物であるという事実なのです。
ひとつのことを発見すればその分だけ、生命に対する自分の世界観が変わります。
そしてまた、これが研究の楽しいところでもあるのです。
P164
複雑な図やグラフを使って説明しましたから、少し頭が混乱してしまったかもしれません。
ここでもう1度まとめてみましょう。
簡単にいってしまえば、LTPとはシナプスが記憶するという現象です。
具体的には、強い刺激がくると、それまであまり活動していなかったシナプスが突然活発になるということです。
そして、活発になったシナプスは、その後もずっとその活発な状態を維持します。
P191
歳をとると、しばしばものごとに対する情熱が薄れてきます。
ひとつのことに熱中できなくなります。
感動もうすくなってきます。
すると、記憶力はてきめんに低下します。
じつは、歳をとって記憶力が落ちたように錯覚してしまう最大の原因はここにあるのです。
感動できない大人になっているのです。
生きることに慣れてしまっているのです。
それではいけません。
常に環境の刺激に対して敏感になり、海馬にθリズムを作るだけの緊張感を保ち続けなければ記憶力は増強しません。
P192
逆に、使わないと脳の機能は低下する一方になります。
たとえば、休日に何もしないでゴロゴロと家で寝て過ごすような人は、本人は脳を休めているつもりなのかもしれませんが、それはみずから甘んじて記憶力を低下させているにすぎません。
もちろん、1度低下してしまった脳機能をもとに戻すのは並大抵の努力では無理です。
ですから、普段から刺激と興奮をもとめるような生活を心がけなければいけません。
P193
好奇心と探究心をもってものごとを眺めることの効果は、θリズムの発生や顆粒細胞の増殖だけではなく、海馬以外のもっと広いところまでに効果が及んでいます。
「おもしろい」とか「楽しい」という気持ちは「情動」ですから、扁桃体がはたらいているのです。
第5章で説明したように、扁桃体は海馬のLTPを促進します。
普段では覚えられないようなことでも記憶できるように助けるのが扁桃体の役割です。
興味をもってことに臨めば、ものごとをすんなりと覚えられるようになります。
つまり、自分が感動していれば、脳は自然とそれを覚えてくれるのです。
もちろん、それは学校の勉強でも同じことです。
勉強を楽しみなさいといわれても難しいことかもしれませんが、それでも、こうした記憶の性質を利用しないのは損だと思います。
たとえば、「1582年、織田信長は本能寺で明智光秀に襲われて自刃した」という教科書的な知識も、ただそれを丸暗記するのではなく、明智光秀に奇襲されて無念そうな織田信長の様子を実際に頭に思い浮かべ、さらに彼の死を、自分の身内が死んだかのように悲しく思えば、脳はこの知識を自然に記憶しようとします。
わざわざ、こんなことに感傷的になるなんてバカらしい気もしますが、しかし、私たちの記憶とは事実そうしたものなのです。
作家のサン・シモンは晩年こう語りました。
「感動する心を失ってはいけない。
感動する心を失ったら何事もなされない」と。
進化の過程で何1000万年もかけて自然淘汰されてきた記憶のこの性質を利用することは、生物学的にも理に適ったもので、脳への負担も少ない方法なのです。
もちろん、不安や恐怖などの感情もまた扁桃体で作られます。
たとえば、テストが近づくと、根をつめて、普段ではとても覚えられないような量の知識を一気に詰め込むことができる人がいます。
火事場のバカ力のようなものです。
これも、テストに対する不安感や危機感が、記憶力を一時的に増強させているのです。
しかし、テスト直前の詰め込みには多くの難点があります。
たとえばストレスです。
ストレスがかかるとLTPは大きく減弱します。
記憶力はストレスに弱いのです。
ですから、あまりにもせっぱつまったテスト勉強は逆効果となります。
もちろん、「テストが近づいてきた、どうしよう」とストレスをためるだけで、勉強すらしないのは最悪のケースです。
ストレスのない余裕をもったスケジュールでテストの準備をすることが大切なのです。
ただし、余裕のあるスケジュールを立てたのはよいが、緊張感が持続せず志気が沈滞してしまっても同じように記憶にとっては好ましくありません。
マンネリ化せず、適度な緊張感を保ちながら勉学に励むことが、効率よく学習できるコツなのです。
P195
実際に、私たちはストレスを学習することができます。
ただ、ストレスに関しては、皆さんは「学習」というより、むしろ「慣れる」という言葉を使っているかもしれません。
P198
ですから、ものごとの奥にひそむ真理を発見することが、学習にとって重要なのです。
法則性を見抜くこと、そして、法則性を見つけ出す能力が必要なわけです。
教科書の知識も理解なくしては記憶できません。
また、理解していなければ、仮に覚えたとしてもまったく役に立ちません。
理解するということは、自分なりに消化するということです。
知識が消化されれば、その知識を使って、またさらに多くのことを理解することができます。
そして、数多くの事象がつぎつぎと神経回路の中でつながっていきます。
すると、ますますものごとがおもしろく感じられるようになり、さらに興味が深まってきて、記憶力が増強します。
P211
マックノートンは、ネズミの場所ニューロンを記録していて興味深い事実に気づきました。それは、起きている間に活動した場所ニューロンは、その後、レム睡眠のときにふたたび活動を始めるということです。つまり、ネズミは眠りながら、つい先ほど起きていたときに訪れた場所を思い出しているのです。これはまさに「夢」です。ネズミが夢を見るということも驚きですが、それ以上に驚くべき事実は、夢が昼間あったことを思いおこすという行為であったという点です。最近経験したことを夢の中で再生しているのです。そして、夢を使って過去の記憶を反芻し整理しているのです。
P214
学習の手順をきちんと踏めば、より早く覚えられるという脳の性質も重要です。ネズミのオペラント条件づけでは、餌とレバーとブザーという三つの要因を一気に覚えるよりも、この三つの関係を分離して記憶したほうが早く学習できました。一見、遠回りに感じるかもしれませんが、しっかりと学習手順を踏んだほうが失敗の数も少なくてすみます。ですから、いきなり高度なことに手を出すよりも、基礎を身につけてから少しずつ難易度を上げていったほうが、結果的には早く習得できるのです。
P221
ここまで到達できれば、成績を2048に伸ばすことも、あと少しの努力で可能です。これが勉強の相乗効果の実体なのです。そして、2048に到達した人は、さんざん努力してようやく64にまでたどり着いた人から見れば、まさに大天才のように見えるのです。
勉強の効果に関して、もうひとつ言えることがあります。それは、天才と凡人の能力の差は確かに大きいけれども、天才どうしの能力の差はさらに大きいということです。成績が1024と2048の両者はともに天才であるけれども、この二人の差は1024ですから、成績値としては恐ろしいほどの差になります。もちろん、1024という差は、成績が64の凡人には、もはや推しはかることのできないほどの差です。
P260
そして、海馬と疾患のきわめつけは「虚血」です。脳に血液が循環しなくなると、脳が死んでしまうことはよく知られていますが、これは「脳」が死んでしまうというよりも、厳密には「海馬の神経細胞」が死んでしまうといったほうが正確です。数分でも脳の血流が止まってしまうと、毎馬の神経細胞はいともたやすく死んでしまうのです。海馬以外の神経細胞はその程度の傷害では死にません。海馬の神経細胞は傷つきやすく脆弱なのです。
日経サイエンス2009年6月号
鍛えるほど頭はよくなる 新生ニューロンを生かすには
T. J. ショア(ラトガーズ大学)
10年ほど前,記憶や学習をつかさどる海馬では日常的に神経細胞が新生しているという驚くべきデータが報告された。
ところが困ったことに新生ニューロンの多くは生き残ることなく,わずか数週間で消えてしまう。
どうすれば新生細胞を救うことができるのか。
その答えが「学習」だ。
学習という負荷を与えることで,新生ニューロンは既存の神経回路に組み込まれ,ネットワークの一員として生き残る。
また問題に集中し,より難易度が高い問題に取り組むほど,生き残るニューロンの数は多くなる。
さらに,新生細胞の誕生後,1週間後から2週間後に行われた学習が,新生細胞の生き残り率を最も高めることもわかっている。
53
記憶と情動の脳科学
ジェームズ・L・マゥガウ(脳科学者)
講談社
2009/03/05
なぜ、人間は事象を記憶することができるのか。
記憶には、感覚記憶、短期記憶、長期記憶があるそうです。
海馬を取り除いた患者は短期記憶の能力を失う。
そして、長期記憶の定着について有益なのがストーリーの存在。
感情を強く刺激するストーリーは記憶の定着を確実にする。
本書の帯にある「ショッキングな記憶を忘れないのはなぜか?」が示すとおり。
つまりは、法律要件を記憶しようとしたら、ただ記憶するのではなく、その理解を、感情を強く刺激するところまで高める。
好きだ、嫌いだ、あるいは素晴らしいという感激にまで高める必要があるのです。
そうすれば、苦労せず、要件が記憶できる。
感情を強く刺激するストーリーは、好き、嫌い、あるいは素晴らしいという感激ですから。
そして、良く出来た法律には、良く出来た理論があり、その制度の導入についての良く出来た価値観が存在します。
それが読み取れれば、その法律が好きになります。
そして自分の価値観として、その法律の要件を記憶することができます。
不出来な法律には、不出来な理論があり、その制度の導入について勘違いした価値観が存在します。
事業承継円滑化法などは、不出来な法律の筆頭ですが、それが理解できれば、怒りの感情が、また、要件を記憶させてくれます。
しかし、怒りの感情よりも、喜び、感激の感情の方が記憶の定着力は高いでしょう。
個々の要件も、感激の感情なら喜びとして記憶できます。
だから、法律は、良くできたものであって欲しいと願うところです。
P185
しかしながら、ストーリーに違いがあった部分のスライドの内容の記憶は両グループ間で差がありました。
情動をかきたてるストーリーを聞いた被験者は、その部分のスライドの詳細をよりよく覚えていました。
当たりさわりのないストーリーを聞いたグループの被験者では、その部分のスライドの記憶は前後のスライドと比べてもよくありませんでした。
P186
この事実は、フラッシュ光記憶の研究や、情動をかきたてる単語を記憶させた研究の結果と一致しています。
強固な記憶を作る一つの方法は情動をかきたてることであると結論づけることができます。
P187
ここで重要なことは、これまでに述べた多くの研究で見てきたのと同様に、情動をかきたてるとよく記憶されるということです。
一体それはどういうメカニズムによるのでしょうか。
P218
これらの脳画像研究の結果から、扁桃体の活動が少し上がりさえすれば、その活動を引き起こした事象の長期記憶を作るのに十分であること、そして扁桃体の活動が高いほど記憶が増強されるということがわかります。
これらの事実は、記憶の固定化を調節する扁桃体の役割についての動物実験から得られた多くの知見と合致しています。
P219
この研究では、記憶テスト以外に、MRIを使って被験者の扁桃体や海馬の体積も調べました。
すると、扁桃体の体積(左右の平均)が小さい患者ほど、地震の時点での記憶が低下していました。
興味深いことに、海馬の体積とは相関がありませんでした。
これらの事実は扁桃体が情動的な瞬間を記憶するのに深く関わっていることの強力な証拠になっています。
52
徹底抗戦 ★
堀江貴文(元ライブドア社長)
集英社
2009/03/05
ライブドアの元社長が事件の経過を語っています。
読んでみると、良い人なのが分かります。
というより、誰でも、皆さん、良い人なんです。
ただ、大物、小物を問わず、イメージが作られ、本人もイメージ通りの行動するようになってしまう。
堀江氏は、裁判所で、検察官などに向かって言いたい放題でした。
あんな事をしていたら実刑になってしまうと予想していました。
なぜ、あんな行動を取ったのか、弁護士は、なぜ、被告人の言動を押さえなかったのか。
なるほど、無罪と信じていた。
皆さん、ノー天気だったのだ。
P115
経営者として株主に対する説明責任もある。
「違法行為とわかっていてやりました」などとはとても言えない。
それは、全く事実に反するからだ。
100歩譲って「違法行為をやるつもりはなかったが、結果として違法行為と思われても仕方のないことをしてしまいました」となら言えるかもしれない。
だが、それでは結局、検察の求める“罪を認めた”ことにはならないのだ。
まさに、オールオアナッシング。
日本に司法取引制度があったなら、どんなに良かったことだろう。
P124
結局、公衆電話からかけたんだけど、今度は弁護士が出ない……。
二度目の電話でやっと出てくれた!後で聞いたら、公衆電話からの着信だったから、不審に思い、出なかったとのことだった。
P149
2007年3月16日、法廷に立つ高井弁護士は余裕の表情だった。
検察側証人の証言は、かなり切り崩せた。
「疑わしきは無罪」の大原則を裁判所が守ってくれるのならば、無罪判決をとれるという自信があった、仮に無罪判決がとれなかったとしても、執行猶予は間違いなくつく、とも思っていた。
それが、まさかの実刑判決(懲役2年6ヶ月)。
P150
判決の後、再び私は検察庁に護送され、検察庁の事務室内にある“仮監獄”につながれた。
しばらくして弁護団がやってきた。
当の私よりショックを受けている様だった。
私が励ますのもどうかと思ったが、「まあ、とにかく落ち着きましょう」と話した。
P211
この本を書いたところで、何も解決するわけではない。
それは本人が一番わかっている。
ただ、少しでも多くの皆さんに、事件の真相を知ってもらいたかった。
真実はひとつである。
しかし、曖昧なことも多い。
解釈次第で世の中どのようにでも変化する。
私の身の回りで起きたこの不幸な出来事から、少しでも教訓として学び取ってもらえることがあれば幸いである。
51
「ここ一番」に強くなれ! ★
三田紀房(ドラゴン桜の作者)
大和書房
2009/03/05
勉強をして、本番に挑む。
それは受験時代のスタイであり、社会に出たら、日々、本番。
では、日々本番の社会では、どのようなスタイルをもって本番に挑戦すべきか。
日々の学習と準備を超える成果はあり得ないと、本番に挑むスタイルを説明しています。
しかし、この作者は、どういうアタマの回路になっているのだろう。
どういう経験で、このような発想を手に入れるのだろう。
実務に関係せず、自問自答だけで手に入る発想だとは思えない。
しかし、弁護士業、あるいは税理士業をしているわけではないはずだ。
【1】一つの付き合いに80%頼るのは間違いだ。
【2】脳味噌の20%しか使っていないという理解は間違いだ。
と指摘しています。
【1】は、私も、連鎖倒産をする会社をみて、経営者に語っているところです。
その80%が無くなったら倒産と。
私達の仕事も、1社に頼る経営は危険と。
しかし、営業マンも、私達も、その80%を最大顧客としてエネルギーを注ぐ。
【2】は、私は、考えたことがなかった視点だ。
作者は、もし、20%しか使っていないのなら、80%は退化してしまったはずだと指摘しています。
重い脳味噌を首の上に載せておく必要はないと。
なぜ、80%の脳味噌部分は退化しなかったのだろう。
P21
会社の帰りに英会話スクールに通う。
週末に起業家セミナーに参加する。
毎朝一時間早く起きて、勉強時間に充てる。
通勤電車の中で、ラジオ講座を聴く。
そうやって効率的に勉強していけば、いつか成功できる。
まったく、アホとしか言いようのない考えだ。
まず第一に、激務の中プライベートを犠牲にしてでもこれらの勉強が続けられる人間なら、とっくの昔に成功している。
P49
要するに、効率化の本願は「選択」ではなく「集中」にあるのだ。
そしてやる気や集中力のないバカがいくら効率化を図ったところで、それはサボる時間を増やすだけにしかつながらない。
だからいくら仕事術や勉強法の本を買い漁っても結果がついてこない。
効率化なんてのは、仕事が好きで好きでたまらないビジネスエリートが、もっと仕事を極めるための方策なのである。
P50
仮にスポーツ選手が100時間にわたって猛練習したとしよう。
それでいざ試合となったとき、この100時間分の労力はどれだけ報われるか?
