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(第5回分)
◆ 株主総会
株主総会は二つに分けられました。一つが通常の株主総会で、もう一つが種類株主総会です。会社法は、機関の章の第1款で通常の株主総会について規定し、第2款で種類株主総会について規定しています。
通常の株主総会は、従前の株主総会と同じで、定時株主総会と臨時株主総会があります。種類株主総会は、その種類の株主が不利益を被る恐れがある場合に開催される株主総会で、その種類の株主だけが参加します。たとえれば、区分所有マンションについて、全体の集会と、一部の区分所有者に影響を与える事項についての一部の区分所有者の集会の関係に似ています。
そして、通常の株主総会について、まず、295条1項は、株主総会は、組織、運営、管理、その他、一切の事項について決議をすることができるとしています。株主総会を全ての事項を決定することができる全権の機関としているわけです。これは有限会社法に定める社員総会と同様の権限で、有限会社法理の採用です。
しかし、続けて、295条2項は、「前項の規定にかかわらず」とした上で、取締役会設置会社は、法律と定款で定めた事項に限って株主総会で決議することができるとしています。これは商法が定めていた株主総会の権限と同様です。取締役会設置会社では、株主総会は全権の機関ではありません。
つまり、原則として有限会社法理を宣言し、次に、株式会社法理を例外的に採用するとの条文の構成になっているわけです。
▲条文▲
第295条(株主総会の権限)
株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
さらに、会社法は、特別決議が必要な場合についても、商法とは異なる条文の構成を採用しています。商法では、特別決議を必要とする条文には、それぞれ「第343条に定むる決議あることを要す」として、それが特別決議だと分かるような記載をしていました。しかし、会社法は、特別決議を要する場合を309条2項に一覧にして定めることにしました。
つまり、定款の変更、減資、組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転など、特別決議を必要とする場合は多いのですが、各々の条文には「株主総会の決議によって」と記載するのみで、それが普通決議なのか、特別決議なのかの区別の記載はありません。株主総会の決議を定めた条文に行き当たったら、309条に戻り、そこに一覧してあるか否かを調べる必要があるわけです。
▲条文▲
第309条(株主総会の決議)
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数【特別決議】をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
1 第140条【株式会社又は指定買取人による買取り】第2項及び第5項の株主総会
2 第156条【株式の取得に関する事項の決定】第1項の株主総会(第160条第1項の特定の株主を定める場合に限る。)
3 第171条【全部取得条項付種類株式の取得に関する決定】第1項及び第175条第1項の株主総会
==省略==
株主総会についての改正事項として、定時株主総会と臨時株主総会の区別が、ほぼ消滅したということも指摘できます。自己株式の買い取りの決議も、剰余金の配当決議も、臨時株主総会で行うことが可能になりました。
子細に検討する段階まで条文を読み込んでいないのですが、いま現在の理解としては、定時株主総会に残された機能は、《1》決算書類の承認、《2》役員の改選期の基準になること、それと《3》減資と準備金の減少手続について一切の手続の省略が認められることぐらいではないでしょうか。
株主総会の招集地の条文が削除されました。グアムでも、ハワイでも、自由に株主総会を開催することができます。もちろん、株主の出席が不可能、あるいは困難な場所での開催は、株主総会の取り消し事由になってしまいます。では、中小企業がハワイで株主総会を開催することにしたら、取締役が総会に出席する費用を損金に落とすことを税務が認めてくれるでしょうか。やはり、ハワイでの開催の必然性が要求されるのでしょう。
株主総会についての定めとは異なるのですが、会社法は、「株主全員の同意」と「種類の株式を有する株主全員の同意」との概念を導入しました。株主全員の同意との概念は、商法時代にも存在しました。たとえば100%減資を行う場合ですが、商法自体には、取締役の責任の免除(商法266条5項)の場合を例外として、全員の同意との概念は明示されていませんでした。
