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(第3回分)
◆ 9個の種類株式の内容
9個の種類株式ですが、種類株式の内容はさまざまです。1つ目が剰余金の配当についての特別の定めをした種類株式です。これは商法の配当優先株式です。
商法でも、以前には、無議決権株式は優先株式に限るという制限がありましたが、現在の商法にはそのような制限はありません。無議決権株式の場合も、議決権株式の場合も、配当優先株を発行することができます。もちろん、配当劣後株も発行できます。
2つ目が残余財産の分配について特別の定めをした種類株式です。残余財産分配請求権が無い株式や、たとえば、残余財産分配請求権を1株500円までに制限するという株式などが想定されます。しかし、そのような株式を発行した場合に、相続税評価額がどうなるのかは、財産評価基本通達も答を出してはいません。
3つ目として、株主総会において議決権を行使することができる事項について、特別の定めをした種類株式を発行することができます。しかし、これがどういう内容になるのかは、ちょっと想像ができません。
4つ目として譲渡制限株式です。譲渡制限の定めが、一つの種類株式になったということです。全ての株式に譲渡制限を付すのでしたら、譲渡制限は種類株式についての会社法108条の適用ではなく、107条の問題、つまり、株式の内容についての定めになります。しかし、一部の株式に譲渡制限を付した場合は、譲渡制限が付された株式と、譲渡制限が付されない株式が、それぞれ、種類株式になります。
5つ目は買取り請求権付株式です。株主が買取り請求権を有する株式で、107条にも同様の規定がありますが、107条は全ての株式に買い取り請求権を付ける場合の規定です。一部の株式に買い取り請求権を付けるのなら、それは108条の種類株式の問題になります。
6つ目が取得条項付種類株式です。会社から株主に対して買取り請求ができる株式です。つまり、取得条項付種類株式ですが、これも一部の株式に設定すれば種類株式で、全ての株式に設定するのなら、株式の個性になり、107条の問題です。
7つ目が、株主総会の決議によって全ての株式を償還することのできる種類株式です。これは種類株式でしかあり得ない株式です。仮に、107条によって、株式の個性として全部取得条項付種類株式にしてしまったら、株主総会の決議によって株主の存在しない会社になってしまいます。ですから、7番目の株式は、A種類株式とB種類株式を発行する場合に、B種類株式について設定することができる特別の定めです。
8つ目として、特定の事項について種類株主総会の決議が必要だという種類株式が発行できます。これが黄金株といわれている株式です。
9つ目として、種類株主総会で、取締役と監査役を選任することができる種類株式です。ただし、これは全ての株式に譲渡制限が付された会社に限って発行することができる種類株式です。
◆ 種類株式の具体的な適用場面
種類株式を利用すれば、1株を所有すれば会社が支配できるという株式も作れます。具体的にはどのような株式の内容になるのか、幾つかの種類株式について、具体的な適用場面を検討してみることにします。
5つ目として挙げた取得請求権付種類株式は、たとえば、ベンチャーが会社に投資し、上場できた場合は株式を市場で売却し、上場できなかった場合には会社に買い取り請求権を行使するという使い方が想定されます。
6つ目として挙げた取得条項付種類株式は、会社が現金や関係会社の株式、あるいは社債と引き換えに株式の償還を請求することができる株式です。取得条項付種類株式を社員株主に割り当てておけば、社員が反乱を起こしたときには償還権を行使してしまうことができます。償還について、どのような対価を支払うかは先に決めておきます。現金を支払うことも、社債を発行するとの取り決めも有効です。
対価として社債を発行する場合なら、新株予約権付社債の逆バージョンですので、逆転換社債と位置づけることができます。
7つ目は取得条項付種類株式ですが、こちらは株主総会の決議によって、その種類の株式の全てを償還することができます。利用の目的としては100%減資として説明されています。会社更生法などの場合は、更生計画で100%減資が行えますが、私的整理の場合に100%減資を行おうとすると、全ての株式の買い取りが必要であり、実行が困難です。そこで、特別決議をもって、発行済みの株式の全てを全部取得条項付種類株式に変えてしまい、その後に、その株式の全てを無償で償還します。
しかし、幾つかの問題があります。一つは、会社更生法のように債務超過になった場合だけではなく、純資産がプラスの場合も、上記の手続が行えることです。もっとも、その場合は、株主は、株式買い取り請求権を行使すればよいわけです(会社法116条)。ただ、悪用事例として、仮に、20%の株式を所有する少数株主を追い出したい場合は、特別決議をもって、発行済み株式の全てを全部取得条項付種類株式に変更し、その後、償還を実行してしまうとの方法が採用できるのも事実です。その趣旨で作られたのが7つめの種類株式です。
8つ目は株主総会と取締役会の決議について拒否権が行使できる株式です。これが黄金株といわれる種類株式です。このような株式を本当に発行できるのかと疑問に思っていましたが、商法時代に、これが現実に発行されているのですね。どこが発行したかといえば、UFJ銀行でした。東京三菱に宛てて新株を発行しましたが、その株式に次のような8つの拒否権が付されているのです。
@ 定款の変更
A 合併、株式交換、営業譲渡などの組織再編成行為
B 貸借対照表の純資産の25%以上の財産の譲渡
C 株式の発行、新株予約権の発行
D 減資
E 株式の分割、または併合
F 取締役会の選任、解任
G 利益処分、損失処理
すごい株式です。このような株式を1株持っていたら何でもできてしまいます。重要な職員の雇用も拒否権の中に含まれますので、社長夫人が1株を持っていれば、社長が美人の秘書を雇うことも防止できます。
◆ 株主についての特別の定め
ここまでで驚いてはいられません。何と、会社法109条は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について、特別の権限を有する株主を認めました。彼が持っている限りは、その権限を有するという株主を認めたのです。
▲条文▲
第109条(株主の平等)
株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第105条【株主の権利】第1項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
3 前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第5編の規定を適用する。
会社法109条が引用する105条は、剰余金の配当、残余財産の分配、それに議決権の行使についての条文です。ですから、彼が所有している限りは、たとえば、2倍の配当を受け取れるとの定款の定めも有効です。逆に、彼が所有している限り配当を支払わないという定款の定めも有効です。
彼が所有している限りは、残余財産分配請求権が無いという定款の定め、あるいは5倍の議決権を持つという定款の定めも有効です。社長は1株について1000倍の議決権を行使できるという定款の定めも有効です。しかし、その株式は、社長の任期が終われば、通常の株式に戻ってしまいます。
私自身も信じられない条文です。これが株主平等の原則の例外2です。ですから、会社に出資をしてくれとの依頼を受けた場合は、その株式がどういう権利を持つかを調べ、特別の権限を有する株主が存在しないことを確認しない限りは出資には応じられません。
株式自体に、残余財産分配請求権が存在しないと定められている可能性もあります。残余財産は寄付すると書いてあるかもしれません。あるいは、種類株式について、他の株主は配当請求権を有するが、こちらの株式には配当請求権がないという場合もあり得ます。10年間は配当請求権があるけれども、11年目からは配当請求権がないという株式もあり得ます。
議決権についても、1株について、他の株主は10議決権を持ち、当方は1議決権しか持たないということもあり得ます。株式の種類について、定款を確認し、登記簿を確認しないと、出資の要請には応じられません。