ほとんど報われない。
試合で流すことのできる汗は、練習で流してきた汗の数10分の1、いや数百分の1にも満たない。
つまり、真剣勝負の場において10の労力がそのまま10の結果を生むなんてことは、原則としてありえないのである。
ところが、効率バカは「10の労力を注げば、10の結果を得られるのが当たり前」だと思っている。
だからこそ「もっと効率よくやれば、1の労力で10の成果を得られる」だなんて博打打ちのような話を真に受けてしまうのだ。
P53
シドニーオリンピックとアテネオリンピックで合計5つの金メダルを獲得したオーストラリアの競泳選手、イアン・ソープは記者たちから「天才」と呼ばれることを極度に嫌っていたという。
そして彼は「もしも自分が天才なのだとしたら、それは『努力の天才』なんだ」と語っている。
おそらく、ここでの「努力の天才」は「練習の天才」と言い換えても構わないだろう。
P171
ほんとうに提案したいことがあり、それを出席者全員に説明しようという気があるのなら、企画書なんてA4を1枚、多くても2枚にまとまる。
そして10分もあれば説明できる。
その分量でないと出席者は概要を理解してくれないし、頭にも残らないのだ。
難しいことを、難しい言葉を使って、回りくどく説明するのは誰にでもできる。
しかし、コミュニケーションの本質は「難しいことを、簡単な言葉で、端的に説明すること」なのだ。
50
ジョーク・ユーモア・エスプリ大辞典
野内良三(関西外語大学教授)
国書刊行会
2009/03/03
日本のジョークは単なる言葉遊びの場合が多い。
要するにダジャレだ。
教養や知性は必要としない。
しかし、米国のジョーク、イギリスのユーモア、フランスのエスプリには知性がある。
では、どのような知性で、どのような違いがあるのか。
そのことがずーと気になっていた。
なるほど、自分を笑うユーモアと、相手を笑うエスプリがあるのか。
イギリスのチャールズ皇太子がスピーチで、「世界一古い職業についている私は」と挨拶したそうですが、これは自分を笑うユーモア。
クリントンとガソリンスタンドの店員の話はエスプリ。
でも、米国はユーモアとエスプリを取り込んで、ジョークにしたのだろう。
クリントン大統領夫妻が、アーカンソーの田舎町をドライブしていた。
あるガソリンスタンドに立ち寄ったところ、そこで働いていたのはヒラリーの昔のボーイフレンドだった。
クリントン大統領が言った。
「ヒラリー、僕と結婚してよかったね。
もし彼と結婚していれば、今頃君は、田舎のガソリンスタンドの女房だ」
ヒラリーは答えた。
「もし私が彼と結婚していたら、彼がアメリカ合衆国の大統領になっていたはずよ」
P8
この四つの言葉がある種の「おかしみ」に関わっていることは確かである。
ただ、その関わり方に違いが見られる。
まず一番はっきりしていると思われるのがユーモアとエスプリの違いだろうか。
世間ではよくイギリスはユーモアの国、フランスはエスプリの国だというが、ユーモアとエスプリにはよく知られた定義がある。
それによれば「わたしは愚図だ」というのがユーモアで、「きみは愚図だ」というのがエスプリだという。
なるほど少々単純化の嫌いはあるけれども、確かに両者の違いをうまく説明している。
P9
エスプリは才気煥発な言葉のやりとりで、知性が強く求められる(ちなみにエスプリは「精神」「知性」を意味するフランス語)。
それに対してユーモアは必ずしも言語表現を必要としない。
顔の表情、仕草、身振り、服装などでも表現できる。
その人がいるだけでおかしいというのもユーモアである。
かぶっているへんてこな帽子がおかしいというのもユーモアである。
ユーモアには知性よりはむしろセンスが求められる。
エスプリは訓練すれば磨くことができるかもしれないが、ユーモアはそうはいかないようだ。
持って生まれたものに大きく左右される(ちなみにユーモアの語源は「体液」を意味する)。
P10
ここまで述べたことをまとめれば、ユーモアは心(センス)の問題であり、エスプリは知性の問題であるということになる。
ではジョークはどうだろうか。
ジョークはユーモアとエスプリよりはずっと広い概念である。
ジョークはセンスとか知性に関わるというよりはこの二つの活動を集約する能力、あるいは表現能力だ。
もっといえば大向こうを意識した「受け狙い」である。
49
セブン・イレブンの真実 鈴木敏文の帝国の闇
角田祐育(フリーの記者)
日新報道
2009/03/03
ロスチャージについて批判してますが、正しい批判なのだろうか。
そこで、最高裁判決を読んでみました。
要するに、
60円の商品を2つ仕入れ、1つを100円で売るところ、1つは賞味期限切れで破棄した。
そのような事例を想定すると、計算は次のようになります。
売上 100円
原価 60円
売上総利益 40円 …… 50%を乗じて20円がセブンの利益
これが次の書式になっているので、二重課金と誤解されてしまう。
売上 100円
原価 120円
売上総利益 ▲20円
賞味期限切れ分 60円
純売上総利益 40円 …… 50%を乗じて20円がセブンの利益
料率が正当か否かはともかく、理屈としては正しい処理なのだと思う。
通常の問屋の納品なら、60円で納品せず、20円の利益をONして、80円で納品するはず。
そしたら、1つの商品について20円、2つの商品で40円のONになる。
それと比較したら、セブンの商法は、賞味期限切れ分については原価での納品として処理し、売れた商品についてのみ20円をONする処理であって、理論的には正しい処理なのだと思う。
その他、多様な視点からセブン・イレブンの経営を批判している書ですが、私には、どちらが正しいのかは判断できません。
【1】高裁判決(店主側の勝訴)
原審は,本件条項所定の「売上商品原価」の文言は,企業会計原則にいう売上原価と同義のものと解するのが合理的であり,また,契約の条項において,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を売上原価に含めない被告方式によることが明記されていない以上,「売上商品原価」は,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を含む「売上原価」を意味するものと解するのが相当であって,
【2】最高裁判決(セブン側の勝訴)
「売上商品原価」という本件条項の文言は,実際に売り上げた商品の原価を意味するものと解される余地が十分にあり,企業会計上一般に言われている売上原価を意味するものと即断することはできないこと
本件契約が締結される前に,原告に対し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価をそれぞれ営業費として会計処理すべきこと,それらは加盟店経営者の負担であることを説明していたというのであり,上記定めや上記説明は,本件契約に基づくチャージの算定方式が被告方式によるものであるということと整合すること
48
納棺夫日記
青木新門
文春文庫
2009/03/02
アカデミー賞を受賞した「おくりびと」の原作です。
コメントは不要でしょう。
「おくりびと」が、主演の本木雅弘氏が温めていた企画だというのも驚きです。
P30
倒産とは、厳しいものである。
蜘蛛の子が散るように、去ってゆく。
その上、あいつは死体を拭く仕事をしているらしいと聞けば、疎遠になるのも無理もなかった。
P31
社会通念を変えたければ、自分の心を変えればいいのだ。
心が変われば、行動が変わる。
服装を整え、礼儀礼節にも心がけ、自信をもって堂々と真摯な態度で納棺をするように努めた。
納棺夫に徹したのである。
すると途端に周囲の見方が変わってきた。
P73
しかし、毎日死者の安らかな顔を見ているうちに、成仏に善人も悪人もないのではなかろうかと思うようになった。
『歎異抄』の解説書などには、善人には自力の計らいがあり、悪人にはそうした計らいがないから云々とか、いろいろな解説がなされているが、そんな理屈など関係なく死者の顔は安らかな顔をしている。
P82
こうした葬送儀礼様式や風習が生まれる原因も、元はといえば「我々はどこから来て、我々は何で、我々はどこへ行くのか」があいまいであることから来ているのである。
P87
この仕事を続けていると、玄関へ入った瞬間悲しみの度合いが分かるようになる。
家の奥へ入らない先に、この家の大事な人が急逝して、深い悲しみの状態にあることが伝わってくる。
極度の緊張が家中に張り詰めているのである。
今日の家も、そうであった。
P136
アメリカの精神科医キューブラー・ロス女史が、多くの臨床の経験から「末期患者が最も安心するのは、何らかの方法で死を克服した人が患者の側にいることである」と言っている。
P159
そんな病床にあって「悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であつた」と子規に言わせたのである。
我々はある日突然「あなたは癌の末期です」と宣告されて(平気で生きている)ことができるだろうか。
47
奇跡の脳
ジル・ボルト・テイラー(脳解剖学者)
新潮社
2009/03/02
好奇心の強い一人の脳解剖学者が、ある日突然、脳卒中で、たった4時間のうちに自分の脳の情報処理能力が完全に衰えていくのを見つめることになった。
その後、長い期間のリハビリを経て、脳機能が回復したからこそ、この書籍があるわけなのだが。
そして、回復しました。
ただ、回復過程よりも、脳卒中の発作で、脳機能が侵害されていくことを時間を追って語っている作者の記述はリアルです。
機能の侵害が分かっていたからこそ、電話で、救助を呼ぶことができた。
脳解剖学者でなければ、そのまま死亡していた事例と思えます。
私は、この頃、海馬の重要性に注目しています。
この本の巻末にある「脳についての解説」によれば、海馬より前に、扁桃体が感情センサーとして働き出すそうです。
恐怖、怒り、ストレスなどがあると、扁桃体が興奮し、海馬が機能しない。
そして、海馬の細胞が減少する。
「脳からの老若男女」にも同様の解説がありました。
海馬に成長して貰おうと思ったら、ストレスの無い生活をすることが必要です。
P9(脳についての解説)
アメリカの小学校から高校にまで普及している「脳に基づいた学習」という興味深いテクニックがありますが、このテクニックは、神経科学者たちが解明した辺縁系の機能を用いています。
この学習テクニックによって、わたしたちは学校の教室を、安全と親しみを感じる環境に変えようとします。
それは、扁桃体で脳の恐怖・激怒の反応が引き起こされないような環境をつくるため。
扁桃体の主な役目は、ほんの一瞬のうちに外部から入ってくるすべての刺激をスキャンして、安全のレベルを決定すること。
辺縁系の帯状回は脳が注目する焦点を絞る役割も持っています。
入ってくる刺激が安心だとわかると、扁桃体はおとなしくなり、隣りに位置する海馬が新しい情報を学んで記憶することができます。
ですが扁桃体は馴染みのない、あるいは脅威的な刺激にさらされると、不安のレベルを上げて、焦点を目の前で起きている情況に合わせていきます。
こうした情況下では、注意は海馬から逸れ、今この瞬間に必要な生き残りの行動に、焦点が絞られることになります。
感覚情報はわたしたちの感覚系を通って流入し、ただちに辺縁系によって処理されていきます。
ですが、外界からのメッセージが大脳皮質に届いて、高度な思考に入る前から「これは苦痛だろうか、それとも喜びかしら?」という具合に、その刺激をどうとらえるかを感じています。
みなさんの多くは、人間は考える生き物だけれど感じもするのだと考えているかもしれませんが、生物学的には、わたしたちは感じる生き物だけれど考えもするのです。
46
45分でわかる! 14歳からの世界金融危機
池上彰(NHKアナウンサー)
マガジンハウス
2009/03/01
45分で読める世界経済の解説書です。
サブプライムローンの証券化と、その破綻の理由。
信用が失われ、コール市場が麻痺した。
ファンドは資金確保の為に株式を売却し、そのために株価が暴落した。
株式市場から回収された資金は、行き場を失い、原油先物市場に流れ、さらに中東情勢についての政治的発言が石油問題に油を注いだ。
バイオ燃料の原料として穀物価格が暴騰した。
そこまでが金融危機の一幕で、次にリーマンが破綻したのが2幕目。
共和党は民間経営に口出しをしないのが基本で、リーマンの倒産に手をさしのべなかった。
本格的な信用収縮が始まり、商品市場からも資金が回収されて原油価額は下落した。
円借りの債務の返済のために円が買われ、円高が進んだ。
銀行は貸し渋りを開始し、自動車ローンなどが絞られたため、自動車販売が大打撃を受けた。
自動車産業を頂点とする全分野に販売不振が広がり、石油価格の下落で、中東のバブルもはじけた。
保有株に含み損が発生し、自己資本比率が減少してしまった都市銀行は融資を絞り始める。
地方銀行も資金不足で融資に対応できない。
世界では、時価主義会計を凍結するという議論まで始まる。
米国も、事実上のゼロ金利を採用した。
販売不振が企業の大幅な製造見直しになり、派遣行員のカットや、リストラの報道が続いた。
日本の経済成長率は、2008年にマイナス1.8%に落ち込み、2009年にはマイナス2%の落ち込むと予想されている。
これは戦後最悪の数字だ。
83P
投資をするときに一番気をつけなければいけないのは、自分が理解できないものに手を出してはいけないということです。
「もうかりますよ」という話が来たら、それは手を出してはいけないということです。
昔からよくいわれているように、一番の投資は自分に投資をすることです。
45
トヨタ・ショック ★
井上久男(ジャーナリスト)
伊藤博敏(ジャーナリスト)
講談社
2009/02/27
なぜ、連結決算の営業利益が6000億円の黒字から、1500億円の赤字になってしまったのか。
為替の影響や、サブプライムローンの崩壊による米国需要の減退と解説されています。
原価改善とコスト削減 1300億円
為替変動 ▲2000億円
販売の減少 ▲5700億円
金利スワップ評価損 ▲1100億円
―――――――――
差し引き ▲7500億円
しかし、一時的とは思えない業績の悪化ではないか。
そのように思って読み始めたのですが、原因は、トヨタの体質そのものなのですね。
いくつもの体質的な原因が紹介されていました。
日本の3倍以上の販売規模がある米国へのシフト。
米国向けの大型化、高価格の車両への販売の拡大。
米国向けの車種であるタンドラ専用工場の建築と、そのタンドラの販売不振。
ボトムアップだったトヨタの良さが変質し、トップダウンになってしまっていた。
タクシー仕様車を10年近くもフルモデルチェンジをしないなどのトヨタの驕り。
……
……
さらに、サブプライムローンをバブルとは認識せず、人為的に作られた円安為替についてもリスク対策を取らず、米国市場での製造と販売を拡大していったことについて、日本のバブル時の土地投資と似ており、経験が生かされていないと批判できそうです。
しかし、トヨタの減益の影響は大きい。
トヨタが納める法人税は9000億円で、日本の法人税の5%を占めていた。
本社のある豊田市では税収が9割減となる見込みで、愛知県は地方交付税の交付団体に転落する。
最盛期には1万人を超えていた期間従業員を3000人まで減らし、さらに削減する方向。
現在の米国には3種類のアメリカ人がいるそうです。
失業している者、これから失業しようとしている者、失業を恐れてカネを使わない者だそうです。
全米の失業率は7.2%。
過去16年間で最悪だそうです。
昨年1年間で失業した人の数は260万人で、1945年以降最悪の数字。
さらに、今年1年で200万人が失業する予定。
そのような米国に、日本の3倍以上の販売を頼っていたのがトヨタ。
そのトヨタに頼っていたのが豊田市であり、日本の法人税であり、日本のGNPであり、日本の雇用であり、下請企業であり、トヨタ城下町で商売をする飲食店であり、アパート経営者であり、輸出に係わる船会社であり、鉄鋼業界であり、自動車保険の業界であり、広告業界、広告を頼りに生きてきたマスコミであり。
日本は、立ち直れるのだろうか。
P17
翻って、そのビッグスリーを追いやった日本の自動車産業にも危機が迫っている。トヨタ自動車やホンダ、日産自動車など日本の自動車メーカーは、国内市場が縮小する中で収益源を北米市場に求めた。米国やカナダに大工場を建設し、日本では見たことがないような大型・高価格の北米市場専用モデルを開発してきた。
しかし、サブプライム問題を機に米国で金融危機が起こると、08年に入り、米国の自動車市場は急降下し始めた。日本市場の3倍以上もある年間1600万〜1700万台が売れていたのが、09年は1000万台に到達するかしないかの状況になっている。こうした中で、日本の自動車メーカーもほとんどが赤字に陥り、未曾有の苦戦を強いられ始めた。
P48
豊田副社長は「一人ひとりのお客様の積み上げが大切」が持論のひとつ。たとえば、これまでのトヨタは小型バスやタクシー市場では圧倒的な強さを誇っていたが、そこに胡坐をかき、「タクシー仕様車は10年近くもフルモデルチェンジしていない。こうした驕りを見直すのだろう」。
P88
さらに、根深い問題は若者の車離れだ。自工会が実施した「なぜクルマを買わないか?」というアンケートに、多くの若者が「経済制約を超えるほどの楽しさ、メリットを感じない」と答えている。
44
ひらめきの導火線
茂木健一郎(脳科学者)
PHP新書
2009/02/27
日本人には創造性がない。
日本人には個性がない。
これはフィクションであり、間違い。
そのように論じています。
P16
創造性は、経験と意欲が合わさって生まれる。
私たちが生きていく中で得た知識や経験は、脳の中の側頭葉に蓄積される。
それを、前頭葉で生まれる意欲や価値観が引き出してくれる。
経験は年齢を重ねるほどに増す。