全員の同意は、社団法理、つまり、多数決による決定ではなく、民法上の契約と理解されるからです。しかし、会社法は、たとえば、発行されている株式について、定款を変更し、107条1項3号の「株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること」の定めを置く場合は、株主全員の同意を必要とすると定めました。株主の固有の権利を奪うのには、機関決定としての決議ではなく、民法上の契約が必要だと理解したためです。
◆ 種類株主総会
会社法は種類株主総会という制度を採用しています。種類株式を発行している場合には、株主総会の決議が、「種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」は、通常の株主総会に加え、種類株主総会の決議が必要と定めました。
種類株主総会が必要になるのは、定款で定めた事項について決議する場合と、322条に種類株主総会の決議が必要になる場合として列挙してある事項について決議する場合のみです。つまり、種類株主総会は、何でも決議できる全権の機関ではなく、会社法と定款で定めた事項のみが決議できる機関です。
▲条文▲
第321条(種類株主総会の権限)
種類株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
そして、種類株主総会の決議にも、普通決議と特別決議が存在します。特別決議が必要になるのは、324条2項に列挙してあります。
種類株主総会の開催が必要な場合について、種類株主総会の決議を不要とする定款の定めを置くことが可能ですが、そのような定款の変更には、その種類株主の全員の同意が必要です(322条4項)。
◆ 取締役は1人で十分
会社法の施行後に設立される会社は、中小企業では、取締役が1名で、監査役を置かない会社が主流になるはずです。株式会社については39種類の機関設計が可能であるとか、43種類であるなどの解説記事がありますが、機関設計の数を数えることに意味があるとは思えません。また、その内容を覚えることも意味はありません。
▲条文▲
第326条(株主総会以外の機関の設置)
株式会社には、1人又は2人以上の取締役を置かなければならない。
2 株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人又は委員会を置くことができる。
これは難しい条文です。「1人又は2人以上の取締役」とは、どういう意味を持つのでしょうか。1人以上と書けばよいような気がします。しかし、取締役は1名で良いことになったのは間違いありません。
要するに、公開会社ではない会社では、取締役会を置く必要が無くなり、したがって、取締役は1名でもよいことになったというだけのことです。これは有限会社法理の採用です。有限会社には取締役会は存在せず、取締役は1名でよいことになっていました。監査役も要求されませんでした。その有限会社の機関設計が、株式会社について取り込まれただけといえます。
取締役を辞任したくても、法定の3名の定員に欠けるため辞任できないとの事態に対処できるようになりました。定款を変更し、取締役会を置かない会社にしてしまえば、取締役は1名でもよいことになります。1名を残せば、他の2名の取締役は何時でも辞任できます。監査役の場合も同様に、監査役を置かない会社にしてしまえばよいわけです。
定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人又は委員会を置くことができるとしました。つまり、商法の機関設計と、有限会社法の機関設計のいずれもが利用できるということです。そして、有限会社の機関設計を原則とし、定款をもって定めれば商法の機関設計も利用できるとの条文構成にしたのです。
中小企業にとって歓迎すべき改正事項に、破産し、復権していない者も、取締役の欠格事由にはならなくなった点があります。
社長が会社から多額の借金をしているが、社長は債務超過で、債務の弁済は期待できない。しかし、認定利息を計上し続ける必要があるという場合があります。あるいは、民事再生等の手続で会社は再建したが、社長は破産状態だという場合があります。
そのようなときは、社長が個人破産をすれば良いわけですが、破産し、免責復権を受けるのには最低でも4ヶ月ほどの期間を要します。そして、商法は、破産し、復権していない者を取締役の欠格事由としています(商法254条の2)。しかし、会社法は、この条文を削除しました。
破産は、委任契約の終了事由(民法653条)ですから、破産によって一旦は取締役の地位を失いますが、再度、その者を取締役として選任することができます。この手法を戦略的に利用し、会社から社長に対する貸し金がある場合に、社長に個人破産をしてもらえば、会社の貸し金を貸倒損失に落とすことが可能です。
辞任理由は、会社謄本に記載されますが、破産による辞任というのでは信用に傷を付けますので、辞任届を提出してもらい、翌日には再任との処理をすることになります。なぜ、破産し、自分の財産の管理権限もない者が、会社の取締役として他人(会社)の財産を管理することができるのか。それは最近の不況に理由があります。
