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                               (第4回分)

◆ 相続人に対する売り渡し請求

 会社は株式の相続人等に対して、相続した株式の売渡しを請求することができます。この制度の趣旨は譲渡制限株式についての譲渡の承認の請求と同様です。したがって、売り渡し請求権が行使できる旨の定款の定めが必要です。

 商法では、譲渡制限が付された株式でも、相続や合併などの一般承継の場合は会社の承諾は不要であり、相続人等に移転するとされてきました。しかし、これは実務上は、問題のあるところでした。

 仲良しの3人組が会社を設立し、共同して事業を経営してきた。ところが、メンバーの1人に相続が発生してしまい、不出来の息子が相続人として登場してきたとのトラブルは常に存在しました。父親が経営していた会社について、2度も相続が続けば、株主は甥姪にまで分散してしまいます。

 そこで、現代化要綱の時点では、相続についても譲渡承認を要することにすると言っていたのですが、相続は包括承継ですから、当然に権利は相続人に移転し、承諾を得る時間的なタイミングが存在しません。そこで、譲渡承認を要するとの定め方ではなく、相続の場合は強制的に買い取ることができるという条項にしました。

 ▲条文▲
 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
 株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

 ただし、会社からの権利の行使は、相続があったことを知ってから1年以内に行う必要があります。1年が経過すれば、定時総会も開催され、配当も支払われるでしょうから、誰に相続が開始したかを知ることができます。

 ▲条文▲
 第176条(売渡しの請求)
 株式会社は、前条第1項各号に掲げる事項を定めたときは、同項第2号【株式を有する者】の者に対し、同項第1号の株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この限りでない。

 結局は、相続の場合も譲渡承認が必要になったことと同じです。ただし、会社が買い取ることになりますので、会社に会社法461条に定める分配可能額がないと買い取れません。

◆ 株式の消却



 会社法は、株式の消却を自己株式の消却に限りました。このように説明すると、簡単な話に思えますが、これは大変な改正です。つまり、減資と共にする株式の消却は認められなくなったのです。

 商法では、1億円の資本金を5000万円に減資する場合は、株主には5000万円を払い戻し、株式の半数を消却しました。そのような処理が無くなってしまったのです。

 減資しても、資本金が1億円から5000万円に減少するだけです。株数は減りませんし、株主への払戻しもありません。その理由は後に説明します。

 さて、株式の消却ですが、減資しても株数が減らないとしたら、株数は永久に減らないのでしょうか。株数を減らすには二つの方法があります。一つが買い入れて消却する方法です。株主から無償で譲り受けても良いのですが、会社が取得し、それを消却します。株主の手元にある段階での強制消却は認められません。二つめが、株式の併合です。

 株数の減少は、この二つの方法に限りますので、減資払戻しの手続はなくなりましたし、減資による株数の減少もなくなりました。

 資本金と株式の関係は、減資については、完全になくなりました。本当は、資本金と株式の関係を完全に分離したいと考えたのだと思いますが、しかし、増資については、まだ関連性が残っています。

 増資払い込みのない第三者への新株の発行はあり得ません。株主に対しての無償交付との制度はありますが、しかし、第三者に対して株式を発行する場合は、やはり払い込みが必要です。払い込みのないまま、第三者に株式を贈与することはあり得ないと思います。

 この逆のバージョンですが、新株の発行のない第三者からの増資払い込みもあり得ません。新株の発行がない増資払い込みでは、第三者からの会社に対する寄附金になってしまいます。

 新株を発行する場合は、増資が行われ、払い込みがあります。しかし、減資では資本金は減少しますが、株式数は減らず、株主への払い戻しも行われません。そのような意味で、資本の増加ではなく、減少面に限った、一方通行での資本金と株数の関係の切断といえます。

 なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか。おそらく、税法からの要請です。法人税法では、株主が、所有する株式を会社に売却すると配当所得課税と譲渡損益課税が発生します。

 さらに、株数を減らす減資をしますと、有償減資の場合なら、配当所得課税と譲渡損益が問題になり、無償減資の場合なら譲渡損の計上が可能になります。つまり、会社への自己株式の売却と、株数を減少する減資の実質は同じですから、同様の課税関係にする必要があるわけです。