だから歳をとった人のほうが創造力の引き出しはたくさんあるけれど、意欲は衰えてしまうことが多い。
一方、若い人は、意欲はあっても蓄積されている経験が少ない。
だからこそ、だれでも、いつでも、経験を増やし意欲を高めようと努めれば、創造性は鍛えられるといえる。
P41
オックスフォード大学教援の数学者ロジャー・ペンローズの仮説に「創造することと、思い出すことは似ている」というものがある。
たしかに、そもそもまったくなにもないところから新しいものが生まれるはずはない。
ピアノの練習をしたことのない人が、いきなり即興で曲を弾けるはずがない。
天才といわれる作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトも、幼いころから英才教育を受けてあらゆる音楽を聴いていたからこそ、独創的な曲をつくることができたのだ。
43
だから二世・三世経営者はダメなのだ ★
佐伯弘文(神鋼電機株式会社会長)
ワック株式会社
2009/02/25
神鋼電機株式会社の会長が、多くの代理店、あるいは中小企業経営者との交際から得た、中小企業経営者の観察の記録です。
2代目経営者について、辛口の観察記録を述べています。
創業者、2代目、3代目の能力、個性、置かれた立場、それを生かす方法と、ダメにしてしまう個性など。
そして、著者は、経営者には優れた価値観と深い世界観を持つことが必要であると、次のように論じています。
P115
ある有名な学者の話によれば、心理学的に分類すると人間の能力は120〜130程度の種類があるが、そのうち計測可能な能力は1/3程度しかないという。
P116
一方、残りの2/3の計測不可能な能力とは、他人への思いやり、親切心、誠実さ、感性、芸術的センス、バイタリティ、決断力、胆力、統率力、包容力、企画力、洞察力、分析力等いろいろあるが、それらは豊かな人間性や人間的魅力に属するものであり、リーダーの資質に要求されるものが多い。
この1/3の分野に優れている者が、残り全て2/3の分野にも同時に優れている、と自他ともに錯覚するところから世の中のいろいろな問題を生じているともいえる。
P120
決断するに当たり最後の拠り所となるのは、幅広い教養に裏打ちされた価値観や世界観である場合が増えてきている。そのため前にも述べた通り経営学や専門知識のみならず、哲学や歴史や文学や宗教など、いわゆるリベラルアーツ(一般教養)即ちあまり実学に直接関係のないものも学ぶ必要がある。
P124
読書の本質はその普遍性にあり、また、時間や空間を乗り越える唯一の手段なのである。また、昔から、インテリや指導者が、共通の本を読むことにより、ある価値観や倫理観を共有することができるといわれてきたが、
『国家の品格』の著者藤原正彦氏は人間とケダモノの違いは読書するかしないかにあるという。
P125
読書の目的は物知りになるためではなく、人間としての知恵を身につけることにある。
P176
この世に人間力の身のつけ方についてのマニュアル的、あるいは教科書的なものは何もなく、これほど難しい課題もないといえる。
P177
人間の原点や根源に関わる文学、歴史、宗教、哲学、美術、音楽等の幅広い教養を身につけることが何より肝要であろう。
42
脳からの老若男女
久保田競(医学博士)
関東図書
2009/02/24
仕事は、好き嫌いで選びなさい。
そうしないとバカになる。
人生における判断基準も好き嫌いに置きなさい。
自分の好き嫌いが、社会における正義、不正義と重なるように、自分の思考を
深めなさい。
正義を好きになり、不正義は嫌いになるはずですから。
これが一致すれば、ストレスのない生活をすることができる。
そうすれば、脳は成長する。
脳って、そのように出来ているようです。
P32
ニューロンとニューロンとがつながる部分を、シナプスといいます。
一つのニューロンには、10個から3万個ぐらいのシナプスがあります。
シナプスの数がたくさんあればあるほど、ニューロンどうしのつながりは強くなります。
新しいことを覚えるのは、シナプスが新しくできて、ニューロンどうしのつながりができるからです。
ニューロンとシナプス
P34
では、どうすれば、シナプスの数を増やし、ニューロンの結び付きを強くすることができるのでしょうか。
それには、ニューロンを働かせてシナプスを使うことです。
好奇心をもってものごとに取り組むことは、それを助けます。
好奇心が強いと、新しいことに出会う機会が多くなります。
また、興味をもってものごとに出会えば、しっかり覚えようとするため、脳が働き、シナプスの数が多くなります。
P99
ところがストレスが起こると、コルチゾールが分泌されて脳に入り、それが海馬に届けられ、海馬のニューロンにあるコルチゾールの受容体にくっついてシナプスを壊します。
そのため海馬は小さくなり、ニューロンのつながりが減って、シナプスが無くなっていきます。
つまり海馬は、異常なストレスを受けると働きが悪くなり記憶の障害が起こる、ということが報告されています。
41
思考停止社会 「遵守」に蝕まれる日本
郷原信郎(元検察官)
講談社現代新書
2009/02/22
裁判員制度の導入は、太平洋戦争に突き進んだ当時の日本の空気に似ていると
論じています。
私も、そのように思います。
裁判員制度は、今更、中止も出来ないし、廃止するには、それなりの事件が必
要でしょう。
反対し、批判することは、時間の無駄です。
しかし、これが間違いであることは否定しようがない真実だと思います。
導入の必要性について、誰が提言し、誰が賛成したのか。
そのような事象については、仮に、廃止できなくても、だからといって、それ
を受け入れるのではなく、間違いは間違いと認識し続けることが必要なのだと思
う。
それが自分にとっての正義の基準なのですから。
妥協し、正義の基準を動かしてしまったら、それはご都合主義でしかなく、他
の事象に付いても正義の基準が失われてしまう。
P88
それが何のためのものなのか、何を目指しているのか、ということもよくわからないまま、日本の刑事裁判の根幹を揺るがしかねない制度が導入されてしまいました。選挙人名簿から無作為に抽出された裁判員が刑事裁判に参加し、死刑を含む量刑の判断まで行うという「裁判員制度」です。
ここにも、「民主化」は、やった方がやらないよりよいという単純な発想、つまり「民主化」の「印籠」があります。本来、保守的で閉鎖的な司法関係者が、司法の世界に市民を招き入れようと、これだけ熱心にやっているのだから、それは、やらないよりやったほうがよいのだ、という単純な見方が、これまで制度導入の原動力となってきました。
P89
しかも、この制度の運用に当たることになる裁判所、検察の実務家の中で、本当にこの制度がうまくいくと思っている人間はほとんどいないのではないでしょうか。内心は、「誰か止めてくれ」と思っているはずです。
裁判員制度の導入によってどういう事態が生じるかもっともよく知っているはずの裁判所、法務・検察の組織に属する人たちは、職務の性格上まさに「法令遵守」の中心に位置する立場です。法律がすでに成立してしまっている以上、組織をあげて実施に向けての取り組みをしていかなければなりません。「この制度はダメだ」「実施すべきではない」などとは口が裂けても言えないのです。まさに「法令遵守」の考え方そのものが、裁判員制度の問題点の顕在化を阻んでいるのです。
P90
それは、かつての太平洋戦争開戦時の日本の状況に似ているように私には見えます。当時、客観状況がわかっている人で、日本が超大国アメリカと戦争をして勝てると考えている人間はほとんどいなかったでしょう。しかし、開戦前の日本では、それを口にするのははばかられました。そして、日本はアメリカとの戦争に突入。その後、戦局が悪化しても、大本営はそのことを国民にまったく知らせようとはせず、泥沼の敗戦に突き進んでいきました。
P96
こうした関係者の滑稽とも思える努力の成果か、制度の認知度は高まりましたが、裁判員裁判に積極的に参加したいと思っている国民は極めて少数です。
P108
この連続殺人事件に裁判員制度を当てはめてみると、そこに見えてくるのは、十分な証拠調べを行うこともなく、印象や感覚で死刑の適用を判断するという、「民衆裁判」のもっとも悪い面が表れる危険です。
40
エンゼルバンク5
三田紀房
講談社
2009/02/22
「成功の反対は失敗」ではなく、
「成功の反対は挑戦しないこと」。
成功の反対は失敗と考える人は、
失敗しないように小さな努力をコツコツと積み重ねる。
だから、小さな成功は経験するが、小さな成功は、小さなままで決して成功にはならない。
この漫画は奥が深い。
39
昭和のエートス
内田樹
バジリコ
2009/02/19
友人に、この書籍の引用部分を紹介してもらった。
私達の時代は、論争の時代だった。
今の人達は、こだわりのない時代。
だから、論争とは何なのかを、理屈で位置付けなければならない。
弁護士は、論争で生きてますが、これを他の人達に向ける場合は、論争というものについて冷静な視点が必要。
そんなことを教えて貰える引用部分だった。
こういう引用部分に注目する読者は優秀なのだと思う。
私なら、指摘されるまで、この部分の深い意味に気がつかずに、読み通り過ぎてしまう箇所のような気がする。
P.42
おそらく、今の子どもたちは「私はこれが好き」「私は聴いたことないな」でたぶん終わってしまっているのではないだろうか(学生たちの音楽についての会話を聞いていると、たしかにそういう感じがする)。だから「論争」にならない。「好き嫌い」は論争にならない。「良い悪い」を言い出してはじめて論争になる。論争になるから、言い負かされないように、あれこれ聞き比べ、それらについての批評的な文章も読み漁る。
P.43
だから「論争できる」とういことは、すでに論争当事者間で前段階的なコミュニケーションが成り立っているということを意味している。論争が「できる」ということは、論争の相手に対するある種の敬意の表現でもある。「君の論理は破綻している。なぜならば・・・」という言い方が可能であるということは、その「なぜならば」以下の私の論証に関して、君はその理路が理解できるはずだということが前提にある。私たちはたしかに対立しているけれども、対立の「構図」については、それがどのようなものであり、論争の「賭け金」が何であるかについては、当事者間に共通の了解が成り立っている。
38
なぜ会社は大きくすると潰れるのか
不破俊輔(建設設備会社社長)
明日香出版社
2009/02/18
北海道の建設会社の倒産に至る経過のドキュメントです。
幾つかの気になる文章がありましたので、引用しておきます。
P108
父の葬儀を社葬で執り行った。約3000万円香典があった。本来なら社葬なのだから、その香典は田中家個人に入れるはずのものなのだが、社員の手前、私はそうするのがイヤだった。そこで姉と私が入社以来何となく名義上の取締役をしていたので、この際きちんとしようとした。
つまりその金で姉と私の入社以来の取締役の清算をしてしまい、新たに「全取締役と一緒にきちんとした取締役規定の基にスタートとしよう」ということにしたのだ。
知識がないということはしょうがないもので、しかもかかりつけの税理士も何も疑問も挟まず、そんな処理をしてしまった。私としては家内工業的(インフォーマル)に決まった取締役と決別したかったのだ。それが悪かった。
姉の約40年の監査役、私の約30年の専務取締役の報酬、合わせて3000万円は否認されて、「贈与」となってしまった。今も代表取締役社長や監査役をしているのになぜここで一旦くぎりをつけなければならないのか、という論拠だ。会社のために役職をきちんとしようとしたことが逆にアダになった。
P109
中小企業の場合、こういうケースは決して少なくないという。税務の軽視は高くつくこと、そして、有能な税理士を顧問にしないと、払い損になるということを学んでほしい。
P135
その頃、建設業の社長たちが寄るとさわると決まって口にする言葉があった。
「息子を会社に入れるんでなかった」
37
弁護士を生きる
福岡県弁護士会編
民事法研究会
2009/02/17
他の弁護士が何をしているか、よく分かりません。
東京の隣の弁護士のことも、地方の弁護士のことも分かりません。
紹介されているほとんどの弁護士は、過去を語っている人達ですが、一部、現在を語っている弁護士がいました。
地方の若手弁護士が、自分の財布の中身を語っています。
債務整理業務がなくなってしまったら、どうするのだろう。
研修担当の弁護士が、受講者が集まる研修テーマについて語っています。
受講者を集められるテーマは、実務であり、各論であることが必要。
P190
3000万円を稼ぐのに今後どうやっていけばいいのか。将来的に、顧問先がたとえば10件だと月5万円で600万円です。債務整理が年間30件で単価30万円で900万円です。残りは1500万円ですが、普通の一般民事事件とか刑事事件とか、管財の事件がある人は管財の事件を何件こなせるのかによります。たとえば単価が1件100万円ぐらいの事件なら15件でいいわけです。100万円というのは最低でも600万円ぐらいの訴額の事件になります。
P196
ちなみに、実は、どんな研修会に人気があるか分析すると、マニュアルチックな研修が大人気です。業績を積み重ねられた高名な学者の研修、実務家の講師であっても抽象的なテーマの研修は、出席者それも若手会員の出席者が非常に少ない。業務に直結する話じゃないとキャンセルせざるを得ない。
P198
ただし、実務的、実践的なものでなければ意味がありません。単なる大学の講義みたいなものは、ただでさえ忙しい若手弁護士が聞く気にはとてもなれないでしょう。
36
数字を日常に生かす確率的発想
小島寛之(帝京大学経済学部教授)
NHKブックス
2009/02/15
これって面白いかもしれない。
最後のレースまでに10万円を失った者は、掛け率を無視し、10万円が取り戻せる穴馬に掛ける。
これをマルチンゲール戦略の罠というそうです。
大和銀行ニューヨーク支店で巨額の損失を出したディラーはマルチンゲール戦略の罠にはまった。
最初の小さな損失を上司に報告せず、この損失を取り戻そうとして、リスクの高い取引に手を出してしまった。
この事件について、筆者のご友人が次に引用する31頁のようにコメントしたそうです。
しかし、このコメントは間違いなのだろう。
それが、この本の面白さを予見させるところです。
現実は正しいと、確率論の一つの説が語っています。
あるいは、現実は正しいという確率を採用すべきという論なのか。
ある人達の中で誰が1億円を稼げる人なのかを確率論的に検証する。
そしたら、いま1億円を稼いでいる人が、確率論的には一番に1億円を稼ぐ確率の高い人だ。
なんてことなのかな。
次に引用する51頁ですが、統計学の共通言語、共通発想が私にはないので、深い意味なのか、当たり前のことを語っているのかが、私には分からない。
これぞ確率論という箇所も発見しました。
トーマス・ベイズの逆推定という理論だそうです。
ガン検診がある。
真実、ガンの人は95%の確率で陽性と診断される。
健康な人でも5%の確率で陽性と診断されてしまう。
そして、現実のガンの罹患率は0.5%だとする。
貴方がガンだと診断された。
その場合に、貴方がガンである可能性は幾つか。
95%のような気がしませんか。
これが違うのだと。
つまり、次の通り9%が正しいそうです。
暫く考えて、なるほどと思いました。
┌────────┬───────┬───────┐
│ │真実ガン患者 │真実健康な人 │
├────────┼───────┼───────┤
│罹患率 │ 0.5%│ 99.5%│
├────────┼───────┼───────┤
│ │ │ │
├────────┼───────┼───────┤
│陽性と診断された│0.5% * 95% a │99.5% * 5% b│
├────────┼───────┼───────┤
│陰性と診断された│0.5% * 5% c │99.5% * 95% d│
└────────┴───────┴───────┘
0.475 a
――――――― = ――――― = 0.087155963
0.475+4.975 a+b
P31
彼の行為が間違っていたとはいえないよ。だって、彼が全て裏側に張っていたら、損失の額と同じ額を儲けていたはずだからね。
P51
このフィッシャーの考え方の背後になる思想は、「最尤思想」と呼ばれます。
現実に起きた現象を説明するモデルが複数あるとき、各モデルでその現象が起きる確率を計算し、それがもっとも大きくなるモデルを採用する。
あるいは確率が著しく小さいモデルは捨てる。そういう思想です。
これは、「現実に起きているできごとは、もっとも起きやすいできごとであると考えるのが妥当」という発想なのです。
このような推論方法は数学的に優れた性質をもっていることが証明されています。それに十分にたくさんのデータをもって推定するなら、あまりぶれずに知りたい値の近似値を得られるいうことです。
35
海馬−脳は疲れない ☆☆
池谷裕二(東大薬学部助手)
新潮文庫
2009/02/13
年齢と共に、脳細胞は減っていく。
そのように思っていたのですが、海馬は増えたり、減ったりするのだそうです。
刺激のない環境では減り、刺激のある環境では増える。
そして、好き嫌いが、人間にとって、もっとも強い刺激。
常に、新しい事象に好奇心を示し、それを楽しむ。
それが海馬の数を増やす生き方です。
海馬こそが、記憶と判断の司令塔。
30代を過ぎると、「経験メモリー」が情報の「つながり」を発見し、理解は累乗的に増加する。
1が2になり、4になり、8になり、16になり、…… 1024になる。
そして、その差は、凡才と天才よりも、天才どうしの差の方が大きくなる。
何しろ、差は、2と1024の差ではなく、1024と1万6384の差になるのですから。
P55