多くの事業経営者が経営に失敗し、破産してしまいました。そのような人達を事業から遠ざけていたのでは、日本経済の復興に支障が生じてしまいます。そこで、破産し、復権していない者でも、再起し、取締役に就任できることにしたわけです。
◆ 役員の選任と解任
取締役の任期は2年ですが、公開会社ではない会社については、任期を10年まで延長することが可能になりました。しかし、任期を10年にするとの定款変更には危険な一面があります。
▲条文▲
第332条(取締役の任期)
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
2 前項の規定は、公開会社でない株式会社(委員会設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
なぜ危険かといえば、取締役を途中で解任した場合は、残任期間について、報酬相当額の損害金が請求される可能性があるからです。商法257条に基づく解任の場合は、残任期間について報酬相当額の損害賠償請求が認められていました。
会社法で任期が10年に延長された場合について、任期が2年の場合と同様に、残任期間について、役員報酬相当額の賠償を命じるのか否かはまだ分かりませんが、身内以外の第三者を取締役に選任する場合は注意が必要です。
取締役解任について、商法は特別決議を要求していましたが、会社法は普通決議でよいことにしました。
▲条文▲
第339条(解任)
役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議【第342条【累積投票による取締役の選任】第3項から第5項までの規定により選任された取締役を解任する場合又は監査役を解任する場合は特別決議】によって解任することができる。
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
役員の任期を10年に延長することができるようになったことで、役員変更登記の費用は節税できますが、しかし、10年間の任期の管理は、2年の場合よりも大変なのではないかと思います。
2年間についてなら予定を管理するシステムがありますが、10年間について予定を管理するシステムはありません。役員変更を失念したまま2年が経過すると、会社は解散したものとみなされてしまうかもしれません。12年が経過すると、休眠会社のみなし解散の規定が適用されてしまうからです。
▲条文▲
第472条(休眠会社のみなし解散)
休眠会社(株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したものをいう。以下この条において同じ。)は、法務大臣が休眠会社に対し2箇月以内に法務省令で定めるところによりその本店の所在地を管轄する登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出をしないときは、その2箇月の期間の満了の時に、解散したものとみなす。ただし、当該期間内に当該休眠会社に関する登記がされたときは、この限りでない。
2 登記所は、前項の規定による公告があったときは、休眠会社に対し、その旨の通知を発しなければならない。
その意味で、役員変更登記が不要な有限会社は、会社法の施行後にも大きな価値があります。節税のためのアパート管理会社なら、今のうちに有限会社として設立しておくのも一つのメリットです。
◆ 取締役会での書面決議
取締役会の改正としては、議案についてすべての取締役が同意した場合は、取締役会を開催することなく、書面による決議を行うことが認められました。ここでいう同意は、書面決議をすることの同意ではなく、議案についての賛成の同意です。議案について、全員が賛成票を投じた場合については書面決議をすることができるということです。
取締役会は、全員が集合し、議論し、共に知恵を出し合って結論を出すのが原則です。したがって、書面決議は、あくまでも例外的な処理であり、この例外的な処理を認めるためには定款の定めが必要です。
▲条文▲
第370条(取締役会の決議の省略)
取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
なお、商法の取扱いでも、既に、電話会議や、テレビ会議での取締役会は認められています。
◆ 会計参与という制度
会計参与という制度を作り、税理士や公認会計士が会計参与になれるとしました。税理士業界の要請で取り入れられた制度で、会社法について検討していた法制審議会のメンバーも、変な制度が導入されたと困惑していると聞いていますが、しかし、税理士や公認会計士が、本当に会計参与になりたがっているとは、とても、考えられません。