 そのような処理が、有償で行われ、課税所得が発生する場合なら、課税庁にとっては損のない取引です。しかし、無償減資が行われた場合に、株主が譲渡損を計上することは納得し難いことです。

 なぜなら、株主平等に株数が減少する減資では、株主の支配割合は変化せず、したがって、株主には何の損失もないのにもかかわらず、譲渡損を計上し、法人税を節税することが可能になってしまうからです。株主が個人の場合なら、帳簿価格の付け替えで、譲渡損の計上は行われません。法人と個人の課税関係が異なるのも、おそらく、課税庁にとっては気にいらないのだと思います。

 そこで、国税庁が法務省にネゴし、会社法に税法の思想を取り入れて貰ったのではないかと想像するところです。組織再編成税制でも、税法の思想が、会社法に取り込まれています。

 以上のように、減資手続では、株主に対して金銭の払戻しを行わないことにしました。株数を平等に減少させる方法は、株式の併合の手続をもって行うことにしました。株式を不平等に減少する手続は、自己株式の買い入れ消却です。

 そして、株主への金銭の支払いは、解散による払い戻しを除き、全て、剰余金の分配として処理することにしました。後に減資のところで説明しますが、株数を減少する有償減資は、《1》減資と、《2》株式の併合と、《3》剰余金の分配との三つの方法で実行されることになります。

 ▲条文▲
 第178条(株式の消却)
 株式会社は、自己株式を消却することができる。この場合においては、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類及び種類ごとの数)を定めなければならない。


◆ 株式の併合と株式の分割



 株主が所有する株式数を、平等に減少する場合なら、株式の併合の手続が採られます。株式の併合は、商法では、あまり利用されませんでした。しかし、会社法では、有償減資には、常に、株式の併合が伴うことになると思います。そうでなければ、資本金が減額したのにもかかわらず、株数だけが多い会社ができ上がってしまいます。

 会社法では、原則として、株券は発行しなくなりましたので、株式の併合は、簡単に実行することができます。特別決議が必要ですが、減資決議と同時に行えば済むことです。株式の併合は、会社法では頻繁に使われる手続になるはずです。

 株数の平等の減少は、株主には不利益にならない処理なのですが、なぜか、特別決議が要求されています。株数の減少で端株になってしまう株主の保護、あるいは株数が減少するとの見た目の不利益を考えたからでしょうか。

 ▲条文▲
 第180条(株式の併合)
 株式会社は、株式の併合をすることができる。
 2 株式会社は、株式の併合をしようとするときは、その都度、株主総会の決議【特別決議】によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
 1 併合の割合
 2 株式の併合がその効力を生ずる日
 3 株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類
 3 取締役は、前項の株主総会において、株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

 株式の分割は、見た目の株数が増えるからだと思いますが、株主総会の普通決議、あるいは取締役会の決議で実行することが可能です。

 ▲条文▲
 第183条(株式の分割)
 株式会社は、株式の分割をすることができる。
 2 株式会社は、株式の分割をしようとするときは、その都度、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
 1 株式の分割により増加する株式の総数の株式の分割前の発行済株式(種類株式発行会社にあっては、第3号の種類の発行済株式)の総数に対する割合及び当該株式の分割に係る基準日
 2 株式の分割がその効力を生ずる日
 3 株式会社が種類株式発行会社である場合には、分割する株式の種類


◆ 単元株式数



 単元株式が株主平等の原則の例外3です。株主平等の原則の例外1が108条の種類株式制度です。2が109条の株主についての特別の定めで、3が単元株式です。

 というのは、株主は、単元株式数に応じた議決権を持ちますが、その単元株数は、株式の種類毎に決めることになっているからです。つまり、配当優先A株式については10株を一単元にして、配当優先B株式については100株を一単元にする。その他の株式は1000株を一単元にするとの単元の決め方です。

 ▲条文▲
 第188条(単元株式数)
 株式会社は、その発行する株式について、一定の数の株式をもって株主が株主総会又は種類株主総会において一個の議決権を行使することができる一単元の株式とする旨を定款で定めることができる。
 2 前項の一定の数は、法務省令で定める数を超えることはできない。
 3 種類株式発行会社においては、単元株式数は、株式の種類ごとに定めなければならない。