たとえて言えば、そういったような状態ですね。つまり、前に学習したことを生かせる能力というか ……。一見関係のないものとものとのあいだに、以前自分が発見したものに近いつながりを感じる能力は、30歳を超えると飛躍的に伸びるのです。
ですから、推理力は大人のほうが断然優れています。若い時にはつながりを発見できる範囲が狭いのですが、年を取っていくにつれてつながりを発見する範囲がすごく広がって、その範囲は30歳を超えたところで飛躍的に増える。
「今まで一見違うと思われたものが、実は根底では、つながってる」
ということに気づきはじめるのが、30歳を超えた時期だと言われています。
P121
ぼくは「暗記メモリー」よりも「経験メモリー」のほうを重視しています。30代から頭のはたらきがよくなるとぼくが言っているのも、「脳が経験メモリーどうしの似た点を探すと、『つながりの発見』が起こって、急に爆発的に頭のはたらきがよくなっていく」ということだと捉えているからなのです。
P122
そのうえにAとBふたつを知るだけでなく、Aから見たB、Bから見たAというように、脳の中で自然に4つの関係が理解できるんです。つまり、2の2乗ですね。
1の次は2。2の次は4。4の次は8。8の次は16……。
16のチカラの時には、1000なんて絶対に到達できないように見える。しかし、そこから6回くりかえせばできてしまうんです。2の10乗は、1024ですから。
P124
凡人と天才の差よりも、天才どうしの差のほうがずっと大きいというのは、こうやって方法を学んでいく学び方の進行が「べき乗」で起こり、やればやるほど飛躍的に経験メモリーのつながりが緊密になっていくからなのですよ。
P131
海馬は、ちょっとした外傷で傷がつかないように、脳の奥の大切なところにしまわれています。直径1センチ、長さは5センチぐらいです。ちょうど小指くらいの大きさですね。
P144
「引っ越してしまったら」というところがちょっとポイントなんです。海馬がなくなってしまった患者さんは、海馬があった時のことは憶えているんです。ただ、新しいことを思い出せない。
P148
その情報は一度海馬に送り込まれるんです。つまりいろいろな情報は海馬ではじめて統合されます。しかし、その情報のほとんどはそのまま捨てられてしまいます。
なぜかというと、情報が整理されないまま、脳が今受けている情報をすべて記憶してしまうとしたら、数分で容量一杯になってしまうからです。人間はそのぐらいたくさんの情報にさらされています。
P150
だけど実は、海馬では細胞が次々と生み出される。次々と死んでいくスピードも速いのですが、どんどん生まれてもいるわけで …… つまり、神経が入れ替わっている。
つまり、生まれるスピードと死ぬスピードのバランスが重要で、生まれるスピードのほうが速ければ、海馬は全体として膨らんでいきます。死ぬスピードのほうが速くなれば、全体としてしぼんでいくわけです。
P158
その証拠に、何もない環境にいたネズミを刺激的な環境に移すと数日で海馬が増えます。
P160
新規な刺激にさらされている人は、いつでも入力の判断をする海馬に刺激があるから、海馬の細胞が増えていく割合と消えていく割合とでは、細胞の増えていく割合が加速していく …… と類推できますね。
そして、海馬が大きくなると処理する能力が増えますから、さらに対象にする刺激が増えるという、そういうポジティブな回転が起きるのではないかと考えています。
34
怠け数学者の記 ☆☆
小平邦彦(フィールズ賞受賞数学者)
岩波新書
2009/02/12
非常に読みやすい本です。
数学を、読みやすい本として作るのは凄い。
知識が、数学の幅に納まっていないから読みやすいのか。
最後まで読み通すのは時間がかかりそうですが。
こういう本が手に入ったときに、地方出張があると嬉しい。
理屈の学問と理解されている数学も美意識の世界なんですね。
数学オンチというのは数学の美意識が理解できない人達をいうのだと思う。
美意識は、数学に限らず、法律や、税法でも同様に必要です。
美意識が理解できなければ、知識は、記憶に頼る雑学になってしまう。
そして、著者の美意識を理解するためには、論理の過程について、「自分でもう一度思考実験をやり直してみる必要がある」。
税務の分野と比較すれば、通達を見付け、あるいは質疑応答集を探し、それで思考停止してしまっては美意識は見付けられない。
「これは本当の話だとあの嘘つきの爺やが申しました」ということになってしまう。
P7
しかし数学を理解するには数覚によらなければどうにもならないのであって、数覚のない人に数学がわからないのは音痴に音楽がわからないのと同様である。
P8
近頃数学的センスということがたびたび言われるが、数学的センスの基礎となる感覚が数覚であると言ってよい。数学者はすべて鋭い数覚をもっているから、かえってそれを自覚しないのであろう。
P16
ところが実際に証明をとばして読んでいくと、なんとなく印象がうすくなって、結局わからなくなってしまう。数学の本を理解するためには克明に証明をおっていくより他しかたがない。数学の証明は単なる論証ではなく、思考実験の意味があるのであろう。そして証明を理解するというのは、論証に誤りがないことを確かめるのではなく、自分でもう一度思考実験をやり直してみるということであろう。理解することはすなわち自ら体験することであると言えよう。
P20
これは本当の話だとあの嘘つきの爺やが申しました
〜漱石「猫」より〜
33
退職金は何もしないと消えていく
野尻哲史
講談社α新書
2009/02/12
退職金の運用について解説しています。
しかし、違うのではないかと思う。
退職後の資金運用に失敗したら取り返しがつきません。
退職金の運用などは考えない方が無難。
マイナス評価の書籍を紹介しても仕方がないのですが、誰でもが資産運用と言い出した時代への警告として。
高利回りの商品にはリスクがあり、結局は、預金金利を超えられないのが完全市場仮説です。
P131
このままでは、生き延びることが非常に難しくなってしまいます。やはり、預貯金に偏ったポートフォリオは危険であり、資産運用というものを上手に取り入れていく必要があるといえるでしょう。
P157
老後の資産運用は、自分が生活していくために必要な資金を減らさずに、着実に増やしていくことが主目的です。特定のマーケットを対象にしたタイミング投資は避け、なるべく長期的な視点で、安定運用することを前提にするべきでしょう。
そのために考えたいのが、「資産運用五つの法則」です。
【1】四つの資産に長期分散投資
P158
そこで、単純に「国内株式」「外国株式」「国内債券」「外国債券」の4つの資産に4等分するというのが、「もっともシンプルなポートフォリオ」です。
P160
【2】複数のポケットに分ける
75歳までに使うお金と、75歳以降に使うお金とを分けて運用するというのも、ひとつの方法だと思います。基本的に、75歳以降に使うお金とは、最後に残される妻のための生活資金と考えてもよいでしょう。
P161
【3】流動化できる資産を中心に保有
もし、どうしても資産の一部に不動産を組み入れたいのであれば、投資用マンションなどの不動産に直接投資するのではなく、不動産投資信託(REIT)を組み入れたほうがいいでしょう。不動産投資信託であれぼ、東京証券取引所などに上場されていますから、通常の株式と同じように、いつでも自由に売り買いできます。
P162
【4】預貯金も大事にする
P163
【5】過度の為替リスクは回避する
32
これからはあるくのだ
角田光代
文春文庫
2009/02/09
「年齢は財産」という本で、42才の女性が年齢を語っていた。
作品よりも、「あとがきにかえて」が面白かった。
コーヒーを飲みながら話しを聞いてみたい作者ですが、いまでも27歳の男の子が好きになるそうですから、これは無理。
才能のある作家です。
言葉と切り口は才能に溢れています。
これからも経験を経て、作品に厚みが出てくるのだろう。
P143
泣けなかった子どもは阿呆みたいに泣く大人になり、そしてこれからふたたび、一滴の涙もこぼさない癇癪婆になるかもしれない。それでも何も、かわらない。今と同じ足どりで、歩いているんだろう。それは私のささやかな願望であり目標である。
31
税制改正と実務の徹底対策
飯塚美幸(税理士)
日本法令
2009/02/08
この書籍が手に入りました。
平成21年度税制の理解に向けてスタートです。
21年、22年に土地を先行取得し、5年間の保有の後に売却した場合は、長期譲渡所得から1000万円を差し引いてくれます。これは法人税についても適用可能です。
ただし、居住用資産の3000万円控除との併用適用は禁止。
土地についての特例なので、建物部分の利益については摘要はできない。
なんといっても、本年度の税制改正の目玉は中小企業の事業承継の為の相続税の贈与税の納税猶予制度です。
中小企業庁の先導で導入された税法なのですが、幾つもの租税回避の道が残った不完全な税法のように思います。
理念のない税法は、節税の穴を作り出すという一例になってしまいそうです。
P45
個人が、平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に取得をした国内にある土地等で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額から1,000万円(当該譲渡所得の金額が1,000万円に満たない場合には、当該譲渡所得の金額)を控除します。
上記(1)の特別控除は、法人も同様とします。
P50
平成21年及び平成22年中に土地等の先行取得をした場合の課税の特例の創設事業者が、平成21年1月1日から平成22年12月31日までの期間内に、国内にある土地等の取得をし、その取得の日を含む事業年度の確定申告書の提出期限までにこの特例の適用を受ける旨の届出書を提出している場合において、その取得の日を含む事業年度終了の日後10年以内に、その事業者の所有する他の土地等の譲渡をしたときは、その先行して取得をした土地等について、他の土地等の譲渡益の80%相当額(その先行して取得をした土地等が平成22年1月1日から平成22年12月31日までの期間内に取得をされたものである場合には、60%相当額)を限度として、圧縮記帳ができます。
(注)土地等が棚卸資産である場合には、他の課税の特例と同様に、本特例の対象とはなりません。
P81
中小法人等の平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間に終了する事業年度の所得の金額のうち、年800万円以下の金額に対する法人税の軽減税率を22%から18%に引き下げます。
P86
中小法人等の平成21年2月1日以後に終了する各事業年度において生じた欠損金額については、欠損金の繰戻しによる還付制度の適用ができることとします。
P102
特例適用株式等を相続した経営承継人は、その特例適用株式等の80%に対応する相続税額について、その納税を猶予する制度が創設されます。
平成20年10月1日以後の相続等に遡って適用されます。
P127
相続税だけではなく、贈与税についても納税猶予の制度が創設されました。
P166
この制度における「外国子会社」とは、内国法人が外国法人の発行済株式等の25%以上の株式等を、配当等の支払義務が確定する日以前6月以上引き続き直接に有している場合のその外国法人をいいます。
内国法人が外国子会社から受ける配当等の額について、益金不算入制度の適用を受ける場合には、その配当等に係る費用に相当する金額としてその配当等の額の5%に相当する金額が、益金不算入とされる配当等の額から控除されます。
また、その配当等の額に対して課される外国源泉税等の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上・損金不算入となるとともに、外国税額控除の対象にもできないこととされます。
30
経常利益率35%超を37年続ける 町工場 強さの理由 ★
梅原勝彦(2007年企業家賞受賞)
日本実業出版社
2009/02/05
事業経営についての積極性があり、度胸があり、製品を作ることについての思いがあり、新しい分野に挑戦する身の軽さがあり、スピード経営というオリジナリティがある。
謙虚に自分を語ってますが、ちゃんと利益を確保するしたたかさもある。
本当の意味での経営者です。
度胸のノウハウは説明できませんので、スピード経営のノウハウを拾い出してみました。
P65
コレットチャックとカムで圧倒的な強さを誇るエーワン精密は、いまや押しも押されもせぬ小型自動旋盤業界のトップブランドです。電話やファックスで次から次へと注文が入るので、営業をしなくてもまったく困りません。
P92
当社の最大の売りは短納期。その日に受けた注文を、その日のうちに仕上げて発送するなどという芸当は、他社には絶対まねできないはずです。
P93
それなのに、どうして納期がこれほど早いのかというと、最大の理由は、作業に取り掛かるまでの時間にあります。当社はとにかく、注文から作業までの時間が早い。どれくらい早いかというと、府中の本社で注文を受けてから山梨の工場で作業に取り掛かるまで、ものの5分もかからないのです。
P101
こういうと、動いていない三割が無駄なように聞こえるかもしれませんが、そうではないのです。3割の余裕があるからこそ、急な注文にも対応できる。それこそ夕方5時に受注したものを、その日のうちにつくって発送するといった、他社では絶対にまねできないことができてしまうのです。
P140
だから、自分で事業を始めたあとも、社員には極力残業をさせてきませんでした。休日出勤だって、会社から社員にお願いしたのは工場の引っ越しのときだけです。
29
新しい事業承継税制による中小企業株式等の相続税・贈与税の納税猶予制度
藤田良一
税務研究会出版
2009/02/05
事業承継税制は、要件は理解できますが、理屈を探すのが厳しい。
事業承継という理屈は分かります。
しかし、なぜ、50%なのだろう、何故、その中の筆頭株主なのだろう。
資産保有、資産運用会社は除外するが、しかし、それについての除外要件がある。
贈与株式は、相続時に取り込まれる。
取り込まれる贈与株式は、贈与時の株数による。
分割、無償交付は、贈与時の株式に含まれる。
そしたら、低額有償増資の株主割当分は含まれないことになる。
理念のない税法は、幾らでも、脱法手段が見つかるという一例になってしまうのではないか。
今の時点で、法案を前提にした解説書を発行する著者の度胸は凄い。
ただ、290頁の書籍の内で、事業承継税制を説明しているのは最初の98頁まで。
28
アジアの試練 チベット解放は成るか
櫻井よしこ
文藝春秋
2009/02/03
チベット問題は分かりません。
中国問題も分かりません。
ただ、大問題であることは確かのようです。
紀元70年にユダヤを追われたイスラエルの民のような状況でしょうか。
P23
インドからヒマラヤ山脈を越えて中央アジアに伝来した仏教は、チベット高原で独自の発展を遂げた。初代チベット王はインド王家の末喬とされているが、その33代目にあたるソンツェン・ガンポ(581年頃〜649年)が現在のラサを都とする吐蕃王朝を建国。以後、1000年以上にわたって漢民族の国家とは別の独立国として発展を続けてきた。
しかし1949年、中国共産党が「チベット解放」を宣言した時から、聖なる山々は謀略の渦に巻き込まれてゆく。翌50年、毛沢東率いる共産党軍は僧院を焼き払いながら進軍し、51年にラサに到達。
P107
しばしばダライ・ラマ法王は政治的リーダーでもあると言われますが、そういう意識はチベット人にはあまりないように思います。もともとチベット人は、外交や軍事といった政治面に無縁の民族です。それより、仏教哲学というもっと高度な精神文明に従っているのです。法王は宗教的に最高の存在だから、国のいろんな問題についても、法王のご意見を尊重する。そんな考えで法王を支持しているわけですが、外国からみれば、結果的に政治的なリーダーと映るのではないでしょうか。
P111
いまやチベット人亡命者は世界で約14万人にも及び、かつての私のように、身一つでヒマラヤを越えてくる新たな亡命者が後をたたない。だから若いチベット人に会うと、こう言うのです。
私たちは流浪の民です。いつか、ダライ・ラマ法王とともに、チベットの地に帰れる日を待とう。それまでは、日本でもアメリカでもヨーロッパでも、今いる国で懸命に勉強して、どんな分野でもいいからエキスパートを目指そう。その土地で働き、尊敬される人物になろう。
27
どうする派遣切り2009年問題
高井晃(派遣労働ネットワーク理事)
旬報社
2009/02/02
いま騒がれている派遣切りは、不況対策の意味だけではなく、いずれ到来する2009年問題についての見切りなのかもしれない。
P83
整理解雇が有効かどうかについては、【1】人員削減の必要性、【2】解雇回避努力、【3】人選の合理性、【4】解雇手続きの妥当性の四要件(四要素)を充足するかどうかという点から判断する整理解雇制約の判例法理が確立しています。
有期雇用労働者を対象として整理解雇をする場合においても、希望退職募集などの解雇回避努力(雇止め回避努力)は必要とされるのであり、このような努力をせずになされた雇止めは無効です。
P104
しかし、その製造業も2004年の派遣法改定によって、2005年から解禁となったのです。ただ、派遣期間は1年と限定されました。しかし、その派遣期間も2007年3月1日からは上限を3年に延長されました(過半数労組の同意など一定の手続きをとったうえで)。
この間に、製造業の大企業における偽装請負が社会的に問題となり、多くの偽装請負が「製造業派遣」に切り替わりました。そして2007年3月1日からの上限3年の派遣期間が2009年3月で満了となり、直接雇用するのかどうか、派遣先企業や派遣会社の大問題となっていました。
P105