私の廻りにいる在野の税理士は、皆さん、馬鹿げた制度だとの意見で一致しています。逆に、関与先から会計参与になることを頼まれた場合のことを心配しています。銀行が、会計参与が存在することを融資の条件にしてくる可能性があるからです。
しかし、日税連のトップは、会計参与という制度は、税理士にとっては大変に価値があることだと、自画自賛しているとのことです。在野の税理士と日税連のトップのギャップは以前から存在したことなのですが、しかし、今回の会計参与のような実害のあるギャップは、在野としては困ったことだと考えています。
役員の任期は10年にまで延長できますので、会計参与になれば、10年間は、税理士としての顧問契約が打ち切られないと、冗談のような理由を言う人達もいます。しかし、税理士会はもともと、税理士が監査役に就任することについて、中立性に反し、また、リスクがあるという見地から反対していたはずです。しかし、会計参与に比較すれば、監査役の方が、遙かにリスクが少ない立場です。
会計参与とはどういう制度かといいますと、要するに、会計参与は取締役と一緒に決算書を作成するという制度です。では、会計参与は、どのような立場に立つのでしょうか。
◆ 会計参与は会計監査人よりも危険な制度
会計参与は非常に危険な立場といえます。仮に会社が粉飾をしたら、取締役と一緒に損害賠償請求の対象になってしまうということです。会社からの損害賠償請求というケースもあり、また、会社の取引先からの損害賠償請求も想定されます。現在でも、粉飾の決算書を作成するのを手伝ってしまった税理士が、関与先の債権者から訴えられるという事例が存在します。
まさか、社長から頼まれた粉飾について、会社から訴えられることはないだろうと考えるのは、まさに油断です。会社が破産し、破産管財人が選任されれば、会社は敵でしかありません。
会計参与になるというのは、公認会計士として、会計監査に関与するよりも危険なことです。公認会計士の場合なら、仮に、粉飾事案に遭遇しても、「適正な監査を実施したが、発見できない粉飾だった」との言い逃れが可能です。というより、公認会計士が訴えられた訴訟において唯一の言い訳が発見不能の抗弁です。
粉飾事案では、大概の場合は、会社の取締役はそれが粉飾であることを認めています。粉飾事案が刑事事件になれば、取締役についた弁護士の多くは、「無罪を主張しても無理だ。事実を認めて情状を主張し、執行猶予を取るのが唯一の弁護方針」と説明すると思います。そして、取締役は弁護士のアドバイスに従う。つまり、粉飾であることを認めてしまうわけです。
公認会計士が、正当な取引であり、粉飾ではないと主張しても、実際の行為者が粉飾と認めている処理について、裁判所が、それを粉飾ではないと判断するはずはありません。したがって、公認会計士に主張できるのは、その粉飾は発見不能だったとの一点に尽きるわけです。
事実、粉飾は見つけられません。粉飾というのは社長の犯罪です。社長と経理部長が密室で謀議し、現実にカネを動かすとの方法で取引を仮装するのが粉飾です。契約書が存在し、代金が入金し、物件が移動していたら、それを粉飾だと判断する根拠はありません。仮に架空の取引だと疑ったとしても、それを調べる方法がありません。何しろ、税務署と違って反面調査はできないわけです。
ですから、基本的に会計士は粉飾を見つけることはできないのです。ただ、適正な手続をしても見つけられない粉飾だったと言い逃れをするだけです。しかし、取締役と一緒に決算書を作ったのであれば、粉飾は見つけられませんでしたとの言い訳は使えません。
顧問税理士として申告業務を行うことと、会計参与の利害は共通とされ、会計参与は顧問税理士を兼ねることができます。しかし、会計参与を設置するとの定款の定めのある会社の会計参与になってしまったら、別の人材を見つけない限りは、辞任ができない事になってしまいます。最長でも任期は10年ですが、しかし、10年後に再任を断ることができるとは限りません。
この会社は、利益を計上しているし、順調に成長しているので大丈夫だろうと考えて会計参与になった場合に、その後、会社の業績が悪化し、粉飾が必要になったとしても、社長とゴルフをし、飲み歩くといった、親しい付き合いをしていたら、沈没船からネズミが逃げ出すような対応はとれないと思います。
◆ 粉飾は小さな金額から始まる
それに、最初の粉飾は小さな金額から始まります。脱税なら怖くて付き合えません。しかし、粉飾は税理士は手伝わざるを得ない場合があります。
それはどういうものかというと、例えば、3月末決算の会社があったとして、4月10日には5000万円の売上を計上している。これを今期の売上に計上すれば、会社は欠損を計上しなくて済むという場合に、「先生、4月10日に納品した売上について、3月末に計上してはいけないかね」「銀行に対して外聞が悪いから」と言われたら、はたして反対ができるでしょうか。3月末決算で、5月末が申告期限ですが、既に4月10日には現実に売上が成立し、5月10日には現実に代金は入金しているわけです。