 さらに、109条の株主についての特別の定めは、「株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみな」すとしていますので、仮に、創立者を特別な株主として定款に定めれば、創立者が有する限りにおいては1株が1単元との単元株の制度も作れることになります。

 社長が所有している限りは1株1単元だが、それ社員に譲渡したら、100株を持たなければ1単元にならないという制度です。本当に、そのようなことが可能なのか、私にも確信が持てません。109条の株主についての特別の定めは、有限会社法理の採用だと説明されていますが、有限会社でも、そのような無茶な定款を置いていたところは皆無だと思います。

 しかし、創立者は1株で1単元だが、その他の株主は100株式で1単元という株式を発行することができるとの知識は、記憶の片隅に留めておく必要がありそうです。

◆ 株主への通知の省略



 株主に対する通知の省略の規定は商法と変わりません。そして、5年以上、剰余金の配当を受領しなかった株主の株券は、競売し、あるいは市場で売却し、さらには会社が買い取ることによって、株主権を奪うことが可能です。ただし、5年以上、連絡不能の株主ではなく、5年間、剰余金の配当を受け取らなかった株主に限ります。

 ▲条文▲
 第197条(株式の競売)
 株式会社は、次のいずれにも該当する株式を競売し、かつ、その代金をその株式の株主に交付することができる。
 ◆1 その株式の株主に対して前条第1項又は第294条【無記名式の新株予約権証券等が提出されない場合】第2項の規定により通知及び催告をすることを要しないもの
 ◆2 その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったもの
 2 株式会社は、前項の規定による競売に代えて、市場価格のある同項の株式については市場価格として法務省令で定める方法により算定される額をもって、市場価格のない同項の株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により、これを売却することができる。この場合において、当該許可の申立ては、取締役が2人以上あるときは、その全員の同意によってしなければならない。

◆ 新株の発行



 商法では、株式に譲渡制限が付された会社については、株主が新株引受権を有するとの条項がありました。したがって、第三者割り当て増資を行う場合は、株主総会での特別決議が必要でした。

 しかし、譲渡制限のない会社なら、取締役会が新株の発行を決議することができました。ただし、特に有利な価額によって新株を発行する場合は、取締役会の決議ではなく、株主総会の特別決議が必要でした。

 譲渡制限がある会社は、当然、閉鎖的な会社で、株主の移動は想定されず、会社の支配権も固定したものと理解されていましたので、取締役による自由な第三者割り当ては禁止されていたわけです。

 しかし、譲渡制限のない会社では、第三者割り当ては、単なる資金の導入の問題であり、特に有利な価額での新株の発行によって、1株当たりの純資産額が薄められてしまうような特別の場合を除き、取締役会の決議によって行うことも自由とされていました。

 しかし、会社法の条文を探しても、譲渡制限会社、つまり、公開会社ではない会社について、株主の新株引受権の条文が、どこにも存在しないのです。最初は戸惑いましたが、しかし、子細に条文を検討すると、結局、会社法は、商法と同様の内容になっているようです。ただ、条文の構成を逆にして、決め方をひっくり返してしまったということです。
 会社法では、株主への割当増資も、原則として特別決議です。確かに、有限会社では資本金は定款記載事項ですので、増資は、定款変更についての決議を必要とします。有限会社法理を採用した会社法は、株主への割り当て増資も、第三者への新株の発行も、すべて、特別決議を原則としました。これが第1段階の定めです。

 ▲条文▲
 第199条(募集事項の決定)
 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
 ==省略==
 2 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議【特別決議】によらなければならない。

 しかし、2番目の定めとして、定款に特別の定めがあれば、株主への割り当て増資は、取締役会の決議で行えることにしています。ただし、これは例外としての扱いです。

 ▲条文▲
 第202条(株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合)
 株式会社は、第199条【募集事項の決定】第1項の募集において、株主に株式の割当てを受ける権利を与えることができる。この場合においては、募集事項のほか、次に掲げる事項を定めなければならない。
 ==省略==
 3 第1項各号に掲げる事項を定める場合には、募集事項及び同項各号に掲げる事項は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法によって定めなければならない。
  1 当該募集事項及び第1項各号に掲げる事項を取締役の決定によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(株式会社が取締役会設置会社である場合を除く。) 取締役の決定
  2 当該募集事項及び第1項各号に掲げる事項を取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(次号に掲げる場合を除く。) 取締役会の決議
 ==省略==