派遣期間3年を過ぎたのち、派遣先に期間社員として4ヶ月間雇用され、また派遣に戻され即座に解雇予告され解雇された労働者が派遣ユニオンに加入し、派遣元・派遣先と闘ったのが、ニッテイ・クレイブユニオンの闘いです。赤い郵便車を運転し、夜間にコンビニから集荷をする派遣ドライバーたちの闘いです。
P107
9月26日、派遣業界に激震が走りました。
「同一の派遣労働者を一時的な直接雇用を経て再び派遣に戻した場合は職業安定法で禁止されている『労働者供給』にあたる可能性が高いと始めて明記する」と新聞報道されたのです。この9・26通達(「いわゆる『2009年問題』への対応について」職発0926001号)は派遣業界にはびこっていた「3ヶ月と1日のクーリング期間」を経て、同一の労働者を派遣就労させるという手法にレッドカードを出したのです。
P111
派遣先が期間制限違反に基づく雇用申込みをするが、それまで派遣で働いていたときを大幅に下回り、生活できない労働条件を提示することによって、労働者に雇用申込みを拒否させる方法です。
26
竹中式マトリクス勉強法
竹中平蔵
幻冬舎
2009/02/02
自分の生き方を、反省する視点もなく、得々と論じる人間を好きにはなれませんが。
でも、簿記3級と、税理士試験について次のように説明しているところは正しい。
本来、簿記は中学校で全ての人達に教えるべき技術です。
借方と貸方の理屈を知っている人達の思考と、そうでない人達の思考方法は違います。
数字を知っている人間と、数字を知らない人間の違いかもしれません。
数字を知らずに、会社の経理を論じ、経営を論じ、経済を論じ、税法を論じることは不可能です。
P59
しかし、それは経済の世界でいえば、簿記3級を知らずして応用マクロ経済を語るようなもの。基本を知らずして、大きなことなど絶対にできません。
P60
そう考えると、とどのつまりGDP(国内総生産)は日本中の複式簿記の結果出てきた数字ということができます。ということは、簿記3級が完壁に分かれば、経済全体が分かるということなのです。現実にアメリカのビジネススクールの授業で、このことは教えられているのです。
P61
ここで、自身の話をさせてもらえば、私は日本開発銀行に入行してから、改めて簿記3級の勉強を始めました。ちなみに簿記3級とは、商業高校卒業程度の財務知識です。こう書くと、銀行員がなぜ改めて簿記3級を勉強する必要があるのか?仕事をしながら、もしくは研修などで習得済みなのではないかと思われるかもしれません。
P62
だが銀行員の仕事は、それこそ現場一筋何十年の各社の経理部長さんを相手にするもの。そんな大先輩と対峙するのに、共通言語となる簿記の基礎を知らないのは失礼ではないか―私が簿記3級の勉強を始めたのは、そんな理由からでした。
もっとも、働きながらの勉強はやはりハードでした。帰宅後勉強するといっても、ペースメーカーがないことには、後手後手に回りがちです。結局、夕方6時から9時まで、当時の勤め先大手町から近い神保町の簿記学校に通い、学校が引けた後は社に戻って残務を片付けるという、せわしない日々を送ることになりました。
それでも、「勉強している」という充実感は格別でした。さらに、3級の試験に合格できたときは、えもいわれぬ達成感を味わったものです。
P104
たとえば税理士試験。簿記、会計、法人税法といった具合に、必須科目が分かれているのは、それらを一つ一つ勉強していくことで、財務知識のべースが作られるよう予めプログラミングされているから。このプログラミングの精度は非常に高いため、たとえ試験に合格しなくても、教則本を一通り学ぶだけでも十分意味があります。
とはいえ、試験に合格するにこしたことはありません。今のようにキャリアディベロップメントが求められる世の中では、人材は常に成長していくことが求められます。そのプレッシャーは相当なものですが、資格を持っていれぼ「自分にはべースがある」という安心感が生まれます。この心理的な解放感は、資格を持つ人のアドバンテージといえるでしょう。
また、実際に資格保持者は、「いざというとき」に強みを発揮します。なぜなら、資格は、勤務先が統廃合されようとも、人員整理がはじまろうとも、分かりやすく自分の実力を証明してくれるからです。
25
ぼくは猟師になった
千松信也
リトルモア
2009/02/01
罠で鹿、あるいはイノシシを捕る猟師になった青年の狩猟生活の紹介です。
会社に勤めながらの狩猟ですし、収穫は販売せず、自家消費ですから、趣味の範囲ですが。
しかし、今でも、罠で獣を捕る狩猟手法があるのですね。
野生肉は硬い。
それは誤解だとして次のように解説しています。
P123
豚も生まれてから出荷までの半年ほどで100キロを超える体重になりますが、イノシシが半年でせいぜい20キロから30キロにしか成らないのを考えると衝撃のペースです。サイズは大人でも、まだ、子供の状態の肉が市場に流通しているのです。一般の肉の固さはそうした肉が基準になっているのかもしれません。そのため、たまに硬い野生肉にあたると「ああ、やっぱり野生肉だから……」と誤解してしまうのではないか。
24
テキトー税理士が会社を潰す
山下明宏
幻冬舎
2009/01/31
マイナス評価の書籍を紹介しても仕方がないのですが。
しかし、このタイトルでは内容を紹介しないわけにはいかない。
色々な税理士がいるという一例として紹介しよう。
P38
私たち、まともな税理士には、それができる。程度と時間の差はあるが、私は、私を信じて指導を受け入れてくれた関与先を、99.99%黒字にしてきた。これが、税理士が会社を強くする、動かぬ証拠だ。
P43
テキトー税理士との縁を切り、あなたの会社を黒字化する”運命の税理士”と出会う方法を押さえておこう。
そう簡単にはいかないのだ。
なにせ目の前には、まともな税理士は、税理士全体のわずか5.6%しかいない、という現実がある。
23
精神科医は腹の底で何を考えているか ☆☆
春日武彦(精神科医)
幻冬舎新書
2009/01/30
センスの良い精神科医が著した精神科医と患者の関係の分析の書です。
著者自身についても、精神科医業界についても、客観的な視点で語っている。
著者の自分を客観視した視点は、弁護士にも役立つと思う。
弁護士業は、当事者との共感にのめり込んでしまうところが非常に強い職業ですから。
弁護士が、法律や個々の事件、あるいは法廷技術を語るのではなく、弁護士としての本音の生き方を語ったら、この本と同様の著作が作れるだろう。世の中の大部分の事象はメンタルであり、そのメンタルなのは、患者だけではなく、弁護士(医師)側でもあるのですから。
さて、本書ですが、読み進むほどに著者の思考の深さが現れ、読み進むほどに楽しい。
本書のテーマについて幾つかの要約を作ってみたが、高校生の読書感想文を超えられない。
私が要約するには、著者の方が優秀すぎる。
誰でもが、日々、無意識の内に意識していることを、言葉で表せるところが著者の凄さです。
ただ、宗教書と同様に、本書のような著書は、読者の精神状態にも傾きを与えるように思います。
日々、患者を相手にしていながら、自分自身の基準を守りきるためには、著者のようなシニカルなスタイルが必要なのだと思う。あるいは、患者を客体として切り離してしまうか、あるいは自分を善人と勘違いしてしまうか。
P39
心理学や精神科領域では、しばしば共感という用語が出てくる。相手の気持ちを、自分の経験に照らし合わせて推し量り、リアルに理解しようとする試みといったところであろうか。治療者として当然求められる心の働きであり、また誠実さの第一歩と言えるかもしれない。
ところが下手をすると、患者も治療者も一緒になって右往左往することになりかねない。木乃伊取りが木乃伊になる、といった言い回しもある。患者の気持ちをある程度まで想像することは重要だけれど、共揺れしてしまっては何もならない。
P47
実際、いけ好かない相手だから治療に「手を抜く」とかぞんざいに扱うことは許されまい。そうではなくて、職業モード下においてもやはり「いけ好かないタイプだなあ」と心ひそかに思ってしまうことは、問題なのかどうか。思うだけにとどめておけば構わないという意見もあろうが、思ってしまえばそれが無意識のうちに態度に滲み出てしまう可能性は否めず、だから問題なのだといった話である。
P53
無論わたしの性格的な問題もあるが、やはり相性といった問題もあったのだろう。なぜならAもまた、どことなくいけ好かない医者に対し、せっかく自分なりに譲歩し和解を求めようとしてやったのに拒絶されたという(自分勝手な)驚きが、怒りを倍増させたのであろうから。
P58
結局のところ、我々は自分の内面から相手に相似したものを取り出して、それを拡大解釈して理解した「つもり」になることしか出来まい。所詮は他人事でしかない。だが、せめて他人の心を推し量ることはとんでもなく難しいのだという「謙虚さ」を持っていなければまずいだろう。
P88
それはそれとして、わたしが普段カルテに記している病名は、せいぜい6つである。すなわち、(躁)うつ病・統合失調症・神経症・パーソナリティー障害・器質性精神疾患(認知症を含む)・依存症であり、これは体系的というより実際の頻度や利便性に基づいて挙げてある。とりあえずこの6つでおおよそ事足りる。ただし神経症でも「強迫神経症」とか、パーソナリティー障害でも「境界性パーソナリティー障害」とか下位分類を付け加えることは多いし、先ほど述べた非定型精神病などは例外的にそのままの病名を記載するが。
それぞれの病名において、パターン(つまり普遍性のあるバリエーション)は10〜20くらいではないだろうか。したがって私の頭の中に入っているパターンは全部で100ぐらいということになる。あえてどぎつい言葉で換言するなら、すなわち「人の心の狂い方は100種類しかない」ということである。
P99
適切な助言を与えられなければ意味がない。そのためには、人それぞれが抱える「リアル」がどのようなものであるかを洞察する能力と、豊富な人生経験が必要だろう。
P118
世間には「患者様」などという奇怪な日本語が広まっているが、それでもなお力関係において医師は患者よりも「偉い」。医師が患者に示す優しさには、往々にして患者が素直にコントロールされることと引き換えに提示される「ご褒美」といった含みがある。
P145
では現在のわたしはどうなのか。以前のような使命感はあまり持たなくなった。果たして彼女が本当に「間違った物語を演じている不幸な人物」なのかも覚束なくなった。結局のところ、彼女はある種のドラマチックさ、濃くて過剰な人間関係でなければ満足のいかない人なのである。わたしのような不精者であれば、淡々として脱力気味な人間関係のほうが気楽で好ましい。人付き合いなんかに無駄なエネルギーを使いたくないし、そんなことで気持ちを動揺させられると仕事に差し支える。が、彼女にとっては、わたしのように生温い人間関係を好ましいと考える者こそが「間違った物語を演じている不幸な人物」に該当すると感じられることだろう。精神科医に相談しなければならないほどに波瀾万丈な人間関係の渦中にいることこそが、屈折はしているが彼女なりの濃厚で濃密な人生なのであろう。
P147
妄想とは物語である。患者はその物語を自分の人生へ導入することによって、やっと世界を納得することが可能になる。たとえば統合失調症の発病当初においては、しばしば途方もない病的不安が患者を包み込む。同時に感覚は鋭敏となり、普段なら気にもせずに見過ごしている事象に何らかの作為や意図を察知せずにはいられなくなる。すると悪意と不条理とで覆い尽くされた場所に立たされているように患者は実感する。
人間はそんな危うい状態にいつまでも耐えられるものではない。何とかしなければ。だが、どうすればよいのか。精神科を受診するのが「何とかする」ことに相当するわけだが、もちろん当人はそんな発想をしない。自分の頭の中に異変が生じたわけではなく、自分の周囲に何か不穏な事態が起きつつあると想像する。地動説ではなく天動説を採用するわけである。
P150
現実には、妄想だけを患者の頭の中から抜き取ることは出来ない。薬物の作用は、まずは病的な不安感や焦燥感を抑え、あえて妄想という物語を必要としなくなるように働くようである。それは理に適っているだろう。ただし落着きを取り戻し、妄想も消えうせた患者がそのまま以前の元気な姿に戻るかというと、なかなか微妙なものがある。どうも気が抜けてしまったような、どこか精神が弛緩してしまったような状態が持続する。これを陰性症状などと称するが(幻覚妄想や興奮などの派手な症状は陽性症状と称される)、素朴な印象としては、分かりやすい物語を失ってしまった後の気が抜けてしまった状態を彷彿させるのである。物語はエネルギーそのものであるといったイメージを抱かずにはいられない。
P174
わざわざ書く必要もないことだが、我々の心はモノトーンではない。いっぺんに複数のことを感じたり考えたりするのは日常茶飯事だし、心の動きは大概において二重底である。矛盾した内容を感知したり、正反対の欲望を同時に抱いたりもする。それが普通なのであり、アンビバレントは我々にとってごく当たり前の状況である(それを無理に整合性を図ろうとすると、心は軋むことになる)。だから、数学のように冷徹な因果関係で精神を理解することなど乱暴極まりないことであり、さまざまな気持ちが並立していることを前提にアプローチを図るのが精神科領域の専門家ということになるだろう。
P184
「人間だもの」などと言ってへらへらしていられるほどに人生は甘くも単純でもないとわたしは思っている。だから毎日がつらいのかもしれないが、寛容であることと締まりのないこととを混同するような態度は嫌なのである。だから他人にシビアである必要はないが、故意に自分の気持ちを誤魔化すのは心地が悪い。そんな次第で、わたしは統合失調症において「治る・治らない」といったテーマは、少なからず気持ちが動揺させられてしまうのである。そしてそれが精神科医として困ったことなのかどうかも、判断がつかないでいる。そのあたりが自分自身のシニカルさに通じているような気がしてならない。
P201
たとえば有料老人ホームで余生を過ごす自分を考えてみる。わたしは身体の自由も利かず、意欲も衰え、静かに無為な日々を送るだけだろう。だがホームだろうと病院だろうと、結局は集団生活である。詮索好きの人間や、鬱陶しい輩が必ず存在する。あるいは空威張りしたり、老いてもなお俗な価値基準から逃れられない下らない連中が。考えただけでげんなりしてくる彼らを、わたしは相手にしない。すると連中は腹立ち半分にこちらの過去を穿鑿してくる。いかに取るに足らぬ人間であったかを証明しようとする。もしそんなときに、わたしが錚々たる過去や目を見張る業績の持ち主と知れたら、彼らは(たぶん)無礼な態度をあらため、一目置くようになる。だからどうしたというわけではないが、おそらく老人ホームでの生活は遥かに快適になるはずで、言い換えるならば、分かりやすい成功や権威は幸福をもたらすとは限らないが往々にして不快さや煩わしさや侮辱から自分を守ってくれる。人生の最後を、わたしは穏やかに過ごしたいのである。被害者的な傾向のあるわたしとしては、精神的な自己防衛の道具として、それなりの成功や業績を欲する。
P202
ここでわたしが述べたいのは、成功とか勝利とか業績とか地位といったものは、なるほど虚しいものである。そこには俗っぽく低劣な欲望が宿りがちであろう。精神病を患ったことを契機にそうした固執から離脱出来たことをむしろ喜ぶべきといった発想すら成り立つかもしれない。しかし、世の中を淡々と、無欲に過ごすためには実は成功や勝利や業績や地位の実現こそが裏づけとなる。有機野菜や無添加食品しか口にしないとかスローライフ的思考を都会で実践するためには、あくまでも裕福であることが大前提になるのと同じことであって、俗物的サクセスは意外にも人を恬淡とさせるための必要条件のようにわたしには感じられてしまう。
P216
それに精神科医自身、少なくとも若い頃から平穏無事のみを追求してきた筈がない。いかなる科であれ、医療者は波瀾万丈や阿鼻叫喚や異常事態にロマンを求めるタイプが普通なのだから。
そうなると、精神科医が患者の幸福を願うと言いつつその実体が小市民的幸福であるということには、どこか不協和音が生じることになる。少なくともわたしはそのあたりが誠に居心地の悪い気分で、嘘を吐いているのではないけれどもどこかアンフェアに振る舞っているように感じられてならない。わたしはカタルシス型の幸福にも、小市民的な幸福にも、そのどちらにも未練がある。
P218
じゃあ、最終的に目指すものは同じなのだから、小市民的幸福を勧めることが結論となるのか。そうなると、人間に求められるのは身の丈に合った言動ということなのか?美食の果てが一杯の茶漬けであったとしても、それのみで生活を送る人間を幸福と定義出来るものなのか?そのあたりをクリアに言い切ってしまうことは不可能だろう。おそらく生きることの意味、生きることの価値といった問題につながってくるに違いない。
そしてそのような根源的な問いを前にしつつも、わたしを含む世間の精神科医たちは、どこか気まずさや不調和な気分を覚えつつ、日々の臨床を着実にこなしていかなければならないのである。
22
人を殺すとはどういうことか ★
美達大和(無期懲役囚)
新潮社
2009/01/27
ドストエフスキーの罪と罰の世界です。
ただ、本人はラスコーリニコフを否定しています。
「彼は天才でも才能のある男でもなく実績もなく単なる妄想の虜です」と。
たぶん、IQ150を超えるであろう人間が人を殺した。
それも2人です。
経営者として、完全な成功者だった。
その思考過程を知りたかった。
で、書いてあります。
さらに、他の殺人犯の思考過程も。
さらに、暴力団員の思考過程も。
暴力団員は、要するに、戦争に行った兵隊さんなんですね。
殺すことと、殺されることが仕事なのだ。
だから、これは別格。
で、無期懲役で収監中の主人公は、裁判の過程から自分の罪を知るようになり、10年、20年と、その思考が深くなります。
最終章では、次のように述べています。
私は、どうして人を殺した自分が、こんな感情に出会ったのかといつも不思議です。