そのような粉飾に協力した場合には、翌年にはそれが4月20日迄の取引を計上するとの粉飾になり、その翌年には5月10日迄の取引を先取りするとの粉飾になります。最後に気がついてみたら、なんと、2年分の売上を先取りして計上するとの本物の粉飾になってしまっているわけです。
では、5月10日迄の売上を先取りするとの粉飾を求められたところで、粉飾は悪いことだと中止することが可能かというと、それは不可能です。まず、会社を倒産させることになってしまいますし、倒産すると、いままで自分が粉飾を手伝っていたことが露見してしまいます。ということで、モルヒネ中毒にどんどんどんどん冒されていくのが税理士が手伝った粉飾事案なのです。
最初の4月10日の売り上げの計上に反対しておけば良かったということになりますが、そのようなことは冷たい対応は、現実の税理士業務を考えれば不可能なことです。
◆ 従業員の使い込みも会計参与の責任
さらに怖いのが従業員の使い込みです。公認会計士の場合は、使い込みについて責任を取りません。会計士の場合は1億円や2億円はカネではないのです。決算書に500億円の利益を計上した会社の真実の利益額が498億円だったとしても、その程度のブレは、監査意見には影響を与えません。
500億円の利益を計上した決算書に適正意見を書いたところ、実際には300億円の欠損だったという場合は問題です。しかし、500億円が501億円でも、502億円でも、企業の経営成績の表示としては影響がないとの前提で行うのが会計監査です。
それが重要性の原則であり、試査による監査です。しかし、従業員の使い込みだったら、2000万円でも大金です。会計監査人は、2000万円とか、4000万円の小さな使い込みを発見する義務は負いませんが、しかし、会計参与の場合は違います。当然、責任問題が生じます。何しろ、帳簿を作成し、そこから決算書を作成する立場が会計参与だからです。
◆ 粉飾も逆粉飾も会計参与の責任
さらに、もう一つの問題があります。税理士の場合は、脱税にならなければ、少しくらいの数字の操作は問題ありません。たとえば、今期は利益が出ないので、減価償却費の計上は中止してしまうとか、あるいは貸倒引当金の計上を中止してしまうとの処理です。
そのような処理をしますと、正しい金額よりも利益額は大きくなります。しかし、これは脱税ではありません。税理士でしたら、脱税していなければ、会社が行う粉飾には気がつかない振りをしても、それが常識の範囲を超えなければ問題はないわけです。
しかし、会計参与になると、それは粉飾であり、まさに、会計参与として防止することが求められている会計処理です。そのような処理をした後に倒産してしまったら、会社の債権者や破産管財人が、会計参与の責任を追及してくることは十分に考えられます。その損倍賠償請求に応じるのが会計参与の存在価値なのです。
会計参与は、たぶん言い訳もできないでしょう。何しろ、自分で作成した決算書です。
◆ 会計参与の報酬
さらに報酬の問題もあります。私の友人の弁護士が、上場会社の監査役になるというので、幾らぐらいの報酬がもらえるだろうと聞いてきたのですが、彼の希望としては月額200万円ぐらいは欲しいと思っていたようです。しかし、実際には10万円か、20万円だと聞いてビックリしていました。
大会社の取締役は、100万円を超える月額報酬を貰っていますが、あれは兼務役員についての部長報酬であって、取締役としての報酬は20万円程度にすぎないと思います。会社は、役に立たない地位に対してカネを支払いはしません。
では、町の中小会社の会計参与が、幾ら貰えるのか。全く話にもならない金額でしょう。それでいて、会社の借金の全額を債務保証したのと同じ立場に立つわけです。それが会計参与です。
取締役と意見が分かれた場合も微妙です。取締役と意見が分かれた場合の条項を、会社法は用意していません。取締役と共同して決算書を作ることになっていますが、取締役と意見が分かれたときは、おそらく、取締役が決算書を作成し、会計参与は株主総会で反対意見を述べることになるのだと思います。
私も、顧問先から上場会社の監査役になるように頼まれたことがあるのですが、その際に社長に答えたのは、もし、私が監査役になったら、「聞かなかったことにするとか、知らなかったことにする」との対応は取れない。問題が生じたときは、社長を守るのでもなく、会社を守るのでもなく、私は、私を守るために行動することになる。つまり、会社の役に立たない顧問弁護士になってしまうと説明し、納得を得ました。
もし、税理士が会計参与になったら、その税理士は、問題が生じたときには、会社のためではなく、自分の身を守るための行動をとることになってしまうはずです。つまり、顧問税理士を役に立たない存在にしてしまうのが、会計参与という制度だと考えられます。
会計参与を頼まれたら