 そして、さらに、公開会社の場合は、株主への割り当ても、第三者への新株発行も、取締役会の決議でも良いとしています。公開会社については商法と同じですが、しかし、条文の順番が、商法とは逆になっています。

 ▲条文▲
 第201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
 第199条【募集事項の決定】第3項【特に有利な金額】に規定する場合を除き、公開会社における同条第2項【株主総会の決議】の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。

 整理すると次のようになります。まず、株主への割り当て増資については特別決議が必要であるとし、次に、公開会社は取締役会決議で良いとの条文が置かれています。そして、譲渡制限が付された会社が行う株主割り当て増資についても、定款に特別の定めがあれば、取締役会の決議で良いとの条文がその次に登場します。もちろん、いずれの場合も、第三者への有利発行については株主総会の特別決議が必要です。

 結局は、商法の増資手続と同じ結論になります。

 《1》譲渡制限のある会社の場合は、定款に定めておけば、株主平等の増資を行うことができます。しかし、第三者への割り当て増資は、有利発行であるか否かにかかわらず、株主総会の特別決議が必要です。

 《2》公開会社の場合は、取締役会決議によって増資を行うことができます。ただし、有利発行の場合には特別決議が必要です。

 結論は商法と同じなのですが、しかし、有限会社法理を原則とし、商法を例外とする条文構成を採用したために、条文の定め方の順番が逆転してしまっているわけです。

 公開会社でない株式会社の増資における株主総会決議要件は次のようになります。これは有限会社法理の適用場面です。


   ┌────────────────┬────────────┐
   │株主割当増資          │特別決議(202B四) │
   │    ┌───────────┼────────────┤
   │    │取締役会決議で良いとす│取締役会(202B一二)│
   │    │る定款の定めがある  │            │
   ├────┴───────────┼────────────┤
   │第三者割当増資         │特別決議(199A)  │
   │(有利発行を含む)       │            │
   │    ┌───────────┼────────────┤
   │譲渡制限│種類株主総会の決議を不│不要(199条C)   │
   │株式が存│要とする定款の定めある│            │
   │在する場├───────────┼────────────┤
   │合に譲渡│上記の定款の定めがない│種類株主の特別決議(19│
   │制限株式│           │9条C)        │
   │を発行す│           │            │
   │る場合 │           │            │
   └────┴───────────┴────────────┘


 公開会社の増資、つまり、一部でも譲渡制限のない株式を発行している場合は、旧株式会社法理の適用場面ですので、株主割当増資は取締役会決議で良いということになります。


   ┌────────────────┬────────────┐
   │株主割当増資          │取締役会(202B三) │
   ├────────────────┼────────────┤
   │第三者割当増資         │取締役会(201@)  │
   │    ┌───────────┼────────────┤
   │    │有利発行       │特別決議(199AB) │
   │    ├───────────┼────────────┤
   │譲渡制限│種類株主総会の決議を不│不要(199条C)   │
   │株式が存│要とする定款の定めある│            │
   │在する場├───────────┼────────────┤
   │合に譲渡│上記の定款の定めがない│種類株主の特別決議(19│
   │制限株式│           │9条C)        │
   │を発行す│           │            │
   │る場合 │           │            │
   └────┴───────────┴────────────┘


 種類株式が発行されている場合、つまり、一部の株式は譲渡が自由だが、他方の株式は譲渡が制限されているという場合については、その種類株主の特別決議が必要です。

◆ デット・エクイティ・スワップ



 デット・エクイティ・スワップについて税理士の証明が不要になりました。これは便利なことで歓迎したいと思います。

 ▲条文▲
 第207条【現物出資財産の調査】
 株式会社は、第199条【募集事項の決定】第1項第3号に掲げる事項を定めたときは、募集事項の決定の後遅滞なく、同号の財産(以下この節において「現物出資財産」という。)の価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない。
 ==省略==
 9 前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項については、適用しない。
 ==省略==
  5 現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る。)であって、当該金銭債権について定められた第199条【募集事項の決定】第1項第3号の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合当該金銭債権についての現物出資財産の価額