どんなに償っても奪った生命は戻りませんが、獣から人間に戻らなければならないのです。
裁判員必読の書。
P17 …… 犯罪に至る状況と裁判中の事情
小学生の私は、成績はいつもトップで、学級委員、児童会長、少年赤十字委員長で、運動会でもいつも一番、四年生からはリレーでも六年生より速いという小学生でした。少年赤十字の活動でも、市の全小学校の委員長が集まった場で総委員長として当時の知事に活動報告しています。知事と握手している様子は新聞にも大きく載りました。一年生入学時の知能検査では、全市で一番の極度に高いIQを出したため、教育委員会より学校に連絡が入り、校長と担任が家に来たこともあります。自らの口から言うのは本当に気が引けるのですが、天才児、神童と浴びるほど言われました。
P30
それで謝罪があれば、私としても異なる対応をしたのでしょうが、それが無かった為に看過することができなくなりました。
この時は、相手に三回話し、次は無いという警告をしていますので、相手の改善が感じられぬ態度により、殺すことを検討し始めました。
P31
この時、周囲の私に対する評価は、言ったことは損得関係なく実行する人ということが確立していて、私としてはこれに満足していました。相変わらず約束・契約が金科玉条の如く私の意識の中心を占めていたのです。
そして、最大の決め手となったのは、損得や己の気持ちによって信念を変えるのかという自己への怒りです。
金や物は失ってもいいんだ、いつでも取り返せる、しかし信念を失ったら終わりだと日頃から信条のように言っていましたから、まさに今がその正念場と感じたのです。
刑務所に入るのが嫌だからと、信念や言葉を軽んじるのかと何度も自分を詰りました。
P32
「お前は服役が怖くて信念を曲げるのか、普段から公言していることを破るのか、お前の信念はニセモノか」
こんな自問の繰り返しでした。
P34
救いようがないと、今は思います。実行している時に、自分は何の為にこんなことをしてるんだろうという疑問が心の隅にありましたが、相手の不誠実さを考え、己を励まして殺したようなものです。
P43
子供の頃から私は正しいと信じ、実際に誰も異を唱えず従ってくれたということが重なると、他者の話は聞く必要もなくなっていたのです。私の描いた円からはみ出ることは、イコール誤りであると決めていたことが、罪を犯した原因の一つにあることに気がつきました。
P52
鑑定主文
知能については今更述べるまでもないが、担任、父親、本人の調査によっても全く家で学習したことがないことを考慮しても最高レベルと言わざるを得ない。
当職は、三〇年の職歴の中でこのような奇跡的な知能レベルに遭遇することは初めてであり、他の症例を調査しても前例がないものである。
鑑定中においても毎回その能力の高さに瞠目し、特にその処理や反応の速度は驚異とも言えるものである。同時に鑑定した父親についても十分に高さは認められるが、被告人の場合は傑出していると言える。
P230 …… 数年間の刑務所生活を通じての悔恨
私自身の取り返しのつかない誤謬を考える時には必ず陰鬱な気分になりますが、自分が能動的に行ったことですから、責任はしっかりと感じなければなりません。人の命を奪ったのだから責任について考察することは義務だという観念ではなくて、少しでも真っ当な人間として残りの人生を過ごすために積極的に自らの非を悔い、真摯に反省と贖罪に励みたいという気持ちが生じました。人生というジグソーパズルのピースが欠けていてもいい、何とか最後まで残りのピースを嵌めていきたいという思いです。
P246
正しいか正しくないかは、自己の主観ではなく普遍的な倫理を基準として判断しなければならないことに随分な時間と犠牲の結果、気付かされましたが、これを生活していくうえでの糧としたいと考えています。
P253
私は、どうして人を殺した自分が、こんな感情に出会ったのかといつも不思議です。どんなに償っても奪った生命は戻りませんが、獣から人間に戻らなければならないのです。
P254
私自身は未だに、偏狭さから脱しきれずに、自己嫌悪に陥りながらも、自分のしたことについて省察し贈罪ということを忘れず、毎日を大事に過ごそうと決めています。
21
日本でいちばん大切にしたい会社 ★
坂本光司(法政大学教授)
あさ出版
2009/01/26
大学の研究室を飛び出し、さまざまな企業を訪問したそうです。
訪問した企業数は6000社を超える。
そして、著者は「会社経営とは5人に対する使命と責任を果たすための活動」と位置づけています。
それが、私的なものである会社を、政策、税制、金融などが大きく支援している理由だと論じています。
【1】 社員とその家族を幸せにする
【2】 外注先・下請企業の社員を幸せにする
【3】 顧客を幸せにする
【4】 地域社会を幸せに、活性化させる
【5】 株主を幸せにする
そして、本文とコラムで14社の経営を紹介しています。
泣かせる良書です。
P46
障害をもつ二人の少女を、採用してほしいとの依頼でした。
社長である大山泰弘さん(当時は専務)は悩みに悩んだといいます。
三回目の訪問のとき、大山さんを悩ませ、苦しませていることに、その先生も耐えられなくなったのでしょう、ついにあきらめたそうです。しかしそのとき、「せめてお願いを一つだけ」ということで、こんな申し出をしたそうです。
「大山さん、もう採用してくれとはお願いしません。でも、就職が無理なら、せめてあの子たちに働く体験だけでもさせてくれませんか?そうでないとこの子たちは、働く喜び、働く幸せを知らないまま施設で死ぬまで暮らすことになってしまいます。私たち健常者よりは、平均的にはるかに寿命が短いんです」
頭を地面にこすりつけるようにお願いしている先生の姿に、大山さんは心を打たれました。「1週間だけ」ということで、障害をもつ二人の少女に就業体験をさせてあげることになったのです。
P47
そうして一週間が過ぎ、就業体験が終わろうとしている前日のことです。
「お話があります」と、十数人の社員全員が大山さんを取り囲みました。
「あの子たち、明日で就業体験が終わってしまいます。どうか、大山さん、来年の四月一日から、あの子たちを正規の社員として採用してあげてください。あの二人の少女を、これっきりにするのではなくて、正社員として採用してください。もし、あの子たちにできないことがあるなら、私たちがみんなでカバーします。だから、どうか採用してあげてください」
これが私たちみんなのお願い、つまり、総意だと言います。
社員のみんなの心を動かすほど、その子達は朝から終業時間まで、何しろ、一生懸命に働いていたのです。
仕事は簡単なラベル貼りでしたが、十時の休み時間、お昼休み、三時の休み時間にも、仕事に没頭し、手を休めようとしません。毎日背中を叩いて、「もう、お昼休みだよ」「もう今日は終わりだよ」と言われるまで一心不乱だったそうです。
本当に幸せそうな顔をして、一生懸命に仕事をしていたそうです。
P60 …… そして50年後
日本理化学工業で、私は二度と忘れることのできない経験をしました。
あるとき、私はこの会社を訪ねて、社長と話をしていました。
「お客さんだ」ということで、応接室にコーヒーをもってきてくれたおばあさんがいました。
「よくいらっしゃいました。どうぞコーヒーをお飲みください」と、小さな声で言うと、また、お盆を持って、帰っていきました。
その方が行ってしまってから、大山社長が、私にぽつりとこう言いました。
「彼女です。彼女がいつかお話しした、最初の社員なんです」
彼女こそ、およそ五〇年前に入社した、二人の知的障害をもった少女の一人だったのです。
その彼女も、一五、六歳のときに採用されていますから、もう六十五、六歳にもなっているのです。
腰が曲がって、白髪でした。
彼女が会社に勤め始めて五〇年間。その彼女をあたたかく見守り、ともに働いてきた大山さんをはじめとする同僚や上司の方々。
山もあり谷もあったでしょう。さまざまな喜びも、もちろん多くの悲しみもあったかもしれません。しかしそれらのすべてが、五〇年前の養護学校の先生や、当時の社員の方たちの思い、大山社長の決断から始まっていた。
そこから多くのことが生まれてきた。
年月の重さが一瞬のうちに想像され、私は涙をこらえることができませんでした。
20
スターバックスを世界一にするために守り続けてきた大切な原理
ハワード・ビーハー
日本経済出版社
2009/01/24
スターバックスの社長が論じた経営のスタイルです。
他人のふりをすることなく、自分自身として振る舞う。
自分がかぶる帽子は1つでよいのだと論じています。
しかし、それがスターバックスの現場の作業に、どのように結びつくのかを読み取るのに苦労する。
そもそも、他人のふりをすることなく、常に、自分自身でいられる職業(弁護士)をしている者には分からない苦労なのだろうか。
35P
帽子の数が多すぎると、他人が望む誰かのふりばかりしていて、自分でいる時間がなくなってしまう。これに向き合うのは難しい。成功するためには、異なる役割に合わせて違う帽子をかぶななくてはいけないと思っている人は多い。人生のいろいろな役割を果たすには別人のようにふるまうべきだと思っているのだ。でも、そのためになにを犠牲にするだろうか。朝起きて、ベットで、「さあ、夫(妻)としての帽子をかぶらなくちゃ」と思うなら、それは結婚する相手を間違えたか、無理に相手に合わせているかのどちらかだ。
19
禁忌の聖書学 ☆☆☆
山本七平
新潮文庫
2009/01/22
西洋思想を理解するためには聖書の理解が不可欠です。
私達が四面楚歌という諺を使うように、放蕩息子の帰還という諺が登場する。
では、聖書をどのように学ぶか。
お勧めは、阿刀田高の「旧約聖書を知ってますか」と、本書。
本書はヨセフスについての説明から始まってますが、「ウツの地にヨブという名の人がいた。この人は潔白で正しく、神を恐れ、悪から遠ざかっていた」で始まるヨブ記についての解説は読ませます。
不条理の不幸について「親の因果」「前世の報い」という思想を採用することができるのか否か。
ヨブ記は、否と言っています。
不条理は、不条理として受け入れざるを得ないのが、旧約聖書の世界です。
弁護士業では、ときに、不条理の世界に遭遇します。
不条理に、原因、理由、結果を求めることが可能なのか。
不可能だから不条理なのですが。
ヨブ記を取り上げた書物は多いのですが。
しかし、本書のように深く掘り下げた解説には出会いません。
P183
簡単にいえば、故なき苦難に呻く全き善人ヨブに一言「前世の因果さ」といえばそれで終りであり、オイディプスには「親の因果が子に報いたのさ」で終りとなる。いずれも劇が成立しない。
旧約聖書には「前世」という概念はないが、占い時代には『出エジプト記』に「父の罪を子に報い、子の子に報いて、三、四代におよぼす者〈神〉」(三四7)とあるように、その罪が四代までは及ぶという考え方があった。
これをはっきりと否定したのが預言者エレミヤとエゼキエルである。エレミヤの有名な「 …… その時、彼らはもはや、『父がすっぱいぶどうを食べたので、子供の歯がうく』とはいわない。人はめいめい自分の罪によって死ぬ」(三一29以下)という言葉は、「親の因果が子に報い」的な考え方を否定した最初のものであろう。
18
切らずに治すがんの治療 ★
中川恵一(東大病院放射線科準教授)
法研
2009/01/21
放射線治療の有効性と最先端技術を解説した書です。
外科的手術、放射線治療、抗がん剤が、癌の3つの治療法ですが、CTやMR、それに治療に使用する放射線機器の進歩で、放射線治療は急激に改良されている。
なるほど。確かに、コンピューターと並行的に進歩できる治療法は、放射線治療ですね。
将来、あるいは現在も、癌治療の基本は放射線治療かもしれない。
日本には、放射線についてのアレルギーがありすぎるのかもしれない。
放射線治療ができる医者が少ないという現状の紹介もありました。
いざというときは、必ず、放射線治療の可能性を確認してみるべき。
健康診断についての知識を得たいと思って手にしたのですが、現代医学について、おおいに収穫がある一冊でした。
P66
「細胞分裂がおきるときは、まず細胞の核のなかにある染色体が2つのコピーをつくる」と先に書きましたが、コピーをつくっている最中の染色体は、ひどく不安定な状態にあります。このときに放射線があたると、正常なコピーをつくれなくなり、細胞そのものも死んでしまうのです。
この作用はがん細胞にも正常な細胞にもおこります。しかし、細胞分裂のときに最も作用するということは、当然、細胞分裂のさかんな細胞のほうに大きく作用することになります。つまり、がん細胞のほうが、正常細胞より放射線の影響を強く受け、死んでしまうのです。
P69
つまり、放射線は免疫細胞が戦えるレベルまで、がん細胞を減らしてくれるのであって、がん細胞を体内からなくしているのは私たち自身の免疫細胞ということになります。放射線治療は放射線の効果と、免疫力の両方の力でがんを治す治療法なのです。
P72
とくに、免疫療法と放射線治療の組み合わせに関心が集まっていますが、放射線治療は臓器を切りとる手術より、体へのダメージが少なく、免疫力を温存できる治療法ですから、これは納得できる組み合わせではあります。
P94
これまで述べてきたように、放射線治療の副作用をこわがる人は多いのですが、実は3つの治療法のなかでも最も副作用が少ないのが放射線治療です。かつては末期がんの患者さんの症状緩和におもに使われたために、「がんを治せない対症療法」と軽んじられたりもしましたが、話は逆で、末期がんの体調の悪い患者さんにも行える、体に優しい治療法なのです。
P106
放射線治療は原則として1日に1回行いますが、治療効果を高めるため、1日2回行うこともあります。ただし、1回にかかる時間は5分ほどと、拍子抜けするほど短時間です。
P117
最新治療としてすっかり普及したもの、認められつつあるものには、ガンマナイフ、ライナックによる定位放射線治療、強度変調放射線治療(IMRT)、サイバーナイフ、粒子線治療などがあります。そのほか、「体外照射」の登場で、放射線治療の主役の座から降りていた「密封小線源治療」にも、「ルネサンス」とよばれるような新しい治療法が確立し、注目を集めています。
P147
がんに放射線を集中し、まわりの組織に放射線がかからない技術がぎりぎりまで発達した結果、今の放射線治療が「治療効果がきわめて高く、副作用がきわめて少ない」がんの治療法になっていることは、まちがいありません。
P150
がんの治療は本当に、「バッサリ切っておしまい」という時代ではなくなった、と痛感します。自分の体の状態と今後の生活を思い描き、自分が必要と考えるだけの時間を、いちばんよい状態で過ごせる治療法を選ぶこと。
17
なぜ、ユニクロだけが売れるのか
川崎幸太郎
ぱる出版
2009/01/21
この本は、途中で挫折した。
なぜ、ユニクロで買い物をするのか。
ユニクロって、衣料品の100円ショップなのではないか。
アパレルメーカはセンスと個性を競った。
女性は、10店舗を廻って、一点しか購入しない。
しかし、ユニクロは、個性を消した。
柄物を置かず、デザインはシンプルで、誰にでも着られる。
既存のアパレル店は、儲けにならない商品として、それらを店舗に置かなかった。
そして、ユニクロは低価格と品質を確保するシステムを作り上げた。
しかし、なぜ、ユニクロだけが売れているのか秘密が分からない。
16
ドクター中川の”がんを知る”
中川恵一(東大病院放射線科準教授)
毎日新聞社
2009/01/20
健康診断の必要性と癌についての情報は錯綜しています。
健康診断が役に立つのか。
どのような健康診断が役に立つのか。
PETは有効なのか。
医療は理系の学問ですから、ここらについて一義的な答が出ないのでしょうか。
そこで、名医が書いた癌の本を読んでみました。
教訓は、タバコはダメということと、健康診断の必要性です。
健康診断におけるPETの有効性は証明されていないそうです。
P16
私たちの健康なからだでも、毎日5000個ものがん細胞ができているといわれます。そして、毎日毎日、できたてのがん細胞を免疫細胞の力で片っ端から殺しているのです。しかし、「5000勝無敗」の闘いは、いつまでも続けることは不可能です。
P21
とくに、たばこはがんの原因の3割を占めるため、禁煙が一番大事です。若い人のたばこはとりわけ危険で、10代で吸い始めた人は、吸わない人の6倍も肺がんによる死亡率が高くなります。
P24
しかし、がんは千差万別で、治癒率が99%のがんも、0%に近いがんもあります。どちらも、同じ「がん」と呼ばれますが、患者さんの立場では、とても同じ病気とは言えないでしょう。
P26
実際、検診が有効ながんは、それほど多くはありません。大腸がん、子宮頸がん、乳がん、胃がん、くらいと言われます。しかし、日本では、検診の有効性がはっきりしているがんについても、受診率が低く問題です。
P33
その上、実際は余命など分からない場合が多いのに、余命を短く言う医者ほど「名医」になれます。本当の余命が1年でも「3カ月」と言えば、9カ月間も「延命」したことになるからです。逆に1年と宣告し、3カ月で亡くなれば患者の遺族から「医療過誤」と訴えられるかもしれません。医療への視線が厳しくなるほど、医師が患者に告げる「余命」は短くなります。医師に余命など聞いてはいけません。
P67
しかし、中くらいの速さで進行するがん(それでも最初の一つのがん細胞の発生から死に至るまで10年以上かかるのが普通です)の場合、定期的な検診で早期のうちに発見できれば、がんによる死を防ぐことが可能です。
P69
欧米ではがんによる死亡が減っているのに、日本では増えている「がんの国際格差」は、この「検診受診率の格差」に理由の一端があるともいえます。
全身を特殊な放射線装置で調べるPET検診(陽電子放射断層撮影)が一時ブームとなりましたが、この検診の有効性を裏付けるデータはありません。
15
仕事ができる人はなぜレッツノートを使っているのか?
山田祥平
日新聞出版
2009/01/20
私の仕事環境と、ほぼ、同じ。
たぶん、私の方がレッツノートを使いこなしています。
事務所でも、自宅でも、出先でも、常に、レッツノート一台です。
さらに、この書籍に補足すれば、仕事ができる人は次のソフトを使っています。
秀丸エディタ
秀丸メール
Atok
仕事ができない人は次のソフトを使っています。
ワード
Outlook Express
P25
たとえば、東海道新幹線ののぞみに乗って、先頭車両から最後部車両までを歩いてみるといい。少なからず乗客が座席にすわってパソコンを使っているはずだが、おそらく半分以上がレッツノートを使っているのを確認できるだろう。
P28
大地震に襲われるようなことがあっても、レッツノート一台持ち出せば、何も失うものはないくらいにすべてを覚えていてほしいのだ。
P50
物理的に使うことができない場所以外では、できる限りパソコンを使うようにする。そう自分に課することで、パソコンと自分の関係に変化が出てくる。そうなってきたらしめたもので、パソコンとの関係が加速度的に近いものになっていくだろう。そうでなければ人生の凝縮だなんて照れくさい台詞は出てこない。期待しなければ期待に応えてくれないのがパソコンだ。
P109
メモ書きに使っているのは、シェアウェアの「秀丸エディタ」だ。すでに15年近く使っているだろうか。確か4000円程度だったはずだが、バージョンアップは無料なので、最新版まで追加の費用は発生していない。原稿書きもこのエディタを使うので、いったい4000円でいくら稼いだか。おそるべきコストパフォーマンスだ。
14
サブプライムを売った男の告白
リチャード・ビトナー
ダイヤモンド社
2009/01/18
サブプライムローンの融資現場での融資基準とその抜け穴、不正の手口を融資担当者が語っているというまさに生の現場の状況をレポートする部分に本書の価値があると、訳者が語っています。
ただ、この訳者は胡散臭い。
もっとも、大きく儲けた事業家を胡散臭いと考えるのは、私のコンプレックスなるが故だろう。
13
平成経済20年史 ☆
紺谷典子
幻冬舎
2009/01/18
紺谷典子って誰。
私は、そんな知識レベルだったので、この本のタイトルを見たが、手に取らな
かった。
しかし、これは読むべき本だと思う。
破壊のみしか行わなかった小泉政策を、冷静に批判している。
小泉政策が奪った人生と財産は、どのぐらいの金額になるのだろうか。
小泉政策の後遺症に、日本人は、さらに何年、苦労を味わうのだろうか。
著者の主張が、全て、正しいとは思いませんが、しかし、この著者の視点で批判をするのが学者の存在価値なのだと思う。権力が行おうとしていることを、批判的な視点で国民に説明するのが、知識人と言われる人達の存在価値なのですから。
3P
平成の20年は「改革」に明け暮れた20年でもあった。日米構造協議に始まった平成の改革は、「政治改革」、「行政改革」、「財政構造改革」、「年金改革」、「医療保険改革」、「三位一体の改革」など、他にも数々の改革が進められた。
日本の人々は「改革」が好きだ。改革と名付けられただけで、中身を疑わず、良いこと、正しいことと思い込むほどでである。
しかし、これだけ多くの改革を進めてきたにも係わらず、国民生活は一向に改善せず、むしろ、悪化している。
4P
一時的な回復局面はなんどかあった。だが、立ち上がろうとしては叩きのめされ、また、立ち上がろうとしては叩きのめされ、一体いくたび、それを繰り返したことであろう。叩いたのは、日銀であり、財務省であり、米国金融であった。彼らは自分の利益のために、日本経済を犠牲にしたのである。
小泉改革が、景気回復をもたらしたというのは、ほとんど嘘である。戦後最長のいざなぎ景気を抜いた「最長の景気回復」と政府は言ったが、そういう政府自身、デフレ経済からの脱却を宣言できなかった。雇用者所得が低下を続ける景気回復なあどあるものか。
P36
異質なのは日本だけではない、各国はそれぞれに異質だからである。経済システムといえども、その国の歴史・文化・風土・国民性から離れた存在ではない。経済活動のありようは、地形や気候にも左右される。
そして、どの国も与えられた条件の中で、自国にもっとも適したシステムを自然に選択しているはずである。それぞれの国の条件が異なる以上、結果として選択されるシステムが同じであるわけはない。資本主義のかたちも一様ではない。それぞれの国々は、それぞれに異質な、というより個性的なシステムを持っているのである。
P41
バブル破裂後、日本でしばしば用いられたのが、「山高ければ谷深し」という相場の表現だ。日本経済が大きな傷を受けたのは、バブルが異常に大きかったので、落ち込みも深くなった、という意味である。
しかし、そうではない。異常だったのはむしろ谷の方なのだ。谷があまりにも深く抉られたので、それだけ山が高く見えただけなのである。
P47
日銀と大蔵省は、知っていたはずである。日本の企業も銀行も、多くの株式を保有していることを。株価が下がれば企業と銀行の財務が悪化し、実体経済に少なからぬ影響を与える。銀行融資が、不動産を担保としていることも知っていたはずである。地価が暴落すれば、担保割れが生じ、資金繰り倒産を招きかねないことを。融資の焦げつきで不良債権を抱えれば、銀行が融資をなお絞り込むことを。
P69
平成7年、住専7社は、6兆4000億円という巨額の債務超過を抱えて破綻し、その損失を誰が被るかという問題が生じた。
P71
平成5年、住専の経営悪化が明らかになり、融資を引き上げようとする農協に、大蔵省は「住専の債権は母体行に責任を負わせる」と保証し、融資の継続を求めたのである。たとえ住専が債務超過になっても農協からの融資は必ず返済する、決して損失負担はさせない、と保証したのである。
「母体行に責任をとらせる」と押印までして約束したではないか、という農協の抗議に対する大蔵省の返事は、驚くべきものだった。「あれは正式な局長印ではない」と白を切ったのである。私印であろうと局長印であろうと、押印は押印だ。これを詐欺と言わないなら、何を詐欺と言えば良いのか。
P88
もちろん、メンバーとして大学教授などの専門家も選ばれている。しかし、多くは、決して自分の意見を言い張ることのない、穏やかな人々だ。省庁の本音を知らないわけではないが、いや知っているからこそ、それに強く逆らわないことが大人の対応と心得ている。言い方を変えれば、専門家としての信念と誇りにそれほど固執しない人々なのである。
P89
時に、辛口と評される有名評論家や大学教授が選ばれることがある。しかし、実は彼らの批判は的外れであったり、ありきたりだったりで、省庁の最も痛いところをつくことはほとんどない。役所側は、ご無理ごもっとも、と頭を垂れてみせれば、批判派もメンバーに選んでいるというポーズをとることさえできる。
P130
たとえ緩やかであれ、成長経済であればインフレが生じるのが普通である。経済成長の過程において、購買力の増加はすぐに需要になって現れるが、供給(生産)を増やすには時間がかかるからである。稼働率の増加で追いつかなければ、設備投資も必要だ。需要が先行し、供給とのギャップが常態的に生じるので、インフレを招くのである。
P139
また、クレスベール証券で販売の先頭に立った人物は、日経金融新聞に定期的にコラムを書く高名なアナリストだった。買い手はさぞかし信用したことだろう。事件発覚後、彼のコラムはなんの断りもなしに紙面から消えた。NHKの「クローズアップ現代」が、この商品を紹介してしまう、というおまけまでついた。外資はフェアで効率的というビッグバンの謳い文句が、外資の詐欺を助けたことになる。
12
マイクロソフト戦記 世界標準の作られ方 ☆
トム佐藤
新潮新書
2009/01/17
ウインドウズが世界標準になるまでの顛末を、インサイダーが語った。
この時代の最高の出来事は、ウインドウズの世界標準かもしれない。
世界標準になる保証も、必然性もなかった。
どのように必然性が作られたのか。
どのような成功例にも、その影には偉大な経営者がいるのですね。
偉大な経営者は成功を作り出す運にも恵まれ、そうでない経営者は過剰反応によって自滅する。
トロンは、米国政府の圧力で開発が頓挫した。
これは都市伝説だそうです。
P125
なぜ、ウィンドウズはデファクトスタンダードになりえたか。
テクノロジーの波を何回ものバージョンアップで乗り越えたから。多くのOEMライセンスによって出荷台数を増やしたから。機種の垣根をなくし、ハードやソフトを作りやすいようにしたから―どれも当たっているが、その成り立ちを振り返ると、初期のウィンドウズが生き残れたのは単に幸運だったという見方もできる。
というのも、ウィンドウズの立上げから5年間はゲイツ以下、私を含む関係者は実に多くのミスを犯し、テクノロジーの波にも乗れずにいたし、PCメーカー、ソフトメーカーに何度も見捨てられた。
では何がラッキーだったかというと、競争相手が次々と墓穴を掘って消滅して行ったことだ。
もっとも、ウインドウズもその一つになりかけたことは何度もあった。
P130
ビジオンのデモから1年、マイクロソフトでの開発は遅々として進まなかったが、ビジオン出荷の翌月、待ち切れなくなったゲイツは、ウィンドウズをプレス発表してしまう。彼の構想では、そのウィンドウズはマルチタスク機能、ディバイス・インディペンダンス、GUI、MS−DOSとの互換性を持つものであった。
P156
その時の成毛らの決断は、その後日本でのウィンドウズの普及に大きな影響をもたらした。営業担当者は、AX陣営のPCメーカーを訪問してこう言ったのだった。
「GW−BASICは廃止され、ウィンドウズ2.0にアップグレードされます」。
これを聞いて、AXの先頭に立っていた三洋がウィンドウズの搭載を決め、ほどなくAXメーカー全社がウィンドウズに右に倣えしてしまった。
P169
ソフト開発を促す方法を思案していたある時、英語版のウィンドウズソフトを日本語版ウィンドウズで試してみた。すると案外簡単に動いた。それならば日本独自のソフトを日本のソフト会社に作ってもらうより、アメリカ企業にウィンドウズアプリを日本語化してもらうのが、てっとり早いじゃないか。そう私は考えた。
P234
4ヵ月で100万本、1年で400万本。発売するやいなやウィンドウズ3.0は劇的に普及した。グラッドウェルの『ティッピング・ポイント』で言うところの「爆発的な感染」である。
P239
91年には386機種の約半分、翌年には8割が3.0を標準搭載するにいたり、かなり遅れたが94年にはIBMまでが、3.1を標準搭載したバリューポイントを通販し始めた。
ウィンドウズのデファクト化は、このように90〜94年、ウィンドウズ3.0から3.1にかけて畳みかけるように起きたのである。
P176
現在でも、マイクロソフトがロビー活動によってTRONを謀殺したという話が、都市伝説のように伝わっている。しかしそんな映画もどきのことはなかったし、ウィンドウズの出荷作業に忙殺されていたため、それはミッション・インポッシブルであった。さらにウィンドウズ2.0に対して最も積極的だったのは、実はBTRONを作っていた松下電器であり、ウィンドウズをPCビジネスの中核とする姿勢をはっきりさせていた。
11
禅資本主義のかたち TKCモデルの研究
東洋経済新報社
宮田矢八郎
2009/01/16
TKCを利用している税理士は多いので、非常に優れている思想、あるいはシステムなのだと思うのですが、部外者には、幾度聞いても、その良さが分かりません。
TKCは、要するにフランチャイズだ。
会計処理は当然として、従業員の雇用、事務処理の仕方、日々の研修、さらには先輩税理士のアドバイスなど、どのように事務所を経営するかについて、フランチャイズシステムの全てが整っている。
このような説明を受けて納得していたのですが、どうも、本書を読むと、違うらしい。
TKCは、mixiと同じソーシャル・ネットワーキング・サービスなのかもしれない。
つまり、閉鎖された団体だからこそ、自由に発言ができる。
税理士は、同業者では、自由に会話ができない業界です。
レベルに違いがありすぎる。
だから、何かを質問すると、逆に、知ったかぶりの回答が戻ってくる。
閉鎖され、同質の仕事をしているという仲間意識があれば、会話が成立しやすくなるのではないか。
「俺達、いずれTKCだもんね」という意識です。
このような団体なのだろうか。
業界の多数が加入し、支持する団体ですから、素晴らしい団体であることは確かだろう。
その理由を知ってみたい。
多数の支持があるのだから、そこに正義があるはずだ。
P3
TKCの主たる顧客は全国の税理士事務所であるが、第5章で詳述するように業界シェア28.3%を占めている。税理士業界は一般のビジネスマンにはやや縁の薄い領域で、税理士を顧客とする事業が存在することすら思い付かないのであるが、そこで9500人、8350事務所の税理士が加盟(税理士総数7万664人、2008年3月末)、事務所ベース(税理士事務所総数2万9480、2006年10月1日現在)で28.3%のシェアを押さえることは驚異的でさえある。
P73
飯塚の経験を追ってみよう。飯塚は大日経を引用しつつ、人間が本当の自己を徹底して知ったならば―、「この境地に達したときに、人間は五種の神通力を得るのだ、と説いています。天眼通、天耳通、他心通、宿命通、神足通、漏尽通。われわれ会計人にとっては、この五神通のうちの他心通だけでも、せめてこの一つだけでも、身につけることが、願わしいことではないでしょうか」。
P84
以上のような消息を飯塚真玄は社内報「とこしえ」の巻頭言(平成8年10月号)の中で説明し、「利他を以て即ち自利となす」との文言は最澄の『顕戒論』にはあるが、「自利とは利他をいう」との直接的な文言は実はどこにも存在しない。ということは「自利とは利他をいう」との言葉は飯塚毅のオリジナルと評すべきもので、「利他を以て即ち自利となす」との『顕戒論』の言葉に触発されてもっと直截に、「自利とは利他をいう」と読み替えた。このことは飯塚毅の書いた「自利利他」の色紙に「録最澄之解釈」とあることからも明らかである、と述べている。事業の根幹をなす概念であるだけに出典等、厳密な議論が展開された時期のあることがわかる。このようにして飯塚は「自利利他の聖行の実践」をTKC事業の根底に据えた。
10
なぜ「大学は出ておきなさい」と言われるのか
浦坂純子
ちくまプリマ−新書
2009/01/14
大学に行かないと、大学って、何か、凄いところと思える。
しかし、大学に行けば、大学って何もないところだと分かる。
つまりは、大学は、そこには「何もない」ということを知る為に行くところ。
しかし、大学に行かなければ、大学に行かなかったことのコンプレックスを抱えて生きなければならない。
そのコンプレックスが無駄なので、大学には行った方が良い。
本当は、そのコンプレックスこそが、社会を勝ち抜くためのエネルギーです。
さらには、税理士業界では、日商簿記1級を受験資格とする人達こそが秀才。
学歴が高くなればなるほど、税理士資格としては問題が多いのは、この業界では周知の事実。
P73
経済学では、「投資」に対する言葉は「消費」です。「投資」が利益を得るために行うのに対して、欲望を充足させるために行うのが「消費」です。
その先に利益をはっきり見据えている中国では、教育が「投資」に位置づけられていることは明白ですが、日本ではどうでしょう。
教育がお金と時間を浪費するだけの「消費」になっていませんか?