 会社に対する債権で、弁済期日が到来している債権を現物出資する場合は、検査役の調査も、税理士の証明も要らないということです。デット・エクイティ・スワップ、つまり、会社に対する貸し金を資本金に振り替えてしまうことが、誰の証明もなくできるようになったということです。

 例えば、会社に対して1億円を貸し付けていますが、しかし、会社は債務超過の状態で、いま解散しても1000万円しか返済してもらえない見込みだという場合に、債権1億円を現物出資すると、1億円として現物出資できるのか、あるいは1000万円としてしか現物出資できないかという議論があったわけです。

 以前には1000万円としてしか現物出資できないという感覚だったと思います。しかし、東京地裁8部(商事部)の裁判官が、このような場合は1億円での現物出資を認めるとの見解を「旬刊商事法務」に、裁判官の個人的な見解として紹介しています。

 裁判官は、判決以外では語れませんので、形式的には個人的な意見としての発表ですが、これは東京地裁民事8部の取り扱いの公表です。なぜ、1000万円しか回収できない債権について、1億円としての出資を認めるかというと、債権者にとっては1000万円の価値しかない債権でも、債務者、つまり、会社にとっては1億円の債務だとの理解です。

 したがって、1億円の価値がある資産としての現物出資を認めても、架空資産による増資にはならないわけです。会社は、債務1億円を、資本金1億円に振り替えることができます。

 そのような処理を認めて貰わないと困るのは、1億円の債務が、1000万円の価値しかないと認定されて、1000万円での現物出資とされてしまうと、会社は9000万円の債務免除益を計上することになってしまうからです。

 債権額での現物出資を認めてくれたことは実務としては大歓迎です。最近の不況で、会社に対して多額の資金を注ぎ込んでいる社長の相続が発生した場合は、会社がボロボロの状態で、融資金の回収は困難だという場合でも、相続税の課税では、債権額1億円と評価されてしまう危険があります。

 実際には1000万円しか回収できないといっても、会社を倒産させない限りは、税務署は認めてくれません。しかし、死亡直前であっても、債権を資本に振り替えてしまえば、債務超過会社の株式評価額はゼロです。

 そのような処理をするについて、税理士の証明書が必要だったのですが、税理士は、このような証明書を作成するのを躊躇していました。やはり、微妙に怖いところがあります。

 それが、税理士の証明が無くても、出資に振り替えることができるようになったということです。返済期日が到来していることが当然に要件となります。返済期日が来ていなければ返還請求ができないことと、返済期日までの利息の割引きなどの処理が必要になるからです。

◆ 株券の発行



 会社は、株券を発行する旨を定款をもって定めることができます。つまり、株券を発行しないのが原則です。定款で定めない限りは株券は発行しなくてよいわけです。有限会社が会社法における会社の原型だからです。

 ▲条文▲
 第214条(株券を発行する旨の定款の定め)
 株式会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる。

◆ 新株予約権



 新株予約権は、いわゆるストックオプションですが、会社法は、今後、新株予約権が一般的に利用される時代を想定しているようです。通常の株式を現在の株式と定義するのなら、新株予約権は将来の株式とでも定義されるのでしょうか。

 オプション取引では、現時点での商品間の取引よりも、時間を超えての商品の取引を好みます。つまり、先物であり、オプション取引であるわけですが、新株予約権も、そのような時代に使われることを想定しているような気がします。

 なぜかというと、新株予約権については、通常の新株発行と同様の条文を準備しているからです。次のように、新株予約権と通常の新株発行の条文構成は、ほぼ、一致しています。


 ┌────────────────┬─────────────────┐
 │  第8節 募集株式の発行等  │第2節 新株予約権の発行     │
 ├────────────────┼─────────────────┤
 │第1款 募集事項の決定等    │第1款 募集事項の決定等     │
 ├────────────────┼─────────────────┤
 │ 第199条(募集事項の決定) │ 第238条(募集事項の決定)  │
 ├────────────────┼─────────────────┤
 │ 第200条(募集事項決定委任)│ 第239条(募集事項決定委任) │
 ├────────────────┼─────────────────┤
 │ 第201条(公開会社における募│ 第240条(公開会社における募 │
 │ 集事項の決定の特則)     │ 集事項の決定の特則)      │
 └────────────────┴─────────────────┘


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