だとすると、人的資本は4年間で増えるどころか、下手をすれば減っているかもしれません。
大学院への進学を決意した学生が、よく無邪気に嘆いていますよ。
「大学受験の頃の英語力があれば…」って。
おいおい、それは聞き捨てなりませんなあ。
P75
エッセイの趣旨はこうでした。養老さんが勤めた東京大学医学部には、医師としての適性云々ではなく、偏差値の高い学生ばかりが集まってくる。
しかし、医学部の役割は、普通の患者さんをまともに診察できる能力の養成にあるので、はっきりした目的意識を持たなかったり、理詰めでしか対処できなかったりする天下の秀才ばかりが集まってもらっても困る、と。
そこで一つの提案が示されます。
「東大の入試に通ったら、合格証書を出すというのはどうだろう。“東大なんとか学部”という学歴のブランドだけが欲しいなら、一応入試に通る実力はあるよと、大学がお墨付きを出してやればすむのではないか。
なにも4年間も辛抱してもらわなくていい。本当に何か勉強したい人は、大学に残ればいい」。
この提案が示唆しているのが「シグナリング理論」なのです。
つまり大卒者が4年間で人的資本を増やしたかどうかにかかわらず、大卒者ということが、入試を突破できるだけの「チカラ」を持っていることの「シグナル」になるので、その「シグナル」に基づいて雇う側は高賃金を設定するということになります。
P77
さらに、次章以降で繰り返し取り上げるように、大学の入試制度も多様化していますので、利用した入試制度いかんでは、大卒者あるいは学校歴という「シグナル」が、もともと持つ「チカラ」の目安にならない場合もあります。
例えば学力試験が課されない推薦入試を利用した人は、その人が発する大卒者あるいは学校歴の「シグナル」は、学力面に関しては弱いと見なされることになるでしょう。
9
失敗に学ぶ不動産の鉄則
幸田昌則
日経プレミアムシリーズ
2009/01/13
不動産経営についてのアドバイザーが、不動産投資の考え方とリスクを語っています。
当然のことを語ってますが、その当然のことが出来ないのが素人。
で、私が語るとしたら。
不動産投資(アパート)の必要条件は次の通り。
【1】 18歳から28歳の女性が住みたくなる町で
【2】 駅前には花屋とパン屋があり
【3】 散歩している犬は雑種の柴犬ではなく、純粋種の洋犬で
【4】 駅から5分以内の3階建て以上の鉄筋コンクリート造り
【5】 可能なら山の手線の駅で、駅がホームより上に出る駅
資格を基本にした自由業種には何の経済的な保証もない。
病気になれば終わり、死んでしまったら家族は路頭に迷う。
不動産投資もリスク回避の一方法です。
その場合は、20年ローンを組んで、それを10年で返済してしまうことが必要。
P40
90年のバブル崩壊直後に海外から来たファンドは当初、東京都心のオフィスビルの取得にあたって収益性を重視した購入価格を提示しました。
年利で15パーセント前後(表面利回り)ぐらいで取得する例が多く、中にはそれ以上の利回りで購入したケースもありました。
その後は不動産の取得競争が激しくなって価格が上昇し、ついに利回りが3パーセントを切る水準までハードルを下げて購入する事例も数多く見られるようになりました。
P63
地方都市でオフィスビルに投資すること自体がリスクと考えるべきでしょう。なぜならば、地方経済は低迷を続け、職場数の減少傾向が止まらないからです。
大阪市内でも状況は同じで、日本で最も職場数の減少率が高いのですから供給量は現在でも過剰と言えます。
P71
これらの不動産市場の動きを見ると、みんなが買うときに競って買うと失敗し、逆に、みんなが売るときに買うと成功につながるということが理解できます。
その意味では、08年以降の日本の不動産市場では、売り主が増え、買い主が急減してきています。
住宅に関して、下げはじめの焦りは禁物と書きましたが、投資という面からは、お金に余裕のある人(手元の現金が豊富な人)にとっては、やっと「買い場」がめぐってきたということになります。
これから先は、買い手の主張が通りやすくなりますから、投資家にとっては楽しみな時代の始まりと言えます。
P74
いくら相続対策といえども、不動産の所有は、一つの事業です。その事業の運営を軌道に乗せること自体が重要です。これは節税とは別の話です。
P87
マンションや戸建ての分譲業者、買い取り転売をする不動産業者で、20年、30年と長年にわたって事業を継続できている企業はそれほど多くはありません
なぜに、これほど浮き沈みが激しいのでしょうか。
それは、事業の拡大を絶えず図り、市況に変化があっても「休んで様子を見る」ことをしないからです。
もっと正確に言うと、「休むべきときに、休めない体、休めない経営体質になってしまっている」からです。
P89
昔から、商売の世界では「扇子商法」という言葉があります。「広げるときとたたむとき」を自在にできる体質や事業の仕組みを表わします。
P90
世界情勢に関心を持ち、勉強をすることはもちろん大切ですが、これまでのさまざまな歴史的な動きを考察すれば、安定的に不動産事業を継続するには、ある地域や特定の分野に絞り込んだ展開が必要です。
不動産は、地域固有のものです。地域による事情の違いを十分に研究もせず、「札束」を持って知らない地域で事業を展開しようとしても成功は難しいでしょう。
8
会社は毎日つぶれている ★
西村英俊
日経プレミアムシリーズ
2009/01/12
日商岩井の社長として350件、6000億円の不良資産を処分し、経常利益1015億円、当期純利益627億円の会社として立て直した社長の経営論です。
ひと味違った経営論を読ませていただきました。
掛け値なく、書いてあることは、全て正しいと思います。
P16
それでは、根本に戻って会社がつぶれるところに話を戻しましょう。もうおわかりのように、あなたは社長として会社をより良く成長させ、より強い会社にするという使命を与えられたのですが、会社の成長の前に、より良くする前に、まずこの会社をつぶさない、いささかも減衰させないということが出発点であるべきなのです。社長になった途端、これは忘れがちです。いや、最初から思ってもいなかった社長さんもたくさんいらっしゃいます。しかし今一度この
機会に考えて、思い返し、思い直してみましょう。
P18
突然にして予期せざる不慮の災厄。しかし、社長であるあなたは「不慮」と言ってはいけません。慮外、考えなかった、考えていなかったこと、想定しなかったそのことが、社長の罪と認識すべきです。本来こんな事象が起こることを予知する情報収集を怠っていたということに過ぎません。また百歩譲って全く予知することができないと客観的にも証明されたとしても、リスク分散をせず偏重しすぎて致命的な傷を負ったという責任は残ります。不断の努力、持続する緊張感の不足ということです。
P24
すべてのリスク因子を察知し、受けとめながらこれをいちいち言いたてることなく、表面は平然としながら、会社の成長を語る。成長の手段を講ずる中で巧みにリスクの芽を摘み取る施策を埋め込んでいく。まさに社長業の醍醐味でしょう。毎日毎日つぶれていく会社をつぶさない、こんな快感はありません。
P138
事故や失敗に関する情報の中で「大丈夫」という報告ほど信じてはいけない情報はないのです。あなた自身が、どうして大丈夫なのか、大丈夫な仕組みになっているのか、第三者の目で判断して大丈夫と言えるのか、考えに考えてみて出した結論が、はじめて「大丈夫」なのです。報告にある「大丈夫」はそれが日頃どんなに信頼する部下の報告であっても、そのまま「大丈夫」ではあり得ない、と考えるのが社長の仕事です。何しろあなたが「大丈夫」と思ったその時から、誰も会社がつぶれるのを止められなくなるのですから。
P178
レベル0は法を守れないレベルです。これは日本語で非合法、英語ではイリーガルと言って、自分の心で感じる気持ちは「恥」です。
レベル1はなんとか人聞らしい人間として認められる最低のレベルで、日本語では合法、英語ではリーガル、心では当たり前のことなので、感ずる言葉はありません。
レベル2は人間社会の道理にあって生きる価値のある生き方です。社会の作法です。これは日本語では道徳と言って、英語ではモラルです。心の感じ方は「人の道に外れない」、「人に愧じない」です。他人に迷惑をかけないというレベルで、普通の社長さんが持っていなければならないレベルです。
そしてレベル3、これが社長、あなたには持っていてほしい順法のレベルです。順法と言っても、国会などが定めた法律ではなく、人間が人間性を持って定めた暗黙のルールです。このレベルが言うのは人間の心として全く指弾を感じることなく疑問の余地なく生きることができる順法です。つまり自分自身の心に従って何の迷いもなく従える正道、自らの「心に愧じることのない」というレベルです。日本語では倫理と言いますし、英語ではエシカル(ethical)と言います。
P205
そうやって辞任をするために、あなたが社長になってすぐにやらなければならないこと、それは後任の社長候補選びです。最初から一人であるかもしれず、複数であるかもしれません。また昨年と今年では違っているかもしれません。しかしいつ燃え尽きてバトンタッチをしてもいいように、常時候補者を持っていることが大切です。候補者を持ったらその案を信頼できる社外取締役と相談することが必要です。
7
2001夜物語 ☆
星野之宣
双葉社
2009/01/11
3巻のSF漫画です。
発表されたのは20年も前ですが、理系の人達にも評判が良かったストーリ。
この漫画でサタンのセリフを読み、結局、ミルトンの失楽園まで読むことになりました。
絶版になっていたのか、何度か探したが見付けられなかったものを、今日、見付けた。
1巻 156頁
それにしても知識が禁じられるとは
そんな奇怪な無法なことがあり得ようか
なぜ彼らの主は知識を与えることを惜しんでいるのか
知るということが罪であり、死であると、どうしていえるのか
それが彼らの幸せであり、服従と忠誠の証だというのか
6
頭が良くなる速読法
佐々木豊文
PHPビジネス新書
2009/01/11
もし、速読法というものがあるのなら、理解してみたい。
マスターする必要は感じていませんが。
で、著者は、3つの速読法を、まず、分類する。
a 拾い読み、飛ばし読み等を含む速読法。
これを利用する人達は読書家なので、既に、かなりの知識を有している。
その知識から、推測、想像を駆使し、部分読みで内容を把握する。
b アメリカで作られた方法で、ひとめで読み取れる文字数を多くする方法。
c 韓国で提案された方法で、速読脳開発プログラムに従う。
高速に順に読み取る視知覚能力を開発し、それをもとに高速理解能力を開発する。
前者を速読眼、後者を速読脳と呼ぶ。
私が利用している方法はaです。良い書籍は一文字も疎かにせずに読みますが、ただ、読めばよいだけの書籍は、段落毎に2行程度を、飛ばし読みし、その書籍のテーマが、どこに書かれているかを探す。
さて、本書はcの手法を紹介しているが、具体的には、どのような手法なのだろうか。
速読眼は訓練でマスターできるが、速読脳は、やはり、理解力の問題が前提になるそうだ。
P73
たとえば、「犬」という文字を見た瞬間に、「イヌ」という音に直さなくても、犬のことだと理解できるでしょう。その能力を発達させることで、文章でも見た瞬間に理解することができるようになり、速く読むことができるようになります。
このように文字を瞬間的に読み取り、理解する能力を、「速読脳開発プログラム」では「視読」と呼んでいます。
「速読脳開発プログラム」は、読書能力を黙読から視読へと発達させるトレーニング・システムだということができます。音声化せずに理解し、それを処理できる回転の速い脳を作る。そしてまた、高速で文字を追える眼を作る、というものなのです。順序としては、速読眼を作ってから、速読脳を作ることになります。
P147
速読脳の説明をしてきましたが、速読脳を開発する前に速読眼を作らなければなりません。普通は、ただ文字を眼で追うだけで理解しなくても、1分間に約2000字程度しか追えません。まず、文字を高速で追うことのできる眼が必要なのです。
P150
トレーニングによって、この周辺視野を中心視野のように使える、つまり周辺視野でも文字が読めるようになります。すると、文字を読める範囲が広がるわけですから、眼球を大きく上下運動させなくても読み進められるようになります。
P186
「速読脳」は、私たちが今持っている読書能力が高度に発達したものですから、現在の読解力がその基礎になっています。速読能力を開発するには、まず日常生活のなかで、基本的な理解力を養うことが大切です。
P187
教室で指導をしていても、「速読のトレーニングに入る前に、まず理解力を伸ばすことが必要なのでは?」と思わせる方がいます。説明していることが正確に伝わらないからです。
P192
文章は、言葉を通じて、出来事や知識だけでなく、何らかの雰囲気を伝えようとしています。言葉の意味だけで理解するのは表面的で、本当の理解とはいえません。雰囲気をふくめて、イメージとして理解できてこそ、本当の理解です。そのために、様々なことに関心を持つ心の広さ、心のゆとりを持ちたいものです。
5
リーマン恐慌
岩崎日出俊(元リーマン幹部)
廣済堂出版
2009/01/07
投資銀行は、預金を預かれない。
だから、商品を作って売るだけ。
その投資銀行が、なぜ、不良資産で倒産したのか。
リーマンは69兆円もの資産を所有していたのだ。
これは資本勘定の31倍の資産になる。
元リーマンの幹部ですから、業界の実体について中身の濃い解説があると期待したのですが、その点はあんまり。
もっとも、守秘義務がある故に存在価値が認められているアドバイザーですから、過去の実績を語らない著者は、職業人としてはプロなのかもしれません。
4
ランド 世界を支配した研究所
アレックス・アベラ
牧野 洋
文藝春秋
2009/01/06
この書籍の読破には挫折しました。
良い書籍なのですが、あまりにも中身が濃すぎる。
熱中し、集中して読まない限り、読みこなせない。
第二次大戦における日本との戦争、ドイツとの戦争、ベトナム戦争などについて政策を提言し続けシンクタンク。
ゲームの理論、インターネットなどもランドの実績だそうです。
読みこなせないので、引用し、切り抜くべき部分も、特定できない。
貴重な書籍として、挫折の記録をメモして起きます。
3
失敗は予測できる
仲尾政之
光文社新書
2009/01/06
faxの送信ミスを経験したら、そのミスが生じないシステムを作る。
同僚とのコミュニュケーションミスを経験したら、そのようなミスが生じないシステムを作る。
事故に学ぶ必要があります。
さらには、事故が起きる前に、事故を予見する繊細さを持つべきだと。
過去の事例を研究せず、経験に学ばないから、同種の事故が繰り返される。
それが著者の主張です。
P21
「人類初」の事故はあるか
このように、ある事故は、別の場所で起きた事故と何らかの類似性がある。実際、筆者はこれまでさまざまな事故例を見ていて気づいたのだが、「この事故は人類初」というような偶発的なものはめったに起こらず、そのほとんどが類似災害である。
P28
ところで、筆者の経験から言うと、もともと失敗を活かせない人は何度やっても活かせない。なぜなら、失敗を活かせない人というのは、月曜日のカギをかけ忘れた失敗と、水曜日のガス栓を閉め忘れた失敗が似ているとは決して思わないからである。
P99
この、リスクを回避しようと思う気持ちと、それが面倒であると思う気持ちの違いは何だろうか。筆者は、自分がそれに対してリスクとしてきちんと認識しているかいないかの違いだろうと思う。リスクは予想損失×発生確率である。自分に降りかかるであろう失敗の発生確率がゼロであると信じていれば、リスクもゼロになる。
リスクがゼロであると思っている人のほうが、ふだんからリスクに備えている人よりも事故に遭遇する確率は高いことはいうまでもない。
P137
責任者を代える
話を元に戻そう。もし事故が起きてしまったら、さっさと責任者を代えたほうがよい。なぜなら、事故の責任者は事故後、気力を失ってしまうケースが多く、組織もまとまりがつかなくなるからである。ところが日本人はなかなかそうドラスティックに指揮官を罷免しない。
2
実録詐欺電話 私はこうしてだまされた
日向野利治
すばる舎
2009/01/05
経済評論家、あるいは財テク評論家として著名な著者が、ある日突然にかかってきた電話の相手のいうまま、現金を振り込んでしまった。それも2度もだそうです。
振り込み詐欺の報道などは誰でも目にしているが、それでも騙される。
その理由は知識不足にあるというのが著者の主張なのですが、でも違うと思う。
騙されるのは「絶対に儲かる株式投資」「お買い得の不動産物件」などを信じる人達。
つまり、あり得ることと、あり得ないことの区別がつかない人達が、詐欺師のカモなのだと思う。
P146
それにしても、われながら「よくもまあ、次から次へと、だまされるものだ」と感心する。
だまされやすいのは性格的なものもあるが、何より知識のなさにも起因している。そう思って、いろいろ猛勉強した。
P167
私のように、だまされてからでは遅い。まずは、だます輩の手口を知り、予備知識で「武装」することである。
敵が悪質ならば、それに応じた備えで自己防衛する以外に、被害を回避する手だてはない。
P192
こんなことがあった。あるときマンションに「清掃の会社です」と若い女性が来た。
部屋が汚くて悩んでいたときだったので、いわれるままに清掃の契約をしてしまった。
ところが見積り請求額を見て驚いたのなんの。
金32万円也。さすがにすぐクーリングオフをした。
天国の妻もあきれるような話である。
1
年齢は財産
角田光代他
光文社
2009/01/03
サラリーマンをしていれば、強制的に歳を取らされます。
係長になり、課長になり、部長になり、取締役になれば、それ相応の振る舞いが要求されます。
しかし、弁護士には、これがない。
だから、自分自身で意識していないと、成長もなく、時間が経過してしまう。
自分の年齢を時には思い出し、自分自身に言い聞かせていないと、実年齢とは異なる年齢の行動をしてしまう。
さて、私が、精神的成長を止めたのは何歳だっただろうか。
では、年齢は財産か。
もちろん財産です。
判断の基本になる大量の知識と、語ることができる大量の経験。
今までに出会った良い友。
私流の仕事の仕方。
全て、年齢によって得た私の財産です。
成功の数だけ、年齢の数がある。
年齢の数だけ、失敗の数が減る。
しかし、角田光代の指摘は鋭い。
角田光代が42才で若さを論じていることから思い起こせば、誰でも、30才、40才、50才で、常に、それより若い人達と比較し、強がりを言っていることになるのだろう。
人間は30才を過ぎれば、常に、高齢者なのだ。
若さを誇れるのは、自分よりも年上の人達が目の前にいる場合に限るのだろう。
36頁
まったくの私感だが、人は、精神的成長を止めた時点の年齢を、自分の実年齢と無意識に思うようなことろがあるように思う。
私は27才で精神的成長を止め、その後、ほとんど何も変わっていない。
成長も成熟もない。
年齢を重ねていっても、考えていることは27才のまま、つねに自分が34才であると意識していないと、27才のときと同じ服を選び、27才のときに魅力を感じたよな男の子を好きになり、27才のときとまったく同じような酒の飲み方をし、27才のときに書いていたものと似たような小説を書いてしまう。
たぶん、私がかって出会った「大人」たちも、見かけは存分に大人だが、中身はそれぞれ20代、30代のままだったのではないかと思う。
大人の考えていることはわからないと私は断じていたが、彼らも小娘の私と似たようなことを考えていたのではないか。
だから、私が緊張せずに話しかけていたら、ごくふつうに言葉を交わせたのではないか。
自分が大人と言われる年齢域になって、私はそう思うようになった。
P38
でも本当にそうなのだろうか?負け惜しみでもなんでもなく、単純に疑問に思う。若いことはそれほどまでに礼賛すべきことなのか。
10代、20代のとき、私はその年代の特権を思う存分享受してきた。思春期にはきちんと鬱々とし、親子関係や友人関係に悩み、青春期にはきちんと羽目を外し、暴走し、馬鹿なことをした。我ながら、なんと正しくその時期を過ごしたことかと思うほどである。それぞれの時期はたいへんに愛しいが、しかしもう1度繰り返せと言われたら断じて嫌である。若さ故の疲れること、みっともないこと、馬鹿なことはもうしなくてもいいや、と思う。
P42
自分の書く小説にしたってそうだ。今がベストだとはよもや思わないが、今私が書く小説を、20代の私は逆立ちしたって書けなかったろう。そう思うと、歳を重ねることが純粋にたのしみになってくる。10年後、20年後には、今の私がぜったいに書けないものを書けるはずだと信じることができるから。
中年になり老年になることと比べると、若さの価値なんてひどくシンプルでちっぽけなものじゃないか、と私は今思っているのだが、それをわざわざ声高に言うこともないとも思う。いくら加齢の価値を口にしたって、負け惜しみに聞こえるのがせいぜいだろうし、何も人に伝えるようなことでもない。みんないつか若さを捨てて、べつのものを得る。そのことのゆたかさを、自分の得たものへの誇りを、ただひとりで噛みしめていればいいじゃないか。同じように歳を重ねてきた人とは、何も言わずとも共感できるはずである。まだ若さの渦中にいる人は、だれに言われなくともそのうちひしひしと実感するはずである。
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